説明

コーティング形成方法、コーティング形成装置および重合方法

【課題】精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成方法等を提供する。
【解決手段】コーティング形成材料の飽和蒸気形成工程、飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成する工程、コーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する工程、コーティング形成材料含有ガス中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板上に堆積させることによってコーティングを形成する工程を含む、コーティング形成材料のコーティング形成方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア方式の大気圧プラズマ放電を用いて、基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成する方法、基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成装置、および有機ケイ素化合物を重合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板表面を修飾またはコーティングするために一般的に使用される方法は、基板を反応容器内に置いて、プラズマ放電を施すことである。このような処理の多くの例が当該技術で知られており、例えば、特許文献1は、固体表面へ標的材料を付着させるためのプロセスを開示し、このプロセスは、低出力可変デューティサイクルパルスプラズマ蒸着によって表面に炭素系化合物を付加することを含む。また、特許文献2は、基板およびコーティングを有する装置を開示し、少なくとも1つの有機化合物またはモノマーを含む気体のプラズマ重合によって基板にコーティングが施される。特許文献3は、基板上に染料および腐食防止剤をコーティングするためのプロセスを記載する。プロセスには、基板上に液体薄膜コーティングを施し、続いてプラズマポリマー保護コーティングを施すことが包含される。プラズマポリマーコーティングは、気体モノマーおよび低圧プラズマを用いて形成される。
【0003】
しかしながら、このようなプラズマ表面処理では基板を減圧条件下に置くことが必要とされ、したがって、真空チャンバが必要とされる。通常のコーティング形成ガス圧は、1気圧(1.01×10Nm−2よりもかなり低く、5Nm−2〜25Nm−2の範囲である。減圧を必要とする結果として、表面処理は高価であると共にバッチ処理に限定される。
【0004】
一方では、大気圧下でプラズマ処理を行う試みもなされている。例えば、特許文献4には、片側が吹き出し口として開放された筒状の反応管と一対の電極とを具備して構成され、その反応管にプラズマ生成用ガスを導入し、電極の間に交流電界を印加することにより、大気圧下で反応管内にグロー状の放電を発生させ、反応管の吹き出し口からジェット状のプラズマを吹き出して、流出するプラズマにて被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、反応管の外側に一対の電極を互いに対向させて設けて成ることを特徴とするプラズマ処理装置、並びにそのプラズマ処理装置でプラズマ処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法が記載されている。尚、その反応管として、高融点の絶縁材料(誘電体材料)で円筒状に形成されるものであって、その上端がガス導入口として開放されているものが開示されている。
【0005】
しかしながら、かかる大気圧下でプラズマ処理方法では、基板上にコーティング形成材料のコーティングを精度良く形成することが困難であって、更なる改善が必要とされていた。
【0006】
また、特許文献5には、基板上にコーティングを形成する方法であって、噴霧液体および/または固体コーティング形成材料を大気圧プラズマ放電および/またはそれから発生するイオン化ガス流中に導入することと、基板をその噴霧コーティング形成材料へさらすこととを含む方法が開示され、そこではその方法によって基板を減圧条件下におくことが必要とされる従来の不利な状態を克服しようとしている。また、特許文献4には、そのコーティング形成材料として、ジメチルシロキサン、およびケイ素−水素結合を有するシロキサン等のケイ素含有材料が開示されている。更に、基板表面上にコーティング形成モノマー材料を重合させること、並びに、下部ライブ電極がガラス誘電プレートによって遮断されるものであることも開示されている。尚、特許文献4には、コーティング形成材料が有機もしくは無機の、固体、液体または気体、あるいはそれらの混合物であり得ることも開示されているものの、噴霧液体および固体コーティング形成材料以外について具体的な説明が見られない。
【0007】
しかしながら、かかる大気圧下でプラズマ処理方法においても、基板上にコーティング形成材料のコーティングを精度良く形成することが困難であって、更なる改善が必要とされていた。
【特許文献1】米国特許第5,876,753号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0896035号明細書
【特許文献3】ドイツ国特許第19924108号明細書
【特許文献4】特開2001−006897号公報
【特許文献5】特表2004−510571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、特に、精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成方法、およびコーティング形成装置、並びに、精度良く安定して有機ケイ素化合物のプラズマ重合を行うための重合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に記載の発明(以下「本願の第一発明」という)は、基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成する方法であって、コーティング形成材料の飽和蒸気を形成する飽和蒸気形成工程、飽和蒸気形成工程において形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気を誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入するコーティング形成材料飽和蒸気の導入工程、および導入工程において導入されたコーティング形成材料飽和蒸気中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板上に堆積させることによって基板上にコーティングを形成する、コーティング形成工程を含む、コーティング形成方法を提供するものである。図1において、かかる本願の第一発明でのコーティング形成方法が模式的に示される。
【0010】
