説明

ゲル状組成物とその製造方法、およびそれを用いた衝撃吸収材

【課題】衝撃吸収性能を発揮できるとともに、それ以外の付加価値を併せ持つ衝撃吸収材として使用可能な、ゲル状組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれかを構成単位に含む高分子と、50質量%以上のイオン液体とを含む衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物を提供する。また、少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれかを構成単位に含むモノマーまたはポリマーと、架橋剤と、イオン液体とを、イオン液体が50質量%以上になるように調整した、混合溶液を準備する工程と、混合液中のモノマーを重合および架橋し、またポリマーを架橋し、ゲル状組成物を形成する工程とを有する、衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル状組成物に関し、特に、イオン液体を含み、衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物とその用途、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランニングシューズ等のスポーツ用品や寝具等の製品では人体に与える衝撃を抑える目的で、精密機器や音響製品では機器の特性に与える振動を除去する目的で、また、梱包材の分野では運搬する商品等の破損を防止する目的で、衝撃吸収材は日常生活を取り巻く様々な製品の中で幅広く使用されている。
【0003】
従来、これらの衝撃吸収材としては、主にゴムやポリウレタン発泡体が使用されてきたが、より高い衝撃吸収能を得るため、最近ではゲルを衝撃吸収材として使用することも検討されている。たとえば、このようなゲルとしては、樹脂にオイルを含有させたオルガノゲルやシリコーンオイルを含有させたシリコーンゲルが知られている。
【0004】
特許文献1には、トリブロック型スチレン系エラストマーとジブロック型スチレン系エラストマーに軟化剤として、鉱物油、ひまし油、綿実油等を混合して作製する衝撃吸収特性に優れたゲル状組成物が記載されている。また、特許文献2には、スポーツシューズ用緩衝材としての使用に適する多孔性シリコーンゲルの製造方法が記載されている。
【0005】
一方、衝撃吸収材とは全く異なる分野において、イオン液体の開発が進んでいる。イオン液体は、常温溶融塩とも呼ばれ、常温で液体であり、その不揮発性や高いイオン伝導性からリチウム二次電池等の種々の電気化学デバイスの電解液として主に使用されている。また、最近では、デバイスからの液漏れを防止する目的で、イオン液体を用いたゲル状電解質の開発も検討されている。特許文献3には、リチウム二次電池、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学デバイス用電解質として使用する、ゲル状電解質が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−151979号公報、請求項1および段落〔0007〕の記載参照。
【特許文献2】特許公開平7−3165号公報、請求項1および段落〔0007〕の記載参照。
【特許文献3】特開2005−179551号公報、請求項1および段落〔0053〕の記載参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝撃吸収材に求められる衝撃吸収特性のレベルは用途により異なり、さらに高い衝撃吸収性能をもつゲル状組成物の開発が求められている。また、衝撃吸収材は様々な用途で使用されるため、その衝撃吸収性に加えて、用途に応じた特性を提供することにより付加価値を挙げることが求められている。
【0008】
本発明は、より改善された衝撃吸収性能を発揮できるとともに、それ以外の付加価値を併せ持つ衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のゲル状組成物は、少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれか一を構成単位に含む高分子と、50質量%以上のイオン液体とを含み、衝撃吸収材として使用可能なものを提供する。
【0010】
また、本発明の一態様のゲル状組成物の製造方法は、少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれかを構成単位に含むモノマーまたはポリマーと、架橋剤と、イオン液体とを、イオン液体が50質量%以上になるように調整した混合溶液を準備する工程と、混合液中のモノマーを重合および架橋し、またポリマーを架橋し、ゲル状組成物を形成する工程とを有する、衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明の一態様の衝撃吸収材は、上記本発明の一態様のゲル状組成物を用いた衝撃吸収材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゲル状組成物およびそれを用いた衝撃吸収材によれば、イオン液体を多く含むゲル状組成物であるため、衝撃を効果的に吸収し、実用的な衝撃吸収能を発揮しうるとともに、イオン液体の備える不揮発性、難燃性等の特性を併せ持つ付加価値のある衝撃吸収材を提供できる。
本発明のゲル状組成物の製造方法によれば、上述する本発明のゲル組成を簡易なプロセスで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態のゲル状組成物は、高分子構造、いわゆるポリマーネットワーク中にイオン液体を含むことを特徴とし、衝撃吸収材として使用可能なものである。従来、イオン液体またはそのゲル状組成物を衝撃吸収材として使用する例は知られておらず、本発明では、このイオン液体を用いたゲル状組成物を衝撃吸収材として使用することで、良好な衝撃吸収能のみならず、従来の衝撃吸収材では得られない、新たな付加価値を加えることを可能にする。
【0014】
