説明

コード入りゴム部材およびその製造方法

【課題】コード入りゴム部材の両側耳部の接合部における剛性を緩和できる新たな構造を有するコード入りゴム部材を提供するとともに、新たな工程を付加することもなく製造できる低コストのコード入りゴム部材を製造する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、経糸に対し略直角方向に交差する横糸を用いて簾織りしたタイヤ用簾織物を中心部側領域に配置したコード入りゴム部材であって、簾織物が配置されていない中心部側領域以外のコード入りゴム部材の外側領域に、横糸のない1本または複数のシングルコードを配置したコード入りゴム部材であり、シングルコードは簾織物に使用されるコードに対して略平行に配置されている。簾織物が配置されている中心部側領域の両外側に存在するシングルコード領域は、コード入りゴム部材をドラムに巻き付けてスプライスして成形するときのスプライス部分となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのカーカス層に使用されるコード入りゴム部材に関するもので、コード入りゴム部材の両側耳部の接合部における剛性を緩和できる新たな構造を有するコード入りゴム部材を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りラジアルタイヤのカーカス層において、ナイロンやポリエステル等の比較的硬く太いタイヤコードを経糸とし、これらの経糸に比較的細い紡績糸等の緯糸を粗く交差させて織り上げた簾(すだれ)織物が使用されている。この簾織物に、織製後にゴムとの接着性を良くするために一定条件下で接着液に浸漬処理し、その後寸法性を良くするために連続的に張力を加えながら熱処理し、未加硫ゴムを塗布するカレンダー処理を行う。このようにして製造されたゴム引き簾織物をタイヤ径方向に必要な長さに裁断した後、この裁断ゴム引き簾織物を成形ドラム上に、タイヤコードを軸方向に揃えて巻き付け、両端の耳部同士をスプライス(接合)することにより、カーカス層を成形する。
【0003】
図6は、従来のゴム引き簾織物の模式図を示す。経糸(縦糸)であるタイヤコード101に対して緯糸(横糸)102が交差して巻き付けた簾織物にゴム103がトッピングされている。図6(a)においては、タイヤコード101および緯糸102の状態が分かるようにゴム層103を一部だけ透明にして描いているが、一般にはゴム層103は不透明であり、簾織物全体を被っている。
図6(b)は、このゴム引き簾織物100の断面を示す。タイヤコード101に緯糸102が巻き付きタイヤコード101を整列させている。タイヤコード101および緯糸102の周囲をゴム層103が取り巻き、ゴム引き簾織物は全体として厚みが均一のシート状になっている。尚、このシート状ゴム引き簾織物100を分かりやすくコード入りゴム部材と呼ぶこともある。コード101はコード入りゴム部材100内において略等距離w1のピッチでゴム層103内に取り込まれている。
【0004】
このコード入りゴム部材100はその長尺方向において、図7に示すように、コード101に略直角にタイヤ1本分の幅W0で切断される。経糸としての(タイヤ)コード101はコード入りゴム部材100の長尺方向に平行に多数埋設されている。図7においてもゴム層103を半透明にして描写しており、コード入りゴム部材100のコード101が見えるように描いている。尚、図7においては緯糸(横糸)は描いていないが、図示されているすべてのコード101にほぼ直角に交差して緯糸(横糸)が巻き付いている。コード入りゴム部材100の長尺方向(前記の幅方向)と直角方向、すなわち幅L0はタイヤの周方向長さにスプライス部の長さを加えた長さとほぼ等しい。
【0005】
切断されたコード入りゴム部材105は成形ドラム上に巻きつけられ、両端の耳部(スプライス部領域或いは接合部領域とも言う)E−1およびE−2部分がスプライス(接合)される。図8はこのスプライス部(接合部)を示す。切断されたコード入りゴム部材110の両端領域E−1部分とE−2部分が重なりスプライスされる。この重なり長さをe1とすると、このe1は図6や図7で示すコード入りゴム部材100の両端から幅方向への長さ、すなわち耳部の長さであり、通常このe1の間にコードが2〜30本入っている。図8においては、この長さe1の部分に6本のコード103が入っているが、接合部分であるe1には接合部領域E−1および接合部領域E−2が重なっているので、図8から分かるように、ゴム層103部分の厚みが厚くなっているだけでなく、コード101が2重に重なって入っている。すなわち、重なっていない部分に比べて2倍のコード密度になっている。
【0006】
