説明

コロストリニン、およびその使用方法

【課題】哺乳動物の初乳から得られるポリペプチドであり、免疫向性活性、精神向性活性を有するコロストリニンの使用方法を提供する。
【解決手段】コロストリニンを栄養補助剤として使用し、固体又は液体の形態で供せられるコロストリニンの使用方法。特に、生理的に許容可能な賦形剤と組み合わせて生成された、隔離した形態でのコロストリニンを包含する経口薬としての使用方法。該栄養補助剤は、化学療法の対象にされた乳児、小児、成人、及び/又は悪液質に羅漢した成人、又は慢性疾患により体重減少した成人のための栄養補助食品として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロストリニン、および医薬品としてのその使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
初乳は、分娩後数日中に哺乳動物の母乳房より産生される濃厚な、黄色の液体である。初乳は、分娩後、約4日乃至5日で成熟母乳に取って代わる。成熟母乳に比べ、初乳に含まれる糖は少ない。しかし、初乳には脂質、蛋白質、無機塩類、ビタミンおよび免疫グロブリンが豊富である。また、顆粒細胞および間質細胞など各種浮遊細胞、好中球、単球/マクロファージおよびリンパ球を含むとともに、成長因子、ホルモンおよびサイトカインを含んでいる。
【0003】
各種因子は哺乳動物の初乳から分離され、特徴づけられている。1974年、ヤヌツ(Janusz)ら(FEBS Lett.,49,276−279)は、ヒツジの初乳からプロリンが豊富なポリペプチド(PRP)を分離した。この引例の内容は本願中に引例によって組み込まれている。以来、ヒツジ以外の哺乳動物はそれらの初乳の成分としてPRPの類似物を有することが発見されている。PRPはそれ以来、コロストリニンと呼ばれており、新しいクラスのサイトカインとして暫定的に同定されている。
【非特許文献1】1974年、ヤヌツ(Janusz)ら(FEBS Lett.,49,276−279)
【非特許文献2】「プロリンが豊富なペプチド(PRP)−ヒツジ初乳からの免疫修飾ペプチド」(Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis,1993,41,275−279)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヤヌツらは「プロリンが豊富なペプチド(PRP)−ヒツジ初乳からの免疫修飾ペプチド」(Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis,1993,41,275−279)において、ヒツジ初乳からのPRPはマウスにおいて免疫向性活性を有することを指摘した。しかし、この文書にはPRPが他の動物に対する治療的効果があることは示されていない。組成物がマウスに対して治療的効果があるということが、他の動物に対する治療的効果があると示しているとみなすことはできないと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
われわれは現在、コロストリニンにはこれまでに未知の多くの治療的効果があることを見出している。特に、われわれはコロストリニンによって免疫向性活性が得られるとともに、精神向性活性が得られることを見出している。
【0006】
本発明の1つの態様により、われわれは医薬品として使用するためのコロストリニンを提供する。このコロストリニンは非げっ歯哺乳動物用の医薬品としても使用することができ、われわれはコロストリニンが特にヒトの治療用医薬品として有用であることを見出した。
【0007】
本発明の別の態様により、中枢神経系の障害または免疫系の障害を治療するための医薬品の製造におけるコロストリニンの使用方法が得られる。
【0008】
本発明の有利な実施例において、コロストリニンは中枢神経系の障害、特に中枢神経系の慢性疾患の治療のために使用される。コロストリニンで治療できる中枢神経系の障害として、神経障害および精神障害が挙げられる。
【0009】
