説明

コロイド状材料の分子プラズマ蒸着

生体活性および/または構造の損失なく、金属または非金属の表面に、アミノ酸または他の炭素ベースの物質などの生体適合物質のコロイド状懸濁液を堆積させる分子プラズマ放電蒸着法が記述される。方法は、荷電コロナプラズマを生成することに基づいており、次に、該荷電コロナプラズマは、真空チャンバに導入されることにより、バイアスされた基板に生体適合材料を堆積させる。堆積させられた生体適合材料は、様々な医療の用途に対して選択され得、該様々な用途は、医薬品のインサイチュでの放出のためのコーティングされたインプラントを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年2月27日出願の米国仮特許出願第60/777,104号の利益を主張するものであり、該米国仮特許出願第60/777,104号の全内容が、本明細書において参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、基板表面にコロイド状に懸濁された分子を堆積させるために、コロナ放電を使用する装置および方法に関する。該方法は、元々の構造または活性にほとんど影響することなく、または全く影響することなく、選択された基板に、有機化合物および無機化合物、特に、関心のタンパク質および関連する生物学的化合物の堆積に適用可能である。
【背景技術】
【0003】
機能または所望の活性をあまり変えることのない、様々な基板上への生体活性物質の固定に益々関心が集まっている。例えば、抗菌物質でコーティングされた表面は、一般的には、浸漬または塗装のプロセスによって調製され、該浸漬または塗装のプロセスは、多くの場合、不充分な接着、不完全な表面の湿潤、または不充分な接着をもたらす。
【0004】
イオンプラズマ蒸着(IPD)法は、広範囲にわたって開発され、主に、高粘着性コーティングとカスタマイズされた表面特性とを生成する物体を用いたコーティングプロセスにおいて使用されている。近年、生体適合性のあるコーティングされた表面を調製することに、注目が集まり、例えば、医療インプラントに適したコーティングされた表面を調製することに集中しており、この場合、コーティングはセルの接着を強化し、または抗菌コーティングは、手術後に起こり得る敗血症を回避する際に重要となる。
【0005】
コロナ放電は、長い間、自然で観察され、かつ、従来、多数の商業目的および産業目的で使用されている周知の現象である。コロナ放電は、現在、オゾン生成、表面生成され電荷の制御、および写真複写において使用されている。電気コロナ放電はまた、特許文献1に記述されているように、表面特性を改善するために表面、特に、プラスチック物品の表面を修正するために使用されている。液体または粉末の材料のコロナ放電を含む静電コーティングプロセスが、コーティング方法として、特許文献2に記述されている。
【0006】
電位勾配が、流体のある地点において、流体が伝導性になるように流体のイオン化をもたらすように充分に大きい場合に、コロナは生成される。荷電物体が尖った点を有する場合には、その点の周りの空気は、他の場所よりもかなり大きい勾配になる。電極近くの空気が、イオン化され(部分的に伝導性なり)得るが、もっと遠くの範囲は、イオン化されない。その地点近くの空気が伝導性になるときには、そのことが、導体の見かけのサイズを増加させる効果を有する。新しい伝導性の範囲は、あまり尖っていないので、イオン化は、局所的な領域を通って延びないことがあり得る。イオン化および伝導性の領域の外側で、荷電粒子は、逆に帯電された物体へゆっくりとたどりつき、中和される。
【0007】
コロナ放電は、通常、2つの非対称な電極、すなわち、一方は、高曲率のもの、例えば、ニードルの先端または小さな直径のワイヤと、他方は、低曲率のもの、例えば、プレートまたは接地とを含む。高曲率のものは、電極の周りで高電位を確実にし、プラズマの生成を提供する。幾何形状と勾配とが、イオン化領域が、一定の半径で停止する代わりに、成長し続けるようなものである場合には、完全に伝導性の経路が形成され得、一時的なスパークまたは継続的なアークをもたらす。
【0008】
コロナは正または負であり得る。これは、高曲率電極における電圧の極性によって決定される。湾曲した電極が平坦な電極に対して正である場合には、正のコロナが存在し、そうでない場合には、コロナは負である。正のコロナの物理特性と負のコロナの物理特性とは、非常に異なる。この非対称性は、電子と正に帯電されたイオンとの質量の大きな差の結果であり、ここで、電子だけが、通常の温度と圧力とにおいて、かなりの程度の電離非弾性衝突を受ける能力を有する。
【0009】
コロナ放電システムは、化学的化合物を活性させるために使用され、特許文献3に記述されているように、概して、保護コーティングとして、表面上のコロナ放電の範囲内に形成されるポリマ、および重合化可能なモノマを堆積させるために使用される。気体の流れ、例えば、酸化硫黄および酸化窒素ならびに水銀蒸気の化学的活性成分のためのコロナ放電反応装置が、特許文献4に記述されている。反応体は、100ナノ秒までの間、複数のコロナ放電電極に高電圧パルスを印加することによって、コロナをパルス生成するように設計されている。
【0010】
特許文献5は、適切な基板上において重合化を開始するために、モノマまたは遊離基開始剤と組み合わせたモノマを導入するために、低圧のパルス化されたプラズマの使用を含む、プラズマの使用を包含する、基板をコーティングするいくつかの方法を記述している。大気圧拡散誘電性バリア放電アセンブリが使用され、該大気圧拡散誘電性バリア放電アセンブリの中に、モノマを含む噴霧された液体が導入され、それによりコーティング材料が10μm〜100μmの噴霧された液滴から形成される。無線周波数で励起された電極を使用する大気圧グロー放電プラズマ生成装置が、特許文献6に記述されている。
【0011】
プラズマコーティングの装置と方法とが、特許文献7に記述されている。液体または固体の噴霧されたコーティング形成材料は、大気圧においてプラズマ放電の中に導入されるものであり、珪素含有モノマに加えて、ポリアクリル酸またはペルフルオロ化合物などの有機コーティングに対して有用である。
【0012】
