説明

コロナ帯電式静電粉体塗装方法

【課題】コロナ帯電式静電粉体塗装方法において、被塗物の端面部の塗膜が厚くなったり、ユズ肌や静電反発による塗装不良が起こったりするという問題を解決する。
【解決手段】塗装ガン1が被塗物Aの端面部付近から被塗物を超えた位置にある時、例えば、塗装ガン1を上下動させて被塗物に粉体塗料を塗布する場合は、被塗物Aの上下端部から折り返して被塗物Aに戻るまでの間、あるいは被塗物Aが所定間隔で並んで移動する場合は、被塗物Aと被塗物Aとの間で、塗装ガン1からの粉体塗料の吐出を維持した状態のまま、塗装ガン1の高電圧発生器への通電を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コロナ帯電式静電粉体塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コロナ帯電式静電粉体塗装方法は、高電圧発生器を内蔵したコロナ帯電式静電粉体塗装ガン(以下、「塗装ガン」と略す)を使用し、高電圧発生器によってガン先にコロナ放電をさせ、このコロナ放電により塗装ガンと被塗物の間の空気をイオン化させることによってできた電場で、粉体塗料を帯電させて被塗物に付着させる塗装方法である。
【0003】
コロナ放電によって発生したイオンのうち、粉体塗料の帯電に使用されるのはほんの一部であり、大部分のイオンは、フリーイオンとして、塗装ガンと被塗物周辺に存在する。
このフリーイオンが、コロナ帯電式静電粉体塗装方法において塗装不良の要因となる「静電反発」や「ファラデーケージ現象」を起こすといわれている。
「静電反発」とは、被塗物表面に、帯電した粉体塗料が付着すると、粉体塗料層内部の電場が上がり、さらに粉体塗料を塗布し続けると、電場の強さが最終的には粉体塗料層内に閉じ込められた空気をイオン化するまでになり、このイオン化で発生した陽のイオンが、陰極すなわち周辺のフリーイオン集団、もしくは帯電粒子に向かって粉体塗料層から出て行く際に、小さなスパークが起こる現象をいう。このスパークによって発生する小さなくぼみは、オレンジピールとよばれ、塗装表面の品質を大幅に低下させる。
【0004】
次に、「ファラデーケージ現象」は、発生した電場による電気力線が被塗物のエッジ部分に集中し、くぼんだ部分や溝の内面への塗装ができない現象をいう。
このくぼんだ部分や溝の内面への塗装ができないという現象は、単に電気力線が溝の入口エッジ部分に集中するためだけではなく、その結果としてエッジ部分への塗料の付着が早く、この部分で静電反発が始まると、後続の帯電塗料が次々と中和されて、溝の内部にほとんど付着しなくなるということが起こっていると考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コロナ帯電式静電粉体塗装方法においては、フリーイオンは、被塗物の平面部分にも到達するが、そのほとんどが上記の通り、被塗物の端面部(エッジ部)に集中することになる。
【0006】
したがって、レシプロケーター等の自動昇降装置によって塗装ガンを、被塗物に対して均一なスピードで移動させながら塗装を行っても、被塗物の上下の端面部において、塗膜が厚くなったり、ユズ肌や静電反発による塗装不良が起こったりするという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、コロナ帯電式静電粉体塗装方法において、被塗物の端面部の塗膜が厚くなったり、ユズ肌や静電反発による塗装不良が起こったりするという問題を解決し、被塗物全面に均一で平滑な被膜を形成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、塗装ガンと被塗物とを相対的に移動させながら粉体塗料の吐出を行うコロナ帯電式静電粉体塗装方法において、塗装ガンが被塗物の端面部付近から被塗物を超えた位置にある時、例えば、塗装ガンを上下動させて被塗物に粉体塗料を塗布する場合は、被塗物の上下端部から折り返して被塗物に戻るまでの間、あるいは被塗物が所定間隔で並んで移動する場合は、被塗物と被塗物との間で、塗装ガンからの粉体塗料の吐出を維持した状態のまま、塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断するようにしたのである。
この発明において、塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断するとの概念は、塗装ガンの高電圧発生器の電圧を零にする以外に、粉体塗料が帯電しない電圧まで下げる意味で使用する。
【0009】
