説明

コバルト錯体、当該錯体を含む触媒システム、及び当該錯体を用いたエポキシド化合物と二酸化炭素の共重合方法

【課題】脂肪族ポリカルボナートの合成において高い触媒活性を示す触媒及び触媒システム、並びに当該触媒を用いた脂肪族ポリカルボナートの製造方法の提供。
【解決手段】式(I):


(式中、R1の少なくとも1つは−Si(R22−R3−Xであり、R4は、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であり、Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基であり、Zはアニオン性配位子である。)で表されるコバルト錯体、及び当該コバルト錯体の存在下で、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合するためのコバルト錯体及び当該錯体を含む触媒システムに関する。また、本発明は、コバルト錯体を用いたエポキシド化合物と二酸化炭素の共重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族エポキシド化合物と二酸化炭素との共重合によって得られる脂肪族ポリカルボナートは、二酸化炭素を合成樹脂の原料に利用する点で興味深い。また、脂肪族ポリカルボナートは、透明性を有しかつ所定温度以上に加熱すると完全に分解するため、一般成形物、フィルム、ファイバーなどの用途に使用できることに加えて、光ファイバー、光ディスクなどの光学材料、あるいはセラミックバインダー、ロストフォームキャスティングなどの熱分解性材料として利用することも可能である。さらに、脂肪族ポリカルボナートは、生体内で分解可能であるため、徐放性の薬剤カプセルなどの医用材料、生分解性樹脂の添加剤又は生分解性樹脂の主成分として応用できる。
【0003】
脂肪族ポリカルボナートは、これまでに様々な触媒又は触媒システムを用いることによって合成されている。例えば、特許文献1(米国特許出願公開第2006/0089252号)には、特定の構造式を有するコバルト系触媒を好ましくは塩の形態の助触媒と組み合わせて用いることにより、プロピレンオキシドと二酸化炭素を共重合させてポリ(プロピレンカルボナート)を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0089252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリカルボナートの合成において、エポキシド化合物と二酸化炭素が一分子ずつ反応した副生成物である環状カルボナートの生成量や、ポリカルボナート鎖の規則性を乱すことになる、ポリカルボナート鎖中のポリエーテル単位の比率を可能な限り低く抑えつつ、高い触媒活性、例えば高いTOF(Turnover Frequency、触媒中の金属の単位モル数当たり、単位時間当たりの、エポキシド化合物のポリマーへの転化量)及び/又は高いTON(Turnover Number、触媒(助触媒含む)の単位質量当たりのポリマーの収量)を示す触媒及び触媒システムが、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上記課題を解決するために以下の発明を提供する。
【0007】
1.式(I):
【化1】

(式中、R1は、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R22−R3−X(式中、R2は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基から選択され、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。)から選択され、但しR1の少なくとも1つは−Si(R22−R3−Xであり、R4は、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br又はIから選択され、Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基であって、その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基が結合していてもよく、あるいはその2個の炭素原子が置換又は非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよく、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表されるコバルト錯体の存在下で、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合させることを特徴とする、ポリカルボナートの製造方法。
【0008】
2.式(I)における二価の連結基Yが、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよいエチレン基、あるいは置換又は非置換のシクロアルキレン基又はフェニレン基である、上記1に記載のポリカルボナートの製造方法。
【0009】
3.コバルト錯体が、式(II):
【化2】

又は式(III):
【化3】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、上記1又は2のいずれかに記載の方法。
【0010】
4.コバルト錯体が、式(IV):
【化4】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、上記1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
5.エポキシド化合物が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【0012】
6.[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VII):
【化5】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒を、コバルト錯体と組み合わせた触媒システムを用いて、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合させることを特徴とする、上記1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
7.式(II):
【化6】

又は式(III):
【化7】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物。
【0014】
8.式(IV):
【化8】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、上記7に記載の化合物。
【0015】
9.式(II):
【化9】

