説明

ゲル状集合体中への物質の混合方法

【課題】ゲル状集合体中に混合対象物を短時間で均一に混合し得る混合方法を提供すること。
【解決手段】ゲル状集合体を凍結すること、凍結した集合体を融解してゾルを得ること、得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む、ゲル状集合体中に混合対象物を混合する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状集合体中への物質の混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲル状集合体が注目されており、特に自己集合性を有する分子が分子集合して形成されたゲル状集合体が注目され、様々な用途への展開が期待されている。このようなゲル状集合体としては、例えば、自己集合性ペプチドの分子集合体であるペプチドゲルが挙げられ、該ペプチドゲルは、再生医療等の分野でスキャフォールド(細胞の足場)としての用途を有している。該ペプチドゲルをスキャフォールドとして使用する場合において、既にゲル化したペプチドゲルと細胞等の物質とを混合する際には、ゲルに30分程度超音波処理してから混合するという方法が採用されている(非特許文献1)。しかしながら、該方法によれば、超音波処理に時間と手間がかかり、さらには、物質が十分に混合されないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA,2005,102(24) 8414−8419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ゲル状集合体中に混合対象物を短時間で均一に混合し得る混合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ゲル状集合体中に混合対象物を混合する方法が提供される。該方法は、
ゲル状集合体を凍結すること、
凍結した集合体を融解してゾルを得ること、
得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および
混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む。
好ましい実施形態においては、上記ゲル状集合体が、自己集合性分子が分子集合することによって形成されたゲルである。
好ましい実施形態においては、上記ゲル状集合体が、粘土鉱物が集合することによって形成されたゲルである。
好ましい実施形態においては、上記自己集合性分子が、自己集合性ペプチドである。
本発明の別の局面によれば、混合対象物が混合されたゲル状集合体の製造方法が提供される。該方法は、
ゲル状集合体を凍結すること、
凍結した集合体を融解してゾルを得ること、
得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および
混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゲル状集合体をゾル化した状態で混合を行うので、混合対象物を短時間で均一に混合し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)実施例1で再形成されたゲルの写真であり、(b)比較例1で再形成されたゲルの写真である。
【図2】(a)実施例2で再形成されたゲルの写真であり、(b)比較例2で再形成されたゲルの写真である。
【図3】(a)実施例3で再形成されたゲルの写真であり、(b)比較例3で再形成されたゲルの写真である。
【図4】(a)実施例4で再形成されたゲルの写真であり、(b)比較例4で再形成されたゲルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.語句の定義
(1)ゲル状集合体
「ゲル状集合体」とは、自己集合性分子または自己集合性を有する結晶が、媒質中において自発的に集合することによって形成されたゲルをいう。
(2)自己集合性分子
「自己集合性分子」とは、媒質中において、分子同士の相互作用を介して自発的に集合する分子をいう。このような分子は、分子間引力により自発的に凝集し、秩序正しく、安定に、共有結合によらずに分子集団を形成(いわゆる、分子集合)し得る。相互作用としては、特に限定されず、例えば、水素結合、イオン間相互作用、ファンデルワールス力等の静電的相互作用、疎水性相互作用が挙げられる。
(3)ゲル
「ゲル」とは、流動性を失ったコロイドである。ゲルは、粘性的な性質と弾性的な性質とを併せ持つ。具体的には、例えば、動的粘弾性測定を行なって、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を測定したときに、「G’>G’’」となるものをいう。
