説明

コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルト

【課題】補強層の縦糸に汎用のポリエステル繊維を用いた場合であっても、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んだ際に損傷しにくく、ベルト使用時の伸びを抑えることを可能にしたコンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトを提供する。
【解決手段】合成繊維織物からなる補強層2a、2bの縦糸3を、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上であるポリエステル繊維とし、接着液処理を行なう工程の最終熱処理ゾーンで、この補強層2a、2b(合成繊維織物)に対して縦糸方向に0.05cN/dtex以上0.07cN/dtex以下のテンションを負荷し、次いで、補強層2a、2bの上下にそれぞれ上カバーゴム層5、下カバーゴム層6を積層して加硫する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトに関し、さらに詳しくは、補強層の縦糸に汎用のポリエステル繊維を用いた場合であっても、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んだ際に損傷しにくく、ベルト使用時の伸びを抑えることを可能にしたコンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンベヤベルトの合成繊維織物からなる補強層には、ナイロン繊維またはポリエステル繊維の織物が用いられている。このような補強層は、ベルトによる搬送物等の異物がベルトとプーリとの間に噛み込まれると異常変形して損傷し易く、また、変形程度の小さな異常変形であっても、繰返して生じることにより疲労によって強度が低下するため耐久性に欠けるという問題があった。また、ベルトの使用によって生じる経時的な伸びが大きいために、メンテナンスが面倒であるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するため、補強層の縦糸として、切断伸度25%以上の高伸度ポリエステル繊維を用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような高伸度ポリエステル繊維は、汎用のポリエステル繊維よりも切断強度が低くなるという問題があり、また、特別仕様になるため入手しにくくコスト高になるという問題があった。そのため、補強層の縦糸として汎用のポリエステル繊維を用いながら、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んだ際に損傷しにくく、ベルト使用時の伸びを抑えることができるコンベヤベルトおよびその製造方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平9−183505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、補強層の縦糸に汎用のポリエステル繊維を用いた場合であっても、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んだ際に損傷しにくく、ベルト使用時の伸びを抑えることを可能にしたコンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトの製造方法は、所定温度で接着液処理した合成繊維織物からなる補強層の上下にカバーゴム層を積層して成形したベルト成形品を加硫するコンベヤベルトの製造方法において、前記合成繊維織物の縦糸を、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上であるポリエステル繊維とするとともに、前記接着液処理を行なう工程の最終熱処理ゾーンで、前記合成繊維織物に縦糸方向に0.05cN/dtex以上0.07cN/dtex以下のテンションを負荷するようにしたことを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明のコンベヤベルトは、合成繊維織物からなる補強層の上下にカバーゴム層を積層したコンベヤベルトにおいて、前記合成繊維織物の縦糸が、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上であるポリエステル繊維であり、コンベヤベルト製造後に、前記合成繊維織物の切断伸度が25%以上35%以下、かつ、該合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びが2.0%以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、合成繊維織物からなる補強層の縦糸として、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上である汎用のポリエステル繊維を用いて、接着液処理を行なう工程の最終熱処理ゾーンで、合成繊維織物に縦糸方向に0.05cN/dtex以上0.07cN/dtex以下のテンションを負荷することにより、製造したコンベヤベルトの合成繊維織物の切断伸度を25%以上35%以下、かつ、この合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びを2.0%以下にすることが可能になる。これにより、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んだ際に、補強層に一時的な大きな引張り応力が生じても、十分大きな切断伸度を有するのでベルトが損傷しにくくなる。
【0008】