コロストリニンにより有利に治療できる神経障害の例として、痴呆、および神経変性障害など痴呆の原因となる障害が挙げられる。神経変性障害として、たとえば、老年性痴呆および運動ニューロン疾患が挙げられ、パーキンソン病はコロストリニンで治療できる運動ニューロン疾患の例である。コロストリニンは特にアルツハイマー病として知られる神経変性疾患の治療において有効であることが明らかにされている。
【0010】
コロストリニンにより有利に治療できる精神障害の例として、精神病および神経症が挙げられる。たとえば、コロストリニンを用いて、情動障害、特にうつ状態の精神病患者の情動障害を治療することができ、コロストリニンの使用は、福利の感情の改善および気分安定化により患者を助けることが明らかにされている。コロストリニンは、解毒期間後の薬物依存症、および興奮薬依存患者における補助回収としても用いることができる。
【0011】
本発明の別の有利な実施例において、コロストリニンは免疫系、特に免疫系の慢性疾患の治療において使用される。したがって、われわれはコロストリニンが免疫調節を必要とする疾患の治療において使用できることを見出した。特に、われわれはコロストリニンがヒトを含む非げっ歯動物のこのような疾患の治療に有用であることを見出した。コロストリニンは免疫および感染基礎の各種疾患の治療において有用である。たとえば、コロストリニンを用いて、細菌性およびウイルス性病因の慢性疾患を治療するとともに、たとえば、腫瘍の化学療法または放射線療法後に進展した後天性免疫不全を治療することができる。本発明は特に非特異的免疫刺激および免疫矯正を必要とする慢性細菌性およびウイルス性感染症の治療に有用である。
【0012】
一般に、慢性疾患は、通常少なくとも1週間、さらに通常1カ月、および多くの場合、少なくとも3カ月または少なくとも6カ月の長期間にわたって持続する疾患である。
【0013】
新生児の免疫系の進展を改善するためにコロストリニンを使用することが本発明の特徴である。さらに、コロストリニンを用いて小児における免疫不全を矯正することが本発明の特徴である。コロストリニンのこれらの使用は特に初乳が失われた乳児または小児に適用可能である。これは、たとえば、出産から母乳が供給されなかった乳児および小児においてみられ、このような乳児および小児に与えられる人工栄養はコロストリニンを含有しない。
【0014】
本発明の別の態様により、われわれは栄養補助剤としてのコロストリニンの使用方法を提供する。コロストリニンは特に免疫系の進展における不足を矯正するために乳児および小児用の栄養補助剤として有利に使用される。上述したように、これらの不足は出産から母乳が供給されなかった乳児および小児において生じるとみられる。コロストリニンは化学療法の対象となった成人、または悪液質に罹患した成人、または慢性疾患により体重減少した成人用の栄養補助剤としても用いることができる。本発明の態様において、われわれは生理的に許容可能な賦形剤と組み合わせた経口摂取可能な併用を含む栄養補助剤を提供する。この栄養補助剤は液体または固体の形で提供され、またこの栄養補助剤は錠剤の形で適切に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に従って、コロストリニンは中枢神経系および免疫系の疾患の進展を予防するために予防的に投与することができる。
【0016】
上述した本発明の態様に用いられるコロストリニンはヒツジのコロストリニンであること、またはヒツジ以外のコロストリニンであることもできる。ヒツジ以外のコロストリニンは、たとえば、ヒト、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ヤク、ラマおよびロバから由来されるものとされる。初乳は通常、分娩後1日乃至4日間、これらの動物の初乳に存在する。
【0017】
本願中で用いられる用語「コロストリニン」は、その天然の形状において、哺乳動物の初乳から得られるポリペプチドを指す。コロストリニンはときに「コロストリニン」として知られ、以下の特性を有する:
(i)16,000ダルトン乃至26,000ダルトンの範囲の分子量を有する。
【0018】
(ii)5,000ダルトン乃至10,000ダルトン、好ましくは6,000ダルトンの範囲の分子量を有する各サブユニットの二量体または三量体のサブユニットである。