(4)ゾル
「ゾル」とは、流動性を有するコロイドである。具体的には、例えば、動的粘弾性測定を行なって、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を測定したときに、「G’<G’’」となるものをいう。
(5)ゾル‐ゲル転移
「ゾル‐ゲル転移」とは、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’が「G’>G’’」である状態から「G’<G’’」である状態、または「G’<G’’」である状態から「G’>G’’」である状態へ転移する現象をいい、該現象が生じる温度をゾル‐ゲル転移点という。すなわち、ゾル‐ゲル転移点は「G’=G’’」となる点である。
【0009】
B.混合方法
本発明の混合方法は、ゲル状集合体中に混合対象物を混合する方法であって、
ゲル状集合体を凍結すること(凍結工程)、
凍結した集合体を融解してゾルを得ること(融解工程)、
得られたゾルと混合対象物とを混合すること(混合工程)、および
混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成すること(ゲル化工程)を含む。該方法は、必要に応じて、任意の工程をさらに含んでもよい。ゲル状集合体が、自己集合性分子が分子集合することによって形成されたゲルである場合、凍結融解することにより、分子間の結合が切断されてゲルを構成する三次元網目構造が崩壊するので、分子が均一に分散したゾルが得られ得る。また、ゲル状集合体が、自己集合性を有する結晶が集合することによって形成されたゲルである場合、凍結融解することにより、結晶間の結合が切断されて、結晶が均一に分散したゾルが得られ得る。本発明においては、このようにして得られた均一性の高いゾルと混合対象物とを混合するので、再形成されたゲル状集合体の内部においては、混合対象物が均一に分散された状態で存在し得る。凍結融解という極めて簡易な操作でゲル状集合体中に均一に混合対象物を混合し得ることは、本発明の大きな効果の1つである。
【0010】
B−1.凍結工程
ゲル状集合体としては、凍結融解によってゾルを形成し、可逆的なゾル−ゲル転移特性を有する限り、任意の適切な集合体が採用され得る。凍結融解によってゾルを形成した後のゲルへの転移は、時間応答性、温度応答性、圧力応答性のいずれによるものであってもよく、また上記応答性のうち2つ以上の要因によるものであってもよい。ゲル状集合体は、該集合体を形成する分子または結晶と、媒質と、必要に応じて任意の添加物を含む。
【0011】
上記自己集合性分子または自己集合性を有する結晶としては、可逆的なゾル−ゲル転移特性を有するコロイドを形成し、凍結融解によってゾルを形成する限り、任意の適切な分子または結晶が選択され得る。好ましい自己集合性分子としては、自己集合性ペプチド等が挙げられる。好ましい自己集合性を有する結晶としては、粘土鉱物等が挙げられる。このような分子または結晶から形成されたゲルは、架橋剤、凝集剤等のゲル化剤を用いることなく、自己集合性分子間または結晶間に形成された比較的弱い非共有結合に依存しているので、凍結融解処理により、これらの結合が容易に切断されてゾル化し得る。また、分子集合によってゾルからゲルの再形成が自発的に行われ得るからである。
【0012】
自己集合性ペプチドの好ましい例としては、下記のアミノ酸配列からなる自己集合性ペプチドがあげられる。
アミノ酸配列:adb
(該アミノ酸配列中、a〜aは、塩基性アミノ酸残基であり;b〜bは、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基であり、ただし、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基であり;cおよびcは、酸性アミノ酸残基であり;dは、疎水性アミノ酸残基である。)
【0013】
上記アミノ酸配列を有する自己集合性ペプチドの具体例としては、以下の配列を有するペプチドが挙げられる。
n−RLDLRLALRLDLR−c(配列番号1)
n−RLDLRLLLRLDLR−c(配列番号2)
n−RLDLRLALRLDLRL−c(配列番号3)
【0014】
自己集合性ペプチドの別の好ましい具体例としてはWO2007/000979号パンフレット、米国特許5670483号等に記載のペプチドが挙げられる。また、これらの自己集合性ペプチドに保護基の導入等の修飾を施したペプチドも本発明の方法に好ましく適用され得る。
【0015】
上記自己集合性ペプチドは、Fmoc法等の固相法又は液相法等の化学合成方法、遺伝子組換え発現等の分子生物学的方法で作製し得る。
【0016】
粘土鉱物の好ましい具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト族鉱物が挙げられる。これらは、天然のものであってもよく、合成品であってもよい。
