説明

コークス付着物の除去システムおよび方法

【課題】炭化水素燃料が存在する高温通路の壁からコークス付着物を除去する
【解決手段】コークス除去システムにより、炭化水素燃料が存在する熱交換器16等の高温通路の壁からコークス付着物を除去する。そのシステムは、炭素−蒸気ガス化触媒と給水系14とを備える。炭素−蒸気ガス化触媒が高温通路の壁に塗布される。炭素−蒸気ガス化触媒の存在下での炭素−蒸気ガス化により高温通路の壁からコークス付着物を除去するために、水が熱交換器16の上流で配管22の燃料に混合され、高温通路の壁のコークス付着物と反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、高温炭化水素システムからのコークス除去の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
温度管理は、先進航空機、ロケットおよびミサイルエンジンにおける重大な課題である。航空機の速度が増し、エンジン推力重量比が高まると、それと同時に熱負荷や冷却に利用可能な空気の温度が大幅に上昇する。そのため、エンジンや機体の冷却を、燃料を冷却手段として使用することにより行わなければならない。最新のエンジンを冷却する1つの方法が高・熱吸収性燃料(high heat sink fuel)による冷却技術の利用である。液体メタンや液体水素のような極低温燃料による冷却は十分なものであるが、それらの燃料にはコスト、ロジスティックス、運転および安全性の分野において問題がある。一方、触媒および/または熱による吸熱化学分解を受ける従来の液体炭化水素燃料は、極低温燃料に関係する問題はなく、必要とされる冷却能力を示す。その吸熱反応の主要な生成物はガス燃料であり、そのガス燃料は着火遅れ時間が短く、燃焼速度が速い。さらに、その燃料によって吸収された廃熱は、システムに戻すことができるため、性能やシステム効率が高まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、炭化水素燃料は高温で分解されると燃料通路内にコークスの付着が生じる。コークスは、一般に、約80重量%〜95重量%の炭素と、残部の、硫黄、窒素、無機物、灰分および微量の酸素とで構成される。熱交換器内部、反応装置内部および燃料システムコンポーネントの壁に生じたコークス付着物によって、熱伝達特性や燃料の流動性が低下し、放置しているとシステム障害が起こる可能性がある。高吸熱性炭化水素燃料による冷却技術の利益がどの程度実現できるかは、コークス生成を抑える能力に直接関係している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
システムにより、炭化水素燃料が存在する高温通路の壁からコークス付着物を除去する。そのシステムは、炭素−蒸気ガス化触媒と給水系とを備える。前記炭素−蒸気ガス化触媒を前記高温通路の壁に適用し、炭素−蒸気ガス化触媒の存在下での触媒炭素−蒸気ガス化により前記高温通路の壁からコークス付着物を除去するために、前記給水系からの蒸気を前記高温通路の壁のコークス付着物と反応させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図1は、触媒炭素−蒸気ガス化コークス除去に関する、高・熱吸収性燃料による冷却技術を用いた高温システム10のブロック線図である。高温システム10は、高温運転を必要とするあらゆるシステム(ガスタービンまたは極超音速スクラムジェットなど)であり得る。高温システム10には、一般に、燃料貯蔵槽12、水または蒸気供給システム14、熱交換器16、インジェクター18、燃焼器20および配管22が備わっている。炭化水素燃料は、燃料貯蔵槽12に入れられており、必要に応じて、配管22を通って熱交換器16に送られる。炭化水素燃料は、反応後、インジェクター18を通って燃焼器20まで運ばれる。燃焼器20により、高温システム10に力、すなわち推進力が与えられる。
【0006】
炭化水素燃料は、高温システム10を流れる。炭化水素燃料は、いかなるタイプの炭化水素でもよい(ガスタービン燃料やその他の灯油タイプの炭化水素燃料のような、コーキングを起こしやすい炭化水素燃料を含む)。例えば、宇宙およびロケット応用では、上述の炭化水素燃料としてメタンが含まれる。熱交換器16を流れる炭化水素燃料は、高温で分解され、熱交換器16の壁の内側や熱交換器16の下流にコークスが付着する。高温システム10では、触媒炭素−蒸気ガス化によってコークス付着物を除去する。触媒炭素−蒸気ガス化により、高温システム10からコークス付着物を除去し、それにより、炭化水素燃料による冷却能力を高めることに関する、費用効率の良い簡単な解決法が得られる。これは、同時に、高温システム10の寿命および/または作動時間も延ばす。また、熱交換器16を流れる炭化水素燃料に水/蒸気を与えることによって、燃焼効率が高まり、運転可能な燃料温度の最低下限が低下し、排気エミッションも抑えられる。
