説明

コネクタハウジング

【課題】樹脂材料として繊維を添加したPBTを用いる場合においても、成形のサイクルタイムが長くなることがなく、ヒケやショートショットが発生することがなく、成形温度を高くすることなく成形することが可能なコネクタハウジングを提供する。
【解決手段】コネクタハウジングは、ASTM D790に準拠した曲げ弾性率が5000〜7000MPa、バーフロー流動長が80〜130mmの特性を有した繊維強化ポリブチレンテレフタレートを主成分とした樹脂材料によって成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスや端子金具が組み込まれる自動車用のコネクタハウジングに関し、特に成形の際のサイクルタイムを短縮することが可能なコネクタハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のコネクタハウジングは樹脂の射出成形により成形されている。成形には、ナイロン等のポリアミド、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネートが使用される。この内、機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐水性等に対し良好な特性を有していることからポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)が用いられている。また、PBTは結晶性樹脂であり、結晶化速度が速く、短時間で固化し、生産性が高い点からも自動車用のコネクタハウジングの成形用材料として多用されている。
【0003】
一方、近年、ワイヤハーネス等の小型化に伴い、コネクタハウジングに対し小型化及び薄肉化が要求されている。コネクタハウジングの成形用材料としてPBTを用いる場合、この要求に応じるのに加えて強度を向上させるため、ガラス繊維等の繊維を添加することが従来よりなされている。繊維を添加する従来技術として、特許文献1には、扁平な断面形状のガラス繊維及びグリセリン脂肪酸エステルをPBTに混合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−155367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PBTに繊維を混合した樹脂材料は、流動性が大幅に低下して射出圧力が加わりにくくなるため、成形のサイクルタイムが長くなるばかりでなく、金型への充填不足によるヒケやショートショット等の不良品が発生する問題がある。これに対し、流動性を確保するために成形温度を高くする場合には、樹脂材料が熱劣化し易くなるのに加えて成形品の耐久性が低下する問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、樹脂材料として繊維を添加したPBTを用いる場合においても、成形のサイクルタイムが長くなることがなく、ヒケやショートショットが発生することがなく、さらには温度を高くすることなく成形することが可能なコネクタハウジングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明のコネクタハウジングは、ASTM D790に準拠した曲げ弾性率が5000〜7000MPa、バーフロー流動長が80〜130mmの特性を有した繊維強化ポリブチレンテレフタレートを主成分とした樹脂材料によって成形されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の発明であって、前記繊維がガラス繊維であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、ASTM D790に準拠した曲げ弾性率が5000〜7000MPaの繊維強化PBTを主成分とした樹脂材料を用いるため、薄肉化しても十分に大きな強度を保持したコネクタハウジングとすることができる。
【0010】
また、この繊維強化PBTを主成分とした樹脂材料は、バーフロー流動長が80〜130mmとなっているため、大きな流動性を有している。このため成形温度を高くしないで成形しても、金型への充填を良好に行うことができ、ヒケやショートショット等の不良品が発生することがない。また、成形温度を高くする必要がないことから、成形後の冷却時間を短縮することができ、成形のサイクルタイムを短くすることができ、コネクタハウジングを安価に製造できる。
【0011】
請求項2の発明によれば、繊維としてガラス繊維を用いることにより、PBTの性状に合わせた長さや径、重量等のガラス繊維を選択することができるため、上述した特性の繊維強化PBTを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例により製造されるコネクタハウジングの斜視図である。
【図2】本発明の実施例による製造の成形サイクル及び従来の製造による成形サイクルを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のコネクタハウジングは、繊維強化ポリブチレンテレフタレート(繊維強化PBT)を主成分とした樹脂材料として成形されるものである。成形は射出成形、押出成形、圧縮成形等によって行うことができるが、成形性の点から射出成形が良好である。
【0014】
PBTは、テレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルと炭素数4のブタンジオール(1,4−ブタンジオール)との重縮合反応によって得られる熱可塑性のポリエステルである。PBTは一般的に耐熱性、耐薬品性、電気特性、寸法安定性、成形性に優れた樹脂である。PBTの重合度は、PBTに添加される繊維との関係で金型内での流動性、樹脂の強度、その他の条件を考慮して適宜選択される。
【0015】
繊維は、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、その他の繊維を使用することができる。これらの繊維は、単独であっても良く、複数を混合して用いても良い。これらの繊維をPBTに添加することにより、機械的強度、衝撃強度を成形品に付与することができ、そり変形を抑制することができる。この内、長さや径、重量等をPBTに合わせて選択でき、しかもPBTとの良好な馴染み性を備える点でガラス繊維が良好である。PBTに対するガラス繊維の配合比は、樹脂材料である繊維強化PBTの曲げ弾性率及び溶融粘度が後述する数値の範囲内となるように選択される。
【0016】