上記のように、塗装ガンが、被塗物の端面部を通過して被塗物まで戻ってくる間や、被塗物と被塗物との間において、塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断すると、被塗物の端面部への電気力線の集中が軽減でき、被塗物の端面部の塗膜が厚くなり難い。
【0010】
そして、被塗物の端面部において静電反発が生じた場合には、高電圧発生器への通電が遮断された塗装ガンが被塗物の端面部付近を移動する際に、帯電していない粉体塗料が被塗物の端面部付近に吐出されるので、この帯電していない粉体塗料によって被塗物の端面部における静電反発が解消され、均一で平滑な塗膜が得られる。
【0011】
このように、この発明は、塗装ガンからの粉体塗料の吐出は維持したまま、電気力線が集中し易い部分を塗装ガンが通過する際に、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断することにより、被塗物に対する部分的な電気力線の集中を回避し、被塗物全面に均一で平滑な塗膜の形成をしようとしたものである。
【0012】
この発明においては、塗装ガンの高電圧発生器への通電は、ON−OFFするが、粉体塗料の吐出は連続させておくことが重要である。
粉体塗料の吐出を連続させずに高電圧発生器への通電と同様に、ON−OFFすると、粉体塗料は塗料搬送ホース内で溶剤塗料のように密になっていないので、ON−OFFの切換の際に、吐出が安定せず、吐出が安定するまでに時間がかかる。また、粉体塗料の搬送を一旦止めて搬送を再開すると、塗料搬送ホース内で蓄積された粉体塗料が一度に異常吐出したりして、塗装不良を起こす原因になる。
【0013】
また、被塗物に当らない粉体塗料、即ちオーバースプレー粉は、被塗物の端面部付近や被塗物と被塗物との間で多くなる。そして、被塗物をハンギングしたハンガーにも、粉体塗料が付着し、そのまま被塗物と一緒に焼付けられるので、ハンガーにメルト硬化した粉体塗料によってハンガー部の面積が次第に大きくなる。何度もそのハンガーを使用すると粉体塗料が大きく付着し、被塗物との接点(アース)が不良になり、付き回り、安全性及び粉体塗料の無駄が発生するという問題が生じる。この発明では、被塗物の端面部付近で塗装ガンの高電圧発生器への通電をOFFにしているので、ハンガーやブース内面にオーバースプレー粉が当っても付着しにくく、帯電していない粉体塗料は付着してもエアーブローによって簡単に除去することができる。したがって、この発明では、上記ハンガーへの粉体塗料の付着による問題が生じにくく、色替え時におけるブース内面の清掃も行いやすい。
【発明の効果】
【0014】
この発明のコロナ帯電式静電粉体塗装方法によると、被塗物の端面部の塗膜が厚くなったり、ユズ肌や静電反発による塗装不良が起こったりするという問題が解決され、均一な膜厚で、平滑な塗膜を形成することができる。
【実施例1】
【0015】
図1は、冷蔵庫の扉を被塗物Aにした塗装例を示している。
この例では、塗装ガン1を塗装ブース2内に、並列に2ガン、対向位置に2ガンの計4ガンを設置している。被塗物Aは、図1に示すように内面部を互いに内側にしてハンガー3にハンギングされている。塗装ガン1は、自動昇降装置4(レシプロケーター)に取付けられて上下動し、上下動のストロークは被塗物Aの上下寸法よりも各上下200mmの範囲でオーバーラップするようになっている。
この発明のコロナ帯電式静電粉体塗装方法では、塗装ガン1から粉体塗料を連続吐出した状態のまま、昇降する塗装ガン1が、被塗物Aの塗装面に位置する状態から被塗物Aの上下限20mmに達した時点で、塗装ガン1の高電圧発生器への通電をOFFにし、塗装ガン1が被塗物Aの塗装面を超えて折り返し、被塗物Aの塗装面に戻って、被塗物Aの上下限より10mm塗装面に入ったところで、再び、塗装ガン1の高電圧発生器への通電をONにするというように、塗装ガン1の高電圧発生器への通電を、ON−OFF制御している。この塗装ガン1の上下動と高電圧発生器への通電のON−OFFの関係を図示すると、図3に示すようになる。
この発明の上記実施例による塗装結果と、塗装ガン1の高電圧発生器への通電をONにした状態のまま塗装を行う従来例の塗装結果とを表1に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
表1には、図4に示す通り、塗装面を上下6段(A〜F段)に分割し、各分割面の左右6箇所についての平均膜厚(μm)と、表面粗度計(Gardner社「ウェーブスキャン プラス」)の測定値を示している。
【0018】
この表1の結果から、従来の塗装方法では、上下端面部の膜厚が他の部分よりも厚く、しかも表面粗度にばらつきが生じるのに対し、この発明の実施例による塗装方法では、膜厚、表面粗度が端面部とその他の部分で均一になるということが確認できた。
