説明

コンデンサ素子および非可逆回路素子

【課題】誘電体基板に設けられる電極間の位置ずれに起因した容量誤差(ばらつき)を減らす。
【解決手段】誘電体層を介して対向するように基板に設けた第一電極と第二電極を備えたコンデンサ素子で、第一電極及び第二電極の一方又は双方についてその隅角部に面取り部(角を丸める等)を設ける。第一電極は、基板に内蔵され、第二電極より小さく、当該コンデンサの容量値を決定し、接続されるビアは1本でかつ面取り部を備える。第一電極は信号入力側電極で、第二電極はグランド側電極であり、第一電極に接続されるビアを1本とする場合がある。前記ビアは、平面から見た場合に第一電極の略中央位置に配置する。非可逆回路素子(アイソレータ)の整合用コンデンサとして用いるのに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ素子および非可逆回路素子に係り、特にアイソレータ等の非可逆回路素子を構成するため積層基板内に形成するコンデンサの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
受動回路素子の一つとしてコンデンサは電子回路を構成し、各種の電子部品や回路モジュールに組み込まれることがある。例えば携帯電話機のような移動体通信機器のフロントエンド部には、アンテナからの反射電力を遮断するため、非可逆回路素子(アイソレータ)が設けられる。このアイソレータは、軟磁性体とこの軟磁性体に所定の角度を持って互いに交差するよう配置される3本の中心導体とからなる磁気回転子と、磁気回転子に直流磁界を印加する磁石と、終端抵抗と、複数の整合用コンデンサとを樹脂ケース内に収容してなる(下記特許文献1および2参照)。整合用コンデンサは、中心導体と各端子(入力端子、出力端子または終端抵抗を接続する終端端子)との間に一端が接続され、他端がグランドに接続される。
【0003】
かかるアイソレータは、携帯電話機においてはアンテナと送信用パワーアンプとの間に挿入され、パワーアンプからアンテナへ伝送される送信信号を通過させる一方、アンテナ側から反射されてきた不要電力を遮断する。アンテナ側からの不要電力は上記終端抵抗で熱エネルギとして消費されることとなるが、この熱を効率よく外部に逃がすことが当該アイソレータの特性を向上させる点で好ましい。このため特許文献1(特開2004−241944)の発明では、終端抵抗とグランド端子電極を特定の配置とすることによって終端抵抗からの放熱性を高めている。
【0004】
一方、整合用コンデンサは、高いQ値を得る点から、誘電体基板の両外面に平板状の電極を形成した単板型コンデンサによって構成することが有利である。しかしながら、単板型コンデンサは、誘電体基板が一層だけであるため十分な容量値を確保するには、誘電体基板(誘電体層)の厚さを薄くするか、誘電体基板の面積を大きくする必要がある。ところが、誘電体基板を薄くすればコンデンサ素子の機械的強度が低下する。他方、誘電体基板の面積を大きくすることは、素子の大型化を招く。単板型コンデンサでなく積層チップコンデンサを用いることも考えられるが、積層チップコンデンサは一般にQ値が低く、挿入損失が増大するため、非可逆回路素子に用いることが出来ない。
【0005】
そこで、特許文献2(特開2003−179408)の発明では、コンデンサ層(キャパシタ層)とこれを補強する非コンデンサ層(非キャパシタ層)とにより整合用コンデンサを形成している。非コンデンサ層を補強層として機能させることによって、コンデンサ層を薄く形成して大きな容量値を得るとともに機械的な強度を同時に確保するのである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−241944号公報
【特許文献2】特開2003−179408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記文献記載の発明は、ともにアイソレータの特性向上を図るものではあるものの、これら文献記載の素子構造では、製造過程に起因するコンデンサの容量値の誤差を解消することは出来ない。
【0008】
