説明

コンバイン

【課題】路上用の高速走行域や刈取作業に適した中速走行域の他に倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域をも選択可能な操作具を、誤操作の可能性が少なく、配設スペースも少なくて済むようにしたコンバインを得る。
【解決手段】静油圧式無段変速装置4を構成する油圧ポンプ41と油圧モータ42とを、ともに可変容量型に構成し、油圧モータ42による速度制御域に、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と、中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを設定し、高速走行域と中速走行域とを択一的に切換操作する第1操作具23と、中速走行域と低速走行域とを択一的に切換操作する第2操作具24とを、各別に操作自在に備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動用の静油圧式無段変速装置を備えたコンバインの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したコンバインにおいては、従来より下記[1]に示す構造を備えたものが知られている。
[1] 静油圧式無段変速装置の油圧ポンプ及び油圧モータのそれぞれを可変容量型に構成し、主変速レバーの操作で油圧ポンプを変速操作し、高速走行用の押しボタンスイッチ、標準走行用の押しボタンスイッチ、ならびに倒伏走行用の押しボタンスイッチをそれぞれ操作することで、油圧モータの作動を制御し、走行出力を、高速走行用、中速走行用、低速走行用の各段階に適した走行速度となるように変速制御するようにしたもの(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−265052号公報(段落〔0031〕、〔0035〕、図2、図3、図4、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるように、主変速レバーの操作で油圧ポンプを変速操作し、複数の押しボタンスイッチで油圧モータによる作業速度の変更を行う構造のものでは、押しボタンスイッチの操作による簡単な操作で目的の作業に適した速度での走行が可能となり、便利に用いることができる点で有用なものである。
しかしながらこの特許文献1に記載の構造のものでは、前述の高速走行用の押しボタンスイッチ、中速走行用の押しボタンスイッチ、及び低速走行用の押しボタンスイッチをそれぞれ選択操作することで、目的の作業走行速度を得るものであるから、次のような問題がある。
すなわち、操作具として用いられる押しボタンは、その数が多くなるほど目的の作業に適した速度域に近い速度を選択対象とし易いのであるが、その反面、選択対象が多くなると押し間違いなどの誤操作を生じ易くなる可能性がある。
このような誤操作を回避するには、押しボタンスイッチの配設間隔を極端に大きくするなどの対策が考えられるが、これでも万全ではなく、その上、各種操作具が混在する操縦部における押しボタンスイッチの配設用スペースが極端に大きくなってスペースの無駄が生じるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、作業速度として、路上での走行に適した高速走行域や植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域の他に、倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域をも選択可能な操作具を備えるにあたり、誤操作の可能性が少なく、かつ操作具の配設スペースも少なくて済むように構成したコンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、請求項1に記載のように、エンジン側から入力された動力を、変速して走行装置側に出力するための静油圧式無段変速装置を備えたコンバインにおいて、
前記静油圧式無段変速装置を構成する油圧ポンプと油圧モータとを、ともに可変容量型に構成し、
前記油圧ポンプによる変速操作で機体の前後進を無段変速で行うように構成するとともに、
前記油圧モータによる速度制御域に、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と、前記中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを設定し、
前記高速走行域と中速走行域とを択一的に切換操作する第1操作具と、前記中速走行域と低速走行域とを択一的に切換操作する第2操作具とを、各別に操作自在に備えたことを特徴とする。
