コイル成形方法およびコイル成形用金型
【課題】曲げ加工に伴う被膜厚さの減少を抑制でき、また、形状の変形による占積率の低下を抑制できるコイル成形方法およびコイル成形用金型を提供する。
【解決手段】コイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行う。予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工である。この時、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮する。これにより、曲げ加工時の導体素材1aの膨らみを抑制できるので、導体素材1aの形状が大きく変化することはなく、占積率の低下を抑制できる。また、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜1bが潰されて薄くなることはなく、隣接するコイル1との電気的な絶縁を確保できる。
【解決手段】コイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行う。予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工である。この時、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮する。これにより、曲げ加工時の導体素材1aの膨らみを抑制できるので、導体素材1aの形状が大きく変化することはなく、占積率の低下を抑制できる。また、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜1bが潰されて薄くなることはなく、隣接するコイル1との電気的な絶縁を確保できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体素材の外周に被膜を有するコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法、および、そのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の固定子あるいは回転子等に用いられる断面矩形の被膜付きコイル〔図10(a)参照〕がある。このコイル100に、例えば、90度の曲げ加工(図2参照)を行う場合、図10(b)に示す様に、R部の内側根元部では、導体素材110に生ずる圧縮歪みにより幅方向に膨らみが生じる。この場合、隣接するコイルとの干渉を防ぐために、内側根元部の幅寸法を圧縮すると、導体素材110の膨らみ部(角部)を覆っている被膜120が潰されて薄くなり、隣接するコイルとの電気的な漏れが問題となる。また、R部の中立軸(圧縮歪み、および、伸び歪みがゼロになる位置)より外側では、導体素材110に生ずる伸び歪みにより、被膜120の厚さが薄くなるため、被膜厚さの減少を抑制する必要がある。
これに対し、図11に示す様に、コイル100の両側面を型枠130等で規制した状態で曲げ加工を行う技術が公知である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3894004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記の公知技術、つまり、コイル100の両側面を型枠130で規制した状態で曲げ加工を行う方法では、曲げ加工の後、導体素材110の内部に残留する応力の影響により、型枠130で規制された部位の幅寸法が拡大する(弾性回復する)ため、内側根元部の膨らみを抑制することは困難である。また、上記の方法では、R部の中立軸より外側の被膜厚さの減少を抑制することはできない。
更に、コイル100の両側面が型枠130で規制された状態で曲げ加工を行うため、コイル100の被膜120を傷つける恐れがある。
【0004】
また、R部の外周R面では、曲げ方向と直交する幅方向(図10の左右方向)の中央部が凹み、鞍形に湾曲した凹形状となる。一方、R部の内周R面では、幅方向の両外側が低く、中央部が膨らんだ凸形状となる。この様な形状の変形により、隣接するコイルとの干渉を生じ、占積率の低下を招くという問題があった。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、曲げ加工に伴う被膜厚さの減少を抑制でき、また、形状の変形による占積率の低下を抑制できるコイル成形方法およびコイル成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工を行い、この圧縮加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮することを特徴とする。
【0006】
本発明の方法によれば、予めコイルの幅方向の寸法を圧縮した状態で曲げ加工を行うので、曲げ加工時の導体素材の膨らみ(特に、R部の内側根元部に生じる膨らみ)を抑制できる。その結果、導体素材の形状が大きく変化することはなく、矩形断面を維持できるので、占積率の低下を抑制できる。
また、従来の様に、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜が潰されて薄くなることはなく、隣接するコイルとの電気的な絶縁を確保できる。
【0007】
(請求項2の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、R部の内周R面と外周R面との略中心であるコイルの中立軸より内側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、コイルの中立軸より外側へ移動させることを特徴とする。
【0008】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の中立軸より外側では、R部の外周R面と幅方向の両側面に伸び変形を生じるため、被膜厚さが薄くなる。一方、R部の中立軸より内側では、内周R面と幅方向の両側面に圧縮変形を生じるため、被膜厚さは厚くなる。そこで、中立軸より内側の被膜と、その近傍の導体素材を中立軸より外側へ移動させる予備成形を実施した後、曲げ加工を行うことで、中立軸より外側(R部の外周R面と幅方向の両側面)の被膜厚さの減少を抑制できる。
【0009】
(請求項3の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、R部の内周R面と外周R面との略中心であるコイルの中立軸より外側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、外周R面側へ移動させることを特徴とする。
R部の中立軸より外周側では、曲げ側面の伸び変形が中立軸付近で最小となり、外周R面で最大となる。従って、外周R面の被膜厚さの減少が最大となるため、被膜厚さの減少が比較的少ない側面の被膜と導体素材を、塑性変形により外周R面側へ移動させることにより、外周R面の被膜厚さの減少を抑制できる。
【0010】
(請求項4の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、R部の外周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行い、この凸成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の外周R面に生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とする。
【0011】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の外周R面では、幅方向の両端部に対し中央部が凹む、いわゆる鞍形となる。この場合、外周R面の幅方向の中央部に対し両端部が高くなるため、隣接するコイルや、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、外周R面の中央部を所定量だけ膨らませる予備成形(凸成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、外周R面の凹みを小さくできる、言い換えると、外周R面を略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【0012】
