説明

コンポスト化処理物の腐熟度検定方法、コンポスト製造方法及びコンポスト

【課題】客観的で、短時間で適用可能なコンポスト化処理物の腐熟度検定方法の提供。
【解決手段】コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定することでコンポスト化処理物の腐熟度を検定する方法であって、コンポスト化処理の進行に伴って、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量及び存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量の、少なくともいずれか一方によって判定される生物叢の変化に基づいて、有機物分解の状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポスト化処理物の腐熟度を検定する方法、コンポスト製造方法及びコンポストに関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、下水汚泥及び畜産排泄物等の有機廃棄物は適当な条件下でコンポスト化処理し、土壌還元することによってリサイクルすることが可能である。そのコンポスト化処理の進行状況及びその処理物の品質を表す尺度として、腐熟度という指標がしばしば用いられる。従来のコンポストの腐熟度検定法には、農業従事者などのエキスパートによる、色、臭いや手触り等の経験的判断によるもののほか、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、炭素/窒素比、還元糖割合、塩基置換容量等の理化学分析による方法、円形濾紙クロマトグラフィーやガスセンサーによる方法がある(例えば、非特許文献1参照)。また最近では、コンポスト化処理物の抽出液の吸光度又はフミン物質濃度を測定する方法(例えば、特許文献1参照)、コンポスト処理物を容器内で加温し所定の培養温度に維持し酸素消費にともなう酸素濃度の変化を測定する方法(例えば、特許文献2参照)、コンポスト化処理物から発生するガスの臭い強度を求める方法(例えば、特許文献3参照)等の腐熟度検定方法が開発されてきている。一方、信頼性が高い腐熟度検定法として、実際に植物を栽培することによって検定する生物検定法の一つである幼植物試験法がある。
また、コンポストの製造方法としては、上述した有機廃棄物等を微生物を用いた好気発酵によりコンポスト化処理することで行われるが、その処理期間が長いほど有機物分解が十分に進行し、良好な、すなわち植物に施用したときの効果が高いコンポストになると考えられている。
【非特許文献1】井ノ子昭夫著、「有機物資材の品質とその検定法」、農業および園芸、1982年、第57巻、p.234−242
【特許文献1】特開平09−127003号公報
【特許文献2】特開2003−207502号公報
【特許文献3】特開2004−123441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、腐熟度の検定において、従来からおこなわれてきたエキスパートの経験的判断による方法は客観性に乏しく、誰でも使用できる技術とは云いがたいことに加えて、検定精度も低いという問題があった。また、理化学分析による方法は、腐熟の目安となる目標値の設定が難しい上に、その値はコンポスト化処理物の種類により異なるために、適用可能範囲が狭いものとなっており、分析方法も極めて煩雑なものがあるという問題があった。一方、幼植物試験法はほとんどのコンポスト化処理物に適用できる最も信頼されている評価法であるが、少なくとも数週間の時間と多大な労力がかかるという問題があった。
また、コンポスト化処理が必要以上に長期に及ぶと肥料効果が低下する場合があるという問題点が新たに見出され、的確な腐熟度検定方法によってコンポスト化処理の完了時期を判定するコンポスト製造方法が求められている。
本発明は、客観的で、幼植物試験法の結果と相関し、短時間で検定可能な腐熟度検定方法の提供と、この腐熟度検定方法を用いて検定され、十分に有機物分解が進行し肥料効果が高いコンポストを製造する方法と、その製造方法によって製造される肥料効果が高いコンポストの提供とを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
(1)コンポスト化処理物中の微生物叢の変化に基づいて、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定する工程を含むコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(2)前記微生物叢の変化が、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量と存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の変化である前記(1)に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(3)コンポスト化処理物中の微生物が保有する核酸を抽出する工程と、
抽出された核酸の検出量から、前記第1の微生物の存在量と前記第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の存在量を算出する工程と、
を更に含む前記(2)に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(4)コンポスト化処理物中の微生物が保有する核酸を抽出する工程と、
抽出された核酸に由来する判定用の部分塩基配列から、前記第1の微生物と前記第2の微生物との少なくともいずれか一方を特定する工程と、