ここで、「ゲル」とは、高粘度で流動性を失った分散系溶液をいい、「イオン液体」とは、アニオンとカチオンから成る電解質でありながら、常温常圧(25℃、1気圧(1×105Pa))下において液体状態で存在する物質をいう。なお、「イオン液体」は一般には「常温溶融塩」とも呼ばれる。
【0015】
本実施の形態のゲル状組成物中に含まれるイオン液体は、それ自身がもつアニオンとカチオンのイオン結合等の存在により、衝撃吸収能力を効果的に発揮することが可能であるとともに、イオン液体が備える不揮発性、難燃性、イオン伝導性等の性質を併せ持つ。本実施の形態のゲル状組成物では、このイオン液体を全体の50質量%以上、すなわち多量に含むものであり、柔軟なゲル構造の特徴とともにイオン液体の特性を比較的明瞭に発揮しやすい。
【0016】
本実施の形態に係るゲル状組成物で使用される高分子(ポリマー)は、少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれか一を構成単位に含む。酸性基としては、たとえばカルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン酸基等を挙げることができる。塩基性基としては、たとえば第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等を挙げることができる。本実施の形態に係るゲル状組成物で使用される高分子としては、これらの酸性基もしくは塩基性基を有するビニル系誘導体あるいはその塩より選ばれる少なくとも1種のものをモノマーとするホモポリマー、コポリマー、ターリマー、若しくはセルロース、デンプン、ヒアルロン酸等の多糖類、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0017】
これらの酸性基もしくは塩基性基を有する高分子は、イオン液体存在下で重合を行う場合、イオン液体との間で水素結合等のインタラクションを形成することで、高分子マトリックス中にイオン液体を保持し、ゲル状態を形成しやすい。
【0018】
たとえば、酸性基としてカルボキシル基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-メタクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルアクリレート、2-メタクリロイロキシプロピルアクリレート、エチレンオキシド変性コハク酸アクリレート、エチレンオキシド変性コハク酸メタクリレート、プロピレンオキシド変性コハク酸アクリレート、プロピレンオキシド変性コハク酸メタクリレート等を挙げることができる。
【0019】
高分子として、特に、ポリアクリル酸を使用する場合は、イオン液体との相溶性も良く、ブリードアウトを生じにくい。また、イオン液体との間で、水素結合等のインタラクションを形成しやすく、ポリマーマトリックス中に多量のイオン液体を保持しやすい。よってイオン液体成分を多く含有するゲル状組成物を提供できる。
さらに、高分子として、アクリル酸ホモポリマーあるいはコポリマー等のアクリル樹脂を使用する場合は、ゲル状組成物に粘着性を付与することができる。別途、粘着剤層を必要とせず、必要な場所に直接ゲル状組成物を貼り付けて使用することが可能になる。
【0020】
ここで、酸性基としてヒドロキシル基を有するモノマーの例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、エピクロルヒドリン(ECH)変性フェノキシアクリレート、ECH変性フェノキシメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、エチレングリコールアクリレート、エチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、プロピレングリコールアクリレート、プロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、2-ヒドロキシプロピルアクリルアミド、2-ヒドロキシブチルアクリルアミド、ビニルアルコール、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0021】
また、酸性基としてスルホン酸基を有するモノマーの例としては、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸、2-メタクリロキシエチルスルホン酸、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸ナトリウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸リチウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸アンモニウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸イミダゾリウム、2-アクリロイロキシエチルスルホン酸ピリジニウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸ナトリウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸リチウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸アンモニウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸イミダゾリウム、2-メタクリロキシエチルスルホン酸ピリジニウム、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸イミダゾリウム、スチレンスルホン酸ピリジニウム等を挙げることができる。
【0022】