このように接合部においては、コード本数が接合部以外の他の部分に比べ多いため、コード1本当たりの伸長応力が小さくて熱収縮が大きくなり、さらに接合部の剛性が大きくなり、極端な場合にはコード入りゴム部材が2枚分あるので剛性も他の部分に比べて2倍程度になる。その結果、スプライス部領域E−1およびE−2が変形しにくくなり、たとえばタイヤ成型後サイドウォール部等の表面に凹部が発生する。(一般に、BPS(バンピーサイド)と呼ばれている)接合部の剛性が他の部分よりも高いために、タイヤ径方向の力の変動(RFV、ラジアル・フォース・バリエーション)が大きくなる。このように、接合部とそれ以外の部分におけるタイヤ周上の剛性不均一のために、ユニフォーミティや外観の悪化につながる。さらに、接合部分への繰り返し変形を受けた場合、接合部分やその近傍で疲労破壊を起こす可能性が高くなる。さらには、接合部において、セパレーションを起こす場合もある。また、接合部におけるコード入りゴム部材100にもコード101に緯糸(横糸)102が巻き付いているので、スプライスしてもコード入りゴム部材100の変形度合が小さくなり、これも剛性を増大する原因となっている。
【0007】
これらを防止するために、接合部の剛性を小さくして接合部以外の部分と同等の剛性にする方法が幾つか提案されている。たとえば、(1)コード入りゴム部材の両側の接合すべき部分(耳部)を凸状付きローラーで圧着することにより、耳部のコード間隔を他の部分のコード間隔より広くするとともに、耳部のゴム部材の厚みも他の部分より薄く加工してから接合する方法(「コード入りゴム部材引伸ばし法」と呼ぶ)(特許文献1)、(2)コード入りゴム部材を裁断した後、裁断したコード入りゴム部材の両側の接合すべき部分(耳部)に存在するコード(経糸)を1〜5本引き抜き、コードを間引きした耳部を接合することにより、接合部の剛性の均一化を図りタイヤのサイド凹凸やRFVを向上させるという方法(「耳部コード引抜き法」と呼ぶ)(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−305792
【特許文献2】特開H08−244090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
切断されたコード入りゴム部材の両側の耳部を単純に接合する従来の方法では、上述したように接合部分のコード密度が他の部分に比較して略2倍になり、その結果剛性が非常に大きくなり、タイヤ周上の剛性不均一性、ユニフォーミティの悪化、タイヤ外観不良、さらには繰り返し変形による疲労破壊や接合部のセパレーションなど種々の問題を発生する。それらの改善方法として提案されている方法(特許文献1、2など)は、接合部の剛性を緩和する方法として有効と考えられるが、コード入りゴム部材を形成後に特別の工程を付加するので、コスト高になるとともに、製造時間が長くなるという問題がる。また、コード入りゴム部材引伸ばし法では大規模な圧延装置が必要であり、耳部コード引抜き法では大掛かりなコード引き抜き装置が必要であるため、装置コストが非常に大きくなる。さらには、これらの工程付加は、コード入りゴム部材に余分な力を加えるためダメージを与える可能性があるので、工程不安定性や複雑性に起因する製品歩留まりの大幅低下を引き起こすおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、コード入りゴム部材の両側耳部の接合部における剛性を緩和し、接合部とそれ以外の部分の剛性差をなくすことができる新たな構造を有するコード入りゴム部材を提供するとともに、新たな工程を付加することもなく製造できる低コストのコード入りゴム部材を製造する方法を提供することである。
本発明のコード入りゴム部材は、接合すべき部分である両端部の耳部は横糸(緯糸)のないシングルコードとし、それ以外の中心部側は横糸で整列したコード入りの簾反(帯状の簾(すだれ)織物)として、それらの周囲にゴム引きをしたシート状構造となっている。
【0011】
中心部側のコード入り簾反においては、(タイヤ)コードがほぼ等距離のピッチ(このコードピッチをw1とする)に横糸(緯糸)で撚られ整列している。簾反の両外側の耳部においては、(タイヤ)コードは簾反内のコードにほぼ平行であるが、コードピッチ(シングルコードピッチw)がw1とは異なっていて、w1より大きくなる(すなわち、w>w1)ように適宜調整される。また、耳部のシングルコードの材質や直径は簾反内のコードの材質や直径と同じくすることもできるし、異なるものとすることもできる。コード入りゴム部材の特性(たとえば、剛性)に応じて、wおよびコード材質やコード直径を変えることが可能である。
【0012】