すなわち、誘電体基板を用いてコンデンサを形成する場合、基板表面に電極パターンを印刷し或いは積層基板を構成する各誘電体シートを積層するときに、パターンの印刷ずれやシート間の積層ずれによって対向する電極同士が正確に重なり合うことなく位置ずれを起すことがあり、このため、両電極によって形成されるコンデンサの容量値が本来得られるべき設計値から外れて容量値にばらつきが生じることがある。
【0009】
このような容量値の誤差は、特に上記のようなアイソレータでは、整合用コンデンサが当該アイソレータの電気的特性に大きな影響を及ぼすことから、これを出来るだけ小さくすることが望ましい。さらにアイソレータに限らずコンデンサを含む他の様々な電子部品においても、容量誤差が生じることは当該電子部品の特性上好ましくない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、誘電体基板に設けられる電極間の位置ずれに起因したコンデンサ容量の誤差を低減する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係るコンデンサ素子は、誘電体層を介して互いに対向するように基板に設けられた第一電極と第二電極とを備えたコンデンサ素子であって、前記第一電極および第二電極のいずれか一方または双方についてその隅角部に面取り部を形成した。
【0012】
誘電体基板を使用しこれにコンデンサを形成する場合、当該コンデンサの容量値に誤差(ばらつき)が生じることがある。このばらつきを減らすため、本願発明者はその原因を種々検討する中で誘電体基板内に形成したコンデンサ電極について電界強度の解析を行った。その結果、誘電体層を挟んで対向する電極の電界強度分布は各電極内において一様にはなっておらず、電極の周縁部や隅角部(角/かど)に電界が集中していることを確認した(図8,図9を参照し後述する)。
【0013】
したがって、電極パターンの印刷ずれや誘電体シートの積層ずれ等によって電極が位置ずれを起した場合に、電界が集中している電極の周縁部や隅角部が電極の対向領域(電極同士が対向し平面から見たときに重なっている領域/以下、この部分を対向領域と云う)から外れてコンデンサの容量形成に寄与しなくなり、これがコンデンサの容量値の誤差を大きくする原因となっていると考えられる。よって、この周縁部や隅角部への電界集中を軽減し、あるいは対向領域から外れる電界集中部分の面積を減らせば、容量値の変動を小さく抑えることが可能となる。その具体的構成は次のとおりである。
【0014】
まず、本発明では、コンデンサを形成する電極(第一電極および第二電極)の隅角部(角/かど)に面取り部を形成する。面取り部とは、電極を平面から見た場合に、角(かど)を丸め或いは角を切り欠いたような(角を取ったような)形状を有する部分を云う。別の表現をすれば、面取り部を形成するとは、電極の平面形状について隅角部が角張った形状を有しないようにすることを云い、例えば電極の角を丸めて曲線状にし(所謂アールをつける)、或いは電極の角が90度(直角)より大きな角度を持つように電極の角を直線的に切断したような形状とすることを云う。
【0015】
コンデンサを構成する電極同士の位置ずれとしては、大別して直線状にずれる(平行移動する)場合と、回転ずれする(電極同士が相対回転するようにずれる)場合とが想定されるが、特に、電極の角が対向領域から突き出るように斜めに平行移動した場合や、電極が回転ずれを起した場合には、電界が集中している隅角部が対向領域から突き出て外れやすくなり、このため従来の電極構造では容量値の変動が大きくなりやすい。
【0016】
これに対し、隅角部に上記面取り部を形成した本発明の電極構造によれば、電極の角への電界の集中が緩和されるとともに、電極の位置ずれが生じた場合にも電界が極度に集中した部分(隅角部)が対向領域から外れ難く若しくは外れる部分が少なくなり、容量値の変動を従来に較べ小さく抑えることが出来る。
【0017】
