コーティング、複合材料および添加剤としての、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンおよび金属化されたポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン
物理特性の制御、放射線吸収、および材料表面でのナノスコピックなガラス層のインサイチュ形成のために金属化されたおよび金属化されていないナノスコピックなケイ素含有試薬を用いる方法。ポリマー、金属、複合材料、セラミックス、ガラスおよび生物材料との設計可能な適合性のために、ナノスコピックなケイ素含有試薬は直接混合プロセスによりナノメートルレベルで材料に容易かつ選択的に組み込むことができる。改善される特性は、ガスおよび液体バリア、ステイン耐性、環境劣化に対する耐性、放射線吸収、接着、印刷性、時間依存の機械的および熱的特性たとえば加熱歪、クリーピング、圧縮変形、収縮、弾力性、硬さおよび磨耗耐性、電気的および熱的伝導性、および耐火性を含む。これらの材料は、飲料および食品パッケージング、宇宙生存材料、マイクロエレクトロニックパッケージング、および放射線吸収性塗料およびコーティングを含む多くの用途に有用に用いられる。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、2003年12月18日に出願された米国仮出願第60/531,458号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、人造または天然起源の熱可塑性および熱硬化性ポリマーおよびそれらの組成物の特性を高める方法に関する。より具体的には、本発明は、放射線吸収、インサイチュガラス化、ガスおよび水分バリア、および表面およびバルク特性の改良のためにそのようなポリマーへのナノ構造の化学物質の組み込みに関する。
【0003】
そのような材料の応用は、放射線耐性、ステイン耐性、印刷性、スクラッチ耐性、低透過性、低表面粗さ、および独特の電子的および光学的特性に恩恵を被るコーティングおよび成形品における使用を含む。
【0004】
発明の背景
本発明は、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンまたは金属化されたポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、およびシリコーンの、ポリマー材料とアロイ化可能な試薬としての使用に関する。ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンおよび金属化ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンを、以下、ケイ素含有試薬という。
【0005】
ケイ素含有試薬は、米国特許第6,441,210号においてAbbenhuisらにより報告されているように、以前には金属原子を錯体化するために利用されていた。米国特許第6,716,919号およびWO01/72885A1においてLichtenhanらにより検討されているように、そのようなケイ素含有試薬はケイ素と金属原子をポリマーチェーンとナノスコピックなレベルで均一に分散させアロイ化するために有用である。米国特許第6,767,930号においてLichtenhanらにより検討されているように、ケイ素含有試薬を原子状酸素の存在下で変換して、原子状酸素からの宇宙船の保護に有用なガラス状シリカ層を形成することができる。
【0006】
さて、驚くべきことに、そのようなケイ素含有試薬はガスおよび液体バリアの形成のためおよび放射線を吸収するための添加剤として有用であることも発見された。そのような能力において、ポリマーにアロイ化されているがナノスコピックに薄いガラスバリアのインサイチュ形成のためにも好ましく用いることができる場合、ケイ素含有試薬はそれ自体有効である。このプロセスは、ケイ素含有試薬を含むポリマーを酸素プラズマ、オゾンまたは酸化炎に曝すことにより容易に実施することができる。得られるナノスコピックに薄いガラス層は、例外的なバリアおよび放射線吸収特性を与える。そのような酸化剤に曝すと、ケイ素含有試薬は表面をシリカおよび金属化されたシリカからなるガラス層にする。その方法とナノスコピックに薄いガラス層の利点は、人の肉眼での検出不可能性、靭性と可撓性、ロールでの貯蔵と薄膜フィルムパッケージングのための適性、水分およびガスに対する不透過性、直接印刷性、ステイン耐性、スクラッチ耐性、ガラスよりも低いコストおよび軽い重量、ディスクリートな組成のボンドラインの除去および組成的に傾斜した材料界面によるそれらの置換のためのポリマーとガラスとの間の優れた接着を含む。最終的には、金属を含むナノスコピックに薄いガラス層は、さもなければポリマー表面と基板を損傷するであろうフォトンおよび粒子放射線を吸収する。この同じ能力において、金属の混合物を含むナノスコピックに薄いガラス層も、燐光体およびルミネッセント材料として、または既存の燐光発光およびルミネッセント材料と組み合わせて利用できるであろう。金属化されていないPOSSに関する先行技術たとえば米国特許第6,517,958号は、半導体のルミネッセントポリマーの輝度を高めることを示しているが、金属化されたPOSSのルミネッセントの寄与に関する潜在能力を認識していない。
【0007】
米国特許第6,127,557号および第5,750,741号において検討されているように、金属化されたポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケートおよびシリコーンについての先行技術は、オレフィンのエポキシ化およびオレフィンの付加重合のための触媒作用におけるそれらの有用性に焦点を当てている。しかし、金属化されたケイ素試薬は、ポリマー安定化剤としても放射線吸収剤としても有用であるとは認識されていない。金属化されたPOSSは、縮合重合における触媒として有用であることも記載されていない。それらは、ポリウレタンとエポキシドとビスマレイミドとシリコーン材料の縮合重合において特に有用であることがわかっている。
【0008】
ポリマー安定化剤としての金属および有機金属錯体の使用は、よく知られた商業品目である。しかし、そのような金属系安定化剤の添加剤は、それらをポリマーに組み込み、ガラス形成前駆体として作用させる形態では利用できない。
【0009】
金属および金属粒子たとえばホウ素およびガドリニウムの使用は、高速中性子腫瘍治療に有用であることも知られている。米国特許第5,630,786号および第6,248,916号を参照のこと。この先行技術の欠点は、中性子捕捉剤たとえばカルボランが十分高いプロトン濃度をもたず、高速な中性子を捕捉可能なエネルギーレベルまで十分に減速するには有効でないことである。このことは、患者に、より長い放射線被曝とより多くの中性子捕捉粒子の投与を被らせる。この欠点は、金属たとえばホウ素、サマリウムおよびガドリニウムをナノスコピックなPOSSシステムに組み込むことにより軽減される。これは、ケージの有機アーム上のプロトンが高速中性子を熱中性子化させるためである。
【0010】
ポリマーバインダーへの金属粒子の組み込み、およびそのX線、電子線放射の吸収のための絶縁保護コーティング(conformal coating)としての応用は、米国特許第6,583,432号において検討されている。しかし、この方法は、それが光学的に透明なコーティングを与えず、導電性になることを回避するには注意深い調製および塗布の手順を必要とし、熱的で高速な中性子放射に対して保護を与えないという点で欠点がある。熱中性子による損傷に対する市販電子部品の感度は、低コストで中性子に有効なポリマー遮蔽材料がないように、周知である。したがって、パッシベーティングガラス層を持つかまたは持たない絶縁保護コーティングまたはポッティング剤における中性子放射の特異的吸収のための金属化されたケイ素含有試薬の使用は、先行技術のコーティングに対する必要とされる改善項目である。
【0011】
ポリマー上にガラスコーティングおよび金属化されたガラスコーティングを製造するための多数の先行技術の方法が知られている。そのような方法は、高温焼結、スパッタリング、気相成長、ゾル−ゲルおよびコーティング法を含み、それらはすべて追加の製造工程を必要とし、高速の成形および押出加工を適用できない。また、それらの先行技術の方法は、ガラスとポリマーの層間の弱い界面結合を被る。また、先行技術は、単一のガラス層中で良好に画定されたナノスコピックな構造に金属および非金属原子を組み込む能力に欠点がある。最後に、先行技術は、ナノスコピックに薄いガラス表面を製造することができず、その結果それらの方法はフレキシブルフィルムパッケージングの高速製造、および特にボトリングとフィルム製造に適用できない。
【0012】