コロナ効果は、有益であると常に考えられているわけではなく、実際、アーク放電、またはコロナの絶縁破壊をもたらし得る。この絶縁破壊に加えて、コロナ効果は、錯体分子を単独でのみ成功裏に帯電させるにはあまりにも強くなり得る。分子がより高いレベルにおいてイオン化するときには、分子は、分裂し、構造特性および機能特性を失い得る。
【0013】
溶液からプラズマ内で生成された材料を堆積させる1つの不利な点は、存在するあらゆる溶媒が、一般的には、意図した材料と共に堆積され、意図していない構造を作り出すということである。コロナ放電がプラズマ生成の間に生じ得るほとんどのプロセスに対して、堆積技術としてこの効果を使用するのではなく、コロナ効果を減少させる試みが、通常、考慮されている。
【特許文献1】米国特許第3,274,089号明細書
【特許文献2】米国特許第4,520,754号明細書
【特許文献3】米国特許第3,415,683号明細書
【特許文献4】米国特許第5,733,360号明細書
【特許文献5】国際公開第2006/046003号パンフレット
【特許文献6】国際公開第03/084682号パンフレット
【特許文献7】国際公開第02/28548号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
有機分子を堆積されたプラズマ表面の機能特性および/または物理特性の損失が、固定された材料の望ましい生物活性を維持する方法を開発する必要性に注意を向けている。プラスチック、金属、ポリマ、およびセラミックなどの基板の範囲に生物学的コーティングを設計する試みが、限定的な成功を収めたが、概して、所望の活性を損なうことなく、生体活性因子を堆積させることには失敗している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基板表面に生体因子を非破壊的にコーティングする分子プラズマ蒸着法に関する。該方法は、事実上あらゆる伝導表面と多くの非伝導表面とに生物学的コーティングを固着させるために、電界と真空とを利用する改変されたIPD装置を使用する。コロナの分子プラズマ放電が、高電荷の伝導先端から生成される。該方法は、広範囲の有機材料または無機材料の堆積に適用可能であり、該広範囲の有機材料または無機材料は、伝導先端から溶液または懸濁液として分散される。
【0016】
コロナ放電またはイオンプラズマ放電のいずれかの従来の使用とは異なる、記述された方法のいくつかの特徴がある。該方法は、堆積される材料の溶液または懸濁液を利用する。これが、元素または化合物を含む、広範囲の有機材料および無機材料が使用されることを可能にする。液体は、高電圧で維持された小さく先の尖ったオリフィスを介して噴霧され、それによりイオン化されたプラズマが、オリフィスから分配される。方法の次のステップにおいて、イオン化されたプラズマが、排気されたチャンバの中に導かれ、ここで、反対にバイアスされた基板が配置され、材料が基板の表面に結合される場所に、材料を蒸着させる。
【0017】
方法の重要な特徴は、構造特性または機能特性の変化がほとんどないか、または全くない、表面への生物学的に活性の因子の蒸着である。方法は、コーティングプロセスによって影響を受けない無機材料と元素と選択組成物とに等しく適用可能である。部分的には、この方法によって堆積され得る広範囲の材料により、異なる表面を改変するか、または生体工学によって作る能力が、かなり拡大される。
【0018】
大気条件の下におけるコロナ効果の公知の特性と、コーティングプロセスにおけるイオンプラズマ蒸着(IPD)法の利点とが、新たなイオンプラズマ蒸着プロセスとコーティング方法とを開発するために使用されている。本発明の重要な局面は、堆積される材料が溶解または分散された溶媒を用いることなく、所望の成分だけから成るコーティングを堆積させるために、液体またはコロイド状組成物から生成されるコロナを使用する能力である。さらに、特に顕著には、分子プラズマ蒸着後に触媒活性を維持したポリイミド酵素に関して示されたように、コロナが生成した分子プラズマから堆積される広範囲の材料の元々の構造特性を維持することは期待されていなかった。堆積される生成物の活性および/または構造の完全性を保持する要因である原子結合は、堆積プロセスの間に破壊されない。
【0019】
一実施形態において、プロセスは、部分的には、大気圧または分圧の下で行われ、そして、部分的には、真空の下で行われる。堆積装置は、狭い帯電させられた開口部を介して導入される溶液または懸濁液からコロナを生成するように設計されており、それによりプラズマが、基板を収容する真空チャンバの中に開いている小さなアパーチャの前に生成される。コロナプラズマ内に分散された材料に生成される電荷に依存して、基板が反対に帯電された電極として配線され、該電極に、プラズマ粒子が堆積する。
【0020】
テストされる蒸着された材料の基本的な構造特性は、堆積の厚さには影響されない。これは、Storey(Breakup of Biomolecules through low−energy ion Bombardment、Master’s thesis、University of Missouri、Rolla、1998年)によって獲得された結果とは対照的であり、Storeyによって獲得された結果においては、サンプルの厚さが増加すると、堆積されたアミノ酸のカルボキラル群を検出することの難度を増加させることによって示されるように、金の上にアミノ酸の溶液を注ぐことによって堆積されたグリシンまたはアルギニンの40層を超えるほどの単分子層は、構造の損失をもたらした。本開示の分子プラズマ法は、構造および活性を維持しながら、所望の材料の単分子層からミクロン単位の厚さ、すなわち、2ミクロン〜200ミクロンの厚さまで厚さが制御されることを可能にする。
【0021】
分子プラズマ蒸着の装置は、コロナが生成される伝導先端の周りに部分的な真空を供給するように改変され得る。これが、溶解または懸濁された材料を懸濁した溶媒のより効果的な揮発を可能にし、それにより溶媒がコーティングにほとんど存在しない場合には、材料自体だけが、真空チャンバの筐体の中に引き込まれることにより、基板に堆積させられる。これは必須のものである。なぜならば、生物学的用途において、懸濁溶媒もまた、共に堆積された場合には、懸濁溶媒は、堆積された材料との有害な相互反応をもたらし得るからである。例えば、医療インプラントデバイスに堆積することを所望するタンパク質が、体内に配置される前に、メチルアルコールの中で溶解され、アルコールを蒸発することなく堆積される場合には、残余のアルコールが深刻な生理学的問題をもたらし得る。溶媒がチャンバの中にほとんど引き込まれないか、または全く引き込まれない場合には、大気圧の条件の下でコロナを生成することが便利である。