面取り部を形成する箇所は、当該電極のすべての隅角部(例えば電極の平面形状が方形であれば4隅のすべて)とする必要は必ずしもなく、コンデンサを形成する或る電極に着目した場合に当該電極に複数ある隅角部のうち一部の隅角部が面取り部を有するようにしても良い。また本発明において、電極の数は必ずしも2枚に限られるものではなく、誘電体層を挟んで配置した3枚以上の電極によりコンデンサを構成することも可能である。さらに、基板内における各電極の形成位置は特に問わず、基板の内部(内層)でも良いし、表面(または裏面)であっても構わない。
【0018】
また上記コンデンサ素子では、第一電極が、基板の内部に内蔵され、第二電極より面積が小さく、当該面積を有することにより当該コンデンサの容量値が決定される基準となる電極であり、当該第一電極に対し電気的な接続を行うビアホールは1本であり、かつ当該第一電極が上記面取り部を備えるようにすることが望ましい。
【0019】
コンデンサ電極への電気的接続は、当該コンデンサの自己共振周波数を高めるため従来から一般に複数本のビアホールによって行われる。しかしながら、複数本のビアホールを接続すると、電極の周縁部や隅角部へより大きな電界が集中することとなり(図8,図9に基づき後述する)、電極が位置ずれして周縁部や隅角部が対向領域から外れたときの影響が大きくなる。これに対し上記本発明のようにビアホールを1本とすれば、電極周縁部や隅角部への電界集中を軽減することができ、位置ずれによる容量変動を小さく抑えることが出来る。
【0020】
また、誘電体基板を使用してコンデンサを形成する場合、例えばグランド電極に対向してコンデンサ電極を設ける場合のように一方の電極が大きく、他方の電極が小さくてこの小さな方の電極により当該コンデンサの容量値が決定されるよう構成する場合がある。このような電極構造にあっては、大きい方の電極の隅角部は通常、対向領域外に位置してコンデンサの容量形成に元来寄与していない一方、容量形成の基準となる小さい方の電極は位置ずれが生じれば隅角部が大きい方の電極(対向領域)から外れるおそれがあるため、上記本発明のように当該小さい方の電極に面取り部を形成しておくことが好ましい。
【0021】
また同様の理由から、本発明に係るコンデンサ素子の好ましい態様として、第一電極が信号入力側(所謂ホットエンド側)の電極であり、第二電極がグランドに接続されたグランド側(所謂コールドエンド側)の電極であり、第一電極に対し電気的な接続を行うビアホールを1本としても良い。
【0022】
さらに、第一電極に対して電気的な接続を行うビアホールは、平面から見た場合に当該第一電極の略中央位置に配置することが好ましい。
【0023】
電極に生じる電界は、ビアホールに近いほど弱く、ビアホールから遠いほど強くなるが、電極の位置ずれは何れの方向へも生じる可能性がある。したがって、ビアホールを電極の略中央位置に設け、周縁部内並びに隅角部間の電界強度を均一とすることでどの方向に電極がずれても容量変動をある程度の範囲内に抑えることが望ましく、これにより多数製造される製品全体としてのばらつきを小さくすることが出来る。
【0024】
本発明に係る非可逆回路素子は、信号が入力される入力端子と、信号が出力される出力端子と、これら入力端子および出力端子間に設けられた磁気回転子と、当該磁気回転子に直流磁界を印加する磁石と、一端が前記磁気回転子に電気的に接続され、他端がグランドに電気的に接続された1以上の整合用コンデンサとを備えた非可逆回路素子であって、前記整合用コンデンサのうち少なくとも1つを上記本発明に係るコンデンサ素子とした。
【0025】
このような非可逆回路素子によれば、整合用コンデンサの容量値に誤差の少ない良好な電気的特性を有する非可逆回路素子を構成することが可能となる。非可逆回路素子には、アイソレータのほか、例えばサーキュレータ等が含まれる。また上記本発明に係るコンデンサ素子は、コンデンサの単体素子として構成されていても良いし、非可逆回路素子以外の様々な電子部品・回路モジュールに含まれた形態であっても構わない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、誘電体基板に設けられる電極間の位置ずれに起因したコンデンサ容量の誤差を低減することが出来る。
