説明

コクシジウム原虫のモノクローナル抗体及びその利用

【課題】コクシジウム原虫の鶏卵細胞への侵入を阻害するモノクローナル抗体の提供。
【解決手段】コクシジウム原虫アイメリア・テネラのスポロゾイトステージの虫体を免疫したマウスから得られた脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞とを融合させて作製したハイブリドーマから、コクシジウム原虫アイメリア・テネラに反応するモノクローナル抗体であって、コクシジウム原虫アイメリア・テネラの鶏細胞への侵入を阻害することのできるモノクローナル抗体を得た。ハイブリドーマとしては、(1)1G4(FERM AP−20811)、(2)3A5(FERM AP−20812)、(3)4C8(FERM AP−20813)、(4)7B12(FERM AP−20814)、(5)9D6(FERM AP−20815)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コクシジウム原虫アイメリア・テネラに対するモノクローナル抗体、それを産生するハイブリドーマ、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の養鶏業界において経済的損失をもたらす疾病のひとつにコクシジウム感染症が挙げられる。この疾病の原因はコクシジウム原虫(Eimeria spp.)である。鶏に感染し、病原性を示すコクシジウム原虫は7種類が知られている(Disease of Poultry 9th Edition, Iowa State University Press (1991))。この中でも4種類のコクシジウム原虫感染が問題となっている。問題となっている4種類の原虫はEimeria tenella(アイメリア・テネラ)、Eimeria acervulina(アイメリア・アッセルブリナ)、Eimeria maxima(アイメリア・マキシマ)、Eimeria necatrix(アイメリア・ネカトリックス)である。この中でも、アイメリア・テネラとアイメリア・アッセルブリナが最も大きな被害をもたらしている。コクシジウム病は幼雛期から中雛期において主に発生する。感染した雛は、下痢症状を起こし、濃厚感染の場合は死亡にいたるが、通常は一時的に極度の増体効果の低下を招く。また、異なるコクシジウム原虫の感染により、増体低下が長期間に亘ることも知られている。鶏の生活において、この時期は肥育・育成期間であり、このような増体効果の低下は飼料効率に影響し、深刻な経済損失を招く。特に飼育期間が短いブロイラー産業においては、コクシジウム感染は重大な問題となっている。現在、コクシジウム感染の予防に対しては抗コクシジウム剤が用いられている。抗コクシジウム剤は全コクシジウムに対して効果があるが、コクシジウム剤耐性原虫の出現や、残留薬剤の問題などから、使用量や使用期間が限られ、休薬期間も設けられている。また、鶏舎が一旦コクシジウムに汚染されると、完全に清浄化することは至難の業で、汚染防止のためには、薬剤を使いつづけなければならない。また、近年、コクシジウム症予防に効果があるとして、生ワクチンが使用されるようになってきた。しかし、生ワクチンの有効成分であるワクチン株が変異して強毒化した場合には、鶏舎を汚染することもある。また、変異しない場合でも、ワクチンとして投与されたコクシジウムは、抗コクシジウム剤によって殺されるため、薬剤の併用が不可能である。そのため、従来、少量の抗コクシジウム剤で抑えられてきた他の原虫感染症が発生する場合もある。
【0003】
こうしたワクチンの研究や、治療薬の研究においては、病原体の、感染、増殖、発症に関与するタンパク質から多くの情報を得ている。
ウイルスの場合、発現するタンパク質の種類が少ないため、何らかの機能を有するモノクローナル抗体が比較的容易に得られ、このモノクローナル抗体を用いて何らかの機能を有するタンパク質や遺伝子を得ることが容易である。しかしながら、コクシジウム原虫の場合、発現するタンパク質の種類も莫大であり、しかも、生活環により、発現するタンパク質が異なり、各ステージにおいて形態も、発現する抗原も異なっている。このため、目的とする機能を有するモノクローナル抗体を得ることが極めて困難であり、モノクローナル抗体を用いない同定法、例えば、原虫タンパク質を精製して調べる方法、cDNAからλgt11ライブラリーを作製してコクシジウム原虫感染血清でスクリーニングする方法、他のアイメリア属で既知の感染防御抗原遺伝子と高いホモロジーを持つコクシジウム原虫遺伝子から抗原を見いだす方法など(特許第3051130号公報、特表平9−504604号公報、特開平10−182483号公報など)、煩雑な操作を伴う方法によって、タンパク質の同定がなされているのが現状である。
しかし、上述した通り、コクシジウムに関しては、機能性のタンパク質を同定することが困難であり、従来のコクシジウムワクチンやコクシジウム感染治療薬の開発を阻んでいた。
【0004】
【特許文献1】特許第3051130号公報
【特許文献2】特表平9−504604号公報
【特許文献3】特開平10−182483号公報
