説明

コンクリートの検査方法及び該方法に用いられる測定治具

【課題】 コンクリート構造物に対して検査による損傷を最小限に止め、高精度にコンクリートの劣化を検査することを可能とし、検査後の補修も容易なコンクリート構造物の検査方法及び測定治具を提供する。
【解決手段】 コンクリート構造物に穿孔部を形成する工程と、該穿孔部に内視鏡を挿入する工程と、前記内視鏡を通して穿孔部内部の劣化を観測する工程とを含むコンクリート構造物の深さ方向劣化の検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの検査方法に関し、より詳細にはコンクリートの内部の劣化状態を検査するための方法及び該方法に用いられる治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや高架橋といったコンクリート構造物において、コンクリートが部分的に崩落するという事故が多く見られ、社会問題となりつつある。コンクリートが落下する原因としては、(1)繰り返し荷重によって施工不良個所からひび割れが発生し、このひび割れが進展してコンクリートが一体性を失う結果落下する場合、(2)鉄筋の発錆やアルカリ骨材反応等の劣化が進行するにつれてひび割れが発生し、このひび割れが進展することによりコンクリートが一体性を失う結果、落下する場合が多く見られる。
【0003】
上述した事故を未然に防止するため、構造物の管理者等により定期的な検査が行われているものの、一般に目視や打音法による検査が中心であり、ひび割れの存在は確認できてもひび割れの深さや、劣化状況の的確な把握が困難である。また、コンクリート内部における中性化や、鉄筋の発錆についての的確な把握が困難であるといった問題がある。
【0004】
上述したひび割れ深さや内部欠陥を診断するために種々の方法が提案されており、その中でも注目されているのが、非破壊検査方法である。従来提案されている非破壊検査方法としては、例えば超音波や、電磁波により対象物を間接的に測定するという方法を挙げることができる。しかしながら、上述した超音波や電磁波による非破壊検査方法には、測定精度が低いこと、深さ方向における劣化の程度の把握が困難であること、という問題がある。
【0005】
また、コンクリート構造物の検査方法には、コア抜きやハツリによって検査部分を露出させた後、直接劣化の程度を観察及び診断する方法も提案されている。この検査方法は、最も確実に劣化箇所の検査を行うことができる方法ではある。しかしながら、直接劣化の程度を観察する上述の方法は、大がかりな装置を必要とすることや、構造物に損傷を与える可能性を有していること、検査後に大規模な補修が必要となることといった不都合がある。
【0006】
また、近年内視鏡は、医療分野において多く利用されているものの、土木分野における内視鏡の利用は、きわめて限られたものであり、例えば擁壁の裏込め材の注入状況を観察する、ボアホールカメラ、小径の管内のクラック検査等の事例に適用されるに止まり、土木分野、特に外部から観測することが困難な構造物の種々の検査において有効利用が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、中性化、アルカリ骨材反応などの劣化の検査において重要な劣化深さを容易に検査でき、劣化深さに応じたひび割れ幅、ひび割れ位置、ひび割れ方向の測定を容易、かつ高精度に行うことを可能とし、中性化やアルカリ骨材反応の観察に必要とされる薬剤の散布が1つの装置で効果的に行え、コンクリートの欠陥を3次元的に得ることにより、詳細にコンクリートの劣化を判断することを可能とする欠陥の3次元マッピングを行うことができ、さらには空隙の形状やグラウトの注入状態といった空間の形状・容量の測定が容易かつ高精度に行うことができるコンクリート構造物の検査方法、及び測定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、本発明のコンクリート構造物の検査方法及び測定治具を提供することにより達成される。
【0009】
すなわち、本発明によれば、コンクリート構造物に穿孔部を形成する工程と、
該穿孔部に内視鏡を挿入する工程と、
前記穿孔部に先端が屈曲自在の内視鏡を挿入する工程と、
前記内視鏡を屈曲させ、前記内視鏡を通してコンクリートの深さ方向の豆板欠陥、空洞、充填不良、タイルやモルタルの浮き、または発錆を観測する工程と、
前記内視鏡を介して測定治具を挿入し、3次元的に前記豆板欠陥、空洞、充填不良、タイルやモルタルの浮き、または発錆の画像をコンピュータに取り込んで画像処理し、3次元画像を生成する工程と