【0007】
高温システム10の熱交換器16は、少なくともカ氏700度(°F)の温度、好ましくは少なくとも900°Fの温度で運転される。これらのような温度で、炭化水素燃料の炭素−炭素結合は切断され、熱を吸収する。高温システム10を通る炭化水素燃料は、圧縮高温空気などの熱交換器16を流れる熱媒体を冷却したり、または燃焼器20の壁や機体の高温表面などの構造を冷却したりするのに利用される。よって、炭化水素燃料は、高温システム10の冷却要件に合う冷却用放熱子(heat sink)または冷却源として使用される。
【0008】
図2は、高温システム10(図1に示す)の中間部24のより詳細な概略図である。高温システム10の中間部24には、一般に、燃料貯蔵槽12、水供給システム14、熱交換器16、コンピュータ制御システム26、炭化水素燃料流量計28、炭化水素流量調整器30および直流電源32が備わっている。上述のように、炭化水素燃料は、必要に応じて、燃料貯蔵槽12から熱交換器16へと送られる。燃料貯蔵槽12の下流に流量計28が配置され、燃料貯蔵槽12から流れ出る炭化水素燃料の流量が測定される。その測定値が炭化水素流量信号線34を通してコンピュータ制御システム26に送信され、そこで、その測定値と所定の目標流量との比較がなされる。その結果、コンピュータ制御システム26から炭化水素流量制御線36を通して流量調整器30に信号が送信され、流量調整器30によって燃料貯蔵槽12からの炭化水素燃料の流量が所望の流量へと調整される。一実施形態において、流量調整器30は流量バルブである。
【0009】
直流電源32から、コンピュータ制御システム26によって制御される電力線38を通して、熱交換器16に直流が供給される。炭化水素燃料は、熱交換器16を通る際に、所望の反応を受ける。例えば、炭化水素燃料の炭素−炭素結合が切断されて、燃焼器20で容易に燃焼するより小さな分子が生じる(図1に示す)。熱交換器16中の炭化水素燃料の体積と熱交換器16の壁面温度は、エネルギー平衡方程式:
heatsink=Qinput−Qloss
(式中、Qheatsinkは、熱交換器16を流れる炭化水素燃料(冷却用放熱子)であり、Qinputは、直流電源32により熱交換器16に投入されたエネルギーであり、Qlossは、周囲へのエネルギー損失である)
によって決まるエネルギー収支を行うことにより測定することができる。
【0010】
水/蒸気供給システム14には、一般に、貯水槽40、水流量計42、水流量調整器44および配管46が備わっている。水は、貯水槽40に入れられており、配管46を通って熱交換器16の上流にある高温システム10の配管22まで運ばれる。高温システム10と同様に、水流量計42で貯水槽40から流れ出る水の流量が測定され、この水流量計42から水流量信号線48を通じてコンピュータ制御システム26に信号が送信される。その結果、コンピュータ制御システム26から水流量制御線50を通して水流量調整器44に信号が送信される。この流量調整器44によって、熱交換器16の必要に応じて熱交換器16を流れる水の流量が調整される。こうして、炭化水素燃料と水とが混ざり、一つの流体として同時に熱交換器16に導入される。一実施形態において、水は、炭化水素燃料と水を混合したものの総重量の約10%である。水は、好ましくは、炭化水素燃料と水を混合したものの総重量の約5%であり、より好ましくは、炭化水素燃料と水を混合したものの総重量の約2%であり、最も好ましくは、炭化水素燃料と水を混合したものの総重量の約1%である。
【0011】
図3は、熱交換器16の壁からコークス付着物を除去する方法についての図である。まず、熱交換器16の壁に触媒を塗布する(ボックス52)。炭化水素燃料を熱交換器16に通し、燃料の流量を測定し、必要に応じて調整する(ボックス54)。ボックス54に示すように、熱交換器16の上流で炭化水素燃料に水を導入する。蒸気の流量も測定して、炭化水素燃料が希釈過剰とならずに熱交換器16の壁からコークス付着物を除去するために必要に応じて調整できるようにする。炭化水素燃料と水が熱交換器16を通る際に、その蒸気が熱交換器16の壁のコークス付着物と反応し、コークスと蒸気が、下流の燃焼器20内で燃料として使用される水素と一酸化炭素とに変換される。コークス付着物は、このようにして、触媒炭素−蒸気ガス化により熱交換器16の壁から除去される(ボックス56)。図3では、熱交換器16からのコークス付着物の除去について説明しているが、コークスが付着する可能性がある、燃料ノズルや燃料バルブのような高温システム10の他の高温通路からもコークス付着物を除去することができる。
