説明

コンロッドの組付方法

【課題】 本発明は、ノックピンなど位置決め部材を用いず、分割ベアリングを活用して、本体とベアリングキャップとの分割面と平行な軸穴径方向へのずれを規制するコンロッドの組付方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、ベアリングキャップ12、本体11のキャップ側軸穴9b及び本体側軸穴9aに、分割ベアリング7a、7bを、分割ベアリングの両端を結んだ直線が軸穴の分割面aから軸穴の周方向に所定量回転させた状態でセットし、分割ベアリングがセットされたキャップ側軸穴及び本体側軸穴のどちらか一方にクランクピン4aを嵌合した後、分割面から突出した端部をそれぞれ相手側の分割ベアリング端が退いた軸穴の内面に差し入れてコンロッド5を組み上げる。同方法によると、コンロッドの本体とベアリングキャップとは、軸穴の内面に差し入れられる分割ベアリングの端部によって、本体とベアリングキャップの分割面aと平行な軸穴径方向のへのずれが規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベアリングメタルを介してクランクピンに連結するコンロッドの組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるレシプロ式エンジンは、ピストンから延びるコンロッドの大端部を、クランクシャフトのクランクピンに回転自在に連結して、ピストンの往復運動を回転運動に変換して、クランクシャフトへ伝えている。
一般にコンロッドの大端部は、環状のベアリングメタルを介してクランクピンに連結させる構造が用いられている。こうしたコンロッドは、クランクピンが挿通する軸穴の中心部を境に本体側とベアリングキャップとに等分割(二分割)され、ベアリングメタルは、2つの半円形状に分割されていて、分割した分割ベアリングをそれぞれ本体側軸穴、キャップ側軸穴にセットし、これら分割ベアリングがセットされた本体側軸穴、キャップ側軸穴を片側ずつクランクピンに嵌合させることによって組み上げられる。
【0003】
ところで、コンロッドの本体とベアリングキャップは、組み付けの際に、同本体とベアリングキャップの分割面と平行な軸穴径方向へずれることがある。
そのため、コンロッドでは、特許文献1にも開示されているようなノックピンなど位置決め部材を用いて、コンロッドの本体とベアリングキャップとが分割面と平行な径方向へずれないよう規制することが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1− 96519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ノックピンなど位置決め部材を用いた分割ベアリングの規制は、コスト的な負担が多いうえ、作業性も悪いという問題がある。
そこで、本発明の目的は、ノックピンなど位置決め部材を用いず、分割ベアリングを活用して、本体とベアリングキャップとの分割面と平行な軸穴径方向へのずれを規制するコンロッドの組付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のコンロッドの組付方法は、上記目的を達成するために、分割したベアリングキャップ、本体のキャップ側軸穴及び本体側軸穴に、それぞれ半円形状に分割した分割ベアリングを、分割ベアリングの両端を結んだ直線が軸穴の分割面から軸穴の周方向に所定量回転させた状態でセットし、分割ベアリングがセットされたキャップ側軸穴及び本体側軸穴のどちらか一方にクランクピンを嵌合した後、分割面から突出した端部をそれぞれ相手側の分割ベアリング端が退いた軸穴の内面に差し入れてコンロッドを組み上げることとした。
【0007】
同方法により、コンロッドの本体とベアリングキャップとは、軸穴の内面に差し入れられる分割ベアリングの端部によって、本体とベアリングキャップの分割面と平行な軸穴径方向のへのずれが規制される。
請求項2に記載の発明は、さらにクランクピンに嵌合する際に、分割ベアリングの位置調整が不要となるよう、所定量は、分割ベアリングの突出した一端と同分割ベアリングの他端近傍に位置する分割面の端部とがなす開口幅が、クランクピンの直径よりも大きくなるように設定することとした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、さらに組み付けたベアリングメタルとクランクピンとの抵抗が低減されるよう、分割ベアリングの一端は、径方向における厚みが他端よりも内周側から薄く形成されている薄肉端部にし、クランクピンの回転方向遅れ側に薄肉端部が位置するように、分割ベアリングをベアリングキャップ及び前記本体にセットすることとした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、組み上げられるコンロッドの本体とベアリングキャップは、本体側軸穴からキャップ側軸穴へ、キャップ側軸穴から本体側軸穴へ差し入れられる分割ベアリングの端部によって、分割面と平行な軸穴径方向のへのずれが規制される。