を含む、コンクリート構造物の検査方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記挿入工程の後に内視鏡から穿孔部内部に薬剤を付着させる工程を有することを特徴とする検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコンクリート検査方法によれば、小径の穿孔部を用いて複数の項目について深さ方向の検査を同時に行うことができ、複数の穿孔部を設けて2次元的データを収集することによりコンクリート構造物内のひび割れ、豆板、充填不良、アルカリ骨材反応、中性化といった劣化を3次元マッピングすることができる。また、穿孔部は、小径であるためコンクリート構造物に大きな損傷を与えることなく検査後の補修も容易である。加えて、薬品による着色によって診断が可能な中性化やアルカリ骨材反応について、表面ばかりではなくコンクリートの深さ方向への情報を得ることにより、3次元的に連続した情報を得ることができる。さらには、本発明の方法により形成された穿孔部は、検査後に注入剤の注入口として用いることも可能であり、精度及び簡便性に優れた検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明について図面をもってより詳細に説明する。本発明のコンクリート構造物の検査方法は、コンクリートに設けた穿孔部から内視鏡を該穿孔部へと挿入することにより、コンクリートの表面ばかりではなく、内部にまで至る劣化を観測することを可能とするものである。このような内視鏡は近年、動物や人体の消化器官内に挿入して内部から患部を診察・治療する医療用器具、具体的には医療用内視鏡(以下、内視鏡という)として開発され、多用されている。このような内視鏡としては、CCDと、像伝達手段として電気信号とにより画像伝送するビデオイメージスコープ、像伝達手段としての光ファイバーにより画像伝送するファイバースコープ、リレーレンズを像伝達手段として用いて光学的に画像伝送する硬性鏡/ミニボアスコープを挙げることができいずれのタイプ、いずれの画像伝達手段であっても適宜選択して用いることができる。以下本発明では、ファイバースコープ型の内視鏡を用いて測定を行う実施例を用いて説明を行う。
【0013】
この内視鏡の特徴としては、(1)挿入部分の直径が10mm程度と細く、可トウ性があり、先端部を手元部分における操作を通じて任意の方向に向けて観察することができること、(2)内視鏡を通した画像が高倍率で、鮮明なカラー画像であり、肉眼による観察に加え、写真、ビデオ等による記録が可能となること、(3)手元から先端部まで、光ファイバーに沿って細い管が挿通されているので、先端部から薬剤を散布したり、劣化部から直接サンプリングを行うことができることを挙げることができる。
【0014】
図1には、本発明において用いる内視鏡1を示す。図1に示した内視鏡1は、コンクリート構造物に設けられる穿孔部に挿入され、先端部光学系2と穿孔部内部において必要な検査作業を行うための検査手段3とが設けられた屈曲部4と、首振り操作部5とワーキングチャンネル6と光ファイバーバンドル7とを結束するための結束部材8と、屈曲部4と結束部材8との間に形成される挿入部9とから構成されている。検査手段3としては、例えば、クラックスケール等の各種スケール、測長治具、マニピュレータ、噴霧ノズル等の噴霧手段を挙げることをできる。これらの検査手段3は、1つの内視鏡1に複数設けることもできるし、それぞれ異なった検査手段3を別個に取付た内視鏡1を用いることもできる。
【0015】
この光ファイバーバンドル7は、測定を行うための光ファイバーバンドル7aと、照明のための光ファイバーバンドル7bとから構成されている。光ファイバーバンドル7aと、光ファイバーバンドル7bとは、適宜図示しない装置へと連結されて、画像測定及び照明を行うようにされている。挿入部9は、テフロン(登録商標)、ポリイミド、ポリエチレン、可トウ性のある金属材料といった耐久性のある材料により形成されたシースが、首振り操作部5と、光ファイバーバンドル7と、ワーキングチャンネル6とを収容することにより形成されている。シースは、充分に柔軟性を有していて、作業場所の配置等に応じて屈曲することができるようにされていて、作業性を向上させるように構成されている。
【0016】
図2は、内視鏡1の屈曲部4の断面を拡大して示した図である。図1において説明したように、屈曲部4は、ワーキングチャンネル6と、照明用の光ファイバーバンドル7bと、内視鏡1の長手軸に対して屈曲部4を運動させるために用いる首振り先端金物10とを、ファイバシース11が包囲して構成されている。光ファイバーバンドル7bは、より細い複数の光ファイバー12が束ねられて構成されており、穿孔内部を照明するために用いられる。首振り先端金物10は、対物レンズ13と、首振り動作を行わせるための首振り牽引ワイヤ14とを内部に収容している。
【0017】
