コンクリート構造物用防食部材、コンクリート構造物用防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物
【課題】優れた防食(耐腐食)効果を有するとともに、コンクリート構造物と、防食部材との構造的一体性を、長期間に渡って維持することができる防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供する。
【解決手段】本発明に係るコンクリート構造物用防食部材1は、支持体10と、不織布20とを含む。支持体10は、合成樹脂材料を主成分としており、不織布20は、支持体10の一面15上に溶着されている。上述した防食部材1は、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽等のコンクリート構造物と組み合わせて用いられる。即ち、本発明に係るコンクリート構造物は、防食部材1と、基体部4とを含む。基体部4は、内周面40により区画された内部空間を有しており、この内周面40が、防食部材1によって覆われている。
【解決手段】本発明に係るコンクリート構造物用防食部材1は、支持体10と、不織布20とを含む。支持体10は、合成樹脂材料を主成分としており、不織布20は、支持体10の一面15上に溶着されている。上述した防食部材1は、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽等のコンクリート構造物と組み合わせて用いられる。即ち、本発明に係るコンクリート構造物は、防食部材1と、基体部4とを含む。基体部4は、内周面40により区画された内部空間を有しており、この内周面40が、防食部材1によって覆われている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物用防食部材(以下、単に防食部材と称する)、防食部材の製造方法、及び、前記防食部材を用いたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水道施設は、下水管路網を構成する排水管と、この下水管路網の保守管理を行うためのマンホール、及び、下水管路網を通じて集水された下水の浄化処理槽などを有し、これらが有機的に接続されて構成されている。これら排水管、マンホール、及び、浄化処理槽などは、通常、コンクリート材料でなる構造物である。
【0003】
この種のコンクリート構造物は、その使用環境によって表面に腐食等の劣化が生じ易いことが知られている。例えば、下水道施設の管路網には、糞尿等を含む家庭排水、工業設備から排出される各種廃液、さらには硫黄酸化物等を含む雨水が流れており、それら液体から発生する硫化水素ガスにより、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽の表面(内周面)が腐食される。また、特に、温泉街の下水管路網には常時大量の温泉排水が流されており、この温泉排水から発生する硫化水素ガスにより、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽の表面が腐食される。
【0004】
上述したコンクリート構造物の腐食問題について、例えば、排水管の内周面に生じた腐食部分を補修せずに放置した場合、周囲からの土圧により腐食部分に亀裂が生じ、この亀裂から漏水事故が生じることとなる。また、マンホールや、浄化処理槽の内周面に生じた腐食部分を補修せずに放置した場合、周囲からの土圧により腐食部分に亀裂が生じ、この亀裂から漏水事故が生じるとともに、最悪の場合には崩落事故が生じる危険性が極めて高くなる。
【0005】
そこで、従来より、コンクリート構造物の腐食部分を補修するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、プラスチック製の防食部材をマンホールの内部にライニングし、この防食部材の外周面と、マンホールの内周面との相対向面間に接着材(主としてモルタル)を充填して、両者を一体的に結合させるマンホールの補修方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、防食部材の外周面と、マンホールの内周面との相対向面間に充填される接着材が、例えばモルタルである場合、モルタルと、防食部材との材質の相違により、防食部材がモルタルから剥離しやすいことが分かった。一方、接着材として合成樹脂系接着材を用いた場合には、接着材と、マンホールとの材質の相違により、接着材がマンホール内周面から剥離しやすいことが分かった。
【0007】
上述した防食部材と、コンクリート構造物との構造的一体性を確保するため、例えば、特許文献2及び3では、防食部材の外周面に、T字形状断面のアンカー突起を多数、配置する構造を開示している。
【0008】
確かに、特許文献2及び3に開示されているように、防食部材が、その外周面にアンカー突起を有している構成によると、アンカー突起が接着材に対してアンカー効果を奏することにより、防食部材と、コンクリート構造物との構造的一体性が一応、確保される。
【0009】
しかし、実際には、このようなアンカー突起を防食部材の外周面上に多数成形するには、新たな金型が必要になるなど過大な設備投資を強いられ、コスト高を招くこととなる。
【特許文献1】特許第2641713号公報
【特許文献2】特開2004−347065号公報
【特許文献3】特開2001−248177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、優れた防食(耐腐食)効果を有する防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することである。
【0011】
本発明のもう1つの課題は、コンクリート構造物と、防食部材との一体性、又は、接着性を、長期間に渡って維持することができる防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る防食部材は、支持体と、不織布とを含む。支持体は合成樹脂材料を主成分としており、不織布は支持体の一面上に溶着されている。
【0013】
上述したように、本発明に係る防食部材において、支持体は、合成樹脂材料を主成分としているから、優れた防食(耐腐食)効果を有するとともに、製造(成型)が容易である。
【0014】
本発明に係る防食部材における最大の特徴の1つは、不織布を有する点にある。即ち、不織布は、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造であって、支持体の一面上に溶着されている。この構造によると、防食部材は、不織布の多孔質構造により、不織布の内部にモルタル等の接着材を含浸させることができるとともに、含浸した接着材に対して不織布の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏する。