(請求項5の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、R部の内周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行い、この凹成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の内周R面に生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とする。
【0013】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の内周R面では、幅方向の両端部に対し中央部が膨らむ凸形状となる。この場合、内周R面の幅方向の両端部に対し中央部が高くなるため、隣接するコイルや、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、内周R面の中央部を所定量だけ凹ませる予備成形(凹成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、内周R面の膨らみを小さくできる、言い換えると、内周R面を略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【0014】
(請求項6の発明)
請求項1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ持つことを特徴とする。
この場合、請求項1〜5に記載した何れか一つのコイル成形方法を単独で使用する場合より、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、占積率を向上できる。
【0015】
(請求項7の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルの曲げ加工時に、コイルの幅方向を拘束する一対の側壁を有し、この一対の側壁がコイルの幅方向に拡幅可能な構造を有していることを特徴とする。
コイルの幅方向を拘束する側壁が固定式であると、コイルを金型から取り出す際に、コイルの両側面が側壁に食い付いて被膜が傷つく恐れがある。
これに対し、側壁がコイルの幅方向に拡幅可能な構造であれば、コイルを金型から取り出す際に、一対の側壁の間を広げることにより、コイルの食い付きを防止できるので、被膜が傷つくこともなく、且つ、容易にコイルを金型から取り出すことができる。
【0016】
(請求項8の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より硬度の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0017】
(請求項9の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より硬度の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0018】
(請求項10の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より弾性係数の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0019】
(請求項11の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より弾性係数の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0020】
(請求項12の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に金型の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0021】
(請求項13の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に金型の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0022】
(請求項14の発明)
請求項8〜13に記載した何れかのコイル成形用金型において、表面材の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。 コイルの被膜が表面材の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、表面材の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、表面材の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に表面材の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0023】
(請求項15の発明)
請求項7〜14に記載した何れかのコイル成形用金型を用いて、請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法により製造されたことを特徴とする。
本発明によれば、被膜厚さの減少および被膜の傷を抑制できると共に、高い占積率を実現でき、高い品質を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
本実施例は、例えば、回転電機の固定子または回転子に用いられるコイル1に曲げ加工を行うコイル成形方法であり、例えば、コイルエンド部を形成する際に適用できる。
コイル1は、図1(a)に示す様に、矩形断面を有する導体素材1a(例えば銅線)の外周が絶縁性の被膜1bで覆われている。このコイル1を、例えば、図2に示す様に、90度に曲げ加工する場合において、その曲げ加工を行う前に所定の予備成形を行うことが特徴である。
【0026】
予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲(図2に示す範囲X)に対し、曲げ方向と直交する幅方向(図1の左右方向)の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工である。
予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合は、上述の「背景技術」で説明した様に、コイル1の中立軸〔図1(b)に一点鎖線で示す〕より内側のR部根元部が幅方向に膨らむため、本実施例の予備成形(圧縮加工)では、主に、コイル1の中立軸より内側を幅方向に圧縮して幅寸法を小さくする。この時、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法および形状だけ幅方向の寸法を圧縮する。
【0027】
上記の方法によれば、予めコイル1の幅方向の寸法を圧縮した状態で曲げ加工を行うので、曲げ加工時の導体素材1aの膨らみ(特に、R部の内側根元部に生じる膨らみ)を抑制できる。その結果、曲げ加工によって導体素材1aの形状が大きく変化することはなく、矩形断面を略維持できるので、占積率の低下を抑制できる。
また、従来の様に、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜1bが潰されて薄くなることはなく、隣接するコイル1との電気的な絶縁を確保できる。
【実施例2】
【0028】
図3(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例2は、実施例1と同じく、図3(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、コイル1の中立軸より内側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを中立軸より外側へ移動させることを特徴とする。