さらに、塩基性基として第1級、第2級、第3級の各アミン基を有するモノマーの例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノブチルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジメチルアミノプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノブチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノブチルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジエチルアミノプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノブチルアクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノブチルアクリルアミド等を挙げることができる。
【0023】
また、塩基性基として第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基を有するモノマーの例としては、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシブチルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシエチルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシブチルジメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシブチルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムフロリド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムブロミド、メタクリロキシブチルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムブトミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルジエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムブトミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルジエチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムヨージド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムフロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムブロミド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロピルトリエチルアンモニウムヨージド等を挙げることができる。
【0024】
さらに、塩基としてアミド基を有するモノマーの例としては、ジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド等を挙げることができる。
【0025】
また、塩基としてイミダゾール基、イミド基、モルホリン基、ピペリジル基を有するモノマーの例としては、ビニルイミダゾール、イミドアクリレート、イミドメタクリレート、アクリロイルモルホリン、テトラメチルピペリジルアクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、ペンタメチルピペリジルアクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート等を挙げることができる。
【0026】
本実施の形態のゲル状組成物において、イオン液体は、ゲル状組成物全体の50質量%以上含まれる。このようにイオン液体を多く含むことにより、ゲル状組成物に柔軟性が付与され、ゲル構造が持つ本来的な衝撃吸収性能と、イオン液体の持つ不揮発性、難燃性、イオン伝導性等の特徴を与えることができる。
【0027】
また、本実施の形態に係るゲル状組成物は、イオン液体が持つカチオンとアニオン間のイオン結合と、高分子構造とイオン液体間の水素結合等の存在により、結合部分で振動による摩擦を生じ易いため、これらの構造を持たないポリマーにオイルを含有したオルガノゲル等の従来のゲル状衝撃吸収材に比較し、効果的に衝撃エネルギーを振動と摩擦で、熱エネルギーに変換し、より高い衝撃吸収能を発揮することができる。
【0028】
よって、衝撃吸収能は、ゲル状組成物におけるイオン液体の比率が高い程、高い効果が期待できる。したがって、ゲル状組成物におけるイオン液体の量は、好ましくは、60質量%以上、70質量%以上もしくは80質量%以上とする。70質量%以上含まれる場合は、一般に市販されている衝撃吸収材と同等の衝撃吸収特性を得ることが可能であり、さらに約80質量%以上含有する場合、従来のウレタンゴムやオルガノゲル、シリコーンゲルを使用した衝撃吸収材より高い衝撃吸収特性を得ることが可能となる。
【0029】
また、イオン液体の比率が高い程、高い衝撃吸収能とともに、イオン液体としての特徴をより強く発揮することができる。たとえば、使用するイオン液体の種類により、不揮発性、イオン伝導性、難燃性等のイオン液体に由来する特性が、衝撃吸収能に付加される。
【0030】
一方、ゲル状組成物中のイオン液体の量は、ゲル構造が維持できればよく、イオン液体の量は、ゲル状組成物全体の95質量%以下とすることが好ましい。また、90質量%以下とすれば、より安定した構造を得ることが可能であるが、用途により、必要とされる衝撃吸収能のレベルに合わせて、ゲル状組成物中のイオン液体量を調整することができる。
【0031】
