説明

コイルスプリング、これを用いた流体圧倍力装置、およびこの流体圧倍力装置を備えるブレーキ装置

【課題】圧縮方向に撓む際、径方向に傾むことを抑制できるコイルスプリングを提供する。
【解決手段】コイルスプリング24が所定の巻き数で巻かれて形成される。このコイルスプリング24は、予め設定された圧縮セット荷重Fが付与されて圧縮状態にセットされた状態で、1巻目と2巻目との密着部が0.5巻きまたは略0.5巻きに設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力手段に加えられる入力を、流体圧を用いて倍力して出力する、負圧倍力装置や液圧倍力装置等の流体圧倍力装置等の各種装置に用いられるコイルスプリング、これを用いた流体圧倍力装置、およびこの流体圧倍力装置を備えるブレーキ装置の技術分野に関し、特に、所定の圧縮セット荷重で装着された状態で径方向の傾きを抑制することのできるコイルスプリング、流体圧倍力装置、およびブレーキ装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ装置においては、小さなペダル踏力でも大きなブレーキ力を得ることができるようにするために、従来、ペダル踏力を流体圧で倍力して大きな出力を発生する流体圧倍力装置を備えたブレーキ装置が多々知られている。このような流体圧倍力装置の1つとして、負圧でペダル踏力を倍力して大きな出力を得る負圧倍力装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1に開示されている負圧倍力装置を示す断面図である。図4中、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はパワーピストン部材、5はダイヤフラム、6はパワーピストン、7は負圧に保持される定圧室、8は作動時に大気が導入される変圧室、9はバルブボディ、10は入力軸、11は弁プランジャ、12は弁プランジャ11に設けられた大気弁座、13はバルブボディ9に設けられた負圧弁座、14は制御弁体、15は制御弁、16,17,18は通路孔、19は出力軸、20はパワーピストン6を非作動位置方向に常時付勢するリターンスプリング、21はリアクションディスク、22は負圧導入管、および23は大気導入口である。
【0004】
このような負圧倍力装置1は、図5に示すようなブレーキ装置に用いられる。図5中、27はブレーキ装置、28はブレーキペダル、29はタンデムマスタシリンダ、30はブレーキシリンダ、31は車輪である。
【0005】
この負圧倍力装置1においては、定圧室7には常時負圧が負圧導入管22を介して導入されている。そして、負圧倍力装置1の非作動状態では、制御弁15の大気弁座12が制御弁体14に当接しているとともに、制御弁体14が負圧弁座13からわずか離座しており、制御弁15は非作動状態となっている。したがって、変圧室8は、大気から遮断され、かつ通路孔17,16、制御弁体14と負圧弁座13との間の隙間および通路孔18を
介して定圧室7に連通されていて、この変圧室8には負圧が導入されている。
【0006】
この非作動状態から、ブレーキペダル28が踏み込まれると、入力軸10が前方(図4において左方)へストロークして、制御弁体14が負圧弁座13に着座し、その後、大気弁座12が制御弁体14から離れる。すなわち、制御弁15が切り換えられる。これにより、変圧室8が定圧室7から遮断されるとともに大気に連通する。すると、大気が大気導入口23から制御弁体14と大気弁座12との間の隙間および通路孔16,17を介して
変圧室8に導入される。これにより、変圧室8と定圧室7との間に差圧が生じるので、パワーピストン部材4およびダイヤフラム5からなるパワーピストン6が前進(左方へ移動)して出力を発生する。この出力は、バルブボディ9、リアクションディスク21および出力軸19を介してタンデムマスタシリンダ29の図示しないピストンに伝達される。すると、タンデムマスタシリンダ29が作動してブレーキ圧を発生し、このブレーキ圧によりブレーキシリンダ30が作動してブレーキ力を発生して車輪31にブレーキがかけられ
る。
【0007】
タンデムマスタシリンダ29のブレーキ圧による反力で、出力軸19がリアクションディスク21を押圧するので、リアクションディスク21がバルブボディ9と出力軸19との間に挟圧されて弾性変形し、弁プランジャ11に当接する。すると、リアクションディスク21の弾性変形により発生する力が弁プランジャ11および入力軸10を介してブレーキペダル28に反力として伝えられる。