を更に含む前記(3)に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(5)配列番号1の塩基配列と97%以上の相同性を示す前記判定用の部分塩基配列から第1の微生物を特定する前記(4)に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(6)配列番号2の塩基配列と97%以上の相同性を示す前記判定用の部分塩基配列から第2の微生物を特定する前記(4)又は(5)に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法である。
(7)コンポスト化処理物中の微生物によってコンポスト化処理物中の有機物を分解処理し、コンポスト化処理物中の微生物叢が変化した時点でコンポスト化処理を終了するコンポスト製造方法である。
(8)前記微生物叢の変化が、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量と存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の変化である前記(7)に記載のコンポスト製造方法である。
(9)前記(7)又は(8)に記載のコンポスト製造方法によって製造されるコンポストである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、客観的で、幼植物試験法の結果と相関し、短時間で検定可能な腐熟度検定方法を提供できる。また、この腐熟度検定方法によって検定された十分に有機物分解が進行し肥料効果が高いコンポストの製造方法及びその製造方法で製造される肥料効果が高いコンポストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の腐熟度検定方法は、コンポスト化処理物中の微生物叢の変化に基づいて、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定する工程を含む。
コンポスト化処理物の腐熟度は、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態と密接な関係にあり、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態はコンポスト化処理物中の微生物叢の変化に反映される。従って、コンポスト化処理物中の微生物叢の変化に基づいて、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定することで、コンポスト化処理物の腐熟度検定が可能となる。
【0007】
本発明におけるコンポスト化処理物とは、有機物、特に有機廃棄物、例えば、生ごみ、下水汚泥、及び/又は畜産排泄物等を、微生物の作用により堆肥化処理、すなわちコンポスト化処理する対象物を意味し、コンポスト化処理中のものとコンポスト化処理完了後のもの(「コンポスト」)とを含む。また、コンポスト化処理とはコンポスト化処理物中の有機物を微生物の作用により分解処理し、コンポスト化処理物を農耕地への施用に適した状態に変化させる工程である。本発明において、コンポスト化処理は有機物の分解がほぼ終了した時期で完了する。これにより、短期間で肥料効果の高いコンポストを製造することができる。また、有機物の分解がほぼ終了した後もコンポスト化処理を継続することによる肥料効果の低下を避けることができる。
コンポスト化処理は、例えば、適当な通気及び撹拌条件下に有機物をある期間貯留して好気性発酵させることにより実施できるが、これに限定されない。
【0008】
コンポスト化処理物は、処理の初期段階では分解されやすい有機物を豊富に含有する。この豊富な有機物が活発に分解されて有機物の量的及び質的変化が著しい期間を経過して、微生物叢が大きく変化していく。その後、分解されやすい有機物が乏しくなると有機物分解速度が低下して微生物叢の変化も小さくなる。このようにコンポスト化処理物中の有機物分解の状態は微生物叢の変化に反映されることになる。ここで微生物叢の変化とは、コンポスト化処理物中に存在する微生物群における、微生物の種類の変化、各微生物の構成比率の変化及び各微生物の存在量の変化等の少なくとも1つの変化を意味する。このような微生物叢の変化は客観的なデータとして比較的短時間で取得することが可能である。従って、微生物叢の変化に基づいてコンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定することで、コンポスト化処理物の腐熟度を客観的に短時間で検定することができ、その検定結果は幼植物試験と相関したものとなる。
【0009】
前記微生物叢の変化は、コンポスト化処理物中の特定の微生物に着目し、その特定の微生物の存在量変化として捉えることができる。特定の微生物としては、その存在量が有機物分解の状態を反映しうる微生物であることが好ましい。例えば、コンポスト化処理の進行に伴って、その存在量が経時的に減少する第1の微生物(以下、微生物Bと略記することがある)、及び、その存在量が経時的に増加する第2の微生物(以下、微生物Cと略記することがある)の少なくともいずれか一方であることが好ましい。これらの第1の微生物及び第2の微生物は、それぞれ単一種であってもよく複数種であってもよい。
【0010】
経時的に存在量が減少又は増加する微生物は、例えば、コンポスト化処理物から経時的にサンプルを採取し、採取したサンプル中に存在する微生物群を培養法によって微生物の種類ごとに分離し各微生物の存在量を算出する方法や、採取したサンプル中の微生物が保有する核酸を分離分析することで各微生物の存在量を算出する方法によって、特定することができ、同時にその存在量も算出できる。
【0011】
本発明における有機物分解の状態は、コンポスト化処理物中の、第1の微生物の存在量と第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の存在量に基づいて判定することが好ましい。