【0029】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の中立軸より外側では、R部の外周R面1cと幅方向の両側面に伸び変形を生じるため、被膜1の厚さが薄くなる。一方、R部の中立軸より内側では、内周R面1dと幅方向の両側面に圧縮変形を生じるため、被膜1の厚さは厚くなる。そこで、図3(b)に矢印で示す様に、中立軸より内側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを中立軸より外側へ移動させる予備成形を実施した後、曲げ加工を行うことで、中立軸より外側(R部の外周R面1cと幅方向の両側面)の被膜厚さの減少を抑制できる。
【実施例3】
【0030】
図4(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例3は、実施例1と同じく、図4(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、コイル1の中立軸より外側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを外周R面側へ移動させることを特徴とする。
R部の中立軸より外周側では、曲げ側面の伸び変形が中立軸付近で最小となり、外周R面1cで最大となる。従って、外周R面1cの被膜厚さの減少が最大となるため、図4(b)に矢印で示す様に、被膜厚さの減少が比較的少ない側面の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを、塑性変形により外周R面1c側へ移動させることにより、外周R面1cの被膜厚さの減少を抑制できる。
【実施例4】
【0031】
図5(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例4は、実施例1と同じく、図5(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、図5(b)に示す様に、R部の外周R面1cにおいて幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行う。
凸成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の外周R面1cに生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とする。
【0032】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の外周R面1cでは、幅方向の両端部に対し中央部が凹む、いわゆる鞍形となる。この場合、外周R面1cの幅方向の中央部に対し両端部が高くなるため、隣接するコイル1や、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する恐れがある。
これに対し、外周R面1cの中央部を所定量だけ膨らませる予備成形(凸成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、外周R面1cの凹みを小さくできる、言い換えると、外周R面1cを略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【実施例5】
【0033】
図6(a)はコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。 この実施例5は、実施例1と同じく、図6(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、図6(b)に示す様に、R部の内周R面1dにおいて幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行う。
凹成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の内周R面1dに生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とする。
【0034】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の内周R面1dでは、幅方向の両端部に対し中央部が膨らむ凸形状となる。この場合、内周R面1dの幅方向の両端部に対し中央部が高くなるため、隣接するコイル1や、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、内周R面1dの中央部を所定量だけ凹ませる予備成形(凹成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、内周R面1dの膨らみを小さくできる、言い換えると、内周R面1dを略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【実施例6】
【0035】
図7はコイル成形用金型の正面断面図である。
この実施例6は、実施例1〜5に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型に関する。
コイル成形用金型は、図7に示す様に、下側ベース2に固定されたベッド3と、このベッド3上に配置される下型(以下に説明する)と、上側ベース4に固定された上型5およびテーパ型6とを有する。
下型は、二分割されており、ベッド3上に固定される第1サイド壁7と、ベッド3に取り付けられたガイド棒8に案内されてベッド3上をスライド可能に設けられた第2サイド壁9とで構成され、両者の間にスプリング10が配置されている。
【0036】
第1サイド壁7には、直線状のコイル1(曲げ加工する前のコイル1)をセットする断面L字形のコイル搭載面7aが形成されている。
第2サイド壁9は、スプリング10の荷重を受けて第1サイド壁7から所定距離だけ離れた位置に静止している(図7参照)。この第2サイド壁9は、スプリング10の荷重に抗して第1サイド壁7の側面に密着する位置まで移動することにより、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成して、コイル搭載面7aにセットされるコイル1を保持する。また、第2サイド壁9は、コイル搭載面7aにコイル1をセットする時、および、曲げ加工されたコイル1をコイル搭載面7aから取り出す時に、スプリング10の荷重を受けて第1のサイド壁から離れる方向(図7の右方向)へ移動することにより、コイル搭載面7aの開放側に隙間を形成する。
【0037】
上型5は、コイル搭載面7aにセットされた直線状のコイル1に対し90度の曲げ加工を施すために、コイル1の直線方向に対し、L字型に設けられている。
テーパ型6は、第2サイド壁9の肩部に形成された傾斜面9aに当接するテーパ面6aを有し、上側ベース4が降下する際に、テーパ面6aが第2サイド壁9の傾斜面9aを押圧することで、第2サイド壁9を第1サイド壁7側へ移動させる働きを有する。
上記のコイル成形用金型は、図7に示す様に、直線状のコイル1を第1サイド壁7のコイル搭載面7aにセットした後、上側ベース4を降下させる。これにより、図8(b)に示す様に、テーパ型6に押圧された第2サイド壁9がスプリング10の反力に抗して第1サイド壁7の側面に密着する位置まで移動してコイル1が保持されると共に、図8(a)に示す様に、上型5の降下によりコイル1が90度に曲げ加工される。
【0038】
本実施例のコイル成形用金型は、曲げ加工されたコイル1をコイル搭載面7aから取り出す際に、第2サイド壁9が第1サイド壁7から離れることにより、コイル搭載面7aの開放側に隙間が形成される(図7参照)。これにより、コイル1の両側面が第1サイド壁7および第2サイド壁9に食い付くことはなく、コイル1の変形不良を防止できると共に、コイル1の被膜1bが傷つくこともない。また、本実施例のコイル成形用金型を使用して、実施例1〜5に記載した何れかのコイル成形方法によりコイル1の曲げ加工を行うことで、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、高い占積率を実現できる。
【実施例7】
【0039】
図9はコイル成形用金型の正面断面図である。
この実施例7は、図9に示す様に、コイル搭載面7aを形成する第1サイド壁7、および、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成する第2サイド壁9の表面に、それぞれ、第1サイド壁7および第2サイド壁9に使用される金属材料(例えば鋼材)より低い硬度あるいは低い弾性係数を有する材料(例えばアルミニウム、または、ゴム等)で形成された表面材11を設けたことを特徴とする。
