説明

コンデンサおよび該コンデンサの製造方法

表面に誘電体層を形成した導電体を一方の電極とし、半導体層を他方の電極としたコンデンサの製造方法において、該誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成するコンデンサの製造方法に関する。本発明の製造方法により得られるコンデンサは容量出現率が良好で、低ESRであり、信頼性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、容量出現率が良好で、等価直列抵抗(ESR)が低く信頼性のあるコンデンサおよびそのコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
例えば、パソコン等に使用されるCPU(Central Processing unit)周りのコンデンサは、高リップル(ripple)電流通過時の発熱を低くすること、電圧変動を抑えること、及び高容量かつ低ESRであることが求められており、一般に、アルミ固体電解コンデンサやタンタル固体電解コンデンサが複数個並列に使用されている。
前記した固体電解コンデンサは、表面層に微細の細孔を有するアルミ箔や、内部に微小な細孔を有するタンタル焼結体を一方の電極として、該電極の表層に形成した誘電体層と該誘電体層上に設けられた他方の電極(通常は、半導体層)とから構成されている。
前述した一方の電極の細孔表面全てに他方の電極である半導体を覆い尽くすと、一方の電極が持つコンデンサとしての期待容量を100%満たすことができるが、半導体層を100%近く覆い尽くすには多大な時間を有するばかりでなく、作製したコンデンサを半田で基板に実装したときの半田熱で素子に熱応力がかかるためにコンデンサの漏れ電流値(以下、LC値と略すことがある。)が上昇することがあった。
【発明の開示】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、比較的短時間で、一方の電極の細孔表面積から期待される容量を、ほとんど100%近く維持して、さらに実装後のLC上昇を緩和することが可能な半導体層の形成方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のコンデンサの製造方法、その方法で作製されたコンデンサ、およびそのコンデンサを使用した電子機器に関する。
1.表面に誘電体層を形成した導電体を一方の電極とし、半導体層を他方の電極としたコンデンサの製造方法において、前記誘電体層に電気的な微小欠陥部分を導電体表面積当りの漏れ電流値が500μA/m以下となるように作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成することを特徴とするコンデンサの製造方法。
2.導電体が、金属、無機半導体、有機半導体およびカーボンから選ばれる少なくとも1種ある前記1に記載のコンデンサの製造方法。
3.導電体が、金属、無機半導体、有機半導体およびカーボンから選ばれる少なくとも1種の導電体を表層に有する積層体である前記1に記載のコンデンサの製造方法。
4.半導体が、有機半導体および無機半導体から選ばれる少なくとも1種の半導体である前記1に記載のコンデンサの製造方法。
5.誘電体が、金属酸化物および高分子から選ばれる少なくとも1種の誘電体である前記1に記載のコンデンサの製造方法。
6.金属酸化物が、金属元素を有する導電体を化成することによって得られる金属酸化物である前記5に記載のコンデンサの製造方法。
7.誘電体層に形成する電気的な微小欠陥部分を、表面に誘電体層を形成した導電体をその誘電体層の腐食性気体または腐食性液体に接触させることによって作製する前記1に記載のコンデンサの製造方法。
8.腐食性気体が、ハロゲンガス、または酸あるいはアルカリ成分を含む水蒸気、空気、窒素あるいはアルゴンガスである前記7に記載のコンデンサの製造方法。
9.腐食性液体が、水または有機溶液に、ハロゲン成分、酸あるいはアルカリ成分を含有させた溶液である前記7に記載のコンデンサの製造方法。
10.誘電体層に形成する電気的な微小欠陥部分を、表面に誘電体層を形成した導電体に微小接触物を付着させることによって作製する前記1記載のコンデンサの製造方法。
11.微小接触物が、金属酸化物、塩、遷移元素を含む無機化合物、遷移元素を含む有機化合物、および高分子化合物から選ばれる少なくとも1種である前記10に記載のコンデンサの製造方法。
12.有機半導体が、ベンゾピロリン4量体とクロラニルからなる有機半導体、テトラチオテトラセンを主成分とする有機半導体、テトラシアノキノジメタンを主成分とする有機半導体、下記一般式(1)または(2)