対物レンズ13の図2の紙面奥側には、図示しない画像を得るための光ファイバーバンドル7aが連結されていて、測定手段へと画像を伝達させるように構成されている。首振り牽引ワイヤ14は、首振り操作部5からの操作により首振り先端金物10を運動させて、この動作に連動して屈曲部4が任意の方向へと運動するようにされている。
【0018】
ワーキングチャンネル6は、中空の可トウ性のチューブとされていて、必要に応じて薬剤溶液を噴出させたり、穿孔内部のサンプリングを行うための図示しないマニピュレータ等といった各種検査手段3を挿通することができるようにされている。上述の内視鏡1の挿入部の径、光ファイバーバンドル7a,7bの径、ワーキングチャンネル6の径は、必要に応じて適宜選択して用いることができる。このような内視鏡1としては、挿入部9が1.3mm〜15mm、視野角5〜90°、観察方向が直視・ピント調節方式とされ、照明がライトガイド式、許容曲げ半径50〜300mm程度の工業用内視鏡を用いることもできるし、挿入部9の径が0.35mm〜2mm程度、視野角55°〜56°、観察深度1〜20mm、首振り部長さ20mm程度の極細径医用スコープを用いることもできる。
【0019】
本発明に用いることができる薬剤溶液としては、各種組成を有する浸透探傷剤、酢酸コバルト含有液状組成物、フェノールフタレインといったひび割れや、コンクリートのpHを測定するための薬剤溶液を挙げることができ、均一溶液とされていても良く、また乳化、懸濁された溶液とされていても良い。この他、コンクリート構造物の劣化を検出することが可能なこれまでに知られているいかなる薬剤を溶液としたものも用いることができる。
【0020】
図3は、本発明において用いることができるマイクロイメージング装置15を示した正面図である。図3に示したマイクロイメージング装置15は、内視鏡1から伝搬された画像を記録するための光学系16と、図示しない工業用カメラと、画像モニタ17と、画像を観測し、必要に応じて画像処理を行うためのコンピュータ18と、制御入力のためのキーボード19と、観測された画像を記録するためのビデオカメラ20と、コンクリートの穿孔部内を照明するための照明装置21とを備えている。
【0021】
図3に示したマイクロイメージング装置15の動作を説明すると、まず、内視鏡1へと照明装置21により照明用の光を送り、穿孔部内部を照明する。照明された穿孔部内部の映像は、内視鏡1の先端部に取り付けられた対物レンズ13により結像され、画像観察用の光ファイバーバンドル7aを通してマイクロイメージング装置15の光学系16へと送られる。光学系16により拡大された像は、図示しないCCDといったイメージカップリングデバイス上に結像された後、ビデオテープ、ハードディスク等の記録媒体へと記録される。
【0022】
同時にCCD上に結像された穿孔内部の画像は、画像モニタ17上に出力されて、穿孔部内部の目視観察を可能とする。また、マイクロイメージング装置15には、中央処理装置(CPU)を備えたコンピュータ18が設けられていて、記録された画像サンプルを画像処理して、コンクリートの深度に応じた深さ情報と、2次元情報とに基づいて3次元イメージング処理を行うことができるようにされている。しかしながらこのような画像処理をマイクロイメージング装置15とは別体として構成された処理用コンピュータにより行わせることも可能である。
【0023】
コンクリート構造物内部の劣化の観察は、上述のマイクロイメージング装置15を用い、コンクリート構造物を構成するコンクリートに設けた小径の穿孔部へと内視鏡1を挿入させて、種々の施工不良や劣化状態を目視又は画像処理により観察・診断することにより行われる。この際、上述したコンクリートへの穿孔は、適切な径を有するドリルにより設けることができるので、コンクリート構造物に対して検査による損傷を最低限とすることを可能とする検査方法を提供することができる。
【0024】
上述した施工不良や劣化項目としては、(1)ひび割れ位置、ひび割れ幅、ひび割れ長さ、(2)豆板、空洞、グラウトの充填不良、(3)タイルやモルタルの浮き、(4)鉄筋の発錆、(5)アルカリ骨材反応、中性化を挙げることができる。本発明によれば、これらの欠陥を位置精度良く、かつ肉眼で状況を観察しながら検査が可能となる。
【0025】
以下に本発明のコンクリート構造物の検査方法の実施例について説明する。
(1)ひび割れ位置、ひび割れ幅、ひび割れ長さ
図4に、ひび割れ位置及び、ひび割れ幅の観察のため、本発明の方法を適用するコンクリート構造物の一部を示す。図4に示したコンクリート構造物には、ひび割れ22がアルカリ骨材反応、中性化といった劣化により生じていて、コンクリート構造物の外部からは、僅かに幅Wを有していることしか認められない。しかしながら、図4に示すようにひび割れ22は、コンクリート構造物の深さ方向にまで伸長しており、その精密な測定は、コンクリート崩落の危険性を判断するためにきわめて重要となる。本発明において、ひび割れ位置は、コンクリートのひび割れ22が観測された位置においてにまず、小径のドリルにより穿孔を行い、穿孔部23をひび割れ22に沿って複数形成する。