2種以上の微生物を判定に用いる場合には、2種以上の第1の微生物、2種以上の第2の微生物及び少なくとも1種の第1の微生物と少なくとも1種の第2の微生物、のいずれであってもよい。
特に、微生物叢の変化の判定を容易にする観点から、少なくとも1種の第1の微生物の存在量と少なくとも1種の第2の微生物の存在量との双方を用いて有機物分解の状態を判定することが好ましい。
【0012】
コンポスト化処理の完了は、第1の微生物及び第2の微生物の出現又は消滅に基づいて判定することができる。
例えば、第1の微生物のうちでも、有機物が活発に分解されている期間に出現、増殖し、活発な有機物分解が終息するときにほぼ消滅する第1の微生物を特定し、その微生物がほぼ消滅する時をもってコンポスト化処理の完了時と判定することができる。
また、第2の微生物のうちでも、有機物が活発に分解されている期間にはほとんど検出されることなく、活発な有機物分解が終息した後に出現、増殖する第2の微生物を特定し、その微生物が出現する時をもってコンポスト化処理の完了時と判定することができる。
更に、上記第1の微生物が減少し第2の微生物が増加する入れ替わりの時期をもってコンポスト化処理の完了時と判定することができる。特にこの場合、第1の微生物の第2の微生物に対する存在量比率をとることで、両微生物の絶対的な存在量に拠ることなく相対値として容易に判定することができる。前記存在量比率が好ましくは0.8〜5である場合に、より好ましくは1〜3である場合に入れ替わりの時期であると判定することができる。
【0013】
上記第1の微生物及び第2の微生物は、コンポスト化処理対象物が、蛋白質が豊富な基質(例えば、ドッグフード)の場合であっても、繊維質が豊富な基質(例えば、ラビットフード)の場合であっても、それぞれ同一の微生物である場合がある。このような場合には、あらかじめ特定した第1の微生物及び第2の微生物を標準品とすることで、種々の基質からなるコンポスト化処理物について、経時的なサンプル採取に拠らずにコンポスト化処理物中の有機物分解の状態を容易に判定することができる。
【0014】
本発明の腐熟度検定方法においては、検定の精度、再現性及び迅速性等の観点から、微生物の存在量を微生物由来の核酸を分離分析する方法によって算出することが好ましい。前記微生物由来の核酸を分離分析する方法は、コンポスト化処理物中の微生物が保有する核酸を抽出する工程と、抽出された核酸の検出量から上記第1の微生物の存在量と第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方を算出する工程を含むことが好ましい。微生物の存在量を算出することによって、その経時的な変化及び微生物叢の変化がわかり、コンポスト化処理物の腐熟度を検定することができる。
【0015】
本発明における前記核酸を抽出する工程は、コンポスト化処理物から微生物を回収する工程と、回収した微生物から微生物が保有する核酸を抽出する工程とを含むことが好ましい。
コンポスト化処理物から微生物を回収する方法としては、適当量のコンポスト化処理物を採取し、これに適当量の溶媒を添加して懸濁し、微生物以外の夾雑物を除去した後、微生物を回収する方法を挙げることができる。
微生物の回収に使用するコンポスト化処理物の採取量は特に制限はないが、後述するDNA断片増幅工程で増幅可能な量のDNAを回収できる量であることが好ましい。
【0016】
本発明において、採取したコンポスト化処理物を懸濁する溶媒としては、水、又は、有機塩及び/又は無機塩の水溶液を用いることができる。溶媒の具体例としては、滅菌水、生理食塩水及びリン酸緩衝液等を挙げることができる。核酸の回収が容易であるという観点から、滅菌水を用いることが好ましい。
懸濁に用いる溶媒の添加量としては、採取したコンポスト化処理物1質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、6〜12質量部がより好ましく、9質量部が特に好ましい。100質量部以下とすることで核酸の回収量が向上する。また5質量部以上とすることで抽出操作が容易になる。
【0017】
コンポスト化処理物を溶媒に懸濁する方法としては、通常のマグネティックスターラ、ボルテックスミキサー及びホモジナイザ等を用いる方法を挙げることができる。特に、高速回転が可能なホモジナイザを用いることが好ましい。ホモジナイザを用いることで核酸の回収量が向上する。ホモジナイザを用いる条件としてはコンポスト化処理物中の微生物をコンポスト化処理物から溶媒中へと分離できる条件であれば特に限定されない。例えば10000rpmで10分間ホモジナイズ処理することが好ましい。
懸濁液から微生物以外の夾雑物を除去する方法としては、濾過や遠心分離等を挙げることができる。特に核酸回収量と作業効率の観点から遠心分離が好ましい。遠心分離の条件としては、懸濁液から微生物以外の夾雑物を除去することができる限り特に限定されない。例えば、1〜10℃、2000〜5000rpmで0.5〜3分間遠心分離することが好ましく、4℃、3000rpmで1分間遠心分離することがより好ましい。懸濁液から微生物以外の夾雑物を遠心分離によって除去した後に、上清を回収することでコンポスト化処理物中の微生物を効率よく回収することができる。
【0018】
回収した微生物から核酸を抽出する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、D. N. Miller, et al., Appl. Envirn. Microbiol., vol.65, p4715(1999)や、P. Chomczynsli, et al., Anal. Boichem., vol.162, p156(1987)などに記載の方法に従って微生物が保有する核酸を抽出することができる。具体的には、酵素や界面活性剤等を加えて溶菌した後、蛋白質及び脂肪を除去し、得られた上清にエタノールを添加することで核酸を回収することができる。
また、回収した核酸は適当なカラム等を用いる公知の方法で精製することが好ましい。