【0017】
ゲル状集合体の媒質は、該集合体を形成する分子または結晶の種類、濃度等に応じて適切に選択され得る。例えば、自己集合性ペプチドまたは粘土鉱物から形成されるゲル状集合体においては、媒質は、好ましくは水である。
【0018】
上記添加物は、該集合体を形成する分子または結晶の種類、濃度等に応じて適切に選択され得る。該添加物としては、例えば、緩衝剤、界面活性剤、キレート剤などが挙げられる。
【0019】
ゲル状集合体中の添加物の濃度は、ゲル化工程におけるゲルの再形成に悪影響を及ぼさない濃度に設定され得る。該濃度は、ゲル状集合体を形成する分子または結晶の種類、濃度等に応じて、適切に設定され得るが、通常、低い濃度であることが好ましい。例えば、自己集合性ペプチドゲルの場合、緩衝剤としては、HEPESおよびTris−HClは終濃度が、好ましくは50mM以下、さらに好ましくは40mM以下である。炭酸水素ナトリウム溶液および炭酸ナトリウム溶液は終濃度が、好ましくは5mM以下、さらに好ましくは4mM以下である。PBSは終濃度が、好ましくは0.5×PBS以下、さらに好ましくは0.3×PBS以下である。また緩衝剤以外の添加物として、局方生理食塩水は終濃度が、好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.4重量%以下である。
【0020】
上記ゲル状集合体は、該集合体を構成する分子または結晶の種類および濃度、媒質の種類等に応じて、任意の適切な方法によって調製され得る。例えば、自己集合性ペプチドゲルは、自己集合性ペプチドを好ましくは0.1〜5w/v%、さらに好ましくは0.2〜3w/v%となるように所望の媒質中に溶解または分散してペプチドゾルを調製し、該ペプチドゾルを静置して自己集合性ペプチドを分子集合させることにより調製され得る。また、自己集合性ペプチドゲルは、例えば、商品名「BDTM PuraMatrixTM ペプチド ハイドロゲル」(BD Biosciences社)等の市販品として入手可能である。また、粘土鉱物から形成されるゲル状集合体は、例えば、商品名「ラポナイトXLG」(ラポート社製)、商品名「ラポナイトRD」(ラポート社製)等の市販品として入手可能である。
【0021】
凍結条件は、ゲル状集合体が凍結する限りにおいて、任意の適切な条件が採用され得る。凍結温度は、ゲル状集合体が凍結する温度以下であればよい。凍結速度にも制限はなく、徐々に冷凍してもよく、急速冷凍してもよい。例えば、自己集合性ペプチドゲルの場合は、好ましくは−10℃以下の温度条件下に置くことで好適に凍結され得る。
【0022】
凍結手段としては、家庭用または業務用冷凍庫、液体窒素等の任意の適切な凍結手段が選択され得る。なお、凍結した集合体は、融解工程に供するまでの任意の期間、凍結したまま保存することが可能である。
【0023】
B−2.融解工程
融解温度は、上記凍結した集合体が融解してゾルを形成する温度であれば、任意の適切な温度に設定され得る。一定の温度で融解してもよく、異なる温度で段階的に融解してもよい。融解速度および時間に制限はなく、徐々に融解してもよく、急速に融解してもよい。例えば、自己集合性ペプチドのゾルを得る場合は、好ましくは5〜70℃、さらに好ましくは15〜45℃の温度条件下に凍結した自己集合性ペプチドを置くことで好適に融解を行い得る。
【0024】
融解手段としては、任意の適切な手段が選択され得る。融解手段の具体例としては、水浴、油浴、恒温槽等が挙げられる。
【0025】
上記のようにゲル状集合体を凍結融解することにより、ゲルを形成する分子間または結晶間の種々の結合が切断されて、ゾルが得られる。30分程度の超音波処理によってもゲルをゾル化することが可能であるが、分子間または結晶間の種々の結合を十分に切断することができず、照射後、すばやくゲル化してしまう。そのため、混合対象物を均一に混合することができない。これに対し、凍結融解によって得られたゾルは分子間または結晶間の種々の結合が十分に切断されるので、粘度が著しく低下し、後述の混合工程において、混合対象物質と均一に混合することが可能である。
【0026】
B−3.混合工程
混合対象物は、目的等に応じて、任意の適切な物質が選択され得る。混合対象物の具体例としては、ビタミン類;単糖;二糖;オリゴ糖;ヒアルロン酸、キトサン、親水化セルロース等の多糖類;アルコール;グリセリン、プロピレングリコール等のポリオール;ジルコニア、酸化チタン等の金属酸化物;色素;ホルモン、サイトカイン、造血因子、増殖因子等の生理活性物質;ペプチド;酵素;抗体;DNA;RNA;触媒;架橋剤;培養液;その他一般的な低分子化合物が挙げられる。また、混合対象物は、細胞、細胞群、組織、微生物、ウイルス等の生物試料であってもよい。細胞は、動物細胞であっても、植物細胞であってもよい。微生物としては、例えば、細菌、酵母、原生動物が挙げられる。混合対象物は1種のみを用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0027】