【0019】
(iii)プロリンを含有し、プロリンの量はその他のいずれの単一アミノ酸の量を上回る。
【0020】
われわれは、コロストリニン、およびコロストリニンを生成するサブユニットも無極性であるあることを見出した。
【0021】
分子量は、SDSの存在下に電気泳動により測定することができ、二量体または三量体の存在は、同じ方法により示すことができる。サブユニット間の結合は還元状態および非還元状態における電気泳動により非共有結合である。プロリンの存在は在来のアミノ酸分析により確認することができる。
【0022】
無極性は無極条件下にクロマトグラフィにより証明することができる。
【0023】
本発明に使用されるコロストリニンはヒツジのコロストリニンまたはヒツジ以外のコロストリニンであってもよい。ヒツジのコロストリニンは分子量が約18,000ダルトンであり、約6,000ダルトンの分子量を有するそれぞれ3つの非共有結合サブユニットで形成され、約22wt%プロリンを含む。このアミノ酸組成物はサブユニット当たり以下の数の残基で形成されている: リシン−2、ヒスチジン−1、アルギニン−0、アスパラギン酸−2、トレオニン−4、セリン−3、グルタミン酸−6、プロリン−11、グリシン−2、アラニン−0、バリン−5、メチオニン−2、イソロイシン−2、ロイシン−6、チロシン−1、フェニルアラニン−3、およびシステイン−0。
【0024】
上述した通り、その天然形態におけるコロストリニンは哺乳動物の初乳から誘導される。コロストリニンは初乳から脂質および大部分の蛋白質を除去することにより哺乳動物の初乳から誘導することができる。概して、コロストリニンは、たとえば、カラムクロマトグラフィ法および他の生化学的方法を用いて大型飼育動物の初乳から得ることができ、または遺伝子工学法により得ることができる。
【0025】
特に、コロストリニンは以下のステップを用いることにより哺乳動物の初乳から分離することができる。
【0026】
(i)たとえば遠心分離により脂質を除去するステップ、
(ii)たとえば、pHを低下させることにより、カゼインなど蛋白質を除去するステップ、
(iii)たとえば、
(a)イオン交換クロマトグラフィによる脂質および蛋白質の除去後に形成されるホエーを処理するステップと、
(b)リン酸緩衝食塩水で溶出し、免疫グロブリン、たとえばヒツジのIgG2に結合したコロストリニンを含有する画分を採集するステップと、により免疫グロブリンに結合したコロストリニンを分離するステップと、
(iv)免疫グロブリンから、たとえばクロマトグラフィをふるい分けすることによりコロストリニンを分離するステップと、
(v)さらに免疫グロブリンからコロストリニンを分離し、
(a)分子量30,000ダルトン以下の画分を脱塩するステップと、
(b)免疫グロブリンに抗体に導入することにより、このクラスの蛋白質を除去し、最終産物を得るステップと、によりコロストリニンを精製するステップ。
【0027】
上の規定は天然に発生する哺乳動物のコロストリニンに関するものであるが、本願中で用いるコロストリニンという用語は、実質的に同じ生物学的活性を有するその類似物および断片、および哺乳動物のコロストリニン、組換え型DNA法により産生されるその類似物およびその断片をも含む。本願中で用いられるコロストリニンは、ポリペプチド合成により生成された天然コロストリニンと実質的に同じ組成の生物学的に活性のポリペプチドをも含む。
【0028】
本発明の別の態様において、コロストリニンを用いた中枢神経系および免疫系の疾患を治療する方法が提供される。本発明による方法を用いて有利に治療することができる疾患は上述されている。好ましい実施例において、コロストリニンは毎日約1乃至2治療単位で第1の期間に投与し、その後はコロストリニンが投与されない第2の期間とする。第1の期間は約2週乃至4週であることが好ましく、さらに好ましくは約3週であり、第2の期間は約2週乃至5週が好ましく、さらに好ましくは約4週である。この周期は少なくとも1回反復されることが好ましく、さらに好ましくは1回以上反復されることである。
【0029】
本発明の方法において使用するための治療単位は25μg乃至1,000μgの範囲のコロストリニンが好ましく、さらに好ましくは50μg乃至100μgである。