【0007】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明のコンバインでは、油圧ポンプによる変速操作で機体の前後進を無段変速で行うように構成するとともに、油圧モータによる速度制御域に、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と、前記中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを設定したものであるから、路上走行から倒伏茎稈の刈取作業にまでわたる広範囲での速度変化に適応した作業速度を選択することができる。
そして、特に本発明では、前記高速走行域と中速走行域とを択一的に切換操作する第1操作具と、前記中速走行域と低速走行域とを択一的に切換操作する第2操作具とを、各別に操作自在に備えたものであるから、前記第1操作具を択一的に切換操作するか、第2操作具を択一的に操作するか、のいずれかの操作を行うことで、コンバインの作業形態のうちで要望される作業速度への変速操作が可能となる。
すなわち、コンバインにおいては、路上での走行に適した高速走行域での走行を行っている場合には、その走行状態から急に倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域にまで変速操作する必要性は少なく、通常は、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と高速走行域との間で択一的な変速操作を行うことで、通常の植立茎稈の刈取作業と、非刈取状態での走行とに、走行形態を選択切換する変速操作が要望される。
また、倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域での走行を行っている場合には、その走行状態から急に路上走行に適した高速走行域にまで変速操作する必要性は少なく、通常は、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と低速走行域との間で択一的な変速操作を行うことで、通常の植立茎稈の刈取作業と、倒伏状態の茎稈を刈り取る低速での走行とに、走行形態を選択切換する変速操作が要望される。
そして、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域での走行を行っている場合には、前述の高速走行域と低速走行域との何れの走行域へも変速操作が行われる可能性はあるが、この場合は、非刈取作業との間での変速頻度が大であるか、茎稈の倒伏状態から低速走行域との間での変速頻度が大であるかを判断して、第1操作具による操作を行うべきか、第2操作具による操作を行うべきかを選択することができる。
【0008】
その結果、本発明では、作業速度を選択する操作具としては、前述の第1操作具か第2操作具かのいずれかを用いるだけで、路上での走行に適した高速走行域や植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域の他に、倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域をも選択できる。
したがって、前述の第1操作具か第2操作具かによる択一的な操作で所望の作業速度を選択することができるので、多くの操作具のいずれかを選択するような操作に比べ、誤操作を招く虞が少ないという利点がある。
また、多くの操作具を必要とせず、また、誤操作を招く可能性が少ないので、操作具を配設するためのスペースとして大きな占有スペースを要さず、全体としてコンパクトな構造に構成することができる利点がある。
【0009】
〔解決手段2〕
本発明のコンバインにおける第2の解決手段は、請求項2の記載のように、第2操作具が低速走行域に切換操作されると、これに伴って刈取り前処理部の駆動系における刈取変速装置を高速に変速する操作手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段2にかかる本発明のコンバインでは、前記解決手段1にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、第2操作具が低速走行域に切換操作された状態では、刈取対象茎稈が大きく倒伏した状態での刈取作業に適した駆動形態が必要となる。このような作業条件では、大きく倒伏した茎稈を引き抜くことがないように機体走行速度を充分に低下させると共に、引き起こし操作量は大きくする必要がある。
このため、本発明では、前述の第2操作具を低速走行域に切換操作して倒伏刈りが可能であるように機体走行速度を大きく低下させ、これに伴って刈取変速装置は高速に変速操作して、機体進行量に対する倒伏茎稈の引き起こし量が大きくなるようにしている。その結果、倒伏刈り作業を良好に行える利点がある。