かかる本願の第一発明では、特に、飽和蒸気形成工程において形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気を、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入するコーティング形成材料飽和蒸気の導入工程を採用することによって、精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成することが可能となる。
【0011】
本願の請求項2に記載の発明(以下「本願の第二発明」という)は、基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成する方法であって、コーティング形成材料の飽和蒸気を形成する飽和蒸気形成工程、飽和蒸気形成工程において形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成するコーティング形成材料含有ガスの形成工程、形成工程において形成されたコーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する、コーティング形成材料含有ガスの導入工程、並びに導入工程において導入されたコーティング形成材料含有ガス中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板上に堆積させることによって基板上にコーティングを形成する、コーティング形成工程を含む、コーティング形成方法を提供するものである。
【0012】
図2において、かかる本願の第二発明でのコーティング形成方法が模式的に示される。尚、本願の第二発明における上記のコーティング形成材料の飽和蒸気を形成する工程と、形成された飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成する工程が、同一のコーティング形成材料蒸発装置内で実施することも可能である。また、キャリアガスとして、プラズマ生成用のガスの少なくとも一部と同一のものを用いることも可能である。
【0013】
かかる本願の第二発明では、特に、飽和蒸気形成工程において形成された飽和コーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成するコーティング形成材料含有ガスの形成工程、並びに形成工程において形成されたコーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入するコーティング形成材料含有ガスの導入工程を採用することによって、精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成することが可能であって、また装置内でのコーティング形成材料の不要な重合または吸着を防止することが容易である。
【0014】
本願の請求項6に記載の発明(以下「本願の第三発明」という)は、基板(1)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成装置であって、コーティング形成材料の飽和蒸気を形成するための飽和蒸気形成手段(2)、誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)、飽和蒸気形成手段(2)によって形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気を誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)におけるプラズマ放電(6)中におよび/または誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)により発生したイオン化ガス流(7)中に導入するためのコーティング形成材料飽和蒸気の導入手段(8)、およびコーティング形成材料飽和蒸気の導入手段(8)により導入されたコーティング形成材料飽和蒸気中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板(1)上に堆積させることによって基板(1)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成手段(9)を含む、コーティング形成装置を提供するものである。コーティング形成材料飽和蒸気は、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流の上流側(10)および/または下硫側(11)に導入され得る。図3において、かかる本願の第三発明でのコーティング形成装置が模式的に示される。
【0015】
かかる本願の第三発明では、特に、飽和蒸気形成手段(2)によって形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気を誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)におけるプラズマ放電(6)中におよび/または誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)により発生したイオン化ガス流(7)中に導入するためのコーティング形成材料飽和蒸気の導入手段(8)を採用することによって、精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成することが可能となる。
【0016】
本願の請求項7に記載の発明(以下「本願の第四発明」という)は、基板(21)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成装置であって、コーティング形成材料の飽和蒸気を形成するための飽和蒸気形成手段(22)、キャリアガス供給手段(23)、飽和蒸気形成手段(22)によって形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガス供給手段(23)からのキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成するためのコーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)、誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)、コーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)によって形成されたコーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)におけるプラズマ放電(26)中におよび/または誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)により発生したイオン化ガス流(27)中に導入するためのコーティング形成材料含有ガスの導入手段(28)、並びにコーティング形成材料含有ガスの導入手段(28)により導入されたコーティング形成材料含有ガス中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板(21)上に堆積させることによって基板(21)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成手段(29)を含む、コーティング形成装置を提供するものである。コーティング形成材料含有ガスは、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流の上流側(30)および/または下硫側(31)に導入され得る。