本発明の繊維強化PBTを主成分とした樹脂材料においては、ASTM D790に準拠して測定した曲げ弾性率が5000〜7000MPa、バーフロー流動長が80〜130mmの特性を有するものである。本発明において、曲げ弾性率及び溶融粘度が上述した範囲内となるように、PBTの重合度、繊維の長さや径、さらにはPBTに対する繊維の配合比、その他の条件が設定される。
【0017】
曲げ弾性率は、樹脂材料の曲げ強度に対応するものであり、5000MPa未満の場合には、成形品としてのコネクタハウジングの強度が小さくなるため、コネクタハウジングの薄肉化ができなくなる。曲げ弾性率が7000MPaを超える場合には、コネクタハウジングの強度が必要以上に大きくなり、成形性に悪影響を及ぼす。又、温度に対する膨張及び収縮性が低下して環境温度への対応性が低下し、環境温度の変化によってコネクタハウジングにクラックが発生する問題もある。
【0018】
曲げ弾性率としては、5000〜7000MPaの範囲であれば良く、5500〜6000MPaの範囲がさらに良好である。このような曲げ弾性率の樹脂材料を用いることにより、薄肉化しても十分に大きな強度を保持したコネクタハウジングとすることができる。
【0019】
ASTM D790に準拠した曲げ弾性率の測定は、例えば、(株)東洋精機製作所製のオートグラフ(商品名)を用いて行うことができる。この測定は、間隔を有して配置された支持台上に試験片を載置し、試験片の中央に上方から集中荷重をかける3点曲げ試験により行われるものである。
【0020】
バーフロー流動長は、金型内における樹脂材料の流動性に関係する因子であり、バーフロー流動長が130mm以上の場合には、樹脂材料が必要以上の流動性を有しており、バリ等の成形性不良が生じる。バーフロー流動長が80mm未満の場合には、樹脂材料が流動性が低下し、金型内での流動速度が遅くなり、金型内の全体に樹脂材料が充填されにくくなる。これにより、成形されるコネクタハウジングにショートショットやヒケが発生する。
【0021】
バーフロー流動長としては80〜130mm(好ましくは90〜120mmの範囲であれば良い。)このようなバーフロー流動長の樹脂材料を用いることにより、成形温度を高くしないで成形しても、金型への充填を良好に行うことができ、ヒケやショートショット等の不良品が発生することがない。しかも成形温度を高くする必要がないことから、成形後の冷却時間を短縮することができ、成形のサイクルタイムを短くすることができ、コネクタハウジングを安価に製造できる。
【0022】
バーフロー流動長;深さ0,5mm、幅15mm、長さ380mmのキャビティを使用し、樹脂温度260℃、金型温度60℃、及び射出圧力150MPaで測定した。
【0023】
本発明の樹脂材料は、ASTM D790に準拠した曲げ弾性率が5000〜7000MPa、バーフロー流動長が80〜130mmの特性を有した繊維強化ポリブチレンテレフタレートを主成分とすものであれば、他の樹脂を含んでいても良い。他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール等の一種又は複数を用いることができる。
【0024】
又、本発明の樹脂材料としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、耐電防止剤、顔料や染料等の着色剤を適宜混合することができる。
【実施例】
【0025】
図1は、この実施例によって成形されるコネクタハウジング1を示す。コネクタハウジング1は、ハウジング本体2と、ハウジング本体2の上部のロック部3とを一体的に有することにより形成されている。ロック部3は、相手コネクタと連結を行うものである。
【0026】
ハウジング本体2は、相手端子が挿入される相手端子挿入口4が複数、開口されている。
【0027】
それぞれの相手端子挿入口4の後側には、電線端末に取り付けられた端子金具が挿入される端子収容室が連通している。この実施例のコネクタハウジング1は、相手端子挿入口4が1列となって横並び状に10箇所形成され、これが上下に2列設けられている。
【0028】
図2は図1のコネクタハウジング1を射出成形により成形したサイクルタイムを示すものであり、Aは比較例のサイクルタイム、Bはこの実施例のサイクルタイムである。コネクタハウジング1の成形は、成形開始時点で型閉めした後、樹脂材料を金型内に射出し、金型内で一定時間保圧した後、計量を含めた冷却を行い、その後、型開きすることにより成形が終了する。
【0029】
比較例A及び実施例Bのいずれにおいても、PBTにガラス繊維を配合した樹脂材料を用いて成形を行った。比較例Aにおいては、ASTM D790に準拠して測定した曲げ弾性率が4700MPaであり、バーフロー流動長49mmの特性を有したガラス繊維強化PBT(デュポン製:SK602)を用いた。実施例Bにおいては、ASTM D790に準拠して測定した曲げ弾性率が5799MPaであり、バーフロー流動長116mmの特性を有したガラス繊維強化PBT(ポリプラスチックス製:SF315AC)、ASTM D790に準拠して測定した曲げ弾性率が5537Maであり、バーフロー流動長97mmの特性を有したガラス繊維強化PBT(東レ製:5101GF01)を用いた。
【0030】
図2に示すように比較例Aにおいては、冷却時間が全サイクルの50%を占めているが、実施例Bでは冷却時間を17%にまで短縮することが可能となった。
【0031】
比較例Aは、溶融粘度が実施例Bよりも高いため、樹脂材料の流動性が低く、成形時の金型温度を高く設定する必要があり、これにより冷却時間が長くなったものである。これに対し、実施例Bでは溶融粘度が低いため、樹脂材料の流動性が高く、比較例Aよりも低い金型温度で成形することが可能となったものである。これにより、実施例Bは比較例Aに比べ成形サイクルタイムを33%短縮することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D790に準拠した曲げ弾性率が5000〜7000MPa、バーフロー流動長が80〜130mmの特性を有した繊維強化ポリブチレンテレフタレートを主成分とした樹脂材料によって成形されていることを特徴とするコネクタハウジング。
【請求項2】
請求項1記載の発明であって、
前記繊維がガラス繊維であることを特徴とするコネクタハウジング。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−113948(P2012−113948A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261565(P2010−261565)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】