【0027】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面を参照しつつ述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。尚、各図中、同一の符号は同一又は相当部分を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1および図2はそれぞれ本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子を示す断面図および平面図であり、図3は電極構造を示す分解斜視図である。これらの図に示すようにこのコンデンサ素子は、基板表裏面を含めて4層の配線層を有する積層基板10の内部に2つのコンデンサC1,C2を備えたものである。より具体的には、基板表面から基板裏面に向け順に第1層、第2層、第3層および第4層と称した場合に、第2層に2つの電極(第一電極)11,12を基板10の長手方向に並べて配置するとともに、絶縁層(誘電体層)を介してこれらの電極に対向するよう第3層に電極(第二電極)13を設け、2つの第一電極のうちの一方の第一電極11と第二電極13とによりコンデンサC1を、また2つの第一電極のうちの他方の第一電極12と第二電極13とによりコンデンサC2を形成する。
【0029】
第一電極11,12は、信号入力側(ホットエンド側)の電極であり、第二電極13より面積(平面形状)が小さく、当該第一電極11,12の大きさを調整することによって当該コンデンサC1,C2の容量値が決定される。また、各第一電極11,12に対応して基板10の表面には外部電極21,22を設け、これら外部電極21,22と各第一電極11,12は、平面から見て各第一電極11,12の略中央部に配置したそれぞれ1本のビアホールV11,V13(以下、単にビアと称する)により電気的に接続してある。
【0030】
第一電極11,12に接続するビアV11,V13についてこのような構造としたのは、後に述べるように電極11,12,13の位置ずれによる容量変動を小さくするためである。ビアV11,V13自体の構造は、めっきスルーホールその他、特に問わないが、電気抵抗を抑え伝送ロスを低減する観点から、スルーホール内をめっき金属または導電性ペーストで充填した所謂フィルドビアとすることが望ましい。後述の第二電極13と外部電極23間のビアV31〜V36についても同様である。
【0031】
また、各第一電極11,12は、この例では略長方形の平面形状を有するものとし、図4にも拡大して示すようにその4隅(隅角部)Rの角(かど)を丸めたような形状とする(面取り部の形成)。第一電極11,12と第二電極13との間に位置ずれが生じた場合に、電界が集中する角部R(この点については更に後に述べる)が電極の対向領域から外れ難くするためである。尚、上記隅角部Rは、曲線状の形状とする以外にも、例えば図5に示すように直線状に切り欠いたような形状としても良い。
【0032】
第一電極11,12に接続される2つの外部電極21,22は、図2に示すようにそれぞれ平面形状が異なるものとしてある。これは、当該コンデンサ素子に含まれる2つのコンデンサC1,C2の容量を異ならせた場合に、これらを識別することが出来るようにするためである。
【0033】
一方、第二電極13は、基板裏面に設けた外部電極23を通じてマザーボード等のグランド電極に接続されるグランド側(コールドエンド側)の電極であり、上記第一電極11,12より平面形状が大きく、平面から見たときに当該第二電極13の内側に(含まれるように)第一電極11,12が位置するように配置してある。このようにコンデンサC1,C2を形成する一対の電極を同一の大きさとせず、一方の電極13を大きく形成して平面から見たときにこの大きな電極(第二電極)13の内側に他方の電極(第一電極)11,12が位置するようにすれば、同一サイズの電極を対向させて容量を形成する場合と比較して、電極間の位置ずれによる容量変動を小さく抑えることが出来る利点がある。
【0034】
第二電極13と、基板裏面に形成した外部電極23との電気的接続は、複数本(この例の場合6本)のビアV31〜V36により行う。グランド側電極13の電位をより確実にグランドレベルに落すためである。