【0008】
変圧室8の圧力が高くなるにつれて、パワーピストン6の出力が大きくなってバルブボディ9が更に前進するので、制御弁体14が負圧弁座13との着座を保持しながら大気弁座12に当接する。これにより、変圧室8にはそれ以上大気が導入されなく、変圧室8の圧力は入力軸10に加えられた入力(ペダル踏力に関係した力)に対応した圧力となる。このときのパワーピストン6の出力はペダル踏力を倍力した大きな出力となり、その結果、タンデムマスタシリンダ29は入力軸10の入力に対応したブレーキ圧を発生するようになる。したがって、車輪31にかけられるブレーキのブレーキ力はペダル踏力を倍力した大きなブレーキ力となる。
【0009】
ブレーキペダル28を解放すると、入力軸10および弁プランジャ11がともに後退し、制御弁体14が負圧弁座13から離座する。すると、変圧室8が定圧室7に連通し、変圧室8に導入された大気は通路孔17,16、制御弁体14と負圧弁座13との隙間、通
路孔18および定圧室7を介して負圧導入管22から排出される。これにより、変圧室8の圧力が低下し、リターンスプリング20のばね力で、バルブボディ9、パワーピストン6および出力軸19がともに後退して非作動位置となり、また制御弁15が図示の非作動状態となる。その結果、タンデムマスタシリンダ29およびブレーキシリンダ30も非作動となり、ブレーキが解除される。
こうして、この負圧倍力装置1では、小さなペダル踏力で大きな出力が得られるようになる。
【0010】
ところで、この負圧倍力装置1のリターンスプリング20には、コイルスプリングが用いられている。図6(a)および(b)に示すように、コイルスプリング24は線径が一定のばね線材から所定の巻き数でコイル状に巻かれて形成される。このコイルスプリング24は、両端部の座巻き部25(図6(a)には一端側の座巻き部25のみが図示され、他端側の座巻き部は図示されていない)と、両端の座巻き部25の間に連続して設けられるコイル部26とからなっている。座巻き部25は、コイルスプリング24の長手方向(図6(a)において上下方向)に直交する面内で所定のコイル径で円弧状に巻かれている。なお、他端側の座巻き部およびこれに連続するコイル部26の部分は、図6(a)を上下逆にしたときの一端側のそれらと同じであるので、以後、この従来のコイルスプリング24および本発明のコイルスプリング24の説明は、一端側の座巻き部25およびこれに連続するコイル部26の部分について説明し、他端側については省略する。
【0011】
コイル部26は座巻き部25の1巻きに到達する前の所定位置αから座巻き部25に連続して設けられており、ばね線材が巻かれるにしたがって長手方向に伸び出すように形成されている。その場合、ばね線材の1巻きあたりに長手方向に進む距離であるコイル部26のはピッチpに一定とされている。つまり、図6(a)および(c)に示すように、コイル部26を側方から見た傾斜角θがコイル部26の一端側から他端側まで一定に設定されている。
【0012】
そして、このコイルスプリング24は、自由状態においてばね線材が1巻きされたときに、図6(a)に示すように座巻き部25の端25aにコイルスプリング24の長手方向に当接して形成されるか、あるいは端25aからコイルスプリング24の長手方向に離間
して形成される。
【0013】
ところで、負圧倍力装置1においては、コイルスプリング24は図6(a)に示す自由状態で用いられることはほとんどなく、予め設定された圧縮セット荷重Fが付与された圧縮状態で用いられている場合が多い。このようにコイルスプリング24を圧縮状態にセットして用いた場合、コイル部26におけるばね線材の2巻きの一部分26aが座巻き部25にコイルスプリング24の長手方向に当接可能となる。
【0014】
このような圧縮セット荷重Fが付与されて圧縮状態にセットされてコイル部26の一部分が座巻き部25のすべてに隙間なく密着させることにより、圧縮セット荷重Fが付与されてセットされた圧縮状態のコイルスプリング24に操作力が加えられたときに発生するコイルスプリング24の振動を減衰して、異音の発生を抑制したコイルスプリング24および流体圧倍力装置が提案されている(特許文献2参照)。なお、符号は、前述の図4ないし図6に対応して用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭57−107945号公報。