簾反の幅をd1、簾反の両外側のシングルコードが入った領域の長さをd2およびd3とすれば、本発明のコード入りゴム部材の幅L=d1+d2+d3となる。簾反内においてはほぼ等ピッチ(w1)でn本のコードが入っている。簾反の一方側における最外側のコードから隣接するシングルコードまでの距離をw2、一方側の耳部の領域にはp本のシングルコードが入っているとし、一方側のシングルコードのピッチをw3、最外側のシングルコードの外側におけるゴム部材の長さをw6とする。簾反の一方側における外側のゴム部材の長さは、d2=(w2−r1)+(p―1)*w3+w6となる。(r1は簾反内のコード直径)簾反の他方側における最外側のコードから隣接するシングルコードまでの距離をw4、他方側の耳部の領域にはq本のシングルコードが入っているとし、他方側のシングルコードのピッチ距離をw5、最外側のシングルコードの外側におけるゴム部材の長さをw7とする。簾反の他方側における外側のゴム部材の長さは、d3=(w4―r1)+(q―1)*w5+w7となる
【0013】
本発明のコード入りゴム部材は、以下のように製造される。タイヤコードを経糸(縦糸)として、それと直交する緯糸(横糸)で撚りあわせて、タイヤコードを整列させたコード入りの簾反を作成する。このコード入り簾反の幅はドラムに巻きつける通常のタイヤ周長さより短い。このコード入り簾反の幅方向における両端のコードから一定の距離w2(他方側はw4)をおいて、簾反の幅方向における両端のコード、すなわち簾反の幅方向における最外側に配置されているコードとほぼ平行にコードを張る。簾反内のコードの中心はほぼ同一平面上にあるが、簾反の両外側に張ったコードの中心も簾反内のコードの中心とほぼ同一平面上にある。簾反の外側に複数本のコードを張ることもでき、そのときの複数本のコードピッチがw3(他方側はw5)である。通常はw3=w5である。
【0014】
簾反の外側のコードは横糸で撚り合わせていないシングルコードとなっているので、w2、w3、w4およびw5の位置が変化しないようにスプライスプレス等を用いて、簾反とシングルコードを一体化させる。たとえば、簾反とシングルコードの間に薄く樹脂またはゴムを流して固めて仮止めをしたり、薄い接着テープで簾反とおよびその両側のシングルコードを固定させて仮止めをするという方法がある。
【0015】
簾反とシングルコードの一体化したものをカレンダーロールに入れ、ゴム部材でゴム引きをして(簾反とシングルコードの一体化したものにゴムを流し込みながらカレンダーロールで圧延する)長尺のコード入りゴム部材が製造される。この長尺のコード入りゴム部材を長手方向にタイヤ1本分の幅で、コード入りゴム部材を長手方向に対して略直角、すなわちコード入りゴム部材を長手方向に平行にゴム内に埋まっているコードに対して略直角に裁断される。この裁断したコード入りゴム部材をドラムに巻き付けて、簾反の両外側に配置されたシングルコード領域(耳部)同士がスプライスされる。シングルコード領域同士だけが重なるようにするのが望ましく、特にd2=d3として、かつこの部分が完全に重なるようにするのがさらに良い。また、この耳部の接合において、一方の耳部におけるコード部分が他方の耳部におけるコードのない部分に来るようにして接合するのが望ましい。以上のようにすることによりコード密度がスプライス部分において均一にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコード入りゴム部材は、ドラムに巻き付けてスプライスする耳部におけるタイヤコードが、耳部以外の部分に比べて疎になっているので、スプライスした接合部の剛性はそれ以外の領域と比較して余り大きくならない。また接合部のコード密度を制御できるので、接合部の剛性のコントロールも可能である。従って、カーカス層にブラダーにより内圧を負荷したときにもスプライス部におけるカーカス層の伸び変形量が従来に比較して他の部分の変形量に近づけることができるので、バンピーサイドと呼ばれる凹部の形成を少なくすることが可能となり、タイヤ外観の悪化を従来に比較して大幅に改善できる。また、タイヤ周方向において、コード入りゴム部材の剛性の不均一性が減少するので、部分的な繰り返し変形を受けても疲労破壊を起こす可能性を大幅に減らすこともできる。
【0017】
また、本発明のコード入りゴム部材は、ゴム引きする前に耳部のコードピッチをコントロールできるので、従来のような、コード入りゴム部材形成後に工程を付加する必要がなく、工数削減を行うことができる。さらに、コード入りゴム部材に製品化後にコード引き抜きを行ったり、ゴム部材を引き伸ばしたりする必要がないので、加工バラツキをなくすことができるとともに製品の品質を損なうおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のコード入りゴム部材の模式図である。