【0022】
考察されたように、新たな方法は、基板への生体分子の堆積のための分子プラズマ蒸着手順である。コロナ放電プラズマが、大気条件または部分的に真空の条件の下で、溶液または懸濁液から生成される。懸濁液は、有機溶媒または水溶液において低い溶解性を有する材料に対して好ましいコロイド状懸濁液である。堆積される材料は、元素、化合物、または多数の生体分子のうちの任意のものであり得る。溶液または懸濁液が、高電位勾配において、伝導点源から排出され、結果として生じるコロナ放電は、開口部を通って、排気されたチャンバの中に導かれ、該排気されたチャンバにおいて、イオン化された分子プラズマが、基板に堆積され、該基板は、コロナが生成される点源における比較的高い電圧とは反対の誘導電位で維持される。
【0023】
概して、コロイド状懸濁液が排出される伝導先端または伝導点は、溶液または懸濁液を噴霧する手段を提供することにより、高電圧先端においてコロナ放電を容易に形成する。多くの用途において、大気条件の下で、先端から溶液または懸濁液を導入することを好むが、好適には、100mトル以上の低真空または部分的な真空もまた使用され得る。次に、帯電されたプラズマが、例えば、40mトル以下で、穴またはオリフィスを通過して、排気されたチャンバの中に入り、該排気されたチャンバは、伝道先端における電圧とは実質的に反対の電圧で保持された基板を収容している。次に、コロナプラズマ内のイオン化された分子が、チャンバ内の基板に堆積され、該基板は、コロナが生成される伝導先端よりも圧力が低い。
【0024】
基板は、一般的には、100mトル未満、好適には、40mトル以下の真空の下にあるということと、プラズマコロナが、減圧下においても、先端において形成される場合には、基板は、減圧の雰囲気内になければならず、それによりプラズマが効果的に基板の筐体の中に引き込まれ、基板に堆積され得るということとを認識することが重要である。基板周囲の真空は、一般的には、40mトル〜0.1mトルの範囲内にある。さらに、基板は、イオン化された分子プラズマからの堆積をもたらすために、反対にバイアスされなければならず、該基板は、コロイド状懸濁液内の材料に依存して正または負となり得る。放電の際に形成されたイオンは、正または負であり得る。この放電は、基板のバイアスを決定する。例えば、正のコロナが使用される場合には、基板は負にバイアスされなければならない。
【0025】
基板に課されるバイアスの量は、基板と堆積の面積とに依存する。本明細書において提供される例において、基板は、約4cmである。基板のバイアスは、堆積のサイズに関わらず一定であるが、面積が大きくなるほど、一定の電圧を維持するために必要とされる電流は高くなる。基板に印加される電圧は、60kVほどの高さの範囲にあり得、該基板に印加される電圧は、正または負にバイアスされ、すなわち、コロナが生成される伝導先端における電圧とは反対の電圧にバイアスされ得る。一般的な電圧は、+15kV〜−15kVの範囲にある。基板が接地されている場合には、電圧は、基板において0になる。
【0026】
方法は、部分的には、イオン化されたプラズマを効率的に生成することに依存する。これは、尖ったオリフィスまたは先端を通って、堆積を所望される材料の溶液または懸濁液を噴霧することによって達成される。これは、一般的には、高電圧を課される小さい直径のチューブまたはニードルである。約0.83mmの内径を有する18ゲージの金属ニードルにおける例示的な高電圧は、例えば、約−5000ボルトであり得る。この例において、基板に印加される電圧は、一般的には、約5000ボルト以下の範囲内であり、接地に接続された場合には、0になる。
【0027】
本発明のさらに別の局面は、より効率的な処理のために、例えば、表面を設計するために、コロナ効果を制御する能力である。方法は、コロナ効果の物理特性を利用することにより、イオン化された材料を基板に堆積させ、それにより材料が、基板表面にイオン結合または共有結合される。これは、非破壊的な方法を使用して、粘着コーティングを生成し、かつ、表面を構築する迅速かつ容易な方法である。
【0028】
記述された装置は、溶液または懸濁液からコロナプラズマの中に材料を生成することによって、物理特性、機能特性、または化学特性をあまり変えることなく、広範囲の材料を効果的に堆積させるために使用され得る。タンパク質などの材料は、好適には、ほとんどの溶媒内での材料の限定された溶解性が原因となり、コロイド状懸濁液からイオン化される。それぞれ4.5g/Lの水溶性、0.5g/Lの不溶性、および不溶性を有するチミン、シトシン、アデニン、およびグアニンが、懸濁液としてより効率的に堆積される。ほとんど全ての有機材料または無機材料が、一部の溶媒または溶媒の混合物内で、溶解または懸濁され得る。材料は、タンパク質と、アミノ酸と、ペプチドと、ポリペプチドと、核酸および核酸塩基、例えば、プリンおよびピリミジンとなどを含む。無機材料の例は、金属および金属酸化物などの化合物、例えば、酸化銅、炭素を含む元素を含む。概して、溶液または懸濁液として調製され得る生物学的材料または非生物学的材料は、堆積に適した材料となる。コロイド状懸濁液は、一部の生体分子に対して好ましいが、マイクロ粒子の懸濁液もまた、材料に応じて適することがあり得、それにより、ミクロンサイズ以上のサイズの粒子を含む液体から、イオン化された分子プラズマを作り出す。コロイド状懸濁液から生成された分子プラズマから堆積されることが好ましい材料の例は、限定するものではないが、DNA、RNA、グラファイト、抗菌物質、成長因子、成長抑制剤、ウイルス、無機化合物、触媒、酵素、有機化合物、および元素を含む。カタラーゼは、触媒作用の損失なく、この方法によって堆積され得るポリペプチド酵素の例のうちの1つである。生体活性の損失なく、この方法によって堆積されることを期待される他のタンパク質は、SNAPタグ融合タンパク質、hAGT融合タンパク質グルコース結合タンパク質、グルタミン結合タンパク質、および乳酸脱水素酵素を含む。酸化還元酵素と、グルコース酸化酵素などの酸化酵素とがまた、活性の損失なく堆積されることが期待される。グアニン、チミン、アデニン、シトシン、およびウラシルなどのヌクレオチド塩基が、コロナ生成プラズマから基板に堆積され得るDNA塩基およびRNA塩基の例である。