【非特許文献1】Disease of Poultry 9th Edition, Iowa State University Press (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、かかる従来技術の下で新たな抗原タンパク質を得るべく鋭意検討した結果、コクシジウム原虫の腸管細胞への侵入時期が、スポロゾイトステージもしくはメロゾイトステージであることに着目し、スポロゾイトステージの虫体を用いてハイブリドーマの作製を試みた結果、このハイブリドーマが、抗体がコクシジウム原虫の鶏細胞への侵入を強力に抑制する活性を有するモノクローナル抗体を産生することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、
(1)コクシジウム原虫アイメリア・テネラに反応するモノクローナル抗体であって、コクシジウム原虫アイメリア・テネラの鶏細胞への侵入を阻害することのできるモノクローナル抗体、
(2)コクシジウム原虫アイメリア・テネラのスポロゾイトステージの虫体を免疫したマウスから得られた脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞とを融合させて作製した、請求項1または2記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、
(3)前記モノクローナル抗体を用いたコクシジウム原虫アイメリア・テネラ由来の抗原タンパク質の同定方法、
(4)前記モノクローナル抗体が認識するコクシジウム原虫アイメリア・テネラ由来の化合物、
(5)前記(1)記載のモノクローナル抗体を有効成分とするコクシジウム原虫アイメリア・テネラ感染症治療薬、
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
かくして本発明によれば、アイメリア・テネラの鶏細胞への侵入阻止活性のある新規なモノクローナル抗体、およびこれを産生するハイブリドーマが得られる。コクシジウム原虫の感染防御抗原を認識する本発明のモノクローナル抗体は、コクシジウム原虫の抗原の同定に用いることができる。また、同定された抗原はワクチン抗原として利用できると期待されるほか、当該モノクローナル抗体自体をコクシジウム原虫感染症の治療薬として用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)モノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は、コクシジウム原虫であるアイメリア・テネラに反応し、
かつアイメリア・テネラの鶏細胞への侵入を阻害することのできるものである。本発明において「アイメリア・テネラに反応する」とは、アイメリア・テネラ由来のタンパク質をモノクローナル抗体が認識し、抗原抗体反応を呈することを言う。抗原抗体反応の確認は、ハイブリドーマ培養上清を用いた間接酵素抗体法(ELISA法)により行う。具体的な条件は、実施例の(2)に記載された通りである。この実施例の条件下での培養上清の吸光度が0.1以上であるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が好ましい。
【0009】
本発明において「アイメリア・テネラの鶏細胞への侵入を阻止する」とは、上記アイメリア・テネラのスポロゾイトステージである原虫の鶏胚繊維芽細胞への侵入を阻止することをいい、具体的には、以下の方法により侵入を阻止することを確認する。
アイメリアのスポロゾイト虫体をモノクローナル抗体を含む腹水の希釈液と混合した後に鶏胎児繊維芽細胞に加え、細胞へ侵入するコクシジウム虫体数の減少率で阻止効果を測定し、コクシジウム虫体と全く無関係な抗原と反応するモノクローナル抗体を含む腹水と虫体とを混合した場合の細胞への侵入数を100%とした場合の侵入虫体数の減少が有意に認められた(即ち、実施例の(4)において得られる侵入阻止率が20%を超えた)場合に活性があると判断する。
【0010】
このようなモノクローナル抗体としては、本願明細書実施例において感染防御抗体として確認された1G4(FERM AP−20811)、3A5(FERM AP−20812)、4C8(FERM AP−20813)、7B12(FERM AP−20814)、9D6(FERM AP−20815)が挙げられる。これらのハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体のサブクラスはIgG1である。ハイブリドーマ3A5から産生されるモノクローナル抗体はアイメリア・テネラが発現する90〜120キロダルトンのアイメリア・テネラの抗原タンパク質のエピトープを認識するものである。
【0011】
本発明のモノクローナル抗体は、スポロゾイトステージにある、アイメリア・テネラを免疫したマウスなどから得られた脾臓細胞とマウスのミエローマ細胞とを融合させて作製したハイブリドーマから産生される。