【0015】
しかも、不織布は、支持体の一面上に溶着されている。この構造によると、不織布と、支持体との結合強度が向上する。従って、不織布が支持体から剥離するなどの不都合は生ぜず、不織布のアンカー効果を飛躍的に向上させることができる。
【0016】
さらに、この種の不織布は、製造、又は、入手が容易であるから製造コストを低減することができる。
【0017】
本発明に係る防食部材の製造方法は、成形型に不織布を配置し、その後、成形型の内部に合成樹脂材料を充填し、不織布の一面と、これに接触する合成樹脂材料の一面とを熱溶着させる工程を含む。この製造方法によると、上述した利点を全て有する防食部材を容易に、且、安価で製造することができる。
【0018】
さらに、上述した防食部材は、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽等のコンクリート構造物と組み合わせて用いられる。即ち、本発明に係るコンクリート構造物は、防食部材と、基体部とを含む。基体部は、内周面により区画された内部空間を有しており、この内周面が、防食部材によって覆われている。この構造によると、防食部材の利点を全て有するコンクリート構造物を提供することができる。
【0019】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)優れた防食(耐腐食)効果を有する防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することができる。
(2)コンクリート構造物と、防食部材との構造的一体性を、長期間に渡って維持することができる防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る防食部材の平面図、図2は図1に示した防食部材の側面図、図3は図1に示した防食部材の部分断面図である。図1乃至図3を参照すると、本発明の一実施形態に係る防食部材は、支持体10と、不織布20とを含む。
【0022】
支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料(プラスチック材料)を主成分とし、一面15と、他面16とを有する板状成型体である。
【0023】
不織布20は、好ましくは綿状不織布であって、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造を有しており、内部にモルタル等の接着材が含浸可能な空間を有している。不織布20の厚み寸法H1は、好ましくは0.5〜3.0mm程度であって、より好ましくは0.5〜1.0mm程度である。
【0024】
不織布20は、好ましくは支持体10と同一の合成樹脂材料を主成分とし、支持体10の一面15に一体的に溶着されている。より詳細に説明すると、支持体10の一面15と、一面15に向かい合う不織布20の面との相対向部分(接触面部分)には、支持体10と、不織布20とが相互に溶融して結合された溶着層200が介在しており、この溶着層200により支持体10と、不織布20とが一体的に結合されている(図3参照)。
【0025】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材において、支持体10は、合成樹脂材料を主成分としているから、優れた防食(耐腐食)効果を有する。しかも、支持体10は、板状体であって、量産性に富む形状であるから、製造コストを低減することができるとともに、嵩張らない態様で迅速、且、大量に輸送することができる。
【0026】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材における特徴の1つは、不織布20を有する点にある。不織布20は、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造を有しており、内部にモルタル等の接着材が含浸可能な空間を有している。この構造によると、不織布20の内部にモルタル等の接着材を含浸させることができるとともに、含浸した接着材に対して不織布20の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏することができる。
【0027】
ここで、不織布20の厚み寸法H1は、好ましくは0.5〜3.0mm程度、より好ましくは0.5〜1.0mm程度である。不織布20の厚み寸法H1が0.5mmより薄いと、不織布20の内部に接着材が含浸したとしても、充分なアンカー効果を確保することが困難になる。一方、不織布20の厚み寸法H1が3.0mmより厚くなると、不織布20の内部へ、接着材を含浸させることが困難になる。その結果、不織布20の厚み寸法H1の内部に接着材が含浸していない領域(非含浸領域)が生じやすくなり、不織布20に外的圧力が加えられた場合に、非含浸領域を境に破断事故が生じるなど、不織布20のアンカー効果の信頼性に問題が生じる。また、接着材としてモルタルを用いる場合に、不織布20の厚み寸法H1が3.0mmより厚くなると、不織布20の表面でモルタルがセメント成分と水分とに濾過(分離)されてしまう傾向にあり、アンカー効果の信頼性に問題が生じる。
【0028】
不織布20は、支持体10の一面15上に一体的に溶着されている。溶着は、合成樹脂で構成された支持体10の熱溶着性を利用する。この構造によると、不織布20と、支持体10との結合強度が向上する。従って、不織布20が支持体10から剥離するなどの不都合は生ぜず、不織布20のアンカー効果を飛躍的に向上させることができる。
【0029】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材の支持体10と、不織布20との熱溶着構造について、さらに図4及び図5に係る防食部材の製造方法を参照して説明する。図4及び図5において、図1乃至図3に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0030】
図4及び図5に示す防食部材の製造方法に用いられている成形装置3は、いわゆる射出成形装置3であって、可動側金型31と、固定側金型32とを有している。固定側金型32は、成形面320に、加熱筒(図示しない)において熱溶融された合成樹脂材料10を射出するためのノズル321を有している。以下、説明の都合上、PP等の熱可塑性プラスチックを、合成樹脂材料10として用いた場合の例を説明する。
【0031】
まず、図4に示す工程を参照すると、可動側金型31の成形面310と、固定側金型32の成形面320とによって区画された成形空間30の内部において、予め可動側金型31の成形面310の形状に裁断加工した不織布20を配置する。不織布20は、合成樹脂材料10と同一材料を用いることが好ましい。
【0032】