【0030】
コロストリニンは適切な形態における投与のために調製することができる。たとえば、経口、直腸または非経口投与のために調製することができる。特に、コロストリニンは、注射、または、好ましくは、食道または他の粘膜表面から口/鼻咽腔の粘膜を通じた吸収に適した形状における投与のために調製することができる。経口調製液は嚥下用の形状、または好ましくは唾液中で溶解するための形状で提供されることにより、調製液は口/鼻咽腔の粘膜において吸収される。経口調製液は、経口投与用の錠剤、バッカル剤(すなわち、口内に保持され、吸引されるために適した形状の甘味様錠剤)、ガム質にすり込むための粘着性ゲルの形状であってもよい。コロストリニンはガム質に適用される粘着性硬膏またはパッチとして調製することができる。コロストリニンは尿生殖器の粘膜に適用するために調製することもできる。
【0031】
もちろん、コロストリニンを全初乳の形で投与することは可能であるが、全初乳には不快な味があり、保存が困難であるため、これは好ましくない。
【0032】
本発明において使用するためのコロストリニンは、ヒト源またはウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ヤク、ラマまたはロバ、ラクダ等など動物を含む哺乳動物から得ることができる。
【0033】
コロストリニンの試験はヒツジおよびヒトのコロストリニンを用いて実施された。ヒツジのコロストリニンはコロストリニンTMの商標で市販されている。
【0034】
実験動物での試験時、コロストリニンは、活性T細胞に対する胸腺細胞の転調の特性、分化の進展および成熟、および胸腺細胞での各種表面マーカーの発現の誘導に基づきin vivoおよびin vitroで免疫向性活性により特徴づけられることがわかった。マウスの腹腔内投与において、コロストリニンはNZB系のマウスにおける溶血性貧血の発生を抑制し、マウスの肉腫180の増殖を抑制するとともに、γ線に暴露したマウスにおいてX線宿酔から動物を保護する。マウスでの毒性学的試験では、経口および非経口投与後にきわめて低い毒性を示したが、LD50は体重の1.25g/kgである。コロストリニンはヒトおよび実験動物における免疫活性細胞の増殖、成熟および分化の刺激能を示す。ヒト抹消血のリンパ球の培養(臍帯血から分離したリンパ球の培養を含む)において、コロストリニンはサイトカイン、特にγインターフェロン(IFN−γ)、腫瘍壊死因子(たとえば、IL−6およびIL−10)および各種増殖因子の産生を刺激するという点で特徴づけられる。産生されるサイトカインは既知の方法により量的に測定される。
【0035】
天然状態において、その生化学的特性を処理したヒツジのコロストリニンの類似物は、分娩後1〜4日間にヒトの初乳および全動物、特にウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ヤク、ヒツジ、ラマまたロバ、ラクダ等など大型飼育動物の初乳に存在する。コロストリニンは母初乳の吸引および嚥下時に新生動物の体内に入る。低分子量のため、コロストリニンは細胞受容体を介して口/鼻咽腔の粘膜に対して作用することが可能であり、通常の拡散の結果としても可能である。消化管上部の粘膜および上皮は一定の免疫調節薬のための受容体を含むため、研究において、吸引のための錠剤および舌下錠剤、嚥下のための錠剤およびカプセルの形状、粘着性ゲルの形状、およびガム質に固着するための粘着性硬膏の形状で投与することができる。コロストリニンは尿生殖器官の粘膜に適用することもできる。
【0036】
コロストリニンにより誘発される生化学的活性を明らかにするための科学的研究では、分娩後1〜7日後の期間に女性から採集したヒト初乳を用いた場合に同様の生物学的活性の存在が示された。ヒト源のコロストリニンを分離するために用いた方法は、飼育動物の初乳、特にヒツジ初乳から得る方法と類似したものであった。分娩後1〜7日の女性の乳腺により分泌される初乳はポリペプチドコロストリニンを含み、その量は授乳によって決まり、約300mgが1l(リットル)の初乳中に検出される場合、2〜3日が最適である。ヒトのコロストリニンのこの量はヒツジ初乳に見られる範囲である。ヒトのコロストリニンは、たとえばヒツジの類似物と同様の多くの生物学的特性を有することが証明された。ヒト初乳から由来のコロストリニンは初乳に存在するリンパ球、および臍帯血リンパ球を刺激し、主にインターフェロン(IFN−γ)、腫瘍壊死因子TNF−α、インターロイキン(IL−10およびIL−6)および他のサイトカインを刺激することが明らかにされた。