本発明のケイ素含有試薬は、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、およびポリヘドラルオリゴメリックシリケートのような低コストシリコーンに基づくものによって最もよく例示される。図1は、シロキサン、シルセスキオキサンおよびシリケートの例を含むケイ素含有試薬のいくつかの典型例を例示する。そのような構造のR基は、Hからアルカン、アルケン、アルキン、芳香族、およびエーテル、酸、アミン、チオール、ホスフェートを含む置換された有機系、ならびにハロゲン化されたR基までの範囲でありうる。構造と組成は金属化された誘導体を含むことも意図し、その場合、高いZから低いZの範囲の金属を図2に示す構造に組み込むことができる。
【0013】
ケイ素含有試薬はすべて、内部フレームワークが主として無機ケイ素−酸素結合で構成される共通のハイブリッド(すなわち有機−無機)組成を共有する。穏やかなさらなる酸化を行うと、それらの系は容易にシリカガラスを形成する。ナノ構造の外部は、反応性および非反応性の両方の有機官能基(R)によって被覆され、その官能基は有機ポリマーを持つナノ構造の適合性と設計性を確実にする。ナノ構造の化学物質のそれらのおよび他の特性は、Lichtenhanへの米国特許第5,412,053号および米国特許第5,484,867号において詳細に検討され、それらの両方とも参照により本明細書に組み込まれている。それらのナノ構造の化学物質は低密度のものであり、直径が0.5から5.0nmの範囲であり、ミクロンサイズの金属フィラーと組み合わせて利用することができる。
【0014】
発明の概要
本発明は、新規な一連のポリマー添加剤および放射線の吸収におけるその利用、ガスおおび液体バリア形成、縮合重合の触媒作用、およびナノスコピックなガラス層のインサイチュ形成を記述する。金属化されたPOSSは、それ自身で、またはポリマーもしくは金属もしくは複合材料と組み合わせて、または繊維、クレー、ガラス、金属、鉱物および他の粒子フィラーのようなマクロスコピックな補強材と組み合わせて非常に有用である。
【0015】
金属化されたPOSSは、特有の放射線吸収、発光および屈折特性を有するポリマー組成物として、ならびに良好な印刷性、ステイン耐性、ガスおよび液体バリア特性のためのパッケージングにおいて特に有用である。また、金属化されたPOSSは、反応性モノマーの縮合重合の触媒作用においても有用である。最後に、金属化および非金属化POSSはナノスコピックな薄膜ガラス層のインサイチュ形成にとって有用である。
【0016】
本明細書において示されている好ましい組成物は、3つの主な材料の組み合わせを含んでいる。(1)シリコーン、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、ポリシルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、ポリシリケート、ポリオキソメタレート、カルボラン、ボランの化学的クラスからのナノ構造の化学物質、ナノ構造のオリゴマー、またはナノ構造のポリマーを含むケイ素含有試薬、(2)アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ランタノイドおよびアクチノイド金属を含む金属原子、(3)人造ポリマー系たとえばポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、エポキシ、シアネートエステル、マレイミド、フェノール樹脂、ポリイミド、フルオロポリマー、ゴム、およびセルロース性物質、糖、デンプン、たんぱく質、キチンを含む天然ポリマー、およびそれらのすべての半結晶性、結晶性、非晶性、グラッシー、エラストマーのポリマーおよびコポリマーである。
【0017】
ケイ素含有試薬を熱可塑性物質に組み込む好ましい方法は、溶融ポリマーに溶融混合することにより達成される。ケイ素含有試薬の熱硬化性物質への組み込みは、溶融ブレンド、粉砕または溶媒補助による方法により、または適合化されたモノマーへの溶解により達成することができる。溶融ブレンド、乾燥ブレンド、溶解ブレンド、反応性および非反応性ブレンドを含むブレンドのすべてのタイプと技術が有効である。
【0018】
加えて、特定のポリマーへのケイ素含有試薬の選択的な組み込みと最大充填レベルは、アロイ化すべきポリマー中の領域の化学ポテンシャルと適合した化学ポテンシャル(混和性)を有するケイ素含有試薬の使用により達成することができる。その化学的性質のために、ケイ素含有試薬は、ポリマーチェーンおよびポリマーコイル中の選択されたシーケンスおよびセグメントと適合性または不適合性を示すように設計することができる。それらの物理的サイズを設計可能な適合性と組み合わせると、ナノ構造の化学物質に基づくケイ素含有試薬をポリマーに選択的に組み込み、コイル、ブロック、ドメインおよびセグメントの動力学を制御し、続いて多数の物理的特性に良好に作用することを可能とする。1〜3nmレベルの分散の達成を例示する写真を図3に示す。
【0019】
ケイ素含有試薬を用いてアロイ化されるポリマーから成形されるかポリマーによってコーティングされる製品上でのインサイチュガラスうわぐすりを形成するプロセスは、製品を酸素プラズマ、オゾンまたは他の非常に酸化性のある媒体に曝すことによって実施される。それらの化学的酸化方法は、それらが現在の工業的プロセスであり、それらがポリマー表面の加熱を必ずしももたらさないので望ましい。成形される製品に関しては位相幾何学的な制約はない。アロイ化されたポリマーから得られる薄いフィルムおよび厚い部品の両方とも、ナノメートル厚さの表面ガラス層を含むように加工できる。最も効率的であり、それゆえ好ましい酸化方法は酸素プラズマである。しかし、ケイ素含有試薬のRがH、メチルまたはビニルであるアロイの場合、それらはオゾン、ペルオキシド、または加熱水蒸気へ曝露するとガラスに変換することができる。上記方法に対する信頼性の高い代替法は、酸化炎または酸化雰囲気で操作するレーザーの使用である。方法の選択は、化学試薬、ポリマーアロイ系、ケイ素含有化学試薬の充填レベル、試薬の表面凝集、望ましいシリカ表面の厚さ、および製造上の考慮点に依存する。アロイ化材料およびインサイチュガラス化材料の模式図を図4に示す。
【0020】
表面を酸化源に曝すと、1〜500nmのガラスのナノスコピックに薄い層が生じるであろう。ケイ素含有試薬が金属を含んでいたならば、その場合には図5に示すように金属もガラス層に組み込まれるだろう。ナノスコピックなガラス表面層の形成から生じる利点は、図6に示すようなより平滑な表面、ガスおよび液体に対するバリア特性、優れた酸化安定性、可燃性の減少、優れた電気特性、優れた印刷性、優れたステイン耐性およびスクラッチ耐性および優れた放射線耐性を含む。
【0021】
ナノ構造のための化学式表現の定義
本発明の化学組成物を理解する目的のために、ケイ素含有試薬、特にポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)およびポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)ナノ構造体の化学式表現を以下に定義する。
【0022】
ポリシルセスキオキサンは式[RSiO1.5]∞(式中、∞は重合のモル度を表し、Rは有機置換基(H、シロキシ、環状または直鎖状の脂肪族または芳香族官能基[これらはさらに反応性官能基たとえばアルコール、チオール、エステル、アミン、アルデヒド、酸、ケトン、エステル、オレフィン、エーテルを含んでいてもよく、またハロゲンを含んでいてもよい]を表す)によって表される物質である。ポリシルセスキオキサンは、ホモレプティックでもヘテロレプティックでもよい。ホモレプティック系は1つのタイプのR基のみを含むが、ヘテロレプティック系は2以上のタイプのR基を含む。
【0023】
POSSおよびPOSナノ構造体組成物が下記化学式によって表されるように、ケイ素含有試薬のサブセットが分類される。
【0024】
ホモレプティック組成物の場合に[(RSiO1.5)n]Σ#
ヘテロレプティック組成物(式中R≠R’)の場合に[(RSiO1.5)n(R’SiO1.5)m]Σ#
ヘテロ官能化されたヘテロレプティック組成物の場合に[(RSiO1.5)n(RSiO1.0)m(M)j]Σ#
官能化されたヘテロレプティック組成物(式中、R基は等価または不等価でありうる)の場合に[(RSiO1.5)n(RXSiO1.0)m]Σ#。
【0025】
上記のすべてにおいて、Rは上記定義と同じであり、XはOH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、ペルオキシド(OOR)、アミン(NR2)、イソシアネート(NCO)、およびRを含むが、これらに限定されない。記号m、nおよびjは、組成の化学量論を表す。記号Σは組成物がナノ構造を形成することを示し、記号#はナノ構造体中に含まれるケイ素原子の数を示す。#の値は通常m+nの合計であり、nは典型的には1から24の範囲にあり、mは典型的には1から12の範囲にある。なお、Σ#は化学量論を決定するための乗数と混同すべきではない。というのは、それは系の全体のナノ構造特性(akaケージサイズ)を記述しているだけだからである。記号Mは組成物中の金属元素を表し、Zの高い金属および低い金属、特にAl、B、Ga、Gd、Ce、W、Ni、Er、Y、Zn、Mn、Os、Ir、Ta、Cd、Cu、Ag、V、As、Tb、In、Ba、Ti、Sm、Sr、Pb、Lu、Cs、Tl、Teを含む。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、放射線の吸収、ガスおよび液体バリア特性の形成、縮合ポリマーの触媒作用、屈折率の制御、発光特性の制御、レーザーマーキング、ポリマー材料中でのガラス層のインサイチュ形成、および分子レベルでのポリマーコイル、ドメイン、チェーンおよびセグメントの補強のためのアロイ化剤としてのケイ素含有試薬の使用を教示している。