本発明の実施の形態のゲル状組成物中に含まれるイオン液体の種類に限定はない。カチオンとしては、特に限定されず、公知のものも使用することができる。具体的には、第一級(R1NH3+)、第二級(R1R2NH2+)、第三級(R1R2R3NH+)、第四級(R1R2R3R4N+)鎖状アンモニウムカチオン(式中、R1、R2、R3、 R4は各々独立に炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいは1個以上のヒドロキシル基を側鎖に持つ炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいはフェニル基である。)および環状アンモニウムカチオンが使用できる。環状アンモニウムカチオンとしては、オキサゾリウム、チアゾリウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピロリニウム、フラザニウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、イミダゾリジニウム、ピラゾリジニウム、ピロリニウム、イミダゾリニウム、ピラゾリニウム、ピラジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、インドリウムおよびカルバゾリウムが挙げられる。さらに別のカチオンとしては、鎖状ホスホニウムカチオン(R5R6R7P+およびR5R6R7R8P+)、鎖状スルホニウムカチオン(R9R10R11S+)(式中、R5、R6、R7、R8、 R9、R10、R11は各々独立に炭素数1〜12個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基又はフェニル基である。)および環状スルホニウムカチオンが挙げられる。環状スルホニウムカチオンには、チオフェニウム、チアゾリニウムおよびチオピラニウムが例示できる。
【0032】
アニオンとしては、リン酸、硫酸、カルボン酸等の無機酸系イオン、フッ素系イオン等が使用できる。カチオンとアニオンの組み合わせについては様々な組み合わせが可能である。
【0033】
ここで、フッ素系アニオンとしては、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-)、トリフルオロメチルスルホネート(CF3SO3-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド[(FSO2)2N-]、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド [(CF3SO2)2N-]、ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド[(CF3CF2SO2)2N-]、トリス(トリフルオロメチルスルホニルメチド)[(CF3SO2)3C-]を挙げることができる。
【0034】
しかしながら、非ハロゲン系のアニオンを使用することが望ましく、特に、リン酸系イオンを使用すれば、フッ素系イオンを用いる場合に比較し安価で、経済性が高いとともに、高い難燃性を得ることができる。たとえば、リン酸系アニオンとして以下のリン酸基を含む一般式[PO43-]、 [RPO42-]または [RR’PO4-](式中、R、R’は水素、炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基を表す。)で示される塩が使用できる。具体的には、リン酸 (PO43-, HPO42-, H2PO4-), リン酸モノエステル (RPO42-, HRPO4-), リン酸ジエステル (R2PO4-) [Rは炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基]を挙げることができる。
【0035】
上述のように、本実施形態のゲル状組成物では、難燃性イオン液体を使用する場合は、難燃性を得ることができる。ここでいう難燃性とは、例えば米国Underwriters Laboratories Inc.(UL)が定めた安全性基準UL−94規格の難燃試験方法に準じて、V−1以上、或いはより好ましくはV−0以上相当する場合のみならず、JISK6911で規定するA法で自己消化性が認められる場合やあるいは後述する本実施例の難燃試験例のように、バーナー等の火炎を一定時間接炎させた後、バーナーを離した際に数秒から数十秒以内で炎が消える性質をいうものとする。
【0036】
本実施形態のゲル状組成物の衝撃吸収能は、表面硬度測定および、落下試験等を用いて評価することができる。たとえば、表面硬度試験としては、SRIS0101(日本ゴム協会標準規格)に規定されアスカー社製のデュロメータ(スプリング式硬度計)で測定されるアスカー硬度測定がある。たとえば「アスカーC硬度」とは、直径5.08mmの半球形の押針で、スプリング荷重が55gのときの硬度を0、スプリング荷重が455gのときの硬度を100とし、相対的な硬度で表面硬度を示したものである。なお、アスカーC硬度で表記することが困難な、より軟性の高いものについては、「アスカーF硬度」を用いて測定してもよい。
【0037】
本実施形態のゲル状組成物は、表面硬度が柔らかい方が衝撃吸収効果が高い傾向にあり、たとえば、厚み10mmのシートに加工したゲル状組成物のアスカーC硬度が75度以下である場合、従来の従来のウレタンゴムやオルガノゲル、シリコーンゲルを使用した衝撃吸収材と同等以上の衝撃吸収能を得ることが可能となる。さらに、アスカーC硬度が10度以下であれば、より高い衝撃吸収能を得ることが可能となる。
【0038】
ゲル状組成物の衝撃吸収能を落下試験で測定する場合は、たとえば以下のような条件を用いて測定可能である。すなわち一定の形状と荷重を備えたおもりを一定距離からプレート上に自然落下させ、その衝突衝撃でプレートに生じる振動の加速度(A0)を測定する。次にプレート上にゲル状組成物を取り付け、同様におもりを落下させ、その衝突衝撃でプレートに生じる振動の加速度(Am)を測定する。この両者の加速度の比(Am/A0)で衝撃吸収能を評価できる。具体的な測定条件については、実施例において説明する。なお、衝撃吸収能の測定は、上述する方法に限られない。
【0039】
次に、本実施の形態のゲル状組成物の製造方法について説明する。本実施の形態のゲル状組成物は、イオン液体とモノマーもしくはポリマーおよび必要に応じて架橋剤を混合した後、紫外線(UV)照射、もしくは加熱によりモノマーを重合および架橋、もしくはポリマーを架橋させることにより作製できる。
【0040】