【図2】図2は、本発明の帯状のコード入りゴム部材示す図である。
【図3】図3は、裁断されたコード入りゴム部材をドラムに巻き付けてスプライスしたスプライス部を示す図である。
【図4】図4は、本発明の製造方法を示す模式図である。
【図5】図5は、コード・簾反整列用ガイドの断面およびその使用例を示す図である。
【図6】図6は、従来のゴム引き簾織物の模式図を示す図である。
【図7】図7は、従来の帯状のコード入りゴム部材示す図である。
【図8】図8は、裁断されたコード入りゴム部材をドラムに巻き付けてスプライスしたスプライス部を示す図である。
【図9】図9は、空気入りタイヤを示す図である。
【図10】図10は、ゴム引き(トッピング)工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図9は、本発明のコード入りゴム部材をカーカス層に用いた空気入りタイヤを例示するものである。図9において、左右一対のビード部1,1間にカーカス層5が装架されており、このカーカス層5の両端部がそれぞれ左右一対のビードコア3のまわりにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層5はタイヤ周方向に対して略90°の角度をなすようにラジアル方向に配向させた複数本のカーカスコードをコートゴムで被覆して構成されている。尚、図9において、7はサイドウォール、8はベルト層である。カーカス層5は、タイヤ製造時に帯状材料のコード入りゴム部材を成形ドラムに巻き付け、そのタイヤ周方向両端部を互いに重ね合わせて接合される。
【0020】
図1は、本発明のコード入りゴム部材の模式図である。図1(a)は、シート状のコード入りゴム部材10の平面図で、図1(b)はその断面図である。シート状コード入りゴム部材10は、帯状の簾(すだれ)織物8およびその両側にシングルコード部分9(9−1、9−2)からなる。帯状の簾織物(以下、簾反とも言う)8は、空気入れラジアルタイヤのカーカス層において、ナイロン、ポリエステル等の比較的硬く太いタイヤコード11を経糸とし、これらの経糸11に比較的細い紡績糸等の横糸(緯糸)12を粗く交差させて織り上げたすだれ状(或いは網状)構造となっている。乗用車用タイヤや自動二輪車用タイヤではタイヤ(カーカス)コードとして有機繊維材料、たとえばナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリアミド、アラミド等が使用されている。大型車両においては、タイヤコードとして鋼線等の金属線が使用される場合もある。横糸12はコード11とほぼ直角に交差し、多数のコード(経糸)11を一定間隔に保持し、コード(経糸)11のバラケを防止するために、コード11を平行に整列させてゴム引きされるまでコード11がうねらないように固定する。この簾織物はコード11のコード線方向に連続した帯状物8、すなわち簾反8となっている。簾織物中の経糸の密度は、20〜80本/50mm程度で、簾織物中の緯糸(横糸)の密度は2〜7本/50mm程度である。
【0021】
カーカス層を作製する場合、本発明においては、この簾反の幅d1は上記カーカス層の長さ(ドラムに巻きつけて両端を接合するだけの長さ、すなわちタイヤ周方向長さ+スプライス長さ。ただし、ドラムの径を大きくして(膨径して)カーカス層を伸ばすことは考慮せず。)より短い。(尚、長尺コード入りゴム部材を長手方向にタイヤの幅分裁断して、幅方向の両端部を繋ぎ合わせて長いカーカス材を作り、この長いカーカス材をタイヤ周長さ分をカットしてカーカス層用成形部材を作製することもできる。)簾反8内に多数のコード11が存在するが、これらのコード11は互いに平行に簾反8の長さ方向(圧延方向19)に入っている。通常これらのコード11同士の隣接コード間隔はほぼ等しくなっている。コードピッチ、すなわちコード中心と隣接コード中心との距離をw1とする。(図1(b))簾反8内のコード11の材質は上述のように繊維や金属であるが、同じ材質で構成しても良いし、異なる材質で構成しても良い。たとえば、重量を軽くする目的としての繊維系のコード線とカーカス強度を大きくすることを目的とした金属線とを組み合わせても良い。コード線の断面は円形、星状、矩形状などであるが、半径r1の円形断面と考えると、w1=2*r1+g1となる。(g1は隣接するコード線の間隔(コード間隔)で、コードが存在しない部分である。)尚、繊維では撚りあわせて形成する場合もあるので、繊維線の長さ方向に対して線幅が一定ではない場合もあるが、その場合は平均幅として定義できるので、平均半径r1の円形断面と考えることもできる。簾反内にn本のコード線が存在するとd1=(n−1)*w1+2*r1である。(本明細書において、コード間隔とはコードとコードとの間の距離を言い、コード自体は含まない。)