【0017】
図4において、かかる本願の第四発明でのコーティング形成装置が模式的に示される。尚、本願の第四発明における上記のコーティング形成材料の飽和蒸気を形成する手段と、形成された飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成する手段が、同一のコーティング形成材料蒸発手段内に含めることも可能である。また、キャリアガスとして、プラズマ生成用のガスの少なくとも一部と同一のものを用いることも可能である。
【0018】
かかる本願の第四発明では、特に、飽和蒸気形成手段(22)によって形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガス供給手段(23)からのキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成するためのコーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)と、コーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)によって形成されたコーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)におけるプラズマ放電(26)中におよび/または誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)により発生したイオン化ガス流(27)中に導入するためのコーティング形成材料含有ガスの導入手段(28)を採用することによって、精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成することが可能となる。
【0019】
本願の請求項9に記載の発明(以下「本願の第五発明」という)は、有機ケイ素化合物を重合する方法であって、有機ケイ素化合物の飽和蒸気を形成する飽和蒸気形成工程、飽和蒸気形成工程において形成された有機ケイ素化合物の飽和蒸気を誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する有機ケイ素化合物飽和蒸気の導入工程、および導入工程において導入された有機ケイ素化合物飽和蒸気中の有機ケイ素化合物をプラズマ重合させるプラズマ重合工程を含む、重合方法を提供するものである。図5において、かかる本願の第五発明でのプラズマ重合が模式的に示される。
【0020】
かかる本願の第五発明では、特に、飽和蒸気形成工程において形成された有機ケイ素化合物の飽和蒸気を誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する有機ケイ素化合物飽和蒸気の導入工程を採用することによって、精度良く安定してプラズマ重合することが可能となる。
【0021】
本願の請求項10に記載の発明(以下「本願の第六発明」という)は、有機ケイ素化合物を重合する方法であって、有機ケイ素化合物の飽和蒸気を形成する飽和蒸気形成工程、飽和蒸気形成工程において形成された有機ケイ素化合物の飽和蒸気をキャリアガスと混合して有機ケイ素化合物含有ガスを形成する有機ケイ素化合物含有ガスの形成工程、形成工程において形成された有機ケイ素化合物含有ガスを誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する有機ケイ素化合物含有ガスの導入工程、および導入工程において導入された有機ケイ素化合物含有ガス中の有機ケイ素化合物のプラズマ重合させるプラズマ重合工程を含む、重合方法を提供するものである。図6において、かかる本願の第六発明でのプラズマ重合が模式的に示される。
【0022】
かかる本願の第六発明では、特に、飽和蒸気形成工程において形成された有機ケイ素化合物の飽和蒸気をキャリアガスと混合して有機ケイ素化合物含有ガスを形成する有機ケイ素化合物含有ガスの形成工程、並びに形成工程において形成された有機ケイ素化合物含有ガスを誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中におよび/または誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する有機ケイ素化合物含有ガスの導入工程を採用することによって、精度良く安定してプラズマ重合することが可能となる。
【0023】
上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対抗関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本願における「誘電体バリア型大気圧プラズマ放電」とは、電極の少なくとも一つがガスと接触する誘電体媒体と密接しているような大気圧プラズマ放電装置によって発生されるプラズマ放電を意味する。そこでのプラズマ生成用のガスとしては、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電発生のために通常使用されるものであって、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン等の希ガス、空気、水素、窒素等が挙げられる。また、誘電体媒体としては、通常使用され得るものであって、例えば、石英、アルミナなどのガラス質材料やセラミック材料からなるものが挙げられる。好ましい誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段としては、具体的には誘電体媒体で形成されたプラズマ反応菅等が挙げられる。
【0025】
本願における「誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流」とは、上記の誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流を意味し、例えば、「コーティング形成材料の飽和蒸気を誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する」とは、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中ではなくて、そこから発生したイオン化ガス流にコーティング形成材料の飽和蒸気を導入することを意味する。尚、「コーティング形成材料の飽和蒸気」とは、キャリアガスの混入されないコーティング形成材料の飽和蒸気、或いは、コーティング形成材料の飽和蒸気の流れを助けるためにコーティング形成材料の蒸気が飽和状態を維持する範囲内で少量のキャリアガスが混入されたコーティング形成材料の飽和蒸気を意味する。
【0026】
