説明

コンクリート柱の鉄筋腐食検査方法

【課題】コンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を正確に知ることができるコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法を提供すること。
【解決手段】鉄筋を有するコンクリート柱の外周周りを囲む検査コイルに交流電流を流して、検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定し、この測定されたインダクタンス測定値と、予め作成しておいたところの鉄筋に関するパラメータを変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースとから抵抗算出値を算出し、前記抵抗算出値と前記測定された抵抗測定値とを比較することにより、前記コンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導現象を利用してコンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を検査するコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電柱、鉄道の橋脚、高架式道路の支柱などには、鉄筋入りのコンクリート柱が広く採用されている。このような鉄筋入りのコンクリート柱(以下、単にコンクリート柱ともいう)での内部の鉄筋の腐食の状態を診断する方法として、コンクリート柱鉄筋の非破壊診断方法が特開平9−21786号公報に開示されている。
【0003】
このコンクリート柱鉄筋の非破壊診断方法は、電磁誘導現象を利用したものであって、予め鉄筋の劣化のないコンクリート柱での標準インピーダンス値を求めておき、診断すべきコンクリート柱の回りにコイルを巻き、コイルに交流電流を流してコイルのインピーダンスを測定し、前記標準インピーダンス値と比較することにより鉄量の減少を判定するようにした方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−21786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の方法では、コイルのインピーダンスを測定するようにしたものであるから、診断すべきコンクリート柱と前記標準インピーダンス値を求めたコンクリート柱とが鉄筋位置、鉄筋径、鉄筋本数において同一タイプのコンクリート柱でなければ正確な診断が難しく、コイルのインピーダンスが、鉄筋位置、鉄筋径、鉄筋本数の変動で変化するだけでなく、コイルとコンクリート柱との相対位置の変化によっても大きく変化する。このため、前記従来の方法は、鉄筋の腐食について正確な診断を行うという点において改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電磁誘導現象を利用してコンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を正確に知ることができるコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
請求項1の発明は、鉄筋を有するコンクリート柱の外周周りを囲む検査コイルに交流電流を流して、検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定し、この測定されたインダクタンス測定値と、予め作成しておいたところの鉄筋に関するパラメータを変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースとから抵抗算出値を算出し、前記抵抗算出値と前記測定された抵抗測定値とを比較することにより、前記コンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を判別することを特徴とするコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載のコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法において、前記データベースは、コンクリート柱を用いず検査コイル内に腐食の無い健全な鉄筋を配し、検査コイル内の鉄筋の鉄筋位置、鉄筋径及び鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法は、鉄筋を有するコンクリート柱の外周周りを囲む検査コイルに交流電流を流して、検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定し、インダクタンス測定値Lmと抵抗測定値Rmにその値に変化が現れると、インダクタンス測定値Lmと、予め作成しておいたところの、鉄筋位置など鉄筋に関するパラメータを変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースとから抵抗算出値Rcを算出し、この算出された抵抗算出値Rcと前記測定された抵抗測定値Rmとを比較するようにしているので、前記測定値Lm,Rmに現れた変化が鉄筋の腐食によるものか、鉄筋の位置変化などの腐食以外の要因によるものかを判別することができ、鉄筋の腐食の有無を正確に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コンクリート柱に対してその軸方向に検査コイルを走査したときの検査コイルのインダクタンスの変化の様子を模式的に示す図である。