(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表わし、これらは互いに同一であっても相違してもよく、Xは酸素、イオウまたは窒素原子を表わし、RはXが窒素原子のときのみ存在して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表わし、RとR及びRとRは、互いに結合して環状になっていてもよい。)
で示される繰り返し単位を含む高分子にドーパントをドープした電導性高分子を主成分とした有機半導体から選択される少なくとも1種である前記4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
13.一般式(1)で示される繰り返し単位を含む高分子が、下記一般式(3)

(式中、R及びRは、各々独立して水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または該アルキル基が互いに任意の位置で結合して、2つの酸素元素を含む少なくとも1つ以上の5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を形成する置換基を表わし、前記環状構造は置換されていてもよいビニレン結合、または置換されていてもよいフェニレン構造を含んでいてもよい。)
で示される構造単位を繰り返し単位として含む高分子である前記12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
14.高分子が、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、及びこれらの置換誘導体及び共重合体から選択される前記12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
15.高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である前記14に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
16.無機半導体が、二酸化モリブデン、二酸化タングステン、二酸化鉛、及び二酸化マンガンから選ばれる少なくとも1種の化合物である前記4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
17.半導体の電導度が10−2〜10S/cmの範囲である前記1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
18.前記1乃至17のいずれかに記載の製造方法で作製されたコンデンサ。
19.前記18に記載のコンデンサを使用した電子回路。
20.前記18に記載のコンデンサを使用した電子機器。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のコンデンサの製造方法の一形態を説明する。
本発明のコンデンサに使用される導電体の一例として、金属、無機半導体、有機半導体、カーボン、これらの少なくとも1種の混合物、表層に前記導電体を積層した積層体が挙げられる。
金属として、好ましくは、アルミニウム、鉄、ニッケル、タンタル、銅、ニオブ、錫、亜鉛、鉛、チタン、ジルコニウム、マンガンが挙げられ、無機半導体として、二酸化鉛、二酸化モリブデン、二酸化タングステン、一酸化ニオブ、二酸化スズ、一酸化ジルコニウム等の金属酸化物が挙げられ、有機半導体として、ポリピロール、ポリチオヘン、ポリアニリンおよびこれら高分子骨格を有する置換体、共重合体等の導電性高分子、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)とテトラチオテトラセンとの錯体,TCNQ塩等の低分子錯体が挙げられ、表層に該導電体を積層した積層体として、前記導電体を紙、絶縁性高分子、ガラス等に積層した積層体が挙げられる。
導電体として金属を使用する場合、金属の一部を、炭化、燐化、ホウ素化、窒化、硫黄化から選ばれる少なくとも1種の処理を行ってから使用してもよい。
導電体の形状として、例えば、箔状、板状、棒状、導電体自身を粉状にして成形または成形後焼結した形状等が挙げられる。導電体の表面を、微細な細孔を有するようにエッチング等で処理しておいてもよい。導電体自身を粉状にして成形した成形体形状の場合または成形後焼結した形状の場合、成形圧力を適当に選択することにより、成形体または焼結後の内部に微小な細孔を設けることができる。また、導電体自身を粉状にして成形した成形体形状の場合または成形後焼結した成形体の場合、成形時に別途用意した引き出しリード線の一部を入れて導電体と共に成形しておき、該引き出しリード線の箇所を、コンデンサの一方の電極の引き出しリードとすることもできる。