【0037】
ヒトおよび動物源のコロストリニンの生物学的活性は、ポーランド特許(PL 170592 B1)および欧州特許EP−B−0609225,pt:免疫学試験によって既知の方法により測定された。
【0038】
ボランティア被験者の試験において、毎日少なくとも1回の用量での少なくとも25μgコロストリニンを含む吸引用錠剤の投与後、約3週間にわたり、有害な反応が確認されないことがわかった。一方、インターフェロンIFN−γおよび部分的に腫瘍壊死因子TNF−αの誘発に対する反応性低下の状態が生じる。コロストリニンの投与中止後、反応性低下の状態は正常に戻る。こうして得られた反応は、Th1およびTh2リンパ球およびヘルパー細胞により産生されるサイトカインが関わった結果である。
【0039】
また、臨床試験時、コロストリニンは免疫調節効果および中枢神経系に対する効果を示し、これらは以下の疾患において予防的および治療的に利用することができる。すなわち、たとえばアルツハイマー病の発生、進行の予防のため、および寛解のため、一部の他の原因の老年性痴呆および免疫的および感染基礎の慢性疾患の治療においてである。
【0040】
コロストリニンの代わりに、以下の組成およびアミノ酸配列を有するノナペプチド指定NPを用いることができる:Val−Glu−Ser−Tyr−Val−Pro−Leu−Phe−Pro。NPはキモトリプシンによる消化およびカラムクロマトグラフィによる分離、または化学合成の手段によりコロストリニンから得ることができる。NPはコロストリニンの有用なフラグメントの例である。コロストリニンに対する同様の生物学的効果を示し、特に、上述した慢性免疫障害および中枢神経系障害、特にアルツハイマー病を治療するために有用であることが明らかにされている。NPを用いて上述した障害のいずれも治療することができる。栄養補助においても使用することができる。これはコロストリニンと同じやり方で調製することができる。NPは哺乳動物、特にヒトの治療のために有用である。
【0041】
本発明をさらに完全に理解するために、例として添付実施例のみに引例を作成する。
【実施例】
【0042】
<実施例I>
分子量6000ダルトンの3つの非共有結合サブユニットから構成される分子量18000ダルトンのヒツジのコロストリニンにおいて、各サブユニットは以下のアミノ酸組成を有した:

コロストリニンは、授乳開始後24時間までの分娩後に取られるヒツジ初乳から得た。脂肪およびカゼインの一部を除去するために、35000xgで材料を遠心分離した。得られたIg画分をDEAEセルロースカラムにかけ、ポリペプチドコロストリニンと複合した免疫グロブリンIgG2を分離し、カラムからの溶出時にSephadex G−100でのカラムクロマトグラフィによりIgG2からコロストリニンを分離し、さらにSephadex G−100でクロマトグラフィを行った。次に、このペプチドの画分をヒツジIgG2に対する抗体と結合したセファロースのカラムにかけ、IgG2汚染の痕跡を除去した。得られた製剤をSephadex G−25により脱塩し、凍結乾燥させたのち、温度+4℃または−20℃で保存した。
【0043】
こうして得られたコロストリニンは、商標コロストリニンTMで示されている。
【0044】
SDS存在下のポリアクリルアミドゲル電気泳動において、分子量5800ダルトンに対応する強い結合が1つ確認され、分子量12400ダルトンおよび18200ダルトンに対応する弱い結合が2つ確認された。
【0045】
<実施例II>
組成およびアミノ酸配列Val−Glu−Ser−Tyr−Val−Pro−Leu−Phe−Proを有するノナペプチドNPは、実施例Iで生成されたコロストリニンから得た。
【0046】