【0011】
〔解決手段3〕
本発明のコンバインにおける第3の解決手段は、請求項3の記載のように、第1操作具は、静油圧式無段変速装置の油圧ポンプを変速操作する変速操作レバーのグリップに設けてあり、第2操作具は操縦パネルに設けてある点に特徴がある。
【0012】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段3にかかる本発明のコンバインでは、前記解決手段1及び2にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域とを選択切換する第1操作具が変速操作レバーのグリップに設けてあり、前記中速走行域と、これよりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを選択切換する第2操作具が操縦パネルに設けてあるので、第1操作具と第2操作具とを間違えて操作する可能性がより少なくなり、誤操作回避の可能性がより高くなる利点がある。
そして、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域とを選択切換する第1操作具が変速操作レバーのグリップに設けてあるので、変速操作レバーを把持しながらの迅速な切換操作が可能であり、作業能率向上の面での利点もある。
また、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と、その中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを選択切換する第2操作具は操縦パネルに設けてあるが、この第2操作具による切換操作はあまり操作頻度の高いものではなく、かつ、その切換操作も刈取作業中の機体直進走行中の比較的低速走行状態で行われるものであるから、一時的に前方茎稈群から目を離して操縦パネルを目視しても刈取作業を支障なく継続することができる。
さらにまた、第2操作具を操縦パネルに設けることは、第2操作具の切り換えられた状態を常時目視し易い位置に表示していることになるので、切換操作後の戻し忘れを防ぐにも便利である。
【0013】
〔解決手段4〕
本発明の脱穀装置の唐箕における第4の解決手段では、請求項4の記載のように、静油圧式無段変速装置は、油圧モータに対する斜板角の変更操作を、受圧室に供給された圧油の操作力で斜板を高速出力側へ傾動操作する単動シリンダと、前記圧油の供給に伴って収縮し、圧油の排出に伴って単動シリンダを低速出力側へ復帰付勢する復帰用スプリングとを備え、
前記単動シリンダの受圧室内への圧力供給油路に比例減圧弁を設けて、前記単動シリンダが復帰用スプリングを収縮限度まで圧縮した高速出力位置と、前記受圧室内の圧油が排出されて前記復帰用スプリングが伸長した低速出力位置との中間箇所に、前記復帰用スプリングの伸縮範囲の中間位置における復帰付勢力と釣り合う圧油を供給して中間速出力位置が設定されるように構成してあり、
油圧モータの高速出力位置が路上での走行に適した高速走行域であり、中間速出力位置が圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域であり、低速出力位置が前記中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域に設定してある点に特徴がある。
【0014】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段4にかかる本発明のコンバインでは、前記解決手段1、2、または3にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、油圧モータによる高速走行域と中速走行域と低速走行域とを設定する手段として、油圧モータの斜板角を変更操作する単動シリンダと、受圧室への圧油の供給に伴って収縮し、圧油の排出に伴って単動シリンダを低速出力側へ復帰付勢する復帰用スプリングとを用いて、その単動シリンダに付与する供給圧と、復帰用スプリングの付勢力との設定によって得られるようにしたものであるから、その構造の簡素化を図り得る利点がある。
つまり、油圧モータの斜板角制御用の油圧ピストンの位置を検出して複数の比例制御弁でピストン位置を制御することにより斜板角度を制御するような構造に比べ、専用の位置検出手段を要さず、また比例制御弁の使用数を減らして、構造簡単に構成し得る利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔コンバインの全体構成〕
図1には自脱形コンバインの全体側面が示されている。このコンバインは、機体フレーム10の下部に左右一対のクローラ式走行装置11を装備し、操縦席20を有した搭乗型の運転部2などを備えた自走機体1の機体フレーム10の前部に、刈取り前処理部3を備えている。
