説明

ゲル状組成物

【課題】新規なゲル状組成物を提供する。
【解決手段】該ゲル状組成物は、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有する。
【効果】前記組成物は、低温でゲル化し、熱可逆的にゾル/ゲル状態を示し、また、体温で粘度が低下することから、食品の“口どけ”の良さの付与、化粧品の使用感の良さの付与、医薬品の放出制御(例えば座薬への応用)等が可能である。また、本発明のゲル状組成物は、耐酸性を有し、弾力があり、凍結解凍耐性を有することから、ゼリー等のゲル状食品、ハム,ソーセージ等の畜肉製品、アイスクリーム等の冷菓、麺類、嚥下補助食品等の食品における物性の付与あるいは食感または喉ごしの改善、更には飲料に対する濃厚感の付与が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物、そのゲル状組成物の製造法およびそれを含むゲル状食品、化粧品、医薬品、農業用基材および工業品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や化粧品、医薬製剤、農業用基材(種子のコーティング、農薬の結合・分散剤など)、工業用糊剤(合繊用捺染糊料、製紙用助剤など)などの分野では種々の増粘・安定剤、ゲル化剤が使用されており、ゾル状およびゲル状の製品が数多く上市されている。食品や化粧品、医薬製剤の分野では安全でイメージの良い天然多糖類や蛋白質がよく使用されている。
【0003】
ゲル化剤としてではなく、主に増粘・安定剤として広く用いられている天然多糖類のガラクトキシログルカンは双子葉、単子葉植物など高等植物の細胞壁(一次壁)に存在する天然多糖類であり、タマリンドをはじめ、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギ、リンゴ等から抽出される。ガラクトキシログルカンは単独の水溶液ではゲル化することはないが、糖またはアルコールと共存させることでゲル化するという性質を有することから、その性質を利用してゲル化剤としても用いられることもある。
【0004】
また、ガラクトキシログルカンはその側鎖ガラクトースを酵素的に部分分解すると、加熱するとゲル化し、冷却するとゾル化する熱可逆性を有することが知られており、その性質を利用した食品(例えば、嚥下補助食品)や医薬製剤(例えば、ドラッグ・デリバリー・システム)が開発されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
一方、天然多糖類のキサンタンガムは微生物産生粘質物多糖類であり、耐熱性および耐酸性が非常に優れているため各種食品の増粘・安定剤として広く利用されている。キサンタンガムも単独の水溶液ではゲル化しないが、他の天然多糖類のローカストビーンガムやグルコマンナンと併用すると弾力のあるゲルを形成することが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを併用するとゲル化することはこれまで知られていない。
【特許文献1】特開平8−283305号公報
【特許文献2】特開平9−70264号公報
【特許文献3】特開2000−354460号公報
【特許文献4】特開平11−243876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラクトキシログルカンに糖やアルコールを加えてゲル化した組成物や、キサンタンガムにローカストビーンガムやグルコマンナンを加えてゲル化した組成物は室温より高い温度でゲル化することから、これらを用いた食品等によっては食感や使用感において必ずしも満足するものではなかった。従って、耐酸性を保有しつつ、室温より低い温度でゲル化し、食感や使用感の改善される新規ゲル状組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有する組成物が意外にも、比較的低温でしかも通常の天然多糖類よりも低い温度でゲル化する性質を有すること、そしてこの性質を利用すると食品の良好な“口どけ”、化粧品の良好な使用感等を付与することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下の通りである。
[1]:ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物。
[2]:約35℃以下でゲル化する[1]に記載の組成物。
[3]:キサンタンガムとガラクトキシログルカンの配合割合が1:100〜100:1の重量比である[1]または[2]に記載の組成物。
[4]:グアーガムまたはローカストビーンガムを含有する[1]〜[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]:ガラクトキシログルカンがタマリンド種子ガム由来である[1]〜[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6]:ガラクトキシログルカンおよびキサンタンガムを水溶液に添加後、攪拌し、溶解することを特徴とするゲル状組成物の製造方法。