【0035】
本実施形態に係るコンデンサ素子の作用効果について、従来のコンデンサ素子との対比において述べる。図6および図7は従来のコンデンサ素子の一例を示すもので、このコンデンサ素子は、上記実施形態と同様に積層基板10の内部に2つの第一電極1,2とこれらと対向して容量を形成する第二電極13とを備えるものであるが、第一電極1,2と外部電極21,22との電気的接続を行うためそれぞれ2本ずつのビアV11,V12;V13,V14を設けてあり、また各第一電極1,2の隅角部には上記実施形態のように面取り部を形成していない。
【0036】
図8は上記従来のコンデンサ素子の第一電極1の電界強度を解析した結果を示すものであり、この図でハッチングを施した部分は電界強度が2.0×106〔V/m〕未満の領域を、網掛けハッチングを施した部分は電界強度が2.0×106以上〜4.0×106〔V/m〕未満の領域を、黒く塗りつぶした部分は電界強度が4.0×106〔V/m〕以上の領域をそれぞれ示している。また、同図において外部電極21と接続されるビアV11,V12の位置を丸で示している。これらの図から明らかなように従来のコンデンサ素子では、電極の縁や角(かど)に電界が集中しているのが分かる。
【0037】
一方、図9は上記図6〜7に示す従来のコンデンサ素子において第一電極1に接続されるビアを1本(ビアV11のみ)とした場合の電界強度の解析結果を示しており、同図においてハッチング部分、網掛けハッチング部分および黒塗部分は、それぞれ前記図8と同一の電界強度範囲を示している。また図中、ビアV11の位置を丸印で示している。これらの図から明らかなように、ビアを1本とした場合にも電極の縁や角に電界が集中しているが、電界が強い領域(黒塗部分および網掛けハッチング部分)が電極1の中心側に向け拡大し広くなっていることが分かる。これらの解析結果から次のことが言える。
【0038】
第一電極に複数本のビアV11,V12を備える従来の電極構造(図8)では、電極1の周縁および角部のより狭い領域に電界が集中しているのに対し、ビアを1本とした本実施形態の構造(図9)では、従来構造に較べれば電極周縁・角部への電界の集中の度合いが小さく、したがって同一の位置ずれ量であれば、本実施形態の構造の方が従来構造より容量の変動が小さくなる。この点につき更に詳しく述べる。
【0039】
コンデンサの容量Cは、電極面積(対向領域の面積)をS、電極間距離をd、誘電率をεとした場合に、C=ε(S/d)であり、従来と本実施形態の各構造においてS、dおよびεはいずれも同一であるから容量値Cは等しい。また、両電極間に蓄えられる電荷Qは、静電容量をC、両電極間の電位差をVとすると、Q=CVであるから、CとVが一定であればQも一定であり、両構造の電荷Qも同一である。したがって両構造の電界Eも等しいはずである。コンデンサ内の電界が従来構造と本実施形態の構造とで同じであるとすると、従来構造ではビアが2本であるため、ビア周囲の電位は低くしかも広範囲にわたって安定しているが、その分、電極の縁や角の部分での電位はビアが1本の場合と較べて非常に高くなる。
【0040】
これに対し本実施形態の構造の場合、第一電極に接続されるビアが1本であるため、ビア周囲の電位は、電極周縁部に較べれば従来構造と同様に低いものの、従来構造に較べれば高くかつその範囲は狭い。したがって本実施形態の構造では、電極内の広い部分で電位が高く、その分、従来構造のように電極の縁や角に極端に電界が集中して非常に高くなるようなことがない。このため、本実施形態の構造によれば、電極の位置ずれが生じても従来構造ほど大きな容量のばらつきが生じることがない。尚、本発明に基づいてグランド側電極(第二電極)に接続されるビアを1本にすることも考えられるが、後述の図11〜14に示す解析結果から分かるように、第二電極(コールドエンド)側よりも第一電極(ホットエンド)側に接続するビアを1本とした方が良好な特性が得られる。
【0041】
さらに本実施形態では、上記のように電極11,12の角部Rに面取り部を形成してあるから、電極11,12,13が例えば回転ずれを起した場合にも電界が強い角部Rが、容量を形成する電極対向領域から外れ難く(又は外れる面積が少なくなり)、この点からも位置ずれによる容量変動を小さく抑えることができ有利である。