前記機体フレーム10に対しては、その左後部に脱穀装置12を搭載し、機体フレーム10の右後部に穀粒貯留装置13を搭載し、さらに、機体フレーム10の右前部にエンジン14を備え、そのエンジン14の上方側に前記運転部2が配備されている。
【0016】
前記刈取り前処理部3は、その全体を支える前処理部フレーム30の基部を機体横向きの軸芯xまわりで回動自在に前記機体フレーム10から立設した支持枠(図外)に連結してあり、機体フレーム10との間に設けたリフトシリンダ15を介して上下揺動自在に装備させてある。つまり、前記リフトシリンダ15が前処理部フレーム30を機体フレーム10に対して上下に揺動操作すると、刈取り前処理部3を引起し装置31の下部が地面上近くに位置した下降作業状態と、引起し装置31が地面から高く浮上した上昇非作業状態とに昇降操作するように構成してある。
【0017】
このコンバインは、稲・麦などの穀粒を収穫するものであり、刈取り前処理部3を下降作業状態にして自走機体を走行させると、刈取り前処理部3は、植立穀稈を引起し装置31によって引起し処理しながらバリカン型の刈取装置32に供給して刈取り処理し、刈取穀稈を搬送装置33によって機体後方向きに搬送して脱穀装置12の脱穀フィードチェーン12aの始端部に供給する。脱穀装置12は、脱穀フィードチェーン12aによって刈取穀稈の株元側を機体後方側に搬送しながらその穂先側を扱き室(図示せず)に供給して脱穀処理する。穀粒貯留装置13は、脱穀装置12からの脱穀粒を回収して貯留していく。
【0018】
〔動力伝達系〕
前記エンジン14の駆動力は、図2に示すように、左右の走行装置11,11に伝達する走行駆動系と、脱穀装置12に伝達する脱穀駆動系と、刈取り前処理部3に伝達する刈取駆動系とに分岐伝動されるように構成してある。
【0019】
すなわち、脱穀駆動系では、エンジン14の出力軸14aからの動力を、脱穀クラッチ16aを備えたベルト伝動機構16によって脱穀装置12、及び図示しないが、穀粒貯留装置13や脱穀フィードチェーン12aにも動力伝達するように構成してある。
【0020】
前記走行駆動系は、エンジン14の出力軸14aの駆動力を伝動ベルト9を介して主変速装置としての静油圧式無段変速装置4の入力軸40に伝達し、この静油圧式無段変速装置4の出力軸44の駆動力をミッションケース5に伝達するように構成してある。そしてミッションケース5の内部ではギヤ式減速機構(図示せず)を介して左右一対の操向クラッチ51に前記駆動力を減速伝達し、左側の操向クラッチ51の回転出力をミッションケース5の左横側から出力して左側の走行装置11の駆動スプロケット11aに伝達し、右側の走行クラッチ51の回転出力をミッションケース5の右横側から出力して右側の走行装置11の駆動スプロケット11aに伝達するように構成してある。
【0021】
前記刈取駆動系は、前記静油圧式無段変速装置4の前記出力軸12の駆動力をミッションケース5の作業用出力軸52に伝達し、この作業用出力軸52の駆動力を、刈取系ベルト伝動機構34を介して刈取り前処理部3の入力軸35に伝達するように構成してある。
前記刈取系ベルト伝動機構34は、前記作業用出力軸52に設けた出力プーリ52aと、前記刈取り前処理部3の入力軸35に設けた入力プーリ35aとの間に掛張した伝動ベルト34bと、その伝動ベルト34bを緊張状態と弛緩状態とに切換操作して伝動状態を入り切り操作するためのテンションクラッチ34aとを備えて構成されている。
また、前記作業用出力軸52は、ミッションケース5内に配備された周知の高速用ギヤ(図示せず)と低速用ギヤ(図示せず)とに対してシフトギヤ(図示せず)を選択的に切換咬合させて高低2段に変速操作するようにした刈取変速装置53を備えており、その刈取変速装置53での変速操作により、駆動速度を高低2段に切換変速可能に構成してある。
【0022】
〔静油圧式無段変速装置関係〕
前記主変速装置を構成する静油圧式無段変速装置4は、アキシャルプランジャ形で、かつ可変容量形の油圧ポンプ41と、この油圧ポンプ41からの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形で、かつ可変容量形の油圧モータ42とを備えている。また、この油圧ポンプ41と油圧モータ42とを連通する閉油圧回路に対してチャージ油を補給するチャージポンプ43を備えている。
【0023】
前記油圧ポンプ41は、図4及び図5に示す主変速レバー22の操作に連動して斜板角を変更するように構成してあり、中立位置Nを挟んでその両側に前進操作域Fと後進操作域Rを振り分け配置した状態に設けられ、主変速レバー22の前後方向での押し引き操作によって、前進側における無段階での高低変速、並びに後進側における無段階での高低変速と、中立停止位置とに変速操作自在に構成されている。