混合対象物の混合量は、ゾルがゲル状集合体を再形成し得る限り、任意の適切な量に設定され得る。例えば、自己集合性ペプチドゾルは、混合後のペプチド濃度が、好ましくは0.1〜5w/v%、さらに好ましくは0.2〜3w/v%となるように設定される。
【0028】
混合は、上記融解工程で得られたゾルがゾル状態を維持する間に行われる。例えば、自己集合性ペプチドのゾルの場合は、好ましくは−2〜15℃、さらに好ましくは−2〜5℃で好適に混合が行われ得る。このような温度範囲であれば、急速なゲル化を防止し得、その結果、十分な混合時間を確保し得るからである。なお、上記温度範囲は、混合対象物を含むペプチドゾル、すなわち、混合対象物と混合中のペプチドゾルの温度範囲である。
【0029】
混合は、ゾル中に分子または結晶および混合対象物が十分に分散するように行われることが好ましく、混合時間および混合手段に制限はない。混合手段としては、任意の適切な手段が選択され得る。大スケールな混合においては、攪拌棒、混合機等が用いられ得、小スケールな混合は、ピペッティング等の手作業で行われてもよい。
【0030】
上記凍結、融解、混合工程は2回以上繰り返して行ってもよい。
【0031】
B−4.ゲル化工程
ゲルの再形成条件(温度、時間等)は、ゲル状集合体が再形成される限り制限はなく、分子または結晶の種類および濃度、媒質の種類等に応じて適切に設定され得る。ゾル中に含まれる分子が自己集合性分子である場合、適切な条件に設定することにより、分子集合によってゲルが自発的に再形成され得る。
【0032】
例えば、自己集合性ペプチドゲルを再形成する場合、上記混合工程で得られた混合対象物が混合されたゾルを静置すればよい。静置温度は、好ましくは15℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。静置時間は、好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上である。また静置する場所に制限はなく、ガラス、プラスチック等の容器内、シャーレ等の細胞培養器具内、注射器等の医療器具内が挙げられる。さらには、上記混合対象物が混合されたゾルを混合直後に生体内へ注入し、その場でゲル化させてもよい。
【0033】
再形成されたゲル状集合体においては、混合対象物が均一に分散した状態で存在し得る。
【0034】
C.製造方法
本発明の別の局面によれば、混合対象物が混合されたゲル状集合体の製造方法が提供され得る。該製造方法は、ゲル状集合体を凍結すること、凍結した集合体を融解してゾルを得ること、得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む。各工程については、上記B項で記載したとおりである。該製造方法によれば、混合対象物が均一に混合されたゲル状集合体が得られ得る。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[試験例1]
常法により、N末端をアセチル化し、C末端をアミド化した自己集合性ペプチド1([CHCO]−RLDLRLALRLDLR−[NH])を得た。該自己集合性ペプチド1を水に溶解し、NaHCO水溶液を終濃度が1.2mMとなるように加えた。得られたペプチド溶液中のペプチド濃度は1w/v%であった。該ペプチド溶液を室温で10分静置し、自己集合性ペプチドゲルを得た。
【0037】
得られた自己集合性ペプチドゲルを液体窒素で凍結した。次いで、凍結した自己集合性ペプチドゲルを37℃の温水で一部融解し、その後室温で静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾル300μlを、3.25×10cells/mlの濃度でNIH3T3細胞を含むDMEM培地200μlが入った容器に加え、ピペッティングを3回行って混合することにより、細胞が混合されたゾルを得た。
【0038】
得られた細胞混合ゾルの上層、中層、および下層から100μlずつサンプリングし、それぞれの試料をPBSで5倍希釈した。希釈した各試料を用いて血球計算盤上の4区画の細胞数を計測することにより、細胞混合ゾル中の各位置における細胞数を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
[試験例2]
自己集合性ペプチドゲルとして、商品名「BDTM PuraMatrixTM ペプチド ハイドロゲル」(BD Biosciences社、ペプチド濃度:1w/v%、pH3)を用いた。
【0040】