【0027】
ケイ素含有試薬たとえばナノ構造の化学物質がこの能力において機能することを可能にする鍵は以下のものを含む。(1)ポリマーチェーンの寸法に関する独特のサイズ、(2)ポリマー系と適合化されナノスコピックなレベルで均一に分散し、ポリマーチェーンによるナノ補強剤の非適合性と排除を促進する反発力に打ち勝つ能力、(3)ハイブリッド組成物と選択的な酸化剤への曝露によりガラス化する能力、および(4)金属をケイ素含有試薬およびそれから作り出される対応するガラスに化学的に組み込む能力。したがって、放射線吸収のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、放射の特定の波長およびタイプ、ケイ素含有試薬の充填レベル、ならびにポリマーの光学的、電子的、および物理的特性を含む。発光および屈折率特性のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、望ましい特定の波長、望ましい感度、ケイ素含有試薬の充填レベル、ならびにポリマーの光学的、電子的、および物理的特性を含む。縮合ポリマーの触媒作用のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、重合のタイプ、望ましい重合速度、必要な金属のタイプを含む。透過性制御とガラス化のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、ナノ構造の化学物質のナノサイズ、ナノサイズの分布、ナノ構造の化学物質とポリマー系との間の適合性と分散性、ケイ素含有試薬の充填レベル、望ましいシリカ層の厚さ、ならびにポリマーの光学的、電気的、および物理的特性を含む。
【0028】
図1および図2に例示したケイ素含有試薬たとえばポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンのようなは、金属を含むかまたは含まない、固体およびオイルとして入手できる。両方の形態とも、溶融ポリマーまたは溶媒に溶解するか、または直接反応してポリマーになるか、またはそれら自身がバインダー材料として利用される。POSSの場合、分散は混合の自由エネルギーの式(ΔG=ΔH−TΔS)によって熱力学的に支配されるようである。R基の性質ならびにポリマーおよび表面と反応または相互作用するPOSSケージ上の反応性基の能力は好ましいエンタルピー(ΔH)項に大いに寄与し、一方でエントロピー(ΔS)項はモノスコピックなケージサイズおよび1.0の分布のために非常に好ましい。
【0029】
分散を駆動する上記の熱力学的な力は、高剪断混合の間に起こるような動力学的混合力によって、溶媒ブレンドまたはアロイ化にも寄与する。動力学的分散は、多くのポリマーの加工温度かその近くで溶融する一部のケイ素含有試薬の能力によっても補助される。
【0030】
化学パラメーターおよび加工パラメーターを制御することにより、図3に示すように1.5nmレベルでのポリマーのナノ補強およびアロイ化を、実質的にあらゆるポリマー系について達成することができる。ケイ素含有試薬をマクロスコピックなフィラーと組み合わせて利用し、物理的特性、バリア、ステイン耐性および放射線吸収の強化に対して同様の望ましい利点を与えることもできる。したがって、金属化されたまたはハロゲン化されたケイ素含有試薬をタングステンまたはホウ素粒子と組み合わせて用い、他のタイプのイオン化または非イオン化放射線に対して耐性を持つ高度に中性子吸収の有効なコーティングを与えることもできる。そのような例では、同位体により富化されたホウ素、サマリウムおよびガドリニウムのアイソトープを含む金属化されたケイ素含有試薬が特に有用である。そのようなコーティングは、地球および宇宙ベースのエレクトロニクス、ミラー、ポータル、構造体および乗り物にとって、ならびに地球および宇宙ベースのセンサー、マイクロエレクトロメカニカルマシーン(MEMS)および食品パッケージングにとって価値の高いものである。
【0031】
本発明は、ケイ素含有試薬、好ましくはナノ構造の化学物質のポリマーへの直接ブレンドによって特性強化を実現できることを示している。
【0032】
ナノ構造の化学物質と同様にケイ素含有試薬は、分子スフェアと同様に球状形状(単結晶X線回折研究による)を有するので、そしてそれらは溶解するので、それらはポリマー系の粘度を減少させるのにも有効である。このことは、そのようなナノアロイ化されたポリマーを用いる製品の加工、成形またはコーティングに利益をもたらすうえに、化学物質のナノスコピックな性質により個々のポリマーチェーンの補強という追加の利益がある。つづいてナノアロイ化されたポリマーを酸化剤に曝露すると、曝露表面でのナノスコピックなガラスのインサイチュ形成をもたらす。図4および図6は、シリコーンたとえばシルセスキオキサンを酸化してガラスにすることを示している。ナノアロイ化ポリマーを酸化源に曝すと、ケイ素−R結合が切断され、R基が揮発性反応副生物として失われる。ケイ素への原子価はケージの溶融とともに酸素原子の架橋により維持され、こうして図5の溶融ガラスの当量にする。したがって、このガラス表面層のインサイチュ形成の容易さは、ナノ構造のケイ素含有試薬の使用により得られるが、一方で従来技術は表面上でのミクロン厚さのガラス層の形成をもたらす2次コーティングまたは堆積法を使用する必要がある。ポリマー内部およびポリマー全体を通してのケイ素含有試薬のナノスコピックに分散する性質は、成形製品の内側と外側でのガラス層の形成を与える(図11)。これはボトルおよびパウチのような製品についてはきわめて有利である。というのは、それは内側と外側にインサイチュ形成されたガラスバリアを可能にし、一方で酸化源が殺菌をもたらすからである。また、そのようなガラス層は、それらがパッケージ上に直接製品情報を印刷するためにより望ましい表面を与えるので有利である。
【0033】
そのようなナノアロイ化されたポリマーの使用による追加の利点は、表面ガラス層がなくなった際に、そのような材料が自己修復する能力である。そのような場合、元のガラス表面の下にあるナノスコピックなケイ素含有試薬は、酸化剤への曝露により新たな修復ガラス表面層へのインサイチュ変換を起こすのに利用できる。適合性、分散性、サイズおよび製造の容易さに関するそのような制御は、従来のフィラーおよびコーティング技術では先例がない。ケイ素含有試薬の充填レベルは、0.1重量%〜99重量%の範囲でよく、好ましい範囲は1〜30重量%である。
【0034】
例
すべてのプロセスに適用できる一般的なプロセス変数
化学プロセスで典型的なように、任意のプロセスの純度、選択性、速度および機構を制御するために用いることができる多くの変数がある。ケイ素含有試薬のプラスチックへの組み込みのプロセスに影響を与える変数は、ナノスコピック試薬のサイズおよび多分散性ならびに組成を含む。同様に、ポリマー系の分子量、多分散性および組成も、ケイ素含有試薬とポリマーとの間で適合していなければならない。最後に、コンパウンドまたは混合プロセスの間に用いられる、動力学、熱力学、加工助剤、フィラーも、組み込みにより得られる充填レベルおよび補強度合に影響しうる交換の道具である。ブレンドプロセスたとえば溶融ブレンド、乾燥ブレンド、および溶液混合ブレンドは、ナノスコピックなケイ素含有試薬をプラスチックに混合しアロイ化するにあたりすべて有効である。
【0035】
代替方法:溶媒補助の配合。ケイ素含有試薬を所望のポリマー、プレポリマーまたはモノマーを含む容器に入れ、十分な量の有機溶媒(たとえばヘキサン、トルエン、ジクロロメタンなど)またはフッ素化溶媒に溶解して、1つの均質相を形成することができる。次いで、混合物を高い剪断力下において十分な温度で攪拌して、30分間適切な混合を確保した後、揮発性溶媒を除去し、真空下または蒸留を含む同様のタイプのプロセスを用いて回収する。なお、CO2のような超臨界流体を可燃性の炭化水素溶媒のための置換物として利用してもよい。その後、得られた配合物を直接用いるかまたは次の加工に用いてもよい。
【0036】
以下に示す例は、特定の材料の組み合わせまたは条件に限定するものとして解釈すべきではない。
【0037】
例1.水分およびガスバリア
ケイ素含有試薬を、ツインスクリューミキサーを用いて溶融コンパウンドすることよりポリマーに組み込み、フィルムに加工した後、非ガラス化フィルム(図4a)およびガラス化(酸化)フィルム(図4b)についてMocon(登録商標)装置で透過性測定を行った。
【0038】
典型的な酸素プラズマ処理は100%出力下で1秒から5分の範囲である。典型的なオゾン分解処理は1秒から5分間の範囲であり、オゾンを、CH2Cl2溶液を通してビニル基あたり0.03当量のO3で供給する。典型的な水蒸気処理は1秒間から5分間の範囲である。典型的な酸化炎処理は1秒間から5分間の範囲である。同様の酸化は、酸化媒質中で操作するレーザーの使用によるレーザーマーキング法によって得られるであろう。