【0040】
コイル1の被膜1bが第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの局部的な接触により、被膜1bに高い面圧が掛かるため、被膜1bに傷を生じる恐れがある。
これに対し、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に表面材11を設けることで、コイル1の被膜1bが直接第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に接触することを防止でき、硬度あるいは弾性係数の低い表面材11に被膜1bを接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時にコイル1の被膜1bが傷つくことを防止できる。
【0041】
(変形例)
実施例1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ行うこともできる。 この場合、実施例1〜5に記載した何れか一つのコイル成形方法を単独で使用する場合より、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、コイル1の占積率を向上できる。
また、コイル成形用金型では、コイル搭載面7aを形成する第1サイド壁7、および、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成する第2サイド壁9の表面に、それぞれ、摩擦係数の低い表面処理を実施しても良い。コイル1の被膜1bが第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの摩擦により、被膜1bに傷を生じる恐れがある。
【0042】
これに対し、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの摩擦を低減できるので、被膜1bの傷付きを防止できる。なお、摩擦係数の低い表面処理として、例えば、テフロン(ポリテトラフルオロエチレンの登録商標名)加工、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理等を適用できる。また、実施例7に記載した表面材11(例えばアルミニウム)の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することもできる。
また、実施例1では、回転電機の固定子または回転子に用いられるコイル1に本発明を適用しているが、回転電機以外の用途に使用されるコイル(例えば、昇圧コイル)にも本発明のコイル成形方法およびコイル成形用金型を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例1)。
【図2】コイルを90度曲げた状態を示す側面図である。
【図3】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例2)。
【図4】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例3)。
【図5】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例4)。
【図6】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例5)。
【図7】コイル成形用金型の正面断面図である(実施例6)。
【図8】(a)コイル成形用金型の側面断面図、(b)コイル成形用金型の正面断面図である(実施例6)。
【図9】コイル成形用金型の正面断面図である(実施例7)。
【図10】(a)曲げ加工前のコイルの断面図、(b)曲げ加工後のコイルの断面図である(従来技術の説明)。
【図11】両側面を型枠で拘束したコイルの断面図である(従来技術の説明)。
【符号の説明】
【0044】
1 コイル
1a 導体素材
1b 被膜
1c R部の外周R面
1d R部の内周R面
5 上型
7 第1サイド壁(下型、側壁)
9 第2サイド壁(下型、側壁)
11 表面材
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体素材の外周に被膜を有するコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法、および、そのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の固定子あるいは回転子等に用いられる断面矩形の被膜付きコイル〔図10(a)参照〕がある。このコイル100に、例えば、90度の曲げ加工(図2参照)を行う場合、図10(b)に示す様に、R部の内側根元部では、導体素材110に生ずる圧縮歪みにより幅方向に膨らみが生じる。この場合、隣接するコイルとの干渉を防ぐために、内側根元部の幅寸法を圧縮すると、導体素材110の膨らみ部(角部)を覆っている被膜120が潰されて薄くなり、隣接するコイルとの電気的な漏れが問題となる。また、R部の中立軸(圧縮歪み、および、伸び歪みがゼロになる位置)より外側では、導体素材110に生ずる伸び歪みにより、被膜120の厚さが薄くなるため、被膜厚さの減少を抑制する必要がある。
これに対し、図11に示す様に、コイル100の両側面を型枠130等で規制した状態で曲げ加工を行う技術が公知である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3894004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記の公知技術、つまり、コイル100の両側面を型枠130で規制した状態で曲げ加工を行う方法では、曲げ加工の後、導体素材110の内部に残留する応力の影響により、型枠130で規制された部位の幅寸法が拡大する(弾性回復する)ため、内側根元部の膨らみを抑制することは困難である。また、上記の方法では、R部の中立軸より外側の被膜厚さの減少を抑制することはできない。
更に、コイル100の両側面が型枠130で規制された状態で曲げ加工を行うため、コイル100の被膜120を傷つける恐れがある。
【0004】
また、R部の外周R面では、曲げ方向と直交する幅方向(図10の左右方向)の中央部が凹み、鞍形に湾曲した凹形状となる。一方、R部の内周R面では、幅方向の両外側が低く、中央部が膨らんだ凸形状となる。この様な形状の変形により、隣接するコイルとの干渉を生じ、占積率の低下を招くという問題があった。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、曲げ加工に伴う被膜厚さの減少を抑制でき、また、形状の変形による占積率の低下を抑制できるコイル成形方法およびコイル成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工を行い、この圧縮加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮することを特徴とする。
【0006】
本発明の方法によれば、予めコイルの幅方向の寸法を圧縮した状態で曲げ加工を行うので、曲げ加工時の導体素材の膨らみ(特に、R部の内側根元部に生じる膨らみ)を抑制できる。その結果、導体素材の形状が大きく変化することはなく、矩形断面を維持できるので、占積率の低下を抑制できる。
また、従来の様に、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜が潰されて薄くなることはなく、隣接するコイルとの電気的な絶縁を確保できる。
【0007】
(請求項2の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、R部の内周R面と外周R面との略中心であるコイルの中立軸より内側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、コイルの中立軸より外側へ移動させることを特徴とする。