上記自己集合性ペプチドゲルを液体窒素で凍結した。次いで、凍結した自己集合性ペプチドゲルを37℃の温水で一部融解し、その後室温で静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾル300μlを、5.38×10cells/mlの濃度でNIH3T3細胞を含むDMEM培地200μlが入った容器に加え、ピペッティングを3回行って混合することにより、細胞が混合されたゾルを得た。
【0041】
得られた細胞混合ゾル中の各位置における細胞数を試験例1と同様にして求めた。結果を表1に示す。
【0042】
[比較試験例1]
試験例1と同様にして得た自己集合性ペプチドゲルに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)を施すことにより、ゾルを得た。得られたゾル300μlを、3.25×10cells/mlの濃度でNIH3T3細胞を含むDMEM培地200μlが入った容器に加え、ピペッティングを3回行って混合することにより、細胞が混合されたゾルを得た。
【0043】
得られた細胞混合ゾル中の各位置における細胞数を試験例1と同様にして求めた。結果を表1に示す。
【0044】
[比較試験例2]
試験例2と同様の自己集合性ペプチドゲルに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)を施すことにより、ゾルを得た。得られたゾル300μlを、5.38×10cells/mlの濃度でNIH3T3細胞を含むDMEM培地200μlが入った容器に加え、ピペッティングを3回行って混合することにより、細胞が混合されたゾルを得た。
【0045】
得られた細胞混合ゾル中の各位置における細胞数を試験例1と同様にして求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示されるとおり、凍結融解によって得られるゾルには、超音波処理によって得られるゾルよりも均一に混合対象物を混合することができる。
【0048】
[実施例1]
上記自己集合性ペプチド1を水に溶解し、NaHCO水溶液を終濃度が1.2mMとなるように加えた。得られたペプチド溶液中のペプチド濃度は0.8w/v%であった。該ペプチド溶液を室温で10分静置し、自己集合性ペプチドゲルを得た。
【0049】
得られた自己集合性ペプチドゲルを液体窒素で凍結した。次いで、凍結した自己集合性ペプチドゲルを37℃の温水で一部融解し、その後室温で静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾル300μLをサンプリングチューブに移し、フェノールレッドを含むDMEM培地450μLを加えて、5回ピペッティングした。
【0050】
ついで、該サンプリングチューブを25℃で5分静置することにより、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図1に示す。
【0051】
[実施例2]
自己集合性ペプチドゲルとして、商品名「BDTM PuraMatrixTM ペプチド ハイドロゲル」(BD Biosciences社、ペプチド濃度:1w/v%、pH3)を用いた。
【0052】
上記自己集合性ペプチドゲルを液体窒素で凍結した。次いで、凍結した自己集合性ペプチドゲルを37℃の温水で一部融解し、その後室温で静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾル300μLをサンプリングチューブに移し、エオシン水溶液450μLを加えて、5回ピペッティングした。
【0053】
ついで、該サンプリングチューブを25℃で20分静置することにより、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図2に示す。
【0054】
[実施例3]
フェノールレッドを含むDMEM培地の代わりに50μM FITC標識インスリン水溶液を混合したこと以外は実施例1と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図3に示す。
【0055】
[実施例4]
エオシン水溶液の代わりに50μM FITC標識インスリン水溶液を混合したこと以外は実施例2と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図4に示す。
【0056】
[比較例1]
凍結融解する代わりに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)をしてゾルを得たこと以外は実施例1と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図1に示す。
【0057】
[比較例2]