【図2】コンクリート柱に対してその軸方向に検査コイルを走査したときの検査コイルの抵抗の変化の様子を模式的に示す図である。
【図3】本発明の鉄筋腐食検査方法を説明するための図である。
【図4】本発明の鉄筋腐食検査方法を実施するための検査装置の構成の一例を示す図である。
【図5】図4におけるインピーダンスメータのブリッジを示す図である。
【図6】検査コイル半径方向における鉄筋位置を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋位置と検査コイルのインダクタンスとの関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋位置と検査コイルの抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】図6から得られたグラフであって、鉄筋位置を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】鉄筋径を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋径を8mmから6mmにしたときの、検査コイル半径方向における鉄筋位置と検査コイルのインダクタンス変化量との関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋径を8mmから6mmにしたときの、検査コイル半径方向における鉄筋位置と検査コイルの抵抗変化量との関係を示すグラフである。
【図9】鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋本数と検査コイルのインダクタンスとの関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋本数と検査コイルの抵抗との関係を示すグラフである。
【図10】図9から得られたグラフであって、鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はコンクリート柱に対してその軸方向に検査コイルを走査したときの検査コイルのインダクタンスの変化の様子を模式的に示す図、図2はコンクリート柱に対してその軸方向に検査コイルを走査したときの検査コイルの抵抗の変化の様子を模式的に示す図、図3は本発明の鉄筋腐食検査方法を説明するための図である。
【0013】
本発明のコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法は、鉄筋を有するコンクリート柱の外周周りを囲む検査コイルに交流電流を流して、検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定するようにしている。検査コイルのインダクタンスはコイル内の透磁率に依存して変化し、透磁率が大きくなるほど増加する。そのため、コンクリート柱内の鉄筋の存在により鉄筋が存在しない場合と比較して、検査コイルのインダクタンスは増加する。また、存在する鉄筋の量が増加することにより、インダクタンスは増加する。したがって、腐食などにより鉄筋が細くなった箇所では、検査コイルのインダクタンスが減少する(図1参照)。
【0014】
また、検査コイルに流れるコイル電流による電磁誘導で、コンクリート柱内に磁場が誘起され、これによりコンクリート柱内の鉄筋には導電電流(渦電流)が流れる。導電電流は、ジュール損を発生し、検査コイルのインピーダンスの抵抗成分となる。腐食の無い鉄筋の電気伝導率は大きく、鉄筋の腐食部では電気伝導率は小さいために、一般にジュール損は腐食部の方が大きくなる(図2参照)。
【0015】
このように、コンクリート柱内の鉄筋の腐食によって検査コイルのインダクタンス及び抵抗は変化する。しかしながら、これらの値は鉄筋の配置変化などによっても変化するため、コンクリート柱に対してその軸方向に検査コイルを走査したときの測定値の変化のみでは、それが腐食による測定値の変化か他の要因によるものか判別できない。
【0016】
そこで、検査コイルのインダクタンス測定値Lm及び抵抗測定値Rmにその値に変化が現れた箇所について、前記測定されたインダクタンス測定値Lmと、予め作成しておいたところの、鉄筋に関するパラメータ(鉄筋位置、鉄筋径及び鉄筋本数)を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースとから抵抗算出値Rcを算出し、この抵抗算出値Rcと前記測定された抵抗測定値Rmとを比較する。鉄筋が腐食し錆が発生している場合、鉄筋の細径化によるインダクタンスの低下と錆による抵抗の増加により、前記抵抗算出値Rcと抵抗測定値Rmとの間に差が生じ、一方、鉄筋が腐食していない場合には、鉄筋の位置が変化しても両者の間には大きな差は生じない(図3参照)。