次に、図5に示す工程を参照すると、図4に示した工程の後、成形空間30に、加熱筒(図示しない)によって熱溶融された合成樹脂材料10を充填する。ここで、硬化前の合成樹脂材料10の余熱を利用して、不織布20の一面と、これに接触する合成樹脂材料10の一面とを一体的に熱溶着させる。図示していないが、さらに加圧処理、及び、冷却処理を経て、不織布20が合成樹脂材料10の一面上に溶着した状態で、合成樹脂材料10が支持体10に硬化され、その後、可動側金型31と、固定側金型32とを再び分離し、成形品(防食部材)を脱型する。
【0033】
図4及び図5を参照して説明した製造方法によると、図1乃至図3を参照して説明した利点を全て有する防食部材を、安価で製造することができる。例えば、本発明に係る防食部材は、支持体10を成形するための既存の成形装置に対し、予め不織布20を配置することで製造可能である。即ち、新たな金型を準備する必要が無いから、過大な設備投資を強いられることがなく、製造コストを低減することができる。
【0034】
さらに、この種の不織布20は、製造、又は、入手が容易であるから防食部材の製造コストを低減することができる。
【0035】
図1乃至図5を参照して説明した防食部材は、コンクリート構造物と組み合わせて用いられる。図6は本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の部分断面図、図7は図6に示したコンクリート構造物の一部を拡大した図である。図6及び図7において、図1乃至図5に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0036】
なお、図6及び図7に示すコンクリート構造物は、所謂、浄化処理槽であるが、これは例示に過ぎない。本発明に係る防食部材を用いたコンクリート構造物は、浄化処理槽以外にも、排水管や、マンホールなど(図8及び図9参照)、その使用環境によって表面に腐食等の劣化が生じる全てのコンクリート構造物を含む。
【0037】
図6及び図7を参照すると、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物(以下、説明の都合上、浄化処理槽と称する)は、図1乃至図5を参照して説明した防食部材1と、基体部4と、接着材5とを含む。
【0038】
基体部4は、排水管71を通じて集水された下水9を浄化処理するための水槽であって、コンクリート材料を主成分とし、グランドライン6の地下に、内周面40により区画された内部空間(下水処理空間)を有している。下水9は、浄化処理された後、排水管72を通じて次の浄化処理段階に送水される。
【0039】
浄化処理槽は、複数の防食部材1を含む。防食部材1のそれぞれは、図1乃至図5を参照して説明したものでなり、複数が内周面40に沿って連続して配置され、内周面40を被覆している。
【0040】
接着材5は、例えばモルタルなどであって、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間(隙間G)、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分に充填され、不織布20の内部に含浸している。
【0041】
図6及び図7を参照して説明した浄化処理槽の構造によると、図1乃至図5を参照して説明した防食部材1の利点を全て有することができる。例えば、浄化処理槽は、不織布20の内部に含浸した接着材5のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持することができる。
【0042】
支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料を主成分としているから、防食部材1は、基体部4に内装された後にも、浄化処理槽内に継続して発生する硫化水素ガスに対して、優れた防食(耐腐食)効果を有することができる。
【0043】
図8は、本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す断面図である。図8において、図1乃至図7に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。なお、図8に示すコンクリート構造物は、所謂、排水管(図7、図9参照)である。
【0044】
図8に示すコンクリート構造物(以下、説明の都合上、排水管と称する)は、防食部材1が筒状成型体である点に特徴の1つがある。この点、図1乃至図7を参照して説明したように、本発明に係る防食部材の特徴の1つは、支持体10に不織布20が溶着されている構成により、不織布20の内部に含浸した接着材に対して不織布20の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏する点にある。従って、不織布20の土台となる支持体10の形状は、基体部4の具体的な形状に追従して設定することができる。
【0045】
具体的に図8を参照すると、本発明の一実施形態に係る排水管において、基体部4は、下水管路網を構成する管体であって、内周面40により区画された貫通空間(下水9の流下空間)を有している。
【0046】
防食部材1の支持体10は、合成樹脂材料を主成分とする筒状成型体であって、不織布は、支持体10の一面15(外周面15)上に溶着されている。防食部材1は、基体部4の内部に配置されており、内周面40を被覆している。
【0047】
接着材5は、例えばモルタルなどであって、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分に充填され、不織布20の内部に含浸している。
【0048】
上述したように図8を参照して説明した排水管の構造によると、図1乃至図7を参照して説明した防食部材1の利点を全て有することができる。例えば、排水管は、不織布20の内部に含浸した接着材5のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持することができる。
【0049】
支持体10は合成樹脂材料を主成分とするから、図8に示すような筒状成型体の他にも、基体部4の形状に追従して様々な形状をとることができる。しかも、不織布20は、多孔質構造であるから、支持体10の形状の変化に容易に追従することができる。
【0050】
さらに、支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料を主成分としているから、防食部材1は、基体部4に内装された後にも、排水管内に継続して発生する硫化水素ガスに対して、優れた防食(耐腐食)効果を有することができる。
【0051】
