説明

コンクリート中鉄筋の防食方法および鉄筋コンクリート構造

【課題】鉄筋コンクリートを構成している鉄筋の腐食が抑制できるようにする。
【解決手段】鉄筋コンクリート101を構成している鉄筋からなる内部電極102に、鉄筋コンクリート101の外部に配置した外部電極103を電気的に接続する。次に、外部電極103の周囲を大気より酸素が少ない状態とする。例えば、密閉可能な容器105に外部電極103を収容し、容器105の内部を大気より酸素が少ない状態とする。外部電極103の周囲を大気より酸素が少ない状態とすれば、内部電極102との間で、酸素の濃度差が形成されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中に埋設されて用いられる鉄筋の腐食を防ぐためのコンクリート中鉄筋の防食方法および鉄筋コンクリート構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物などの建築要素(固定構造体)の部材として鉄筋コンクリートが用いられている。鉄筋コンクリートでは、引張りに弱いコンクリートの強度を補うために、鉄筋が埋設して用いられている。このような鉄筋コンクリートにおいては、埋設されている鉄筋は、周囲をコンクリートに覆われているため、腐食しにくいものとされている。また、コンクリート中で鉄筋が腐食することを抑制するために、所謂ステンレス鋼で鉄筋を構成する技術が用いられ、効果を上げている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】後藤 万慶 他、「ステンレス鉄筋のコンクリート中における耐食性と適用事例」、第30回防錆防食技術発表大会 講演予稿集、事例101,29−32頁、平成22年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、経時的な変化などによりコンクリートに亀裂が発生し、この亀裂が鉄筋に到達すれば、外気が鉄筋に接触可能な状態となり、腐食しやすい状態となる。鉄筋が腐食すれば、実質的な引張り強度を発現する部分が細くなり、強度の低下を招く。このような鉄筋コンクリート中の鉄筋の強度の低下は、鉄筋コンクリート構造体の強度の低下を招くため、問題となる。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鉄筋コンクリートを構成している鉄筋の腐食が抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート中鉄筋の防食方法は、鉄筋コンクリートを構成している鉄筋からなる内部電極に、鉄筋コンクリートの外部に配置した外部電極を電気的に接続する第1ステップと、外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態とする第2ステップとを少なくとも備える。
【0007】
上記コンクリート中鉄筋の防食方法において、外部電極は、鉄筋コンクリートのコンクリートに接触して配置してもよい。また、外部電極は、鉄筋コンクリートに用いられているのと同等の鉄筋より構成するとよい。また、第1ステップでは、鉄筋コンクリートを構成しているコンクリートと電気的に絶縁分離した状態の導線で内部電極と外部電極とを接続すればよい。
【0008】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造は、鉄筋コンクリートを構成している鉄筋に電気的に接続して鉄筋コンクリートの外部に配置した外部電極と、外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態とする酸素低下手段とを少なくとも備える。
【0009】
上記鉄筋コンクリート構造において、外部電極は、鉄筋コンクリートのコンクリートに接触して配置されていてもよい。また、外部電極は、鉄筋コンクリートに用いられている鉄筋より構成されているとよい。また、鉄筋と外部電極とは、鉄筋コンクリートを構成しているコンクリートと電気的に絶縁分離した状態の導線で接続されていればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、鉄筋からなる内部電極に鉄筋コンクリートの外部に配置した外部電極を電気的に接続し、外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態とするようにしたので、鉄筋コンクリートを構成している鉄筋の腐食が抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるコンクリート中鉄筋の防食方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態におけるコンクリート中鉄筋の防食方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるコンクリート中鉄筋の防食方法を説明するためのフローチャートである。まず、図1の(a)に示すように、鉄筋コンクリート101を構成している鉄筋からなる内部電極102に、鉄筋コンクリート101の外部に配置した外部電極103を電気的に接続する(ステップS101)。内部電極102と外部電極103とは、被覆銅線などによる導線104で接続すればよい。被覆銅線を用いることで、内部電極102と外部電極103とを接続する導線104を、鉄筋コンクリート101のコンクリートと電気的に絶縁分離した状態にすることができる。
【0013】
次に、図1の(b)に示すように、外部電極103の周囲を大気より酸素が少ない状態とする(ステップS102)。例えば、密閉可能な容器105に外部電極103を収容し、容器105の内部を大気より酸素が少ない状態とすればよい。大気より酸素が少ない状態としては、例えば、窒素ガスの雰囲気とすればよい。また、大気(空気):窒素=1:1として混合した気体の雰囲気とすればよい。これらの気体で容器105の内部が充填されていればよい。
【0014】
以上のように、外部電極103の周囲を大気より酸素が少ない状態とすれば、内部電極102との間で、酸素の濃度差が形成されるようになる。内部電極102は、コンクリート中に埋設されているために大気中と同様の酸素濃度となり、外部電極103は、内部電極102より酸素濃度が低い状態となる。このような状態では、内部電極102における酸素の還元反応に比較し、外部電極103における酸素の還元反応の方が劣勢となる。
【0015】
このため、電気化学的に、内部電極102はカソードとなり、外部電極103はアノードとなる。ここで、内部電極102と外部電極103とを導線104で接続して等電位とすれば、内部電極102の電位は、接続しない場合に比較して低くなり、内部電極102における酸素の還元反応が、抑制されるようになる。この結果、内部電極102である鉄筋コンクリート101中の鉄筋においては、腐食(酸化反応)が抑制されるようになる。
【0016】