[7]:ガラクトキシログルカンがタマリンド種子ガム由来である[6]に記載の製造方法。
[8]:[1]〜[5]のいずれか一つに記載の組成物を含む食品、化粧品、医薬品、農業用基材および工業用品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有する組成物は低温でゲル化し、熱可逆的にゾル/ゲル状態を示し、また、体温で粘度が低下することから、食品の“口どけ”の良さの付与、化粧品の使用感の良さの付与、医薬品の放出制御(例えば座薬への応用)等が可能である。また、本発明のゲル状組成物は、耐酸性を有し、弾力があり、凍結解凍耐性を有することから、ゼリー等のゲル状食品、ハム,ソーセージ等の畜肉製品、アイスクリーム等の冷菓、麺類、嚥下補助食品等の食品における物性の付与あるいは食感または喉ごしの改善、更には飲料に対する濃厚感の付与が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について更に説明する。
【0012】
本明細書中で用語「相乗効果」を用いる場合があるが、ここでいう「相乗効果」とは、ガラクトキシログルカンおよびキサンタンガムのそれぞれ単一溶液ではゲル化しないが、両者を併用することでゲル化(ゲル化特性と称することもある)またはそれぞれ単一溶液の粘度の合計値よりも増粘(増粘作用と称することもある)することを意味する。
【0013】
本明細書中において、ゲルまたはゲル状とは、ゲルを形成することを意味するが、ゲル状にはゲル化の前段階である増粘状態も含まれる。
【0014】
本発明はガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物を提供する。該ゲル状組成物は約35℃以下に冷却するとゲル状になり、約35℃より高い温度に加温するとゾル状になり、ゾル/ゲルの状態を熱可逆的に制御することができる。
【0015】
本発明のゲル状組成物は、ガラクトキシログルカン溶液とキサンタンガム溶液を混合攪拌した後、約−20℃〜約35℃、好ましくはその溶液(水)が凍結しない温度範囲、すなわち約0℃〜約30℃まで冷却することにより製造することができる。
【0016】
本発明に用いるガラクトキシログルカンとしては、いかなる植物由来のガラクトキシログルカンでもよいが、ガラクトキシログルカンの含有率が高く、入手も容易なタマリンド種子由来のガラクトキシログルカン(タマリンド種子ガム)〔例えば商品名「グリロイド2A」、「グリロイド3S」大日本住友製薬(株)製〕が好ましい。一方、キサンタンガムとしては、市販品として容易に入手することができるキサンタンガム〔例えば商品名「エコーガム」、「エコーガム630」大日本住友製薬(株)製〕が好ましい。
【0017】
これらガラクトキシログルカンおよびキサンタンガムは市販品でよく、目的用途(製品)に応じて、あるいは必要に応じて通常の方法で精製して使用することができる。また、ガラクトキシログルカンおよびキサンタンガムは水溶液にして混合してもよいし、製造時に溶液中に粉末のまま投入して混合してもよい。更に、製造時溶液中に食品素材と同時に混入してもよい。前記溶液には、水単独の溶液の他に、水と水以外の溶液(例えば、エタノールなど)との混合溶液も含まれる。
【0018】
使用するガラクトキシログルカンとキサンタンガムの配合割合は特に限定されるものではないが、両者併用してゲル状組成物を形成する配合割合であればよく、例えば、1:100〜100:1の重量比であり、好ましくは5:1〜1:5であり、より好ましくは3:1〜1:3である。前記配合割合の1:100〜100:1とは、前記組成物の全量に対してガラクトキシログルカンを1部とした場合に、キサンタンガムを0.01〜100部の配合割合であることを意味する。
【0019】
本発明のゲル状組成物には無機塩が添加されていてもよい。無機塩としては、食用として用いられるものであればいずれでもよく、食塩が好ましい。添加する無機塩の濃度は、組成物の全量に対して1mM〜50mMであり、好ましくは1mM〜30mMであり、より好ましくは5mMである。該ゲル状組成物は無機塩が添加されていても安定である。
【0020】
また、本発明のゲル状組成物には酸が添加されていてもよい。酸としては、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸等の食用として用いられるものであればいずれでもよいが、酢酸が好ましい。方法としては、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの混合溶液に酸を添加すればよく、該溶液のpHは2〜6が好ましく、より好ましくはpH3〜6である。該ゲル状組成物は酸が添加されていても安定である。