又は式(III):
【化10】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、
[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VII):
【化11】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒と
を含む、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合するための触媒システム。
【0016】
10.式(IV):
【化12】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、
[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)で表されるリン及び窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒と
を含む、上記9に記載の触媒システム。
【0017】
11.式(IV)におけるZがペンタフルオロベンゾアートであり、助触媒がビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドである、上記10に記載の触媒システム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環状カルボナートの生成量や、ポリカルボナート鎖に存在するポリエーテル単位の比率を非常に低く抑えつつ、高いTOF及び/又は高いTONを達成することができ、高い触媒効率で非常に規則性の高い脂肪族ポリカルボナートを合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコバルト錯体は、ビスシッフ塩基型の配位子の分子内にシリル置換基を有するものが3価のコバルトに配位した錯体である。特に、ビスシッフ塩基型配位子の中で、サリチルアルデヒドとエチレンジアミンとの脱水縮合生成物の骨格を有する配位子は、サレン配位子と呼ばれることもある。このようなコバルト錯体は、以下の式(I):
【化13】

で表すことができる。
【0020】
1は、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R22−R3−Xから選択され、但しR1の少なくとも1つは−Si(R22−R3−Xである。ここで、−Si(R22−R3−Xはシリル置換基を表し、R2は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基から選択され、R3は、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。
【0021】
シリル置換基−Si(R22−R3−Xにおける、R2の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基などの置換又は非置換のアリール基などが挙げられる。また、R3の具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基などの直鎖又は分岐の二価の炭化水素基が挙げられる。R2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。R3は、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。Xは、Cl、Br又はIであることが好ましく、Clであることがより好ましい。
【0022】
1の具体例として、H;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基などの置換又は非置換のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基などのアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基などのアシル基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基などのアシロキシ基;F、Cl、Br、I;フロロメチルジメチルシリル基、クロロメチルジメチルシリル基、ブロモメチルジメチルシリル基、ヨードメチルジメチルシリル基、クロロメチルジエチルシリル基、クロロメチルジ(イソプロピル)シリル基、クロロメチルジフェニルシリル基、(1−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(4−クロロブチル)ジメチルシリル基、(6−クロロヘキシル)ジメチルシリル基、(8−クロロオクチル)ジメチルシリル基などのシリル置換基が挙げられる。R1がシリル置換基以外である場合、H、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。R1がシリル置換基である場合、クロロメチルジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、又は(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基であることが好ましく、クロロメチルジメチルシリル基であることがより好ましい。R1の両方ともシリル置換基であることがより好ましい。
【0023】
4は、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br又はIから選択される。R4の具体例として、シリル置換基以外のR1について上述した有機基を挙げることができ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。R4は各ベンゼン環について1個であることが好ましく、このとき、R4の位置は、配位子のサリチルアルデヒドに相当する部位の3位であることが好ましい。
【0024】
Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基である。その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基が結合していてもよい。このような二価の連結基Yの炭素原子に結合する基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基などの置換又は非置換のアリール基を挙げることができる。また、二価の連結基Yにおいて、その2個の炭素原子が、置換又は非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよい。このような飽和もしくは不飽和の脂肪族環又は芳香環として、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環などが挙げられ、これらの脂肪族環又は芳香族環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基などの、1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0025】
そのような二価の連結基Yの具体例として、上述したような炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよいエチレン基が挙げられ、このエチレン基は無置換であるか、1又は複数のメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基で置換されていることが好ましい。また、二価の連結基Yの具体例として、隣接する2個の炭素原子がそれぞれ別のイミノ窒素に結合している置換又は非置換のシクロアルキレン基(例えばシクロヘキサン−1,2−ジイル基)又はフェニレン基(例えば1,2−フェニレン基)も挙げられる。これらの中でシクロヘキサン−1,2−ジイル基が好ましい。
【0026】
Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。アニオン性配位子はエポキシド化合物のエポキシド炭素に対して求核性を有する場合がある。Zの具体例として、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、プロピオナート、シクロヘキシルカルボキシラートなどの脂肪族カルボキシラート;ベンゾアート、p−メチルベンゾアート、3,5−ジクロロベンゾアート、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアート、4−ジメチルアミノベンゾアート、4−tert−ブチルベンゾアート、ペンタフルオロベンゾアート(-OBzF5)、ナフタレンカルボキシラートなどの芳香族カルボキシラート;メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシドなどのアルコキシド;フェノキシド、o−ニトロフェノキシド、p−ニトロフェノキシド、m−ニトロフェノキシド、2,4−ジニトロフェノキシド、3,5−ジニトロフェノキシド、3,5−ジフルオロフェノキシド、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノキシド、1−ナフトキシド、2−ナフトキシドなどのアリールオキシドなどが挙げられる。Zは、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0027】
上述したコバルト錯体の中でも、式(II):
【化14】