【0026】
穿孔部の径は、穿孔部23aで示されているように内視鏡1の屈曲部4がその屈曲半径において充分に曲がることができるような径とされていることが好ましい。しかしながら、内視鏡1の屈曲部4において先端部光学系2を内視鏡1の長さ方向にではなく穿孔部の内壁に向くように配置させることにより、上述したような屈曲半径を考慮することなく、より小径の穿孔部23を用いても充分な測定を行うことが可能となる。
【0027】
図5は、穿孔部23へと内視鏡1が挿入されたところを示している。図5に示されているように、本発明においてはドリルにより穿孔された穿孔部23へと内視鏡1を挿入して行き、ワーキングチャンネル6を通して挿入される図示しない噴霧手段により、金属の表面欠陥の検出等に用いられる浸透探傷剤を噴霧させることにより穿孔部23の内面に付着させて穿孔部23の内部を着色する。次いで、内視鏡1の挿入深さを記録しつつ、穿孔部23の着色された内面の画像を記録する。このようにすることにより深さに対応するひび割れ位置が観測できることになる。この際、ひび割れ位置として、上述したようにして得られたひび割れ幅の深さ方向の平均値を用いることもできるし、目的に応じて浅い側のひび割れ位置又は深い側のひび割れ位置を代表値として用いることができる。
【0028】
上述した浸透探傷剤としては、JIS
Z 2343に従って用いることが可能とされている浸透探傷剤を用いることができ、具体的には、染色浸透液、蛍光浸透液、二元性染色浸透液、二元性蛍光浸透液を挙げることができる。また、浸透探傷剤は、過不足なく噴霧することが好ましいが、余剰浸透液を除去する工程を本発明においては用いることができる。また、浸透探傷剤の性状としては、均一溶液、乳化物、懸濁物といった種々の形態を採用することができる。例えば、上述した浸透探傷剤に用いることができる染料としては、オイルレッド5B、スーダンレッド462、カヤライトB、蛍光染料であるカヤセットFGといった染料を含有するものを挙げることができる。また、浸透探傷剤の種類によっては、乾燥、現像、といった別の工程を用いることもできる。蛍光浸透液を用いる場合には、ライトガイドとして用いられる照明用光ファイバーバンドル7bから紫外光線を照射することも可能である。
【0029】
図5を用いてさらにひび割れ幅の測定について説明する。本発明では、ひび割れ幅は、内視鏡1のワーキングチャンネル6に挿通された図示しない把持部材の先端部にクラックスケールを装着し、ひび割れ部にクラックスケールをあて、内視鏡1を通して目視により観測するか、又は後に画像解析により求めることができる。
【0030】
また、ひび割れ長さについては、画像によりひび割れ22の位置を測定し、ひび割れの位置に対応する位置において、内視鏡1の先端部からスケールをひび割れ22へと挿入して行き、スケールがひび割れ22の先端部に達した時点で、ひび割れ深さの値とすることもできる。
【0031】
また、ひび割れ長さは、図5に示されるように複数の穿孔部23を形成させ、ひび割れ22の2次元的分布及びひび割れ幅を観測しておき、ひび割れ幅の2次元的分布を測定することにより、外挿して求めることもできる。このための検査方法を図6に示す。図6(a)は、穿孔部23内のひび割れ22が存在しない部分における着色又は蛍光強度を用いて表した画像濃度を縦軸とし、内視鏡1の挿入深さを横軸として示した図である。図6(b)は、穿孔部23内のひび割れ22の存在する部分における画像濃度を、縦軸を画像濃度とし、横軸を内視鏡の挿入深さとして示した図である。
【0032】
図6(a)に示されているようにひび割れ22の存在しない穿孔部23の内面は、光ファイバーバンドル7bにより与えられる照明により照射されて一定の画像濃度を与える。しかしながらひび割れ22が存在すると、ひび割れ22の部分には浸透探傷剤、又は現像を別途行う場合には、現像剤が充填されることになり、ひび割れ22に残存している浸透探傷剤が吸い上げられ図6(b)に示すようにひび割れ22に対応した部分の画像濃度が増加する。
【0033】
また、用いる浸透探傷剤の種類及び現像方法等によっては、画像濃度が低下する場合もある。図6(b)に示した実施例においては、ひび割れ部分の着色を用いており、画像濃度が増加しているのが示されている。図6(c)は、複数の穿孔部23についてひび割れ位置及びひび割れ幅について上述した測定を繰り返し、それぞれの穿孔部23の相対距離を横軸とし、ひび割れ位置及び、ひび割れ幅を示した図である。ひび割れ位置を○で示し、ひび割れ幅を△で示している。穿孔部23の相対位置の基準(0)としては、例えばコンクリート表面において観測されるひび割れの中心点を用いることができる。