【0042】
また、上記解析結果から明らかなように、ビアに近い部分は電界が弱く、ビアから遠い部分は電界が強くなる傾向があるから、第一電極に接続する1本のビアを当該電極の端部に配置すると、当該端部と反対側の端部とで電界強度に大きな差が出来てしまう。この場合、電界が弱い側が対向領域から外れるような位置ずれをした場合は良いが、逆に電界が強い側が対向領域から外れるようなずれ方をした場合には容量値の変動が大きくなって多数製造される製品全体としてのばらつきが大きくなる可能性がある。したがって、どちらの方向にずれたとしても容量変動をある程度の狭い範囲内に抑えることが出来るようビアの形成位置を電極の略中央位置とすることが望ましい。
【0043】
図10から図14は、上記図6,7に示した素子構造において配線層やビアの形成位置をずらした場合のコンデンサC11,C12の容量値の変動を解析した結果を示す表であり、図10は当該素子において第一電極1,2にそれぞれ2本ずつのビアV11,V12;V13,V14が接続されている場合(構造1/図6および図7に示す従来の構造)、図11は当該素子において第一電極1,2に接続されたビアV11,V12;V13,V14のうち中央寄りのビアV11,V13を設けずに外側のビアV12,V14のみをそれぞれ1本ずつ設けた場合(構造2)、図12は第一電極1,2に接続されたビアV11,V12;V13,V14のうち外側のビアV12,V14を設けずに中央寄りのビアV11,V13のみを1本ずつ設けた場合(構造3)を示している。
【0044】
また、図13は第一電極1,2にそれぞれ2本ずつビアV11,V12;V13,V14を接続するが、第二電極13に接続されたビアV31〜V36のうち中央部の2本のビアV33,V34を設けなかった場合であり(構造4)、図14は第一電極1,2に接続されたビアは2本ずつで、第二電極13に接続されたビアV31〜V36を設けない代わりに第二電極13の略中央に1本だけ新たにビア(図示せず)を設けた場合(構造5)である。
【0045】
解析は上記各構造1〜5について20通りの位置ずれ状態を設定して行い(S1〜S20,S31〜S50,S61〜S80,S91〜S110,S121〜S140)、各表に、C11とC12の各容量値と、位置ずれ状態(位置ずれを行った対象L1〜L3,V1,V3、方向x,yおよびずらした量)とを示した。各表における位置ずれ状態の項目中、L1は外部電極21,22が設けられた第1層を、L2は第一電極1,2が設けられた第2層を、L3は第二電極13が設けられた第3層を、V1は第一電極1,2と外部電極21,22とを接続するビアV11〜V14を、V3は第二電極13と外部電極23とを接続するビアV31〜V36をそれぞれずらしたことを表し、x,yは図7に示すx-y座標軸のx軸方向またはy軸方向にずらしたことを表し、「+30μm」および「−30μm」は当該座標軸のプラス方向に30μmだけ、或いは当該座標軸のマイナス方向に30μmだけずらしたことをそれぞれ表している。尚、S0,S30,S60,S90およびS120は、ずれが無い場合である。
【0046】
また各表において、層ずれの無い状態(S0,S30,S60,S90又はS120)から1.5%以上容量値が変化したものに白抜きの三角印「△」を、2%以上変化したものに黒塗りの三角印「▲」を付してあるが、これらの印からも明らかなように第一電極1,2に接続するビアを複数本(2本)とした従来の構造1(図10)は容量値の変動が大きく、これと比較して当該ビアを1本とした構造2(図11)並びに構造3(図12)は容量値の変動は小さい。また、このように第一電極1,2に接続するビアを1本とする構成に加え、面取り部を備えた上記実施形態の構造によれば更に容量値の変動を小さく抑えることが期待できる。
【0047】
