説明

コネクタ嵌合検査システム及び方法

【課題】環境雑音下においてもコネクタの嵌合が確実に行われているかを検証するコネクタ嵌合検査システム及び方法を提供する。
【解決手段】複数の検知装置10と作業管理装置20とが無線で接続される。複数の検知装置10は、それぞれ、コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する音響変換手段11と、音響変換手段11から入力された検出信号を該検知装置毎に割り当てられている周波数に変調して電波として送信する送信手段12と、を備える。作業管理装置20は、複数の検知装置10における送信手段11から送信された各電波を受信して復調し音響信号に変換する受信手段21と、受信手段21から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号レベル閾値と比較して嵌合音の有無を判断する解析判断手段22と、解析判断手段による判断結果を表示する出力手段23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタの嵌合作業が確実に行われていることを検査するコネクタ嵌合システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの一端にコネクタを取り付けたもの同士を嵌め合むことにより、電気配線や光配線が接続されている。例えば量産の組み立て作業工程では複数の配線接続が行われ、コネクタの嵌合が不完全であると、組み立て不良の原因となるばかりか、製品の品質低下にもつながる。このようなコネクタ同士の嵌合作業が確実に行われているか否かの検証として一般に広く行われる方法としては、組み立て作業の後に、電気的動作試験を行うこと(以下、「第1の従来技術」とする)である。
【0003】
特許文献1に開示されているコネクタの検査技術(以下、「第2の従来技術」とする。)では、端子金具が端子収容室内の正規位置に挿入されると、そこで係止されると同時に検査用電気回路が通電して例えばランプが点灯する一方、不完全挿入の場合にはランプが点灯しない。よって、コネクタ嵌合の不完全挿入などの異常を検知することができる。
【0004】
特許文献2に開示されている接続部材の嵌合状態検査技術(以下、「第3の従来技術」 とする。)では、箱状の収容部に検査センサを設置しておき、収容部に被検査部品を収容した状態で、被検査部品にコネクタや端子などの接続部材を嵌合し、その際生じる空気振動及び発生音を検査センサが検知して判定部に出力し、判定部が出力信号を解析している。判定部は、空気振動及び発生音が大きい場合は嵌合状態が良好と判定し、そうでない場合は嵌合状態が不良と判定する。
【0005】
特許文献3に開示されている嵌合保証技術(以下、「第4の従来技術」とする。)では、被嵌合部材に対するコネクタのロック判定のみならず、被嵌合部材に嵌合されるコネクタの位置や嵌合作業位置を用いて、コネクタのロックが作業手順に適合して行われることを保証可能とするものである。ロック音を用いて嵌合状態を検出する点にも特許文献3では言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−43298号公報
【特許文献2】特開2007−329055号公報
【特許文献3】特開2004−273195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の従来技術では、コネクタ同士の嵌合のし忘れなどがあると被試験品は電気的動作が生じないため、有効な手法であることに間違いはない。しかし、コネクタ同士の嵌合が不完全や中途半端であっても試験結果が一応良好であると、被試験品は良品と判断され、製品として出荷される。その後、購入者が使用途中の振動や永年変化により中途半端な嵌合が緩むと、電気的接続不良を起こす。よって、電気的動作試験では製造時点での潜在的な不良を判断することはできない。また、嵌合作業工程の際、コネクタの嵌合作業が確実になされていることを検証することはできない。
【0008】
そこで、第2の従来技術のように、特殊な構造として、嵌合端子のうち、片方に大きい傾斜を有するロック爪を設け、他方に中途半端な嵌合では押し戻す力を持ったばね構造を持たせることで、電気的接続試験の結果は導通不良となるので、嵌合が確実に行われているか否かの判断は可能となる。しかしながら、コネクタの嵌合端子に特殊構造を持たせると、コネクタの製造コストが増大するばかりか、嵌合作業時に機械的な抵抗が大きく、作業負担が増大して組み立て作業の効率化を損なう。
【0009】