【0008】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の中立軸より外側では、R部の外周R面と幅方向の両側面に伸び変形を生じるため、被膜厚さが薄くなる。一方、R部の中立軸より内側では、内周R面と幅方向の両側面に圧縮変形を生じるため、被膜厚さは厚くなる。そこで、中立軸より内側の被膜と、その近傍の導体素材を中立軸より外側へ移動させる予備成形を実施した後、曲げ加工を行うことで、中立軸より外側(R部の外周R面と幅方向の両側面)の被膜厚さの減少を抑制できる。
【0009】
(請求項3の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、R部の内周R面と外周R面との略中心であるコイルの中立軸より外側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、外周R面側へ移動させることを特徴とする。
R部の中立軸より外周側では、曲げ側面の伸び変形が中立軸付近で最小となり、外周R面で最大となる。従って、外周R面の被膜厚さの減少が最大となるため、被膜厚さの減少が比較的少ない側面の被膜と導体素材を、塑性変形により外周R面側へ移動させることにより、外周R面の被膜厚さの減少を抑制できる。
【0010】
(請求項4の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、R部の外周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行い、この凸成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の外周R面に生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とする。
【0011】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の外周R面では、幅方向の両端部に対し中央部が凹む、いわゆる鞍形となる。この場合、外周R面の幅方向の中央部に対し両端部が高くなるため、隣接するコイルや、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、外周R面の中央部を所定量だけ膨らませる予備成形(凸成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、外周R面の凹みを小さくできる、言い換えると、外周R面を略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【0012】
(請求項5の発明)
本発明は、矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、R部の内周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行い、この凹成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の内周R面に生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とする。
【0013】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の内周R面では、幅方向の両端部に対し中央部が膨らむ凸形状となる。この場合、内周R面の幅方向の両端部に対し中央部が高くなるため、隣接するコイルや、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、内周R面の中央部を所定量だけ凹ませる予備成形(凹成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、内周R面の膨らみを小さくできる、言い換えると、内周R面を略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【0014】
(請求項6の発明)
請求項1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ持つことを特徴とする。
この場合、請求項1〜5に記載した何れか一つのコイル成形方法を単独で使用する場合より、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、占積率を向上できる。
【0015】
(請求項7の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルの曲げ加工時に、コイルの幅方向を拘束する一対の側壁を有し、この一対の側壁がコイルの幅方向に拡幅可能な構造を有していることを特徴とする。
コイルの幅方向を拘束する側壁が固定式であると、コイルを金型から取り出す際に、コイルの両側面が側壁に食い付いて被膜が傷つく恐れがある。
これに対し、側壁がコイルの幅方向に拡幅可能な構造であれば、コイルを金型から取り出す際に、一対の側壁の間を広げることにより、コイルの食い付きを防止できるので、被膜が傷つくこともなく、且つ、容易にコイルを金型から取り出すことができる。
【0016】
(請求項8の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より硬度の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0017】
(請求項9の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より硬度の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0018】
(請求項10の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より弾性係数の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0019】
(請求項11の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との局部的な接触により、被膜に高い面圧が掛かり、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に表面材を設けることで、コイルの被膜が直接金型の表面に接触することを防止でき、金型に使用される材料より弾性係数の低い表面材に被膜を接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時に被膜が傷つくことを防止できる。
【0020】
(請求項12の発明)
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に金型の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0021】
(請求項13の発明)
請求項7に記載したコイル成形用金型において、コイルに曲げ加工を行う金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。
コイルの被膜が金型の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、金型の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、金型の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に金型の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0022】
(請求項14の発明)
請求項8〜13に記載した何れかのコイル成形用金型において、表面材の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とする。 コイルの被膜が表面材の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、表面材の表面と被膜との摩擦により、被膜に傷を生じる恐れがある。
これに対し、表面材の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に表面材の表面と被膜との摩擦を低減できるので、被膜の傷付きを防止できる。
【0023】
(請求項15の発明)