さらに、第二電極13側のビアの本数を減らした場合の解析を行った。これによれば、図13および図14に示すようにグランド(第二電極)側のビアの本数を減らすことでも、容量変動をある程度抑えることが可能であることが分かった。ただし、グランド側電極(第二電極)の電位をより確実にグランドレベルに落しグランドを強化する観点からは、第二電極側のビアは従来通り複数本とし、第一電極側のビアを1本とする構造をとることが望ましい。
【0048】
さらに、図15は実際にコンデンサ素子を作製し、容量値を実測した結果を示すものである。測定は、図16に示すように絶縁層を介して互いに対向するように第一電極1,2,11,12と、第二電極13とを設けてコンデンサを形成し、第一電極1,2,11,12と外部電極(図示せず)とを接続するビアVを本発明に従い1本とした場合(同図(a))と、従来のように2本とした場合(同図(b))とについてそれぞれ20個ずつのサンプルを対象として行った。尚、外部電極と第一電極または第二電極との距離は80μm、第一・第二両電極間の間隔は120μmであり、第一および第二の各コンデンサC1,C11,C2,C12の設計容量値は3.60pFである。
【0049】
図15の表に示すようにビアVを本発明に従い1本とした場合(図16(a))には、従来のように2本の場合(図16(b))と比較して、より設計値に近く容量値のばらつきが少なくなった。
【0050】
図17は、本発明の他の実施形態に係る非可逆回路素子(アイソレータ)を示す回路図である。同図に示すようにこのアイソレータは、従来から知られたアイソレータと同様に、信号が入力される入力端子51と、信号が出力される出力端子52と、これら入力端子51および出力端子52間に設けられた磁気回転子54と、磁気回転子54に直流磁界を印加する磁石(図示せず)と、終端端子53に接続された終端抵抗58と、一端が前記磁気回転子54に電気的に接続されるとともに他端がグランドに電気的に接続された3個の整合用コンデンサ55,56,57とを備えるが、従来のアイソレータと異なり、整合用コンデンサ55〜57を前記実施形態に係るコンデンサ素子により構成したものである。
【0051】
尚、前記実施形態に係るコンデンサ素子では、2つのコンデンサC1,C2を備えるが、前記実施形態では同様にして1つのコンデンサのみを含む素子を形成することも出来るし、3個以上のコンデンサを含む素子を形成することも可能である。したがって、このような本発明に係るコンデンサ素子を1つ又は2つ以上適宜形成してこれらの素子に含まれるコンデンサによって各整合用コンデンサ55〜57を構成すれば良い。
【0052】
アイソレータにおいて整合用コンデンサ55〜57は、当該アイソレータの周波数特性を決定するのに重要な役割を果たすが、上記のように整合用コンデンサ55〜57として本実施形態のコンデンサ素子を使用すれば、整合用コンデンサ55〜57の容量誤差の少ない良好な電気的特性を有するアイソレータを構成することが出来る。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。例えば、基板の種類(有機系積層基板、LTCCほか無機セラミック系積層基板等)や基板の積層数、絶縁層および電極の構成材料、基板・電極の形成方法(サブトラクティブ法、セミアディティブ法、フルアディティブ法等)は特に限定されない。また本発明は、コンデンサの単体素子、アイソレータやサーキュレータのような非可逆回路素子のほか、コンデンサを基板に含んだ各種の電子部品・機能モジュールに広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子を示す断面図である。
【図2】前記実施形態に係るコンデンサ素子を示す平面図である。
【図3】前記実施形態に係るコンデンサ素子の電極構造を示す分解斜視図である。
【図4】前記実施形態に係るコンデンサ素子の電極隅角部を拡大して示す平面図である。
【図5】前記実施形態に係るコンデンサ素子の電極隅角部の別の構成例を示す拡大平面図である。
【図6】従来のコンデンサ素子の一例を示す断面図である。
【図7】前記従来のコンデンサ素子の一例を示す平面図である。
【図8】コンデンサ電極(当該電極に接続されたビアホールが2本の場合)の電界強度分布を示す図である。
【図9】コンデンサ電極(当該電極に接続されたビアホールが1本の場合)の電界強度分布を示す図である。