【0017】
したがって、検査コイルのインダクタンス測定値Lmと前記データベースとから算出される抵抗算出値Rcと、実際の抵抗測定値Rmとを比較することで、測定値Lm,Rmに現れた変化が腐食によるものか腐食以外の要因によるものか判別することができ、鉄筋の腐食の有無を安定かつ高感度に評価することができる。
【0018】
前記データベースは、コンクリート柱を用いず検査コイル内に腐食の無い健全な鉄筋を配し、検査対象のコンクリート柱での鉄筋仕様を想定して検査コイル内の鉄筋の鉄筋位置、鉄筋径及び鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータである。
【0019】
鉄筋の位置変化から測定値が変化したのであれば、鉄筋位置変化時のインダクタンスと抵抗との関係を示すデータとインダクタンス測定値Lmとから算出した抵抗算出値Rcと、測定された抵抗測定値Rmの間に大きな差は生じないが、腐食によりインダクタンスが減少していれば、抵抗算出値Rcと錆により変化した抵抗測定値Rmの間に大きな差が生じる。したがって、両者を比較することにより、コンクリート柱走査時の測定値の変化が腐食によるものなのか他の要因によるものなのか否かを判断することができる。
【0020】
図4は本発明の鉄筋腐食検査方法を実施するための検査装置の構成の一例を示す図、図5は図4におけるインピーダンスメータのブリッジを示す図である。
【0021】
図4に示すように、本発明方法を実施するための検査装置は、この例では、検査コイル3と、検査コイル3にプローブ5によって接続されるインピーダンスメータ4と、インピーダンスメータ4に接続されるプログラムされたパーソナルコンピュータ6とにより構成されている。
【0022】
検査である鉄筋2は、コンクリート柱1内にその軸方向に延びるように埋設されている。コンクリート柱1に同軸に設置した検査コイル3のインダクタンス及び抵抗をインピーダンスメータ4で測定する。検査コイル3は、コンクリート柱1に巻きつける、もしくは図示しないフラットケーブルとコネクタを用いて着脱するなどしてコンクリート柱1に同軸に設置される。
【0023】
前記インピーダンスメータ4は、例えば、図5に示すようなブリッジ回路を備えている。ブリッジ回路は、抵抗14(抵抗値:R1)とこれに直列接続された抵抗15(抵抗値:R2)とによってブリッジの一方のアームが構成されており、検査コイル3とこれに直列接続された回路素子13(インピーダンス:Z1)とによってブリッジの他方のアームが構成されている。
【0024】
前記検査コイル3に、正弦波交流電源11による電流が流れる。ここで、前記回路素子13は、可変抵抗(抵抗値R4)と可変容量コンデンサ(容量値C4)の並列回路で形成されており、これらの可変により、ブリッジ回路の平衡点が電流検出器12で検出される。平衡点において、検査コイル3の抵抗RとインダクタンスLは、それぞれ、R=(R1×R2)/R4、L=R1×R2×C4で求められる。本例では、周波数100Hzによる測定を行っている。
【0025】
このようなインピーダンスメータ4により検査コイル3のインダクタンスと抵抗を測定し、その測定値はパーソナルコンピュータ6へ入力される。そして、パーソナルコンピュータ6において、コンクリート柱1に対してその軸方向に検査コイル3を走査したときの検査コイル3のインダクタンス測定値Lm及び抵抗測定値Rmに変化が現れた箇所について、予め作成しておいたところの、鉄筋位置など鉄筋に関するパラメータを変化させたときの検査コイル3のインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースと測定されたインダクタンス測定値Lmとから抵抗算出値Rcを算出して、この抵抗算出値Rcと測定された抵抗測定値Rmとを比較する。その比較結果から、前記測定値Lm,Rmに現れた変化が腐食によるものか、鉄筋の位置変化などの腐食以外の要因によるものかを判別するようにしている。
【0026】
前記データベースは、本実施形態では、実物の鉄筋入りコンクリート柱を用いてではなく、検査コイル3内に腐食のない健全な鉄筋を配し、検査対象のコンクリート柱での鉄筋仕様を想定して検査コイル3内の鉄筋の位置、鉄筋径、鉄筋本数を変化させたときの検査コイル3のインダクタンス及び抵抗を測定して、その測定結果に基づいて作成した。以下に、データベースの例について説明する。
【0027】
図6は検査コイル半径方向における鉄筋位置を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋位置と検査コイルのインダクタンスとの関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋位置と検査コイルの抵抗との関係を示すグラフである。図7は図6から得られたグラフであって、鉄筋位置を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すグラフである。