50mgのコロストリニンを温度30℃下に20時間、蛋白分解酵素キモトリプシンの10活性単位により消化した。消化産物からの分離は、SephadexG−10を用いた少なくとも1サイクルのカラムクロマトグラフィにより行った。得られた製剤を凍結乾燥させ、温度+4℃または−20℃で保存した。分離ノナペプチドをN末端アミノ酸を決定する手段により分離した。
【0047】
<実施例III>
以下の組成物による吸引用の錠剤型における投与単位
組成:
活性成分: 実施例Iに従って得られたコロストリニン
(Colostrinin(登録商標))ポリペプチド 0.0001g
安定剤: 不純物として主にI.P.S.を
含まないアルブミン 0.000135g
潤滑剤/結合剤:ステアリン酸マグネシウム 0.003g
賦形剤: マニトール 0.15g(0.1497g)
上の成分を0.0001M NaCl中に懸濁した。吸引用錠剤は、アルツハイマー病を含む主に初期および後期の痴呆、および各種病期の老年性痴呆の治療、非特異的免疫刺激および免疫矯正を必要とする慢性細菌性およびウイルス性感染症および各種薬剤が原因の後天性免疫不全の治療のために使用される。また、特に精神病患者のうつ状態における情動障害で使用し、福利の一般的感情を改善して気分を安定化させるとともに、解毒期間後の薬物依存症、および興奮薬依存患者における補助回収としても用いられる。コロストリニンTMは人工栄養と関連した栄養不全を矯正するために新生児および小児において用いることもできる。
【0048】
<実施例IV>
以下の組成物により粘膜に適用するためのゲルの形状での製剤
活性成分: 実施例Iに従って得られたコロストリニンTMポリペプチド
安定剤: アルブミン
ゲル賦形剤: ペクチン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースの
ナトリウム塩および炭化水素ゲルを含有するオラバーゼ−
プレイン(Orabase-Plain(登録商標)
ポリペプチドコロストリニンTM0.0003gおよびアルブミン0.0015gをゲル賦形剤1ml当たりで使用した。こうして調製された投与単位は、主に口腔および上気道の細菌性およびウイルス性感染症の周期性治療のために使用される。
【0049】
<実施例V>
筋内、皮下または静脈内注射の形状での製剤。
【0050】
活性成分: 実施例Iに従って得られたコロストリニンTMポリペプチド
安定剤: 不純物を含まないヒトアルブミン
賦形剤: 滅菌、非発熱水
ポリペプチドコロストリニンTM0.0003g、アルブミン0.0015gおよび抗菌剤として、0.001%Merthiolate、すなわちethylmercurithiosalicylic asidのナトリウム塩を1mlアンプル当たりで使用した。こうして得られた投与単位は主に細菌性感染症およびウイルス性感染症の周期的治療のために用いられる。
【0051】
<実施例VI>
筋内、皮下または静脈内注射の形状での製剤。
【0052】
活性成分: 実施例Iに従って得られたNP
安定剤: 不純物を含まないヒトアルブミン
賦形剤: 滅菌、非発熱水
NP0.0003g、アルブミン0.0015gおよび抗菌剤として、0.001%Merthiolate、すなわちethylmercurithiosalicylic asidのナトリウム塩を1mlアンプル当たりで使用した。こうして得られた投与単位は主に細菌性感染症およびウイルス性感染症の周期的治療のために用いられる。
【0053】
<実施例VII>
周期的治療で実施例IIIにおける状態の剤型の薬剤を服用したボランティア健常者および患者から採取した血液のin vitroでのポリペプチドコロストリニンTMによるサイトカインの誘導を以下の通り実施する。
【0054】
保存剤を含まないヘパリン1ml当たり10単位を含む全血をRPMI1640培地で1:10の比で希釈する。培養はインデューサー(陰性対照)のない同じ培地、またはポリペプチドコロストリニンTM1〜100μg/mlの存在下またはフィトヘムアグルチン(PHA)の2μg/ml血およびリポ多糖体(LPS)の2μg/ml血の存在下、温度37℃、5%炭酸ガスの環境下、20時間にわたって行う。PHAとLPSの混合液を含む試料が陽性対照であり、それらにより最大量のサイトカインが刺激される。試験結果を表1および表2に示す。それらは濃度1〜100μg/mlでコロストリニンTMが用量依存的にサイトカインの産生を刺激することを示している。陰性対照(インデューサーなし)に対して、これらの結果は統計的に有意である(P<0.0001)。アルツハイマー病患者はIFN産生能の低下を示し、わずかな程度にTNF産生能の低下も示している。