免疫に用いるコクシジウム原虫の具体例としては、アイメリア・テネラ、アイメリア・アッセルブリナ、アイメリア・マキシマ、アイメリア・ネカトリックス、アイメリア・ブルネッティ、アイメリア・ミティスなどの、攻撃株や野外分離株などが例示される。免疫虫体量は通常10〜1010/mlの濃度に調製したものを用いる。
【0012】
免疫に際して、虫体は凍結融解によって殺しても良いが、特にマウスに接種する場合は、感染の危険がないので、そのままアジュバンドと混合して免疫しても良い。この虫体を免疫する際に用いられるアジュバントは特に限定されるものではないが、フロイント完全アジュバント(Freund Complete Adjuvant)、フロイント不完全アジュバント(Freund Incomplete Adjuvant)のほか、アラム、アラセル、ミョウバンなどが用いられる。虫体とアジュバントとの混合比率は免疫が成立する限りにおいて特に制限されないが、通常1:1である。コクシジウム原虫によって免疫される動物はマウスのほか、ラットやハムスターなどが例示され、これらの動物の系統についても特に制限されないが、好ましくはBalb/cマウスを用いる。またこれらの動物の他、ヒトのリンパ節細胞や末梢リンパ球などを用いることができる。
【0013】
本発明において用いられるマウスミエローマ細胞はP3/X63−Ag8.U1(P3U1)、Sp2/0−Ag14(SP2)、P3/NSI−1−Ag8.653、P3/X63−Ag8(X63)などが挙げられるが、好ましくはP3/X63−Ag8.U1(P3U1)である。また、融合する脾臓細胞は動物種を問わないが、融合後の細胞の生育状況から考えるとミエローマと同一種の細胞が好ましい。
【0014】
細胞融合時に用いるポリエチレングリコールは重合平均分子量1,000〜4,000、好ましくは1,000〜2,000を用いる。このときジメチルスルホキシド(DMSO)を30(w/v)%加えると、尚好ましい。
【0015】
融合細胞(ハイブリドーマ)の抗体産生性を確認する方法は、通常、細胞培養上清と抗マウスイムノグロブリンとのゲル沈降反応または間接酵素抗体法(ELISA法)を用い、抗体産生性を確認したハイブリドーマについては、コクシジウム虫体を固定化したELISA法または、コクシジウム虫体が侵入している鶏胎児繊維芽細胞を固定化したELISA法でハイブリドーマの産生する抗体が、コクシジウム虫体に反応することを確認する。得られたハイブリドーマは、対数増殖期にある細胞10〜10個を、10%DMSO、10%牛胎児血清(FCS)を含む1〜2mlのダルベッコMEM(DMEM)に懸濁させ、−80℃で2時間以上凍結して液体窒素中で保存するなど、通常の培養細胞の保存方法によって保存できる。
【0016】
また、本発明のモノクローナル抗体は、コクシジウム原虫より抽出したタンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により展開し、フィルターメンブレンにブロットした後モノクローナル抗体を反応させるウエスタンブロット法や、コクシジウム原虫のゲノムDNA断片を挿入して作製したλgt−11ライブラリーからモノクローナル抗体が反応する抗原を発現するファージを選択する方法などに用いることで、コクシジウム原虫由来の抗原タンパク質を同定することができる。
【0017】
上述した方法により得られるモノクローナル抗体は、いずれもコクシジウム原虫由来の化合物を認識するものであるが、エピトープ等の認識部位を有する化合物を得るための通常の方法、例えば、本発明で得られたモノクローナル抗体を固定化したカラムに、コクシジウム原虫の破砕抽出物を吸着させるアフィニティーカラムクロマトグラフィーや、モノクローナル抗体とプロテインAなどのイムノグロブリン吸着タンパク質との複合体を用いて、マコクシジウム原虫由来の化合物を吸着させる免疫沈降法などが挙げられる。
【0018】
さらに本発明のモノクローナル抗体は、コクシジウム原虫感染症に対する治療薬として用いることができる。このモノクローナル抗体は、薬学的に許容されるキャリアー(生理食塩水、リン酸緩衝食塩水など)と混合して用いることができ、経口的または非経口的に投与することができる。投与量は、ニワトリの週齢、投与形態等により異なるが、通常、1羽あたり1〜500μg程度である。
【実施例】
【0019】
本発明のモノクローナル抗体について、以下に実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限られるものではない。
【0020】
(1)コクシジウム原虫のマウスへの免疫