また、第3及び第4の従来技術のように、嵌合音を検知する手法は有効な手法の一つではある。しかしながら、第3の従来技術では特定の収納箱内でコネクタの嵌合作業を行うため、生産ラインの組み立て作業に適用することはできない。この点、第4の従来技術では、ロック音を含む音を検出する音センサと変換部と送信部とを作業者の手袋に取り付けておき、自動車に備える複数個の被嵌合部材に対しコネクタを嵌合すると、音センサが検知した音が変換部により音信号として送信部経由でコントローラに送信され、コントローラにより音信号を解析することで、生産ラインの組み立て作業に適用することはできるようにも思える。
【0010】
ところが、第4の従来技術においても、工場内の生産ラインで行うため、コネクタの嵌合の際生じる音のみならず、環境雑音も音センサで同時に検知してしまうという問題が生じる。よって生産ラインにおいて嵌合音のみを検知しそれに基いて嵌合状態を検査することが難しい。
【0011】
そこで、本発明は、環境雑音下においてもコネクタの嵌合が確実に行われているかを検査するコネクタ嵌合検査システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記一目的を達成するため、本発明におけるコネクタ嵌合検査システムは、コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する音響変換手段と、その音響変換手段から入力された検出信号を変調して電波として送信する送信手段と、その送信手段から送信された電波を受信して復調し音響信号に変換する受信手段と、その受信手段から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号を閾値と比較して嵌合音の有無を判断する解析判断手段と、を含む。
【0013】
上記システムにおいて、さらに、角度及び/又は加速度を検出する検出手段を備え、解析判断手段は、検出手段から送信された信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果を加味してコネクタ嵌合作業が正しく行われているか否かを判断するとよい。
【0014】
本発明におけるコネクタ嵌合検査システムは、複数の検知装置と作業管理装置とが無線で接続され、複数の検知装置は、それぞれ、コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する音響変換手段と、その音響変換手段から入力された検出信号を該検知装置毎に割り当てられている周波数に変調して電波として送信する送信手段と、を有し、その作業管理装置は、その複数の検知装置における送信手段から送信された各電波を受信して復調し音響信号に変換する受信手段と、その受信手段から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号を閾値と比較して嵌合音の有無を判断する解析判断手段と、を有する。
【0015】
上記システムにおいて、複数の検知装置は、それぞれ、角度及び/又は加速度を検出する検出手段を備え、解析判断手段は、検出手段から送信された信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果を加味してコネクタ嵌合作業が正しく行われているか否かを判断するとよい。
【0016】
上記システムにおいて、解析判断手段は、受信手段から入力された音響信号の時間変化の有無に基いて嵌合音の有無を判断するとよい。また、その解析判断手段による嵌合音ありの判断結果を出力する出力手段を備えるとよい。さらに、その出力手段は、解析判断手段による嵌合音ありの判断結果とともに、作業者が行うべき嵌合作業数とを併せて表示するとよい。
【0017】
上記他の目的を達成するために、本発明におけるコネクタ嵌合検査方法は、コネクタ嵌合の際生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する検知工程と、検出信号を周波数解析し、所定の周波数より大きい信号が閾値を超えているか否かによりコネクタの嵌合状態を判断する解析判断工程と、を含む。
特に、解析判断工程において、所定の周波数より大きい信号が所定の時間以下だけ継続しており、かつその信号の大きさが閾値を超えているか否かにより、コネクタの嵌合状態を判断するとよい。