【0012】
図4は、熱交換器16の拡大部分断面図である。炭化水素燃料は、運転温度が高いと安定せず、炭化水素燃料が通る熱交換器16の壁面60にコークス58や炭素リッチな付着物が付着する。熱交換器16の壁面60のコークス付着物58は、炭化水素燃料が熱交換器16を流れる際に増加し続ける。放置しているとコークス付着物58が損傷の原因となり、高温システム10(図1に示す)に障害が起こる可能性がある。高温システム10の障害を防ぐためには、高温システム10の高温通路からコークス付着物58を除去しなくてはならない。
【0013】
図5は、高温システムの壁のコークス付着物の付着速度を、温度の関数として示すグラフである。コークス付着物の付着速度は、燃料内部温度だけでなく、壁面温度にも依存する。図5より分かるように、高温では、コークス付着物の付着速度は温度が上昇するとともに指数関数的に増加する。よって、温度が最も高い表面においてコークス付着物の付着速度が最大になる。壁面のコークス付着物を除去するのに触媒炭素−蒸気ガス化を利用することの利益は、触媒炭素−蒸気ガス化の反応速度が壁面温度の上昇とともに増加することにある。よって、高温システム10の内部温度が上昇し、コークス付着物の付着速度が高まるとともに、触媒炭素−蒸気ガス化によるコークス除去の速度も高まる。
【0014】
図6は、熱交換器16の壁面60のコークス付着物58と、触媒炭素−蒸気ガス化中の壁面60での化学反応を示す拡大概略図である。炭化水素燃料を熱交換器16に通す前に、熱交換器16の壁面60に触媒62を塗布する。触媒62は、コークスと、水供給システム14(図1に示す)から導入される蒸気との反応を触媒するように作用する。蒸気ガス化触媒の例としては、限定されるものではないが、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩の例には、元素の周期表のIA族、Na2CO3、K2CO3、Cs2CO3などが含まれる。アルカリ土類金属塩の例には、元素の周期表のIIA族、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3などが含まれる。
【0015】
炭化水素燃料流に少量の水を加えることによって、触媒62を塗布した壁面60からコークス付着物58が除去される。水は、炭化水素燃料を熱交換器16に通す前に炭化水素燃料に加えられる。燃料と蒸気が高温システム10を通る際に、触媒炭素−蒸気ガス化によりコークス付着物58と蒸気とが反応し、水素と一酸化炭素が生じる:
C(コークス)+H2O→H2+CO
コークスの触媒炭素−蒸気ガス化は、非常に強い吸熱反応であるため、炭化水素燃料の熱吸収(heat sink)能力全体を高める。この吸熱反応により、熱交換器16を流れる熱媒体を冷却するか、または構造物を冷却するために、熱交換器16の熱を吸収し、高温システム10の温度が損傷レベルに達しないようにする。加えて、触媒炭素−蒸気ガス化反応の生成物も燃料として利用することができる。一酸化炭素と水素ガスは、着火時間が短く、燃焼器20で容易に燃焼する。よって、この反応の生成物を燃料として利用することで、高温システム10の効率が高まる。
【0016】
本発明のシステムでは、触媒、炭化水素燃料および水を利用して、高温システムからコークス付着物を除去する。炭化水素燃料を高温通路に通す前に、その高温通路の壁に触媒を塗布する。高温通路の上流で炭化水素燃料流に水を導入し、炭化水素燃料と同時に高温通路に導入する。触媒炭素−蒸気ガス化によりその蒸気とコークス付着物とが反応して、水素と一酸化炭素が生じ、高温チャンバーの壁からコークス付着物が除去される。一酸化炭素と水素は、その後、炭化水素燃料を燃焼する際の燃料として利用される。この触媒炭素−蒸気ガス化吸熱反応は、炭化水素燃料を冷却用放熱子として使用した高温通路の冷却にも利用される。
【0017】
本発明を好ましい実施形態に沿って説明したが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形状および細部を変更してもよいことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】高・熱吸収性燃料による冷却技術を用いた高温システムのブロック線図である。
【図2】高温システムの中間部の概略図である。
【図3】高温システムの壁からコークス付着物を除去する方法についての図である。
【図4】コークスが付着している高温システムの壁の部分断面図である。