10個のアイメリア・テネラ野外分離株 Rt株のオーシストを試験感染鶏の糞便より回収し、オーシストを精製した後、10mlのPBSを加えて、オーシスト懸濁液を作製した。このオーシスト懸濁液に約3倍量の30%次亜塩素酸ナトリウム液を加え、滅菌した遠心管に移し、10分間、室温に放置して殺菌処理した後、1500r.p.m.で10分間遠心した。上清部分を取り除いたあと、沈殿を50mlのPBSに懸濁し、1500r.p.m.で10分間遠心し上清を取り除いた。この洗浄操作を三回繰り返して次亜塩素酸を取り除いたあと、オーシストを約3mlの滅菌PBSに浮遊させた後、これをテフロン(登録商標)製ホモジナイザー(5ml)に入れ、120から150r.p.m.の速さで10から15分間処理して、オーシストの外壁を壊してスポロシストにした。次に遊離させたスポロシストに25mlのトリプシン液(0.3%トリプシン−PBS)を加え、更に3mlの雛胆汁を加えて、40℃で1.5時間インキュベートした。スポロゾイトの脱殻率が80〜90%以上に達したところで加温を中止し、1000r.p.m.で5分間遠心分離した。沈殿をPBSで洗浄した後、PBSに懸濁し、免疫用コクシジウム原虫のスポロゾイト抗原とした。10個/mlにPBSで調製したスポロゾイトを−80℃の超低温冷凍庫で一度凍らせた後解凍し、等量のフロイントコンプリートアジュバンド(FCA)と混合し、1/4量を1匹の七週齢のBalb/Cマウスの背部皮下に免疫した。4週間後に同様に調製したスポロゾイト抗原を、フロイントインコンプリートアジュバント(FIA)と混合し、1/4量を背部皮下に追加免疫した。
【0021】
(2)ハイブリドーマの作製
追加免疫後3日目にマウスから脾臓を摘出し、FBSを含まないDMEM中でピンセットとハサミでほぐした後、滅菌した100μm径のステンレスメッシュを通して、単離した脾臓細胞を得た。この細胞は、FBSを含まないDMEMでさらに3回洗浄した。
一方、マウスミエローマ細胞P3U1は、10−8 Mの8−アザグアニン(2−アミノ−6−オキシ−8−アザプリン)を含む10%FBS添加のDMEMで増殖させ、10個以上回収できるまで培養し、8−アザグアニンとFBSを含まないDMEMでさらに3回洗浄して回収した。
次に、10個のP3U1と10個の脾臓細胞を滅菌したスピッツ管に加えて混合し、1,600rpmで5分間遠心分離して上清を完全に取り除き、ボルテックスをかけてから、細胞融合用ポリエチレングリコール溶液{ポリエチレングリコール1g(平均分子量1,000)、DMSO 0.3ml、DMEM 0.9ml}を加えて2〜3回ピペッティングした。その後、スピッツ管が傾斜した状態で軽く振盪しながら、30秒間隔でFBSを含まないDMEMを1mlずつ9回に分けて加えた。この細胞浮遊液を1,000rpmで10分間遠心分離した後上清を捨て、P3U1細胞が10〜10個/mlになるように10%FBSを含むDMEMを添加した。この細胞懸濁液を平底の96ウェルプレートに0.1ml/ウェルで分注し、37℃、5%CO、100%湿度のCOインキュベーター内で培養した。翌日、0.1ml/ウェルで10%FBSを添加したDMEM・HAT(ヒポキサンチン100μM、アミノプテリン0.4μM、チミジン16μMを含むDMEM)を添加し、さらに2日後、4日後に各ウェルから0.1mlずつ培地を吸引し、代わりに0.1ml/ウェルでDMEM・HATを添加して培地交換を行って、これ以降は2〜3日おきに培地交換を行った。融合しなかったミエローマ細胞や脾臓細胞は、1週間以内に死滅し、各ウェルには融合細胞だけが増殖してコロニーを形成した。融合後10日目からはDMEM・HATからアミノプテリンのみを取り除いた培地(DMEM・HT)で培養して、脾臓細胞とミエローマ細胞を融合した融合細胞(ハイブリドーマ)が得られた。
【0022】
(3)コクシジウム原虫に反応するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの選択
このようにして得られたハイブリドーマが、ウェルの40%以上の面積を占めた時点で培養上清を100μlとり、一次スクリーニングとしてハイブリドーマの抗体産生性を間接酵素抗体法で調べた。まず、抗マウスイムノグロブリンをバイカーボネートバッファー(15mM NaCO、35mM NaHCO、pH9.8)に20ng/mlとなるように希釈して、96ウェルプレートに50μlずつ分注し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、0.05%Tween20を含むPBS(pH7.3以下、PBS−TWという)で各ウェルを3回洗浄後、PBSで4倍に希釈したブロックエース(大日本製薬)でウェルを満たし、室温で1時間インキュベートしてウェルのタンパク質未吸着部分をブロッキングした。PBS−TWで3回洗浄後、ハイブリドーマ培養上清を50μlずつ加えて、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSで1,000倍に希釈したパーオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリンを50μl分注し室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、パーオキシダーゼの基質であるABTS{2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)}を加え、室温で10分間インキュベートした。
【0023】