請求項7〜14に記載した何れかのコイル成形用金型を用いて、請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法により製造されたことを特徴とする。
本発明によれば、被膜厚さの減少および被膜の傷を抑制できると共に、高い占積率を実現でき、高い品質を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
本実施例は、例えば、回転電機の固定子または回転子に用いられるコイル1に曲げ加工を行うコイル成形方法であり、例えば、コイルエンド部を形成する際に適用できる。
コイル1は、図1(a)に示す様に、矩形断面を有する導体素材1a(例えば銅線)の外周が絶縁性の被膜1bで覆われている。このコイル1を、例えば、図2に示す様に、90度に曲げ加工する場合において、その曲げ加工を行う前に所定の予備成形を行うことが特徴である。
【0026】
予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲(図2に示す範囲X)に対し、曲げ方向と直交する幅方向(図1の左右方向)の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工である。
予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合は、上述の「背景技術」で説明した様に、コイル1の中立軸〔図1(b)に一点鎖線で示す〕より内側のR部根元部が幅方向に膨らむため、本実施例の予備成形(圧縮加工)では、主に、コイル1の中立軸より内側を幅方向に圧縮して幅寸法を小さくする。この時、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法および形状だけ幅方向の寸法を圧縮する。
【0027】
上記の方法によれば、予めコイル1の幅方向の寸法を圧縮した状態で曲げ加工を行うので、曲げ加工時の導体素材1aの膨らみ(特に、R部の内側根元部に生じる膨らみ)を抑制できる。その結果、曲げ加工によって導体素材1aの形状が大きく変化することはなく、矩形断面を略維持できるので、占積率の低下を抑制できる。
また、従来の様に、曲げ加工後にR部の内側根元部に生じる膨らみを圧縮する必要がないので、圧縮により被膜1bが潰されて薄くなることはなく、隣接するコイル1との電気的な絶縁を確保できる。
【実施例2】
【0028】
図3(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例2は、実施例1と同じく、図3(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、コイル1の中立軸より内側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを中立軸より外側へ移動させることを特徴とする。
【0029】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の中立軸より外側では、R部の外周R面1cと幅方向の両側面に伸び変形を生じるため、被膜1の厚さが薄くなる。一方、R部の中立軸より内側では、内周R面1dと幅方向の両側面に圧縮変形を生じるため、被膜1の厚さは厚くなる。そこで、図3(b)に矢印で示す様に、中立軸より内側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを中立軸より外側へ移動させる予備成形を実施した後、曲げ加工を行うことで、中立軸より外側(R部の外周R面1cと幅方向の両側面)の被膜厚さの減少を抑制できる。
【実施例3】
【0030】
図4(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例3は、実施例1と同じく、図4(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、コイル1の中立軸より外側に形成される幅方向の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを外周R面側へ移動させることを特徴とする。
R部の中立軸より外周側では、曲げ側面の伸び変形が中立軸付近で最小となり、外周R面1cで最大となる。従って、外周R面1cの被膜厚さの減少が最大となるため、図4(b)に矢印で示す様に、被膜厚さの減少が比較的少ない側面の被膜1bと、その近傍の導体素材1aを、塑性変形により外周R面1c側へ移動させることにより、外周R面1cの被膜厚さの減少を抑制できる。
【実施例4】
【0031】
図5(a)は予備成形前のコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。
この実施例4は、実施例1と同じく、図5(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、図5(b)に示す様に、R部の外周R面1cにおいて幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行う。
凸成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の外周R面1cに生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とする。
【0032】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の外周R面1cでは、幅方向の両端部に対し中央部が凹む、いわゆる鞍形となる。この場合、外周R面1cの幅方向の中央部に対し両端部が高くなるため、隣接するコイル1や、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する恐れがある。
これに対し、外周R面1cの中央部を所定量だけ膨らませる予備成形(凸成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、外周R面1cの凹みを小さくできる、言い換えると、外周R面1cを略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【実施例5】
【0033】
図6(a)はコイル1の断面図、同図(b)は予備成形後のコイル1の断面図である。 この実施例5は、実施例1と同じく、図6(a)に示すコイル1を曲げ加工する前に、所定の予備成形を行うものであり、その予備成形は、曲げ加工前の直線状態のコイル1に対して、曲げ加工後の略R部を含む範囲に対し、図6(b)に示す様に、R部の内周R面1dにおいて幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行う。
凹成形加工では、予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工によりR部の内周R面1dに生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とする。
【0034】
予備成形を行わないで曲げ加工を行った場合、R部の内周R面1dでは、幅方向の両端部に対し中央部が膨らむ凸形状となる。この場合、内周R面1dの幅方向の両端部に対し中央部が高くなるため、隣接するコイル1や、鉄心の積層コアシートと干渉して、占積率が低下する。
これに対し、内周R面1dの中央部を所定量だけ凹ませる予備成形(凹成形加工)を実施した後、曲げ加工を行うことで、内周R面1dの膨らみを小さくできる、言い換えると、内周R面1dを略平坦に形成できるので、占積率を向上できる。
【実施例6】
【0035】
図7はコイル成形用金型の正面断面図である。
この実施例6は、実施例1〜5に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型に関する。
コイル成形用金型は、図7に示す様に、下側ベース2に固定されたベッド3と、このベッド3上に配置される下型(以下に説明する)と、上側ベース4に固定された上型5およびテーパ型6とを有する。
下型は、二分割されており、ベッド3上に固定される第1サイド壁7と、ベッド3に取り付けられたガイド棒8に案内されてベッド3上をスライド可能に設けられた第2サイド壁9とで構成され、両者の間にスプリング10が配置されている。
【0036】