【0019】
本発明における、核酸の検出量から微生物の存在量を算出する方法としては、抽出した核酸量を定量し、これを微生物存在量とする方法を挙げることができる。抽出した核酸量を定量する方法としては、抽出した核酸を構成する塩基配列の一部の領域を鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってDNA断片を取得する工程と、取得したDNA断片をゲル電気泳動に適用して電気泳動図を得る工程とによってDNA検出量を定量する方法を挙げることができる。
【0020】
本発明においては、抽出した核酸を構成する塩基配列の一部の領域を鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってDNA断片を取得する工程を含むことが好ましい。抽出した核酸がDNAの場合にはこれを鋳型として、又、抽出した核酸がRNAの場合には逆転写酵素を用いてcDNAを得てこれを鋳型として、PCR法で増幅してDNA断片を取得することができる。
前記塩基配列の一部の領域は、微生物に特徴的な遺伝子領域を判定用の部分塩基配列として含むことが好ましい。微生物に特徴的な遺伝子領域を用いることで微生物の特定が容易になる。また、前記遺伝子領域の塩基配列をあらかじめ決定しておくことで、経時的な測定に拠ることなく微生物叢の変化を反映する微生物を特定することができ、その微生物の存在量を算出することでコンポスト化処理物の腐熟度を検定することができる。
微生物叢の変化を反映する微生物を、あらかじめ決定しておいた塩基配列によって特定する場合、検出感度と精度の観点から、あらかじめ決定しておいた塩基配列と前記判定用の部分塩基配列との相同性が97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。相同性が97%以上であることにより類縁関係がある微生物である可能性が高くなる。更に相同性が99%以上であることにより同種の微生物である可能性が高くなる。
【0021】
本発明における前記微生物に特徴的な遺伝子領域としては、16S rRNA領域を挙げることができるが、これに限定されない。16S rRNA領域は、増幅条件がよく研究されており、また多くの微生物についてその塩基配列のデータベース(例えば、日本DNAデータバンクやGenBank)が整っていることからその後の解析が容易になる。
本発明においては、16S rRNA領域の一部を増幅することが好ましい。16S rRNA領域の一部を増幅することで、増幅時のエラーを少なくすることができる。また、増幅後のゲル電気泳動で鮮明な像を得ることができる。更に、ゲル電気泳動後にDNAを抽出して塩基配列を決定する場合に配列決定装置で容易に決定することができる。
【0022】
16S rRNA領域の一部としてはV3領域が好ましい。V3領域は種に特徴的な塩基配列部分であることから、V3領域の塩基配列を決定し上述のデータベースと照らし合わせることで、微生物の種を特定することができる。
上記V3領域を鋳型としてDNA断片を増幅するには、公知のプライマー対を用いることができる。また、後述するゲル電気泳動で異なる塩基配列を有するDNA断片の分離を容易にするために、プライマーにはGCクランプを設けることが好ましい。具体的には、GC−357F(配列番号3)と517R(配列番号4)のプライマー対(表1)を用いることが好ましい。
【0023】
【表1】

【0024】
PCR法によるDNA断片の増幅は、公知の方法を用いることができ、例えば、Muyzer, G. et al., Applied and Environmental Microbiology, 59, p695-700(1993)に記載の方法に従ってDNA断片を取得することができる。適当な温度、時間に維持しながら、変性、アニール、伸長を適当なサイクル数繰り返すことでDNA断片を増幅することができる。解析に十分な量のDNA断片を取得する観点と、非特異的産物を抑制する観点から、サイクル数は20〜40であることが好ましく、30程度であることがより好ましい。
また、アニ−リング温度は増幅サイクルが増すにしたがって温度を低下させるタッチダウン法を用いることが好ましい。タッチダウン法を用いることでPCR法の特異性を高めることができる。
【0025】
本発明においては、例えば、上記工程で取得したDNA断片をゲル電気泳動に適用して電気泳動図を取得し、これを解析する工程によって、前記第1の微生物及び第2の微生物の存在量を算出することができる。
DNA断片をゲル電気泳動に適用することで、異なる塩基配列を有するDNA断片を分離することができる。これにより異なる塩基配列のDNA断片を有する微生物毎に異なるDNAバンドとして分離することができる。また、電気泳動図を得る工程によってDNAバンドを可視化、DNA検出量を定量することができる。
本発明におけるゲル電気泳動としては、検出感度の観点から、温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)法や変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法を用いることが好ましく、DGGE法を用いることがより好ましい。DGGE法でゲル電気泳動することにより、V3領域の約160塩基対のうち1塩基対の相違であってもDNAバンドとして分離することができ、異なる微生物として識別することができる。また、既知の微生物のDNA断片の移動度と比較することにより未知試料中の当該微生物の存在量を推定できる。
【0026】
DGGE法においては、2本鎖DNAを開裂させる変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中でDNA混合物を電気泳動する。このときポリアクリルアミドゲルの濃度勾配を更に設けてもよい。塩基配列に由来する2本鎖DNAの安定性の違いにより、部分的に1本鎖に解離する変性剤の濃度(ゲル上の位置)が異なる。部分的に解離したDNAはゲル中を進む速度が極端に遅くなるので混合物を分離することができる。