【0019】
次に、この発明の上記実施例による塗装方法と、従来例による塗装方法について、ハンガー3に付着する粉体塗料の量を比較した結果を表2に示す。試験は、それぞれの塗装方法で塗装を行った後、被塗物Aと共に焼き付けるという行程を10回繰り返し、その後に、ハンガー3に付着した膜厚を測定した。その結果は表2の通りであり、この発明の上記実施例による塗装方法は、従来例による塗装方法よりもハンガーに付着する粉体塗料の量が格段に少ないということが確認できた。
【0020】
【表2】

【0021】
また、この発明の上記実施例による塗装方法と、従来例による塗装方法について、ハンガー3に付着する粉体塗料を、焼き付ける前にエアーブローしたところ、この発明の上記実施例による塗装方法の場合、ハンガー3に付着した粉体塗料は容易に取り除くことができた。
【0022】
さらに、この発明の上記実施例による塗装方法と従来例による塗装方法とでは、塗装ガン1の対面部に位置するブース2の側面に付着したオーバースプレー粉に関しても、この発明の上記実施例による塗装方法の場合は、従来例による塗装方法よりも付着量が少なく、しかもエアーブローによる清掃も容易であった。
【実施例2】
【0023】
図5は、被塗物Aが切り板鋼板であり、この被塗物Aを水平に搬送しながら、上面に設置した塗装ガン1によって水平塗装を行う塗装装置の概略図である。図5において、符号5は、多孔質材料からなる塗装ブース、6は水切り乾燥炉、7は焼付け炉、8は吸気ダクト、9はレシプロケーター、10はシロッコファン、11は搬送コンベアをそれぞれ示している。
【0024】
この水平塗装装置を使用して、この発明の塗装方法を実施した場合と実施しない場合とについて実験を行った。
被塗物Aとして、切り板「幅1524mm×長さ3048mm」を使用した。被塗物Aと被塗物Aとの間隔は、200mmで塗装を行った。この発明の実施例は、被塗物A間において、粉体塗料を吐出したままで、塗装ガン1の高電圧発生器への通電のみをOFFにして塗装を行うという方法である。従来例は、被塗物A間において、粉体塗装ガン1の高電圧発生器への通電をOFFにすると共に、粉体塗料の吐出もストップして塗装を行う方法とした。
【0025】
この従来例では、被塗物A間で、粉体塗料の吐出をON−OFFするため、吐出量が安定するのに数秒かかり、被塗物Aである切り板の前後部において、膜厚に大きな差ができると共に、肌荒れを起こし、例えば、塗装後に写真フィルムの転写を行うと、膜厚に均一性がなく、転写した写真フィルムに微妙な凹凸が生じ、転写後の色違いや、違和感が発生するという問題があった。つまり、転写では、下地を拾うために、できあがり製品に色むらが発生し不良となる。
【0026】
これに対し、被塗物A間でも、粉体塗料の吐出は連続させたまま、塗装ガン1の高電圧発生器への通電のみをOFFにして塗装を行うこの発明の場合は、被塗物Aである切り板の前後部の膜厚も均一で、表面も平滑であるため、塗装後に写真フィルムの転写を行っても問題が生じなかった。
【0027】
また、この発明の場合、被塗物A間で粉体塗料の吐出を連続させていても、被塗物A間では塗装ガン1の高電圧発生器への通電がOFFの状態であるから、切り板の搬送用コンベア11に付着するオーバースプレー粉は、電荷がないために容易に取り除いて回収することができ、搬送用コンベア11上の残粉がなく、切り板裏面に付着しない。
【実施例3】
【0028】
図6は、鋼製家具の側面パネルを被塗物Aにして、メタリック粉体塗装を行う塗装例を示している。
この例では、メタリック粉体塗料として、クリヤーの粉体塗料にアルミ顔料(鱗片)を混ぜたドライブレンド方式のものを使用した。
【0029】
この例では、塗装ガン1を塗装ブース2内に、並列に2ガン、対向位置に2ガンの計4ガンを設置している。被塗物Aは、図6に示すように内面部を互いに内側にしてハンガー3にハンギングされている。
【0030】
塗装ガン1は、自動昇降装置4(レシプロケーター)に取付けられて上下動し、上下動のストロークは被塗物Aの上下寸法よりも各上下100mmの範囲でオーバーラップして、オーバースプレー塗装を行うようにしている。その理由は、被塗物Aの上下限がコの字型に曲がっているために、その部分の塗装を行うためである。
【0031】
表3に示すように、塗装ガン1の上下のストローク中、塗装ガン1の高電圧発生器への通電をON状態で連続塗装を行う従来例の場合には、上下端面付近は平面部に比較して黒ずんだ塗膜となった。これは端面部に、静電気が集中するために、メタリック粉体塗料(ドライブレンド)のアルミ顔料が多く集まって黒ずんだ模様を形成するためと考えられる。