本発明の導電体表面に形成させる誘電体層としては、金属酸化物および高分子から選ばれる少なくとも1種の誘電体が挙げられる。具体例としてはTa、Al、Zr、Nb等の金属酸化物から選ばれる少なくとも1つを主成分(50質量%以上の成分)とする誘電体層、セラミックコンデンサやフィルムコンデンサで用いられる誘電体層が挙げられる。前者の金属酸化物から選ばれる少なくとも1つを主成分とする誘電体層の場合、その金属酸化物の金属元素を有する前記導電体を化成することによって誘電体層を形成すると、作製したコンデンサは極性をもち電解コンデンサとなる。セラミックコンデンサやフィルムコンデンサで用いられる誘電体層として、例えば、本出願人による特開昭63−29919号公報に開示したフッ素樹脂、ポリエステル系樹脂等、及び特開昭63−34917号公報に記載したペロプスカイト型化合物等の誘電体層を例として挙げることができる。また、金属酸化物から選ばれる少なくとも1つを主成分とする誘電体層やセラミックコンデンサやフィルムコンデンサで用いられる誘電体層を複数積層して使用してもよい。また金属酸化物から選ばれる少なくとも1つを主成分とする誘電体やセラミックコンデンサやフィルムコンデンサで従来公知の誘電体を混合した誘電体層でもよい。
一方、本発明のコンデンサの他方の電極としては、有機半導体および無機半導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
有機半導体の具体例としては、ベンゾピロリン4量体とクロラニルからなる有機半導体、テトラチオテトラセンを主成分とする有機半導体、テトラシアノキノジメタンを主成分とする有機半導体、下記一般式(1)または(2)で示される繰り返し単位を含む高分子にドーパントをドープした導電性高分子を主成分とした有機半導体が挙げられる。

式(1)および(2)において,R〜Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表わし、これらは互いに同一であっても相違してもよく、Xは酸素、イオウまたは窒素原子を表わし、RはXが窒素原子のときのみ存在して水素または炭素数1〜6のアルキル基を表わし、RとRおよびRとRは、互いに結合して環状になっていてもよい。
さらに、本発明においては、前記一般式(1)で示される繰り返し単位を含む導電性高分子としては、好ましくは下記一般式(3)で示される構造単位を繰り返し単位として含む導電性高分子が挙げられる。

式中、R及びRは、各々独立して水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または該アルキル基が互いに任意の位置で結合して、2つの酸素元素を含む少なくとも1つ以上の5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を形成する置換基を表わす。また、前記環状構造には置換されていてもよいビニレン結合を有するもの、置換されていてもよいフェニレン構造のものが含まれる。
このような化学構造を含む導電性高分子は、荷電されており、ドーパントがドープされる。ドーパントには公知のドーパントが制限なく使用できる。
式(1)乃至(3)で示される繰り返し単位を含む高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、およびこれらの置換誘導体や共重合体などが挙げられる。中でも、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの置換誘導体(例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)等)が好ましい。
無機半導体の具体例としては、二酸化モリブデン、二酸化タングステン、二酸化鉛、二酸化マンガン等から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
上記有機半導体および無機半導体として、電導度10−2〜10S/cmのものを使用すると、作製したコンデンサのESR値が小さくなり好ましい。