【0027】
本発明におけるDGGE法では、ポリアクリルアミドゲルの濃度勾配を更に設けることが好ましく、その濃度勾配の下限値が5〜8質量%であることが好ましく、6質量%であることがより好ましい。また、上限値が10〜14質量%であることが好ましく、12質量%であることがより好ましい。
変性剤としてはホルムアミド及び尿素を用いることが好ましい。また、変性剤の濃度勾配としては、40質量%ホルムアミドと7モル/L尿素の混合物を100質量%変性剤とした場合に、その下限値が0〜40質量%であることが好ましく、0質量%がより好ましい。また、その上限値は60〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0028】
電気泳動図は、電気泳動後のゲルに通常のエチジウムブロミドによる染色を行い、紫外線を照射して、各DNAバンドのDNA量を蛍光輝度として視覚化する方法で得ることができる。電気泳動図上のDNAバンドの輝度を定量化することで、特定の微生物由来のDNA検出量を算出することができる。
【0029】
本発明の腐熟度検定方法においては、コンポスト化処理中に、経時的にコンポスト化処理物からサンプルを採取し、各サンプルについて上述の微生物由来の核酸を分離分析する工程によって、異なる微生物由来のDNAバンドを異なるDNAバンドとして視覚化し、その輝度の経時的変化を測定することで、コンポスト化処理物中の存在量が経時的に減少する微生物及び存在量が経時的に増加する微生物を特定することができる。
【0030】
ゲル電気泳動によって分離された各微生物由来のDNA断片は、それぞれのDNAバンドを切り出してDNA断片を抽出することで得ることができる。得られたDNA断片は、必要に応じてPCR法による増幅、精製した後に、市販の塩基配列決定装置によってその塩基配列を決定することができる。
一例として、微生物Bの1種(配列番号1)及び微生物Cの1種(配列番号2)を各々特定可能な塩基配列を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
決定した塩基配列を有するDNA断片(オリゴヌクレオチド)を標準品とすることで、コンポスト化処理物中の微生物叢の変化を容易に捉えることができる。また、前記塩基配列と、局所的に高い類似性を有する既知微生物のDNA塩基配列を検索することで微生物の種を同定することができる。
更に、PCR法によってDNA断片を取得する工程において、特定の微生物に対する特異的なプライマー対を用いることで、多くの種類の微生物が混在するコンポスト化処理物中から、特定の微生物の存在量を比較することが容易となり、さらに容易に腐熟度を検定することができる。
【0033】
本発明の腐熟度検定方法は、基質(コンポスト化処理対象物)の投入方法によって制限されない。このため基質の追加投入を行わない回分操作及び逐次的に基質を投入する半回分操作のいずれのコンポスト化処理においても、微生物叢の変化に基づいて有機物分解の状態を判定することで腐熟度を検定することができる。尚、回分操作のコンポスト化処理では基質の追加投入を行わないため、半回分操作のコンポスト化処理の場合よりも短時間でコンポスト化処理を終えることができる。
【0034】
本発明のコンポスト製造方法は、コンポスト化処理物中の微生物によってコンポスト化処理物中の有機物を分解処理し、コンポスト化処理物中の微生物叢が変化した時点でコンポスト化処理を終了することを特徴とする。上記本発明の腐熟度検定方法で説明したように、微生物叢の変化を指標とすることでコンポスト化処理物中の有機物が十分に分解処理された時点を客観的に特定することができるため、有機物が十分に分解処理された肥料効果の高いコンポストを短期間で製造することができる。
【0035】
本発明のコンポスト製造方法においては、前記微生物叢の変化を、コンポスト化処理物中の、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量と存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の変化として捉えることが好ましい。コンポスト化処理物中の微生物の存在量は上述の方法で算出することができる。
また、本発明のコンポスト製造方法においては、前記第1の微生物の存在量と第2の微生物の存在量の双方に基づいて微生物叢の変化を捉えることが好ましく、前記第1の微生物が減少し第2の微生物が増加する微生物の入れ替わりとして微生物叢の変化を捉えることがより好ましい。前記微生物の入れ替わりは、前記第1の微生物の第2の微生物に対する存在量比率が好ましくは0.8〜5である場合として、より好ましくは1〜3である場合として、その時期を特定することができる。
【0036】
本発明は、腐熟度を客観的に、短時間で、正確に検定でき、また、肥料効果の高いコンポスト製造方法を提供するものであるため、任意のコンポスト化処理物が農耕地施用に適するか否かの判別や、有機質の廃棄物を収集し一括処理している大規模コンポスト化処理施設において均質なコンポスト製品を生産するための品質管理に、本発明を適用することができる。
また、本発明により目標とすべきコンポストの品質が明確化したので、微生物叢の変化を測定しながらコンポスト化プロセスの様々な操作因子、例えば、処理温度、pH、含水率、通気性などの最適条件を決定することができる。これにより、コンポスト化プロセスを最適化して高速コンポスト化処理を実現することができる。
また、家庭用の生ごみ処理装置についても応用が可能である。小型装置における微生物叢の変化を監視し小型装置を制御することにより、小型装置の性能を高めることができる。
【0037】