イオン液体は、市販のものを使用することもできるが、酸エステル法、錯形成法、および中和法などの方法を用いて合成することもできる。また、1種類のみならず複数種類を混ぜ合わせて使用することもできる。
【0041】
たとえば、リン酸系イオン液体を中和法を用いて合成する場合は、アルコール等の有機溶媒で5倍に希釈したリン酸、リン酸ジブチル等の無機/有機リン酸に、アミンを低温条件下、例えば、0℃の条件下で、滴下し、室温で十分に攪拌する。その後、これを減圧下で蒸留し、溶媒を揮発させる。
【0042】
次に、得られたイオン液体と1種もしくは2種以上のモノマーと必要に応じて架橋剤を加え、混合する。モノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン酸基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー、あるいは、第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー等を用いることができる。モノマーは1種に限られず、2種以上を使用してもよい。
【0043】
たとえば、カルボキシル基を含むモノマーである、アクリル酸モノマーを使用する場合は、アクリル酸、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸、メタクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム等のモノマーを使用できる。
【0044】
イオン液体とモノマーとの混合比率は、最終的に得られるゲル状組成物の50質量%以上がイオン液体となるように、たとえば、モノマー100質量部に対し、イオン液体を100質量部以上加える。
【0045】
モノマーの代わりにポリマーを使用することもできる。また、モノマーとポリマーの両方もしくは、複数種類のモノマーおよびポリマーを使用することも可能である。いずれの場合も、ポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計の100質量部に対し、イオン液体を100質量部以上加える。
【0046】
架橋剤は、モノマー、またはポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計100質量部に対し、約0.1質量部〜10質量部、もしくは0.1〜50質量部加える。
また、アクリル酸モノマーを使用する場合、架橋剤としては、たとえば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ECH変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ECH変性1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、エチレンオキシド(EO)変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキシド(PO)変性ビスフェノールAジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジメタクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジメタクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、エピクロルヒドリン(ECH)変性ジアクリレート、ECH変性ジメタクリレート、ECH変性エチレングリコールジアクリレート、ECH変性エチレングリコールジメタクリレート、ECH変性プロピレングリコールジアクリレート、ECH変性プロピレングリコールジメタクリレート、ECH変性フタル酸ジアクリレート、ECH変性フタル酸ジメタクリレートPO変性グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリメタクリレート、PO変性グリセロールトリメタクリレート、ECH変性グリセロールトリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタレート、ジグリシジルフタレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0047】
重合手段としては、熱や放射線のいずれの重合手段を利用してもよい。放射線としては、特に、波長200nm〜400nmの紫外線(UV)を使用すれば、制御性もよく、常温で重合硬化できるので、比較的融点の低い基材の上にでも直接ゲル状組成物を形成できる。なお、UV重合を行う場合には、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤は、モノマー100質量部に対し、たとえば約0.01質量部〜1質量部加える。
【0048】
光重合開始剤としては、たとえば、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(Irgacure 2959, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure 184, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、2,2-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(Irgacure 651, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(Lucirin TPO, BASF社)、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド(Lucirin TPO-L, BASF社)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン (Irgacure 369, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(Darcure 1173 チバ・スペシャリティケミカルズ社)2-メチル-1-[(4-メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン (Irgacure 907, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンキシド (Irgacure 819, チバ・スペシャリティケミカルズ社)等を挙げることができる。