又は式(III):
【化15】

(式中、R3、X及びZは上述の通り。)
で表されるものが好ましく、式(IV):
【化16】

又は式(V):
【化17】

(式中、Zは上述の通り。)で表されるものがより好ましく、式(IV)で表されるものが特に好ましい。
【0028】
脂肪族ポリカルボナートの合成に使用するエポキシド化合物として、式(VI):
【化18】

(式中、R6及びR7は、同一でも異なっていてもよく、H、置換もしくは非置換のアルキル基、又は置換もしくは非置換のアリール基であるか、又はR6とR7が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい。)で表されるものが使用できる。
【0029】
6及びR7のアルキル基として、炭素数1〜10の直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられ、メチル基であることが好ましい。アルキル基は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、アリール基などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0030】
6及びR7の置換又は非置換のアリール基として、置換又は非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などが挙げられ、フェニル基であることが好ましい。アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの別のアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0031】
6とR7は、互いに結合して置換又は非置換の環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の、置換又は非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R6とR7が−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子などから選択される1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0032】
そのようなエポキシド化合物として、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシドなどが挙げられ、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、又はそれらの組み合わせが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はそれらの組み合わせがより好ましい。
【0033】
上記コバルト錯体に助触媒を組み合わせた触媒システムを用いて、エポキシド化合物と二酸化炭素の共重合を行うこともできる。助触媒を併用することにより、共重合の反応速度を高める、及び/又は共重合体の交互規則性を高める、及び/又は副生成物である環状カルボナートの生成を抑制することができる。
【0034】
上記コバルト錯体と組み合わせることが可能な助触媒の一例は、リン及び/又は窒素を含むカチオンと対アニオンとからなる塩である。そのような助触媒として、[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VII):
【化19】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩を使用できる。
【0035】
上記塩を構成するカチオン[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+における、R5の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基などの置換又は非置換のアリール基が挙げられる。式(VII)のイミダゾリウムにおけるR8及びR9の具体例として、R5について上述したような、直鎖又は分岐のアルキル基、シクロアルキル基、及び置換又は非置換のアリール基が挙げられる。これらのR5、R8及びR9は、上記カチオン([R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+、式(VII)のイミダゾリウム)が全体として共重合反応に有利な立体的効果を発揮する、すなわち適切な嵩高さを有するように、選択して組み合わせることができる。
【0036】
上記塩を構成するカチオンとして、[R54N]+、[R53P=N=PR53+、又は式(VII)のイミダゾリウムを使用することが好ましく、[R53P=N=PR53+を使用することがより好ましい。
【0037】
四級アンモニウム[R54N]+の具体例として、テトラブチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、トリシクロヘキシルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウムなどが挙げられる。
【0038】
四級ホスホニウム[R54P]+の具体例として、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、テトラシクロヘキシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラ(メトキシフェニル)ホスホニウムなどが挙げられる。
【0039】
ビス(ホスホラニリデン)アンモニウム[R53P=N=PR53+の具体例として、ビス(トリブチルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(エチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(n−ブチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(ジメチルフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリトリルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリナフチルホスホラニリデン)アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムが好ましい。
【0040】
式(VII)のイミダゾリウムの具体例として、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムなどが挙げられる。
【0041】
上記塩を構成するアニオンとして、Zについて上述したものを挙げることができ、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0042】
上記カチオン及びアニオンからなる塩として、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムアセタート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾアート(PPNOBzF5)、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウムクロリドなどが挙げられ、PPNF、PPNCl及びPPNOBzF5が好ましい。
【0043】
コバルト錯体と助触媒を組み合わせた触媒システムにおいて、コバルト錯体を上記式(II)又は式(III)の化合物とすることが好ましく、式(IV)又は式(V)の化合物とすることがより好ましく、式(IV)の化合物とすることが特に好ましい。
【0044】
このような触媒システムの中で、
式(IV):
【化20】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)で表されるリン及び窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒とを含むものがより好ましく、ここで、Zがペンタフルオロベンゾアートであり、助触媒がビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドであることが特に好ましい。