特に、解析判断工程では、コネクタ嵌合作業者における速度及び/又は加速度に関する信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果と周波数解析の結果とに基いてコネクタの嵌合状態を判断するとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響信号を周波数解析し、所定の周波数帯域における信号レベルの閾値を比較して嵌合音の有無を判断する。よって環境雑音下における作業であっても、嵌合音を雑音と区別して判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るコネクタ嵌合検査システムのブロック構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るコネクタ嵌合検査システムが適用されるコネクタの形態の一例を示す図である。
【図3】図1に示す解析判断手段における信号解析判断のフローを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る別のコネクタ嵌合検査システムのブロック構成図である。
【図5】第1の仮想実験の結果を示すもので、コネクタを嵌合した際に生じる音響信号の周波数特性を示す図である。
【図6】第2の仮想実験の結果を示しており、(A)は、環境雑音下でのコネクタ嵌合作業による音響信号を示し、(B)は周波数特性を示す図である。
【図7】第3の仮想実験の結果を示すもので、(A)は音響信号の時間的波形を、(B)は音響信号にハイパスフィルターを通す前のエネルギーパターンを、(C)は音響信号にハイパスフィルターを通した後のエネルギーパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るコネクタ嵌合検査システム1のブロック構成図である。このコネクタ嵌合検査システム1は、一以上の検知装置10と作業管理装置20とが無線で嵌合されて構成される。
検知装置10は、それぞれ、音響変換手段11と送信手段12とを備える。
作業管理装置20は、受信手段21と解析判断手段22と検知装置毎の出力手段23とを備える。
音響変換手段11はマイクロフォンなどで構成され、コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換し、送信手段12に出力する。
送信手段12は、音響変換手段11から入力された検出信号を変調して電波として送信する。ここで、コネクタ嵌合検査システム1に複数の検知装置10を備え、作業管理装置20が複数の検知装置10から電波を受信する場合には、検知装置10毎に割り当てられた異なる周波数で変調する。これにより、生産ラインのベルトコンベアに組み立て製品が搬送され、複数の作業者により組み立て作業がなされる場合であっても、作業管理装置20における受信手段21において各検知装置10からの電波が混信しない。
受信手段21は、送信手段12から送信された電波を受信して復調し音響信号に変換し、変換した音響信号を解析判断手段22に出力する。
解析判断手段22は、受信手段21から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号を閾値と比較して嵌合音の有無を判断する。この一連の処理の詳細については後述する。解析判断手段22は、例えばCPU内に所定の解析判断プログラムを格納しておき、この解析判断プログラムを実行することにより実現される。
出力手段23は、各検知装置10に対応するように配置され、解析判断手段22の判断結果に応じた出力を作業者に対して表示したり、音として出力したりする。出力手段23は、解析判断手段22による嵌合音ありの判断回数と、作業者が行うべき嵌合数と、を対にして表示するようにしてもよい。
ここで、検知装置10は一つであってもよく、その場合には、検知装置10と作業管理装置20とでコネクタ嵌合検査システムを構成する。
【0021】
本発明の実施形態が適用されるコネクタの形態は、一方のコネクタが他方のコネクタに嵌合した後に脱落しないようなロック機構が付いていればよい。図2は、本発明の実施形態が適用されるコネクタの形態の一例を模式的に示す図である。機器やパネルなどに取り付けられたコネクタ31(「レセプタクル」ともいう。)には挿し込み部31aが設けられ、挿し込み部31aの上下一方の壁面には凹部31bが設けられている。一方、ケーブル33の一端に嵌合されたコネクタ32は、配線電極(図示せず)などを有するコネクタ本体部32aとコネクタ本体部32aの先端のみ連結されたロック片32bとを備え、ロック片32bは外側に向けて凸部32cを有する。コネクタ32が挿し込み部31aに挿入されようとすると、図2に示すように、ロック片32bが傾斜していることで挿し込み部31aへコネクタ32が挿入し難くなっているが、所定以上の力でコネクタ32を挿し込み部32aに押し込むと、ロック片32bの傾斜角が小さく成り、ロック片32bが元に戻ろうとしてロック片32bが挿し込み部31aの挿入口近傍と当たり、乾いた音(「嵌合音」という。)が生じる。また凸部32cが凹部31bと係合して、コネクタ同士が離れないようになる。