【表1】
【0039】
この知見は、ポリマーへの少量のPOSSの組み込みにより、酸素および水に対する低い透過性をもたらすことを示している。輸送に対するバリアは、表面のガラスを形成する酸化によりさらに減少した。
【0040】
例2.中性子放射バリア
さまざまな充填レベルのGd POSSを含む光学的に透明な試料をFireQuench(登録商標)1287樹脂系に配合した。Au箔をGd POSS(登録商標)FireQuench(登録商標)アロイの間に挟んだ。次いで試料をワット分裂中性子スペクトル(エネルギー範囲:1〜20MeV、平均:略1MeV)を与える中性子反応器に曝した。熱中性子(0.0253eV)および熱外中性子(>0.5eV)のフラックスのみを測定した。合計の中性子フラックスを、高純度金箔を用いて測定した。関与した反応はAu−197(n,£^)Au−198である。カドミウムカバーを用いて、合計の中性子フラックスのうち熱成分を決定した。測定した金箔中の誘導活量から、絶対フラックスを決定した。ガンマ線分光分析を、エネルギーと効率について較正した高純度ゲルマニウム検出器(HPGe)で実施した。950kWで測定した中性子フラックス分布は、3.57E+07n/cm2−secの熱中性子および1.27E+07n/cm2−secの熱外中性子である。フラックス測定での計算誤差は0.75%である。中性子フラックスの減少は、樹脂に充填したGd POSSの重量%とともに線形に変化した。熱中性子の2/3減少には50重量%天然産出Gd POSSを含む1mm厚さの絶縁保護コーティングが必要となり(図9)、一方で同位体により富化された157Gdのわずか0.1mm厚さのコーティングが試料レベルの保護を与えるであろう(図10)、ということが計算された。同様の結果が、ホウ素およびサマリウムPOSS系で得られた。したがって、熱中性子損傷からの電子部品の保護が、B、Sm、またはGd POSS添加剤を含む絶縁保護コーティングを用いて達成できる。それらの添加剤を複合樹脂に組み込んで、中性子シールドとして役立つ構造複合材にすることもできる。POSSケージあたりで多数の水素原子があると、さらに高速中性子を熱中性子化することを助け、そうしてB、SmまたはGd原子によるそれらの捕捉を可能にする。高速中性子を熱中性子化してそれらを捕捉するためにB、SmおよびGd POSSを使用することは、それらが高速中性子腫瘍治療におけるより有効な中性子捕捉剤として機能することも可能にする。
【0041】
例3.UV、VUV、可視光線バリアおよび発光添加剤
さまざまな金属化されたPOSSの試料を、UVから可視光線に曝した。それらの吸収特性を図12に示す。吸収特性は、系中に含まれる金属の調整により調節できることが明らかである。たとえば、CeおよびTi系のPOSSは、吸収の狭いAl POSSよりも広いスペクトルのUV線に対して特に良好な吸収剤である。さらに、それらの系は光学的に透明なポリマーおよび複合材料に組み込むことができ、次いでナノスコピックに薄いガラス表面層に変換でき、放射線吸収トップコートとしてさらに利点を与えるであろうということが示されている。それらのコーティングは、150nmで劣化するシリコーンを含むさまざまのポリマー、および243nmで劣化するポリカーボネートで有用性があるであろう。
【0042】
いくつかの金属化されたPOSS系の発光特性はさらに有用である。たとえば、Tb POSSはブラックライトに曝すと強力な緑色発光体になり、ErPOSSはX線によって励起すると発光体になる。ポリマーにアロイ化されるかまたはナノスコピックに制御されたガラスに組み込まれたそのような系は、光学ディスプレー、サインに、および太陽電池の保護コーティングとして有用性があり、太陽電池ではそれらは損傷性があるか不要な放射線を吸収して、太陽電池による電気発生のために有用な範囲において再発光する。
【0043】
例4.屈折率層
さまざまな金属化されたPOSSを含む光学的に透明な試料を、FireQuench(登録商標)1287樹脂系に配合した。屈折率の値を、異なる入射波長で屈折計を用いて測定した。このシリーズは、屈折率を、金属の変化により狭く、または官能基(たとえばチオール)の変化により急激に微調整する能力を示している。金属により偏極しやすい電子があるかまたはPOSSケージにR基があると、屈折率により大きなシフトをもたらす。
【表2】
【0044】
例5.縮合重合触媒
二片のポリウレタン、エポキシド、およびシロキサンからなる光学的に透明な試料を、さまざまな金属化されたPOSSを用いた触媒作用によって得た。たとえば、1ppmレベル以上に充填したTi POSSはポリウレタンの高速縮合重合を促進することがわかり、SnPOSSはシラノールおよびシラン配合シリコーンの硬化に有利であることがわかった。それぞれの場合に、硬化は温度と触媒充填の増加により加速された。それらの金属化された触媒の特に有利な点は、その大きな原子量に起因して、可燃性およびマイグレーションが低いことである。さらなる利点は、ガラスに変換され、フィラーとして機能して収縮を減少し得られるポリマーの透過特性の酸化を改善することである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】非金属化ケイ素含有試薬の代表的な構造例を示す。
【図2】金属化ケイ素含有試薬の代表的な構造例を示す。
【図3】ポリマーの表面およびバルクに1〜3nmレベルのナノ構造化のケイ素試薬の均一に分散する能力を示す。
【図4】アロイ化された材料とナノスコピックに表面がガラス化された材料との概念的な比較を示す。
【図5】シリコン試薬を溶融したナノスコピックに薄いガラス層に酸化変換する化学プロセスを示す。
【図6】アロイ化された表面およびインサイチュガラス化された表面の粗さを示す。
【図7】集積回路を絶縁保護コートする能力を示す。
【図8】中性子放射を減衰する能力を示す。
【図9】絶縁保護コーティングに50%充填された天然産出のGd POSSについて有効遮蔽レベルを示す。
【図10】絶縁保護コーティングに50%充填された157アイソトープにより富化されたGd POSSについて有効遮蔽レベルを示す。
【図11】成形されたプラスチック製品の内側と外側にナノスコピックに薄いバリア層を形成する能力を示す。
【図12】金属化されたPOSSについてUV吸収範囲を示す。
【発明の開示】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、2003年12月18日に出願された米国仮出願第60/531,458号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、人造または天然起源の熱可塑性および熱硬化性ポリマーおよびそれらの組成物の特性を高める方法に関する。より具体的には、本発明は、放射線吸収、インサイチュガラス化、ガスおよび水分バリア、および表面およびバルク特性の改良のためにそのようなポリマーへのナノ構造の化学物質の組み込みに関する。
【0003】
そのような材料の応用は、放射線耐性、ステイン耐性、印刷性、スクラッチ耐性、低透過性、低表面粗さ、および独特の電子的および光学的特性に恩恵を被るコーティングおよび成形品における使用を含む。
【0004】
発明の背景
本発明は、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンまたは金属化されたポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、およびシリコーンの、ポリマー材料とアロイ化可能な試薬としての使用に関する。ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンおよび金属化ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケート、シリコーンを、以下、ケイ素含有試薬という。
【0005】
ケイ素含有試薬は、米国特許第6,441,210号においてAbbenhuisらにより報告されているように、以前には金属原子を錯体化するために利用されていた。米国特許第6,716,919号およびWO01/72885A1においてLichtenhanらにより検討されているように、そのようなケイ素含有試薬はケイ素と金属原子をポリマーチェーンとナノスコピックなレベルで均一に分散させアロイ化するために有用である。米国特許第6,767,930号においてLichtenhanらにより検討されているように、ケイ素含有試薬を原子状酸素の存在下で変換して、原子状酸素からの宇宙船の保護に有用なガラス状シリカ層を形成することができる。
【0006】