【0045】
エポキシド化合物と二酸化炭素の共重合は、加圧可能な公知の重合反応装置、例えばオートクレーブを用いて行うことができる。共重合の反応温度は、一般に約0℃以上、約100℃以下とすることができ、約10℃以上、約90℃以下であることが好ましく、約20℃以上、約60℃以下であることがより好ましい。共重合を低温で行うと環状カルボナートの生成を抑制でき、高温で行うと反応速度が増加してTOF及び/又はTONを向上させることができる。本発明のコバルト錯体を用いると、従来の触媒又は触媒システムと比べて広い温度範囲で共重合を行うことができる。
【0046】
共重合時の二酸化炭素の分圧は、一般に約0.1MPa以上、約10MPa以下とすることができ、約5MPa以下であることが好ましく、約2MPa以下であることがより好ましい。窒素、アルゴンなどの不活性ガスが二酸化炭素と一緒に反応雰囲気中に存在してもよい。
【0047】
エポキシド化合物と触媒であるコバルト錯体のモル比は、一般にエポキシド化合物:コバルト錯体=約1000:1以上とすることができ、約2000:1以上であることが好ましい。本発明のコバルト錯体は、反応温度を適宜上げることによって、エポキシド化合物:コバルト錯体=約4000:1以上、約8000:1以上、約32000:1以上といった、錯体濃度が非常に低い条件で共重合することもできる。錯体濃度が低いと一般に反応時間が長くなるため、エポキシド化合物:コバルト錯体=約100000:1以下、又は約50000:1以下とすることが一般的である。必要に応じて使用される助触媒の量は、コバルト錯体1モルに対して、一般に約0.1〜約10モルとすることができ、約0.3〜約5モルであることが好ましく、約0.5〜約1.5モルであることがより好ましい。
【0048】
共重合は無溶媒で行ってもよく、必要に応じて溶媒を使用して行ってもよい。使用可能な溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル及びそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド及び1,2−ジメトキシエタンが好ましく、ジクロロメタン及び1,2−ジメトキシエタンがより好ましい。溶媒を使用する場合、その量は、エポキシド化合物1質量部に対して、一般に約0.1〜約100質量部とすることができ、約0.2〜約50質量部であることが好ましく、約0.5〜約20質量部であることがより好ましい。
【0049】
所望量のエポキシド化合物が重合した後、公知の後処理を行うことができる。例えば、塩酸、メタノール、塩酸/メタノール混合物などを反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温及び/又は攪拌して反応を終了することができる。その後、例えば、貧溶媒としてメタノール、ヘキサンなどを用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィーなどの周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【実施例】
【0050】
本実施例で得られた化合物の1H−NMRスペクトルの測定は、JEOL社製JNM−ECP500(500MHz)を用いて行った。ポリカルボナートの分子量測定は、ジーエルサイエンス社製高速液体クロマトグラフィーシステム(DG660B・PU713・UV702・RI704・CO631A)とSHODEX社製KF−804Fカラム2本を用いてテトラヒドロフラン又はクロロホルムを溶出液として(40℃,1.0mL/分)、ポリスチレン標準を基準に換算して測定し、解析ソフトウェア(Scientific Software社製EZ Chrom Elite)で処理して求めた。
【0051】
(1)触媒の調製
以下の合成例に溶媒として使用したトルエン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ジエチルエーテルは関東化学株式会社から入手した脱水グレードの試薬をGlass Contour社製溶媒精製装置に通したものを使用した。メタノール、エタノールは脱水グレードの試薬を関東化学から入手したものをそのまま使用した。また、酢酸エチルは和光純薬株式会社から入手したものをそのまま使用した。
【0052】
tert−ブチルリチウムn−ペンタン溶液、トリエチルアミン、酢酸コバルトは関東化学から入手した。クロロメチルジメチルシリルクロリド、ペンタフルオロ安息香酸は東京化成工業株式会社から、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサンは和光純薬株式会社から入手した試薬をそのまま使用した。塩化マグネシウム、パラホルムアルデヒドはAldrich社から入手した試薬をそのまま使用した。
【0053】
以下の配位子合成において原料に用いられる4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール、3−tert−ブチル−5−((3’−クロロプロピル)ジメチルシリル)サリチルアルデヒドは文献(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,8082)に従って調製したものを使用した。
【0054】
合成例A:コバルト錯体(1)の合成
A−1:シリル置換サリチルアルデヒドの合成
Ar雰囲気下、4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール5.4gをTHF200mLに溶解させ、−78℃に冷却した後、tert−ブチルリチウム(1.6M n−ペンタン溶液)41mLを2時間かけて滴下した。滴下後、−78℃で2時間攪拌し、クロロメチルジメチルシリルクロリド7.1mLを加えた。溶液を室温まで徐々に温め、4時間攪拌した後、水300mLを加え4時間撹拌した。酢酸エチル200mLで抽出を行い、有機層を減圧濃縮した。得られた黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.47)により精製し、2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール6.3gを薄黄色オイルとして得た(収率79%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ7.43(s,1H),7.25(dd,1H),6.69(d,1H),4.84(s,1H),2.92(s,2H),1.41(s,9H),0.38(s,6H)ppm
【0055】
2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール2.1g、トリエチルアミン3.5mL、塩化マグネシウム2.62gをTHF120mL中、室温で30分撹拌した。そこに、パラホルムアルデヒド0.8gを加え、3時間還流した。反応後、酢酸エチル100mL、水100mLを加え、室温で30分撹拌した後、分液し、水層をさらに酢酸エチル100mLで抽出した。有機層を水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分を減圧濃縮し得られた薄黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.09)で精製した。3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド1.4gを白色固体として得た(収率63%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ11.89(s,1H),9.90(s,1H),7.67(s,1H),7.56(s,1H),2.94(s,2H),1.42(s,9H),0.43(s,6H)ppm
【0056】
【化21】

