説明

コヒーレント光通信受信方式を用いた受信方法および装置

【課題】
コヒーレント光受信方式において光処理部の劇的な簡素化の実現と調整機構を不要化することにある。
【解決手段】
電気中間周波数帯信号(以下、IF信号)のディジタル処理で光多値変調信号のIQ分離を実現するコヒーレント光受信方式であって、受信信号光および受信信号光314と光周波数を異にする局部発振光315を混合する光カプラ311と、そこから出力される混合信号光を差動光検出器312に入力することにより光電変換してIF信号316を出力する光電変換部と、該IF信号をディジタルIF信号に変換するアナログ・ディジタル変換部313と、該ディジタルIF信号からIQ分離を行う信号処理部32を有するコヒーレント光通信方式を用いた受信装置および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信信号処理に関し、特に、コヒーレント光通信信号の受信方法およびその装置に関するものである。さらに詳しくは、光ファイバ通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光周波数利用効率向上と超高速光伝送実現のために光多値変調信号とディジタル光コヒーレント受信方式を用いた光ファイバ通信の研究が行われている。 ディジタル光コヒー
レント受信方式における同相成分(以下、I相)と直交成分(以下、Q相)の分離(以下、IQ分離)は通常光領域にてホモダイン検波により行われる。
【0003】
図1は従来のディジタル光コヒーレント受信方式の構成を示したものである。ここでは単一偏光を仮定している。ディジタル光コヒーレント受信方式の構成は光処理部11とディジタル処理部12から構成される。光処理部11でIQ分離を行い、ディジタル処理部12では受信処理を行う。
【0004】
先ず光処理部11において受信信号光115と受信信号光115と同一光周波数を有する局部発振光116が光90度ハイブリッド110に入力され混合される。この混合光は2つの差動光検出器(以下、BPD)111、BPD112に入力され、光電変換される。BPD1
11、BPD112からの出力は、各々アナログ・ディジタル変換器(以下、ADC)113、ADC114に入力され、各ADCからI相、Q相の信号が出力される。ADCから出力されるI相、Q
相の信号はディジタル処理部12において受信処理が行われる。
【0005】
下記非特許文献1が開示する技術は、光処理部11でIQ分離を行うためにBPD111とADC113、BPD112とADC114の二系統が必要である。またこの技術は二系統間の光路長・電気長を一致させるための調整機構(図示していない)、そしてADC113、ADC114に同じタイミングのクロックを供給するための機構(図示していない)が必要という問題がある。
【0006】
非特許文献1と異なるディジタル光コヒーレント受信方式として下記特許文献1の方式
が開示されている。この方式はシンボルレートの4倍の速度で位相が0度、90度交互に位相変調された局部発振光215と受信信号光216から得られる混合光をホモダイン検波し、局部発振光位相が0度、90度の各タイミングでサンプルを得ることで信号のI相
、Q相を得るという技術を開示するものである。
【0007】
図2は下記特許文献1が開示するディジタル光コヒーレント受信方式のブロックの構成を示しており、IQ分離を行う光処理部21、受信処理を行うディジタル処理部22、そしてクロック・パタン生成部23から成る。ここでは単一偏光を仮定している。光処理部21において、受信信号光216と局部発振光215は光カプラ212により混合される。ここで、局部発振光215は位相変調器211によりシンボルレートの4倍の速度で位相が0度、90度交互に位相変調されている。光カプラ212にて生成された混合光はBPD
213で光電変換された後にADC214でシンボルレートの4倍の速度でサンプリングさ
れる。またクロック・パタン生成部23においてはADC214、分周器234を介して受
信処理部(以下、DSP)221、繰返しパタン発生器232に対して電圧制御発振器233
からクロックが供給される。繰返しパタン発生器232の出力は位相偏移調整部231を介して位相変調器211に入力される。
【0008】
このような特許文献1が開示する技術においては、BPDとADCが一系統であること、クロ
ック・パタン発生部23が必要であること、ADC214、DSP221、繰り返しパタン発生器232間の厳密なクロックのタイミング調整及びその調整機構(図示していない)が必要になるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.G.Taylor ”Coherent Detection Method Using DSP for Demodulation of Signal and Subsequent Equalization of Propagation Impairments”, IEEE PTL, VOL. 16, NO. 2, FEBRUARY 2004