これを、イムノリーダーを用いて、波長405nmに対する吸光度を測定し、0.1以上の吸光度を示したウェルに対応するハイブリドーマ培養上清について、二次スクリーニングとして、コクシジウム原虫に対する反応性を以下のように調べた。アイメリア・テネラのスポロゾイト虫体10個を凍結融解し、生存虫体がいないことを確認した後、PBSで3回洗浄し、バイカーボネートバッファーに1μg/mlになるように希釈して96ウェルプレートに50μlずつ分注し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSで4倍に希釈したブロックエースでウェルを満たし、室温で1時間インキュベートしてウェルのタンパク質未吸着部分をブロッキングした。PBS−TWで3回洗浄後、ハイブリドーマ培養上清を50μlずつ加えて、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSで1,000倍に希釈したビオチン化抗マウスイムノグロブリンを50μlずつ分注し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、アビジン結合パーオキシダーゼをPBSで1,000倍希釈して50μlずつ添加し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、ABTS{2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)}を加え、室温で10分間インキュベートした。これをイムノリーダーを用いて、波長405nmに対する吸光度を測定し、0.1以上の吸光度を示したウェルに対応するハイブリドーマについて、限界希釈法によりクローニングした。
【0024】
(3)ハイブリドーマの腹水化
次に、クローニングしたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を大量に得る目的で、4週間前にプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)0.5mlを腹腔内投与したマウスに、約10個のハイブリドーマを移植した。1〜3週間後に腹腔内にたまった腹水を注射器で採取した。採取した腹水は、3,500rpmで20分間遠心分離して上清を採取し、56℃で30分間処理して非働化した。これらは、使用するまで−80℃で保存した。
【0025】
(4)モノクローナル抗体のコクシジウムの鶏胎児繊維芽細胞への侵入阻害活性
上記(1)で調製したアイメリア・テネラのスポロゾイト虫体をイーグルMEM培地で1000スポロゾイト/mlとなるように調製した。上記(3)で取得し、保存している腹水を、10倍、50倍、250倍に希釈した。調製した1mlのテネラスポロゾイトと腹水1mlをよく混合し、41℃、1時間インキュベートした。ネガティブコントロールとしては、コクシジウムと関係のない抗原であるマイコプラズマ・ガリセプティカム抗原に反応する35A6ハイブリドーマ(特開平9−103294号公報)の腹水を同様の混合比でテネラスポロゾイトと混合させたものと、イーグルMEMで500スポロゾイト/mlとなるように調製したスポロゾイト懸濁液2mlを用いた。インキュベート後、9cm径の細胞培養用ディッシュにコンフルエントになった培養鶏胎児繊維芽細胞に加えた。41℃、1時間、細胞用炭酸ガス孵卵器においてインキュベートした後に、牛胎児血清を含まないイーグルMEM培地で三回洗浄し、細胞に吸着しなかったスポロゾイトを洗い流した。洗浄後、細胞に−20℃のメタノール10mlを加え、10分インキュベートした。メタノールを捨てた後、風乾したプレートに、PBSで4倍に希釈したブロックエースでディッシュを満たし、室温で1時間インキュベートしてウェルのタンパク質未吸着部分をブロッキングした。PBS−TWで3回洗浄後、10mlの6D12抗コクシジウムモノクローナル抗体(ニワトリ型)(J. Pasitol.、84、654−656(1998))でディッシュを満たし、37℃、1時間インキュベートした。PBSで4回洗浄した後、PBSで100倍に希釈したFITCラベル抗ニワトリIgG(シグマ社製)抗体を添加し、37℃、30分インキュベートした。PBSで4回十分にラベル抗体を洗い流し、倒立位相差蛍光顕微鏡を用いて蛍光を発する虫体の数をカウントした。ディッシュ全体の鶏胚繊維芽細胞に侵入したスポロゾイト虫体の数をカウントし、ネガティブコントロールの侵入スポロゾイト数を100とした場合のモノクローナル抗体処理した場合の数の割合を100%から引いた%を阻止率とした。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
1G4、3A5、4C8、7B12、9D6が産生するモノクローナル抗体を含む腹水では、アイメリア・テネラのスポロゾイト虫体の鶏胎児繊維芽細胞への侵入が非常に強く阻止された。これらの結果から、ハイブリドーマ1G4(FERM AP−20811)、ハイブリドーマ3A5(FERM AP−20812)、ハイブリドーマ4C8(FERM AP−20813)、ハイブリドーマ7B12(FERM AP−20814)、ハイブリドーマ9D6(FERM AP−20815)が産生するモノクローナル抗体が感染防御抗体であって、その認識する抗原が感染防御抗原であることが判った。
