説明

コモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータ、コモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ方法、及び、コモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ装置

【課題】ソレノイドコイル自体、又は、ソレノイドコイルと外部との接続が断線状態や接触不良となった場合にも、最低限の動作確保が可能な電磁アクチュエータを提供する。
【解決手段】圧力制御弁11はソレノイドコイル21を有し、その巻き始めのプラス端子22aは、車両バッテリ41の正極及び圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路52に、巻き終わりのマイナス端子22bは、圧力制御弁駆動回路51に、それぞれ接続されると共に、ソレノイドコイル21の巻き始めと巻き終わりの中間位置である中間端子22cが設けられ、圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路53に接続され、ソレノイドコイル21の巻き始めと巻き終わりの間の通常動作時の通電を可能とする一方、接続故障発生時に必要に応じて、ソレノイドコイル21の巻き始めと中間位置との間の通電、又は、ソレノイドコイル21の中間位置と巻き終わりとの間の通電を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置において用いられる電磁制御弁などを構成する電磁アクチュエータに係り、特に、故障時におけるバックアップ機能の充実、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンなどの内燃機関の燃料噴射制御装置としては、高圧ポンプによって燃料を加圧して蓄圧器であるコモンレールに圧送して蓄圧し、蓄圧された高圧燃料をインジェクタへ供給することにより、インジェクタによる内燃機関への高圧燃料の噴射を可能としたコモンレール式燃料噴射制御装置が多数用いられている。
【0003】
かかるコモンレール式燃料噴射制御装置においては、いわゆる電磁制御式アクチュエータが数多く用いられていることは良く知られている通りである。例えば、コモンレールの余剰燃料を燃料タンクへ戻すリターン通路とコモンレールとの間に設けられた圧力制御弁や、高圧ポンプと燃料タンクとの間に設けられ、高圧ポンプへ流入燃料の量を調整するための調量弁などは、電磁制御式アクチュエータを用いたいわゆる電磁制御弁として代表的なものである。これら電磁制御弁は、レール圧制御において、重要な構成要素であり、信頼性の高いものが要求される。このようなコモンレール式燃料噴射制御装置における電磁制御弁については、その重要性から駆動制御方法などについても種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−339830号公報(第5−11頁、図1−図12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような従来の電磁制御弁は、いわゆるソレノイドコイルを用いてなるものであるが、このソレノイドコイルへの接続線の断線、又は、ソレノイドコイル自体の断線が生ずると、例えば、通常、ノーマルオープンタイプの電磁制御弁とされる圧力制御弁にあっては、レール圧を上げることができなくなり、噴射が不可能な状態を招くこととなる。また、同じく、通常、ノーマルオープンタイプの電磁制御弁とされる調量弁にあっては、ソレノイドコイルの断線等により、全開状態で高圧ポンプへの燃料の流入がなされることとなるため、安全弁が開くまでレール圧が上昇してしまう事態を招く虞がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、ソレノイドコイル自体、又は、ソレノイドコイルと外部との接続が断線状態となった場合にあっても、最低限の動作を確保することが可能で、装置動作の信頼性向上を図ることのできるコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータ、コモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ方法、及び、コモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータは、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなるコモンレール式燃料噴射制御装置において用いられる電磁アクチュエータであって、
前記電磁アクチュエータは、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルは、その巻き始めと巻き終わりとが、それぞれ外部の回路と接続可能とされると共に、前記巻き始めと巻き終わりの中間位置が外部と接続可能とされてなり、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの間の通常動作時の通電を可能とする一方、接続故障発生時に必要に応じて、ソレノイドコイルの巻き始めと前記中間位置との間の通電、又は、ソレノイドコイルの前記中間位置と巻き終わりとの間の通電を可能としてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ方法は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなるコモンレール式燃料噴射制御装置において用いられ、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりとが、それぞれ外部の回路と接続可能とされ、通常動作時においては、前記巻き始めと巻き終わりとの間で通電を行うよう設けられてなる電磁アクチュエータのバックアップ方法であって、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの中間位置を外部と接続可能とし、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上である場合には、前記ソレノイドコイルの巻き始めと中間位置との間で通電を行う一方、前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下である場合には、前記ソレノイドコイルの中間位置と巻き終わりとの間で通電を行うことによって前記電磁アクチュエータの故障時におけるバックアップ動作を可能に構成されてなるものである。