本願における「コーティング形成材料をプラズマ重合させることによって基板上にコーティングを形成する」とは、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中に、および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に、コーティング形成材料の飽和蒸気またはコーティング形成材料の飽和蒸気から得られたコーティング形成材料含有ガスを導入し、それが導入れたプラズマ放電および/またはイオン化ガス流に、基板を曝すことによって、コーティング形成材料のプラズマ重合反応と反応物の基板表面への吸着および堆積を生じさせることを意味する。特に、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中、および該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に、コーティング形成材料の飽和蒸気またはコーティング形成材料含有ガスを導入し、そしてプラズマ放電およびイオン化ガス流の混合系に基板を曝すことがより好ましい。
【0027】
本願における「基板」としては、半導体等の電子部品などの分野の用途に応じて適宜選択され得るものであって、例えば、金属、セラミック、プラスチックからなるものが挙げられる。
【0028】
本願における「コーティング形成材料」としては、例えば、基板上に薄膜を成長させるために、またはその基板表面を化学的に修飾するために使用され得るものであって、下記の如く、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)等のシロキサン化合物等が挙げられる。
【0029】
本願発明によって、その基板を腐蝕から保護するため、酸化に対するバリアを提供するため、他の材料との接着性を改良するため、および基板の表面活性を増大させるため等の種々の目的のために、コーティング形成材料のコーティングを形成された基板を得ることが出来る。例えば、酸化雰囲気中で実施されるシリカベースのコーティングは、基板のバリアおよび/または拡散特性を強化させ、基板表面へ更なる材料が接着する能力を高めることができ、また、シロキサンコーティングは、基板の疎水性、疎油性、剥離特性を増大させることができる。
【0030】
本願の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法の好ましい一つの態様としての請求項3に記載の発明では、飽和蒸気形成工程がコーティング形成材料の液体からコーティング形成材料の飽和蒸気を形成するものである、コーティング形成方法が挙げられる。具体的には、例えば、コーティング形成材料の液体を蒸発器等の蒸発手段によって蒸発させて、一定の圧力(通常は大気圧)および一定の温度(通常は沸点)に保持することによって、コーティング形成材料の飽和蒸気が形成され得る。尚、蒸発手段としては、プラスチック製のものが好ましく、またバブリングを用いて蒸発を促進しても良いが、不要なミストの同伴を防ぐためにバブリングを用いない方が好ましい場合もある。また、形成されたコーティング形成材料飽和蒸気は、コーティング形成材料の再凝縮を防止するために、コーティング形成材料飽和蒸気の導入工程、またはコーティング形成材料含有ガスの形成工程の直前までにおいて配管等の温度を一定に保つことが重要である。
【0031】
このように、コーティング形成材料の液体からコーティング形成材料の飽和蒸気を形成することによって、大気圧下で温度を制御することによって、コーティング形成材料の飽和蒸気が容易に安定して得られる。
【0032】
本願の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法の好ましい一つの態様としての請求項4に記載の発明では、コーティング形成材料が有機ケイ素化合物である、コーティング形成方法が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、通常、ジメチルシロキサン、HMDSO、TEOS、ケイ素‐水素結合を有するシロキサン等が挙げられ、中でもHMDSO、TEOS、ジメチルシロキサンが好ましく、特にHMDSO、TEOS、ジメチルシロキサンが好ましい。
【0033】
このように、コーティング形成材料が有機ケイ素化合物である場合には、コーティング形成材料の飽和蒸気がより容易に安定して得られ、本発明のコーティング形成方法によって得られるコーティング形成された基板が半導体分野等の広い範囲に渡って使用され得る。
【0034】
本願の第二発明におけるコーティング形成方法の好ましい一つの態様としての請求項5に記載の発明では、コーティング形成材料含有ガスの形成工程が、コーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガスに一定比率で混合させるものである、コーティング形成方法が挙げられる。キャリアガスの具体例としては、アルゴン、ヘリウム等があげられ、中でもアルゴンが好ましい。尚、キャリアガスとして、プラズマ生成用のガスの一部または全部を用いることも可能である。また、コーティング形成材料の飽和蒸気とキャリアガスの混合比率としては、コーティング形成材料の種類、コーティングの厚さ、コーティング形成された基板の用途等によって、適宜選択され得るものである。
【0035】
尚、上記のコーティング形成材料の飽和蒸気を形成する工程と、形成された飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成する工程が、同一のコーティング形成材料蒸発装置内で実施することが、好ましい態様として挙げられる。
【0036】
所定の一定比率でコーティング形成材料とキャリアガスが混合されたコーティング形成材料含有ガスは、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に、即ち、図4に示される誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅34の上流側30(矢印A3の方向)および/または下硫側31(矢印A4の方向)に導入される。コーティング形成材料含有ガスの導入は、誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅の上流側および下硫側のいずれか、たとえば上流側のみでも良いが、上流側および下硫側の両方への導入でも良い。また、所定の一定比率で混合されたコーティング形成材料含有ガスは、コーティング形成材料の再凝縮を防止するために、コーティング形成材料含有ガスの導入工程直前までにおいて配管等の加熱または保温を行うことが好ましい。
【0037】
かかる本願の第二発明におけるコーティング形成方法の態様では、上流側のみでコーティング形成材料含有ガスが導入される場合が好ましい。その場合には、上流側(図4の矢印A3の方向)に導入されるコーティング形成材料含有ガスの(コーティング形成材料):(キャリアガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。また、コーティング形成材料含有ガスと、プラズマ生成用ガス供給手段38からのプラズマ生成用ガスの比率(コーティング形成材料+キャリアガス):(プラズマ生成用ガス)としても、好ましい範囲が適宜採用される。この場合には、下流側(図4の矢印A4の方向)に特に何も導入されない。