【0024】
前記油圧モータ42は、前記油圧ポンプ41の容量の1倍以上の容量を有する可変容量形の油圧モータに構成してある。これにより、油圧モータ42は、油圧ポンプ41と直列に並び合った状態で走行用伝動系に設けられ、副変速装置としての機能を有しており、この油圧モータ42の斜板角の変更操作が行なわれることにより、エンジン14からの駆動力を、油圧ポンプ41による主変速に加えて副変速して左右の走行装置11,11の駆動系に伝達するようになっている。
【0025】
図3に示すように、前記油圧モータ42は、その斜板角の変更操作を、単動シリンダ45で行うように構成してある。この単動シリンダ45は、作動ピストン46の一側に圧油が供給される受圧室45aを備え、前記作動ピストン46の他側に復帰用スプリング46aが内装された外部開放室45bを備えている。
前記受圧室45aには、前記チャージポンプ43からの圧油供給路rが接続されており、そのチャージポンプ43からの圧油供給路rには、前記チャージポンプ43からの圧油供給圧を制御する一個の比例減圧弁47が設けられている。
【0026】
前記比例減圧弁47は、前記チャージポンプ43からの供給圧を一次側圧とし、二次側圧を前記単動シリンダ45に供給するように構成してあるものであるが、その二次側圧は次のように設定されている。
図3に示すように、比例減圧弁47自体は、一次側圧を減圧せずに全圧を二次側に供給する全開位置aと、減圧して二次側に供給する減圧位置bとにわたって切換制御されるように構成されている。
そして、この比例減圧弁47による二次側の圧は、前記油圧モータ42が中立位置へ戻ろうとする傾転トルクと単動シリンダ45の伸縮範囲の中間位置における復帰用スプリング46aの復帰付勢力との総和による復帰力に対してバランスする程度の圧に設定された標準圧と、前記復帰用スプリング46aの復帰付勢力に打ち勝って単動シリンダ45の作動ピストン45を収縮側のストロークエンドまで押し込み操作する最大圧と、前記復帰用スプリング46aの復帰付勢力に負けて単動シリンダ45の作動ピストン46を伸長側のストロークエンドまで伸長操作する程度の最小圧とに設定変更可能に構成されている。
【0027】
〔変速制御系〕
上記静油圧式無段変速装置の油圧ポンプ41、及び油圧モータ42の作動を制御するための変速制御系は、次のように構成されている。
図4に示すように、運転部2における操縦席20の横側方箇所の操縦パネル21上に形成したガイド溝21Aに案内されて機体前後方向に揺動操作するように構成した主変速レバー22を設けてある。また、この主変速レバー22には、そのグリップ22aの上部箇所に、指操作式の第1押しボタンスイッチ23を設けてあり、前記主変速レバー22が設けられている箇所の横側方における操縦パネル21上に、第2押しボタンスイッチ24を設けてある。
【0028】
図4及び図5に示すように、主変速レバー22は、中立位置Nと、その前後に振り分け配置された前進域Fと後進域Rとにわたって無段階に変速操作でき、その主変速レバー22の揺動作動による操作位置が図示しない機械的連係機構を介して静油圧式無段変速装置4に伝達され、静油圧式無段変速装置4の油圧ポンプ41の斜板角が変更操作されて変速が行われるように構成されている。
【0029】
前記主変速レバー22のグリップ22aに設けられた指操作式の第1押しボタンスイッチ23と、前記操縦パネル21上に設けられた第2押しボタンスイッチ24とは、それぞれが、押し込み操作でスイッチONとなり、再度の押し込み操作でスイッチOFFとなるように択一切換操作されるように構成してある。
これらの第1,第2押しボタンスイッチ23,24の操作信号は、マイクロコンピュータで構成されている変速制御装置25に入力され、この変速制御装置25側では、油圧モータ42の作動を制御する比例減圧弁47のソレノイド47aに操作信号を出力して、単動シリンダ45の作動を制御して油圧モータ42を変速操作するように構成してある。
【0030】
すなわち、前記主変速レバー22のグリップ22aに設けられた指操作式の第1押しボタンスイッチ23は、油圧モータ42の高速駆動状態と中速駆動状態とを切換操作するための第1操作具を構成するものであり、この第1押しボタンスイッチ23がON操作されると、変速制御装置25が比例減圧弁47を全開位置aに操作し、チャージポンプ43側の常圧を供給して、単動シリンダ45を復帰用スプリング46aに抗して最収縮状態に操作し、油圧ポンプ41を最高速状態に操作する。
前記第1押しボタンスイッチ23を再度押し込み操作してOFF状態に切り換えると、変速制御装置25が比例減圧弁47を減圧位置bに操作するように比例減圧弁47のソレノイド47aに操作信号を出力し、単動シリンダ45側の復帰用スプリング46aの復帰付勢力と油圧モータ42自体の中立復帰側への傾転トルクとの総和が、単動シリンダ45の中間位置でバランスするように、減圧による二次圧を設定してある。