さらに、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能として構成されてなると共に、前記高圧ポンプ及び燃料噴射弁の動作を制御する電子制御ユニットを有してなるコモンレール式燃料噴射制御装置において、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの間の通電が前記電子制御ユニットにより制御されて動作可能に構成されてなる電磁アクチュエータのバックアップ装置であって、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの中間位置を外部と接続可能とし、前記電子制御ユニットにより前記中間位置の電圧を取得可能とする一方、
前記電子制御ユニットは、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上であるか、又は、前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下であるかを判定し、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上であると判定された場合、前記ソレノイドコイルの巻き始めと中間位置との間で通電を行う一方、
前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下であると判定された場合、前記ソレノイドコイルの中間位置と巻き終わりとの間で通電を行うよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ソレノイドコイルの中間点を外部回路と接続可能として、3端子のソレノイドコイルとすることで、3端子のいずれか一つが断線や接触不良状態となっても、従来と異なり、臨時的な動作を確保し次善の対応策を採ることが可能となるので、電磁アクチュエータが完全に動作不能となるようななことが確実に回避でき、装置動作の信頼性向上を図ることができという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態における電磁アクチュエータが用いられるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における電磁アクチュエータにより構成される圧力制御弁と電子制御ユニットとの接続例を示す回路図である。
【図3】図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置において実行される電磁アクチュエータのバックアップの手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における電磁制御弁が用いられるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
このコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料をエンジン3の気筒へ噴射供給する複数の燃料噴射弁2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述するレール圧オフセット制御処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0011】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として構成されてなる公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0012】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
燃料噴射弁2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。
【0013】
本発明のコモンレール1には、余剰高圧燃料をタンク9へ戻すリターン通路(図示せず)に、電磁制御式の圧力制御弁11が設けられており、調量弁6と共にレール圧の制御に用いられるようになっている。
本発明の実施の形態においては、エンジン3の動作状態に応じて、調量弁6と圧力制御弁11のそれぞれの動作状態を変えることで、適切なレール圧制御の実現を図っている。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、燃料噴射弁2−1〜2−nを駆動するための駆動回路(図示せず)や、調量弁6や圧力制御弁11への通電を行うための通電回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力、エンジン回転数、アクセル開度、燃料温度などが、それぞれに適するセンサ(図示せず)によって検出、入力されてエンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供されるようになっている。
【0015】
図2には、本発明の実施の形態における電磁制御弁の接続回路図が示されており、以下、同図を参照しつつ、具体的に説明することとする。
まず、図2の例においては、本発明の実施の形態における電磁制御弁の構成は、圧力制御弁11に適用されたものであるとする。
すなわち、圧力制御弁11のソレノイドコイル21は、その巻き始め側の端部がプラス端子22aに、巻き終わり側の端部がマイナス端子22bに、それぞれ接続されると共に、ほぼ中間の巻き数となる中間点は、中間端子22cに接続されたものとなっている。
【0016】
そして、これらプラス端子22a、マイナス端子22b、及び、中間端子22cは、電子制御ユニット4内に設けられた圧力制御弁駆動回路51、圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路(以下、説明の便宜上、必要に応じて「A駆動回路」と称する)52、及び、圧力制御弁バックアップ第2の駆動回路(以下、説明の便宜上、必要に応じて「B駆動回路」と称する)53と接続されるものとなっている(詳細は後述)。