さて、驚くべきことに、そのようなケイ素含有試薬はガスおよび液体バリアの形成のためおよび放射線を吸収するための添加剤として有用であることも発見された。そのような能力において、ポリマーにアロイ化されているがナノスコピックに薄いガラスバリアのインサイチュ形成のためにも好ましく用いることができる場合、ケイ素含有試薬はそれ自体有効である。このプロセスは、ケイ素含有試薬を含むポリマーを酸素プラズマ、オゾンまたは酸化炎に曝すことにより容易に実施することができる。得られるナノスコピックに薄いガラス層は、例外的なバリアおよび放射線吸収特性を与える。そのような酸化剤に曝すと、ケイ素含有試薬は表面をシリカおよび金属化されたシリカからなるガラス層にする。その方法とナノスコピックに薄いガラス層の利点は、人の肉眼での検出不可能性、靭性と可撓性、ロールでの貯蔵と薄膜フィルムパッケージングのための適性、水分およびガスに対する不透過性、直接印刷性、ステイン耐性、スクラッチ耐性、ガラスよりも低いコストおよび軽い重量、ディスクリートな組成のボンドラインの除去および組成的に傾斜した材料界面によるそれらの置換のためのポリマーとガラスとの間の優れた接着を含む。最終的には、金属を含むナノスコピックに薄いガラス層は、さもなければポリマー表面と基板を損傷するであろうフォトンおよび粒子放射線を吸収する。この同じ能力において、金属の混合物を含むナノスコピックに薄いガラス層も、燐光体およびルミネッセント材料として、または既存の燐光発光およびルミネッセント材料と組み合わせて利用できるであろう。金属化されていないPOSSに関する先行技術たとえば米国特許第6,517,958号は、半導体のルミネッセントポリマーの輝度を高めることを示しているが、金属化されたPOSSのルミネッセントの寄与に関する潜在能力を認識していない。
【0007】
米国特許第6,127,557号および第5,750,741号において検討されているように、金属化されたポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、シリケートおよびシリコーンについての先行技術は、オレフィンのエポキシ化およびオレフィンの付加重合のための触媒作用におけるそれらの有用性に焦点を当てている。しかし、金属化されたケイ素試薬は、ポリマー安定化剤としても放射線吸収剤としても有用であるとは認識されていない。金属化されたPOSSは、縮合重合における触媒として有用であることも記載されていない。それらは、ポリウレタンとエポキシドとビスマレイミドとシリコーン材料の縮合重合において特に有用であることがわかっている。
【0008】
ポリマー安定化剤としての金属および有機金属錯体の使用は、よく知られた商業品目である。しかし、そのような金属系安定化剤の添加剤は、それらをポリマーに組み込み、ガラス形成前駆体として作用させる形態では利用できない。
【0009】
金属および金属粒子たとえばホウ素およびガドリニウムの使用は、高速中性子腫瘍治療に有用であることも知られている。米国特許第5,630,786号および第6,248,916号を参照のこと。この先行技術の欠点は、中性子捕捉剤たとえばカルボランが十分高いプロトン濃度をもたず、高速な中性子を捕捉可能なエネルギーレベルまで十分に減速するには有効でないことである。このことは、患者に、より長い放射線被曝とより多くの中性子捕捉粒子の投与を被らせる。この欠点は、金属たとえばホウ素、サマリウムおよびガドリニウムをナノスコピックなPOSSシステムに組み込むことにより軽減される。これは、ケージの有機アーム上のプロトンが高速中性子を熱中性子化させるためである。
【0010】
ポリマーバインダーへの金属粒子の組み込み、およびそのX線、電子線放射の吸収のための絶縁保護コーティング(conformal coating)としての応用は、米国特許第6,583,432号において検討されている。しかし、この方法は、それが光学的に透明なコーティングを与えず、導電性になることを回避するには注意深い調製および塗布の手順を必要とし、熱的で高速な中性子放射に対して保護を与えないという点で欠点がある。熱中性子による損傷に対する市販電子部品の感度は、低コストで中性子に有効なポリマー遮蔽材料がないように、周知である。したがって、パッシベーティングガラス層を持つかまたは持たない絶縁保護コーティングまたはポッティング剤における中性子放射の特異的吸収のための金属化されたケイ素含有試薬の使用は、先行技術のコーティングに対する必要とされる改善項目である。
【0011】
ポリマー上にガラスコーティングおよび金属化されたガラスコーティングを製造するための多数の先行技術の方法が知られている。そのような方法は、高温焼結、スパッタリング、気相成長、ゾル−ゲルおよびコーティング法を含み、それらはすべて追加の製造工程を必要とし、高速の成形および押出加工を適用できない。また、それらの先行技術の方法は、ガラスとポリマーの層間の弱い界面結合を被る。また、先行技術は、単一のガラス層中で良好に画定されたナノスコピックな構造に金属および非金属原子を組み込む能力に欠点がある。最後に、先行技術は、ナノスコピックに薄いガラス表面を製造することができず、その結果それらの方法はフレキシブルフィルムパッケージングの高速製造、および特にボトリングとフィルム製造に適用できない。
【0012】
本発明のケイ素含有試薬は、シルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、およびポリヘドラルオリゴメリックシリケートのような低コストシリコーンに基づくものによって最もよく例示される。図1は、シロキサン、シルセスキオキサンおよびシリケートの例を含むケイ素含有試薬のいくつかの典型例を例示する。そのような構造のR基は、Hからアルカン、アルケン、アルキン、芳香族、およびエーテル、酸、アミン、チオール、ホスフェートを含む置換された有機系、ならびにハロゲン化されたR基までの範囲でありうる。構造と組成は金属化された誘導体を含むことも意図し、その場合、高いZから低いZの範囲の金属を図2に示す構造に組み込むことができる。
【0013】
ケイ素含有試薬はすべて、内部フレームワークが主として無機ケイ素−酸素結合で構成される共通のハイブリッド(すなわち有機−無機)組成を共有する。穏やかなさらなる酸化を行うと、それらの系は容易にシリカガラスを形成する。ナノ構造の外部は、反応性および非反応性の両方の有機官能基(R)によって被覆され、その官能基は有機ポリマーを持つナノ構造の適合性と設計性を確実にする。ナノ構造の化学物質のそれらのおよび他の特性は、Lichtenhanへの米国特許第5,412,053号および米国特許第5,484,867号において詳細に検討され、それらの両方とも参照により本明細書に組み込まれている。それらのナノ構造の化学物質は低密度のものであり、直径が0.5から5.0nmの範囲であり、ミクロンサイズの金属フィラーと組み合わせて利用することができる。
【0014】
発明の概要
本発明は、新規な一連のポリマー添加剤および放射線の吸収におけるその利用、ガスおおび液体バリア形成、縮合重合の触媒作用、およびナノスコピックなガラス層のインサイチュ形成を記述する。金属化されたPOSSは、それ自身で、またはポリマーもしくは金属もしくは複合材料と組み合わせて、または繊維、クレー、ガラス、金属、鉱物および他の粒子フィラーのようなマクロスコピックな補強材と組み合わせて非常に有用である。
【0015】
金属化されたPOSSは、特有の放射線吸収、発光および屈折特性を有するポリマー組成物として、ならびに良好な印刷性、ステイン耐性、ガスおよび液体バリア特性のためのパッケージングにおいて特に有用である。また、金属化されたPOSSは、反応性モノマーの縮合重合の触媒作用においても有用である。最後に、金属化および非金属化POSSはナノスコピックな薄膜ガラス層のインサイチュ形成にとって有用である。
【0016】
本明細書において示されている好ましい組成物は、3つの主な材料の組み合わせを含んでいる。(1)シリコーン、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)、ポリシルセスキオキサン、ポリヘドラルオリゴメリックシリケート、ポリシリケート、ポリオキソメタレート、カルボラン、ボランの化学的クラスからのナノ構造の化学物質、ナノ構造のオリゴマー、またはナノ構造のポリマーを含むケイ素含有試薬、(2)アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ランタノイドおよびアクチノイド金属を含む金属原子、(3)人造ポリマー系たとえばポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、エポキシ、シアネートエステル、マレイミド、フェノール樹脂、ポリイミド、フルオロポリマー、ゴム、およびセルロース性物質、糖、デンプン、たんぱく質、キチンを含む天然ポリマー、およびそれらのすべての半結晶性、結晶性、非晶性、グラッシー、エラストマーのポリマーおよびコポリマーである。
【0017】
ケイ素含有試薬を熱可塑性物質に組み込む好ましい方法は、溶融ポリマーに溶融混合することにより達成される。ケイ素含有試薬の熱硬化性物質への組み込みは、溶融ブレンド、粉砕または溶媒補助による方法により、または適合化されたモノマーへの溶解により達成することができる。溶融ブレンド、乾燥ブレンド、溶解ブレンド、反応性および非反応性ブレンドを含むブレンドのすべてのタイプと技術が有効である。
【0018】