【0022】
図2に示すコネクタの形態のように、コネクタ構造は、コネクタ同士が嵌合した後ロック片32bやロック爪によるロック機構でロックされ、コネクタ同士により電気的な接触を保持できる構造(例えば弾性構造)となっていればよい。このようなコネクタ同士の嵌合であれば、嵌合作業の際一定の機械的な抵抗力が生じ、その抵抗力に抗して作業者による力で嵌め込まれる。よって、コネクタ同士が嵌合した瞬間、相互の衝突及びロック機構が噛み合い、嵌合音が発生する。もし、嵌合が不完全であれば、仮に嵌め合っているように見えても嵌合音は生じない。音響変換手段11がこの嵌合音を音響信号に変換し、送信手段12が音響信号を変調して電波として送信する。
【0023】
さらに、図1に示すコネクタ嵌合検査システム1によりコネクタの嵌合検査がどのように行われるかについて説明しながら、本発明の実施形態であるコネクタ嵌合検査方法も併せて説明する。
図1に示す検知装置10は、例えば組み立て生産ライン上に配置されている作業者の手袋内に収容されることで作業者の手に装着されたり、腕時計のようにベルトにより作業者の手首に取り付けられ、作業服のポケットなどに取り付けられる。作業者は、例えば図2に示すようにコネクタ1,2同士を嵌合すると、嵌合音が生じる。音響変換手段11はこの嵌合音を含む音響を検出信号に変換して送信手段12に出力する。送信手段12は、音響変換手段11から入力された検出信号を所定の周波数で変調して電波として送信する。作業管理装置20においては、受信手段21は検知装置10から送信された電波を受信し、復調して音響信号に変換し、解析判断手段22に出力する。解析判断手段22は、入力された音響信号を周波数解析し、嵌合音の有無を判断する。嵌合音が所定の期間にない場合、作業者毎の出力手段23に例えば「作業不完全!」などの表示を出力することで、作業者に作業確認するよう促すことができる。
【0024】
図3は解析判断手段22における信号解析判断のフローを示す図である。
解析判断手段22は、音響信号の周波数解析を行い、所定の周波数帯域における信号レベルが閾値と比較し(STEP1)、閾値を超えている場合には(STEP1でYesの場合)、嵌合音が有りの判断を行う(STEP3)。音響変換手段11は嵌合音以外の作業音やベルトコンベアやロボットなどから生じる音を含めて検出信号に変換する。後述するように、我々の実験によれば、音響変換手段11が変換した音響信号には環境雑音が含まれており、この環境雑音は所定の周波数、例えば3kHz〜5kHz以上の周波数では減少することが判明した。また、後述するように我々の実験によれば、環境雑音のない電波暗室で嵌合作業を行うと、音響変換手段11で検出した検出信号、つまり嵌合音は、3kHz未満では信号強度は低く、3kHz〜17kHzの範囲ではほぼ一定となっていることが分かった。よって、環境雑音下で接合作業を行っても、検出信号のうち低周波成分、例えば3kHzより低い周波数成分をカットして、それよりも高い周波数帯、例えば3kHz〜17kHzの周波数帯の信号成分に基いて嵌合音の判断を行えばよい。つまり、音響信号を所定の周数帯域のみをフィルターなどで抽出することで、信号に対する雑音の割合が抑制され、嵌合音が浮き出す結果となり、S/N比が改善される。
【0025】
また、組み立て作業現場では、嵌合音以外に作業者による作業の音が発生している。そこで、解析判断手段22は、STEP1でYesとなった場合であっても、所定の周波数帯における信号強度の持続時間を求めて、持続時間が所定の範囲内であれば、その音響信号は嵌合音に基いたものであると判断することができる。つまり、持続時間が所定の範囲外であれば(STEP2でYesの場合)、嵌合音と判断しない。後述するように、本発明者らの実験によれば、音響波形を解析したところ、作業者がトルクレンチを回し、その後コネクタの嵌め合わせ作業を行った場合、トルクレンチの回し音は比較的長い時間継続しているのに対し、嵌め合わせの音は瞬間的に発生する。よって、所定の周波数帯における信号強度の持続時間が短く所定の範囲内でれば、その信号は嵌合音によるものと判断することができる。
【0026】
このように、所定の周波数帯の信号強度が閾値を超え、所定時間内だけ持続し、一定時間を超えて継続しない場合(STEP1でYes、STEPでNoの場合)、解析判断手段22は嵌合音と判断する(STEP3)。