【0032】
一方、この発明では、連続吐出中に被塗物Aの上端部より高電圧発生器への通電をOFFし、塗装ガン1が上端面部に近づくと、高電圧発生器への通電をONにし、塗装ガン1が被塗物下端部の手前30mmで、高電圧発生器への通電をOFFにして塗装を行った。これにより、電荷のない粉体塗料が静電気によって黒ずんだ個所が粉体塗料で洗い流され、均一なメタリック塗膜を形成することができた。
表3は、図4に示す場合と同様に、塗装面を上下10段(A〜J段)に分割し、各分割面の左右6箇所についての平均膜厚(μm)を測定した。また、メタリックの目視評価は、表面に黒ずんだ個所がある場合を×、表面に黒ずんだ個所がない場合を◎として評価した。
【0033】
【表3】

【実施例4】
【0034】
図7は、ハンガー3に所定間隔で複数の被塗物Aを1段吊りにして塗装を行う場合に、この発明を適用する場合の塗装ガン1の位置と、高電圧発生器への通電のON−OFF関係を図示したものである。即ち、この例では、塗装ガン1のストロークの内、上下端と、被塗物A間において、高電圧発生器への通電をOFFにしている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の第1の実施例の正面図である。
【図2】同上の平面図である。
【図3】第1の実施例の塗装ガン1のストロークと、高電圧発生器への通電のON−OFF関係を示す説明図である。
【図4】この発明の第1の実施例において被塗物の表面検査位置を示す図である。
【図5】この発明の第2の実施例の正面図である。
【図6】この発明の第3の実施例の正面図である。
【図7】この発明の第4の実施例の塗装ガン1のストロークと、高電圧発生器への通電のON−OFF関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
A 被塗物
2 ブース
3 ハンガー
4 レシプロケーター
5 ブース
6 水切り乾燥炉
7 焼付け炉
8 吸気ダクト
9 レシプロケーター
10 シロッコファン
11 搬送コンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナ帯電式静電粉体塗装ガンと被塗物とを相対的に移動させながら粉体塗料の吐出を行うコロナ帯電式静電粉体塗装方法において、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンが被塗物の端面部付近から被塗物を超えた位置にある時に、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンからの粉体塗料の吐出を維持した状態のまま、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断することを特徴とするコロナ帯電式静電粉体塗装方法。
【請求項2】
搬送装置によって移動する被塗物に対して、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンが被塗物の移動方向と直交する方向に往復移動することを特徴とする請求項1記載のコロナ帯電式静電粉体塗装方法。
【請求項3】
搬送装置によって被塗物を所定間隔で移動させ、被塗物と被塗物との間で、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンからの粉体塗料の吐出を維持した状態のまま、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断することを特徴とする請求項1記載のコロナ帯電式静電粉体塗装方法。
【請求項4】
被塗物を所定間隔で吊るし、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンを上下に移動させながら粉体塗料の吐出を行う場合に、被塗物と被塗物との間で、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンからの粉体塗料の吐出を維持した状態のまま、コロナ帯電式静電粉体塗装ガンの高電圧発生器への通電を遮断することを特徴とする請求項1記載のコロナ帯電式静電粉体塗装方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−263668(P2006−263668A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89192(P2005−89192)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】