本発明においては、上記半導体層を前述した誘電体層上に形成する方法としては、該誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、通電手法により半導体層を形成する。誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製するには、誘電体層を形成する途中または形成後に、前記誘電体層を腐食する気体(腐食性気体)または液体(腐食性液体)、好ましくは腐食性気体に接触させるか、または前記誘電体層に複数の微小接触物を付着させるか、またはこれら複数の操作を行うことによって達成できる。微小欠陥部分の形成は、前記接触または付着させる物質の濃度、接触時間、及び微小欠陥部分の形成処理回数により調整できる。なお、本発明においては、前記の操作後のLC値の上昇(電気的な劣化)の確認により、電気的な微小欠陥部分が形成されたものと見做す。
腐食性気体の代表例としては、ハロゲンガス、または酸あるいはアルカリ成分を水蒸気、空気、窒素ガスあるいはアルゴンガスに含ませたガス等の少なくとも1つが挙げられる。腐食性液体の代表例として、水やアルコール等の有機溶液に、ハロゲン成分、酸あるいはアルカリ成分を含有させた溶液が挙げられる。
腐食性気体や腐食性液体の濃度及び誘電体層への接触時間は、素子の大きさ、細孔径、細孔深さにより、最適値は異なり予め行う予備実験によって決定される。腐食性気体や腐食性液体に接触させることによって、誘電体層に電気的な微小欠陥部が形成される。
誘電体層に付着させる複数の微小接触物としては、無機または有機の材料から選ばれる少なくとも1種の材料が挙げられる。無機の材料としては、金属酸化物、塩、遷移元素を含んだ無機化合物等が例示できる。有機の材料として、塩、遷移元素を含んだ有機化合物、高分子化合物等が例示できる。無機または有機の材料は、絶縁体であっても半導体または導体であってもよいが、作製したコンデンサのESR値を小さくするためには、電導度10−2S/cm〜10S/cmの半導体、または導体である方が好ましい。微小接触物が誘電体層の全面を覆うと電気的な劣化が大きくなりすぎるため好ましくない。無機または有機の材料を、表面に誘電体層を有する前記導電体に接触させることにより、誘電体上に複数の微小接触物を設けることができる。無機または有機の材料が固体の場合は、例えば、適当な溶媒に溶解させることによって誘電体層に接触させ、後に溶媒を乾燥飛散させればよい。あるいは、溶液のかわりに微小接触物が分散しているゾルを用いてもよい。無機または有機の材料の前駆体を導電体上で反応させて微小接触物としてもよい。微小接触物の大きさは、導電体の細孔径より小さいことが好ましい。微小接触物が、誘電体層上に存在することにより誘電体に電気的な劣化が生じる。誘電体層の電気的な劣化は、通常後記するような誘電体層の修復を行わない限り劣化の程度は大きく変化しない。
表面に誘電体層が形成された導電体を電解液に漬け導電体表面積当りの漏れ電流(LC)値を測定することにより、誘電体層の電気的な劣化の具合を判断することができる。前述した、誘電体層の電気的な劣化を行ってLC値を、500μA/導電体の表面積m以下、好ましくは、100μA/導電体の表面積m以下、さらに好ましくは、30μA/導電体の表面積m以下にしておくと後述する電気的手法による半導体層の形成が比較的きれいに行われ、局部的な半導体層の塊が生じないことから半導体層の被覆率が大きくなり、また作製したコンデンサのLC値が良好になる。誘電体層のLC値を希望範囲にしておくために誘電体層の電気的な劣化が終了した後に、誘電体層の修復を行ってもよい。
修復手法として、劣化後の誘電体層を有する導電体を別途用意した電解液中に浸漬し、通電する方法が挙げられる。電解液の種類、電解液の温度・修復時間等は、予備実験によって予め決定しておくことができる。
本発明においては、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成する。通電手法としては、例えば、通電によって半導体となる半導体前駆体を溶解した溶液中に、前記電気的な微小欠陥部分を形成した誘電体層が存在する導電体を浸漬させ、該導電体を電極とし、別途用意した電極との間に電圧印加することにより半導体層を形成する方法が挙げられる。通電途中に前記導電体を溶液から引き上げ、洗浄乾燥した後、酸または塩が溶解した電解液中に通電途中の導電体を浸漬し加電することによって前記通電による導電体の微小な欠陥の修復を計ってもよい。また、このように引き上げと修復を複数回繰り返してもよい。
本発明のコンデンサでは、前述した方法等で形成された半導体層の上に外部引き出しリード(例えば、リードフレーム)との電気的接触をよくするために、電極層を設けてもよい。