なお、圧力制御弁11と電子制御ユニット4との間の配線は、いわゆるハーネス処理がなされたものとなっている。
【0017】
圧力制御弁駆動回路51は、通常、すなわち、圧力制御弁11が故障状態に無く、正常である場合に、圧力制御弁11の通電を、マイクロコンピュータ4Aの制御に応じて行うものである。図2においては、その主要構成部分が示されており、この例では、npn型の第1のトランジスタ31及び第1のフライホイールダイオード34を主たる構成要素として構成されたものとなっている。なお、実際には、マイクロコンピュータ4Aからの制御信号を第1のトランジスタ31の駆動に適する信号レベルに変換する回路等が設けられるが、図2の圧力制御弁駆動回路51においては、詳細を省略してある。
【0018】
かかる圧力制御弁駆動回路51において、第1のトランジスタ31のコレクタと第1のフライホイールダイオード34のカソードが接続されると共に、その接続点にソレノイドコイル21のマイナス端子22bが、ECUマイナス端子25bを介して接続される一方、第1のトランジスタ31のエミッタと第1のフライホイールダイオード34のアノードは、共にグランドに接続されたものとなっている。
また、第1のトランジスタ31のベースは、マイクロコンピュータ4Aの通常制御用出力ポート(図2参照)に接続されている。
【0019】
圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路52は、電子制御ユニット4のECUプラス端子25aからソレノイドコイル21の中間端子22cまでの間に断線等の接続故障状態(詳細は後述)が生じた場合に、中間端子22cとマイナス端子22bとの間に、マイクロコンピュータ4Aの制御に応じて通電を行うよう構成されてなるものである。
図2においては、その主要構成部分が示されており、この例では、npn型の第2のトランジスタ32及び第2のフライホイールダイオード35を主たる構成要素として構成されたものとなっている。なお、実際には、マイクロコンピュータ4Aからの制御信号を第2のトランジスタ32の駆動に適する信号レベルに変換する回路等が設けられるが、上述の圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路52においては、詳細を省略してある。
【0020】
かかる圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路52において、第2のトランジスタ32のコレクタと第2のフライホイールダイオード35のカソードが接続されると共に、その接続点には、ソレノイドコイル21のプラス端子22aが、ECUプラス端子25aを介して接続されている。さらに、第2のトランジスタ32のコレクタには、車両バッテリ41の正極側が接続されたものとなっている。なお、車両バッテリ41の負極側は、グランドに接続されている。
また、第2のトランジスタ32のエミッタと第2のフライホイールダイオード35のアノードは、共に中間端子22c及びマイクロコンピュータ4Aの中間端子電圧センシング用入力ポート(図2参照)に接続されたものとなっている。
そして、第2のトランジスタ32のベースは、マイクロコンピュータ4Aのバックアップ制御用の出力ポートである出力ポートA(図2参照)に接続されている。
【0021】
圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路53は、ソレノイドコイル21の中間端子22cから電子制御ユニット4のECUマイナス端子25bまでの間に断線等の接続故障状態(詳細は後述)が生じた場合に、プラス端子22aと中間端子22cとの間に、マイクロコンピュータ4Aの制御に応じて通電を行うよう構成されてなるものである。
図2においては、その主要構成部分が示されており、この例では、npn型の第3のトランジスタ33及び第3のフライホイールダイオード36を主たる構成要素として構成されたものとなっている。なお、実際には、マイクロコンピュータ4Aからの制御信号を第3のトランジスタ33の駆動に適する信号レベルに変換する回路等が設けられるが、上述の圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路53においては、詳細を省略してある。
【0022】
かかる圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路53において、第3のトランジスタ33のコレクタと第3のフライホイールダイオード36のカソードが接続されると共に、その接続点は、第2のトランジスタ32のエミッタと第2のフライホイールダイオード36のアノードの接続点に接続されたものとなっている。
また、第3のトランジスタ33のエミッタは、グランドに接続される一方、第3のフライホイールダイオード36のアノードは、第1のトランジスタ31のコレクタと第1のフライホイールダイオード34のカソードとの接続点に接続されたものとなっている。
【0023】
そして、第3のトランジスタ33のベースは、マイクロコンピュータ4Aのバックアップ制御用の出力ポートである出力ポートB(図2参照)に接続されている。
なお、本発明の実施の形態においては、圧力制御弁11は、ソレノイドコイル21に通電されていない状態にあって、開弁状態となるいわゆるノーマルオープンタイプであるとする。かかる圧力制御弁11は、ソレノイド21のプラス端子22aからマイナス端子22b側へ駆動電流が通電されると閉弁状態となるものとなっており、特に、駆動電流(通電電流)の大きさに応じて弁開度が小さくなるようになっている。
【0024】
次に、上記構成において、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁制御弁のバックアップ処理について、図3を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁制御弁のバックアップ処理は、電子制御ユニット4において車両の動作制御のため種々実行される燃料噴射制御処理やレール圧制御処理等の動作制御処理の中で、1つのサブルーチン処理として実行されるものとなっている。