【0029】
堆積に適した溶液および懸濁液は、純水、アルコール、および水/アルコールの混合物を含む多数の水性溶媒または有機溶媒の任意のものから調合される。一部の材料は、あまり一般的ではない溶媒、例えば、DMSOまたはグリコール内で調製され得る。堆積手順の好適な実施に対して、溶媒または溶媒の組み合わせを選択し、該溶媒または溶媒の組み合わせにおいて、材料は、好適には、コロイド状溶液として、溶解または懸濁され得、そして、該溶媒または溶媒の組み合わせは、毒性のヒュームまたは爆発性ヒューム(explosive fumes)などの問題をもたらさない。
【0030】
(定義)
生体分子は、生物学的効果を有し、または体内で使用し、かつ、限定するものではないが、タンパク質と、ペプチドと、アミノ酸と、核酸と、薬物活性を有する化合物または薬物活性と関連付けられる化合物とを含み得る化合物および因子を含むように意図されている。本明細書において使用される場合、生体分子はまた、炭素および炭素ベースの化合物と、医療デバイスにおけるコーティング材料として使用され得る元素および化合物、例えば酸化銅とを含む。
【0031】
コロイド状粒子は、サイズが約10オングストローム〜約10,000オングストロームの細かく分割された粒子であり、連続媒質の中に分散されている。粒子は、容易には、濾過されず、一定期間にわたってゆっくりと沈殿する。
【0032】
ナノ粒子は、約100ナノメートル以下のサイズである。
【0033】
イオンプラズマ蒸着(IPD)は、概して、高電圧または高電流をカソードの標的に印加することによる、プラズマ内で生成されたイオン化された材料の真空蒸着であり、この場合、イオン化されたプラズマ粒子は、アノードとして働く基板上に堆積される。
【0034】
コロナは、おそらくは持続性の電流が、電極の周囲にプラズマを作り出すために流体をイオン化することによって、空気などの中性の流体内の高電位を有する電極から発達するプロセスによって生成される。生成されたイオンは、最終的には、電荷をより低い電位の近くのエリアに伝えるか、または中性の気体の分子を形成するように再結合させる。
【0035】
電圧のバイアスは、接地に対する電位であり、該接地において基板は保持される。電位の範囲は、0ボルトから15,000ボルトであり、そして、正または負であり得る。バイアスする基板の電位は、コロナの電位に依存し、一般的には、この電位と等しく、かつ、反対である。電圧は60kVほどの高さであるが、より一般的には、5kV〜10kVの範囲内にある。コロナプラズマが、+5000ボルトである場合には、基板に対するバイアス電圧は、接地に対して、全て、−5000ボルトである。
【0036】
本明細書において使用される場合、「実質的」または「実質的に」は、範囲が、+10%程度または−10%程度の範囲を意図されており、正確な数字に限定することを意図されていないということを意味する。例えば、実質的な機能は、元々の機能と異なる機能、または元々の機能を下回る機能を含み得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、基板表面に導かれ得る荷電プラズマを作り出す際にコロナ効果とコロナ放電の効果とを利用する。基本的な装置が図1および図2に示されている。例示的な手順において、5kV以上の高電圧が、ニードルまたは他の中空のボアの尖った先端の伝導材料に印加される。溶液または懸濁液が中空ボアを通過させられる。ニードルの先端の高い電場が、コロナ効果の結果として液体の噴霧をもたらす。溶液または懸濁液内の分子が帯電されるが、依然として完全なままである。針は、基板を収容するチャンバ内に小さな穴を有する接地された差動排気高真空システムの前に位置決めされる。基板は、針に課される電位とは反対またはほぼ反対の電位で、排気されたチャンバの内部に配置されたり、グランド(0)に設定されたりする。コロナ内の荷電分子は、開口部を通って基板に向かって移動し、基板に堆積または付着され、イオンを含んで結合されたり、共有結合されたりする。
【0038】
装置全体が、環境的に制御されたチャンバ内に含まれ、例えば、堆積速度を制御するために、または不活性な雰囲気において堆積を行うために、酸化物が所望される場合には、該環境的に制御されたチャンバの中に、酸素または窒素などの選択された気体が導入され得る。例えば、キセノン、アルゴン、ヘリウム、または気体の組み合わせなどの他の不活性な気体を含む気体の混合物が、導入され得る。
【0039】
分子プラズマの生成プロセスもまた、大気圧よりも低い圧力、すなわち、減圧の下で、雰囲気以外の気体(例えば、アルゴンまたは酸素の背景雰囲気)の存在の下で行われ得る。伝導先端における分子プラズマが減圧の下で生成されたときには、基板を収容しているチャンバ内の圧力は、より低くならなければならないので、図1に示されているように、プラズマ放電が、開口部を通って基板を収容しているチャンバの中に容易に通過する。
【0040】
図1に示されているように、分子プラズマ生成装置は、高電圧5において、コロイド状懸濁液9に放電ニードル6を通過させることによって、雰囲気の条件の下でプラズマ放電を生成するシステムを提供する。結果として生じる噴霧された液体は、雰囲気においてイオン化されたプラズマを形成する。プラズマは、基板ホルダ3上で基板4を収容する真空チャンバ1内のオリフィス15を通過する。電源2は、放電ニードル6に電源5によって提供される電圧とは反対の電圧で、基板4に電圧を提供する。
【0041】
図2は、イオン化されたプラズマ放電を生成するシステムの代替の実施形態を例示する。リザーバ8は、基板4上にコロイド状の材料の堆積のために、材料の溶液または懸濁液9をオリフィス15を介して供給する。液体は、電源5から高く帯電させられたニードル6を通過させられる。この実施形態において、フィーダとニードルとは、第2のチャンバ10に収容されており、該第2のチャンバは、圧力制御13によって、開口部14を通って第2のチャンバの中に圧力調節され得る。第2のチャンバ内の雰囲気は、調節器13を通過するコンジット12を有する気体容器11から修正され得る。真空チャンバ1は、チャンバ10内よりも低い圧力で維持される。基板4は、ニードル6に対して電源5によって供給された電圧とは反対の電圧において、電源2を使用してバイアスされる。