電極層としては、例えば、導電ペーストの固化、メッキ、金属蒸着、耐熱性の導電樹脂フィルムの形成等により形成することができる。導電ペーストとしては、銀ペースト、銅ペースト、アルミペースト、カーボンペースト、ニッケルペースト等が好ましいが、これらは1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合、混合してもよく、または別々の層として重ねてもよい。導電ペーストを適用した後、空気中に放置するか、または加熱して固化せしめる。メッキとしては、ニッケルメッキ、銅メッキ、銀メッキ、アルミメッキ等が挙げられる。また蒸着金属としては、アルミニウム、ニッケル、銅、銀等が挙げられる。
具体的には、例えば他方の電極上にカーボンペースト、銀ペーストを順次積層しエポキシ樹脂のような材料で封止してコンデンサが構成される。このコンデンサは、導電体に前もって接続された、または後で接続された金属線からなるリードを有していてもよい。
以上のような構成の本発明のコンデンサは、例えば、樹脂モールド、樹脂ケース、金属性の外装ケース、樹脂のディッピング、ラミネートフィルムによる外装などの外装により各種用途のコンデンサ製品とすることができる。
また、本発明で製造されたコンデンサは、例えば、電源回路等の高容量のコンデンサを用いる回路に好ましく用いることができ、これらの回路は、パソコン、サーバー、カメラ、ゲーム機、DVD、AV機器、携帯電話等のデジタル機器や各種電源等の電子機器に利用可能である。本発明で製造されたコンデンサは実装後の漏れ電流の上昇が少ないことから、これを用いることにより初期不良の少ない電子回路及び電子機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の具体例についてさらに詳細に説明するが、以下の例により本発明は限定されるものではない。
誘電体層の電気的な劣化の具合を判断するための漏れ電流(LC)値は、表面に誘電体層が形成された導電体を0.1%燐酸水溶液(導電体がアルミニウム以外の場合)または20%アジピン酸アンモニウム水溶液(導電体がアルムニウムの場合)からなる電解液に漬け、白金からなる外部電極との間に16V(導電体がアルミニウム以外の場合)または7V(導電体がアルムニウムの場合)を印加し室温で1分の値とした。
本発明で使用される、誘電体層に付着された複数の微小接触物の付着量は、SEM(Scanning Electron Microscope)写真で誘電体層と微小接触物の面積比から計算した。
誘電体層に対する半導体層の被覆率は、半導体層の代わりに電解液(30%硫酸水溶液(導電体がアルミニウム以外の場合)または30%アジピン酸アンモニウム水溶液(導電体がアルミニウムの場合))を他方の電極として求めた容量を100%とした相対値である。
作製したコンデンサの半田実装条件は、260℃ピークのリフロー炉を3回通過させる条件とした。実装後のLC測定は、4Vで30秒測定した値とした。なお、各測定値は、n=30個の平均である。
実施例1:
CV(容量と化成電圧との積)8万/gのタンタル粉を0.12g使用して、大きさ4.0×3.2×1.7mmの焼結体を作製した(焼結温度1340℃,焼結時間30分、焼結体密度5.5g/cm、Taリード線0.29mmφ)。該焼結体を0.1%燐酸水溶液中にリード線の一部を除いて浸漬し、負極のTa板電極との間に20Vを印加し、80℃で3時間化成し、Taからなる誘電体層を形成した。この焼結体を、30%硫酸水溶液を沸騰させて得た硫酸を含む水蒸気中に5時間放置し、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した。微小欠陥部を有する誘電体層のLC値は、20μA/mであった。
ついで焼結体を10%酢酸鉛水溶液に漬け、焼結体側を陽極にし、別途用意した負極の白金電極との間に16Vの電圧を室温で24時間印加し二酸化鉛を主成分とする半導体層を形成した。引き上げ洗浄乾燥した後、0.1%酢酸水溶液中でこの焼結体を陽極とし、白金電極を陰極として、80℃、30分間、16Vの電圧を印加することにより、誘電体層の微小な欠陥を修復し,LC値を20μA/mにした。前記半導体形成と修復作業を4回繰り返した後(4回目はLC値が7μA/素子となるまで電圧を印加した)、水洗浄乾燥し、他方の電極である半導体層を形成した。さらにカーボンペースト、銀ペーストを順次積層した。
別途用意した、表面に錫メッキしたリードフレームの両凸部の陽極側に焼結体のリード線を載置し、陰極側に焼結体の銀ペースト側を載置し、前者はスポット溶接で、後者は銀ペーストで接続した。その後、エポキシ樹脂でリードフレームの一部を除いて封口し(リードフレームは、封口した樹脂外の所定場所で切断された後折り曲げ加工されている)、大きさ7.3×4.3×2.8mmのチップ型コンデンサを作製した。