【0055】

(表1)
健常ボランティアおよびアルツハイマー病患者の全血中に存在するリンパ球の培養におけるヒツジからのコロストリニンTM(シリーズA1993)によるサイトカインの誘導。
【0056】

健常ボランティア群(22人)は異種であった(年齢範囲20〜64歳)。アルツハイマー患者群(50人)も異種であった(年齢63±7.5歳)。高い標準偏差(±SD)にもかかわらず、インデューサーなしの対照(欠)とコロストリニンTM間の差は統計的に有意であった(p<0.001)

(表2)
健常ボランティアおよび各種疾患患者の全血を用いた実験におけるヒツジからのコロストリニンTM(シリーズA1993)によるインターフェロン(IFN)の産生刺激の例
────────────────────────────────────


注:IFN の存在についてのバイオ試験では各種類のインターフェロンの濃度を測定するが、ELISA試験では免疫活性IFN−γの濃度のみを測定する。
【0057】

<実施例VIII>
ウロルワフの専門家地区病院婦人産科より得た臍帯血。分娩後4〜6時間に採取した臍帯血のリンパ球におけるin vitroコロストリニンTMによるサイトカインの誘導を以下のようにして実施する。
【0058】
100ml当たり5.7gの成分フィコール400および9.0gの成分Diatrizoate Sodiumを含むFiscoll−Paque(登録商標)グラジエントを用いてリンパ球を分離する。分離したリンパ球を培地1ml当たり2×10リンパ球の密度でのRPMI培地に懸濁する。濃度1〜20μg/mlのコロストリニンTMまたは濃度10μg/mlでのフィトヘムアグルチンをリンパ球懸濁液に添加する。培地を温度37℃で20時間培養する。次に培養液中のサイトカイン濃度を生化学的方法により測定する。典型的な例を表3に示す。濃度1〜100μg/mlでのコロストリニンTMは、古典的IFN−γインデューサー−フィトヘムアグルチンにより示されたのとほぼ同じサイトカイン(IFNおよびTNF)の刺激能を有する。
【0059】
(表3)
臍帯血(CBL)から分離したリンパ球の培養におけるコロストリニンTM(シリーズA1996)によるサイトカインの誘導

N−試験したCBL試料の数
スチューデントt検定における差コロストリニンTMの有意性の確率
−「欠」はIFNおよびTNFについてp<0.001。
【0060】

臍帯血は未熟幹細胞が豊富であり、これらには造血細胞および各種免疫活性細胞の再生能があるため、得られた結果は、コロストリニンTMは幹細胞の成熟を大幅に促進することを示している。得られた結果は、各種類の免疫不全の治療や、たとえば損傷、感染、化学療法および放射線治療後に造血系を刺激するために、コロストリニンTMを使用することが可能である。生物医学的試験において、同様の活性の天然源の物質はきわめて稀にしか見られない。
【0061】
<実施例IX>
中枢神経系の障害を治療する方法は、アルツハイマー病の初期および中期のボランティア患者群で試験した。投与単位を実施例Iおよび実施例IIIにおいて規定したコロストリニンTM0.00015gを含む吸引用の錠剤型で食間に投与した。最初に、1日1錠を3週間使用し、2〜4週間治療を中断し、1日2錠を3週間投与することにより治療を反復した。コロストリニンTM治療により低反応性または耐性の状態が誘発された。これはIFNおよび腫瘍壊死因子TNF−αの合成能がないことで明らかにされる。この現象により活性剤の活動を量的に測定することができる。
【0062】
これらの薬の投与を中止すると、耐性の状態は自然に逆転する。コロストリニンTMに対する一時的耐性の状態はTh1およびTh2リンパ球のほか、単球、マクロファージ、樹状細胞、および内皮細胞やそれらの産物などヘルパー細胞により産生されるサイトカインが関わった結果である。その結果、接触や気分の改善がアルツハイマー病患者において確認された。