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−49613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように非特許文献1が開示する技術では、BPD、ADCが二系統必要となり、また
、二系統間の光路長・電気長調整機構、そしてADCに供給するクロックのタイミング調整
機構が必要であるという問題がある。また、特許文献1が開示する技術においては、クロ
ック・パタン発生部、クロックのタイミング調整機構が必要であるという問題がある。これらは、いずれもシステム構成が煩雑であるため、ディジタル光コヒーレント受信器の集積化が難しい。またハードウェアのアナログ的な調整作業を要することから品質のバラつき・劣化要因を含むといった問題もある。
【0012】
そこで本発明の課題は、調整機構が不要であり、光処理部が極めて簡素化された方式を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の手段によって上述の課題を解決するものである。
本発明によるコヒーレント光通信受信方式を用いた受信装置は、光処理部とディジタル処理部とからなり、前記ディジタル処理部は、前記光処理部から出力されるディジタル電気中間周波数信号(以下、ディジタルIF信号)を分配する分配部と、前記分配部から分配された前記ディジタルIF信号を直交変換するヒルベルト変換部と、前記ディジタルIF信号と同一周波数の連続信号を生成する局部発振信号生成部と、前記ヒルベルト変換部から出力されるディジタルIF信号と前記局部発振信号生成部から出力される局部発振信号とを乗算処理する第一の乗算部と、前記第一の乗算部から出力される出力信号の不要波を除去する第一の不要波除去部と、前記分配部から分配された前記ディジタルIF信号と前記局部発振信号生成部から出力される局部発振信号とを乗算する第二の乗算部と、前記第二の乗算部から出力される出力信号の不要波を除去する第二の不要波除去部とを備えることを特徴とする。
【0014】
さらには、前記光処理部は、該光処理部に入力する受信信号光と局部発振光とを混合する光カプラ等を用いた混合部と、前記混合部からの出力光を差動光検出器等に入力して光電変換する光電変換部と、前記光電変換部からの出力信号をディジタルIF信号に変換するアナログ・ディジタル変換部とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明による受信方法は、光多値変調信号を電気中間周波数帯信号(IF信号)のディジタル処理によってI相とQ相に分離するコヒーレント光受信方法であって、前記IF信号を前記ディジタル処理によりディジタルIF信号とし、前記ディジタルIF信号を少なくとも2系統に分配し、分配されたひとつの前記ディジタルIF信号をヒルベルト変換し、前記ヒルベ
ルト変換された信号と局部発振信号とを乗算し、前記乗算された信号から不要波を除去することによりI相を分離し、前記分配された他のひとつの前記ディジタルIF信号と局部発
振信号とを乗算し、前記乗算された信号から不要波を除去することによりQ相を分離する
ことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によればBPDとADCは一系統で足りるため、ディジタル光コヒーレント受信方式における調整機構の除去とこれによるADC前の光処理部の劇的な簡素化が実現
できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のディジタル光コヒーレント受信方式の構成を示した図である。
【図2】従来のディジタル光コヒーレント受信方式の構成を示した図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかるディジタル光コヒーレント受信方式の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施形態1]
本発明の第一の実施形態について図3を用いて説明する。本発明のディジタル光コヒーレント受信方式は光処理部31、ディジタル処理部32から成る。光処理部31において、光周波数fcの受信信号光gs(t)を式(1)、受信信号光と異なる光周波数flの局部発振光gLo(t)を式(2)とする。式(1)においてEs(t)は実信号、ωは受信信号光角周波数、θs(t)は変調信号を示し、式(2)においてAlは局部発振光の実振幅、ωlは局部発振光角周波数、θlは任意の位相を示す。受信信号光gs(t)と局部発振光gLo(t)は光カプラ311にて混合された後、その出力光はBPD312にて光電変換(ヘテロダイン検波)される。得ら
れるIF信号yBPD(t)は式(3)で示される。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