【0038】
また、本願の第二発明では下流側のみでコーティング形成材料含有ガスが導入されることも可能であり、その場合には下流側(図4の矢印A4の方向)での(コーティング形成材料):(キャリアガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。この場合には、上流側(図4の矢印A3の方向)には、通常使用されるプラズマ生成用ガスがその供給手段38から導入される。そこでの(上流側に導入されるプラズマ生成用ガス):(下流側で導入されるコーティング形成材料+キャリアガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。
【0039】
その他に、上流側および下硫側の両方へ導入することも可能であり、その場合の上流側での(コーティング形成材料+キャリアガス):(プラズマ生成用ガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用され、下硫側での(コーティング形成材料):(キャリアガス)の比率としても、好ましい範囲が適宜採用される。また、そこでの(上流側で導入されるコーティング形成材料+キャリアガス+プラズマ生成用ガス):(下流側で導入されるコーティング形成材料+キャリアガス)の比率として、好ましい範囲が適宜採用される。
【0040】
このように、コーティング形成材料含有ガスの形成工程において、コーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガスに一定比率で混合されることによって、コーティング形成材料含有ガスが安定して得られ、結果として本発明のコーティング形成方法によるコーティングがより安定して形成され得る。
【0041】
また、本願の第一発明におけるコーティング形成方法では、コーティング形成材料の飽和蒸気が、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に、即ち、図3に示される誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅14の上流側10(矢印A1の方向)および/または下硫側11(矢印A2の方向)に導入される。コーティング形成材料の飽和蒸気の導入は、誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅の上流側および下硫側のいずれか、たとえば下流側のみでも良いが、上流側および下硫側の両方への導入でも良い。
【0042】
かかる本願の第一発明におけるコーティング形成方法の態様では、キャリアガスを用いないコーティング形成材料の飽和蒸気、または、コーティング形成材料の飽和蒸気の流れを助けるためにコーティング形成材料の蒸気が飽和状態を維持する範囲内で少量のキャリアガスが混入されたコーティング形成材料の飽和蒸気が、下流側のみで導入される場合が好ましい。その場合には、下流側(図3の矢印A2の方向)でのコーティング形成材料の飽和蒸気と、プラズマ生成用ガスがその供給手段18から上流側(図3の矢印A1の方向)に導入されるプラズマ生成用ガスの比率(下流側に導入されるコーティング形成材料の飽和蒸気):(上流側に導入されるプラズマ生成用ガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。
【0043】
また、上流側のみでコーティング形成材料の飽和蒸気が導入されることも可能であり、その場合には、下流側(図3の矢印A2の方向)にはなにも導入されず、上流側(図3の矢印A1の方向)に、コーティング形成材料の飽和蒸気と共に、通常使用されるプラズマ生成用ガスがその供給手段18から供給される。この場合には、上流側に導入される(プラズマ生成用ガス):(コーティング形成材料の飽和蒸気)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。
【0044】
その他に、上流側および下硫側の両方へコーティング形成材料の飽和蒸気を導入することも可能であり、その場合の上流側での(コーティング形成材料の飽和蒸気):(プラズマ生成用ガス)の比率としては、好ましい範囲が適宜採用される。また、そこでの(上流側で導入されるコーティング形成材料の飽和蒸気+プラズマ生成用ガス):(下流側で導入されるコーティング形成材料の飽和蒸気)の比率としても、好ましい範囲が適宜採用される。
【0045】
かかる本願の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法では、コーティング形成工程において、誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅に導入されたコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板上に堆積させることによって基板上にコーティングが形成されるが、誘電体バリア型大気圧プラズマ反応菅でのプラズマ重合処理時間、プラズマ重合処理電力、プラズマ重合処理温度、およびプラズマ重合処理圧力としては、好ましい範囲が適宜採用される。また、コーティングの厚さとしては、コーティング形成された基板の用途等によって適宜選択され得る。
【0046】
本願の第三発明および第四発明におけるコーティング形成装置の好ましい一つの態様としての請求項8に記載の発明では、コーティング形成材料が有機ケイ素化合物である、コーティング形成装置が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、上記の本願の第一発明および第二発明でのコーティング形成方法におけるのと同様のものが挙げられる。
【0047】
また、本願の第三発明および第四発明におけるコーティング形成装置の好ましい一つの態様として、コーティング形成に合わせて基板を適宜走行させるための基板走行手段を備えたものが挙げられ、そのことによって連続して精度良く安定して基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成することが可能となる。かかる基板走行手段の好ましいものとしては、具体的にマニュピレータロボット等が挙げられる。
【0048】
本願の第三発明および第四発明におけるコーティング形成装置において、上記の本発明の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法についての態様が可能な範囲で適用され得る。尚、そのコーティング形成装置における飽和蒸気形成手段(2)、(22)としては具体的には蒸発器等が挙げられ、キャリアガス供給手段(23)としては具体的にはガスボンベ、ガスタンク等が挙げられ、コーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)としては具体的にはガス混合容器等が挙げられる。
【0049】
本願の第五発明および第六発明におけるプラズマ重合方法においても、上記の本発明の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法についての態様が可能な範囲で適用され得る。また、本願の第五発明および第六発明のプラズマ重合方法は、上記本願の第一発明および第二発明におけるコーティング形成方法で基板上へのコーティングの限定の無い上位概念に相当するものとも言える。