したがって、ノックピンなど位置決め部材を用いず、分割ベアリングの活用によって、本体とベアリングキャップとが分割面と平行な軸穴径方向へずれるのを規制でき、コストの削減ができるうえ、作業性の向上も図れる。
【0010】
請求項2の発明によれば、さらにクランクピンに嵌合する際に、分割ベアリングの位置調整が必要ないので、組み付ける際の作業性を、一層、向上させることができる。
請求項3の発明によれば、クランクピンの回転方向遅れ側に位置する端部は、分割面で隣合う端部よりも厚みが薄いから、たとえ組付誤差や製作誤差などがあっても、同端部が分割面で隣合う端部よりも軸穴径方向内側に突出するのを抑えることができ、クランクピンの回転時におけるベアリングメタルとクランクピンとの抵抗増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンロッドを、内燃機関のピストン、クランクシャフトと共に示す斜視図。
【図2】同コンロッド廻りを示す一部断面した正面図。
【図3】同コンロッドを組上げる方法を説明するコンロッドの分解正面図。
【図4】筒形に組上がったベコンロッドを示すコンロッドの正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図1〜図4に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1はレシプロ式エンジン(内燃機関)のクランクシャフト廻りを示し、図2は同クランクシャフトに組付いているコンロッドを示し、図3は同コンロッドの詳細並びにベアリグメタルの組付方法、図4は同コンロッドの全体を示している。
まず、図1および図2を説明すると、図中1はシリンダブロックであり、2は、同シリンダブロック1に形成されたシリンダであり、3は、同シリンダ2内に往復動可能に収められたピストンであり、4は、同シリンダ2と対応するシリンダブロック1に組付けられたクランクシャフトであり、5は、ピストン3のピストンピン3aとクランクシャフト4のクランクピン4a間をつなぐコンロッド(コネクティングロッド)である。
【0013】
コンロッド5は、図2および図4に示されるように上端部(一方の端部)に小端部5aを有し、下端部(他方の端部)に大端部5aを有したロッド部材で形成される。小端部5aはピストン4のピストンピン3aに嵌り、大端部5bはクランクピン4aに嵌り、ピストン4の往復運動を回転運動に変換する構造にしている。
大端部5bは、図2に示されるように環状のベアリングメタル7を用いた構造によって、クランクピン4aに回動自在に連結される。同大端部5bは、クランクピン4aが挿通する軸穴9の中心を境に、同軸穴9を等分割、ここでは二分割したロッド本体11(本願の本体に相当)とベアリングキャップ12を用い、同ロッド本体11の半円形状の軸穴9a(本体側軸穴に相当)、ベアリングキャップ12の半円形状の軸穴9b(キャップ側軸穴に相当)に、ベアリングメタル7を2つの半円形状に分割した分割ベアリング7a,7bをセットした構造が用いられる。つまり、コンロッド5は、分割ベアリング7a,7bがセットされた軸穴9a,9bを、カウンタウェイトなど縦壁4b間に存するクランクピン4aに嵌合させると組み上がる。aは、ロッド本体11とベアリングキャップ12との分割面をし、bは、分割ベアリング7a,7bの分割面(接触面)を示す。
【0014】
このコンロッド5を組み上げるコンロッド組付方法には、ノックピンなど位置決め部材を用いず、分割ベアリング7a,7bを活用して、分割面aと平行な軸穴径方向にロッド本体11とベアリングキャップ12とをずれないように組み上げる方法が用いられている。同方法が図3に示されている。
この組付方法を説明すると、ロッド本体11の軸穴9a(本体側軸穴)と、ベアリングキャップ12の軸穴9b(キャップ側軸穴)に、それぞれ分割ベアリング7a,7bを、同分割ベアリング7a,7bの両端を結んだ直線L(図3中に片側だけ一点鎖線で図示)が軸穴9a,9bの分割面aから周方向に所定量、回転させた状態でセットする。ここでは、分割ベアリング7a、7bは、クランクピン4aの回転方向と反対側の端部7cが軸穴9aの分割面aから所定量、突き出るよう回転させる姿勢でそれぞれ軸穴9a,9bにセットする。つまり、軸穴9aにセットされた分割ベアリング7aは、一方(図中左側)の端部7cが軸穴9aの分割面aから外側へ突き出し、他方(図中右側)の端部7dが軸穴9aの分割面aから内側へ退避する。軸穴9bにセットされた分割ベアリング7bは、ロッド本体11側とは反対に、他方(図中右側)の端部7fが軸穴9bの分割面aから外側へ突き出し、他方(図中左側)の端部7eが軸穴9bの分割面aから内側へ退避する。
【0015】
その後、分割ベアリング7a,7bがセットされた軸穴9aおよび軸穴9bのどちらか一方、ここでは軸穴9aをクランクピン4aに嵌合する。
このとき、図3に示されるように分割ベアリング7aの突出した端部7cと、分割ベアリング7aの他端近傍に位置する分割面aの端部とがなす開口幅Hは、クランクピン4aの直径寸法Dよりも大きくなるよう設定されている。このため、分割ベアリング7aの嵌合は、分割ベアリング7a,7bの位置調整を必要とせずに行える。ここでは、分割ベアリング7aは、それぞれ分割面aに対し、約10度ずらしてセットされ、クランクピン4aの出入り可能な間口を確保している。ベアリングキャップ12の分割ベアリング7bについても同様である。