本発明のコンポストは、上述のコンポスト製造方法によって製造されるものである。従って、本発明のコンポストはコンポスト化処理物中の活発な有機物分解がちょうど完了した状態であり、肥料効果が高く、農耕地施用に好適である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例において、特に断りのない限り「%」は「質量%」を表す。
【0039】
(実施例1)
<コンポスト化処理>
コンポスト混合原料(コンポスト化処理対象物)は、モデル的な生ごみとして市販のドッグフード(商品名「VITA-ONE」、日本ペットフード(株)製)を用いて調製した。ドッグフードの炭素と窒素の含有率はそれぞれ44.33質量%と3.76質量%、炭素/窒素比は11.79であった。ドッグフードは、均一な有機物分解とサンプル採取時のばらつきを小さくするために、挽肉機で1mm程度に磨砕した後に使用した。ドッグフードに通気性改良材であるおがくずと、市販の微生物資材である種菌とを乾燥質量比で10:9:1に混合したものをコンポスト混合原料とした。なお、コンポスト混合原料の初期pHは消石灰を用いて9.0付近に、含水率は蒸留水を加えて約55%に調整した。
【0040】
コンポスト化処理には、加熱用リボンヒータと通気量の制御で処理温度を制御可能で、排気ガス中の炭酸ガス濃度と通気速度を連続的に測定可能なコンポスト化処理装置(例えば、特開2001−261474号公報参照)を用いた。コンポスト混合原料は装置中に湿質量で約3000g投入し底部より通気しながらコンポスト化処理をおこなった。微生物の有機物分解にともなう自己発熱とリボンヒータの加熱によって3℃/hで60℃まで上昇させ、温度が60℃に達した後は通気量を増減してその温度を維持した。なお、コンポスト化処理期間は14日間とした。
【0041】
コンポスト化処理における有機物分解の速度は、排気ガス中の炭酸ガス濃度と通気速度を連続的に測定することによって炭酸ガス発生速度(単位時間、単位コンポスト化処理物乾燥質量当りの炭酸ガス発生量)として定量した。有機物分解量は原料中のドッグフードの炭素量に対する炭酸ガスとして失われた炭素量の比と定義した炭素変化率で定量した。
コンポスト化処理期間中は、均一な有機物分解を目的として、1日に1度装置のふたを開けて固相を切り返した。その際にサンプルを採取し、pH及び含水率の測定、並びに微生物叢の変化を判定した。微生物叢の変化の判定は後述のPCR−DGGE(Polymerase Chain Reaction-Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)法を用いた。なお、サンプルを採取した後に適当量の蒸留水を加えてコンポスト化処理物の含水率を40〜60%の範囲に維持した。コンポスト化処理期間中におけるpH、炭酸ガス発生速度及び炭素変化率の経時変化を図1に示す。図1において、太線はpHの、破線は炭酸ガス発生速度の、細線は炭素変化率の、経時変化をそれぞれ示す。
【0042】
図1より、pHはコンポスト化処理開始から一旦低下するが、その後再び上昇してコンポスト化処理3日目に8.8付近に達した後、ほぼ一定になったことがわかる。炭酸ガス発生速度はコンポスト化処理開始から5日付近にかけて大きく、この時期に有機物が活発に分解されていることがわかる。また、コンポスト化処理8日付近から炭素変化率の傾きが小さくなることがわかる。最終的な炭素変化率は約73%であった。炭酸ガス発生速度には1日に1度おこなった切り返しにともなって一時的に大きくなる切り返しの効果が見られることがわかる。また、コンポスト化処理8日以降になると炭酸ガス発生速度は小さくなり、切り返しの効果も小さくなることがわかる。したがって、活発な有機物分解は、コンポスト化処理8日付近までにほぼ終了したことがわかる。
【0043】
<PCR−DGGE法>
−DNA抽出工程−
コンポスト化処理物中の微生物が保有するDNAの抽出は以下の方法でおこなった。切り返し時に採取したサンプル3gに9倍質量の滅菌水を加えて懸濁し、10000rpmで10分間ホモジナイズ処理し、夾雑物を遠心分離(3000rpm、1分間)により除去した後、上清として菌体を回収した。回収した菌体はリゾチーム(和光純薬工業株式会社製)痕跡量、RNase(株式会社ニッポンジーン製)20μL、および10%SDS水溶液100μLを加えて溶菌した。常法に従ってフェノール及びクロロホルム処理を行い、蛋白質及び脂肪を除去した。
得られた上清に0.1倍量の3モル/L酢酸ナトリウム、2.5倍量のエタノールを添加して−80℃で1時間インキュベーションする。その後、遠心分離(4℃、15000rpm、5分間)によりDNAを回収した。DNAはTE緩衝液400μLに溶解してMicroSpin S−300 HRカラム(Amersham pharmacia biotech社製)を用いて精製した。
【0044】
−DNA断片取得工程−
コンポスト化処理物から抽出したDNAの16S rRNA領域(V3領域)を、プライマーとしてGC−357F(オペロン バイオテクノロジー 株式会社製、配列番号3)と517R(オペロン バイオテクノロジー 株式会社製、配列番号4)を用い、DNAポリメラーゼとして製品名「TaKaRa LA Taq」(タカラバイオ(株)製)を用い、製造業者が推奨する方法でPCR法によってDNA断片を増幅した。増幅条件は、最初に95℃で10分間の変性をおこなった後に、93℃で30秒間(変性)、65℃〜55℃で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)を30サイクル、最後に72℃で5分間の伸長をおこなった。ただし、アニ−リング温度は65℃、60℃、55℃それぞれを10サイクルずつおこなうタッチダウン法を用いた。
【0045】
−電気泳動図取得工程−
PCR法によって取得したDNA断片を、DGGE法に供した。ゲル支持体としてアクリルアミドの濃度勾配を6〜12質量%とし、変性剤(40質量%ホルムアミドと7モル/L尿素との混合物を100質量%変性剤とした)の濃度勾配を0〜100%としたゲルを用いて、60℃、180Vで9時間電気泳動した。