【0034】
図6(c)に示されるように、ひび割れは、穿孔部23の相対距離にしたがって、ひび割れ位置が大きく、すなわち深くなって行くのが示されている。また、ひび割れ幅は、ひび割れが深くなって行くにつれて小さくなって行く。ひび割れ長さは、ひび割れ幅が0となった穿孔部の相対距離Yまで、ひび割れ位置のプロットを外挿した点までの長さとして得られる。さらに、ひび割れ幅を穿孔部23の相対位置に対して積分した値は、ひび割れ22を充填するために用いる充填材の必要体積を与える。
【0035】
このようなプロットを用いることにより穿孔部23をひび割れの終端部に合わせて形成できなかった場合にでも、ひび割れの深さ及び長さについて推定することが可能となる。このようにして得られた結果を画像解析することにより、穿孔部23の形成位置によらずひび割れ深さをより高精度に推定することが可能となり、さらには補修のための充填材量を算出することが可能となる。
【0036】
劣化状態の3次元マッピングは、上述した小径ドリルによる穿孔を複数の2次元的位置に沿って行い、各穿孔についてひび割れ幅及び、ひび割れ深さについての情報を得、ひび割れの3次元マッピングを行うことにより得ることが可能となる。
【0037】
(2)豆板、空洞、グラウトの充填不良
図7には、コンクリート構造物に発生しうる欠陥の例として、豆板と空洞とが示されている。豆板とは、コンクリート打ち込み工法、突固め及び型枠工事の不良等によって、モルタルと粗骨材とが分離して、豆板状となるコンクリートの欠陥をいう。また、空洞とは、コンクリート内部に形成される充填不良をいう。図7に示す豆板欠陥24や空洞25がコンクリートに形成されていると、局所的にコンクリートの一体性が失われ、この結果周囲に比較して強度の低い領域が形成されてしまうことになる。
【0038】
図8は、図7に示した欠陥に対して本発明の検査方法を適用するところを示した図である。この際の測定方法としては、コンクリートの豆板欠陥24又は空洞25の存在が打音法等により確認された部位に対して、ドリルといった穿孔手段を用いて充分な深さの穿孔26,27を形成する。図8中、豆板欠陥24においては、豆板欠陥部を貫通して穿孔26が形成されているのが示されているが、空洞25については、空洞25を貫通するように穿孔27が形成されていないのが示されている。しかしながら穿孔深さは、検査の目的、作業性、精度といった点を考慮して適宜変更することが可能である。
【0039】
本発明の検査方法において豆板欠陥24を検査する場合には、上述した穿孔26へと内視鏡1を挿入させて行き、その際の挿入深さをモニタする。この測定された挿入深さにおいて内視鏡1の屈曲部4を外部から操作して角度を変え、それぞれ方向の異なった画像をコンピュータに取り込んで、画像処理により内視鏡1の挿入深さと角度といった情報から3次元的に豆板欠陥24の状況を再構成することができる。
【0040】
また、空洞25の径の測定においては、内視鏡1のワーキングチャンネル6の内部に測長治具28を挿入しておき、屈曲部4の角度を変えて測長治具28の先端部を空洞25の内壁に当接させ、当接したことを内視鏡1により観測した後、測長治具28の挿入長を記録することにより測定することができる。また、測定治具28を目盛りの付けられた針金状部材から形成することにより、内視鏡1を通して、測定治具28に設けられた目盛りを直接読み取って、空洞25の径を測定するようにすることもできる。この場合にも、内視鏡1の挿入深さと測定治具28による横方向への測定結果から、空洞25の3次元画像を得ることができる。
【0041】
図9には、グラウトの充填不良を観察する場合に本発明の検査方法を適用する実施例を示した図である。グラウト29は、コンクリート30と、このコンクリート30にプレストレスを加えるために用いられるプレストレスコンクリート用鋼材、すなわちPC鋼材31との間の隙間32を充填するために用いられており、グラウト29の充填不良があるとPC鋼材31の錆や固定不良といったコンクリート構造物の強度へと悪影響を与えることになる。
【0042】
このようなグラウト29の充填不良に対して本発明の検査方法を適用する場合にはまず、打音法によりグラウトの充填不良部33の存在が確認された部位を、シース34を貫通してドリルにより穿孔する。この穿孔部35の内部に内視鏡1を挿入して行き、上述した空洞25の場合と同様にして充填不良部33の深さや、2次元的な広がりを、図3に示した画像モニタ17を通して肉眼により確認を行うと共に、記録された情報に基づいてコンピュータを用いて画像解析を行い、充填不良部32の3次元マッピングを行うことが可能となる。