【特許文献2】特開2006−77904号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献2に記載のコイルスプリング24および流体圧倍力装置では、リターンスプリング20のコイルスプリング24は、その出力側端が不動のフロントシェル2に別部材を介して当接係合しているとともに、その入力側端が可動のバルブボディ9に当接係合している。このため、流体圧倍力装置の作動時バルブボディ9がリターンスプリング20を圧縮する方向に前進するとき、コイルスプリング24が圧縮方向に撓む際、コイルスプリング24はその長手方向にまっすぐ撓まず、任意の径方向に傾いて撓む可能性が考えられる。そして、このようにコイルスプリング24が径方向に傾いて撓むと、流体圧倍力装置の出力で作動するマスタシリンダ29のピストンに偏荷重が作用し、ピストンがシリンダ内をスムーズに摺動し難くなるばかりでなく、ピストンの偏摩耗やピストンとシリンダの間のシールのシール性低下を生じるおそれがある。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧縮方向に撓む際径方向に傾むことを抑制することのできるコイルスプリングおよびこれを用いた流体圧倍力装置、更にこの流体圧倍力装置を備えて流体圧倍力装置によって作動されるピストンの偏摩耗やピストンとシリンダの間のシールのシール性低下を抑制することのできるブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決するために、本発明のコイルスプリングは、所定の巻き数で巻かれて形成されるコイルスプリングにおいて、予め設定された圧縮セット荷重Fが付与されて圧縮状態にセットされた状態で、1巻目と2巻目との密着部が0.5巻きまたは略0.5巻きであることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の流体圧倍力装置は、流体圧がピストンに作用することでこのピストンが作動して出力するとともに、前記ピストンを非作動位置方向に付勢するリターンスプリングとを少なくとも備えている流体圧倍力装置において、前記リターンスプリングは、前述の本発明のコイルスプリングであることを特徴としている。
【0020】
更に、本発明のブレーキ装置は、ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルで作動される流体圧倍力装置と、前記流体圧倍力装置の出力で作動されるマスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生するブレーキ圧で作動してブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを少なくとも備え、前記流体圧倍力装置が、前述の本発明の流体圧倍力装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
このように構成された本発明に係るコイルスプリングによれば、コイルスプリングに予め設定された圧縮セット荷重Fが付与された状態から、圧縮荷重が加えられたとき、コイルスプリングの横荷重が比較的小さい。したがって、コイルスプリングが圧縮方向に撓む際、コイルスプリングがコイルの任意の径方向に傾いて撓むのを抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係る流体圧倍力装置およびブレーキ装置は、前述の本発明のコイルスプリングを用いている。したがって、本発明に係る流体圧倍力装置およびブレーキ装置によれば、コイルスプリングがコイルの任意の径方向に傾いて撓むのを抑制できることから、流体圧倍力装置の出力を安定させることが可能となる。そして、この流体圧倍力装置をブレーキ装置に配設することで、流体圧倍力装置の出力で作動するブレーキ装置のマスタシリンダのピストンに偏荷重が作用するのを抑制できる。これにより、マスタシリンダのピストンがシリンダ内をよりスムーズに摺動することができるとともに、マスタシリンダのピストンの偏摩耗やピストンとシリンダの間のシールのシール性低下を抑制することが可能となる。その結果、ブレーキ装置を長期にわたって安定して作動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るコイルスプリングの実施の形態の一例の圧縮セット荷重が付与された状態で示し、(a)は部分的に示す正面図、(b)は(a)において台座と1巻目とが密着した部分(連続して密着した状態)を上方から見た図、(c)は(a)において1巻目と2巻目とが密着した部分(連続して密着した状態)を上方から見た図である。