【0057】
A−2:サレン配位子の合成
3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド808.9mg、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン136mgを無水エタノール20mL中、室温で6時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮後、析出物をろ過し、冷ヘキサン5mLで洗浄しサレン化合物770mgを黄色粉末として得た(収率85%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,2H),7.39(s,2H),7.15(s,2H),3.37(t,2H),2.84(s,4H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),0.33(s,12H)ppm
【0058】
【化22】

【0059】
A−3:コバルト錯体の合成
Ar雰囲気下、サレン配位子770mgを脱水メタノール5mL、トルエン1mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト212mgを加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸240mgを加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III )錯体(1)527mgを得た(収率48%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.93(s,2H),7.55(s,2H),7.41(s,2H),3.65(m,2H),3.14(s,4H),2.05−1.85(m,8H),1.73(s,18H),0.37(s,6H),0.23(s,6H)ppm
【0060】
【化23】

【0061】
合成例B:コバルト錯体(2)の合成
B−1:サレン配位子の合成
3−tert−ブチル−5−[(3’−クロロプロピル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド313mg、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン57mgをエタノール10mLに溶解させ、室温で12時間撹拌した。揮発分を減圧留去した後、残留物を冷ヘキサン1mLで洗浄しサレン化合物330mgを黄色粉末として得た(収率94%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.11(s,2H),8.45(s,2H),7.34(s,2H),7.23(s,2H),3.53−3.44(m,6H),2.00−1.93(m,2H),1.90−1.68(m,14H),1.40(s,18H),0.70(t,4H),0.26(s,6H),0.21(s,6H)ppm
【0062】
【化24】

【0063】
B−2:コバルト錯体の合成
Ar雰囲気下、サレン配位子200mgを塩化メチレン2mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト50mgを加え、室温で2時間攪拌した。揮発分を減圧留去した後、ジエチルエーテル1mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン2mL、トルエン2mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸60mgを加え、空気下、16時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサン5mLで洗浄し、緑褐色粉末のコバルト(III )錯体(2)162mgを得た(収率60%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.91(s,2H),7.52(s,2H),7.42(s,2H),3.63−3.57(m,6H),2.04−1.80(m,6H),1.77(s,18H),1.71−1.55(m,8H),0.76(t,4H),0.31(s,6H),0.24(s,6H)ppm
【0064】
【化25】