【0043】
(3)タイルやモルタルの浮き
図10には、本発明の検査方法をタイル、モルタルの浮きといった欠陥について適用する場合を示した図である。タイル36は、コンクリート表面37にモルタルにより接着されているが、長期の使用や施工不良によりタイル36とコンクリート表面37との一体性が失われ、この結果タイル36とコンクリート表面37の間に浮き部部分38が生じることになる。この浮き部分38が打音法等により確認された場合には、図8に示すように浮き部分38へとドリル等の穿孔手段により穿孔部39を形成し、上述したと同様の方法により浮き部分38の広がりを検査する。このようにして得られた結果は、コンピュータ18へと記録され、3次元マッピングを行うことが可能とされる。
【0044】
(4)鉄筋の発錆
コンクリートには、引っ張り強度を向上させるために鉄筋が埋設されているが、長期にわたる使用により、鉄筋が錆びる場合がある。このように鉄筋が錆びると鉄筋とコンクリートとの一体性が失われ、このためコンクリートの強度が低下することになる。したがって鉄筋の発錆は、コンクリート構造物における重大な強度欠陥を生じさせることになるため、その高精度の検査が必要とされる。
【0045】
図11は、鉄筋の発錆について本発明の検査方法を適用する実施例を示した図である。本発明の検査方法を鉄筋の発錆に適用する場合には、まず、電磁探査により鉄筋40の位置を確認した後、鉄筋40付近にまで到達するようにドリルといった穿孔手段により穿孔部41を形成する。コンクリート42に埋設された鉄筋40が錆びることにより酸化鉄層43が形成され、コンクリート42と鉄筋40の間の一体性が失われる。図11では、穿孔手段により穿孔部41が酸化鉄層43にまで達するようにして形成されているのが示されているが、特に鉄筋40に重大な損傷を与えない限り、鉄筋40に隣接するまで穿孔部41を形成することも可能であるし、また、電気探査により確認された鉄筋40の位置に近接して鉄筋40を損傷させない位置において穿孔部41を鉄筋40を超えた深さとなるようにして設けることも可能である。
【0046】
この場合には、発錆により空間が形成されていれば内視鏡1による光学的検査が可能であり、発錆により空間が形成されていない場合であっても深さ方向の酸化鉄層43の厚さ及び酸化鉄のサンプリング等を行うことが可能となる。また、発錆部位に複数の穿孔部41を形成することにより、発錆部位の2次元情報と深さ情報とに基づいて3次元マッピングを行うことが可能となり、より精密な情報を得ることができる。
【0047】
(5)アルカリ骨材反応、コンクリートの中性化
本発明の検査方法は、また、コンクリートにおけるアルカリ骨材反応及び中性化の検査においても適用することができる。コンクリートのアルカリ骨材反応は、コンクリートの硬化中に遊離するアルカリにより骨材が異常膨張し、コンクリートの一体性を低下させる現象である。このアルカリ骨材反応は、浸透探傷剤、酢酸ウラニル水溶液等をコンクリートに付着させ、内視鏡1により目視観察することにより行うことができる。また、コンクリートの中性化については、フェノールフタレイン溶液をコンクリートに付着させ、pHに応じたフェノールフタレイン溶液の変色により目視観察可能となる。
【0048】
図12は、アルカリ骨材反応及び中性化を検査する際の実施例を示した図である。アルカリ骨材反応及び中性化を測定するための装置としては、図5において示したと同様の噴霧装置を用いた装置構成を用いることができる。アルカリ骨材反応及びコンクリートの中性化を検査するためには、コンクリートに穿孔手段により穿孔部44を設け、この穿孔部44に内視鏡1を挿入し、内視鏡1のワーキングチャンネル6を通して上述した薬剤45を噴霧させる。この後、上述したように内視鏡1の挿入深さと、着色具合とを対応させてコンピュータへと記録することにより、アルカリ骨材反応や、コンクリートの中性化についての深さ方向の情報を得ることができる。これをコンクリートの2次元位置を変えて複数回測定することによりアルカリ骨材反応やコンクリート中性化の3次元マッピングを行うことが可能となる。
【0049】
上述した各種測定を行うに当たって、さらに容易、かつ高精度に行うための検査治具を図13に示す。図13に示す検査治具は、スチール製の円筒形のパイプ46の先端部を水平に切断し、パイプ46の内側に内視鏡1と、クラックスケール47と、薬剤注入管48とが挿通されている。このパイプ46は、スチール製でも良く、適切な強度のプラスチックから形成することもでき、その直径、長さは必要に応じて適宜選択することができるが、本発明において説明する実施例では、約9mmとされている。クラックスケール47には、クラックスケール操作棒49が連結されていて、このクラックスケール操作棒49は、パイプ46の径方向内側に固定された図示しない保持具により、運動可能に保持されていると共に、パイプ46の対向する側の端部から引き出されて手元操作可能とされている。また、薬剤注入管48は、コンクリート内部に挿入される側の端部が径方向外側に向けられていて、薬剤を穿孔部内面へと効率よく付着させることができるようにされ、薬剤注入管48の反対側の端部は、パイプ46の対向する側の端部から導出されて、図示しない薬剤供給手段へと連結されている。