【0042】
懸濁液または溶液は、有害または可燃性ではない有機または無機の液体で調製され得る。ほとんどの材料は、水溶液として調製されることが好ましいか、または酢酸、プロビオン酸、ハロゲン置換酢酸、蓚酸、マロン酸、および/またはヒドロキシカルボン酸など有機酸だけで、または水と共に調製され得る。液体混合物は、塩、または有機/水混和性の調製を含み得る。アルコールの例は、エタノールと、メタノールと、アセトン、DMF、THF、およびメチルエチルケトンなどのケトンとを含む。例えば、アミノ酸は、低い濃度においては水溶性があるが、高い濃度においてはコロイド状の懸濁液を形成し得る。リジーおよびトレオニンは、水溶性が高いが、チロシンは、25℃において約0.045g/100mlの限られた溶解性を有する。
【0043】
(コロナおよび電気放電の背景記述)
正と負との両方の種類のコロナ放電は、一般的に、湾曲した電極近くの高い電位勾配を有する強い電界の範囲における中性の原子または分子のイオン化として、一般的には特徴付けられ、正イオンと自由電子とを作り出す。次に、電界は、荷電粒子を分離し、加速させ、再結合を妨げ、運動エネルギーを各粒子に与える。非常に高い電荷/質量比を有し、従ってより速い速度に加速される励起された電子は、追加の電子/陽イオンの対を中性の原子との衝突によって作り出し得る。次に、励起された電子が、同じ分離プロセスを受け、電子なだれを生じさせる。正のコロナと負のコロナとの両方が、電子なだれに依存する。図3は、強い電界において形成される一般的な点電荷を例示する。
【0044】
これらのプラズマプロセスのエネルギーが、最初の電子解離に転換されることにより、さらなるなだれの要因を与える。この一連のなだれにおいて作り出されるイオンの種類は、正のコロナと負のコロナとで異なり、湾曲のない電極、例えば、平坦な表面に引き付けられ、回路を完成させ、電流の流れを維持する。
【0045】
コロナは、電流が、持続されるものであっても、持続されないものであっても、中性の流体において、通常は空気中で、高い電位勾配を有する電極から発達するプロセスである。電位勾配が、流体内のある地点において充分に大きいときには、その地点における流体はイオン化し、その流体が伝導性になる。荷電物体が尖った先端を有する場合には、その地点の周囲の空気は、他の場所よりも高い勾配になり、伝導性となり得るが、空気中の他の地点は伝導性にならない。空気が伝導性になるときには、そのことが、効果的に伝導体のサイズを増加させる。新たな伝導範囲があまり尖ってないときには、イオン化はこの局部範囲を通って延びないことがあり得る。イオン化および伝導性のこの範囲の外側で、荷電粒子は、反対に帯電された物体へゆっくりとたどりつき、中和される。一方、幾何形状と勾配とが、イオン化範囲が、一定の半径で停止する代わりに、成長し続けるようなものである場合には、完全な伝導経路が形成され、一時的または継続的なスパークまたはアークが生じる。
【0046】
コロナ放電は、通常、2つの非対称な電極、すなわち、高曲率のもの、例えば、ニードルの先端または小さな直径のワイヤと、低曲率のもの、例えば、プレートまたは接地とを含む。高曲率のものは、プラズマを効果的に生成するために、1つの電極の周りで高電位勾配を確実にする。
【0047】
コロナは正または負であり得る。これは、高曲率電極における電圧の極性によって決定される。湾曲した電極が、平坦な電極に対して正である場合には、コロナは正になり、電極が負である場合には、負のコロナが存在する。正のコロナの物理特性と負のコロナの物理特性とは、非常に異なる。この非対称性は、電子と正に帯電されたイオンとの質量の大きな差の結果であり、電子だけが、標準的な温度と圧力とにおいて、かなりの程度の電離非弾性衝突を受ける能力を有する。
【0048】
負のコロナは、不均一なコロナとして現され、湾曲した伝導体の表面特性と不規則性とに従って変動する。負のコロナは、多くの場合に、尖った縁においてコロナのふさとして現れ、ふさの数は、電界の強度によって変化する。負のコロナの形態は、2次電子なだれの負のコロナのソースの結果である。電子がイオン化範囲から出て行くことを可能にされ、プラズマがコロナを越えてある程度の距離を持続することが可能であるので、負のコロナは、対応する正のコロナよりも少し大きく現れる。電子の合計数と電子の密度とは、対応する正のコロナよりもずっと大きいが、しかしながら、電子は、より低い電位勾配の範囲にあるために、大部分がより低いエネルギーにある。従って、多くの反応に対して、電子密度の増加は、反応速度を増加させ、より低いエネルギーの電子は、より高い電子エネルギーを必要とする反応がより遅い速度で行われ得るということを意味する。
【0049】
正のコロナは、伝導体の長さに渡って均一なプラズマとして現される。放出の多くが紫外線であるが、正のコロナは、多くの場合に、青色/白色のグローとして観察される。プラズマの均一性は、2次電子なだれの均一なソースによるものである。同じ幾何形状と電圧とを用いて、正のコロナは、内側の範囲と外側の範囲との間の非イオン化プラズマ範囲の不在により、対応の負のコロナよりもやや小さく現れる。電子が非常に集中させられた湾曲した電極付近のエリアを除いて、正のコロナにおいては、負のコロナと比較して、ずっと少ない自由電子、おそらくは電子密度の千分の一であり、電子の合計数の百分の一である自由電子が存在する。この範囲は高い電位勾配を有し、より高いエネルギーを電子に持たせる。負のコロナにおける電子のほとんどが、外側のよりエネルギーの低い電界エリアにある。
【0050】
正のコロナにおいて、追加のなだれを生じさせる2次電子は、大部分は流体自体において、プラズマまたはなだれの外側の範囲において生成される。2次電子は、電子衝突後にプラズマの範囲内で生じる様々な非励起プロセスにおいて、そのプラズマから放出される光子によってもたらされるイオン化によって作り出される。それらの衝突において解放された熱エネルギーが、光子を作り出し、該光子は、気体の中に照射される。次に、中性の気体の分子のイオン化の結果生じた電子が、湾曲した電極に向けて戻るように電気的に引き付けられ、そして、プラズマの中に引き付けられ、プラズマの内部でさらなるなだれを作り出すプロセスを循環させる。