【0050】
図3は、上記の本願第三発明によるコーティング形成装置の1実施態様例の模式図であって、飽和蒸気形成手段2、プラズマ生成用ガスの供給手段18、誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段5、飽和蒸気形成手段2によって形成されたコーティング形成材料の飽和蒸気を誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段5におけるプラズマ放電6中および/またはイオン化ガス流7中に導入するためのコーティング形成材料飽和蒸気の導入手段8、および導入されたコーティング形成材料飽和蒸気中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板1上に堆積させることによって基板1上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成手段9を含むものである。尚、コーティング形成手段9としては、具体的に図3に示されるような円筒状の吹き出し菅の他、断面が長方形、楕円形などの筒状の吹き出し菅、それらの先端に向けて細くテーパー状なった吹き出し菅等が挙げられる。
【0051】
その誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段5は、一対の電極12、13を反応管14の外周にそれぞれ接触させて設けると共に電極12と電極13を上下に対向させて配置することによって形成されており、反応管14の内部において電極12と電極13の間に放電空間15が形成されている。一対の電極12、13のうち、一方の電極12は高周波を発生する電源16と接続されて高電圧が印加される高圧電極として形成されており、他方の電極13は接地されて低電圧となる接地電極として形成されている。尚、コーティング形成材料飽和蒸気の導入手段8の一方は反応管14の上流側10(矢印A1の方向)に連結され、他方は下流側11(矢印A2の方向)に設けられた菅17に連結されている。
【0052】
図8および図9には、コーティング形成材料の飽和蒸気を形成する手段2としてのコーティング形成材料の蒸発手段が例示されている。そこでは、発生したコーティング形成材料の飽和蒸気が、図3に示される誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段5におけるプラズマ放電6中および/またはイオン化ガス流7中へ飽和蒸気が流れるのを助けるために、コーティング形成材料の蒸気が飽和状態を維持する範囲内で少量のキャリアガス50,60が、ガス配管52,62を通って、収納容器53,63内に導入される。収納容器53,63内では、充填された液状のコーティング形成材料が温度調節プレート55,65によって所定の温度に加熱されて、その温度に対応したコーティング形成材料の蒸気が発生し、導入されたキャリアガスと混合されたコーティング形成材料の飽和蒸気が形成される。混合されたガスは、ガス配管56,66を通って、コーティング形成材料の飽和蒸気として流出する。図8はバブリングの無い場合のものであり、図9はバブリングの有る場合のものである。
【0053】
図4は、上記の本願第四発明によるコーティング形成装置の1実施態様例の模式図であって、コーティング形成材料の飽和蒸気形成手段22、キャリアガス供給手段23、プラズマ生成用ガスの供給手段38、コーティング形成材料含有ガスの形成手段24、誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段25、コーティング形成材料含有ガスを誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段25におけるプラズマ放電26中および/またはイオン化ガス流27中に導入するためのコーティング形成材料含有ガスの導入手段28、および導入されたコーティング形成材料含有ガス中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板21上に堆積させることによって基板21上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成手段29を含むものである。尚、コーティング形成手段29としては、具体的に図4に示されるような円筒状の吹き出し菅の他、断面が長方形、楕円形などの筒状の吹き出し菅、それらの先端に向けて細くテーパー状なった吹き出し菅等が挙げられる。尚、コーティング形成材料の飽和蒸気形成手段22としては、コーティング形成材料の蒸発手段が挙げられるが、ここでも、図8および図9に示されるように、コーティング形成材料含有ガス形成手段24にコーティング形成材料の飽和蒸気が流れるのを助けるために、コーティング形成材料の蒸気が飽和状態を維持する範囲内で少量のキャリアガスを混入するための手段を備えたコーティング形成材料の蒸発手段であっても良い。
【0054】
その誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段25は、一対の電極32、33を反応管34の外周にそれぞれ接触させて設けると共に電極32と電極33を上下に対向させて配置することによって形成されており、反応管34の内部において電極32と電極33の間に放電空間35が形成されている。一対の電極32、33のうち、一方の電極32は高周波を発生する電源36と接続されて高電圧が印加される高圧電極として形成されており、他方の電極33は接地されて低電圧となる接地電極として形成されている。尚、コーティング形成材料飽和蒸気の導入手段28の一方は反応管34の上流側30(矢印A3の方向)に連結され、他方は下流側31(矢印A4の方向)に設けられた菅37に連結されている。
【0055】
図7に示されるように、電極12、13または電極32、33は、その冷却効率を高くするために熱伝導性の高い金属材料、例えば、銅、アルミニウム、真鍮、耐食性の高いステンレス鋼(SUS304など)などで形成されており、電極12、13または電極32、33は同形であって、環状(リング状)に形成されている。各々の略中央部には上下に貫通する挿着孔40が形成されており、挿着孔40の孔径は反応管14または反応管34の外径とほぼ同一に形成されている。また、各電極の内部は冷媒が流通可能な流通部41として形成されており、各電極の外周面には流通部41と連通する供給管42と排出管43が突設されている。
【0056】
反応管14(34)の内部には、体積減少具を設けて形成することが、効率的なプラズマ放電を実現する上で好ましい。その体積減少具としては、中身が詰まった棒体で形成してもよいが、冷媒で冷却可能な二重管構造に形成するのが好ましい。反応管14(34)の内部に挿入される二重管構造の体積減少具としては、円筒状の冷却管と導入管から構成され、冷却管の内周面と導入管の外周面の間が冷媒の通る冷媒流路として形成されたものが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に本願発明についての実施例を挙げて更に具体的に本願発明を説明するが、それらの実施例によって本願発明が何ら限定されるものではない。