【0050】
パイプ46のコンクリートに挿入される側の端部には、パイプ46の円筒部に可動に取付けられたミラー50が配設されていて、横方向へと内視鏡のライトガイドを通して照射される光をコンクリート面へと照射させると共に、コンクリート面からの反射を、図示しないマイクロイメージング装置へと画像を送ることができるようにされている。このミラー50は、手元の操作により、適切にコンクリート像を観測できるように移動可能とされている。内視鏡1により直視する際の配置を仮想線で示す。また、パイプ46の外面には、スケール51が形成されていて、挿入深さを直接観測できるようにされている。
【0051】
図14には、図13に示した検査治具に用いるクラックスケール47を詳細に示した図である。図14に示されたクラックスケール47は、いずれも透明なプラスチック上にスケールがプリントされている。図14(a)に示すクラックスケール47は、穿孔部の直角方向のひび割れを測定するためのものであり、
図14(b)に示すクラックスケール47は、縦横兼用であり、図14(c)に示すクラックスケール47は、ひび割れ方向の角度を示す分度器がプリンとされている。クラックスケール47には、クラックスケール操作棒49が取り付けられていて、パイプ46を通して手元操作部において操作可能とされている。
【0052】
上述した検査治具を用いることにより、内視鏡1をパイプ46により保護することができるので、内視鏡1の操作をすることがよりいっそう容易となる。さらに、パイプ46の径をドリルといった穿孔手段よりもわずかに小さくして形成することができるので、穿孔部壁面からの距離を一定に保つことができる。さらには、画像中心からの距離が金属管の側面に取付けられたスケールを直接読み取ることにより、劣化部分の深さ(位置)が観察を行いながらほぼ同時に測定できる。さらには、内視鏡先端からミラーまでの距離を手元の操作で変化させることができるので、観察範囲(倍率)を任意に変化させることが可能となる。また、内視鏡の測定により、ひび割れ及びスケールが拡大されて見えるため、ルーペ等により拡大して観察すると同程度の制度で検査を行うことが可能となる。また、クラックスケールをパイプに保持させることにより、10mm〜15mmといった狭い観察範囲内のひび割れに簡単に、かつ的確にクラックスケールを合わせることが可能となる。
【0053】
図15には、コンクリート構造物内に形成される空洞、グラウトの充填状況等の劣化を測定するために用いることができる測定治具を示した図である。図15に示した測定治具52は、内視鏡1の先端部にレーザ光源53が取り付けられており、内視鏡先端部からレーザ光54を照射する構成とされている。コンクリート面55により反射されたレーザ光54は、内視鏡1の光ファイバーへと入射して、図示しないマイクロイメージング装置へと伝搬されて行きコンクリート面55に形成されたスポット径がモニタ、CCD等により観察される。レーザ光54は、コンクリート内に形成された空洞や、グラウト充填不良部にまで内視鏡1の先端部から照射される。この際、レーザ光54は、平行性が良好で内視鏡1の先端からコンクリート面55までの距離では実質的に広がることはない。
【0054】
図15(a)に示した測定治具52は、レーザ光54の上述した特性を用いて、レーザ光のスポット径をスケールとして用いるものである。内視鏡1は、検体までの距離と観察倍率との間に比例関係があり、距離が大きくなるほど倍率が小さくなり(小さく見える)、距離が小さくなるほど倍率が大きくなる。したがって、コンクリート面55に照射されたスポット径がモニタ等により小さく観測されるほど、距離が大きく、スポット径が大きく観測されるほど距離が小さくなる関係となる。
【0055】
図15(b)は、図15(a)で示した位置A,B,Cにコンクリート面54があるものとした場合にモニタ等により観測されるスポット径の変化を概略的に示した図である。上述したように内視鏡1の先端部から離れるにつれて、スポット径は小さくなっており、あらかじめこの関係を実測しておくことにより、定量的な測定を行うことが可能となる。図15に示した測定治具を用いることにより、現場において小型、かつ安価な測定治具を用いて作業者1人でコンクリート劣化の観察、検査、判断が可能となる。また、このような測定を360°にわたって行うことにより空洞やグラウトの充填不良を3次元マッピングすることが可能となる。上述したレーザ光を用いた測定治具は、コンクリート面に対して非接触で測定を行うことができること、レーザ光源及びシステムをコンパクトにできるため、穿孔部の径を小さく抑えることができることを挙げることができる。