【0021】
【数3】

【0022】
ここでΔωは受信信号光gs(t)と局部発振光gLo(t)の角周波数差、Δθ(t)は変調信号と局部発振光任意位相の差である。
IF信号yBPD(t)はADC313にて標本化されディジタルIF信号yBPD(t’)に変換される。デ
ィジタルIF信号yBPD(t’)は次式(4)のようになる。
【0023】
【数4】

【0024】
ここでt’は離散時間、nは標本番号、そしてtsは標本化周期である。得られたディジタルIF信号はディジタル処理部32に入力される。
ディジタル処理部32において、ディジタルIF信号yBPD(t’)は分配部321で二分岐
され、一方のみがヒルベルト変換部322においてヒルベルト変換される。ヒルベルト変換部322からの出力H(yBPD(t’)) は次式(5)のように求められる。
【0025】
【数5】

【0026】
ここで先ずI相について説明する。局部発振信号生成部324で生成される正弦波とヒ
ルベルト変換されたディジタルIF信号H(yBPD(t’))は、乗算部323にて乗算処理され式(6)に示すI(t’)が得られる。なお、ここでも局部発振信号生成部324から得られる
正弦波周波数は、受信信号光314と局部発信光315の角周波数差Δωに等しい。
【0027】
【数6】

【0028】
乗算部323からの出力信号は、不要波除去部(以下、LPF)326によりΔωの2倍波が除去され、これにより式(7)のI相信号を得る。
【0029】
【数7】

【0030】
次にQ相について説明する。ディジタルIF信号yBPD(t’)は、発振局部発振信号生成部324にて生成される正弦波と乗算部325で乗算処理され式(8)に示すQ(t‘)で表さ
れる。ここで局部発振信号生成部324から得られる正弦波周波数は受信信号光314と局部発信光315の角周波数差Δωに等しい。
【0031】
【数8】

【0032】
そして乗算部325から出力される信号は、LPF327によりΔωの2倍波が除去され、式(9)に示すQ(t‘)で表されるQ相信号となる。
【0033】
【数9】


【0034】
以上のように、本発明の第一の実施形態によれば、ヘテロダイン検波と得られたIF信号からディジタル処理によりIQ分離が可能となるため、ディジタル光コヒーレント受信方式におけるデバイス間のクロックタイミングや経路長の調整機構が不要となり、これによる光処理部の劇的な簡素化を図ることができる。
【符号の説明】
【0035】
11、21、31 光処理部
12、22、32 ディジタル処理部
110 光90度ハイブリッド
111、112、213、312 差動光検出器(BPD)
113、114、214、313 アナログ・ディジタル変換器(ADC)
115、216、314 受信信号光
116、215、315 局部発振光
120、221,328 受信処理部
211 位相変調器
223 クロック・パタン生成部
223、311 光カプラ
231 位相偏移調整部
232 繰返しパタン発生器
233 電圧制御発振器
234 分周器
316 電気中間周波数帯信号(IF信号)
321 分配部
322 ヒルベルト変換部
323、325 乗算部
324 局部発振信号生成部
326、327 不要波除去部(LPF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光処理部とディジタル処理部とからなるコヒーレント光通信受信方式を用いたディジタル受信装置において、
前記ディジタル処理部は、前記光処理部から出力されるディジタル電気中間周波数信号(以下、ディジタルIF信号)を分配する分配部と、
前記分配部から分配された前記ディジタルIF信号を直交変換するヒルベルト変換部と、
前記ディジタルIF信号と同一周波数の連続信号を生成する局部発振信号生成部と、
前記ヒルベルト変換部から出力されるディジタルIF信号と前記局部発振信号生成部から出力される局部発振信号とを乗算処理する第一の乗算部と、
前記第一の乗算部から出力される出力信号の不要波を除去する第一の不要波除去部と、
前記分配部から分配された前記ディジタルIF信号と前記局部発振信号生成部から出力される局部発振信号とを乗算する第二の乗算部と、
前記第二の乗算部から出力される出力信号の不要波を除去する第二の不要波除去部
とを備えたことを特徴とするディジタル受信装置。
【請求項2】
前記光処理部は、該光処理部に入力する受信信号光と局部発振光とを混合する混合部と、
前記混合部からの出力光を光電変換する光電変換部と、
前記光電変換部からの出力信号をディジタルIF信号に変換するアナログ・ディジタル変換部
とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のディジタル受信装置。
【請求項3】
光多値変調信号を電気中間周波数帯信号(IF信号)のディジタル処理によってI相とQ相に分離するコヒーレント光受信方法であって、
前記IF信号を前記ディジタル処理によりディジタルIF信号とし、前記ディジタルIF信号を少なくとも2系統に分配し、
分配されたひとつの前記ディジタルIF信号をヒルベルト変換し、
前記ヒルベルト変換された信号と局部発振信号とを乗算し、
前記乗算された信号から不要波を除去することによりI相を分離し、
前記分配された他のひとつの前記ディジタルIF信号と局部発振信号とを乗算し、
前記乗算された信号から不要波を除去することによりQ相を分離することを特徴とするコ
ヒーレント光通信方式による受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−147101(P2012−147101A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2106(P2011−2106)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】