【0065】
合成例C:コバルト−非対称サレン錯体(3)の合成
C−1:非対称サレン配位子の合成
Ar雰囲気下、(R,R)−シクロヘキサンジアミンモノ塩酸塩(216mg、1.74mmol)、3,5−ジ−tert−ブチルサリチルアルデヒド(336mg、1.74mmol)、モレキュラーシーブス4A(200mg)を無水エタノール(6mL)、無水メタノール(6mL)混合溶媒中、室温で4時間撹拌した。そこに3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド(648mg、1.74mmol)、トリエチルアミン(0.4mL、2.88mmol)を塩化メチレン(12mL)に溶解させた溶液を加え、室温で4時間撹拌した。反応溶液をシリカゲルを用いてろ過し、シリカゲルを塩化メチレンで洗浄後、ろ液を濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1、Rf=0.57)で精製し、黄色固体(701mg)を得た(収率67%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,1H),8.12(s,1H),7.39−7.15(m,4H),3.37(t,2H),2.84(s,2H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),1.25(s,9H),0.33(s,6H)ppm
【0066】
【化26】

【0067】
C−2:コバルト錯体の合成
Ar雰囲気下、非対称サレン配位子(700mg、1.17mmol)を脱水メタノール5mL、トルエン1mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト(207mg、1.28mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸(270mg、1.28mmol)を加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III )錯体512mgを得た(収率51%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.96(s,1H),7.87(s,1H),7.77(s,1H),7.48(m,3H),3.59(m,2H),3.11(s,2H),2.01−1.92(m,8H),1.75(s,18H),1.32(s,9H),0.37(s,6H)ppm
【0068】
【化27】

【0069】
合成例D:コバルト錯体(4)の合成
D−1:サレン配位子の合成
Ar雰囲気下、合成例Aのサレン配位子600mg、ヨウ化ナトリウム347mgをアセトニトリル10mLに溶解し、90℃で24時間撹拌した。生じた沈殿をろ過し、ろ液を減圧濃縮後、残留物を塩化メチレン20mLに溶解させ、飽和重曹水10mL、飽和食塩水10mLで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮したところ、塩素がヨウ素で置換されたサレン配位子643mgを黄色粉末として得た(収率82%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.09(s,2H),8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0070】
【化28】

【0071】
D−2:コバルト錯体の合成
Ar雰囲気下、配位子100mgを塩化メチレン5mLに溶解させ、酢酸コバルト22mgを加え、室温で2時間撹拌した。揮発分を減圧留去した後、真空下3時間乾燥すると、赤色固体を得た。これをトルエン5mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸28mgを加え、室温、空気下で15時間撹拌した。揮発分を減圧留去し、残留物を冷ヘキサンで洗浄したところ、コバルト錯体(4)99mgを暗緑色粉末として得た(収率75%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0072】
【化29】

【0073】
(2)重合反応の実施
以下の重合実験に使用したプロピレンオキシドは、東京化成工業から入手した試薬を水素化カルシウムで脱水後、アルゴン雰囲気下で蒸留して得られたものであり、エチレンオキシドは住友精化株式会社から入手したものをそのまま使用した。
【0074】
各金属錯体の触媒活性は金属1mol当たり、1時間当たりのエポキシド化合物のポリマーへの転化量(mol)(以下TOF)、又は、触媒(助触媒含む)1g当たりのポリマーの収量(g)(以下TON)によって評価した。
【0075】
選択性は、反応溶液の1H−NMRスペクトルの積分値から以下のようにして算出した。
ポリプロピレンカルボナート:
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=[5.0ppmの積分値]:[4.5ppmの積分値]:[3.5ppmの積分値]
ポリエチレンカルボナート:
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=[4.2ppmの積分値]:[4.5ppmの積分値]:[3.6ppmの積分値]
【0076】
収率は生成物の重量から以下のようにして算出した。
収率(%)=[得たポリマーの総重量]/[仕込みエポキシド全てが反応したと仮定した際の重量]×100
仕込みエポキシドが全て反応したと仮定した際の重量=
[エポキシドの重量]×[(エポキシドの分子量)+(二酸化炭素の分子量)]/[エポキシドの分子量]
【0077】
例1
内容積50mLのステンレス製オートクレーブにコバルト錯体(1)6.5mg、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(以下PPNCl、Aldrich社から購入したものをそのまま用いた)4.1mgを入れ、Ar雰囲気に置換した後、プロピレンオキシド1.0mL、二酸化炭素1.4MPaを仕込み、25℃で2時間反応させた。1H−NMRを測定した後、内容物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸で洗浄後、メタノールを用いて析出させ、白色固体を0.86g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:59%、TOF:590h-1、TON:82g/g−cat、Mn=26000、Mw/Mn=1.14
【0078】
【化30】