【0021】
また、本発明のゲル状組成物には他の天然多糖類、好ましくはグアーガムまたはローカストビーンガムが配合されていてもよい。グアーガムまたはローカストビーンガムの添加量としては、組成物の全量に対して0.001重量%〜2.0重量%であり、好ましくは0.05重量%〜0.2重量%である。グアーガムまたはローカストビーンガムは溶液として、または粉末のまま使用することができる。グアーガムまたはローカストビーンガムを添加すると製造されるゲル状組成物のゲルは硬くなると共にその溶解温度が高くなる。
【0022】
また、本発明のゲル状組成物には増粘・ゲル化に悪影響を及ぼさない食品素材、多糖(例えば、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、コンニャクマンナン、寒天、アルギン酸ナトリウム等)、糖類(例えば、果糖ぶどう糖液糖、上白糖、グラニュー糖、果糖、ぶどう糖、オリゴ糖等)、塩類(例えば、食塩、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム等)等が併用されていてもよい。
【0023】
このようにして製造されるゲル状組成物は食品、化粧品基材、医薬品製剤、農業用基材および工業用品用途に応用することができ、好ましくは、食品、化粧品基材、医薬品製剤に応用することができる。また、本発明のゲル状組成物を含有するゲル状製品は増粘・ゲル化を必要とするマトリックス中にガラクトキシログルカンとキサンタンガムを加え、前述の製造方法と同様にして製造することもできる。
【0024】
本発明のゲル状組成物の前記製品への応用は、例えば、プリン,ゼリー等のゲル状食品、ハム,ソーセージ等の畜肉製品、アイスクリーム等の冷菓、麺類、惣菜、嚥下補助食品などの食品における物性のコントロールまたは食感の改善、茶飲料、栄養飲料、医薬品等が有する苦味等のマスキングによる味質の改善、飲料等の液状食品(果汁飲料、果肉飲料、清涼飲料、乳飲料、豆乳飲料、茶飲料、紅茶飲料、栄養飲料、野菜ジュース、スープ、ドレッシング、たれ、つゆ等)におけるボディ感の付与、“こく”味の付与または懸濁安定性の付与、ホイップクリーム,アイスクリーム,ムース等泡沫食品の泡沫安定性の付与、また、体温で粘度が低下することから、食品の“口どけ”の良さの付与、化粧料の使用感の良さの付与、医薬品の放出制御(例えば座薬への応用)等が可能である。
【実施例】
【0025】
以下に参考例及び実施例を挙げ、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の技術を用いる改変が可能である。実施例で使用したガラクトキシログルカンはタマリンド種子ガム由来のものであり、市販で入手容易な〔商品名「グリロイド2A」、「グリロイド3S」大日本住友製薬(株)製〕またはそれらの溶液をエタノール等で分別沈殿し、不純物を除去した精製品を使用した。また、キサンタンガムについても市販で入手容易な〔商品名「エコーガム」、「エコーガム630」大日本住友製薬(株)製〕またはそれらの溶液をエタノール等で分別沈殿し、不純物を除去した精製品を使用した。また、グアーガムおよびローカストビーンガムについても市販品を使用した。
【0026】
参考例1 ガラクトキシログルカンの0.5重量%溶液と1重量%溶液の調製
ガラクトキシログルカン粉末0.5gを水99.5gに分散させ、室温で攪拌溶解することにより、ガラクトキシログルカンの0.5重量%溶液(表中では0.5重量%ガラクトキシログルカンと称する)を調製した。同様に、ガラクトキシログルカン粉末1gを水99gに分散させ、室温で攪拌溶解することにより、ガラクトキシログルカンの1重量%溶液(表中では1重量%ガラクトキシログルカンと称する)を調製した。
【0027】
参考例2 キサンタンガムの0.5重量%溶液と1重量%溶液の調製
キサンタンガム粉末0.5gを水99.5gに分散させ、室温で攪拌溶解することにより、キサンタンガムの0.5重量%溶液(表中では0.5重量%キサンタンガムと称する)を調製した。同様に、キサンタンガム粉末1gを水99gに分散させ、室温で攪拌溶解することにより、キサンタンガムの1重量%溶液(表中では1重量%キサンタンガムと称する)を調製した。
【0028】
実施例1 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果(ゲル化特性)
参考例1のガラクトキシログルカンの0.5重量%溶液と1重量%溶液および参考例2のキサンタンガムの0.5重量%溶液と1重量%溶液をそれぞれ表1に示す割合で混合した後、5℃まで冷却し、相乗効果(ゲル化特性)を評価した。
【0029】