【0058】
実施例1
図4に示す構造のコーティング形成装置を形成した。即ち、コーティング形成材料の飽和蒸気形成手段22としてコーティング形成材料の蒸発器、キャリアガス供給手段23としてキャリアガスのボンベ、コーティング形成材料含有ガスの形成手段24として混合容器を用いた。尚、飽和蒸気形成手段22としてのコーティング形成材料の蒸発器は、図8に示されるように、コーティング形成材料を蒸発させるための加熱手段55とその加熱温度の制御手段(図示せず)が備えられており、更に、蒸発したコーティング形成材料の飽和蒸気をコーティング形成材料含有ガス形成手段24へ供給するのを助けるために、コーティング形成材料の蒸気が飽和状態を維持する範囲内で少量のキャリアガスを蒸発器に供給する手段50等も備えている。
また、誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段25として、反応管34としては石英ガラス管を用い、外径を8mm、内径を5mmに形成し、電極32と電極33は銅製であって、各電極の幅(反応管34に対して平行方向の長さ)、高圧電極となる電極32、接地電極となる電極33、および電極32と電極33の間隔を適宜設定し、電極32および電極33を冷却する冷媒としては純水を用いたものを使用した。飽和蒸気形成手段22、キャリアガス供給手段23、コーティング形成材料含有ガスの形成手段24および誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段25間を配管で連結し、飽和蒸気形成手段22、コーティング形成材料含有ガスの形成手段24および誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段25間の、導入手段28等の配管を、コーティング形成材料の再凝縮を防止するために加熱保温した。コーティング形成材料含有ガスの導入手段28により、矢印A3の方向に導入されたコーティング形成材料含有ガス中のコーティング形成材料をプラズマ重合させて基板21上に堆積させることによって基板21上にコーティング形成材料のコーティングを形成するための、コーティング形成手段29として、内径5mmで長さ120mmの円筒状の吹き出し菅を用いた。尚、コーティング形成材料含有ガス形成手段24から矢印A4の方向への導入手段28は採用せずに、形成手段24から矢印A3の方向への導入手段28のみを採用した。また、コーティング形成に合わせて基板21を走行させるための基板走行手段(図示せず)も備えた。
【0059】
基板21としては、アルミ板A3003(神戸製鋼製)の基板を使用した。これは、1mm厚の圧延アルミ基板(サイズは30×100mm)である。コーティング形成材料としては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:山中セミコンダクター社製)を使用して、飽和蒸気形成手段22としての図8に示される蒸発器において、アルゴンガスを所定の量で供給して、HMDSOとアルゴンの所定の体積比のHMDSO飽和蒸気を、大気圧下、25℃で発生させて、キャリアガスとしてのアルゴンガスとHMDSO含有ガスの形成手段24で混合し、導入手段28を介してHMDSO含有ガスを矢印A3の方向に供給した。尚、飽和蒸気形成手段22の出口以降の配管、HMDSO含有ガスの形成手段24および導入手段28を所定の温度に保持した。プラズマ生成用ガスを所定の割合で混合して、反応管34の上部のプラズマ生成用ガス供給口(図示せず)から所定の温度で供給した。そして所定の温度大気圧に保持された反応管34において、電極32、33により放電空間35に高周波電界を印加してプラズマ放電26を発生させ、これをコーティング形成手段29から吹き出して基板21の表面に所定秒間供給して、コーティング形成を行った。
【0060】
形成されたコーティングをSEM観察、XPS分析によって評価した結果、基材の走行距離に渡って均一なコーティングが精度良く安定して形成されたことが確認された。
【0061】
実施例2
図3に示す構造のコーティング形成装置を形成した。即ち、上記の実施例1において、図4に示す構造のコーティング形成装置におけるキャリアガス供給手段23とコーティング形成材料含有ガスの形成手段24を除いたこと以外は、上記の実施例1に示すコーティング形成装置と同様の構造のコーティング形成装置を形成した。尚、図3において、コーティング形成材料の飽和蒸気形成手段2から矢印A1の方向への導入手段8は採用せずに、飽和蒸気形成手段2から矢印A2の方向への導入手段8のみを採用した。
【0062】
また、基板1としては、実施例1と同様のものを使用した。コーティング形成材料としては、テトラエチルオルソシリケート(SOTEOS:高純度化学研究所社製)を使用して、飽和蒸気形成手段2としての図8に示される蒸発器において、アルゴンガスを所定量で供給して、SOTEOS:アルゴンの所定の体積比のSOTEOS飽和蒸気を、大気圧下、25℃で所定量で発生させて、導入手段8を介してSOTEOS飽和蒸気を矢印A2の方向に所定量で供給した。尚、その導入手段8を所定の温度に保持した。プラズマ生成用ガスとしては、実施例1と同様のものを使用し、反応管14の上部のプラズマ生成用ガス供給口から所定の温度で供給した。そして所定の温度で大気圧に保持された反応管14において、電極12、13により放電空間15に高周波電界を印加してプラズマ放電6を発生させ、これをコーティング形成手段9から吹き出して基板1の表面に所定秒間供給して、コーティング形成を行った。
【0063】
形成されたコーティングを実施例1と同様にして評価した結果、基材の走行距離に渡って均一なコーティングが精度良く安定して形成されたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本願の第一発明でのコーティング形成方法が模式的に示される。
【図2】本願の第一発明でのコーティング形成方法が模式的に示される。
【図3】本願の第三発明でのコーティング形成装置が模式的に示される。
【図4】本願の第四発明でのコーティング形成装置が模式的に示される。
【図5】本願の第五発明でのプラズマ重合が模式的に示される。
【図6】本願の第六発明でのプラズマ重合が模式的に示される。
【図7】本願の発明に使用され得る電極が斜視図で模式的に示される。
【図8】本願の発明に使用され得るコーティング形成材料蒸発手段の例が模式的に示される。
【図9】本願の発明に使用され得るコーティング形成材料蒸発手段の別の例が模式的に示される。
【符号の説明】
【0065】
1、21 基板
2、22 飽和蒸気形成手段
5、25 誘電体バリア型大気圧プラズマ放電の発生手段
6、26 プラズマ放電
8、28 導入手段
9、29 コーティング形成手段
12、13、32、33 電極
14、34 反応管
15、35 放電空間
18、38 プラズマ生成用ガスの供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成する方法であって、