第1サイド壁7には、直線状のコイル1(曲げ加工する前のコイル1)をセットする断面L字形のコイル搭載面7aが形成されている。
第2サイド壁9は、スプリング10の荷重を受けて第1サイド壁7から所定距離だけ離れた位置に静止している(図7参照)。この第2サイド壁9は、スプリング10の荷重に抗して第1サイド壁7の側面に密着する位置まで移動することにより、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成して、コイル搭載面7aにセットされるコイル1を保持する。また、第2サイド壁9は、コイル搭載面7aにコイル1をセットする時、および、曲げ加工されたコイル1をコイル搭載面7aから取り出す時に、スプリング10の荷重を受けて第1のサイド壁から離れる方向(図7の右方向)へ移動することにより、コイル搭載面7aの開放側に隙間を形成する。
【0037】
上型5は、コイル搭載面7aにセットされた直線状のコイル1に対し90度の曲げ加工を施すために、コイル1の直線方向に対し、L字型に設けられている。
テーパ型6は、第2サイド壁9の肩部に形成された傾斜面9aに当接するテーパ面6aを有し、上側ベース4が降下する際に、テーパ面6aが第2サイド壁9の傾斜面9aを押圧することで、第2サイド壁9を第1サイド壁7側へ移動させる働きを有する。
上記のコイル成形用金型は、図7に示す様に、直線状のコイル1を第1サイド壁7のコイル搭載面7aにセットした後、上側ベース4を降下させる。これにより、図8(b)に示す様に、テーパ型6に押圧された第2サイド壁9がスプリング10の反力に抗して第1サイド壁7の側面に密着する位置まで移動してコイル1が保持されると共に、図8(a)に示す様に、上型5の降下によりコイル1が90度に曲げ加工される。
【0038】
本実施例のコイル成形用金型は、曲げ加工されたコイル1をコイル搭載面7aから取り出す際に、第2サイド壁9が第1サイド壁7から離れることにより、コイル搭載面7aの開放側に隙間が形成される(図7参照)。これにより、コイル1の両側面が第1サイド壁7および第2サイド壁9に食い付くことはなく、コイル1の変形不良を防止できると共に、コイル1の被膜1bが傷つくこともない。また、本実施例のコイル成形用金型を使用して、実施例1〜5に記載した何れかのコイル成形方法によりコイル1の曲げ加工を行うことで、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、高い占積率を実現できる。
【実施例7】
【0039】
図9はコイル成形用金型の正面断面図である。
この実施例7は、図9に示す様に、コイル搭載面7aを形成する第1サイド壁7、および、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成する第2サイド壁9の表面に、それぞれ、第1サイド壁7および第2サイド壁9に使用される金属材料(例えば鋼材)より低い硬度あるいは低い弾性係数を有する材料(例えばアルミニウム、または、ゴム等)で形成された表面材11を設けたことを特徴とする。
【0040】
コイル1の被膜1bが第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの局部的な接触により、被膜1bに高い面圧が掛かるため、被膜1bに傷を生じる恐れがある。
これに対し、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に表面材11を設けることで、コイル1の被膜1bが直接第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に接触することを防止でき、硬度あるいは弾性係数の低い表面材11に被膜1bを接触させた状態で曲げ加工を行うことができる。これにより、曲げ加工時にコイル1の被膜1bが傷つくことを防止できる。
【0041】
(変形例)
実施例1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ行うこともできる。 この場合、実施例1〜5に記載した何れか一つのコイル成形方法を単独で使用する場合より、被膜厚さの減少を抑制でき、且つ、コイル1の占積率を向上できる。
また、コイル成形用金型では、コイル搭載面7aを形成する第1サイド壁7、および、コイル搭載面7aの開放側に壁面を形成する第2サイド壁9の表面に、それぞれ、摩擦係数の低い表面処理を実施しても良い。コイル1の被膜1bが第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に直接接触した状態で曲げ加工を行うと、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの摩擦により、被膜1bに傷を生じる恐れがある。
【0042】
これに対し、第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することで、曲げ加工時に第1サイド壁7および第2サイド壁9の表面と被膜1bとの摩擦を低減できるので、被膜1bの傷付きを防止できる。なお、摩擦係数の低い表面処理として、例えば、テフロン(ポリテトラフルオロエチレンの登録商標名)加工、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理等を適用できる。また、実施例7に記載した表面材11(例えばアルミニウム)の表面に摩擦係数の低い表面処理を実施することもできる。
また、実施例1では、回転電機の固定子または回転子に用いられるコイル1に本発明を適用しているが、回転電機以外の用途に使用されるコイル(例えば、昇圧コイル)にも本発明のコイル成形方法およびコイル成形用金型を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例1)。
【図2】コイルを90度曲げた状態を示す側面図である。
【図3】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例2)。
【図4】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例3)。
【図5】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例4)。
【図6】(a)予備成形前のコイルの断面図、(b)予備成形後のコイルの断面図である(実施例5)。
【図7】コイル成形用金型の正面断面図である(実施例6)。
【図8】(a)コイル成形用金型の側面断面図、(b)コイル成形用金型の正面断面図である(実施例6)。
【図9】コイル成形用金型の正面断面図である(実施例7)。
【図10】(a)曲げ加工前のコイルの断面図、(b)曲げ加工後のコイルの断面図である(従来技術の説明)。
【図11】両側面を型枠で拘束したコイルの断面図である(従来技術の説明)。
【符号の説明】
【0044】
1 コイル
1a 導体素材
1b 被膜
1c R部の外周R面
1d R部の内周R面
5 上型
7 第1サイド壁(下型、側壁)
9 第2サイド壁(下型、側壁)
11 表面材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工を行い、この圧縮加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮することを特徴とするコイル成形方法。