相乗効果(ゲル化特性)は、調製した試料の貯蔵剛性率と損失剛性率の温度依存性を測定することにより評価した。測定装置としてHAAKE RheoStress600(Thermo Electron社製)を使用し、所定の温度域において一定速度(1℃/分)で温度を低下させながら、角周波数1rad/sで測定を行った。その際、線形範囲内での測定を保障するべく微小応力(0.1Pa)条件を保つように応力を制御した。
【0030】
ここで、貯蔵剛性率(G’)とは複素剛性率の実数部分のことを言い、ゲル状物質を変形させた後外力を取り除いた際に、ゲル状物質が外に対してする仕事に関係し、エネルギーを貯蔵する度合いの指標となる。従って、本発明においては、弾性的な項である貯蔵剛性率(G’)の増加をゲル化の指標とした。
【0031】
また、損失剛性率(G’’)とは、複素剛性率の虚数部分のことを言い、ゲル状物質に対して外力を加えた後、外力を取り除いた際、ゲル状物質が外に対してする仕事に関係し、加えたエネルギーに対して、損失される度合いの指標となる。従って、本発明においては、粘性的な項である損失剛性率(G’’)を粘性の指標とした。
【0032】
試験1における貯蔵剛性率と損失剛性率の温度依存性の結果は図1に、対照1と対照2における貯蔵剛性率と損失剛性率の温度依存性の結果は図2に示した。なお、対照1の貯蔵剛性率は小さく測定不可能であった。図1において、記号-△-は貯蔵剛性率(G’)の温度依存性を示す曲線を表し、記号-□-は損失剛性率(G’’)の温度依存性を示す曲線を表す。図2において、記号-△-はキサンタンガム溶液の貯蔵剛性率(G’)の温度依存性を示す曲線を表し、記号-□-はキサンタンガム溶液の、記号-○-はガラクトキシログルカン溶液の損失剛性率(G’’)の温度依存性を示す曲線を表す。
【0033】
【表1】

【0034】
図1から明らかなように、試験1は20℃以下の温度域において貯蔵剛性率の急激な上昇が認められる。この現象は急激に増粘し、ゲル化したことを示している。一方、ガラクトキシログルカン単品(対照1)およびキサンタンガム単品(対照2)では、図2に示すように、温度の低下に伴い貯蔵剛性率にわずかな増加が認められる。このことから、試験1ではガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果が認められる。
【0035】
実施例2 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果に対する配合割合(重量比)の影響
ガラクトキシログルカンの1重量%溶液とキサンタンガムの1重量%溶液をそれぞれ表2に示す配合割合(重量比)で室温で混合した後、5℃まで冷却した。それぞれの配合比について、10℃における貯蔵剛性率と損失剛性率を図3に示した。図3において、記号-クロサンカク-は各配合比率における貯蔵剛性率(G’)を表し、記号-クロシカク-は各配合比率における損失剛性率(G’’)を表す。
【0036】
【表2】

【0037】
図3より明らかなように、試験1〜3のいずれにもガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用により両剛性率の増加が認められた。このことは、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを併用することにより相乗効果が認められることを示している。
【0038】
実施例3 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果に対する無機塩の影響
食塩水により調製したガラクトキシログルカン溶液とキサンタンガム溶液を表3の割合で室温で混合後、この溶液を5℃まで冷却した。それぞれの食塩濃度について10℃における貯蔵剛性率と損失剛性率を表3及び図4に示した。図4において、横軸は試験番号を表し、縦軸は10℃における貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)を表す。
【0039】
【表3】

【0040】
図4から明らかなように、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果は食塩濃度の増加に伴い減少するのが認められるが、食塩濃度30ミリモル(30mM)においてもなお認められる。従って、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物は無機塩が添加されていても安定である。
【0041】
実施例4 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果に対する酸の影響
酢酸で各pHに調整した水を用いて調製したガラクトキシログルカンとキサンタンガムの溶液を表4の割合で室温で混合後、5℃まで冷却した。それぞれのpHについて10℃における貯蔵剛性率と損失剛性率を表4及び図5に示した。
【0042】
【表4】

【0043】