図9は本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図、図10は図9に示したコンクリート構造物の平面断面図である。図9及び図10において、図1乃至図8に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。なお、図9及び図10に示すコンクリート構造物は、所謂マンホールである。
【0052】
図9及び図10に示すコンクリート構造物は、基体部4の内部空間において、複数の防食部材1が組み合わされ筒状体100を構成している点に特徴の1つがある。この構造によると、図1乃至図8を参照して説明した防食部材1の利点を全て有するマンホールを提供することができるとともに、効率よく腐食部分の補修を行うことができる。
【0053】
図11乃至図13は、図9及び図10に示したコンクリート構造物(マンホール)の製造方法を示す図である。図11乃至図13において、図1乃至図10に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0054】
まず、図11を参照すると、基体部4の内周面40に生じた腐食部分45を、好ましくは高圧水洗浄により除去する。腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分には、エポキシ樹脂等の合成樹脂材料や、モルタル等の補修剤を充填して、補強してもよい。
【0055】
次に、図12を参照すると、図11に示した工程の後、複数の防食部材1を基体部4の内部空間に搬入し、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間に隙間Gが生じるように、複数の防食部材1を筒状体100に組み立てる。この筒状体100の組み立て作業によって、基体部4のすべての内周面40が筒状体100で被覆される。
【0056】
次に、図13を参照すると、図12に示した工程の後、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間の隙間Gに、例えばモルタルなどの接着材5を充填する。接着材5は、隙間G、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分を埋めるとともに、不織布20に含浸した状態で、養生期間を経て硬化される。
【0057】
上述した構造によると、防食部材1の利点を全て有するとともに、接着材5に対する不織布20のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持し、周囲からの土圧に対抗しうるだけの構造的強度を有するマンホールを提供することができる。
【0058】
また、本発明の一実施形態に係るマンホールに用いられる筒状体100は、複数の防食部材1の組み立て構造である。従って、防食部材1のそれぞれは、小型化及び軽量化が可能であるから、マンホール内に筒状体100を形成する作業の高効率化が図られる。
【0059】
図14は本発明に係るコンクリート構造物に用いられる防食部材について、もう一つの実施形態を示す平面断面図である。図14において、図1乃至図13に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0060】
図14は、複数の防食部材1を角筒形形状に組み合わせた実施形態である。図1乃至図13を参照して説明したように、本発明に係る防食部材1における最大の特徴の1つは、支持体10の一面15(外周面15)に不織布20が溶着されている構成により、接着材5に対して優れたアンカー効果を奏する点にある。従って、支持体10は、コンクリート構造物の形状に追従して様々な形状をとることができる。しかも、不織布20は、多幸質構造であるから、支持体10の形状の変化に容易に追従して、優れたアンカー効果を奏することができる。
【0061】
図15は、本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。図15において、図1乃至図14に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0062】
図1乃至図14に示した防食部材1は、基本的にコンクリート構造物の再構築工法を前提として用いられるものであるが、周知のコンクリート構造物の腐食問題を踏まえ、少なくとも今後、新設されるコンクリート構造物を製造する場合には、予め腐食対策を施すことができる。例えば、図15に示すコンクリート構造物は、所謂マンホールであって、防食部材1と、基体部4とを含む。基体部4は、コンクリート材料を主成分とし、内周面により区画された内部空間を有している。
【0063】
防食部材1は、筒状体を構成した支持体10の外周面に不織布20が溶着されており、この不織布20が基体部4の内部に埋設されている。この構造によると、予め、基体部4の内部が防食部材1で保護されたコンクリート構造物を提供することができる。
【0064】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種種の変形態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係る防食部材の平面図である。
【図2】図1に示した防食部材の側面図である。
【図3】図1に示した防食部材の部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る防食部材の製造方法を示す図である。
【図5】図4に示した工程の後の工程を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の部分断面図である。
【図7】図6に示したコンクリート構造物の一部を拡大した図である。
【図8】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。
【図10】図9に示したコンクリート構造物の平面断面図である。
【図11】図9及び図10に示したコンクリート構造物の製造方法を示す図である。
【図12】図11に示した工程の後の工程を示す図である。
【図13】図12に示した工程の後の工程を示す図である。
【図14】本発明に係るコンクリート構造物に用いられる防食部材について、もう一つの実施形態を示す平面断面図である。
【図15】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 防食部材
10 基体部
15 基体部の一面
20 不織布
200 溶着層
4 基体
40 内周面
45 腐食部分
5 接着材
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物用防食部材(以下、単に防食部材と称する)、防食部材の製造方法、及び、前記防食部材を用いたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水道施設は、下水管路網を構成する排水管と、この下水管路網の保守管理を行うためのマンホール、及び、下水管路網を通じて集水された下水の浄化処理槽などを有し、これらが有機的に接続されて構成されている。これら排水管、マンホール、及び、浄化処理槽などは、通常、コンクリート材料でなる構造物である。