【0049】
なお、衝撃吸収材の用途に合わせて、さらに、種々の添加物を加えることもできる。たとえば、放熱材や電磁波吸収材としてのフィラーを添加することもできる。ゲル組成自身は、ほぼ透明である場合は、顔料や色素を添加することで、色彩を施すこともできる。さらに必要に応じて、粘着付与剤や表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤などを添加することも可能である。
【0050】
また、重合の際、使用用途に合わせて、必要な加工を施すこともできる。その形状に限定はない。たとえば厚みが数mmから数十mmのシート状であってもよく、数mm以下のフィルム状であってもよい。或いは部材に貼り合わせて使用する場合は、貼り合わせる部材形状に合わせて成形加工することもできる。
【0051】
シート状、あるいはフィルム状に加工する場合は、たとえばシリコーンゴム等の離型性のよい枠型に、上述するイオン液体とモノマーおよび架橋剤と光重合剤を混合した混合溶液を流し込み、その上に剥離処理をした透明な樹脂フィルムをラミネートする。その後、透明な樹脂フィルムを介して紫外線(UV)を照射することで、混合溶液を重合する。重合後、型枠および樹脂フィルムを剥離することで、シート状のゲル状組成物を得ることができる。
【0052】
なお、剥離処理した樹脂フィルム上に上記混合液をコーティングし、さらに、その上に剥離処理した樹脂フィルムでラミネートし、いずれかの樹脂フィルムを介して紫外線(UV)を照射することで、混合液を重合してもよい。重合後、両フィルムを剥離することで、フィルム状のゲル状組成物を得ることができる。あるいは、2枚の樹脂フィルムの間にゲル状組成物を挟んだ状態のまま衝撃吸収材として使用することもできる。また、2枚の樹脂フィルムの端部をシールし、ゲル状組成物を密封した構成としてもよい。
【0053】
2枚の樹脂フィルムのうち一方のみに剥離処理を施し、ユーザが使用時に一方のフィルムを剥離し、衝撃吸収材を使用したい場所にはく離した側のゲル状組成物面を貼り付けてもよい。ゲル状組成物のポリマーとしてアクリル酸ホモポリマーもしくはコポリマーが使用されている場合は、ゲル状組成物自身に粘着力があるため、必要な場所に直接貼り付けて使用することができる。使用する樹脂フィルムに特に制限はないが、可とう性を備えたフィルムであれば望ましい。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、セロハン(登録商標)、フッ化ビニルデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン及び塩化ビニルデンアクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(PVdF, ETFE等)、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどの樹脂フィルムを挙げることができる。
【0054】
本実施の形態のゲル状組成物を衝撃吸収材として使用する場合において、具体的な用途としては、たとえば、ランニングシューズ、ウォーキングシューズおよびその他のスポーツシューズ等を含む様々なシューズの靴底や中敷に使用できる。これらの衝撃吸収材を用いた靴は、着地時に身体にかかる衝撃を低減させることができる。また、工場での作業シューズの靴底として使用する場合は、イオン液体の有する導電性が静電除去効果を発揮できる。
【0055】
また、テニスラケット、野球バット、ゴルフクラブ等のグリップ部などのスポーツ用品としても使用できる。打撃時に生じる身体特に手や腕にかかる衝撃を和らげることができる。
【0056】
また、介護ベッドのマット部等の介護製品への使用は、床づれの防止等に効果がある。
エンジン周りや車体内壁、座席、チャイルドシートなどの自動車部材、建築部材、鉄道部材、ガードレールのコーナ部、ヘルメットの衝撃吸収材としても使用できる。難燃性の衝撃吸収材を提供することもできる。洗濯機、冷蔵庫、オーディオ、各種モータの下や周囲に設置すれば、振動を抑制し、騒音対策にもなる。
【0057】
電気電子製品では、精密機械の梱包部材、あるいは、筺体内壁または外壁の位置に貼り付ける部材として使用できるが、この場合は、衝撃吸収のみならず、イオン液体の備える導電性が静電防止の効果をも果たすことも可能である。また、エンジン周りの自動車部材や建築部材として使用する場合は、ゲル状組成物は衝撃吸収材としての効果とともに、イオン液体の有する難燃性が防火剤として寄与できる。また、不揮発性であるため、広い温度範囲において、安定した特性を得られる。
【0058】
このように、イオン液体を含むゲル状組成物を衝撃吸収材として使用した場合は、衝撃吸収能とともに、イオン液体の有する難燃性や不揮発性、静電気除去効果は、従来の樹脂にオイルを含有させたオルガノゲルやシリコーンゲル等では得られない付加価値となる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について、実施例を参照しながら説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に制限されるものではない。
I.イオン液体の合成方法
本実施例のゲル状組成物は、以下の条件で3種のイオン液体を合成し、さらに以下に説明する調整方法を用いてゲル状組成物を作製した。
1. モノエチル/ジエチルリン酸 トリエチルアンモニウム等モル混合物(TrEA-EtHPO4/Et2PO4) トリエチルアミン(TrEA)(ダイセル化学工業株式会社製) 100質量部に、メタノール(MeOH)(特級、和光純薬工業株式会社製) 50質量部を加え、さらに氷冷下でリン酸モノエチル とリン酸ジエチルをモル比で50:50に混合した溶液(EtH2PO4/Et2HPO4)(JP-502、城北化学工業株式会社製)139質量部をゆっくりと滴下した。室温で3時間撹拌したのち、減圧下で蒸留し、無色透明な粘性液体であるTrEA-EtHPO4/Et2PO4を得た。