図5より明らかなように、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果はpHが小さくなると減少するのが認められるが、pH2.7においてもなお認められる。従って、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物は酸が添加されていても安定であることから、耐酸性効果を有することが明らかである。加えて、試験7の結果から食用に用いられる酢酸のpH4.0においても、本願発明におけるゲル状組成物は極めて安定であることが認められた。
【0044】
実施例5 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果(増粘作用)
表5に示した処方に従い、85℃で10分間加熱撹拌溶解し、重量補正した後、25℃で一晩保存後、B型粘度計で粘度を測定した。キサンタンガムとしてエコーガムとエコーガム630を、ガラクトキシログルカンとしてグリロイド2A(いずれも大日本住友製薬(株)製)を使用した。これらの結果について図6に示した。図6において、横軸は配合比率を表し、左縦軸は25℃における粘度(mPa・s)を表し、キサンタンガムとして、記号-◆-はエコーガムを、記号-●-はエコーガム630を使用したときの粘度を表す。
【0045】
【表5】

【0046】
図6より明らかなように、試験9〜11のいずれにもガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果が認められた。
【0047】
実施例6 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果(ゲル化特性)
表5に示した処方に従い、85℃で10分間加熱撹拌溶解し、重量補正した後、2℃で一晩保存後、クリープメーター((株)山電製)を用いて直径8mmのプランジャーで突き刺し試験を行い、破断強度解析を行った。キサンタンガムとしてエコーガムとエコーガム630を、ガラクトキシログルカンとしてグリロイド2A(いずれも大日本住友製薬(株)製)を使用した。これらの結果について図7に示した。図7において、横軸は配合比率を表し、左縦軸は2℃における破断荷重(N)を表し、キサンタンガムとして、記号-◆-はエコーガムを、記号-●-はエコーガム630を使用したときの破断荷重を表す。
【0048】
図7より明らかなように、試験9〜11のいずれにもガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用による相乗効果が認められた。
【0049】
実施例7 ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの併用における相乗効果に対する他の多糖類の影響
表6に示した処方に従い、各天然多糖類の粉末を水に加え、90℃で15分加熱攪拌溶解後、容器に充填し、10℃で一晩冷蔵保存後、クリープメーター((株)山電製)を用いて直径8mmのプランジャーで突き刺し試験を行い、ゲルの硬さを評価した。また、ゲルを25℃で1時間保存し、ゲルの状態を調べた。更に、それらを10℃で一晩冷蔵保存し、ゲルの状態を調べた。それらの結果については表5に示した。また、試験12と試験13において、得られたゲル状組成物を凍結解凍したところ、凍結前とほぼ同じ性質を示した。
【0050】
【表6】

【0051】
表6から明らかなように、グアーガムまたはローカストビーンガムを加えると、ゲルの硬さの増加とゲルの溶解温度の上昇が認められる。また、試験12と試験13におけるゲル状組成物の状態変化から、本願発明に係るゲル状組成物のゾル/ゲルの状態を熱可逆的に制御することができることが認められ、更には凍結解凍耐性が認められた。尚、10℃に保存した試験12と試験13のゲルは、試験14および試験15のゲルと比較して、やわらかく、口どけの良いものであった。
【0052】
実施例8 オレンジゼリーへの応用
表7に示した処方に従い、果汁と酸味料以外の原料を混合後、85℃で10分間加熱撹拌し、果汁と酸味料を加えた。重量補正した後、深さ20mmのゼリーカップに充填後冷却し、オレンジゼリーを調製した。5℃で一晩冷蔵保存後、クリープメーター((株)山電製)を用いて直径8mmのプランジャーで突き刺し試験を行い、破断強度解析を行った。それらの結果については表8に示した。
【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
表8に示したように、対照7の処方のローカストビーンガムの量を0.1重量%に減らし、キサンタンガムを0.1重量%添加すると(対照8)、対照7と比較して、やわらかいゼリーとなった。対照8の処方に、ガラクトキシログルカンを添加すると(試験16)、対照7とほぼ同じ食感のゼリーとなった。また、対照8の処方のローカストビーンガムの量を0.15%に増やすと(対照9)、対照7とほぼ同じ食感となり、更にガラクトキシログルカンを添加すると(試験17)、かたいゼリーになった。このことから、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムの相乗効果に基づき、ローカストビーンガムの一部を代替しても、食感を損なうことのない食品を提供できることが明らかである。