【0051】
正のコロナは、尖った電極の周囲で同心に2つの範囲に分割される。内部範囲は、プラズマとして働くイオン化電子と正イオンとを含み、この範囲における電子なだれは、さらに多くのイオン/電子の対を作り出す。外側範囲は、ほとんど全て、ゆっくりと遷移する質量のある正イオンから成り、該ゆっくりと遷移する質量のある正イオンは、この範囲のインタフェースの近くで、プラズマを出る光子によって解放された2次電子と共に、湾曲してない電極に向かって動き、該プラズマを出る光子によって解放された2次電子は、プラズマの中に再加速される。
【0052】
負のコロナは、不均一なコロナとして現され、湾曲した伝導体の表面特性と不規則性とに従って変動する。負のコロナは、多くの場合に、尖った縁においてコロナのふさとして現れ、ふさの数は、電界の強度によって変化する。負のコロナの形態は、2次電子なだれの負のコロナのソースの結果である。電子がイオン化範囲から出て行き、その結果、プラズマがコロナを越えてある程度の距離を持続するので、負のコロナは、対応する正のコロナよりも少し大きく現れる。電子の合計数、従って、電子の密度は、対応する正のコロナよりもずっと大きい。電子は正のコロナにおけるエネルギーよりも低いエネルギーである。なぜならば、電子はより低い電位勾配の範囲にあるからである。
【0053】
負のコロナは、構成に関して、正のコロナよりも複雑である。正のコロナに関して、コロナの確立は、外因性のイオン化イベントで開始し、1次電子を生成し、電子なだれが続く。
【0054】
正のコロナと負のコロナとの間の差は、2次電子なだれの生成に関するものである。正のコロナにおいて、なだれは、プラズマ範囲を囲む気体によって生成され、新しい2次電子が、内側に移動するが、負のコロナにおいては、なだれは、湾曲した電極自体によって生成され、新しい2次電子は外側に移動する。
【0055】
負のコロナの追加の構造特性は、電子の外側へのドリフトであり、この場合、電子は、中性の分子に遭遇し、酸素および/または水蒸気などの電気的に負の分子と結合し得ることにより、負のイオンを生成する。次に、これらの負のイオンは、正の湾曲されていない電極に付着させられ、「回路」を完了させる。
【0056】
負のコロナが、尖った電極周囲で3つの半径エリアに分割され得る。内側エリアにおいて、高エネルギー電子は、非弾性的に中性原子と衝突し、なだれを生じさせるが、通常は低エネルギーの外側の電子は、中性原子と結合することにより、負のイオンを生成する。中間範囲において、電子は、負のイオンを形成するために結合するが、一般的には、イオンなだれをもたらすには不充分なエネルギーを有する。電子は、存在する種の異なる極性と、特徴的なプラズマ反応に関係する能力とによって、プラズマの一部分のままである。外側領域において、負のイオンの流れと、より少なく、かつ、半径方向に減少する程度に正の電極に向かった自由電子の動きとだけが生じる。内側の2つの範囲は、コロナプラズマとして知られている。内側範囲は、イオン化プラズマであり、中間範囲は、非イオン化プラズマである。外側範囲は、単極範囲として知られている。
【0057】
考察されたように、コロナの原理は、尖ったニードルの先端においてほぼ無限の電界を作り出すために使用されている。実用のために、デバイスの先端は原子的に尖り、点電荷をしっかりと近づけるということが想定され得る。なぜならば、rがゼロに近づくにつれ、Eが無限大に近づくからである。コロナ効果は、デバイスの先端において開始される。
【0058】
電子のエネルギーと、生成の点源からの距離の関係とは、クーロンの法則から導き出された点電荷の電界に基づく。この法則は、任意の数の点電荷からの電界が、個々の電界のベクトルの和から獲得され得るということを示す。正の数は、外側の電界であると考えられ、負の電荷の電界は、外側の電界に向かっている。これは、式1で示され、かつ、図3に例示され得る。
【0059】
【数1】

【実施例】
【0060】
以下の実施例は、本発明の例示だけを意図しており、決して、本明細書において記述および教示されたものを限定するとして考えられるべきではない。
【0061】
(実施例1−分子プラズマ蒸着)
例示的な装置は、小さいアパーチャを有する真空チャンバと、堆積されることが所望される材料の懸濁液または溶液を保持するリザーバに接続されたチューブに接続された小さなボアの金属ニードルとを含む。リザーバは大気圧下にある。60kVまでを供給する能力を有する電源が利用され得るが、しかしながら、本明細書における実施例において使用される場合、ニードルに付される電圧は、一般的には、−5000ボルト〜+5000ボルトである。真空チャンバの内部の基板は、−60kV〜−60kVまでのバイアスを有するアパーチャに中心を合わせ、接地を含む。装置は、図1に例示されている。
【0062】
(実施例2−選択された環境下での分子プラズマ生成装置)
図2に例示された装置は、ニードルとチューブとリザーバとが排気された筐体内に配置されるが、他の気体の導入の制御を可能にするように改変され得る。任意で選択される気体は、アルゴン、酸素、窒素、キセノン、水素、クリプトン、ラドン、塩素、ヘリウム、アンモニア、フッ素、およびこれらの気体の組み合わせを含む。
【0063】
(実施例3−減圧下でのコロナ放電生成のための装置)
図1に示された装置において、コロナ放電と基板との間の圧力差は、約1気圧である。真空チャンバの外部の圧力は、約760トルであり、基板のエリアの圧力は、約0.1トルである。
【0064】
一方、図2に示された装置は、大気圧よりも高いか、または大気圧よりも低い所定の圧力で任意的に動作され得る。大気圧が、概して、プラズマの生成のためには好ましいが、約100mトルまでの減圧が、一部の場合において、満足な堆積を提供し得る。
【0065】
(実施例4−アミノ酸の分子プラズマ蒸着)
この実施例は、金のロッドへのアミノ酸の懸濁液の堆積を例示する。水の中で、アミノ酢酸(25℃において20g/lの溶解度)とアラニン(166.5g/l)とバリン(88.5g/l)とロイシン(24.26g/l)とアルギニン(235.8g/l)との混合物のコロイド状懸濁液を、直径1/8インチ、約0.75cmの金で覆われたロッドに、実施例1の装置を使用して堆積した。電源を、304ステンレス鋼の18ゲージのニードルに取り付け、−5000Vに設定した。金の基板を5000Vの電位に設定した。基板を、チャンバ内の穴に中心を合わせ、穴から5cmで配置した。真空チャンバを40mトルにポンピングし、コロイド状懸濁液の流れを開始した。堆積を30分間行った。