0.5×TAE200mLの溶液にエチジウムブロミド(10mg/mL溶液)を20μL溶解し、電気泳動が終了したゲルを入れて染色した。30分後に染色液から取り出してDNAバンドの確認をした。
DNAバンドの輝度はLuminous Imager(アイシン精機(株)製)を用いて測定した。Luminous ImagerはCCDカメラで取り込んだ画像イメージのうち選択ツールで囲んだ任意の場所の輝度を数値化するソフトウェアを備えている。
図2にDGGEパターンとして電気泳動図を示す。
【0046】
図2から、炭素変化率曲線の傾きが大きく有機物分解が活発なコンポスト化処理の初期には、DGGEパターンの変化が大きく、微生物叢が大きく変化することがわかる。それぞれの有機物を分解するための微生物が増殖していることに対応しているものと考えられる。その後、DGGEパターンの変化が乏しくなるが、有機物の活発な分解がほぼ終了し、炭酸ガス発生速度も極めて小さくなるコンポスト化処理9日付近以降ではDGGEパターンは一定になって、コンポスト化処理終了まで微生物叢の変化が見られないことがわかる。すなわち、微生物叢の変化は有機物の分解状態と密接な関係があり、活発な有機物分解が終わると微生物叢もそれ以上変化しなくなることがわかる。
なお、コンポスト化処理中で特徴的な変化を見せるDNAバンドBおよびCが観察された。DNAバンドBは有機物分解が活発な期間に出現し、その後経時的に減少しながら有機物分解が終息するときにほぼ消滅した。また、DNAバンドCは有機物分解が活発な期間にはほとんど検出されず、活発な有機物分解が終息した後に出現し、DNA検出量が経時的に増加した。
【0047】
DNAバンドBとDNAバンドCの輝度を縦軸に、コンポスト化処理期間を横軸にとったグラフを図3に示す。図3において、実線はDNAバンドBの、破線はDNAバンドCの、輝度の経時変化を表す。また、DNAバンドBのDNAバンドCに対する輝度の比を縦軸に、コンポスト化処理期間を横軸にとったグラフを図4に示す。
図3からDNAバンドBがコンポスト化処理5日から減少し、代わってDNAバンドCがコンポスト処理8日から増加することがわかる。このコンポスト化処理5日から8日の期間は、図4からDNAバンドBのDNAバンドCに対する輝度の比が1〜3の期間に対応し、図1から炭素変化率が60〜70%の期間に対応することがわかる。
【0048】
−DNA塩基配列の決定−
コンポスト化処理に伴って、電気泳動図上のDNA検出量が経時的に変化するDNAバンドB及びCについて塩基配列を決定した。DNAバンドB及びCを切り出し、それぞれのゲルからQIAEX II Gel Extraction Kit(Qiagen社製)を用いて、製造業者の推奨する方法によってDNA断片の抽出をおこなった。抽出したDNA断片を上述のPCR条件で増幅し、精製した後、マスシークエンスMega BACE(Amersham Biosciences社製)を用いてそれぞれのDNA断片の塩基配列を決定した。DNAバンドBの塩基配列を配列番号1に、DNAバンドCの塩基配列は配列番号2に示す。
【0049】
決定した塩基配列と、局所的に高い類似性を有するDNA塩基配列を有する既知の微生物を検索し、微生物名を決定した。DNAバンドBに対応する微生物は、Bacillus pallidusと高い相同性を示した。また、DNAバンドCに対応する微生物は、Geobacillus thermoglucosidasiusと高い相同性を示した。
【0050】
DNAバンドBに対応する微生物は、コンポスト中の有機物分解が活発におこなわれている時期に多く、分解が終息するコンポスト化処理5日付近から徐々に減少しており、主として有機物分解を担っている微生物であると考えられる。一方、DNAバンドCに対応する微生物は、コンポスト化処理の初期には極めて低濃度であり、活発な有機物分解がほぼ終了するコンポスト化処理8日付近からバンドの輝度が高くなる。有機物分解の進行に伴ってコンポスト中の優勢な微生物の種類が変化し、微生物の入れ替わりが起きることがわかる。
【0051】
(比較例1)
<幼植物試験法>
実施例1と同様にしてコンポスト化処理を行い、炭素変化率がそれぞれ0、20、40、60及び70%に達したときを目標にコンポスト化処理を終了させ、有機物分解が途中のコンポスト化処理物を5種類用意した。
これらのコンポスト化処理物を用いて、コマツナによる発芽試験及び幼植物試験をおこなった。土壌は淡色黒ぼく土を用い、土壌2.5kgに対してそれぞれ窒素量換算でそれぞれのコンポスト化処理物を3.0g−N/potになるように混合し、1/5000aワグネルポット内に充填した。また、対照区として、土壌2.5kgに化学肥料(燐加安42号)を窒素量換算で1.0g−N/pot、0.5g−N/pot施用したもの及び無肥料区、0g−N/potの3通りを準備した。
供試作物としたコマツナ(品種:みすぎ)は、選別した種子を対照区、試験区ともに1ポット当たり5地点に5粒ずつ、合計25粒播種した。ワグネルポットはガラスハウス内に置き、毎日水分を補給しながら栽培し、適宜間引きして1ポット当たりに5株に揃えた。栽培試験期間は28日間とした。コマツナの生育調査としては発芽状態の観察と生育したコマツナ収穫量を測定した。ここで収穫量はコマツナ地上部の湿質量(生体質量)である。図5に炭素変化率を横軸にとったコマツナ収穫量を示す。
【0052】
コンポスト施用区及び化学肥料施用区におけるコマツナの発芽率はいずれも85%以上と高く、良好な発芽状態であった。コンポスト原料そのものを用いたときに、やや発芽率が低い傾向にあったが、無肥料区とほぼ同様であり、顕著な発芽障害は見られなかった。