【図2】本発明に係るコイルスプリングについての試験装置を模式的に示し、(a)は全体図、(b)は蓋部材をとったテーブルの下面図、(c)は各荷重センサを示す図である。
【図3】試験結果を示す図である。
【図4】特許文献1に開示されている負圧倍力装置を示す断面図である。
【図5】従来の一般的なブレーキ装置の一例を模式的に示す図である。
【図6】図4に示す従来の負圧倍力装置に用いられているコイルスプリングを示し、(a)は部分的に示す部分正面図、(b)は下面図、(c)はコイル部のばね傾斜角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明に係るコイルスプリングの実施の形態の一例の圧縮セット荷重が付与された状態で示し、(a)は部分的に示す正面図、(b)は(a)において台座と1巻目とが密着した部分(連続して密着した状態)を上方から見た図、(c)は(a)において1巻目と2巻目とが密着した部分(連続して密着した状態)を上方から見た図である。なお、以下の説明において、前述の従来例と同じ構成要素には同じ符号を付すことにより、その詳細な説明は省略する。
【0025】
図1(a)に示すように、この例のコイルスプリング24は線径が一定のばね線材から形成され、上下方向の両端部の座巻き部25(図1(a)には一端側の座巻き部25のみが図示されている)と、両端の座巻き部25の間に連続して設けられるコイル部26とか
らなっている。
【0026】
そして、この例のコイルスプリング24は、予め設定された圧縮セット荷重Fが付与された状態では、図1(b)に示すようにコイルスプリング24の1巻目(座巻き部25を含む)のうち、0.35〜0.5巻き部分24aのすべてが台座32に密着している。また、同じく圧縮セット荷重Fが付与された状態では、図1(c)に示すようにコイルスプリング24の2巻目のうち、0.5巻きまたは略0.5巻き部分24bのすべてが1巻目に密着している。コイルスプリング24の他端側も同様である。
【0027】
このように構成されたこの例のコイルスプリング24は、これが用いられる負圧倍力装置1にリタースプリング20として圧縮セット荷重Fが付与された圧縮状態でセットとされたとき、同様にリタースプリング20の一端側の1巻目のうち、0.35〜0.5巻き部分のすべてがフロントシェル2に直接またはフロントシェル2に密着する平板状の別部材に密着するとともに、リタースプリング20の他端側の1巻目のうち、0.5巻きまたは
略0.5巻き部分のすべてがバルブボディ9に直接またはバルブボディ9に密着する平板
状の別部材に密着する。
【0028】
この例のコイルスプリング24によれば、このコイルスプリング24に予め設定された圧縮セット荷重Fが付与された状態から、圧縮荷重が加えられたとき、コイルスプリング24の横荷重(コイルスプリング24のコイル部26の径方向の荷重)が比較的小さい。したがって、コイルスプリング24が圧縮方向に撓む際、コイルスプリング24がコイル部26の任意の径方向に傾いて撓むのを抑制することができる。
【0029】
また、コイルスプリング24がコイル部26の任意の径方向に傾いて撓むのを抑制できることから、この例のコイルスプリング24が負圧倍力装置1に用いられたとき、負圧倍力装置1の出力を安定させることが可能となる。そして、この負圧倍力装置1をブレーキ装置27に配設することで、負圧倍力装置1の出力で作動するブレーキ装置27のタンデムマスタシリンダ29のピストンに偏荷重が作用するのを抑制できる。これにより、タンデムマスタシリンダ29のピストンがシリンダ内をよりスムーズに摺動することができるとともに、タンデムマスタシリンダ29のピストンの偏摩耗やピストンとシリンダの間のシールのシール性低下を抑制することが可能となる。その結果、ブレーキ装置1を長期にわたって安定して作動させることが可能となる。
【0030】
ところで、この例のコイルスプリング24がコイル部26の任意の径方向に傾いて撓むのを抑制されることについて、試験により検討した。
図2は、この試験に用いた試験装置を模式的に示す図である。