【0022】
この簾反8の幅方向における両外側に、横糸(緯糸)のないタイヤコード(これも経糸(縦糸)である)がそれぞれ1本或いは複数本、簾反のコードとほぼ平行に走っている。すなわち、図1(a)に示すように、簾反8の幅方向の一方側面に1本或いは複数本のタイヤコード13が簾反のコード11と平行に通っている。また、簾反8の幅方向の他方側面に1本或いは複数本のタイヤコード14が簾反8のコード11と平行に走っている。これらのコード13および14には横糸(緯糸)が存在せず、従って簾反8と直接の固定関係にはなく、さらに複数のコード13同士および複数のコード14同士も直接の固定関係はない。ただし、コード入りゴム部材10内において、簾反8内のコード11、簾反の外側のコード13、14は平行に整列していることが必要なので、後述のように、接着テープを用いたりダイスを用いたりすることにより、ゴム引きする前に整列させる。
【0023】
この簾反8の両外側のコード線は横糸を有しないということで、シングルコードとも呼ぶことにする。簾反8の片側におけるコード線の本数は、通常複数本(2〜30本)存在するのでシングルコード群9とし、簾反の両側を区別するために一方側(図1(b)においては左外側)を9−1、他方側を9−2(図1(b)においては右外側)と記号付けする。図1(b)においては、シングルコード群9−1は3本の(シングル)コード13を配置し、シングルコード群9−2も3本の(シングル)コード14を配置している。
【0024】
簾反8の一方側のシングルコード群9−1において、簾反8の最外側のコード11−1とこれに隣接して平行に配置されているシングルコード13−1との距離w2(コード11−1の中心とコード13−1の中心との距離)はw1より大きくする。w2>w1とすることにより、シングルコード領域9−1におけるコード密度は、簾反部領域8におけるコード密度より小さくなる。
【0025】
シングルコード13の材質は、簾反のコード11の材質と同じものとすることもできるし、異なるものとすることもできる。シングルコード13が存在する部分、すなわちシングルコード領域9−1は、後述するようにスプライス部となるが、スプライス部の剛性や外観等を変えるために種々の材質のコードを用いることができる。また、シングルコード13のコードの大きさ(直径)も、簾反のコード11の大きさ(直径)と同じものとすることもできるし、異なるものとすることもできる。スプライス部の剛性を変えるために種々の大きさ(直径)のコードを用いることができる。このシングルコードの直径はゴム層の厚さにも影響を与えるので、コード直径の変更はスプライス部の剛性や外観等に二重に作用する。シングルコード13が複数本の場合にも、それらの材質や直径を同じものとしても良いし、異なるものを使用することもできる。これらのパラメーターを適宜選択することにより、良好な剛性や外観等を実現できる。
【0026】
図1(b)において、シングルコード13は半径r2の円形断面とし、簾反8内の最外側コード11−1とそれと隣接するコード13−1との間隔をg2すると、w2=(r1+r2)+g2となる。シングルコード13のコードピッチをw3、間隔をg3とすると、w3=2*r2+g3となる。
【0027】
簾反8の他方側のシングルコード群9−2においても上記と同様で、簾反8の最外側のコード11−2とこれに隣接して平行に配置されているシングルコード14−1との距離w4(コード11−2の中心とコード14−1の中心との距離)はw1より大きくする。w4>w1とすることにより、シングルコード領域9−1におけるコード密度は、簾反部領域8におけるコード密度より小さくなる。従って、w2、w4>w1とすると、シングルコード領域9−1とシングルコード領域9−2を重ねてスプライスした場合、このスプライス部分のコード密度はスプライス部分以外のコード密度の2倍より小さくなり、w2およびw4をコントロールすることにより、スプライス部分以外のコード密度に近づけることができる。(極端な場合には、小さくすることもできる。)
【0028】
シングルコード14の材質は、簾反のコード11の材質と同じものとすることもできるし、異なるものとすることもできる。シングルコード14の部分、すなわちシングルコード領域9−1は、後述するようにスプライス部となるが、スプライス部の剛性や外観等を変えるために種々の材質のコードを用いることができる。また、シングルコード14のコードの大きさ(直径)も、簾反のコード11の大きさ(直径)と同じものとすることもできるし、異なるものとすることもできる。スプライス部の剛性を変えるために種々の大きさ(直径)のコードを用いることができる。このシングルコードの直径はゴム層の厚さにも影響を与えるので、コード直径の変更はスプライス部の剛性や外観等に二重に作用する。シングルコード14が複数本の場合にも、それらの材質や直径を同じものとしても良いし、異なるものを使用することもできる。これらのパラメーターを適宜選択することにより、良好な剛性や外観等を実現できる。