【0003】
この種のコンクリート構造物は、その使用環境によって表面に腐食等の劣化が生じ易いことが知られている。例えば、下水道施設の管路網には、糞尿等を含む家庭排水、工業設備から排出される各種廃液、さらには硫黄酸化物等を含む雨水が流れており、それら液体から発生する硫化水素ガスにより、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽の表面(内周面)が腐食される。また、特に、温泉街の下水管路網には常時大量の温泉排水が流されており、この温泉排水から発生する硫化水素ガスにより、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽の表面が腐食される。
【0004】
上述したコンクリート構造物の腐食問題について、例えば、排水管の内周面に生じた腐食部分を補修せずに放置した場合、周囲からの土圧により腐食部分に亀裂が生じ、この亀裂から漏水事故が生じることとなる。また、マンホールや、浄化処理槽の内周面に生じた腐食部分を補修せずに放置した場合、周囲からの土圧により腐食部分に亀裂が生じ、この亀裂から漏水事故が生じるとともに、最悪の場合には崩落事故が生じる危険性が極めて高くなる。
【0005】
そこで、従来より、コンクリート構造物の腐食部分を補修するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、プラスチック製の防食部材をマンホールの内部にライニングし、この防食部材の外周面と、マンホールの内周面との相対向面間に接着材(主としてモルタル)を充填して、両者を一体的に結合させるマンホールの補修方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、防食部材の外周面と、マンホールの内周面との相対向面間に充填される接着材が、例えばモルタルである場合、モルタルと、防食部材との材質の相違により、防食部材がモルタルから剥離しやすいことが分かった。一方、接着材として合成樹脂系接着材を用いた場合には、接着材と、マンホールとの材質の相違により、接着材がマンホール内周面から剥離しやすいことが分かった。
【0007】
上述した防食部材と、コンクリート構造物との構造的一体性を確保するため、例えば、特許文献2及び3では、防食部材の外周面に、T字形状断面のアンカー突起を多数、配置する構造を開示している。
【0008】
確かに、特許文献2及び3に開示されているように、防食部材が、その外周面にアンカー突起を有している構成によると、アンカー突起が接着材に対してアンカー効果を奏することにより、防食部材と、コンクリート構造物との構造的一体性が一応、確保される。
【0009】
しかし、実際には、このようなアンカー突起を防食部材の外周面上に多数成形するには、新たな金型が必要になるなど過大な設備投資を強いられ、コスト高を招くこととなる。
【特許文献1】特許第2641713号公報
【特許文献2】特開2004−347065号公報
【特許文献3】特開2001−248177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、優れた防食(耐腐食)効果を有する防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することである。
【0011】
本発明のもう1つの課題は、コンクリート構造物と、防食部材との一体性、又は、接着性を、長期間に渡って維持することができる防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る防食部材は、支持体と、不織布とを含む。支持体は合成樹脂材料を主成分としており、不織布は支持体の一面上に溶着されている。
【0013】
上述したように、本発明に係る防食部材において、支持体は、合成樹脂材料を主成分としているから、優れた防食(耐腐食)効果を有するとともに、製造(成型)が容易である。
【0014】
本発明に係る防食部材における最大の特徴の1つは、不織布を有する点にある。即ち、不織布は、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造であって、支持体の一面上に溶着されている。この構造によると、防食部材は、不織布の多孔質構造により、不織布の内部にモルタル等の接着材を含浸させることができるとともに、含浸した接着材に対して不織布の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏する。
【0015】
しかも、不織布は、支持体の一面上に溶着されている。この構造によると、不織布と、支持体との結合強度が向上する。従って、不織布が支持体から剥離するなどの不都合は生ぜず、不織布のアンカー効果を飛躍的に向上させることができる。
【0016】
さらに、この種の不織布は、製造、又は、入手が容易であるから製造コストを低減することができる。
【0017】
本発明に係る防食部材の製造方法は、成形型に不織布を配置し、その後、成形型の内部に合成樹脂材料を充填し、不織布の一面と、これに接触する合成樹脂材料の一面とを熱溶着させる工程を含む。この製造方法によると、上述した利点を全て有する防食部材を容易に、且、安価で製造することができる。
【0018】
さらに、上述した防食部材は、排水管、マンホール、及び、浄化処理槽等のコンクリート構造物と組み合わせて用いられる。即ち、本発明に係るコンクリート構造物は、防食部材と、基体部とを含む。基体部は、内周面により区画された内部空間を有しており、この内周面が、防食部材によって覆われている。この構造によると、防食部材の利点を全て有するコンクリート構造物を提供することができる。
【0019】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)優れた防食(耐腐食)効果を有する防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することができる。
(2)コンクリート構造物と、防食部材との構造的一体性を、長期間に渡って維持することができる防食部材、防食部材の製造方法、及び、コンクリート構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る防食部材の平面図、図2は図1に示した防食部材の側面図、図3は図1に示した防食部材の部分断面図である。図1乃至図3を参照すると、本発明の一実施形態に係る防食部材は、支持体10と、不織布20とを含む。
【0022】