実施例2〜6および比較例1:
実施例1で硫酸を含む水蒸気中での放置時間を延長することにより、初期のLC値を実施例2、3、4、5、6、比較例1の順に、40、80、100、200、400、600μA/mにした以外は実施例1と同様にしてコンデンサを作製した。
実施例7:
実施例1で硫酸溶液の代わりに、硫酸と硝酸が1対1の混合物(各20%水溶液)を用いたことと、初期のLC値を12μA/mにして最終のLC値を5μA/素子にしたこと以外は実施例1と同様にしてコンデンサを作製した。
実施例8:
CV6.5万/gの酸化ニオブ粉を0.15g使用して、大きさ4.1×3.4×1.8mmの焼結体を作製した(焼結温度1620℃,焼結時間30分、焼結体密度6.0g/cm、Nbリード線0.29mmφ)。この焼結体を0.1%燐酸水溶液中にリード線の一部を除いて浸漬し、負極のTa板電極との間に20Vを印加し、80℃で3時間化成し、Nbからなる誘電体層を形成した。この焼結体を、窒素ガスで10%に薄めた塩素ガス中に20℃で7時間放置し、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した。微小欠陥部を有する誘電体層のLC値は、9μA/mであった。ついで該焼結体を、0.2%エチレンジオキシチオフェンと0.1Mアンソラキノンスルホン酸とが入った水溶液に漬け、室温で負極の白金電極との間に16Vの電圧を24時間印加し、エチレンジオキシチオフェンポリマーを主成分とする半導体層を形成した。引き上げ洗浄乾燥した後、0.1%酢酸水溶液中でこの焼結体を陽極とし、白金電極を陰極として、80℃、30分間、16Vの電圧を印加することにより、誘電体層の微小な欠陥を修復し,LC値を9μA/mにした。前記半導体形成と修復作業を6回繰り返した後(6回目はLC値が10μA/素子となるまで電圧を印加した)、水洗浄乾燥し、他方の電極である半導体層を形成した。その後実施例1で記載したようにカーボンペースト、銀ペーストを順次積層しチップコンデンサを作製した。
実施例9:
8V化成で125μF/cmのアルミニウム化成箔(厚さ0.1mm)から6.0×3.3mmの小片を複数枚切り出し、4.1×3.3mmの部分を20%アジピン酸アンモニウム水溶液中80℃で30分再化成した。その後化成箔に窒素ガスで5%に薄めた塩素ガス中に20℃で3時間放置し、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した。微小欠陥部を有する誘電体層のLC値は、9μA/mであった。ついで化成箔を、0.2%エチレンジオキシチオフェンと0.1Mアンソラキノンスルホン酸とが入った水溶液に漬け、室温で負極の白金電極との間に7Vの電圧を24時間印加し、エチレンジオキシチオフェンポリマーを主成分とする半導体層を形成した。引き上げ洗浄乾燥した後、0.1%酢酸水溶液中でこの化成箔を陽極とし、白金電極を陰極として、80℃、1.5時間、5.5Vの電圧を印加することにより、誘電体層の微小な欠陥を修復し,LC値を4μA/mにした。前記半導体形成と修復作業を4回繰り返した後(4回目はLC値が2μA/素子となるまで電圧を印加した)、水洗浄乾燥し、他方の電極である半導体層を形成した。その後実施例に記載したようにカーボンペースト、銀ペーストを半導体層上に順次積層した後、そのような素子を6枚方向を揃えて用意し、銀ペースト側を銀ペーストで固化し一体化した。さらに実施例1と同様にしてリードフレームに載置しエポキシ樹脂で封口してチップコンデンサを作製した。
実施例10:
CV8.2万/gの一部窒化したニオブ粉(窒素量1万ppm)を0.08g使用して、大きさ4.0×3.4×1.7mmの焼結体を作製した(焼結温度1320℃,焼結時間30分、焼結体密度3.5g/cm、Nbリード線0.29mmφ)。焼結体を0.1%燐酸水溶液中にリード線の一部を除いて浸漬し、負極のTa板電極との間に20Vを印加し、80℃で3時間化成し、Nbからなる誘電体層を形成した。この焼結体を20%モリブデン酸ナトリウム水溶液と10%水素化ホウ素ナトリウム水溶液とに交互に浸漬することを30回繰り返すことにより誘電体層上に二酸化モリブデンを主成分とする複数の微小接触物を付着させた。SEM観察によると該微小接触物は、誘電体層のおおよそ15%を覆っていた。誘電体層に複数の微小接触物を付着させることにより、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した。微小欠陥部を有する誘電体層のLC値は、15μA/mであった。次いで、焼結体を0.5%ピロールと0.1Mアンソラキノンスルホン酸とが入った10%アルコール水溶液に漬け、室温で負極の白金電極との間に16Vの電圧を24時間印加し、ピロールポリマーを主成分とする半導体層を形成した。引き上げ洗浄乾燥した後、0.1%酢酸水溶液中で誘電体層の微小な欠陥を修復し、LC値を15μA/mにした。前記半導体形成と修復作業を6回繰り返した後(6回目はLC値が8μA/素子となるまで電圧を印加した)、水洗浄乾燥し、他方の電極である半導体層を形成した。その後実施例1に記載したようにカーボンペースト、銀ペーストを順次積層しチップコンデンサを作製した。