また、ベルトの通常使用状態に近い荷重時ではベルトの伸びが小さくなるので、経時的なベルトの切り詰めが不要になりメンテナンス性を向上させることができる。ベルトのテークアップ装置のストロークを小さくできるので、テークアップ装置が小型化できるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のコンベヤベルトの製造方法およびコンベヤベルトを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1、図2に例示するように本発明のコンベヤベルト1は、合成繊維織物からなる補強層2a、2bを心体として、この2層の補強層2a、2bを上カバーゴム層5および下カバーゴム層6により挟んだ積層構造になっている。コンベヤベルト1は、その他、接着ゴムからなる中間ゴム層等、他の構成要素が適宜追加されて構成される。上カバーゴム層5、下カバーゴム層6としては、少なくとも天然ゴムを含むジエン系ゴムからなり、カーボンブラックなどによって耐摩耗性を良好にしたゴム組成物が用いられる。
【0011】
2層の補強層2a、2bはそれぞれ同じ仕様なので、代表して上側の補強層2aを例にして説明する。補強層2aは図2に例示するように平織り構造で、縦糸3は、汎用のポリエステル繊維から形成されており、その原糸物性は、切断伸度が18%以下、切断強度が7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力が0.08cN/dtex以上の仕様になっている。常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力とは、常温にてほぼ無負荷で張設した所定長さの縦糸3を、200℃の環境下で1分間保持した際に縦糸3に生じる収縮応力である。
【0012】
横糸4は、汎用のポリエステル繊維または汎用のナイロン繊維から形成され、切断伸度は例えば、ポリエステル繊維の場合は14%〜18%程度、ナイロン繊維の場合は19%〜23%程度である。縦糸3と横糸4とは同じ材質(仕様)にすることもでき、異なる材質(仕様)にすることもできる。
【0013】
このコンベヤベルト1における合成繊維織物の切断伸度は25%以上35%以下であり、かつ、合成繊維織物の切断強度の10%荷重(引張荷重)時の伸びは2.0%以下になっている。
【0014】
このコンベヤベルト1の製造方法は以下のとおりである。
【0015】
まず、補強層2a、2bに対して所定温度で接着液処理を施す。この接着液処理工程では、補強層2a、2bを接着液が貯留された接着液槽にディッピングした後、乾燥ゾーン(125℃〜150℃程度)を通過させて接着液中の不要な成分を蒸発させ、続いて、より高温の最終熱処理ゾーンを通過させる。
【0016】
本発明では、この最終熱処理ゾーンにおいて処理中の補強層2a、2bに縦糸3方向に0.05cN/dtex以上0.07cN/dtex以下のテンションを負荷する。本願発明者らは、最終熱処理ゾーンにおけるテンション条件が、コンベヤベルト1を製造した後の合成繊維織物の切断伸度および合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びに大きく影響することを見出し、種々の検討の結果、上記のテンション条件にすることにより、最終熱処理ゾーンにおいて縦糸3の収縮量が適度に調整されてコンベヤベルト1の合成繊維織物の切断伸度および合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びを、所定の適切な範囲にすることを可能にしている。
【0017】
最終熱処理ゾーンにおける補強層2a、2bに対する縦糸3方向のテンションが0.05cN/dtex未満であると、コンベヤベルト1の合成繊維織物の切断伸度および合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びが大きくなる傾向になり、特に、合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びを2.0%以下にすることが困難になる。また、0.05cN/dtex未満のテンションを負荷しようとすると、テンション装置の調整が非常に難しくなり加工性を低下させる要因となる。一方、このテンションが0.07cN/dtex超えると、コンベヤベルト1の合成繊維織物の切断伸度が低下し25%以上を確保することが困難になる。
【0018】
また、縦糸3について言えば、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力が、0.08cN/dtex未満であると、最終熱処理ゾーンにおけるテンションを0.05cN/dtex未満に設定しなければ、コンベヤベルト1の合成繊維織物の切断伸度が低下して25%以上を確保することが困難になり、さらに、最終熱処理ゾーンにおけるテンションを0.05cN/dtex未満に設定しても切断強度が低下し、テンション装置の調整が非常に難しくなり加工性を低下させる要因となる。
【0019】
最終熱処理ゾーンの温度は、200℃以上240℃以下が好ましく、この温度範囲に設定することにより、縦糸3の収縮量が一段と安定し、所定の適度な合成繊維織物の切断伸度および合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びが得られ易くなり、また、良好な接着性を確保することができる。
【0020】
次いで、このように接着液処理を施した補強層2a、2bの上下にそれぞれ上カバーゴム層5、下カバーゴム層6を積層してベルト成形品を成形する。このベルト成形品を金型にセットして所定温度および圧力で所定時間加硫してコンベヤベルト1が完成する。
【0021】
このように製造されたコンベヤベルト1は、補強層2a、2bの縦糸3が汎用のポリエステル繊維でありながら、合成繊維織物の切断伸度を25%以上35%以下にすることが可能になる。このように合成繊維織物が十分な切断伸度を有しているので、コンベヤベルト1の稼動中に、ベルトとプーリとの間に異物を噛み込んで補強層2a、2bに一時的に過大な引張り応力が生じても、補強層2a、2bが切断する等の不具合を回避でき、コンベヤベルト1の損傷を防ぐことができる。