【0027】
以上のように解析判断手段22において嵌合音ありと判断されると、作業者の見易い位置に配置されている出力手段23は例えば「嵌合OK」というような嵌合音識別マークを表示する。作業者は嵌合音がいつ生じているか、またそのタイミングや周期なども分かっているので、作業者がその表示を逐一確認することにより、嵌合作業の確実性を確認することができる。もし、表示がなければ自分の行ったコネクタ嵌合状態を自ら確認する作業を行えばよい。
【0028】
本発明の実施形態は実施に際して適宜変更することができ、例えば作業管理装置20には作業データ格納手段が備えられ、その作業データ格納手段は各作業者が割り当てられた作業領域においてコネクタの嵌合作業回数などのデータが格納されている場合、出力手段23は、該当の作業者が行うべき嵌合作業回数と解析判定手段22が嵌合音ありと判断した回数とを合わせて表示する。すると、組み立て生産ラインに配置されている作業者は、出力手段23に表示されている数の組、即ち、自分の受け持ちの嵌合作業数と出力手段23に表示されている嵌合音識別マークの数とが一致しているか否かを判断する。数が一致していればベルトコンベアで組み立て品を搬送する。これにより組み立て作業工程が確実に行われる。
【0029】
図4は、本発明の実施形態に係る別のコネクタ嵌合検査システム1のブロック構成図である。図1に示すシステムとは、次の点で異なる。
第1の点として、検知装置10が角度及び/又は加速度を検出する検出手段13を備える点である。検出手段13のうち角度を検出する手段として、ジャイロセンサや地磁気センサを用いることができる。検出手段13から出力される信号は、送信手段12に入力される。送信手段12は、音響変換手段11から入力された検出信号と共に変調され、電波として送信する。よって、この検知装置10が作業者の手首に装着されることで、作業者がどのような作業を行っているかの状況に関し、手首の捻り、即ち、手首の角度や角速度の情報として、作業管理装置20に送信される。
第2の点として、解析判断手段22が、検出手段13から出力された信号をも解析してその解析結果を考慮してコネクタ嵌合状況を判定する点である。作業管理装置20では、受信手段21が、検知装置10から送信された電波を受信して復調することで、音響変換手段11で変換された音響信号と、検出手段13からの出力信号、即ちセンサ信号と、を得る。解析判断手段22では、受信手段21で得た音響信号とセンサ信号とを共に解析する。音響信号の解析は前述した通りであるので、センサ信号の解析について詳説する。
【0030】
解析判断手段22は、次のような、特徴抽出部22a、標準データ蓄積部22b、標準データ書込処理部22c、参照部22d及び判定部22eを有する。この解析判断手段22は、センサ信号の解析用プログラムをCPUで実行することにより構築してもよい。
特徴抽出部22aは、センサ信号に基いて特徴を抽出して特徴量を求める。
標準データ蓄積部22bは、基準となる標準状態における特徴量を標準データとして蓄積する。作業者が検知装置10を手首などに装着した状態で、コネクタ嵌合作業の基準となる動作を行うと、検知装置10から作業管理装置20に対しセンサ信号が送信されるので、特徴抽出部22aがそのセンサ信号から特徴を抽出して特徴量を求める。よって、標準データ蓄積部22bは、複数の特徴量を得る。
標準データ書込処理部22cは、特徴抽出部22aが求めた複数の特徴量から基準となる標準データを選定したり、特定の特徴量を平均化して標準データを求める。この選定はモニターにセンサ信号を表示し、作業者が行った作業を照らし合わせて人為的に経験則として求めてもよい。この標準データ書込処理部22cが求めた標準データは、標準データ蓄積部22bに蓄積される。
参照部22dは、作業者がコネクタの嵌合作業を行った際、特徴抽出部22aが抽出したデータと、標準データ蓄積部22bが蓄積している標準データとを比較し、判定部22fに送信する。ここでの抽出は機械的に行われる。
判定部22eは、参照部22dから比較結果の入力を受け、作業者による作業の的確性、具体的にはコネクタの嵌合がきちんとなされているかを判定する。
なお、音響信号もセンサ信号も時系列的に検知装置10から送信されるため、時間をパラメータとしてその信号は、時間の関数となる。この時間は受信時をベースとしてもよく、音響変換手段11や検出手段13が音響信号やセンサ信号をそれぞれ送信手段11に出力した時をベースとしてもよい。
【0031】