実施例11:
実施例10で、誘電体層に付着させる複数の微小接触物として二酸化モリブデンの代わりに、焼結体を0.2%エチレンジオキシチオヘン水溶液と30%過酸化水素水溶液とに交互に浸漬することを繰り返すことによって得たエチレンジオキシチオヘンポリマーとした以外は実施例10と同様にしてコンデンサを作製した。SEM観察によると該微小接触物は誘電体層のおおよそ20%を覆っていた。なお、本実施例では、前記半導体形成と修復作業を6回繰り返した後の最終のLC値は12μA/素子であった。
比較例2:
実施例1で硫酸を含む水蒸気で処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてコンデンサを作製した。半導体層の形成時間は、実施例1と同様に全部で96時間とした。
比較例3:
比較例2で半導体層の形成時間を全部で200時間とした以外は比較例2と同様にしてコンデンサを作製した。
以上の実施例1〜11及び比較例1〜3で作製したコンデンサの性能を表1にまとめた。

実施例1〜6と比較例1を比較すると、誘電体層の電気的な劣化を行ってLC値を500μA/導電体の表面積m以下にしておくと半導体層の被覆率が大きくなり、また作製したコンデンサのLC値が良好になることがわかる。また、実施例1と比較例2を比較すると、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成することにより、相対的に短時間で、半導体層の被覆率が上昇することがわかる。さらに実施例1と比較例3を比較すると、誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成するという本願の手法をとることにより、半導体層形成時間が短くなるとともに、実装後のLCの絶対値が小さくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明は一方の電極表面の誘電体層に電気的な微小欠陥部分を作製した後に、その上に他方の電極となる半導体層を形成するコンデンサの製造方法を提供したものであり、本発明の方法によれば容量出現率が良好で、低ESRで信頼性のあるコンデンサを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層を形成した導電体を一方の電極とし、半導体層を他方の電極としたコンデンサの製造方法において、前記誘電体層に電気的な微小欠陥部分を導電体表面積当りの漏れ電流値が500μA/m以下となるように作製した後に、通電手法により前記半導体層を誘電体層上に形成することを特徴とするコンデンサの製造方法。
【請求項2】
導電体が、金属、無機半導体、有機半導体およびカーボンから選ばれる少なくとも1種ある請求の範囲1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項3】
導電体が、金属、無機半導体、有機半導体およびカーボンから選ばれる少なくとも1種の導電体を表層に有する積層体である請求の範囲1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項4】
半導体が、有機半導体および無機半導体から選ばれる少なくとも1種の半導体である請求の範囲1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項5】
誘電体が、金属酸化物および高分子から選ばれる少なくとも1種の誘電体である請求の範囲1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項6】
金属酸化物が、金属元素を有する導電体を化成することによって得られる金属酸化物である請求の範囲5に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項7】
誘電体層に形成する電気的な微小欠陥部分を、表面に誘電体層を形成した導電体をその誘電体層の腐食性気体または腐食性液体に接触させることによって作製する請求の範囲1に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項8】