【図5】高温システムの壁のコークス付着物の付着速度を、温度の関数として示すグラフである。
【図6】高温システムの壁のコークス付着物と、高温システムの壁でのコークス付着物を除去する蒸気ガス化反応と、を示す拡大概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素燃料が流れる高温通路の壁からコークス付着物を除去するシステムであって、
前記高温通路の壁に適用された炭素−蒸気ガス化触媒と、
触媒炭素−蒸気ガス化によりコークス付着物を除去するために前記高温通路の壁のコークス付着物と反応させる給水系と、
を備えるシステム。
【請求項2】
炭素−蒸気ガス化触媒が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
炭素−蒸気ガス化触媒が、Na2CO3、K2CO3、Cs2CO3、MgCO3、CaCO3、SrCO3およびBaCO3からなる群から選択される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
炭化水素燃料が冷却用放熱子として使用される、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
高温通路を少なくとも約700°F度の温度で運転する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
高温通路を少なくとも約900°Fの温度で運転する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
給水系による水が炭化水素燃料と水の混合流の約10重量%未満である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
給水系による水が炭化水素燃料と水の混合流の約5重量%未満である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
給水系による水が炭化水素燃料と水の混合流の約2重量%未満である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
給水系による水が炭化水素燃料と水の混合流の約1重量%未満である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
炭化水素燃料が流れる高温通路の壁からコークス付着物を除去するシステムであって、
炭化水素燃料と反応させるために前記高温通路の壁に塗布された触媒と、
触媒炭素−蒸気ガス化により前記高温通路の壁のコークス付着物を除去するための給水系と、
を備えるシステム。
【請求項12】
触媒が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
給水系による水が炭化水素燃料と水を混合したものの約2重量%未満である、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
高温通路を少なくとも約900°Fの温度で運転する、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
高温通路の壁からコークス付着物を除去する方法であって、
前記高温通路の壁を炭素−蒸気ガス化触媒でコーティングし、
前記高温通路に炭化水素燃料を流し、
前記高温通路に水を流し、
触媒炭素−蒸気ガス化により前記高温通路の壁からコークス付着物を除去すること、
を含む方法。
【請求項16】
高温通路に流す前に炭化水素燃料と水を混合流にする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
混合流の約5重量%未満が水である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
混合流の約1重量%未満が水である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
炭素−蒸気ガス化触媒が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
高温通路を少なくとも約700°Fの温度で運転する、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−302875(P2007−302875A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97007(P2007−97007)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】