【0028】
検査コイルとして、ターン数:100ターン、直径:400mm、コイル長さ:65mmの円筒状のコイルを作製した。この検査コイルに1本の直径8mmの鋼線を貫通させ、この鋼線を検査コイルの半径方向中心点から検査コイルへ近づく方向へスライドさせ、このときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を測定した。このようにして得られたデータが図6及び図7に示すグラフである。
【0029】
この図7のグラフ(データ)と、実際のコンクリート柱を測定したときのインダクタンス測定値Lmとから、抵抗算出値Rcを算出する(求める)ことができる。例えばこの場合、検査対象のコンクリート柱のインダクタンス測定値Lmが7.15mHとすると、健全鉄筋から得られたデータベースである図7のグラフから、抵抗算出値Rcは34.981Ωと算出される。
【0030】
そして、コンクリート柱内の鉄筋が腐食しておらずに配置変化がある場合、コンクリート柱の軸方向走査時のインダクタンス測定値に変化があろうとも、図7の関係に従って抵抗も変化するため、抵抗測定値Rmと抵抗算出値Rcの間には大きな差は現れない。これに対して鉄筋が腐食している場合、鉄筋径の減少によってインダクタンス測定値Lmが減少する一方で、腐食部によるジュール損によって抵抗測定値Rmは増加する。したがって、抵抗測定値Rmと図7の関係から算出される抵抗算出値Rcとの間には、前記図3で示したように大きな差が生じるため、腐食を判別することが可能である。
【0031】
図8は鉄筋径を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋径を8mmから6mmにしたときの、検査コイル半径方向における鉄筋位置と検査コイルのインダクタンス変化量との関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋径を8mmから6mmにしたときの、検査コイル半径方向における鉄筋位置と検査コイルの抵抗変化量との関係を示すグラフである。
【0032】
前記の図6,図7の例では直径8mmの鉄筋を1本のみ検査コイル内に挿入した例を示したが、鉄筋径の異なる鉄筋でのデータを作成し、データベースに蓄積することで様々な鉄筋径のコンクリート柱に対応可能となる。図6,図7の場合と同じ鉄筋位置で鉄筋径を8mmから6mmへ変更したときのデータを取り、鉄筋径8mmでの検査コイルのインダクタンスと6mmでのインダクタンスとの差ΔL(インダクタンス変化量)をとると図8(a)のグラフが得られる。また、鉄筋径8mmでの抵抗と6mmでの抵抗との差ΔR(抵抗変化量)をとると図8(b)のグラフが得られる。
【0033】
図8から、どの鉄筋位置においてもインダクタンス変化量は10−5のオーダーである。一方、前記図7では鉄筋の位置が10mmずれることによるインダクタンス変化量の変化は10−5のオーダーよりも小さい。よって、鉄筋径による変化と鉄筋位置による変化とを判別することが可能である。ただし、検査コイル中心点から150mmを超えて検査コイルに近づくと、鉄筋位置変化に対するインダクタンス変化量が大きくなっているため、インダクタンスのみから鉄筋径による変化と鉄筋位置による変化とを判別することは困難である。
【0034】
一方、抵抗変化量について見ると、同一鉄筋径での鉄筋位置変化では10mmの位置変化で0.01Ω以下の変化でしかない(図6(b))のに対し、鉄筋径の変化ではどの鉄筋位置でも0.1Ω以上変化しており(図8(b))、鉄筋位置による変化と鉄筋径による変化とを判別することが可能である。
【0035】
このように、同じ鉄筋位置においても鉄筋径の違いにより測定値に違いが現れるため、コンクリート柱に用いられる様々な鉄筋径でデータを蓄積しておくことで、実際にコンクリート柱を測定したときに、蓄積したデータとインダクタンスおよび抵抗値を照合することで、コンクリート柱内部の鉄筋径を予測することができる。
【0036】
また、鉄筋径8mmと6mmの健全鉄筋での測定結果から次のようなことが言える。腐食により実効径が8mmから6mmへ減少した場合、腐食部はインダクタンスに作用しないため、インダクタンス測定値は鉄筋径を8mmから6mmにした場合と同様に前記の10−5のオーダーで減少する。8mmの鉄筋での検査コイルのインダクタンス測定値が、例えば7.15mHから1×10−5H減少したとすると、図7から抵抗算出値は健全な8mm鉄筋の測定値34.981Ωからおよそ0.003Ω減少した34.978Ωとなる。ところが鉄筋外側1mmが腐食している場合、抵抗測定値は前記の34.981Ωよりも増加するため、抵抗測定値と抵抗算出値との間に前記図3に示すような差が生じ、腐食の有無を判別可能である。
【0037】