【0028】
(5)各ハイブリドーマが産生する抗体のアイソタイプの決定
次に、これらのハイブリドーマが産生する抗体のクラスまたはサブクラスを、ISOTYPE Ab−STATTM (SangStat Medical Corporation)により決定した。その結果、全てのハイブリドーマはは、IgG1抗体を産生することが確認された。
【0029】
(6)モノクローナル抗体の認識する抗原の分子量測定
上記モノクローナル抗体が認識するアイメリア・テネラのスポロゾイト抗原の分子量を測定するために、ウェスタンブロッティングを、以下に示す通りに行った。まず、前記(1)記載の方法で取得したアイメリア・テネラのスポロゾイト抗原100μgをLaemmliの方法(Laemmli U.K., Nature 227,680−685,1970)に従ってSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、菌体タンパク質を分子量に応じて展開した。次に、ポリアクリルアミドゲル上に展開されたタンパク質を、トランスファーバッファー(10%メタノール、0.025Mトリス、0.192Mグリシン)にてウェッティング処理をした疎水性フィルターメンブレン(孔径0.22μm)に電気的にブロッティングした。このフィルターメンブレンをPBS−TWで3回洗浄後、ブロックエースに室温で1時間浸して、メンブレンのタンパク質未吸着部分をブロッキングした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSにて1,000倍に希釈した各モノクローナル抗体を含む腹水にメンブレンを浸し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSにて1,000倍に希釈したビオチン化抗マウスイムノグロブリンにメンブレンを浸し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、PBSにて1,000倍に希釈したアビジン結合アルカリフォスファターゼにメンブレンを浸し、室温で1時間インキュベートした。PBS−TWで3回洗浄後、アルカリフォスファターゼの発色性基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェート(BCIP)とニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)中にメンブレンを浸し、室温で10分間インキュベートした。その結果、4C8が産生するモノクローナル抗体は、分子量約50キロダルトンのタンパク質に反応した。この結果から、この分子量約50キロダルトンのタンパク質は、アイメリア・テネラの感染防御抗原であると推定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コクシジウム原虫アイメリア・テネラに反応するモノクローナル抗体であって、コクシジウム原虫アイメリア・テネラの鶏細胞への侵入を阻害することのできるモノクローナル抗体。
【請求項2】
サブクラスがIgG1である、請求項1記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
コクシジウム原虫アイメリア・テネラのスポロゾイトステージの虫体を免疫したマウスから得られた脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞とを融合させて作製した、請求項1または2記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項4】
次の(1)〜(5)のハイブリドーマ。
(1)1G4(FERM AP−20811)
(2)3A5(FERM AP−20812)
(3)4C8(FERM AP−20813)
(4)7B12(FERM AP−20814)
(5)9D6(FERM AP−20815)
【請求項5】
請求項1または2記載のモノクローナル抗体を用いた、コクシジウム原虫アイメリア・テネラ由来の抗原タンパク質の同定方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のモノクローナル抗体が認識するコクシジウム原虫アイメリア・テネラ由来の化合物。
【請求項7】
コクシジウム原虫アイメリア・テネラ由来の化合物がタンパク質である請求項6記載の化合物。
【請求項8】
請求項5記載の方法により取得されたものである請求項6又は7記載の化合物。
【請求項9】
請求項1または2記載のモノクローナル抗体を有効成分とするコクシジウム原虫アイメリア・テネラ感染症治療薬。

【公開番号】特開2007−261959(P2007−261959A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86005(P2006−86005)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】