つまり、この第1押しボタンスイッチ23が、油圧モータ42の速度を、路上での走行に適した高速走行域と圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域とを択一的に切換操作するための第1操作具を構成するものである。
【0031】
前記操縦パネル21上に設けられた第2押しボタンスイッチ24は、油圧モータ42の中速駆動状態と低速駆動状態とを切換操作するための第2操作具を構成するものであり、この第2押しボタンスイッチ24がON操作されると、変速制御装置25が比例減圧弁47を減圧位置bで全閉状態に操作し、チャージポンプ43側からの圧油供給を停止もしくはごく少量に制限する。この状態では単動シリンダ45は復帰用スプリング46aの付勢力と中立復帰側への傾転トルクとによって最伸長状態に操作され、油圧モータ42を低速状態に操作する。
前記第2押しボタンスイッチ24を再度押し込み操作してOFF状態に切り換えると、変速制御装置25が比例減圧弁47を所定の減圧位置bに操作するように比例減圧弁47のソレノイド47aに操作信号を出力し、単動シリンダ45側の復帰用スプリング46aの復帰付勢力と油圧モータ42自体の中立復帰側への傾転トルクとの総和が、単動シリンダ45の中間位置でバランスするように、減圧による二次圧を設定してある。
つまり、この第2押しボタンスイッチ24が、油圧モータ42の速度を、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを択一的に切換操作するための第2操作具を構成するものである。
【0032】
そして、前記変速制御装置25では、前記第1押しボタンスイッチ23と第2押しボタンスイッチ24との両方が、油圧モータ42を前記中速走行域に操作した状態であるときにだけ、第1押しボタンスイッチ23と第2押しボタンスイッチ24とによる高速域側への切換操作、もしくは、低速域側への切換操作を実行するように比例減圧弁47のソレノイド47aに操作信号を出力し、それ以外のとき、つまり前記第1押しボタンスイッチ23と第2押しボタンスイッチ24とのうちの何れかが高速域側、もしくは、低速域側へ操作されている状態では、第1押しボタンスイッチ23と第2押しボタンスイッチ24とによる高速域側への切換操作、もしくは、低速域側への切換操作が行われても、これを無視して比例減圧弁47のソレノイド47aに対して切換操作信号を出力しないように構成してある。
したがって、前記第1押しボタンスイッチ23と第2押しボタンスイッチ24とのうちの何れかが高速域側、もしくは、低速域側へ操作されている状態では、その高速域側、もしくは、低速域側へ操作されている第1押しボタンスイッチ23もしくは第2押しボタンスイッチ24を一旦、中立状態に戻し操作し、その後に目的の高速域側、もしくは、低速域側へ操作すればよい。
【0033】
前記第2押しボタンスイッチ24が低速走行域に切換操作されると、これに伴って刈取り前処理部3の駆動系における刈取変速装置53が高速側に変速操作されるように、前記変速制御装置25から刈取変速装置53が備える切換弁のソレノイド47aに対して、高速側への切換指令を出力するように構成されている。
この変速制御装置25からの出力信号は、刈取変速装置53のシフト操作用シリンダ(図外)に対して圧油を供給してシフトギヤ(図外)を高速側へ操作するように、圧油給排用の切換弁のソレノイド47aをON/OFF操作して、圧油の給排を行うように構成されている。
【0034】
〔別実施形態の1〕
上記最良の実施形態では、主変速レバー22と油圧ポンプ41との連係作動を機械的な連係機構で行い、各押しボタンスイッチ23,24と油圧モータ42との連係を比例減圧弁47や単動シリンダ45を介して行うようにした構成を示したが、これに限らず次のように構成してもよい。
【0035】
図6に示すように、主変速レバー22は、中立位置Nと、その前後に振り分け配置された前進域Fと後進域Rとにわたって無段階に変速操作でき、その主変速レバー22の操作位置がポテンショメータ26で検出され、マイクロコンピュータで構成されている変速制御装置25に対して、前記操作位置の検出信号が入力されるように構成してある。
静油圧式無段変速装置4の油圧ポンプ41の斜板操作軸(図示せず)に電動式の主変速モータ27を連動させて、この主変速モータ27によって油圧ポンプ41を変速操作するように構成し、変速制御装置25では、前記主変速レバー22から入力された操作位置の検出信号に基づいて電動式の主変速モータ27を正逆転制御し、静油圧式無段変速装置4の油圧ポンプ41の斜板角を変更操作して変速するように構成されている。