支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料(プラスチック材料)を主成分とし、一面15と、他面16とを有する板状成型体である。
【0023】
不織布20は、好ましくは綿状不織布であって、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造を有しており、内部にモルタル等の接着材が含浸可能な空間を有している。不織布20の厚み寸法H1は、好ましくは0.5〜3.0mm程度であって、より好ましくは0.5〜1.0mm程度である。
【0024】
不織布20は、好ましくは支持体10と同一の合成樹脂材料を主成分とし、支持体10の一面15に一体的に溶着されている。より詳細に説明すると、支持体10の一面15と、一面15に向かい合う不織布20の面との相対向部分(接触面部分)には、支持体10と、不織布20とが相互に溶融して結合された溶着層200が介在しており、この溶着層200により支持体10と、不織布20とが一体的に結合されている(図3参照)。
【0025】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材において、支持体10は、合成樹脂材料を主成分としているから、優れた防食(耐腐食)効果を有する。しかも、支持体10は、板状体であって、量産性に富む形状であるから、製造コストを低減することができるとともに、嵩張らない態様で迅速、且、大量に輸送することができる。
【0026】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材における特徴の1つは、不織布20を有する点にある。不織布20は、繊維を3次元方向に重ね合わせて結合した多孔質構造を有しており、内部にモルタル等の接着材が含浸可能な空間を有している。この構造によると、不織布20の内部にモルタル等の接着材を含浸させることができるとともに、含浸した接着材に対して不織布20の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏することができる。
【0027】
ここで、不織布20の厚み寸法H1は、好ましくは0.5〜3.0mm程度、より好ましくは0.5〜1.0mm程度である。不織布20の厚み寸法H1が0.5mmより薄いと、不織布20の内部に接着材が含浸したとしても、充分なアンカー効果を確保することが困難になる。一方、不織布20の厚み寸法H1が3.0mmより厚くなると、不織布20の内部へ、接着材を含浸させることが困難になる。その結果、不織布20の厚み寸法H1の内部に接着材が含浸していない領域(非含浸領域)が生じやすくなり、不織布20に外的圧力が加えられた場合に、非含浸領域を境に破断事故が生じるなど、不織布20のアンカー効果の信頼性に問題が生じる。また、接着材としてモルタルを用いる場合に、不織布20の厚み寸法H1が3.0mmより厚くなると、不織布20の表面でモルタルがセメント成分と水分とに濾過(分離)されてしまう傾向にあり、アンカー効果の信頼性に問題が生じる。
【0028】
不織布20は、支持体10の一面15上に一体的に溶着されている。溶着は、合成樹脂で構成された支持体10の熱溶着性を利用する。この構造によると、不織布20と、支持体10との結合強度が向上する。従って、不織布20が支持体10から剥離するなどの不都合は生ぜず、不織布20のアンカー効果を飛躍的に向上させることができる。
【0029】
図1乃至図3を参照して説明した防食部材の支持体10と、不織布20との熱溶着構造について、さらに図4及び図5に係る防食部材の製造方法を参照して説明する。図4及び図5において、図1乃至図3に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0030】
図4及び図5に示す防食部材の製造方法に用いられている成形装置3は、いわゆる射出成形装置3であって、可動側金型31と、固定側金型32とを有している。固定側金型32は、成形面320に、加熱筒(図示しない)において熱溶融された合成樹脂材料10を射出するためのノズル321を有している。以下、説明の都合上、PP等の熱可塑性プラスチックを、合成樹脂材料10として用いた場合の例を説明する。
【0031】
まず、図4に示す工程を参照すると、可動側金型31の成形面310と、固定側金型32の成形面320とによって区画された成形空間30の内部において、予め可動側金型31の成形面310の形状に裁断加工した不織布20を配置する。不織布20は、合成樹脂材料10と同一材料を用いることが好ましい。
【0032】
次に、図5に示す工程を参照すると、図4に示した工程の後、成形空間30に、加熱筒(図示しない)によって熱溶融された合成樹脂材料10を充填する。ここで、硬化前の合成樹脂材料10の余熱を利用して、不織布20の一面と、これに接触する合成樹脂材料10の一面とを一体的に熱溶着させる。図示していないが、さらに加圧処理、及び、冷却処理を経て、不織布20が合成樹脂材料10の一面上に溶着した状態で、合成樹脂材料10が支持体10に硬化され、その後、可動側金型31と、固定側金型32とを再び分離し、成形品(防食部材)を脱型する。
【0033】
図4及び図5を参照して説明した製造方法によると、図1乃至図3を参照して説明した利点を全て有する防食部材を、安価で製造することができる。例えば、本発明に係る防食部材は、支持体10を成形するための既存の成形装置に対し、予め不織布20を配置することで製造可能である。即ち、新たな金型を準備する必要が無いから、過大な設備投資を強いられることがなく、製造コストを低減することができる。
【0034】
さらに、この種の不織布20は、製造、又は、入手が容易であるから防食部材の製造コストを低減することができる。
【0035】
図1乃至図5を参照して説明した防食部材は、コンクリート構造物と組み合わせて用いられる。図6は本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の部分断面図、図7は図6に示したコンクリート構造物の一部を拡大した図である。図6及び図7において、図1乃至図5に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0036】
なお、図6及び図7に示すコンクリート構造物は、所謂、浄化処理槽であるが、これは例示に過ぎない。本発明に係る防食部材を用いたコンクリート構造物は、浄化処理槽以外にも、排水管や、マンホールなど(図8及び図9参照)、その使用環境によって表面に腐食等の劣化が生じる全てのコンクリート構造物を含む。
【0037】
図6及び図7を参照すると、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物(以下、説明の都合上、浄化処理槽と称する)は、図1乃至図5を参照して説明した防食部材1と、基体部4と、接着材5とを含む。