加えて、特定のポリマーへのケイ素含有試薬の選択的な組み込みと最大充填レベルは、アロイ化すべきポリマー中の領域の化学ポテンシャルと適合した化学ポテンシャル(混和性)を有するケイ素含有試薬の使用により達成することができる。その化学的性質のために、ケイ素含有試薬は、ポリマーチェーンおよびポリマーコイル中の選択されたシーケンスおよびセグメントと適合性または不適合性を示すように設計することができる。それらの物理的サイズを設計可能な適合性と組み合わせると、ナノ構造の化学物質に基づくケイ素含有試薬をポリマーに選択的に組み込み、コイル、ブロック、ドメインおよびセグメントの動力学を制御し、続いて多数の物理的特性に良好に作用することを可能とする。1〜3nmレベルの分散の達成を例示する写真を図3に示す。
【0019】
ケイ素含有試薬を用いてアロイ化されるポリマーから成形されるかポリマーによってコーティングされる製品上でのインサイチュガラスうわぐすりを形成するプロセスは、製品を酸素プラズマ、オゾンまたは他の非常に酸化性のある媒体に曝すことによって実施される。それらの化学的酸化方法は、それらが現在の工業的プロセスであり、それらがポリマー表面の加熱を必ずしももたらさないので望ましい。成形される製品に関しては位相幾何学的な制約はない。アロイ化されたポリマーから得られる薄いフィルムおよび厚い部品の両方とも、ナノメートル厚さの表面ガラス層を含むように加工できる。最も効率的であり、それゆえ好ましい酸化方法は酸素プラズマである。しかし、ケイ素含有試薬のRがH、メチルまたはビニルであるアロイの場合、それらはオゾン、ペルオキシド、または加熱水蒸気へ曝露するとガラスに変換することができる。上記方法に対する信頼性の高い代替法は、酸化炎または酸化雰囲気で操作するレーザーの使用である。方法の選択は、化学試薬、ポリマーアロイ系、ケイ素含有化学試薬の充填レベル、試薬の表面凝集、望ましいシリカ表面の厚さ、および製造上の考慮点に依存する。アロイ化材料およびインサイチュガラス化材料の模式図を図4に示す。
【0020】
表面を酸化源に曝すと、1〜500nmのガラスのナノスコピックに薄い層が生じるであろう。ケイ素含有試薬が金属を含んでいたならば、その場合には図5に示すように金属もガラス層に組み込まれるだろう。ナノスコピックなガラス表面層の形成から生じる利点は、図6に示すようなより平滑な表面、ガスおよび液体に対するバリア特性、優れた酸化安定性、可燃性の減少、優れた電気特性、優れた印刷性、優れたステイン耐性およびスクラッチ耐性および優れた放射線耐性を含む。
【0021】
ナノ構造のための化学式表現の定義
本発明の化学組成物を理解する目的のために、ケイ素含有試薬、特にポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)およびポリヘドラルオリゴメリックシリケート(POS)ナノ構造体の化学式表現を以下に定義する。
【0022】
ポリシルセスキオキサンは式[RSiO1.5]∞(式中、∞は重合のモル度を表し、Rは有機置換基(H、シロキシ、環状または直鎖状の脂肪族または芳香族官能基[これらはさらに反応性官能基たとえばアルコール、チオール、エステル、アミン、アルデヒド、酸、ケトン、エステル、オレフィン、エーテルを含んでいてもよく、またハロゲンを含んでいてもよい]を表す)によって表される物質である。ポリシルセスキオキサンは、ホモレプティックでもヘテロレプティックでもよい。ホモレプティック系は1つのタイプのR基のみを含むが、ヘテロレプティック系は2以上のタイプのR基を含む。
【0023】
POSSおよびPOSナノ構造体組成物が下記化学式によって表されるように、ケイ素含有試薬のサブセットが分類される。
【0024】
ホモレプティック組成物の場合に[(RSiO1.5)n]Σ#
ヘテロレプティック組成物(式中R≠R’)の場合に[(RSiO1.5)n(R’SiO1.5)m]Σ#
ヘテロ官能化されたヘテロレプティック組成物の場合に[(RSiO1.5)n(RSiO1.0)m(M)j]Σ#
官能化されたヘテロレプティック組成物(式中、R基は等価または不等価でありうる)の場合に[(RSiO1.5)n(RXSiO1.0)m]Σ#。
【0025】
上記のすべてにおいて、Rは上記定義と同じであり、XはOH、Cl、Br、I、アルコキシド(OR)、アセテート(OOCR)、ペルオキシド(OOR)、アミン(NR2)、イソシアネート(NCO)、およびRを含むが、これらに限定されない。記号m、nおよびjは、組成の化学量論を表す。記号Σは組成物がナノ構造を形成することを示し、記号#はナノ構造体中に含まれるケイ素原子の数を示す。#の値は通常m+nの合計であり、nは典型的には1から24の範囲にあり、mは典型的には1から12の範囲にある。なお、Σ#は化学量論を決定するための乗数と混同すべきではない。というのは、それは系の全体のナノ構造特性(akaケージサイズ)を記述しているだけだからである。記号Mは組成物中の金属元素を表し、Zの高い金属および低い金属、特にAl、B、Ga、Gd、Ce、W、Ni、Er、Y、Zn、Mn、Os、Ir、Ta、Cd、Cu、Ag、V、As、Tb、In、Ba、Ti、Sm、Sr、Pb、Lu、Cs、Tl、Teを含む。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、放射線の吸収、ガスおよび液体バリア特性の形成、縮合ポリマーの触媒作用、屈折率の制御、発光特性の制御、レーザーマーキング、ポリマー材料中でのガラス層のインサイチュ形成、および分子レベルでのポリマーコイル、ドメイン、チェーンおよびセグメントの補強のためのアロイ化剤としてのケイ素含有試薬の使用を教示している。
【0027】
ケイ素含有試薬たとえばナノ構造の化学物質がこの能力において機能することを可能にする鍵は以下のものを含む。(1)ポリマーチェーンの寸法に関する独特のサイズ、(2)ポリマー系と適合化されナノスコピックなレベルで均一に分散し、ポリマーチェーンによるナノ補強剤の非適合性と排除を促進する反発力に打ち勝つ能力、(3)ハイブリッド組成物と選択的な酸化剤への曝露によりガラス化する能力、および(4)金属をケイ素含有試薬およびそれから作り出される対応するガラスに化学的に組み込む能力。したがって、放射線吸収のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、放射の特定の波長およびタイプ、ケイ素含有試薬の充填レベル、ならびにポリマーの光学的、電子的、および物理的特性を含む。発光および屈折率特性のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、望ましい特定の波長、望ましい感度、ケイ素含有試薬の充填レベル、ならびにポリマーの光学的、電子的、および物理的特性を含む。縮合ポリマーの触媒作用のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、重合のタイプ、望ましい重合速度、必要な金属のタイプを含む。透過性制御とガラス化のためのケイ素含有試薬の選択を果たすための要因は、ナノ構造の化学物質のナノサイズ、ナノサイズの分布、ナノ構造の化学物質とポリマー系との間の適合性と分散性、ケイ素含有試薬の充填レベル、望ましいシリカ層の厚さ、ならびにポリマーの光学的、電気的、および物理的特性を含む。
【0028】
図1および図2に例示したケイ素含有試薬たとえばポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンのようなは、金属を含むかまたは含まない、固体およびオイルとして入手できる。両方の形態とも、溶融ポリマーまたは溶媒に溶解するか、または直接反応してポリマーになるか、またはそれら自身がバインダー材料として利用される。POSSの場合、分散は混合の自由エネルギーの式(ΔG=ΔH−TΔS)によって熱力学的に支配されるようである。R基の性質ならびにポリマーおよび表面と反応または相互作用するPOSSケージ上の反応性基の能力は好ましいエンタルピー(ΔH)項に大いに寄与し、一方でエントロピー(ΔS)項はモノスコピックなケージサイズおよび1.0の分布のために非常に好ましい。
【0029】
分散を駆動する上記の熱力学的な力は、高剪断混合の間に起こるような動力学的混合力によって、溶媒ブレンドまたはアロイ化にも寄与する。動力学的分散は、多くのポリマーの加工温度かその近くで溶融する一部のケイ素含有試薬の能力によっても補助される。
【0030】
化学パラメーターおよび加工パラメーターを制御することにより、図3に示すように1.5nmレベルでのポリマーのナノ補強およびアロイ化を、実質的にあらゆるポリマー系について達成することができる。ケイ素含有試薬をマクロスコピックなフィラーと組み合わせて利用し、物理的特性、バリア、ステイン耐性および放射線吸収の強化に対して同様の望ましい利点を与えることもできる。したがって、金属化されたまたはハロゲン化されたケイ素含有試薬をタングステンまたはホウ素粒子と組み合わせて用い、他のタイプのイオン化または非イオン化放射線に対して耐性を持つ高度に中性子吸収の有効なコーティングを与えることもできる。そのような例では、同位体により富化されたホウ素、サマリウムおよびガドリニウムのアイソトープを含む金属化されたケイ素含有試薬が特に有用である。そのようなコーティングは、地球および宇宙ベースのエレクトロニクス、ミラー、ポータル、構造体および乗り物にとって、ならびに地球および宇宙ベースのセンサー、マイクロエレクトロメカニカルマシーン(MEMS)および食品パッケージングにとって価値の高いものである。