【0063】
図1は、3週間1日おきに100μg錠のコロストリニンTMが投与された女性のアルツハイマー病患者(J.M.)におけるγインターフェロン(IFN−γ)を誘導する低反応性(部分的耐性)の状態の出現および自然消失を示す。このあと、治療は3週間休止した(休止時、インデューサーに対する耐性は正常に戻る)。コロストリニンTMおよび対照インデューサー(PHA−10μg/ml)によるIFN−γの刺激を試験するための血液試料を毎日採取した。サイトカインの誘導およびそれらの量的測定のための試験を実施する方法は前節に述べた。
【0064】
誘導IFN−γ濃度の測定結果は、低反応性がコロストリニンTM(1日おきに100μg錠)を投与した第1週の間に出現し、治療の第3週で最大であることを示した。IFN−γの誘導に対する耐性状態の逆転は、治療を休止した3週間(すなわち治療開始後6週目)に自然に生じた。さらに、このチャートはヒツジのコロストリニンTM(OvCal)に対して「特異的」である低反応性が観察の6週間に維持されていたが、PHAに対する低反応性は完全に消失したことを示す。
【0065】
<実施例X>
中枢神経系の障害を治療する方法は、アルツハイマー病の初期および中期のボランティア患者群で試験した。投与単位を実施例IIにおいて規定したNP0.00015gを含む吸引用の錠剤型で食間に投与した。最初に、1日1錠を3週間使用し、3週間治療を中断し、1日2錠を3週間投与することにより治療を反復した。NP治療により低反応性または耐性の状態が誘発された。これはIFNおよび腫瘍壊死因子TNF−αの合成能がないことで明らかにされる。この現象により活性剤の活動を量的に測定することができる。
【0066】
これらの薬の投与を中止すると、耐性の状態は自然に逆転する。NPに対する一時的耐性の状態はTh1およびTh2リンパ球のほか、単球、マクロファージ、樹状細胞、および内皮細胞やそれらの産物などヘルパー細胞により産生されるサイトカインが関わった結果である。その結果、接触や気分の改善がアルツハイマー病患者において確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】3週間1日おきに100μg錠のコロストリニンTMが投与された女性のアルツハイマー病患者(J.M.)におけるγインターフェロン(IFN−γ)を誘導する低反応性(部分的耐性)の状態の出現および自然消失を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔離した形態でのコロストリニンの栄養補助剤としての使用。
【請求項2】
請求項1に記載した使用において、化学療法の対象にされた乳児、小児、成人、及び/又は悪液質に羅漢した成人、又は慢性疾患により体重減少した成人のための栄養補助剤としてのコロストリニンの使用。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した使用において、前記栄養補助剤が固体又は液体の形態で供せられることを特徴とするコロストリニンの栄養補助剤としての使用。
【請求項4】
生理的に許容可能な賦形剤と組み合わせて生成された、隔離した形態でのコロストリニンを包含する経口薬を有することを特徴とする栄養補助剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−174561(P2008−174561A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31513(P2008−31513)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【分割の表示】特願平10−516329の分割
【原出願日】平成9年10月3日(1997.10.3)
【出願人】(508045538)ルートヴィック ヒルシフェルト インスティテュート オブ イミュノロジー アンド エクスペリメンタル セラピー ポゥリッシュ アカデミー オブ サイエンシズ (1)
【出願人】(508045239)ジョージアディス バイオテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】