【0060】
2. モノエチル/ジエチルリン酸 エチルモルホリニウム等モル混合物(EM-EtHPO4/Et2PO4
エチルモルホリン(EM)(1級、和光純薬工業株式会社社製)100質量部にMeOH50質量部を加え、さらに、氷冷下でリン酸モノエチル とリン酸ジエチルをモル比で50:50に混合した溶液(EtH2PO4/Et2HPO4 )122質量部をゆっくりと滴下した。室温で3時間撹拌したのち、減圧下で蒸留し、褐色の粘性液体であるEM-EtHPO4/Et2PO4を得た。
【0061】
3. ジブチルリン酸 エチルモルホリニウム(EM-Bu2PO4
EM100質量部にMeOH50質量部を加え、さらに、氷冷下でリン酸ジブチル(HBu2PO4)(シグマ・アルドリッチ社製)183質量部をゆっくりと滴下した。室温で3時間撹拌したのち、減圧下で蒸留し、褐色の粘性液体であるEM-Bu2PO4を得た。
【0062】
II.各実施例でのゲル状組成物の調製条件
<実施例1、2、9、10>
イオン液体として、TrEA-EtHPO4/Et2PO4を使用し、不飽和モノマーとしてカルボン酸基(COOH基)を持つアクリル酸(AA)(特級、和光純薬工業株式会社製)を使用した。イオン液体と不飽和モノマーに架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレート(NK Ester A-600 新中村化学工業株式会社製)、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(DarcureTM 1173 チバ・スペシャリティケミカルズ株式会社製) を加え、混合し、紫外線硬化性モノマー溶液を調製した。各組成の混合比を表1に示す。真空下で脱気したのち、シリコーンゴム製の型枠に流し込み、厚さ50μmの剥離処理PETフィルムでラミネートした。これにPETフィルムの側より45000 mJ/cm2の紫外線を照射し、重合硬化させた。硬化後、型枠より離型し、シート状のゲル状組成物を得た。なお、評価条件に合わせ、3mm、10mmおよび13mmの3種の厚みのゲル状組成物をそれぞれ作製した。
【0063】
<実施例3及び4>
イオン液体として、EM-EtHPO4/Et2PO4 を使用した。それ以外の条件は実施例1と同じ条件でゲル状組成物を得た。各組成の混合比は、表1に示す。
【0064】
<実施例5及び6>
イオン液体として、EM-Bu2PO4 を使用した。それ以外の条件は実施例1と同じ条件でゲル状組成物を得た。各組成の混合比は、表1に示す。
【0065】
<実施例7及び8>
不飽和モノマーとして、ヒドロキシル基を持つ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(1級、和光純薬工業株式会社製)を使用した。それ以外の条件は実施例1と同じ条件でゲル状組成物を得た。各組成の混合比は、表1に示す。
【0066】
III.比較例
イオン液体を使用していない従来の衝撃吸収材に相当するものを作製もしくは市販品を比較例1〜3とした。各比較例の条件は、以下のとおりである。
【0067】
<比較例1>
比較例1は、熱硬化性ポリエーテルベースのポリウレタンである、市販の衝撃吸収材(商標名:Sorbothane(登録商標)、ソルボセイン社製)を使用した。
【0068】
<比較例2>
比較例2は、従来のオルガノゲルに相当する。以下の条件で作製した。
スチレン・ビニルイソプレン・スチレン共重合体(商品名:ハイブラー 5127 (株式会社クラレ製)) 100質量部、液状ポリブテン(商品名: GLISSOPAL V1500 (BASF社製) 60質量部をトルエン 291質量部に溶解させた後、炭酸カルシウム (特級、和光純薬工業株式会社製) 50質量部、カーボンブラック (商品名 : #3030(三菱化学株式会社製))10質量部、ステアリン酸 (特級、和光純薬工業株式会社製)1質量部、パーブチルP (日本油脂株式会社製)0.5質量部を添加した。剥離処理を施したPETフィルムにナイフコーターにより塗布した後、120℃で20分間乾燥し、厚さ100μmの膜を得た。さらにコーティングを繰り返し、この膜を37回積層したのち、170℃で20分間ヒートプレスすることで架橋し、厚さ約3mmのオルガノゲルを得た。
【0069】
<比較例3>
比較例3は、シリコーンゴムにポリジメチルシロキサンを約30質量%添加してできたシリコーンゲルの市販品であり、株式会社ジェルテック製シリコーンゲルで商品名Alpha gelTM である。
【0070】
IV.ゲル状組成物の評価
各実施例および比較例のゲル状組成物について、以下の測定方法を用いて評価を行った。
【0071】
<衝撃吸収能の測定>
図1に衝撃吸収特性の測定装置10の構成を示す概念的断面図を示す。測定装置10は、水平面を持つ台座11とこれと垂直方向に延在するレール12と、台座11よりやや高い位置で、台座11の水平面にほぼ平行になるようレール12に固定された厚み10mmの金属製プレート13を有する。プレート13の裏面には、加速度検知器15が備えられており、このプレート13の上方には、鉄板14が、レール12に沿って上下に滑らかに移動可能に取り付けられている。この鉄板14の大きさは40mm×5mm×80mm(幅×奥行き×高さ)、重量は200gである。各実施例で作製された厚さ3mmのシート状のゲル状組成物20を、鉄板14とほぼ同じ面積になるよう40mm×5mmの大きさに切り取り、プレート13上に載せ、60cmおよび10cm上方から、鉄板14をレールに沿って落下させた。鉄板14の落下衝撃をゲル状組成物の40mm×5mm全面でほぼ均等に受けるよう調整した。プレート13裏面に設置されている加速度検知器15で、この落下衝撃によりプレート13に生じる加速度(Am)を測定した。鉄板13上にゲル状組成物20を載置しない場合についても同様に鉄板14の落下試験を行い、プレート13の加速度(A0)を測定した。ゲル状組成物の衝撃吸収能は、加速度の比(Am/A0)で評価した。