【0031】
本発明は、ケイ素含有試薬、好ましくはナノ構造の化学物質のポリマーへの直接ブレンドによって特性強化を実現できることを示している。
【0032】
ナノ構造の化学物質と同様にケイ素含有試薬は、分子スフェアと同様に球状形状(単結晶X線回折研究による)を有するので、そしてそれらは溶解するので、それらはポリマー系の粘度を減少させるのにも有効である。このことは、そのようなナノアロイ化されたポリマーを用いる製品の加工、成形またはコーティングに利益をもたらすうえに、化学物質のナノスコピックな性質により個々のポリマーチェーンの補強という追加の利益がある。つづいてナノアロイ化されたポリマーを酸化剤に曝露すると、曝露表面でのナノスコピックなガラスのインサイチュ形成をもたらす。図4および図6は、シリコーンたとえばシルセスキオキサンを酸化してガラスにすることを示している。ナノアロイ化ポリマーを酸化源に曝すと、ケイ素−R結合が切断され、R基が揮発性反応副生物として失われる。ケイ素への原子価はケージの溶融とともに酸素原子の架橋により維持され、こうして図5の溶融ガラスの当量にする。したがって、このガラス表面層のインサイチュ形成の容易さは、ナノ構造のケイ素含有試薬の使用により得られるが、一方で従来技術は表面上でのミクロン厚さのガラス層の形成をもたらす2次コーティングまたは堆積法を使用する必要がある。ポリマー内部およびポリマー全体を通してのケイ素含有試薬のナノスコピックに分散する性質は、成形製品の内側と外側でのガラス層の形成を与える(図11)。これはボトルおよびパウチのような製品についてはきわめて有利である。というのは、それは内側と外側にインサイチュ形成されたガラスバリアを可能にし、一方で酸化源が殺菌をもたらすからである。また、そのようなガラス層は、それらがパッケージ上に直接製品情報を印刷するためにより望ましい表面を与えるので有利である。
【0033】
そのようなナノアロイ化されたポリマーの使用による追加の利点は、表面ガラス層がなくなった際に、そのような材料が自己修復する能力である。そのような場合、元のガラス表面の下にあるナノスコピックなケイ素含有試薬は、酸化剤への曝露により新たな修復ガラス表面層へのインサイチュ変換を起こすのに利用できる。適合性、分散性、サイズおよび製造の容易さに関するそのような制御は、従来のフィラーおよびコーティング技術では先例がない。ケイ素含有試薬の充填レベルは、0.1重量%〜99重量%の範囲でよく、好ましい範囲は1〜30重量%である。
【0034】
例
すべてのプロセスに適用できる一般的なプロセス変数
化学プロセスで典型的なように、任意のプロセスの純度、選択性、速度および機構を制御するために用いることができる多くの変数がある。ケイ素含有試薬のプラスチックへの組み込みのプロセスに影響を与える変数は、ナノスコピック試薬のサイズおよび多分散性ならびに組成を含む。同様に、ポリマー系の分子量、多分散性および組成も、ケイ素含有試薬とポリマーとの間で適合していなければならない。最後に、コンパウンドまたは混合プロセスの間に用いられる、動力学、熱力学、加工助剤、フィラーも、組み込みにより得られる充填レベルおよび補強度合に影響しうる交換の道具である。ブレンドプロセスたとえば溶融ブレンド、乾燥ブレンド、および溶液混合ブレンドは、ナノスコピックなケイ素含有試薬をプラスチックに混合しアロイ化するにあたりすべて有効である。
【0035】
代替方法:溶媒補助の配合。ケイ素含有試薬を所望のポリマー、プレポリマーまたはモノマーを含む容器に入れ、十分な量の有機溶媒(たとえばヘキサン、トルエン、ジクロロメタンなど)またはフッ素化溶媒に溶解して、1つの均質相を形成することができる。次いで、混合物を高い剪断力下において十分な温度で攪拌して、30分間適切な混合を確保した後、揮発性溶媒を除去し、真空下または蒸留を含む同様のタイプのプロセスを用いて回収する。なお、CO2のような超臨界流体を可燃性の炭化水素溶媒のための置換物として利用してもよい。その後、得られた配合物を直接用いるかまたは次の加工に用いてもよい。
【0036】
以下に示す例は、特定の材料の組み合わせまたは条件に限定するものとして解釈すべきではない。
【0037】
例1.水分およびガスバリア
ケイ素含有試薬を、ツインスクリューミキサーを用いて溶融コンパウンドすることよりポリマーに組み込み、フィルムに加工した後、非ガラス化フィルム(図4a)およびガラス化(酸化)フィルム(図4b)についてMocon(登録商標)装置で透過性測定を行った。
【0038】
典型的な酸素プラズマ処理は100%出力下で1秒から5分の範囲である。典型的なオゾン分解処理は1秒から5分間の範囲であり、オゾンを、CH2Cl2溶液を通してビニル基あたり0.03当量のO3で供給する。典型的な水蒸気処理は1秒間から5分間の範囲である。典型的な酸化炎処理は1秒間から5分間の範囲である。同様の酸化は、酸化媒質中で操作するレーザーの使用によるレーザーマーキング法によって得られるであろう。
【表1】
【0039】
この知見は、ポリマーへの少量のPOSSの組み込みにより、酸素および水に対する低い透過性をもたらすことを示している。輸送に対するバリアは、表面のガラスを形成する酸化によりさらに減少した。
【0040】
例2.中性子放射バリア
さまざまな充填レベルのGd POSSを含む光学的に透明な試料をFireQuench(登録商標)1287樹脂系に配合した。Au箔をGd POSS(登録商標)FireQuench(登録商標)アロイの間に挟んだ。次いで試料をワット分裂中性子スペクトル(エネルギー範囲:1〜20MeV、平均:略1MeV)を与える中性子反応器に曝した。熱中性子(0.0253eV)および熱外中性子(>0.5eV)のフラックスのみを測定した。合計の中性子フラックスを、高純度金箔を用いて測定した。関与した反応はAu−197(n,£^)Au−198である。カドミウムカバーを用いて、合計の中性子フラックスのうち熱成分を決定した。測定した金箔中の誘導活量から、絶対フラックスを決定した。ガンマ線分光分析を、エネルギーと効率について較正した高純度ゲルマニウム検出器(HPGe)で実施した。950kWで測定した中性子フラックス分布は、3.57E+07n/cm2−secの熱中性子および1.27E+07n/cm2−secの熱外中性子である。フラックス測定での計算誤差は0.75%である。中性子フラックスの減少は、樹脂に充填したGd POSSの重量%とともに線形に変化した。熱中性子の2/3減少には50重量%天然産出Gd POSSを含む1mm厚さの絶縁保護コーティングが必要となり(図9)、一方で同位体により富化された157Gdのわずか0.1mm厚さのコーティングが試料レベルの保護を与えるであろう(図10)、ということが計算された。同様の結果が、ホウ素およびサマリウムPOSS系で得られた。したがって、熱中性子損傷からの電子部品の保護が、B、Sm、またはGd POSS添加剤を含む絶縁保護コーティングを用いて達成できる。それらの添加剤を複合樹脂に組み込んで、中性子シールドとして役立つ構造複合材にすることもできる。POSSケージあたりで多数の水素原子があると、さらに高速中性子を熱中性子化することを助け、そうしてB、SmまたはGd原子によるそれらの捕捉を可能にする。高速中性子を熱中性子化してそれらを捕捉するためにB、SmおよびGd POSSを使用することは、それらが高速中性子腫瘍治療におけるより有効な中性子捕捉剤として機能することも可能にする。
【0041】
例3.UV、VUV、可視光線バリアおよび発光添加剤
さまざまな金属化されたPOSSの試料を、UVから可視光線に曝した。それらの吸収特性を図12に示す。吸収特性は、系中に含まれる金属の調整により調節できることが明らかである。たとえば、CeおよびTi系のPOSSは、吸収の狭いAl POSSよりも広いスペクトルのUV線に対して特に良好な吸収剤である。さらに、それらの系は光学的に透明なポリマーおよび複合材料に組み込むことができ、次いでナノスコピックに薄いガラス表面層に変換でき、放射線吸収トップコートとしてさらに利点を与えるであろうということが示されている。それらのコーティングは、150nmで劣化するシリコーンを含むさまざまのポリマー、および243nmで劣化するポリカーボネートで有用性があるであろう。
【0042】
いくつかの金属化されたPOSS系の発光特性はさらに有用である。たとえば、Tb POSSはブラックライトに曝すと強力な緑色発光体になり、ErPOSSはX線によって励起すると発光体になる。ポリマーにアロイ化されるかまたはナノスコピックに制御されたガラスに組み込まれたそのような系は、光学ディスプレー、サインに、および太陽電池の保護コーティングとして有用性があり、太陽電池ではそれらは損傷性があるか不要な放射線を吸収して、太陽電池による電気発生のために有用な範囲において再発光する。
【0043】
例4.屈折率層