【0022】
また、合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びを2.0%以下にすることも可能になるので、コンベヤベルト1の通常使用状態に近い荷重時(テンション条件)ではベルトの伸びが小さく抑えることができる。したがって、経時的にベルトを切り詰める必要がなくなるのでメンテナンス性が向上する。また、ベルトのテークアップ装置のストロークが小さくて済み、テークアップ装置を小型化することができる。
【0023】
コンベヤベルト1に埋設する補強層2a、2bは2層に限定されることはなく、1層であっても、3層以上であってもよい。また、補強層2a、2bの織構造は、平織りに限らず、ハーフマット織、ユニコン織であってもよい。
【実施例】
【0024】
図1に例示した同様の構造で、上ゴム層3mm、下ゴム層2mm間に平織り構造の補強層を2層積層しベルト幅350mmにしたことを共通条件として、表1に示すように、補強層の仕様、接着液処理工程における最終熱処理ゾーンのテンション条件を変えた所定長さの試験サンプルを11種類(実施例1〜4、比較例1〜7)作製した。表1中の縦糸の材質PET(A)、PET(B)は、それぞれ種類の異なる汎用のポリエステルを示し、PET(C)は特別仕様の高強力ポリエステル、PET(D)は特別仕様の高伸度ポリエステルを示している。尚、補強層を構成する合成繊維織物の横糸は、すべての試験サンプルで共通にしてナイロン66とした。
【0025】
縦糸の切断強度と切断伸度の測定は、JIS L1017に準拠して行ない、定速伸長形の引張試験器を用いて、つかみ間隔を25cmにして撚り数が変わらないようにして初期荷重を負荷して引張速度30cm/minの条件により測定した値である。また、表1中の縦糸の原糸物性の収縮応力とは、常温にてほぼ無負荷で張設した長さ25mmの縦糸を、200℃の環境下で1分間保持した際に縦糸に生じる収縮応力である。
【0026】
この11種類の試験サンプルに対して、合成繊維織物の切断強度、合成繊維織物の切断伸度、合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸度を測定するとともに、耐噛み込み性、コストを評価した。その結果は表1に示すとおりである。
【0027】
[強度試験]
合成繊維織物の切断強度、切断伸度、切断強度の10%荷重時の伸度の測定はJIS K6322に準拠して行ない、定速伸長形の引張試験器を用いて、所定のつかみ間隔で引張速度100mm/minの条件により測定した。
【0028】
[耐噛み込み性]
各試験サンプルを駆動プーリ(直径600mm)とエンドプーリ(直径600mm)の間に合成繊維織物の切断強度の10%荷重のテンションで張設し、ベルト速度150m/minで走行させた際に、駆動プーリとベルトの間に突起高さ45mmの異物を噛み込ませ、噛み込み走行後の試験サンプルの合成繊維織物の切断強度を測定した。そして、噛み込み走行前の合成繊維織物の切断強度に対する噛み込み走行後の合成繊維織物の切断強度の低下率を算出し、この低下率が10%以上の場合を、異物噛み込みによって合成繊維織物の切断強度の低下が大きく耐噛み込み性が悪いと評価して×で示し、低下率が10%未満の場合を耐噛み込み性が良好であると評価して○で示した。
【0029】
[コスト]
縦糸に汎用ではない高強力ポリエステル繊維或いは高伸度ポリエステル繊維を用いた場合を高コストであると評価して×で示し、汎用繊維を用いた場合を通常コストであると評価して○で示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果より、本発明の実施例では、合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸度が2.0%以下の範囲になってベルト使用時の伸びを抑えるには有効であり、かつ、耐噛み込み性およびコストについても優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のコンベヤベルトを例示する断面図である。
【図2】図1のコンベヤベルトの内部構造を例示する一部切欠き斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1 コンベヤベルト
2a、2b 補強層
3 縦糸
4 横糸
5 上カバーゴム層
6 下カバーゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定温度で接着液処理した合成繊維織物からなる補強層の上下にカバーゴム層を積層して成形したベルト成形品を加硫するコンベヤベルトの製造方法において、前記合成繊維織物の縦糸を、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上であるポリエステル繊維とするとともに、前記接着液処理を行なう工程の最終熱処理ゾーンで、前記合成繊維織物に縦糸方向に0.05cN/dtex以上0.07cN/dtex以下のテンションを負荷するようにしたコンベヤベルトの製造方法。
【請求項2】
合成繊維織物からなる補強層の上下にカバーゴム層を積層したコンベヤベルトにおいて、前記合成繊維織物の縦糸が、切断伸度18%以下、切断強度7.5cN/dtex以上、常温から200℃に加熱した際に生じる収縮応力0.08cN/dtex以上であるポリエステル繊維であり、コンベヤベルト製造後に、前記合成繊維織物の切断伸度が25%以上35%以下、かつ、該合成繊維織物の切断強度の10%荷重時の伸びが2.0%以下であるコンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−61742(P2009−61742A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233408(P2007−233408)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】