電子制御ユニット4により処理が開始されると、最初に、中間端子22cの電圧(以下「中間端子電圧」と称する)VMが、マイクロコンピュータ4Aの中間端子電圧センシング用入力ポートを介して読み込まれ(図3のステップS102参照)、中間電圧VCとの大小比較がなされることとなる(図3のステップS104参照)。
【0025】
なお、ここで、中間電圧VCは、ソレノイドコイル21のプラス端子22aの電圧とマイナス端子22bの電圧のほぼ中間の電圧として設定された値である。この中間端子電圧VMは、実際には多少の変動を生ずるものであるので、中間電圧VCを中心に許容範囲(±α)を設け、中間端子電圧VMが、その許容範囲内にあるか否かの判定とするのが好適である。許容範囲を実際にどの程度とするかは、個々のソレノイドコイル21の大きさや電気的特性、使用されている装置等によって異なるものであるので、これらを考慮して試験やシミューレーション結果等に基づいて定めるのが好適である。
【0026】
しかして、ステップS104において、中間端子電圧VMが所定の許容範囲内にあると判定された場合、すなわち、(VC−α)≦VM≦(VC+α)である場合には、ソレノイドコイル21は正常であるとして、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
一方、ステップS104において、中間端子電圧VMが許容範囲の上限を上回っていると判定された場合、すなわち、VM>(VC+α)である場合には、マイナス端子22b側が接続故障状態であると判定され(図3のステップS106参照)、B駆動回路53によるバックアップが行われる(図3のステップS108参照)。
【0027】
なお、ここで、”マイナス端子22b側が接続故障状態である”とは、電子制御ユニット4とソレノイドコイル21のマイナス端子22bとの間の接続が、何らかの原因により断線状態、又は、断線状態に近似した状態、若しくは、ソレノイドコイル21の中間端子22cとマイナス端子22bとの間が断線状態、又は、断線状態に近似した状態を意味する。
【0028】
ここで、”断線状態に近似した状態”とは、配線が断線した箇所で、周囲の振動等のために接触と離間を繰り返しているような状態や、端子部分(例えば、ECUプラス端子25aやソレノイド21のプラス端子22a等)における接触不良の状態を意味するものとする。この端子部分における接触不良の状態とは、例えば、ECUプラス端子25aを介してのソレノイド21のプラス端子22a側と電子制御ユニット4内の回路との導通状態が不安定な状態、すなわち、通常、導通状態におけるいわゆる導通抵抗はほぼ零であるが、その導通抵抗が零とならずに電圧降下が生ずる程度の抵抗が発生している状態、又は、導通抵抗がほぼ零の状態とある導通抵抗を示す状態とが繰り返されるような状態を意味するものとする。
【0029】
B駆動回路53によるバックアップは、まず、マイクロコンピュータ4Aにより、その出力ポートBに、B駆動回路53の第3のトランジスタ33を動作状態とする制御信号が出力され、第3のトランジスタ33が通電状態とされる。その結果、ソレノイドコイル21のプラス端子22aから中間端子22cを介して第3のトランジスタ33のコレクタへ至り、さらに、第3のトランジスタ33を介してグランドへ至る経路(図2において「B駆動回路」と表記された二点鎖線の経路参照)に電流通電が行われることとなる。
【0030】
その結果、正常動作時に対して、ソレノイドコイル21は、その大凡半分の部分が励磁され、正常時の大凡1/2程度の電磁力となるが、圧力制御弁11の弁開度をある程度制御することが可能となる。したがって、従来と異なり、全く噴射ができなくなるような事は回避され、例えば、いわゆるリンプフォーム走行を確保し、迅速な故障対応が可能となる。
なお、上述のステップS106、又は、ステップS108において、ソレノイドコイル21の故障であることを、ユーザに対して、警報素子の鳴動、点灯素子の点灯、表示素子や表示装置による文字等の表示などによって報知するようにすると好適である。
【0031】
一方、先のステップS104において、中間端子電圧VMが許容範囲の下限を下回っていると判定された場合、すなわち、VM<(VC−α)である場合には、プラス端子22a側が接続故障状態であると判定され(図3のステップS110参照)、A駆動回路52によるバックアップが行われる(図3のステップS112参照)。
【0032】
なお、”プラス端子22a側が接続故障状態である”とは、先のマイナス端子22b側の接続故障状態の場合に準じて、電子制御ユニット4とソレノイドコイル21のプラス端子22aとの間の接続が、何らかの原因により断線状態、又は、断線状態に近似した状態、若しくは、ソレノイドコイル21のプラス端子22aと中間端子22cとの間が断線状態、又は、断線状態に近似した状態を意味する。
ここで、”断線状態に近似した状態”の意味するところは、基本的に、先に、マイナス端子22b側の接続故障状態で説明したと同様であるとする。
【0033】
そして、A駆動回路52によるバックアップは、まず、マイクロコンピュータ4Aにより、その出力ポートAに、A駆動回路52の第2のトランジスタ32を動作状態とする制御信号が出力され、第2のトランジスタ32が通電状態とされる。また、A駆動回路52によるバックアップの際には、同時に、マイクロコンピュータ4Aにより、その通常制御用出力ポートにも第1のトランジスタ31を動作状態とすべく制御信号が出力され、第1のトランジスタ31が導通状態とされる。
【0034】
その結果、第2のトランジスタ32を介してソレノイドコイル21の中間端子22cからマイナス端子22bへ至り、さらに、第1のトランジスタ31を介してグランドへ至る経路(図2において「A駆動回路」と表記された一点鎖線の経路参照)において電流通電が行われることとなる。
この場合も、先にステップS110で説明したと同様、正常動作時に対して、ソレノイドコイル21は、その大凡半分の部分が励磁され、正常時の大凡1/2程度の電磁力となるが、圧力制御弁11の弁開度をある程度制御することが可能となる。したがって、従来と異なり、全く噴射ができなくなるような事は回避され、例えば、いわゆるリンプフォーム走行を確保し、迅速な故障対応が可能となる。
【0035】