従って、図1の(b)に示すように、鉄筋コンクリート101を構成している鉄筋からなる内部電極102に電気的に接続して鉄筋コンクリート101の外部に配置した外部電極103と、外部電極104の周囲を大気より酸素が少ない状態とするための、内部を大気より酸素が少ない状態とした容器105(酸素低下手段)とを少なくとも備える鉄筋コンクリート構造によれば、鉄筋コンクリートを構成している鉄筋の腐食が抑制できるようになる。
【0017】
ここで、内部電極102および外部電極103において、同じ酸素濃度であれば同程度に電極反応(酸化還元反応)が起こることが重要となる。言い換えると、内部電極102と外部電極103とは、同じ材料から構成されていることが望ましい。例えば、外部電極103は、内部電極102と同じ鉄筋から構成するとよい。
【0018】
また、外部電極103は、鉄筋コンクリート101のコンクリートに接触して配置するとよりよい。コンクリート中は、イオンが伝導可能であるため、コンクリートは固体電解質となる。従って、図2に示すように、外部電極103を鉄筋コンクリート101のコンクリートに接触して配置すれば、内部電極102をカソードとし、外部電極103をアノードとする酸素濃淡電池が構成される。この状態では、カソードとなる内部電極102では、主に還元反応が起こるようになり、アノードなる外部電極103では、主に酸化反応が起こるようになる。この結果、内部電極102となる鉄筋コンクリート101の鉄筋においては、ほぼ腐食が防げるようになる。なお、外部電極103をコンクリートに接触させていない状態も、酸素濃淡電池が構成されているものとも考えられる。
【0019】
また、図2に示すように、鉄筋コンクリート101に亀裂201が発生し、内部の鉄筋(内部電極102)が外気(大気)に接触可能な状態となると、亀裂201の部分で外気に触れる箇所と、これ以外の箇所とで、鉄筋に酸素の濃度差が形成される状態となる。しかしながら、本実施の形態によれば、上述したことにより、外部電極103における酸素の還元反応が最も劣勢な状態となるので、亀裂201以外の箇所における鉄筋の腐食が抑制できるようになる。また、外部電極の周囲を大気より酸素が少ない雰囲気に配置した外部電極を接続することで、鉄筋においては主に還元反応が起こるようにしてるので、亀裂201により酸化作用を有する物質が付着しても、鉄筋の腐食が抑制できるようになる。
【0020】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、酸素低下手段として、大気より酸素が少ない状態とした容器の内部に外部電極を収容したが、これに限るものではない。大気より酸素が少ない状態とした気体を、外部電極に吹き付けることで、外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態としてもよい。この場合、上述した容器を用いる必要はない。また、外部電極は、徐々に腐食していくことになるので、適宜に交換することで、長期間にわたり鉄筋コンクリートないの鉄筋の腐食を抑制できるようになる。
【0021】
また、既設の鉄筋コンクリート構造体に対しては、例えば、内部の鉄筋に到達する貫通孔をコンクリートに形成するなど、鉄筋の一部をはつりだし、ここに導線を接続し、この導線に外部電極を接続すればよい。また、鉄筋に導線を接続し、この導線に外部電極を接続した後、鉄筋をコンクリートに収容して鉄筋コンクリート構造体を形成してもよい。
【0022】
また、大気より酸素が少ない状態は、窒素や、窒素を混合した空気に限るものではなく、アルゴンなどの不活性ガスを用いて形成するようにしてもよい。また、大気より酸素が少ない状態は、水素を用いて形成してもよい。不活性ガスや水素ガスを用いることで、酸素が少ない状態を形成すれば、前述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0023】
上述した本発明によれば、鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食が防止できるようになる。特に、亀裂が形成された鉄筋コンクリートにおける鉄筋の防食に効果的である。
【符号の説明】
【0024】
101…鉄筋コンクリート、102…内部電極、103…外部電極、104…導線、105…容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートを構成している鉄筋からなる内部電極に、前記鉄筋コンクリートの外部に配置した外部電極を電気的に接続する第1ステップと、
前記外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態とする第2ステップと
を少なくとも備えることを特徴とするコンクリート中鉄筋の防食方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート中鉄筋の防食方法において、
前記外部電極は、前記鉄筋コンクリートのコンクリートに接触して配置することを特徴とするコンクリート中鉄筋の防食方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリート中鉄筋の防食方法において、
前記外部電極は、前記鉄筋コンクリートに用いられている鉄筋より構成することを特徴とするコンクリート中鉄筋の防食方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート中鉄筋の防食方法において、
前記第1ステップでは、前記鉄筋コンクリートを構成しているコンクリートと電気的に絶縁分離した状態の導線で前記内部電極と前記外部電極とを接続することを特徴とするコンクリート中鉄筋の防食方法。
【請求項5】
鉄筋コンクリートを構成している鉄筋に電気的に接続して前記鉄筋コンクリートの外部に配置した外部電極と、
前記外部電極の周囲を大気より酸素が少ない状態とする酸素低下手段と
を少なくとも備えることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。
【請求項6】
請求項5記載の鉄筋コンクリート構造において、
前記外部電極は、前記鉄筋コンクリートのコンクリートに接触して配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。
【請求項7】
請求項5または6記載の鉄筋コンクリート構造において、
前記外部電極は、前記鉄筋コンクリートに用いられている鉄筋より構成されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造において、
前記鉄筋と前記外部電極とは、前記鉄筋コンクリートを構成しているコンクリートと電気的に絶縁分離した状態の導線で接続されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−52301(P2012−52301A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193521(P2010−193521)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】