【請求項2】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、前記R部の内周R面と外周R面との略中心である前記コイルの中立軸より内側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、前記コイルの中立軸より外側へ移動させることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項3】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、前記R部の内周R面と外周R面との略中心である前記コイルの中立軸より外側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、前記外周R面側へ移動させることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項4】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、前記R部の外周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行い、この凸成形加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により前記R部の外周R面に生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項5】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、前記R部の内周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行い、この凹成形加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により前記R部の内周R面に生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ持つことを特徴とするコイル成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルの曲げ加工時に、前記コイルの幅方向を拘束する一対の側壁を有し、この一対の側壁が前記コイルの幅方向に拡幅可能な構造を有していることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項8】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項9】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項10】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項11】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項12】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項13】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項14】
請求項8〜13に記載した何れかのコイル成形用金型において、
前記表面材の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項15】
請求項7〜14に記載した何れかのコイル成形用金型を用いて、請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法により製造されたことを特徴とするコイル。
【請求項1】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の寸法を圧縮して小さくする圧縮加工を行い、この圧縮加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により生じる幅方向の膨らみ量と略同じ寸法だけ幅方向の寸法を圧縮することを特徴とするコイル成形方法。
【請求項2】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、前記R部の内周R面と外周R面との略中心である前記コイルの中立軸より内側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、前記コイルの中立軸より外側へ移動させることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項3】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、曲げ方向と直交する幅方向の両側であり、且つ、前記R部の内周R面と外周R面との略中心である前記コイルの中立軸より外側に形成される被膜と、その近傍の導体素材を、前記外周R面側へ移動させることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項4】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、前記R部の外周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ膨らませる凸成形加工を行い、この凸成形加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により前記R部の外周R面に生じる凹み量と略同じ寸法だけ膨らませることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項5】
矩形断面を有する導体素材の外周を被膜で覆ったコイルに予備成形を行い、その予備成形されたコイルにR部を形成する曲げ加工を行うコイル成形方法であって、
前記予備成形は、曲げ加工前の直線状態の前記コイルに対して、曲げ加工後の略前記R部を含む範囲に対し、前記R部の内周R面において曲げ方向と直交する幅方向の中央部を所定量だけ凹ませる凹成形加工を行い、この凹成形加工では、前記予備成形を行わずに曲げ加工を行った場合に、その曲げ加工により前記R部の内周R面に生じる膨らみ量と略同じ寸法だけ凹ませることを特徴とするコイル成形方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか二つ以上のコイル成形方法を合わせ持つことを特徴とするコイル成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルの曲げ加工時に、前記コイルの幅方向を拘束する一対の側壁を有し、この一対の側壁が前記コイルの幅方向に拡幅可能な構造を有していることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項8】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項9】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い硬度を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項10】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項11】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、前記金型に使用される材料より低い弾性係数を有する材料で形成された表面材を設けたことを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項12】
請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法に用いるコイル成形用金型であって、 前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項13】
請求項7に記載したコイル成形用金型において、
前記コイルに曲げ加工を行う前記金型の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項14】
請求項8〜13に記載した何れかのコイル成形用金型において、
前記表面材の表面に、摩擦係数の低い表面処理が施されていることを特徴とするコイル成形用金型。
【請求項15】
請求項7〜14に記載した何れかのコイル成形用金型を用いて、請求項1〜6に記載した何れかのコイル成形方法により製造されたことを特徴とするコイル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−148791(P2009−148791A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328647(P2007−328647)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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