なお、上述のステップS110、又は、ステップS112において、ソレノイドコイル21の故障であることを、ユーザに対して、警報素子の鳴動、点灯素子の点灯、表示素子や表示装置による文字等の表示などによって報知するようにすると好適である。
【0036】
上述の本発明の実施の形態においては、圧力制御弁駆動回路51、圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路52、及び、圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路53に用いられる主要部品として、npn型トランジスタを用いた例を示したが、これに限定される必要はなく、他の種類のトランジスタ、例えば、電界効果トランジスタ(FET)等を用いても良いことは勿論である。
また、上述の本発明の実施の形態においては、本発明に係る電磁アクチュエータをいわゆるノーマルオープンタイプの圧力制御弁11に適用した例を示したが、いわゆるノーマルクローズタイプであって同様に適用できるものである。
さらに、上述の本発明の実施の形態においては、本発明に係る電磁アクチュエータを圧力制御弁11に適用した例を示したが、これに限定される必要はなく、例えば、調量弁6や他の電磁アクチュエータを必要とする構成品に適用しても良いことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
電磁制御弁のさらなる信頼性、安全性が所望されるコモンレール式燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0038】
1…コモンレール
2−1〜2−n…燃料噴射弁
4…電子制御ユニット
4A…マイクロコンピュータ
6…調量弁
11…圧力制御弁
21…ソレノイドコイル
51…圧力制御弁駆動回路
52…圧力制御弁バックアップ用第1の駆動回路
53…圧力制御弁バックアップ用第2の駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなるコモンレール式燃料噴射制御装置において用いられる電磁アクチュエータであって、
前記電磁アクチュエータは、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルは、その巻き始めと巻き終わりとが、それぞれ外部の回路と接続可能とされると共に、前記巻き始めと巻き終わりの中間位置が外部と接続可能とされてなり、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの間の通常動作時の通電を可能とする一方、接続故障発生時に必要に応じて、ソレノイドコイルの巻き始めと前記中間位置との間の通電、又は、ソレノイドコイルの前記中間位置と巻き終わりとの間の通電を可能としてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータ。
【請求項2】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなるコモンレール式燃料噴射制御装置において用いられ、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりとが、それぞれ外部の回路と接続可能とされ、通常動作時においては、前記巻き始めと巻き終わりとの間で通電を行うよう設けられてなる電磁アクチュエータのバックアップ方法であって、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの中間位置を外部と接続可能とし、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上である場合には、前記ソレノイドコイルの巻き始めと中間位置との間で通電を行う一方、前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下である場合には、前記ソレノイドコイルの中間位置と巻き終わりとの間で通電を行うことによって前記電磁アクチュエータの故障時におけるバックアップ動作を可能とすることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ方法。
【請求項3】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能として構成されてなると共に、前記高圧ポンプ及び燃料噴射弁の動作を制御する電子制御ユニットを有してなるコモンレール式燃料噴射制御装置において、ソレノイドコイルを有し、前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの間の通電が前記電子制御ユニットにより制御されて動作可能に構成されてなる電磁アクチュエータのバックアップ装置であって、
前記ソレノイドコイルの巻き始めと巻き終わりの中間位置を外部と接続可能とし、前記電子制御ユニットにより前記中間位置の電圧を取得可能とする一方、
前記電子制御ユニットは、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上であるか、又は、前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下であるかを判定し、前記中間位置の電圧が、前記巻き終わり側で接続故障が生じた際の前記巻き始め側の所定電圧以上であると判定された場合、前記ソレノイドコイルの巻き始めと中間位置との間で通電を行う一方、
前記中間位置の電圧が、前記巻き始め側で接続故障が生じた際の前記巻き終わり側の所定電圧以下であると判定された場合、前記ソレノイドコイルの中間位置と巻き終わりとの間で通電を行うよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置用電磁アクチュエータのバックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180741(P2012−180741A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42129(P2011−42129)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】