【0066】
コーティングされたロッドを、飛行時間2次イオン質量分光器(TOF−SIMS)に配置し、組成物の成分を分析した。結果は、アミノ酸を完全なままで堆積し、基板にイオン結合するということを示した。変化による質量の計算を、飛行時間分光測定法と共に、入射種の質量を計算するために使用した。これらの計算を、SIMSからのスペクトルを解釈するために使用した。m/qデータは、アミノ酸が表面から完全なままで排出されるということを示した。
【0067】
制御比較実験において、基板をアミノ酸混合物に浸漬し、上記のようにTOF−SIMSによって分析した。堆積方法だけによって生じるあらゆる影響を区別するために、これらのスペクトルを、コロナ堆積から生成されたアミノ酸スペクトルから減算した。両方のスペクトルにおいて、断片化を観察し、減算後、断片化は、堆積方法の影響ではなく、分析方法の影響であるということを決定した。なぜならば、断片化が両方のスペクトルにおいて均等に生じたからである。
【0068】
(実施例5−グラファイトの分子プラズマ蒸着)
イソプロピルアルコールの中のグラファイト粉末のコロイド状懸濁液(10g/100ml)を、図1に示された装置を使用して、酸化アルミニウム基板に蒸着した。
【0069】
電源を、304ステンレス鋼の18ゲージのニードルに取り付け、−5000Vに設定した。酸化アルミニウム基板を、接地に接続した。基板を、チャンバ内の穴に中心を合わせ、穴から5cmで配置した。真空チャンバを40mトルにポンピングし、コロイド状懸濁液の流れを開始した。堆積を30分間行った。基板をチャンバから取り外し、単純なオーム計の抵抗テストを行った。基板の抵抗は、30分の蒸着期間にわたって、無限大から1オームに変化した。
【0070】
(実施例6−酸化銅の分子プラズマ蒸着)
水の中で、酸化銅の粉末のコロイド状懸濁液(10g/100ml)を調製した。図2に例示された装置を使用して、高電圧電源を304ステンレス鋼の18ゲージのニードルに取り付け、−10,000Vに設定した。基板は、304ステンレス鋼であり、5000Vの電位に設定した。基板を、チャンバ内の穴に中心に来るように合わせ、チャンバ内の穴から5cmで配置した。真空チャンバを40mトルにポンピングし、コロイド状懸濁液の流れを開始した。基板への堆積を10分間続けることを可能にした。堆積プロセスの終了において、基板をチャンバから取り外し、単純なテープテストが、堆積された酸化銅の良好な付着を示した。基板と酸化銅との間の良好な付着を、テープテストを繰り返すことと、10分間、コーティングされたサンプルを超音波処理した後に、酸化銅を観察することとによって確認しており、フレーキングまたはスローイング(sloughing)の形跡はなかった。
【0071】
(実施例7−RNA塩基およびDNA塩基の分子プラズマ蒸着)
水の中で、グアニンとアデニンとシトシンとウラシルとチミンとのコロイド状懸濁液(それぞれ5g/100ml)を、実施例1の装置を使用して、面積約0.75cm、約直径1/8インチの表面を有する金で覆われたロッドに堆積させた。電源を304ステンレス鋼の18ゲージのニードルに取り付け、−5000Vに設定した。金の基板を5000Vの電位に設定した。基板を、チャンバ内の穴に中心を合わせ、穴から5cmで配置した。真空チャンバを40mトルにポンピングし、コロイド状懸濁液の流れを開始した。堆積を30分間行った。
【0072】
コーティングされたロッドを、飛行時間2次イオン質量分光器(TOF−SIMS)に配置し、組成物の成分を分析した。結果は、DNA塩基を完全なままで堆積し、基板にイオン結合するということを示した。変化による質量の計算を、飛行時間分光測定法と共に、入射種の質量を計算するために使用した。
【0073】
これらの計算を、SIMSからのスペクトルを解釈するために使用した。m/qデータは、塩基が完全なものとして表面から排出されるということを示した。別の堆積方法(塩基を含む混合物内に基板を浸漬すること)からのスペクトルも、コロナ効果を使用して堆積された塩基に対する制御として分析した。スペクトルを、コロナ効果のスペクトルから減算することにより、堆積方法だけによって生じるあらゆる効果を区別した。両方のスペクトルにおいて、断片化を観察し、減算すると、この観察は、堆積方法の産物ではなく、分析方法の産物であるということを決定した。なぜならば、断片化が両方のスペクトルにおいて均等に生じたからである。
【0074】
(実施例8−カタラーゼの分子プラズマ蒸着)
0.1%のチモールを有する水の中で、25mlの2倍に結晶化されたウシの肝臓のカタラーゼ(Sigma C100−58MG;056K7010)のコロイド状懸濁液を調製した。タンパク質の濃度は、33mg/mlであり、4.1x10U/mlの活性を有していた。
【0075】
図2に例示された装置を使用して、高電圧電源を304ステンレス鋼の18ゲージのニードルに取り付け、−5000Vに設定した。基板は、厚さ1/4インチ、直径1.5インチの、約11cmの面積を有する酸化アルミニウムのティスクであり、5000Vの電位に設定した。基板を、チャンバ内の穴に中心を合わせ、チャンバ内の穴から5cmで配置した。真空チャンバを40mトルにポンピングし、コロイド状懸濁液の流れを開始した。基板への堆積を10分間続けることを可能にした。堆積プロセスの終了において、基板をチャンバから取り外し、サンプルを5%の過酸化水素の溶液に配置した。結果は、表面からの酸素のバブリングを生成する、カタラーゼによる過酸化水素の触媒作用を示し、酵素が堆積プロセス全体を通して完全なままであるということを示した。
【0076】