よって、解析判定手段22は、コネクタの嵌合作業の的確性について、音響信号に基いた解析結果とセンサ信号に基いた解析結果とを得る。そこで、解析判定手段22は、音響信号に基いた解析結果により、コネクタ嵌合作業がなされたと判断された時間を抽出し、センサ信号に基いた解析結果により、コネクタ嵌合作業がなされたと判断された時間を抽出する。これら抽出した時間がほぼ同じ時間帯にある場合には、確かに作業者によりコネクタ嵌合作業がなされたと判断することができる。
【0032】
よって、図4に示すシステム1によれば、解析判断手段22が検出手段13から送信手段12を経由して送信された信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果を加味してコネクタ嵌合作業が正しく行われているか否かを判断することができ、判断精度が向上する。
【0033】
なお、図4に示すシステム1では、音響変換手段11と検出手段13とが一つの検知装置内に10に組み込まれ、一つの作業管理装置20が音響信号とセンサ信号とを解析するようシステム構成されているが、角度や加速度のデータを取得、解析するシステムを別途構築し、このシステムによる解析結果が図1に示すシステム1内の作業管理装置20に送信され、その作業管理装置20内の解析判断手段22で考慮されるようにシステム構成しても構わない。
【0034】
ここで、我々の仮想実験について説明する。
第1の仮想実験として、外部からの音響が侵入しない無響室で、コネクタを嵌合した際生じる音響を図1に示す音響変換手段11により検出した。図5は第1の仮想実験の結果を示し、コネクタを嵌合した際に生じる音響信号の周波数特性を示す図である。横軸は周波数(kHz)であり、縦軸は強度である。実線は音響信号の周波数スペクトルを計算したものであり、点線は周波数スペクトルの概略を示すものである。図5から、3kHzより低周波ではエネルギーが急激に減少しており、3kHz〜17kHzまでは比較的一定であることが分かった。
【0035】
第2の仮想実験として、組み立て作業現場と同様に、環境雑音が存在する場所で、コネクタの嵌合作業を行い、図1に示す音響変換手段11により音響を検出した。図6は第2の仮想実験の結果を示しており、(A)は、環境雑音下でのコネクタ嵌合作業による音響信号を示し、(B)は周波数特性を示す図である。図6(A)において、横軸は時間、縦軸は強度であり、図6(B)において、横軸は周波数、縦軸は強度である。
図6(A)において符号αで示すように、嵌合音の持続時間は短く、その周波数特性は図6(B)に符号Sαで示す波形のように、約3kHzより高い周波数であっても比較的同じレベルに達している。しかしながら、環境雑音は、図6(A)において符号βで示すように、シャープな波形ではなく、その周波数特性は図6(B)に符号Sβで示す波形のように、約3kHzより高い周波数の成分は小さいことが分かる。よって、環境雑音下であっても、周波数フィルターで3kHz以下の周波数成分をカットすることで、嵌合音を判断することができることが分かった。
【0036】
第3の仮想実験として、組み立て作業現場と同様に、環境雑音が存在する場所で、トルクレンチ回しとコネクタ嵌合作業とを行い、図1に示す音響変換手段11により音響を検出した。これは、コネクタ嵌合音よりもはるかに上回る音として、電動式トルクレンチによるネジ締め作業が挙げられるからである。図7は第3の仮想実験の結果を示すもので、(A)は音響信号の時間的波形を、(B)は音響信号にハイパスフィルターを通す前のエネルギーパターンを、(C)は音響信号にハイパスフィルターを通した後のエネルギーパターンを示す図である。図の横軸は時間、縦軸は強度である。
図7(A)から分かるように、嵌合音の持続時間はトルクレンチ音が発生する時間(例えば1秒)よりも短く、例えば10m秒のオーダーである。図7(C)に示す波形を図7(B)に示す波形と比較すると、嵌合音のピークが鋭く現れていることが分かる。これにより、低周波成分をカットした信号波形から嵌合音の持続時間を求め、その持続時間が所定の範囲以下であれば、嵌合音があったと認定することができることが分かった。つまり持続時間が所定の範囲より大きい場合には雑音として無視することができる。
【0037】
本発明の実施形態によれば、作業者が行ったコネクタ嵌合作業が不完全であった場合、それを見逃さずにその場で作業者に不完全な嵌合作業であったことを表示することができる。よって、嵌合作業が不完全で次の作業者に組み立て製品が渡されることがない。また、嵌合音を作業者の判断で確認しないため、ヒューマンエラーを未然に防止することができる。よって、潜在的な不良品が検査をすり抜けることを防止でき製品の品質向上に資する。また、量産品の組み立て作業工程においてコネクタ接続における無誤謬性を作業と同時並行して検査するので、生産ラインの作業の質が向上する。