凍結融解する代わりに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)をしてゾルを得たこと以外は実施例2と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図2に示す。
【0058】
[比較例3]
凍結融解する代わりに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)をしてゾルを得たこと以外は実施例3と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図3に示す。
【0059】
[比較例4]
凍結融解する代わりに超音波処理(製品名「超音波洗浄機 US−4R」(アズワン社製、槽内体積9.5L)、160W、30分間)をしてゾルを得たこと以外は実施例4と同様にして、自己集合性ペプチドゲルを再形成した。再形成されたゲルの写真を図4に示す。
【0060】
図1〜4に示されるとおり、本発明の方法によれば、一旦ゲル化した分子集合体に対して、凍結融解を行ってゾル化することにより、混合対象物を短時間で均一に混合することができる。一方、超音波処理によって得られたゾルを用いた場合、再形成されたゲルはモヤがかっており、混合対象物が不均一に混合されたことがわかる。
【0061】
[参考例1]
商品名「ラポナイトXLG」(ラポート社製)を6w/v%の濃度で含むゲル状集合体(媒質:水)を液体窒素で凍結した。次いで、凍結した集合体を37℃の温水で一部融解し、その後室温で静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾルを25℃で5時間静置することにより、ゲル状集合体を再形成した。
【0062】
[参考例2]
商品名「ラポナイトXLG」(ラポート社製)を2w/v%の濃度で含むゲル状集合体(媒質:0.75重量%界面活性剤(商品名「OS−14」、日光ケミカルズ社製)および1.0重量%EDTA−2Na含有水溶液)液体窒素で凍結した。次いで、凍結した集合体を37℃の温水で一部融解し、その後室温静置して融解することにより、ゾルを得た。得られたゾルを25℃で15分静置することにより、ゲル状集合体を再形成した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の混合方法および製造方法は、再生医療、ドラッグデリバリーシステム、化粧品、人工硝子体、止血剤、美容整形用注射剤、骨充填、関節潤滑剤、湿潤用保水材等の製造または使用において好適に適用され得る。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号1は、本発明に使用され得る自己集合性ペプチドである。
配列番号2は、本発明に使用され得る自己集合性ペプチドである。
配列番号3は、本発明に使用され得る自己集合性ペプチドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状集合体を凍結すること、
凍結した集合体を融解してゾルを得ること、
得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および
混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む、ゲル状集合体中に混合対象物を混合する方法。
【請求項2】
前記ゲル状集合体が、自己集合性分子が分子集合することによって形成されたゲルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲル状集合体が、粘土鉱物が集合することによって形成されたゲルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記自己集合性分子が、自己集合性ペプチドである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ゲル状集合体を凍結すること、
凍結した集合体を融解してゾルを得ること、
得られたゾルと混合対象物とを混合すること、および
混合対象物が混合されたゾルからゲル状集合体を再形成することを含む、混合対象物が混合されたゲル状集合体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−207679(P2010−207679A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54982(P2009−54982)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【特許番号】特許第4448552号(P4448552)
【特許公報発行日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】