【0056】
また、用いるレーザ光源53は必ずしも1つを用いるだけではなく、コンクリート面55に対して一定の距離だけ離間した複数のスポットを与え、これらの複数のスポットの間の距離を用いて上述したように観察倍率を考慮してコンクリート面55までの距離を測定することもできる。
【0057】
上述した本発明の検査方法をコンクリート構造物に対して適用した後、穿孔部をコンクリート、グラウト等により充填してコンクリート構造物を修復する。
【0058】
これまで本発明を、図面を用いて説明してきたが、本発明は図面に示された実施例に限定されるものではなく、欠陥の種類、内視鏡の種類、像伝達手段の種類、薬剤、画像処理手段については、これまで知られているいかなるものでも用いることができることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に用いる内視鏡を示す概略図。
【図2】本発明に用いる内視鏡の屈曲部の断面を示した概略図。
【図3】本発明に用いるマイクロイメージング装置の正面図。
【図4】本発明を提供するコンクリート構造物を示した図。
【図5】本発明のひび割れ位置測定を示した図。
【図6】本発明のひび割れ位置の測定方法の実施例を示した図。
【図7】本発明を適用する豆板欠陥及び空洞を示した図。
【図8】豆板欠陥及び空洞に適用する本発明の実施例を示した図。
【図9】グラウトの充填不良に適用する本発明の実施例を示した図。
【図10】タイル、モルタルの浮きに適用する本発明の実施例を示した図。
【図11】鉄筋の発錆に適用する本発明の実施例を示した図。
【図12】アルカリ骨材反応及び中性化に対する本発明の実施例を示した図。
【図13】本発明の測定治具を示した概略図。
【図14】本発明で用いるクラックスケールを示した図。
【図15】本発明の用いる測定治具の変更例を示した図。
【符号の説明】
【0060】
1…内視鏡
2…光学系
3…検査手段
4…屈曲部
5…首振り操作部
6…ワーキングチャンネル
7…光ファイバーバンドル
7a…測定用光ファイバーバンドル
7b…照明用光ファイバーバンドル
8…結束部材
9…挿入部
10…首振り先端金物
11…ファイバシース
12…光ファイバ
13…対物レンズ
14…首振り牽引ワイヤ
15…マイクロイメージング装置
16…先端部光学系
17…画像モニタ
18…コンピュータ
19…キーボード
20…ビデオカメラ
21…照明装置
22…ひび割れ
23…穿孔部
23a…穿孔部
24…豆板欠陥
25…空洞
26…穿孔部
27…穿孔部
28…測長治具
29…グラウト
30…コンクリート
31…PC鋼材
32…隙間
33…充填不良部
34…シース
35…穿孔部
36…タイル
37…コンクリート表面
38…浮き部分
39…穿孔部
40…鉄筋
41…穿孔部
42…コンクリート
43…酸化鉄層
44…穿孔部
45…薬剤溶液
46…パイプ
47…クラックスケール
48…薬剤注入管
49…クラックスケール操作棒
50…ミラー
51…スケール
52…測定治具
53…レーザ光源
54…レーザ光
55…コンクリート面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に穿孔部を形成する工程と、
該穿孔部に内視鏡を挿入する工程と、
前記穿孔部に先端が屈曲自在の内視鏡を挿入する工程と、
前記内視鏡を屈曲させ、前記内視鏡を通してコンクリートの深さ方向の豆板欠陥、空洞、充填不良、タイルやモルタルの浮き、または発錆を観測する工程と、
前記内視鏡を介して測定治具を挿入し、3次元的に前記豆板欠陥、空洞、充填不良、タイルやモルタルの浮き、または発錆の画像をコンピュータに取り込んで画像処理し、3次元画像を生成する工程と
を含む、コンクリート構造物の検査方法。
【請求項2】
前記挿入工程の後に内視鏡から穿孔部内部に薬剤を付着させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−203275(P2008−203275A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138016(P2008−138016)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【分割の表示】特願2000−36498(P2000−36498)の分割
【原出願日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】