該コーティング形成材料の飽和蒸気を形成する、飽和蒸気形成工程、
該飽和蒸気形成工程において形成された該コーティング形成材料の飽和蒸気を、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中に、および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する、該コーティング形成材料飽和蒸気の導入工程、および
該導入工程において導入された該コーティング形成材料飽和蒸気中の該コーティング形成材料をプラズマ重合させて該基板上に堆積させることによって該基板上にコーティングを形成する、コーティング形成工程
を含む、コーティング形成方法。
【請求項2】
基板上にコーティング形成材料のコーティングを形成する方法であって、
該コーティング形成材料の飽和蒸気を形成する、飽和蒸気形成工程、
該飽和蒸気形成工程において形成された該飽和コーティング形成材料の飽和蒸気をキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成する、コーティング形成材料含有ガスの形成工程、
該形成工程において形成された該コーティング形成材料含有ガスを、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中に、および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する、該コーティング形成材料含有ガスの導入工程、および
該導入工程において導入された該コーティング形成材料含有ガス中の該コーティング形成材料をプラズマ重合させて該基板上に堆積させることによって該基板上にコーティングを形成する、コーティング形成工程
を含む、コーティング形成方法。
【請求項3】
前記飽和蒸気形成工程が、該コーティング形成材料の液体から該コーティング形成材料の飽和蒸気を形成するものである、請求項1または2に記載のコーティング形成方法。
【請求項4】
前記コーティング形成材料が、有機ケイ素化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング形成方法。
【請求項5】
前記コーティング形成材料含有ガスの形成工程が、前記コーティング形成材料の飽和蒸気を前記キャリアガスに一定比率で混合させるものである、請求項2〜4のいずれか一項に記載のコーティング形成方法。
【請求項6】
基板(1)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成装置であって、
該コーティング形成材料の飽和蒸気を形成するための、飽和蒸気形成手段(2)、
誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)、
該飽和蒸気形成手段(2)によって形成された該コーティング形成材料の飽和蒸気を、該誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)におけるプラズマ放電(6)中に、および/または該誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(5)により発生したイオン化ガス流(7)中に導入するための、該コーティング形成材料飽和蒸気の導入手段(8)、および
該コーティング形成材料飽和蒸気の導入手段(8)により導入された該コーティング形成材料飽和蒸気中の該コーティング形成材料をプラズマ重合させて該基板(1)上に堆積させることによって該基板(1)上に該コーティング形成材料のコーティングを形成するための、コーティング形成手段(9)
を含む、コーティング形成装置。
【請求項7】
基板(21)上にコーティング形成材料のコーティングを形成するためのコーティング形成装置であって、
該コーティング形成材料の飽和蒸気を形成するための、飽和蒸気形成手段(22)、
キャリアガス供給手段(23)、
該飽和蒸気形成手段(22)によって形成された該コーティング形成材料の飽和蒸気を該キャリアガス供給手段(23)からのキャリアガスと混合してコーティング形成材料含有ガスを形成するための、コーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)、
誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)、
該コーティング形成材料含有ガスの形成手段(24)によって形成された該コーティング形成材料含有ガスを、該誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)におけるプラズマ放電(26)中に、および/または該誘電体バリア型の大気圧プラズマ放電の発生手段(25)により発生したイオン化ガス流(27)中に導入するための、該コーティング形成材料含有ガスの導入手段(28)、および
該コーティング形成材料含有ガスの導入手段(28)により導入された該コーティング形成材料含有ガス中の該コーティング形成材料をプラズマ重合させて該基板(21)上に堆積させることによって該基板(21)上に該コーティング形成材料のコーティングを形成するための、コーティング形成手段(29)
を含む、コーティング形成装置。
【請求項8】
前記コーティング形成材料が有機ケイ素化合物である、請求項6または7に記載のコーティング形成装置。
【請求項9】
有機ケイ素化合物を重合する方法であって、
該有機ケイ素化合物の飽和蒸気を形成する、飽和蒸気形成工程、
該飽和蒸気形成工程において形成された該有機ケイ素化合物の飽和蒸気を、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中に、および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する、該有機ケイ素化合物飽和蒸気の導入工程、および
該導入工程において導入された該有機ケイ素化合物飽和蒸気中の該有機ケイ素化合物をプラズマ重合させる、プラズマ重合工程
を含む、重合方法。
【請求項10】
有機ケイ素化合物を重合する方法であって、
該有機ケイ素化合物の飽和蒸気を形成する、飽和蒸気形成工程、
該飽和蒸気形成工程において形成された該有機ケイ素化合物の飽和蒸気をキャリアガスと混合して有機ケイ素化合物含有ガスを形成する、有機ケイ素化合物含有ガスの形成工程、
該形成工程において形成された該有機ケイ素化合物含有ガスを、誘電体バリア型大気圧プラズマ放電中に、および/または該誘電体バリア型大気圧プラズマ放電から発生したイオン化ガス流中に導入する、該有機ケイ素化合物含有ガスの導入工程、および
該導入工程において導入された該有機ケイ素化合物含有ガス中の該有機ケイ素化合物のプラズマ重合させる、プラズマ重合工程
を含む、重合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−221526(P2009−221526A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66363(P2008−66363)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】