【0079】
例2
触媒量を2分の1にし、プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合時間を12時間にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.89g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率65%、TOF:433h-1、TON:365g/g−cat、Mn=82000、Mw/Mn=1.19
【0080】
例3
触媒量を8分の1にし、プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合時間を72時間にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.53g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率53%、TOF:236h-1、TON:1173g/g−cat、Mn=74000、Mw/Mn=1.15
【0081】
例4
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を50℃、重合時間を30分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.23g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=96:4:0、収率21%、TOF:1680h-1、TON:58g/g−cat、Mn=17400、Mw/Mn=1.07
【0082】
例5
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を55℃、重合時間を30分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.5g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=99:1:0、収率26%、TOF:2080h-1、TON:71g/g−cat、Mn=29200、Mw/Mn=1.08
【0083】
例6
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を70℃、重合時間を15分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.8g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=94:6:0、収率14%、TOF:2240h-1、TON:38g/g−cat、Mn=12900、Mw/Mn=1.10
【0084】
例7
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を80℃、重合時間を10分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.46g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=85:15:0、収率8%、TOF:1920h-1、TON:22g/g−cat、Mn=7600、Mw/Mn=1.09
【0085】
例8
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を90℃、重合時間を15分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.57g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=71:29:0、収率10%、TOF:1600h-1、TON:27g/g−cat、Mn=10400、Mw/Mn=1.10
【0086】
例9
プロピレンオキシドの量を2.5mL、重合温度を60℃、重合時間を30分にした以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマー1.0gを得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=93:7:0、収率11%、TOF:1100h-1、TON:38g/g−cat、Mn=19200、Mw/Mn=1.01
【0087】
例10
重合温度を40℃、重合時間を40時間にした以外は例3と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.86g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=97:3:0、収率64%、TOF:512h-1、TON:1431g/g−cat、Mn=106000、Mw/Mn=1.36
【0088】
例11
コバルト錯体(2)6.8mgを用いた以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.5g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:34%、TOF:340h-1、TON:45g/g−cat、Mn=35700、Mw/Mn=1.18
【0089】
例12
コバルト錯体(3)6.0mgを用いた以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.71g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:49%、TOF:490h-1、TON:71g/g−cat、Mn=39000、Mw/Mn=1.08
【0090】
例13
コバルト錯体(4)7.8mgを用いた以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.56g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:38%、TOF:380h-1、TON:47g/g−cat、Mn=21900、Mw/Mn=1.10
【0091】
例14
プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合温度を70℃、重合時間を30分にした以外は例13と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.35g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=78:22:0、収率:12%、TOF:960h-1、TON:29g/g−cat、Mn=7000、Mw/Mn=1.11
【0092】
比較例1
下式のコバルト錯体を用いた以外は例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.55g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率38%、TOF:380h-1、TON:56g/g−cat、Mn=36900、Mw/Mn=1.13
【0093】
【化31】

【0094】
比較例2
比較例1の錯体を用いて、例6と同様の方法で重合をしたところ、ごく微量のオイルを得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=40:60:0、収率<1%
【0095】
比較例3
比較例1の錯体を用いて、例10と同様の方法で重合をしたところ、ごく微量の環状プロピレンカーボネートが得られた。
【0096】
例15
内容積50mLのステンレス製オートクレーブにコバルト錯体(1)を4.6mg、PPNClを2.9mgを入れ、Ar雰囲気に置換した後、溶媒として塩化メチレン1.0mL、エチレンオキシド0.97g、二酸化炭素2.0MPaを仕込み、25℃で6時間反応させた。1H−NMRを測定した後、内容物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸で洗浄後、メタノールを用いて沈殿させ、白色固体を0.61g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=91:3:6、収率:32%、TOF:232h-1、TON:81g/g−cat、Mn=8700、Mw/Mn=1.14
【0097】
【化32】