【図10】配線層又はビアをずらした場合のコンデンサの容量変化を解析した結果を示す表である(第一電極に接続されるビアが2本の場合)。
【図11】配線層又はビアをずらした場合のコンデンサの容量変化を解析した結果を示す表である(第一電極に接続されたビアのうち中央寄りのビアを設けず外側のビアのみ1本設けた場合)。
【図12】配線層又はビアをずらした場合のコンデンサの容量変化を解析した結果を示す表である(第一電極に接続されたビアのうち外側のビアを設けず中央寄りのビアのみ1本設けた場合)。
【図13】配線層又はビアをずらした場合のコンデンサの容量変化を解析した結果を示す表である(第一電極に接続されたビアは2本で、第二電極に接続されたビアのうち中央部の2本のビアを設けなかった場合)。
【図14】配線層又はビアをずらした場合のコンデンサの容量変化を解析した結果を示す表である(第一電極に接続されたビアは2本で、第二電極の中央に1本だけビアを設けた場合)。
【図15】本発明と従来構造とに基づいてそれぞれコンデンサ素子を作製し、容量値を実測した結果を示す表である。
【図16】前記図15の測定対象の電極構造を示す平面図である。(a)は外部電極と接続するビアを1本とした場合(本発明)、(b)は外部電極と接続するビアを2本とした場合(従来構造)である。
【図17】本発明の一実施形態に係る非可逆回路素子(アイソレータ)を示す回路図である。
【符号の説明】
【0055】
10 積層基板
1,2,11,12 第一電極(ホットエンド側電極)
13 第二電極(コールドエンド側電極)
21,22,23 外部電極
51 入力端子
52 出力端子
53 終端端子
54 磁気回転子
55,56,57 整合用コンデンサ
C1,C2,C11,C12 コンデンサ
R 隅角部
V11〜V14,V31〜V36 ビアホール(ビアホール形成位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層を介して互いに対向するように基板に設けられた第一電極と第二電極とを備えたコンデンサ素子であって、
前記第一電極および第二電極のいずれか一方または双方についてその隅角部に面取り部を形成した
ことを特徴とするコンデンサ素子。
【請求項2】
前記第一電極は、
前記基板の内部に内蔵され、
前記第二電極より面積が小さく、
当該面積を有することにより当該コンデンサの容量値が決定される基準となる電極であり、
当該第一電極に対し電気的な接続を行うビアホールは1本であり、かつ
前記面取り部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ素子。
【請求項3】
前記第一電極は、信号入力側の電極であり、
前記第二電極は、グランドに接続されたグランド側の電極であり、
前記第一電極に対し電気的な接続を行うビアホールを1本とした
ことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ素子。
【請求項4】
前記ビアホールを、平面から見た場合に第一電極の略中央位置に配置した
ことを特徴とする請求項1または2に記載のコンデンサ素子。
【請求項5】
信号が入力される入力端子と、
信号が出力される出力端子と、
これら入力端子および出力端子間に設けられた磁気回転子と、
当該磁気回転子に直流磁界を印加する磁石と、
一端が前記磁気回転子に電気的に接続され、他端がグランドに電気的に接続された1以上の整合用コンデンサと、
を備えた非可逆回路素子であって、
前記整合用コンデンサのうち少なくとも1つが前記請求項1から4のいずれか一項に記載のコンデンサ素子である
ことを特徴とする非可逆回路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−12711(P2007−12711A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188726(P2005−188726)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】