図9は鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を示すグラフであって、その(a)は鉄筋本数と検査コイルのインダクタンスとの関係を示すグラフ、その(b)は鉄筋本数と検査コイルの抵抗との関係を示すグラフである。図10は図9から得られたグラフであって、鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すグラフである。
【0038】
実際にはコンクリート柱内には複数本の鉄筋が埋設されていることから、鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータを蓄積することが望ましい。以下に鉄筋本数を変化させたときのデータ例について説明する。
【0039】
検査コイルとして、ターン数:300ターン、直径:400mm、コイル長さ:195mmの円筒状のコイルを作製した。この検査コイル内の検査コイル半径方向における中心点から距離150mmの同心円上に、0〜8本まで鉄筋本数を変化させ、このときの検査コイルのインダクタンス及び抵抗の値を測定した。鉄筋径は8mmである。このようにして得られたデータが図9及び図10に示すグラフである。
【0040】
この場合、図9に示すように、インダクタンス、抵抗は線形に変化し、鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係は、図10に示すように、直線の線形となる。したがって、この結果を外挿することで9本以上の鉄筋が存在する場合のインダクタンス値、抵抗値を見積ることができる。
【0041】
例えば、8mmの鉄筋が埋設されているとわかっている場合に検査コイルのインダクタンス測定値Lmが41.02mHとすると、図10から鉄筋は10本存在することがわかり、そのときの抵抗算出値も同図から105.98Ωとなる。この抵抗算出値と抵抗測定値とを比較して差がある場合、鉄筋位置の変化での比較と同様にして、鉄筋が腐食していると判断できる。
【0042】
ここで挙げた例では鉄筋本数を0〜8本変化させたが、データベースとして蓄積する場合、コンクリート柱に用いられる範囲でさらに多本数でのデータを蓄積することにより検査精度が向上すると考えられる。また、前述したように、検査コイルのインダクタンス及び抵抗は主に鉄筋本数(鉄筋充填率)に比例して増加する傾向を示すため、データベースに蓄積の無い鉄筋本数の場合においてもデータの外挿、内挿によって測定値を見積もることが可能である。さらに各鉄筋本数ごとに前記図7の鉄筋位置を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係をデータベースとして蓄積しておくことで、より正確な腐食の有無の評価が可能である。
【0043】
なお、この実施形態では、データベースの作成に際し、コンクリート柱を使用せず、検査コイル内に裸鋼線(鉄筋)を配置して該検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定してするようにした。ここで、実際のコンクリート柱では、鉄筋がコンクリートで覆われているもののコンクリート自体は不導体であり、コンクリート自体の存在が検査コイルの測定値に与える影響は微小である。したがって、前述した図6〜図10の基本特性は実際のコンクリート柱においても維持されるため、実施形態による方法で作成したデータベースは、コンクリート柱内の鉄筋の腐食検査に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…鉄筋入りのコンクリート柱
2…鉄筋
3…検査コイル
4…インピーダンスメータ
5…プローブ
6…パーソナルコンピュータ
11…正弦波交流電源
12…電流検出器
13…回路素子
14,15…抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を有するコンクリート柱の外周周りを囲む検査コイルに交流電流を流して、検査コイルのインダクタンス及び抵抗を測定し、この測定されたインダクタンス測定値と、予め作成しておいたところの鉄筋に関するパラメータを変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースとから抵抗算出値を算出し、前記抵抗算出値と前記測定された抵抗測定値とを比較することにより、前記コンクリート柱内の鉄筋の腐食の有無を判別することを特徴とするコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法。
【請求項2】
前記データベースは、コンクリート柱を用いず検査コイル内に腐食の無い健全な鉄筋を配し、検査コイル内の鉄筋の鉄筋位置、鉄筋径及び鉄筋本数を変化させたときの検査コイルのインダクタンスと抵抗との関係を示すデータベースであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート柱の鉄筋腐食検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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