【0098】
例16
エチレンオキシドの量を3.06g、重合温度を45℃にした以外は例13と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.12g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=90:4:6、収率:18%、TOF:427h-1、TON:149g/g−cat、Mn=18700、Mw/Mn=1.20
【0099】
例17
エチレンオキシドの量を2.59g、重合温度を55℃にした以外は例13と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.94g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=88:8:4、収率:18%、TOF:364h-1、TON:126g/g−cat、Mn=29400、Mw/Mn=1.30
【0100】
例18
コバルト錯体(3)4.3mgを用い、エチレンオキシドの量を1.76gにした以外は例13と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.36g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=91:1:8、収率:10%、TOF:136h-1、TON:50g/g−cat、Mn=10200、Mw/Mn=1.15
【0101】
比較例4
比較例1の錯体を用いて、エチレンオキシドを0.74g用いた以外は例13と同様の方法で重合を行ったところ、ポリマーを0.82g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=71:0:29、収率:72%、TOF:398h-1、TON:206g/g−cat、Mn=56000、Mw/Mn=1.55
【0102】
【表1】

【0103】
比較例1と比べると、例1ではTOF、TONの両方とも大幅に向上している。また、例11、例13のTOF及びTONは比較例1とほぼ同等であり、例12のTOF及びTONは比較例1よりも高い。また、錯体の濃度を低下させて反応温度を高くした、比較例2及び3では、ほとんど又は全くポリカルボナートが得られなかったのに対し、錯体以外は同条件で行った例6及び例10では、高い交互規則性を維持しながら、高いTOF(特に例6)及び高いTON(特に例10)でポリカルボナートを得ることができた。例14においても同様に、錯体の濃度を低下させて反応温度を高くした場合でも、高い交互規則性を維持しながら高いTOFを達成できることが分かった。
【0104】
【表2】

【0105】
例15〜18では、比較例4と比べて、生成する共重合体中のポリエーテル単位の割合が顕著に小さい。また、本発明のコバルト錯体を用いて共重合を行う場合、より反応温度を高くできるため、例16、17ではコバルト錯体の濃度を大幅に下げても(エチレンオキシド:コバルト錯体=12000〜14000:1(モル比))共重合は進行し、高いTOF及び高いTONで交互規則性の高いポリカルボナートを得ることができる。なお、表1の比較例2及び3の結果から、比較例4の錯体を使用したエチレンオキシドと二酸化炭素の共重合では、その錯体の濃度を大幅に下げると、反応を温度を上げたとしても、共重合の反応速度が非常に遅いか、あるいは反応が全く進行しないことが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、二酸化炭素を炭素源として利用した脂肪族ポリカルボナートを工業的に製造するのに非常に有用である。また、本発明によって得られる脂肪族ポリカルボナートは、例えば光学材料、熱分解性材料、医用材料、生分解性樹脂などとして、様々な用途で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R1は、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R22−R3−X(式中、R2は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基から選択され、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。)から選択され、但しR1の少なくとも1つは−Si(R22−R3−Xであり、R4は、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br又はIから選択され、Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基であって、その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基が結合していてもよく、あるいはその2個の炭素原子が置換又は非置換の、飽和もしくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよく、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表されるコバルト錯体の存在下で、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合させることを特徴とする、ポリカルボナートの製造方法。
【請求項2】
式(I)における二価の連結基Yが、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよいエチレン基、あるいは置換又は非置換のシクロアルキレン基又はフェニレン基である、請求項1に記載のポリカルボナートの製造方法。
【請求項3】
前記コバルト錯体が、式(II):
【化2】

又は式(III):
【化3】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記コバルト錯体が、式(IV):
【化4】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記エポキシド化合物が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VII):
【化5】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒を、前記コバルト錯体と組み合わせた触媒システムを用いて、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
式(II):
【化6】

又は式(III):
【化7】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物。
【請求項8】
式(IV):
【化8】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
式(II):
【化9】

又は式(III):
【化10】

(式中、R3は、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択され、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、
[R54N]+、[R54P]+、[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VII):
【化11】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒と
を含む、エポキシド化合物と二酸化炭素を共重合するための触媒システム。
【請求項10】
式(IV):
【化12】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、
[R53P=N=PR53+(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)で表されるリン及び窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒と
を含む、請求項9に記載の触媒システム。
【請求項11】
前記式(IV)におけるZがペンタフルオロベンゾアートであり、助触媒がビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドである、請求項10に記載の触媒システム。

【公開番号】特開2010−270278(P2010−270278A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125458(P2009−125458)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】