【0072】
<ゲル状組成物の硬度測定>
厚さ10mmのシート状のゲル状組成物について、「アスカーC硬度」、「アスカーF硬度」もしくは「アスカーA硬度」を測定した。「アスカーC硬度」または「アスカーF硬度」とは、日本ゴム協会標準規格SRIS0101に規定されたデュロメータ(スプリング式硬度計)であるアスカーC硬度計およびアスカーF硬度計でそれぞれ測定された硬度をいう。アスカーC硬度計で測定できないより柔らかいゲル状組成物についてはアスカーF硬度を測定し、より硬いゲル状組成物についてはアスカーA硬度を測定した。「アスカーA硬度」とは、JIS K 6253準拠のタイプAデュロメータを用いた測定した硬度をいう。
【0073】
<ゲル状組成物の難燃性試験>
直径25mm、厚み3mmの円盤状ゲル状組成物に対し、バーナーの黄色チップのない50mmの長さの青色炎を30秒間接炎させた。炎を取り去った直後のゲル状組成物の状態を目視により確認した。燃焼せず、すぐに(少なくとも数秒内に)炎が消えた場合を「難燃性有」、そのまま燃え尽きた場合を「難燃性無」と判定した。
【0074】
<外観観察>
目視により、ゲル状組成物の透明性と色を確認した。
【0075】
V.結果
実施例1〜10まで、各実施例のゲル状組成物の作製条件(イオン液体種、および組成比)と評価結果について、表1に示した。
また、比較例1〜3について同様な条件で性能評価をした結果もあわせて表1に示した。
【0076】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施例のゲル状組成物の衝撃吸収能を測定するために使用した測定装置の構成を示す概略的な断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10 測定装置
11 台座
12 レール
13 プレート
14 鉄板
15 加速度検知器
20 ゲル状組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれかを構成単位に含む高分子と、
50質量%以上のイオン液体とを含み、衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物。
【請求項2】
前記高分子は、前記酸性基として、カルボキシル基、スルホン酸基もしくはヒドロキシル基を構成単位に含む、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記高分子は、アクリル酸ホモポリマーもしくはコポリマーである請求項1または2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
前記イオン液体は、非ハロゲン系イオン液体である請求項1から3のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
前記イオン液体は、リン酸アニオンおよびリン酸エステルアニオンからなる群から選択される少なくとも一のアニオンを有するものである、請求項1から4のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項6】
厚み10mmのシート状加工物に対する表面のアスカーC硬度が75度以下である請求項1から5のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項7】
難燃性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゲル状組成物。
【請求項8】
少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれかを構成単位に含むモノマーまたはポリマーと、架橋剤と、イオン液体とを、前記イオン液体が50質量%以上になるように調整した、混合溶液を準備する工程と、
前記混合液中の前記モノマーを重合および架橋し、また前記ポリマーを架橋し、ゲル状組成物を形成する工程とを有する、
衝撃吸収材として使用可能なゲル状組成物の製造方法。
【請求項9】
前記酸性基としてカルボキシル基、スルホン酸基もしくヒドロキシル基を含む、請求項8に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項10】
前記モノマーとして、アクリル酸を使用する請求項8または9に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項11】
前記イオン液体として、リン酸アニオンおよびリン酸エステルアニオンからなる群から選択される少なくとも一のアニオンを有するものを使用する、請求項8から10のいずれか1項に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ゲル化する工程において、シート状もしくはフィルム状に加工される、請求項8から11のいずれか1項に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ゲル化する工程において、ゲル状組成物が、衝撃吸収材として使用される際の形状に合わせて成型加工がなされる、請求項8から12のいずれか1項に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のゲル状組成物を用いた衝撃吸収材。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のゲル状組成物をシート状もしくはフィルム状に加工した衝撃吸収材。
【請求項16】
少なくとも一の可とう性プラスチックシートと、
前記プラスチックシート上に載置された、請求項1〜7のいずれか1項に記載のゲル状組成物とを有する、衝撃吸収材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269974(P2009−269974A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120384(P2008−120384)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】