炭素変化率が0%のコンポスト化処理物を用いた発芽試験ではポット表面全体にカビが発生した。また、炭素変化率40%のコンポスト化処理物を用いた発芽試験では、炭素変化率0%の場合ほどではないにしても、ポット内の土壌表面にカビが発生した。更に、炭素変化率が20%のコンポスト化処理物を用いたときには、これらの中間的な状態となった。カビの発生はコンポスト化処理物が未熟であることの典型的な影響である。カビの発生量はコンポスト化処理物中の有機物分解率の上昇に伴って減少し、コンポスト化処理物中の易分解性有機物量と対応していると考えられる。なお、炭素変化率60%以上のコンポスト化処理物を用いた場合ではカビの発生は見られなかった。
カビの発生は農耕地においては深刻な病害に結びつく可能性があり、炭素変化率が40%以下のコンポスト化処理物は農耕地施用には適さないことがわかる。
【0053】
図5から、コンポスト化処理物施用区はコンポスト化処理物の炭素変化率が40〜70%の場合には顕著な差は見られないことがわかる。一方、炭素変化率が40%未満の場合には収穫量は歴然と低下し、炭素変化率60%の場合の約半分程度の収穫しか得られないことがわかる。また、炭素変化率73%の場合にも収穫量の著しい低下が見られた。
尚、発芽時に発生したカビは、植物病原性のカビではなく、その後のコマツナの成長に対する影響は小さかった。
【0054】
以上の結果をまとめると、コンポスト化処理物において肥料効果が高いのは、炭素変化率が60〜70%の処理期間に対応するものであり、この期間は図1からコンポスト化処理5日〜8日に対応する。また、この期間は図4から上記DNAバンドBのDNAバンドCに対する輝度の比が1〜3の期間に対応することがわかる。
【0055】
以上のことから、本発明のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法によれば、コンポスト化処理物中の微生物叢の変化に基づいて、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定することで、客観的に短時間で、コンポスト化処理物の腐熟度を検定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例における、コンポスト化処理過程中のpH、炭酸ガス発生速度及び炭素変化率の経時的変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例における、コンポスト化処理過程中のDGGEパターンの経時変化を示す電気泳動図である。
【図3】本発明の実施例における、DNAバンドB及びCの輝度の経時変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例における、DNAバンドBのDNAバンドCに対する相対輝度の経時的変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例における、炭素変化率とコマツナ収穫量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンポスト化処理物中の微生物叢の変化に基づいて、コンポスト化処理物中の有機物分解の状態を判定する工程を含むコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項2】
前記微生物叢の変化が、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量と存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の変化である請求項1に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項3】
コンポスト化処理物中の微生物が保有する核酸を抽出する工程と、
抽出された核酸の検出量から、前記第1の微生物の存在量と前記第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の存在量を算出する工程と、
を更に含む請求項2に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項4】
コンポスト化処理物中の微生物が保有する核酸を抽出する工程と、
抽出された核酸に由来する判定用の部分塩基配列から、前記第1の微生物と前記第2の微生物との少なくともいずれか一方を特定する工程と、
を更に含む請求項3に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項5】
配列番号1の塩基配列と97%以上の相同性を示す前記判定用の部分塩基配列から第1の微生物を特定する請求項4に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項6】
配列番号2の塩基配列と97%以上の相同性を示す前記判定用の部分塩基配列から第2の微生物を特定する請求項4又は5に記載のコンポスト化処理物の腐熟度検定方法。
【請求項7】
コンポスト化処理物中の微生物によってコンポスト化処理物中の有機物を分解処理し、コンポスト化処理物中の微生物叢が変化した時点でコンポスト化処理を終了するコンポスト製造方法。
【請求項8】
前記微生物叢の変化が、存在量が経時的に減少する第1の微生物の存在量と存在量が経時的に増加する第2の微生物の存在量との少なくともいずれか一方の変化である請求項7に記載のコンポスト製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のコンポスト製造方法によって製造されるコンポスト。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−319079(P2007−319079A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152730(P2006−152730)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】