【0016】
その後、他方の軸穴9bをクランクピン4aに嵌合する。このときは、図3中の矢印γのように軸穴9a,9bの分割面aから突き出た分割ベアリング7a,7bの端部7c,7fを、相手側のベアリングメタル端が退いた軸穴9a、9bの内面に差し入れて、ロッド本体11とベアリングキャップ12とを分割面aで突き合せる。ついで、キャップボルト14で、同ロッド本体11とベアリングキャップ12とを締結することにより、図4に示されるようにコンロッド5は組み上がる。
【0017】
このとき、コンロッド本体11とベアリングキャップ12とは、軸穴9a,9bの相互内面に差し入れられる分割ベアリング7a,7bの端部7c,7fによって、分割面aと平行な軸穴径方向のへずれないように規制される。
こうしたコンロッド5の組付方法により、ノックピンなど位置決め部材を必要とせず、分割ベアリング7a,7bの活用だけで、ロッド本体11とベアリングキャップ12との分割面aと平行な軸穴径方向へのずれ規制することができる。それ故、コストの削減化を図ることができ、作業性の向上も図ることができる。しかも、分割ベアリング7a,7b端のなす開口幅Hをクランクピン4aの直径より大きく設定すると、クランクピン4aに嵌合する際には、分割ベアリング7a,7bの調整作業は必要でなくなるため、一層、コンロッド5を組み付ける作業性が向上する。
【0018】
特に図2〜図4に示されるように分割ベアリング7a,7bは、一端、ここでは端部7c、7fの端の径方向の厚みT1を、他端となる端部7d、7eの端の径方向の厚みT2よりも薄く、具体的には内周側から薄くした薄肉の端部にし、同薄肉の端部7c,7fがクランクピン4aの回転方向遅れ側に位置するように、コンロッド本体11の軸穴9a,ベアリングキャップ12の軸穴9bにセットすることにより、組み付けたベアリングメタル7とクランクピン4aとの抵抗を低減することができる。すなわち、コンロッド5の組み付けの際に、組付誤差や製作誤差などにより、分割ベアリング7a,7bとの分割面bに圧力が加わると、端部7c、7fが隣り合う端部7d、7eより軸穴径方向内側へ突出して、クランクピン4aの抵抗となるおそれがあるが、予め端部7c、7fの端の厚み寸法T1を内周側から薄くしてあることで、端部7c、7fが端部7d、7eよりも軸穴方向内側に突出するのを抑えることができ、クランクピン4aの回転時におけるベアリングメタル9とクランクピン4aとの抵抗の増加が抑制できる。
【0019】
なお、本発明のコンロッドの組付方法は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。
【符号の説明】
【0020】
4a クランクピン
5 コンロッド
5b 大端部
9a,9b 軸穴(本体側軸穴、キャップ側軸穴)
7 ベアリングメタル
7a,7b 分割ベアリング
11 ロッド本体(本体)
12 ベアリングキャップ
a 本体とベアリングキャップとの分割面
b ベアリングメタルの分割面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングメタルを介してクランクピンに回転自在に連結されるコンロッドの組付方法であって、
前記コンロッドは、前記クランクピンが挿通する軸穴を半円形状のキャップ側軸穴及び本体側軸穴に等分割するベアリングキャップと本体とを有し、
前記ベアリングメタルは、2つの半円形状の分割ベアリングから形成され、
前記キャップ側軸穴及び前記本体側軸穴に、それぞれ前記分割ベアリングを、同分割ベアリングの両端を結んだ直線が前記軸穴の分割面から前記軸穴の周方向に所定量回転させた状態でセットし、前記分割ベアリングがセットされた前記キャップ側軸穴及び前記本体側軸穴のどちらか一方に前記クランクピンを嵌合した後、前記分割面から突出した端部をそれぞれ相手側の分割ベアリング端が退いた軸穴の内面に差し入れて前記コンロッドを組み上げる
ことを特徴とするコンロッドの組付方法。
【請求項2】
前記所定量は、前記分割ベアリングの突出した一端と同分割ベアリングの他端近傍に位置する前記分割面の端部とがなす開口幅が、前記クランクピンの直径よりも大きくなるように設定してある
ことを特徴とする請求項1に記載のコンロッドの組付方法。
【請求項3】
前記分割ベアリングの一端は、径方向における厚みが他端よりも内周側から薄く形成されている薄肉端部であり、
前記クランクピンの回転方向遅れ側に前記薄肉端部が位置するように、前記分割ベアリングを前記ベアリングキャップ及び前記本体にセットする
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンロッドの組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2557(P2013−2557A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134266(P2011−134266)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】