図2に示すように、試験装置33は、コイルスプリング24の一端を支持するテーブル34と、コイルスプリング24の他端を支持する支持ブラケット35と、支持ブラケット35に荷重をコイルスプリング24の長手方向に付与する荷重付与装置36と、テーブル34の下方に配設されるセンサ取付部材37とを備えている。
【0031】
テーブル34は、テーブル本体34aと、このテーブル本体34aに回転自在に配設された多数のボール34bと、テーブル本体34aに相対移動可能に配設されるとともに多数のボール34bが当接する蓋部材34cとを有する。
【0032】
また、センサ取付部材37は、蓋部材34cに当接するようしてテーブル34の下方に配設される3個の長手方向荷重センサ38と、テーブル本体34に当接するようしてテーブル34の側方に配設される3個の横荷重センサ39とを有する。長手方向荷重センサ38は、荷重付与装置36から荷重がコイルスプリング24に支持ブラケット35を介して矢印で示すようにコイルスプリング24の長手方向に付与されるとき、コイルスプリング
24の長手方向の荷重を検出する。また、横荷重センサ39は、荷重付与装置36から荷重がコイルスプリング24に支持ブラケット35を介して矢印で示すようにコイルスプリング24の長手方向に付与されるとき、コイルスプリング24のコイル部26の径方向の横荷重を検出する。
【0033】
コイルスプリング24のテストピースは4種類用いた。すなわち、4種類のコイルスプリング24は、いずれも、材質がSWPC MEMSの線材、線径が(4.0±0.03)
mm、コイル部26の径(線材の中心間の長さ)が59.7mm、コイル部26の巻き方
向が右巻きである。また、第1のコイルスプリング24は、ばね定数が2.78N/mm
、自由長が157.3mm、コイル部26の総巻き数が5.86巻き、圧縮セット荷重Fが205.2Nである。更に、第2のコイルスプリング24は、ばね定数が2.79N/mm、自由長が156.6mm、コイル部26の総巻き数が5.87巻き、圧縮セット荷重Fが203.9Nである。更に、第3のコイルスプリング24は、ばね定数が3.07N/mm、自由長が151.0mm、コイル部26の総巻き数が5.85巻き、圧縮セット荷重Fが206.9Nである。更に、第4のコイルスプリング24は、ばね定数が3.00N/mm、自由長が153.2mm、コイル部26の総巻き数が5.85巻き、圧縮セット荷重Fが208.7Nである。ここで、各コイルスプリング24によって圧縮セット荷重Fが異な
るのは、負圧倍力装置1に用いられるコイルスプリング24のセットストロークは各コイルスプリング24のセットストローク(自由長から圧縮されたストローク)が同じ(本試験では、セットストロークは約78.6mm)であるから、ばね定数の相違等により異な
る。なお、コイルスプリング24のストロークと荷重とは弾性域では比例関係にある。
【0034】
試験は、コイルスプリング24を試験装置33に図2(a)示すようにテーブル本体34aと支持ブラケット35の間にセットする。このとき、各長手方向荷重センサ38および各横荷重センサの出力を、それぞれ0に調整する。そして、荷重付与装置36によりコイルスプリング24に荷重を付与してコイルスプリング24をそのフルストロークまで一旦圧縮する。次いで、コイルスプリング24を自由長まで戻す。この状態から、荷重付与装置36により荷重をコイルスプリング24に付与するとともに付与荷重を増大しながら、横荷重センサ39で横荷重を検出する。第1〜第4コイルスプリング24のセットストロークがともに約78.6mmで、第1〜第4コイルスプリング24は、それぞれ、1巻
目と2巻目との密着部が0.26巻き、0.35巻き、0.45巻き、および0.54巻きである。
【0035】
1巻目と2巻目との密着部の検出は図1(c)に示すように厚さ0.1mmの厚さゲー
ジ(JIS規格)を1巻目と2巻目との間に挿入して、この厚さゲージが1巻目と2巻目との間に挟むことができない位置のコイル部分に印を付けて、コイルスプリング24の端25aからこの印の位置までの巻き量を測定した。また、台座32と1巻目との密着部の検出も、図1(b)に示すように厚さ0.1mmの厚さゲージを用いて同様にして巻き量
を測定した。なお、検出した長手方向の荷重は、3個の長手方向荷重センサ38の平均値とし、検出した横荷重は3個の横荷重センサ38の最大値とした。
【0036】