さまざまな金属化されたPOSSを含む光学的に透明な試料を、FireQuench(登録商標)1287樹脂系に配合した。屈折率の値を、異なる入射波長で屈折計を用いて測定した。このシリーズは、屈折率を、金属の変化により狭く、または官能基(たとえばチオール)の変化により急激に微調整する能力を示している。金属により偏極しやすい電子があるかまたはPOSSケージにR基があると、屈折率により大きなシフトをもたらす。
【表2】
【0044】
例5.縮合重合触媒
二片のポリウレタン、エポキシド、およびシロキサンからなる光学的に透明な試料を、さまざまな金属化されたPOSSを用いた触媒作用によって得た。たとえば、1ppmレベル以上に充填したTi POSSはポリウレタンの高速縮合重合を促進することがわかり、SnPOSSはシラノールおよびシラン配合シリコーンの硬化に有利であることがわかった。それぞれの場合に、硬化は温度と触媒充填の増加により加速された。それらの金属化された触媒の特に有利な点は、その大きな原子量に起因して、可燃性およびマイグレーションが低いことである。さらなる利点は、ガラスに変換され、フィラーとして機能して収縮を減少し得られるポリマーの透過特性の酸化を改善することである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】非金属化ケイ素含有試薬の代表的な構造例を示す。
【図2】金属化ケイ素含有試薬の代表的な構造例を示す。
【図3】ポリマーの表面およびバルクに1〜3nmレベルのナノ構造化のケイ素試薬の均一に分散する能力を示す。
【図4】アロイ化された材料とナノスコピックに表面がガラス化された材料との概念的な比較を示す。
【図5】シリコン試薬を溶融したナノスコピックに薄いガラス層に酸化変換する化学プロセスを示す。
【図6】アロイ化された表面およびインサイチュガラス化された表面の粗さを示す。
【図7】集積回路を絶縁保護コートする能力を示す。
【図8】中性子放射を減衰する能力を示す。
【図9】絶縁保護コーティングに50%充填された天然産出のGd POSSについて有効遮蔽レベルを示す。
【図10】絶縁保護コーティングに50%充填された157アイソトープにより富化されたGd POSSについて有効遮蔽レベルを示す。
【図11】成形されたプラスチック製品の内側と外側にナノスコピックに薄いバリア層を形成する能力を示す。
【図12】金属化されたPOSSについてUV吸収範囲を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー表面上にガラス層を形成する方法であって、
(a)ポリマーに少なくとも1種のナノスコピックに分散されサイズ分けされたケイ素含有試薬を組み込む工程と、
(b)表面を酸化してガラス層を形成する工程と
を有する方法。
【請求項2】
ガラス層は、水、酸素、中性子、紫外線および可視光からなる群の要素を減衰させるバリアを提供する請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリマーの屈折率がケイ素含有試薬の選択により制御される請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマーの発光特性がケイ素含有試薬の選択により制御される請求項1記載の方法。
【請求項5】
ガラス層の形成後にポリマーをレーザーマーキングする工程をさらに有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
複数のケイ素含有試薬をポリマーに組み込む請求項1記載の方法。
【請求項7】
ポリマーがオイル、アモルファス、半結晶、結晶、エラストマー、およびゴムからなる群より選択される物理状態にある請求項1記載の方法。
【請求項8】
ポリマーがポリマーコイル、ポリマードメイン、ポリマーチェーン、ポリマーセグメント、またはそれらの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項9】
ケイ素含有試薬が分子レベルでポリマーを補強する請求項1記載の方法。
【請求項10】
組み込みが非反応性である請求項1記載の方法。
【請求項11】
組み込みが反応性である請求項1記載の方法。
【請求項12】
ポリマーの物理的特性を改善する請求項1記載の方法。
【請求項13】
物理的特性が接着、撥水性、難燃性、密度、低誘電定数、熱伝導性、ガラス転移、粘度、溶融転移、貯蔵弾性、緩和、応力輸送、摩擦抵抗、耐火性、生物学的適合性、ガス透過性、ポロシティ、放射線吸収、放射線放出、屈折率、光学品質からなる群より選択される請求項12記載の方法。
【請求項14】
組み込みがマクロスコピックまたはナノスコピックな少なくとも1種の他のフィラーまたは添加剤と組み合わせて達成される請求項1記載の方法。
【請求項15】
ケイ素含有試薬を金属化する請求項1記載の方法を有し、さらに表面酸化工程の前にモノマーを重合する工程を有する、モノマーの縮合重合触媒作用の方法。
【請求項16】
B、GdおよびSmからなる群より選択される金属をPOSSケージに組み込む工程を有する中性子放射バリアの形成方法。
【請求項17】
バリアを高速中性子治療における治療用化学物質として用いる請求項17記載の方法。
【請求項1】
ポリマー表面上にガラス層を形成する方法であって、
(a)ポリマーに少なくとも1種のナノスコピックに分散されサイズ分けされたケイ素含有試薬を組み込む工程と、
(b)表面を酸化してガラス層を形成する工程と
を有する方法。
【請求項2】
ガラス層は、水、酸素、中性子、紫外線および可視光からなる群の要素を減衰させるバリアを提供する請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリマーの屈折率がケイ素含有試薬の選択により制御される請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリマーの発光特性がケイ素含有試薬の選択により制御される請求項1記載の方法。
【請求項5】
ガラス層の形成後にポリマーをレーザーマーキングする工程をさらに有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
複数のケイ素含有試薬をポリマーに組み込む請求項1記載の方法。
【請求項7】
ポリマーがオイル、アモルファス、半結晶、結晶、エラストマー、およびゴムからなる群より選択される物理状態にある請求項1記載の方法。
【請求項8】
ポリマーがポリマーコイル、ポリマードメイン、ポリマーチェーン、ポリマーセグメント、またはそれらの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項9】
ケイ素含有試薬が分子レベルでポリマーを補強する請求項1記載の方法。
【請求項10】
組み込みが非反応性である請求項1記載の方法。
【請求項11】
組み込みが反応性である請求項1記載の方法。
【請求項12】
ポリマーの物理的特性を改善する請求項1記載の方法。
【請求項13】
物理的特性が接着、撥水性、難燃性、密度、低誘電定数、熱伝導性、ガラス転移、粘度、溶融転移、貯蔵弾性、緩和、応力輸送、摩擦抵抗、耐火性、生物学的適合性、ガス透過性、ポロシティ、放射線吸収、放射線放出、屈折率、光学品質からなる群より選択される請求項12記載の方法。
【請求項14】
組み込みがマクロスコピックまたはナノスコピックな少なくとも1種の他のフィラーまたは添加剤と組み合わせて達成される請求項1記載の方法。
【請求項15】
ケイ素含有試薬を金属化する請求項1記載の方法を有し、さらに表面酸化工程の前にモノマーを重合する工程を有する、モノマーの縮合重合触媒作用の方法。
【請求項16】
B、GdおよびSmからなる群より選択される金属をPOSSケージに組み込む工程を有する中性子放射バリアの形成方法。
【請求項17】
バリアを高速中性子治療における治療用化学物質として用いる請求項17記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−523968(P2007−523968A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545469(P2006−545469)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042422
【国際公開番号】WO2005/060671
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506207473)ハイブリッド・プラスティックス・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042422
【国際公開番号】WO2005/060671
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506207473)ハイブリッド・プラスティックス・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
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