【符号の説明】
【0038】
1:コネクタ嵌合検出システム
10:検知装置
11:音響変換手段
12:送信手段
20:作業管理装置
21:受信手段
22:解析判断手段
22a:特徴抽出部
22b:標準データ蓄積部
22c:標準データ書込処理部
22d:参照部
22e:判定部
23:出力手段
31、32:コネクタ
31a:嵌め込み部
31b:凹部
32a:コネクタ本体部
32b:ロック片
32c:凸部
33:ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する音響変換手段と、該音響変換手段から入力された検出信号を変調して電波として送信する送信手段と、該送信手段から送信された電波を受信して復調し音響信号に変換する受信手段と、該受信手段から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号を閾値と比較して嵌合音の有無を判断する解析判断手段と、を備える、コネクタ嵌合検査システム。
【請求項2】
さらに、角度及び/又は加速度を検出する検出手段を備え、
前記解析判断手段は、上記検出手段から送信された信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果を加味してコネクタ嵌合作業が正しく行われているか否かを判断する、請求項1に記載のコネクタ嵌合検査システム。
【請求項3】
複数の検知装置と作業管理装置とが無線で接続され、
上記複数の検知装置は、それぞれ、コネクタ嵌合時に生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する音響変換手段と、該音響変換手段から入力された検出信号を該検知装置毎に割り当てられている周波数に変調して電波として送信する送信手段と、を有し、
上記作業管理装置は、上記複数の検知装置における送信手段から送信された各電波を受信して復調し音響信号に変換する受信手段と、該受信手段から入力された音響信号を解析し、所定の周波数帯域における信号を閾値と比較して嵌合音の有無を判断する解析判断手段と、を有する、コネクタ嵌合検査システム。
【請求項4】
前記複数の検知装置は、それぞれ、角度及び/又は加速度を検出する検出手段を備え、
前記解析判断手段は、上記検出手段から送信された信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果を加味してコネクタ嵌合作業が正しく行われているか否かを判断する、請求項3に記載のコネクタ嵌合検査システム。
【請求項5】
前記解析判断手段は、前記受信手段から入力された音響信号の時間変化の有無に基いて嵌合音の有無を判断する、請求項1又は3に記載のコネクタ嵌合検査システム。
【請求項6】
さらに、前記解析判断手段による嵌合音ありの判断結果を出力する出力手段を備える、請求項1乃至5の何れかに記載のコネクタ嵌合検査システム。
【請求項7】
前記出力手段は、前記解析判断手段による嵌合音ありの判断結果とともに、作業者が行うべき嵌合作業数とを併せて表示する、請求項6に記載のコネクタ嵌合検査システム。
【請求項8】
コネクタ嵌合の際生じる嵌合音を含む音響を検出信号に変換する検知工程と、
検出信号を周波数解析し、所定の周波数より大きい信号が閾値を超えているか否かによりコネクタの嵌合状態を判断する解析判断工程と、
を含む、コネクタ嵌合検査方法。
【請求項9】
前記解析判断工程において、所定の周波数より大きい信号が所定の時間以下だけ継続しており、かつその信号の大きさが閾値を超えているか否かにより、コネクタの嵌合状態を判断する、請求項8に記載のコネクタ嵌合検査方法。
【請求項10】
前記解析判断工程では、コネクタ嵌合作業者における角度及び/又は加速度に関する信号を解析し、コネクタ嵌合作業のタイミングを識別し、この識別結果と周波数解析の結果とに基いてコネクタの嵌合状態を判断する、請求項8に記載のコネクタ嵌合検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−161045(P2010−161045A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4129(P2009−4129)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(507234427)公立大学法人岩手県立大学 (22)
【Fターム(参考)】