試験結果を図3に示す。図3に示すように、密着部が0.26巻きおよび0.35巻きでは、負圧倍力装置1のコイルスプリング24のストローク領域で横荷重が最大となるとともに、最大での横荷重の絶対値も大きい。一方、0.45巻きおよび0.54巻きでは、負圧倍力装置1のストローク領域の手前で横荷重が最大となるとともに、最大での横荷重の絶対値は比較的小さい。しかも、タンデムマスタシリンダ29がブレーキ圧を発生する負圧倍力装置1のストローク(出力軸19のストローク)領域において、0.26巻きおよ
び0.35巻きでは横荷重が最大となるのに対して、0.45巻きおよび0.54巻きでは
横荷重がかなり小さくなる。したがって、圧縮セット荷重Fが付与された状態でコイルスプリング24の1巻目と2巻目との密着部が0.5巻きまたは略0.5巻きであると、負圧
倍力装置1の作動時、リターンスプリング20の径方向の撓みを効果的に抑制できることが確認された。
【0037】
この例のコイルスプリング24、このコイルスプリング24が用いられる負圧倍力装置1、およびこの負圧倍力装置1を備えるブレーキ装置27他の構成および他の作用効果は、前述の図4ないし図6に示す従来のコイルスプリング24、従来の負圧倍力装置1、および従来のブレーキ装置27と実質的に同じである。
【0038】
なお、前述の例では、本発明のコイルスプリングを負圧倍力装置1のリターンスプリング20に用いるものとしているが、例えばブレーキシステム等に用いられる液圧倍力装置や圧縮空気による倍力装置等の流体圧倍力装置のリターンスプリングを始め、予め設定された圧縮セット荷重Fを付与した状態で装置に装着されるとともに外的操作力が加えられるコイルスプリングであれば、どのようなコイルスプリングにも適用することができる。要は、本発明は前述の例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係るコイルスプリングは、予め設定された圧縮セット荷重Fを付与した状態で装置に装着されるとともに外的操作力が加えられるようなコイルスプリングに好適に利用可能である。
また、本発明に係る流体圧倍力装置およびブレーキ装置は、ブレーキ装置の倍力装置および操作員の操作力を倍力してブレーキ力を得るブレーキ装置に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…負圧倍力装置、6…パワーピストン、10…入力軸、15…制御弁、19…出力軸、20…リターンスプリング、24…コイルスプリング、24a…台座と1巻目との密着部、24b…1巻目と1巻目との密着部、25a…端、27…ブレーキ装置、28…ブレーキペダル、29…タンデムマスタシリンダ、30…ブレーキシリンダ、33…試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の巻き数で巻かれて形成されるコイルスプリングにおいて、
予め設定された圧縮セット荷重が付与されて圧縮状態にセットされた状態で、1巻目と2巻目との密着部が0.5巻きまたは略0.5巻きであることを特徴とするコイルスプリング。
【請求項2】
流体圧がピストンに作用することでこのピストンが作動して出力するとともに、前記ピストンを非作動位置方向に付勢するリターンスプリングとを少なくとも備えている流体圧倍力装置において、
前記リターンスプリングは、請求項1に記載のコイルスプリングであることを特徴とする流体圧倍力装置。
【請求項3】
ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルで作動される流体圧倍力装置と、前記流体圧倍力装置の出力で作動されるマスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生するブレーキ圧で作動してブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを少なくとも備え、
前記流体圧倍力装置は、請求項2に記載の流体圧倍力装置であることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−169369(P2011−169369A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32508(P2010−32508)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】