そして、前記油圧モータ42の斜板操作軸(図示せず)に電動式の副変速モータ28を連動させて、主変速レバー22に設けた第1押しボタンスイッチ23と、操縦パネル側に設けた第2押しボタンスイッチとの操作により、変速制御装置25から電動式の副変速モータ28に制御信号を出力し、前記副変速モータ28によって油圧モータ42を変速操作するように構成してある。
【0036】
〔別実施形態の2〕
押しボタンスイッチ23,24としては、最良の実施形態で示したように押し込み操作の都度、高速と中速、もしくは中速と低速とが切り替わる構造のものに限らず、例えば、高速用と中速用、及び中速用と低速用とを別々の押しボタンスイッチで構成するようにしてもよい。
【0037】
〔別実施形態の3〕
第1操作具と第2操作具とを構成するにあたり、前述のように押しボタンスイッチ23,24を用いたものに限らず、例えばレバー操作式のスイッチを用いるなどしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】自脱形コンバインの全体側面図
【図2】自脱形コンバインの動力伝達系を示す概略図
【図3】静油圧式無段変速装置の油圧操作回路を示す回路図
【図4】運転部における操縦パネル部分を示す平面図
【図5】静油圧式無段変速装置の制御系を示すブロック図
【図6】別実施形態における静油圧式無段変速装置の制御系を示すブロック図
【符号の説明】
【0039】
2 運転部
4 静油圧式無段変速装置
11 走行装置
14 エンジン
21 操縦パネル
22 主変速レバー
23 第1押しボタンスイッチ
24 第2押しボタンスイッチ
25 変速制御装置
41 油圧ポンプ
42 油圧モータ
45 単動シリンダ
47 比例減圧弁
47a ソレノイド
a 全開位置
b 減圧位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側から入力された動力を、変速して走行装置側に出力するための静油圧式無段変速装置を備えたコンバインであって、
前記静油圧式無段変速装置を構成する油圧ポンプと油圧モータとを、ともに可変容量型に構成し、
前記油圧ポンプによる変速操作で機体の前後進を無段変速で行うように構成するとともに、
前記油圧モータによる速度制御域に、路上での走行に適した高速走行域と、圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域と、前記中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域とを設定し、
前記高速走行域と中速走行域とを択一的に切換操作する第1操作具と、前記中速走行域と低速走行域とを択一的に切換操作する第2操作具とを、各別に操作自在に備えたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
第2操作具が低速走行域に切換操作されると、これに伴って刈取り前処理部の駆動系における刈取変速装置を高速に変速する操作手段を備えた請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
第1操作具は、静油圧式無段変速装置の油圧ポンプを変速操作する変速操作レバーのグリップに設けてあり、第2操作具は操縦パネルに設けてある請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
静油圧式無段変速装置は、油圧モータに対する斜板角の変更操作を、受圧室に供給された圧油の操作力で斜板を高速出力側へ傾動操作する単動シリンダと、前記圧油の供給に伴って収縮し、圧油の排出に伴って単動シリンダを低速出力側へ復帰付勢する復帰用スプリングとを備え、
前記単動シリンダの受圧室内への圧力供給油路に比例減圧弁を設けて、前記単動シリンダが復帰用スプリングを収縮限度まで圧縮した高速出力位置と、前記受圧室内の圧油が排出されて前記復帰用スプリングが伸長した低速出力位置との中間箇所に、前記復帰用スプリングの伸縮範囲の中間位置における復帰付勢力と釣り合う圧油を供給して中間速出力位置が設定されるように構成してあり、
油圧モータの高速出力位置が路上での走行に適した高速走行域であり、中間速出力位置が圃場での植立茎稈の刈取作業に適した中速走行域であり、低速出力位置が前記中速走行域での走行速度よりも低速で倒伏茎稈の刈取作業に適した低速走行域に設定してある請求項1〜3のいずれか1項記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−46018(P2010−46018A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213089(P2008−213089)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】