基板をチャンバから取り除いた後に、10分間、サンプルを超音波水浴に配置したことを除いて、堆積を同じ条件の下で2回繰り返した。さらに、サンプルのうちの1つを、超音波水浴から取り外した後、10℃で72時間維持した。各場合において、5%の過酸化水素の溶液に対するサンプルの露出が、基板の表面から酸素のバブリングを生成した。超音波処理は、堆積された材料に影響せず、カタラーゼの安定した粘着コーティングが堆積したということを示した。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、分子プラズマ蒸着装置:真空チャンバ1、高電圧電源2、基板ホルダ3、基板4、高電圧電源5、ニードル6、ニードルに対するフィーダーチューブ7、リザーバ8の中へのオリフィス15、コロイド状懸濁液9の図である。
【図2】図2は、図1の装置:真空チャンバ1、高電圧電源2、基板ホルダ3、基板4、高電圧電源5、ニードル6、フィーダーチューブ7、リザーバ8の中へのオリフィス15、懸濁液9、2次チャンバ10、2次チャンバの気体供給源11、2次チャンバの気体供給線12、圧力調節器13、調節器からの気体線14の改変の図である。
【図3】図3は、点電荷に対する電場方程式の表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板への生体分子の堆積のための分子プラズマ法であって、
大気条件の下で、高電位勾配を有する伝導点源から排出された生体分子の溶液または懸濁液から、コロナ放電プラズマを生成することと、
該点源とは反対の誘導電位において基板を収容する、排気されたチャンバのオリフィスを通って該生成されたプラズマを導くことと、
を包含し、
該生体分子は、該基板に堆積される、方法。
【請求項2】
前記生体分子は、コロイド状懸濁液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液は、水、アルコール、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生成されたコロナ放電プラズマは、正の荷電プラズマまたは負の荷電プラズマを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生体分子は、アミノ酸、核酸塩基、またはポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生体分子は、炭素、酸化銅、アミノ酸、RNA塩基またはDNA塩基、カタラーゼ、およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生体分子は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、アルギニン、またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生体分子は、グアニン、アデニン、チミン、シトシン、ウラシル、またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記コロイド状懸濁液は、約100オングストロームと約10,000オングストロームとの間のサイズ範囲を有する粒子から構成される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記基板は、金属、セラミック、またはプラスチックである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
基板への生体分子の堆積のための分子プラズマ法であって、
荷電プラズマを生成するために、高電圧において、選択された生体分子の溶液または懸濁液を伝導先端から低真空の大気の中に噴霧することと、
接地に接続されているか、または該伝導先端の電圧とは反対の電圧において保持されている基板を収容する、排気されたチャンバの中にオリフィスを通って該荷電プラズマを導くことと
を包含し、
該生体分子は、該基板に堆積する、方法。
【請求項12】
前記生体分子は、炭素、酸化銅、アミノ酸、RNA塩基またはDNA塩基、カタラーゼ、およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生体分子は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、アルギニン、またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記生体分子は、グアニン、アデニン、チミン、シトシン、ウラシル、またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記懸濁液は、約100オングストロームと約10,000オングストロームとの間のサイズ範囲を有する粒子から構成されるコロイド状懸濁液である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記溶液または前記懸濁液は、水、アルコール、グリコール、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記チャンバ内の真空は、100mトル未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記伝導先端に印加される電圧は、15,000ボルトの範囲内の正または負の電圧である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記液体は、100mトル〜大気圧までの範囲内で真空の中に噴霧される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記基板に堆積された前記生体分子は、元々の構造/機能を実質的に保持する、請求項11に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−528155(P2009−528155A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556315(P2008−556315)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/001103
【国際公開番号】WO2007/106212
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508225037)カメレオン サイエンティフィック コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】