【0038】
基体部4は、排水管71を通じて集水された下水9を浄化処理するための水槽であって、コンクリート材料を主成分とし、グランドライン6の地下に、内周面40により区画された内部空間(下水処理空間)を有している。下水9は、浄化処理された後、排水管72を通じて次の浄化処理段階に送水される。
【0039】
浄化処理槽は、複数の防食部材1を含む。防食部材1のそれぞれは、図1乃至図5を参照して説明したものでなり、複数が内周面40に沿って連続して配置され、内周面40を被覆している。
【0040】
接着材5は、例えばモルタルなどであって、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間(隙間G)、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分に充填され、不織布20の内部に含浸している。
【0041】
図6及び図7を参照して説明した浄化処理槽の構造によると、図1乃至図5を参照して説明した防食部材1の利点を全て有することができる。例えば、浄化処理槽は、不織布20の内部に含浸した接着材5のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持することができる。
【0042】
支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料を主成分としているから、防食部材1は、基体部4に内装された後にも、浄化処理槽内に継続して発生する硫化水素ガスに対して、優れた防食(耐腐食)効果を有することができる。
【0043】
図8は、本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す断面図である。図8において、図1乃至図7に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。なお、図8に示すコンクリート構造物は、所謂、排水管(図7、図9参照)である。
【0044】
図8に示すコンクリート構造物(以下、説明の都合上、排水管と称する)は、防食部材1が筒状成型体である点に特徴の1つがある。この点、図1乃至図7を参照して説明したように、本発明に係る防食部材の特徴の1つは、支持体10に不織布20が溶着されている構成により、不織布20の内部に含浸した接着材に対して不織布20の多孔質構造が、優れたアンカー効果を奏する点にある。従って、不織布20の土台となる支持体10の形状は、基体部4の具体的な形状に追従して設定することができる。
【0045】
具体的に図8を参照すると、本発明の一実施形態に係る排水管において、基体部4は、下水管路網を構成する管体であって、内周面40により区画された貫通空間(下水9の流下空間)を有している。
【0046】
防食部材1の支持体10は、合成樹脂材料を主成分とする筒状成型体であって、不織布は、支持体10の一面15(外周面15)上に溶着されている。防食部材1は、基体部4の内部に配置されており、内周面40を被覆している。
【0047】
接着材5は、例えばモルタルなどであって、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分に充填され、不織布20の内部に含浸している。
【0048】
上述したように図8を参照して説明した排水管の構造によると、図1乃至図7を参照して説明した防食部材1の利点を全て有することができる。例えば、排水管は、不織布20の内部に含浸した接着材5のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持することができる。
【0049】
支持体10は合成樹脂材料を主成分とするから、図8に示すような筒状成型体の他にも、基体部4の形状に追従して様々な形状をとることができる。しかも、不織布20は、多孔質構造であるから、支持体10の形状の変化に容易に追従することができる。
【0050】
さらに、支持体10は、好ましくはポリプロピレン(PP)等の耐腐食性を有する合成樹脂材料を主成分としているから、防食部材1は、基体部4に内装された後にも、排水管内に継続して発生する硫化水素ガスに対して、優れた防食(耐腐食)効果を有することができる。
【0051】
図9は本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図、図10は図9に示したコンクリート構造物の平面断面図である。図9及び図10において、図1乃至図8に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。なお、図9及び図10に示すコンクリート構造物は、所謂マンホールである。
【0052】
図9及び図10に示すコンクリート構造物は、基体部4の内部空間において、複数の防食部材1が組み合わされ筒状体100を構成している点に特徴の1つがある。この構造によると、図1乃至図8を参照して説明した防食部材1の利点を全て有するマンホールを提供することができるとともに、効率よく腐食部分の補修を行うことができる。
【0053】
図11乃至図13は、図9及び図10に示したコンクリート構造物(マンホール)の製造方法を示す図である。図11乃至図13において、図1乃至図10に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0054】
まず、図11を参照すると、基体部4の内周面40に生じた腐食部分45を、好ましくは高圧水洗浄により除去する。腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分には、エポキシ樹脂等の合成樹脂材料や、モルタル等の補修剤を充填して、補強してもよい。
【0055】
次に、図12を参照すると、図11に示した工程の後、複数の防食部材1を基体部4の内部空間に搬入し、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間に隙間Gが生じるように、複数の防食部材1を筒状体100に組み立てる。この筒状体100の組み立て作業によって、基体部4のすべての内周面40が筒状体100で被覆される。
【0056】
次に、図13を参照すると、図12に示した工程の後、基体部4の内周面40と、防食部材1の一面15との相対向面間の隙間Gに、例えばモルタルなどの接着材5を充填する。接着材5は、隙間G、及び、腐食部分45を除去した後の内周面40の凹凸部分を埋めるとともに、不織布20に含浸した状態で、養生期間を経て硬化される。
【0057】
上述した構造によると、防食部材1の利点を全て有するとともに、接着材5に対する不織布20のアンカー効果により、防食部材1と、基体部4との一体性を、長期間に渡って維持し、周囲からの土圧に対抗しうるだけの構造的強度を有するマンホールを提供することができる。
【0058】