腐食性気体が、ハロゲンガス、または酸あるいはアルカリ成分を含む水蒸気、空気、窒素あるいはアルゴンガスである請求の範囲7に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項9】
腐食性液体が、水または有機溶液に、ハロゲン成分、酸あるいはアルカリ成分を含有させた溶液である請求の範囲7に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項10】
誘電体層に形成する電気的な微小欠陥部分を、表面に誘電体層を形成した導電体に微小接触物を付着させることによって作製する請求の範囲1記載のコンデンサの製造方法。
【請求項11】
微小接触物が、金属酸化物、塩、遷移元素を含む無機化合物、遷移元素を含む有機化合物、および高分子化合物から選ばれる少なくとも1種である請求の範囲10に記載のコンデンサの製造方法。
【請求項12】
有機半導体が、ベンゾピロリン4量体とクロラニルからなる有機半導体、テトラチオテトラセンを主成分とする有機半導体、テトラシアノキノジメタンを主成分とする有機半導体、下記一般式(1)または(2)

(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表わし、これらは互いに同一であっても相違してもよく、Xは酸素、イオウまたは窒素原子を表わし、RはXが窒素原子のときのみ存在して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表わし、RとR及びRとRは、互いに結合して環状になっていてもよい。)
で示される繰り返し単位を含む高分子にドーパントをドープした電導性高分子を主成分とした有機半導体から選択される少なくとも1種である請求の範囲4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
一般式(1)で示される繰り返し単位を含む高分子が、下記一般式(3)

(式中、R及びRは、各々独立して水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、または該アルキル基が互いに任意の位置で結合して、2つの酸素元素を含む少なくとも1つ以上の5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を形成する置換基を表わし、前記環状構造は置換されていてもよいビニレン結合、または置換されていてもよいフェニレン構造を含んでいてもよい。)
で示される構造単位を繰り返し単位として含む高分子である請求の範囲12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
高分子が、ポリアニリン、ポリオキシフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロール、ポリメチルピロール、及びこれらの置換誘導体及び共重合体から選択される請求の範囲12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である請求の範囲14に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
無機半導体が、二酸化モリブデン、二酸化タングステン、二酸化鉛、及び二酸化マンガンから選ばれる少なくとも1種の化合物である請求の範囲4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
半導体の電導度が10−2〜10S/cmの範囲である請求の範囲1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
請求の範囲1乃至17のいずれかに記載の製造方法で作製されたコンデンサ。
【請求項19】
請求の範囲18に記載のコンデンサを使用した電子回路。
【請求項20】
請求の範囲18に記載のコンデンサを使用した電子機器。

【国際公開番号】WO2004/070749
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504886(P2005−504886)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001235
【国際出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】