【0056】
実施例9 嚥下補助食品への応用
表9に示した処方に従い、市販のオレンジジュースにガラクトキシログルカン粉末とキサンタンガム粉末を添加し混合後冷却して嚥下補助食品を調製した。本嚥下補助食品はスプーンですくう際に適度な硬さがあり、口の中で適度に溶けることから、“喉ごし”が良く、嚥下補助食品として適したものであった。
【0057】
【表9】

【0058】
実施例10 オレンジジュースへの濃厚感の付与
表10に示した処方に従い、各原料を混合冷却し、オレンジジュースを調製した。対照10は高甘味度甘味料独特の濃厚感の不足が感じられたが、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを加えた試験19は“喉ごし”が良く、多糖独特の粘さを感じることなく、砂糖に似た濃厚感が付与された。
【0059】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物は低温でゲル化し、また、得られるゲル状組成物は熱可逆的にゾル/ゲル状態を示すことから、食品の良好な“口どけ”、化粧品の良好な使用感等を付与することが可能であるためこの物性を利用した食品(例えば、嚥下補助食品)や医薬品製剤に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、試験1における貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)の温度依存性を示す。
【図2】図2は、対照1(0.5重量%ガラクトキシログルカン溶液)と対照2(0.5重量%キサンタンガム溶液)における貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)の温度依存性を示す。
【図3】図3は、ガラクトキシログルカン/キサンタンガムの各配合比率における貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)を示す。
【図4】図4は、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物に食塩濃度を変化させて添加した場合の貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)を示す。
【図5】図5は、ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物に酢酸濃度を変化させて添加した場合の貯蔵剛性率(G’)と損失剛性率(G’’)を示す。
【図6】図6は、ガラクトキシログルカン:キサンタンガムの各配合比率における粘度(mPa・s)を示す。
【図7】図7は、ガラクトキシログルカン:キサンタンガムの各配合比率における破断荷重(N)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトキシログルカンとキサンタンガムを含有するゲル状組成物。
【請求項2】
約35℃以下でゲル化する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
キサンタンガムとガラクトキシログルカンの配合割合が1:100〜100:1の重量比である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
グアーガムまたはローカストビーンガムを含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ガラクトキシログルカンがタマリンド種子ガム由来である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ガラクトキシログルカンおよびキサンタンガムを水溶液に添加後、攪拌し、溶解することを特徴とするゲル状組成物の製造方法。
【請求項7】
ガラクトキシログルカンがタマリンド種子ガム由来である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物を含む食品、化粧品、医薬品、農業用基材および工業用品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−262897(P2006−262897A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47760(P2006−47760)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】