また、本発明の一実施形態に係るマンホールに用いられる筒状体100は、複数の防食部材1の組み立て構造である。従って、防食部材1のそれぞれは、小型化及び軽量化が可能であるから、マンホール内に筒状体100を形成する作業の高効率化が図られる。
【0059】
図14は本発明に係るコンクリート構造物に用いられる防食部材について、もう一つの実施形態を示す平面断面図である。図14において、図1乃至図13に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0060】
図14は、複数の防食部材1を角筒形形状に組み合わせた実施形態である。図1乃至図13を参照して説明したように、本発明に係る防食部材1における最大の特徴の1つは、支持体10の一面15(外周面15)に不織布20が溶着されている構成により、接着材5に対して優れたアンカー効果を奏する点にある。従って、支持体10は、コンクリート構造物の形状に追従して様々な形状をとることができる。しかも、不織布20は、多幸質構造であるから、支持体10の形状の変化に容易に追従して、優れたアンカー効果を奏することができる。
【0061】
図15は、本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。図15において、図1乃至図14に図示した構成部分と同一の構成部分には、同一の参照符号を付す。
【0062】
図1乃至図14に示した防食部材1は、基本的にコンクリート構造物の再構築工法を前提として用いられるものであるが、周知のコンクリート構造物の腐食問題を踏まえ、少なくとも今後、新設されるコンクリート構造物を製造する場合には、予め腐食対策を施すことができる。例えば、図15に示すコンクリート構造物は、所謂マンホールであって、防食部材1と、基体部4とを含む。基体部4は、コンクリート材料を主成分とし、内周面により区画された内部空間を有している。
【0063】
防食部材1は、筒状体を構成した支持体10の外周面に不織布20が溶着されており、この不織布20が基体部4の内部に埋設されている。この構造によると、予め、基体部4の内部が防食部材1で保護されたコンクリート構造物を提供することができる。
【0064】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種種の変形態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係る防食部材の平面図である。
【図2】図1に示した防食部材の側面図である。
【図3】図1に示した防食部材の部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る防食部材の製造方法を示す図である。
【図5】図4に示した工程の後の工程を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の部分断面図である。
【図7】図6に示したコンクリート構造物の一部を拡大した図である。
【図8】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。
【図10】図9に示したコンクリート構造物の平面断面図である。
【図11】図9及び図10に示したコンクリート構造物の製造方法を示す図である。
【図12】図11に示した工程の後の工程を示す図である。
【図13】図12に示した工程の後の工程を示す図である。
【図14】本発明に係るコンクリート構造物に用いられる防食部材について、もう一つの実施形態を示す平面断面図である。
【図15】本発明に係るコンクリート構造物のもう1つの実施形態を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 防食部材
10 基体部
15 基体部の一面
20 不織布
200 溶着層
4 基体
40 内周面
45 腐食部分
5 接着材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、不織布とを含むコンクリート構造物用防食部材であって、
前記支持体は、合成樹脂材料を主成分としており、
前記不織布は、前記支持体の一面上に溶着されている、
コンクリート構造物用防食部材。
【請求項2】
請求項1又は2に記載されたコンクリート構造物用防食部材の製造方法であって、まず、成形型に不織布を配置し、その後、成形型の内部に合成樹脂材料を充填し、前記不織布の一面と、これに接触する前記合成樹脂材料の一面とを一体的に熱溶着させる工程を含む、
コンクリート構造物用防食部材の製造方法。
【請求項3】
コンクリート構造物用防食部材と、基体部とを含むコンクリート構造物であって、
前記コンクリート構造物用防食部材は、請求項1に記載されたものでなり、
前記基体部は、内周面により区画された内部空間を有しており、前記内周面が、前記コンクリート構造物用防食部材によって覆われている、
コンクリート構造物。
【請求項1】
支持体と、不織布とを含むコンクリート構造物用防食部材であって、
前記支持体は、合成樹脂材料を主成分としており、
前記不織布は、前記支持体の一面上に溶着されている、
コンクリート構造物用防食部材。
【請求項2】
請求項1又は2に記載されたコンクリート構造物用防食部材の製造方法であって、まず、成形型に不織布を配置し、その後、成形型の内部に合成樹脂材料を充填し、前記不織布の一面と、これに接触する前記合成樹脂材料の一面とを一体的に熱溶着させる工程を含む、
コンクリート構造物用防食部材の製造方法。
【請求項3】
コンクリート構造物用防食部材と、基体部とを含むコンクリート構造物であって、
前記コンクリート構造物用防食部材は、請求項1に記載されたものでなり、
前記基体部は、内周面により区画された内部空間を有しており、前記内周面が、前記コンクリート構造物用防食部材によって覆われている、
コンクリート構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−25226(P2008−25226A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199441(P2006−199441)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(591084654)エバタ株式会社 (35)
【出願人】(599157778)日本ステップ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(591084654)エバタ株式会社 (35)
【出願人】(599157778)日本ステップ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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