図1(b)において、シングルコード14は半径r3の円形断面とし、簾反8内の最外側コード11−2とそれと隣接するコード14−1との間隔をg3すると、w4=(r1+r3)+g3となる。シングルコード13のコードピッチをw5、間隔をg4とすると、w5=2*r3+g4となる。
【0029】
簾反8の両側のシングルコード群9−1および9−2は後に互いにスプライスされる部分となる。一般には左右対称に作製することができる。すなわち、w2=w4、w3=w5とすれば、製造が容易である。w2=w3=w4=w5とすれば、さらに製造が容易となる。ただし、スプライスするときに互いのコード間部分に相手のコードが来るようにw2、w3、w4、w5の値を選択しても良い。シングルコードが多いときにはw3或いはw5、すなわちシングルコードピッチを一定とせず、場所によって異なる値も取ることが可能である。このようにすることによりスプライス部分のコード間隔を調整してスプライス部分の剛性を変化させることができる。本発明のコード入りゴム部材は、スプライス部の剛性に影響を与えるパラメーターを容易に変えることができる。
【0030】
簾反8およびシングルコード群9(9−1、9−2)はトッピングされゴム層15に囲まれている。ゴム層15の厚みはt0であり、カレンダーロール間距離を調節してコントロールできる。また、ゴム層15は最外側のシングルコードも被覆する。すなわち、シングルコード群9−1の最外側シングルコード13−2の外側にw6の厚みのゴム層が被覆している。シングルコード群9−2の最外側シングルコード14−2の外側にw7の厚みのゴム層が被覆している。
【0031】
シングルコード群9−1のゴム層の領域をB−1とする。このシングルコード群ゴム層領域B−1において、シングルコード群9−1にp本のシングルコードが存在し、p本のシングルコードのコード径がすべて等しく(r2)、シングルコードピッチもすべて等しい(w3)と仮定すると、シングルコード群9−1を被覆しているゴム層の幅d2は、d2=(w2―r1)+(p−1)*w3+w6である。
一方、シングルコード群9−2のゴム層の領域をB−2とする。(シングルコード群ゴム層領域をB−1およびB−2をまとめてシングルコード群ゴム層領域Bとする。)このシングルコード群ゴム層領域B−2において、シングルコード群9−2にq本のシングルコードが存在し、q本のシングルコードのコード径がすべて等しく(r3)、シングルコードピッチもすべて等しい(w5)と仮定すると、シングルコード群9−2を被覆しているゴム層の幅d3は、d3=(w4―r1)+(q−1)*w5+w7である。
【0032】
図1(a)において、ゴム層15は一部だけしか示していないが、実際にはコード入りゴム部材10の全面がゴム層15で覆われている。また、コード11、13、14や横糸12およびこれらの関係が良く分かるようにゴム層を半透明にしているが、実際にはゴム層15は一般には有色であり内部は可視光の範囲では見えない。
以上から、本発明のコード入りゴム部材は、簾反とその両外側にシングルコード群があり、それらをゴム層で被覆されている。コード入りゴム部材10の幅L0は、L0=d1+d2+d3である。通常は、d2=d3として両側のシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2はスプライスしたときに重なるようにする。すなわち、両側のシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2はスプライス(接合)部、すなわち耳部となる。シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2は重なるので、d2=d3=d0として、タイヤ周長はL0−d0=d1+d0となる。
【0033】
図2は、図1に示す構造の帯状のコード入りゴム部材10(カレンダーロールで圧延してゴム引きをしたもので、圧延反でもある)の裁断の仕方を示す図である。コード入りゴム部材10の幅L0は、前述したようにタイヤの周長にスプライス長さを加えた長さにほぼ等しい。従って、本発明のコード入りゴム部材10では、そこに使用される簾反の幅(すなわち、d1)はタイヤの周長より短い。図2の破線で示すように、コード入りゴム部材10の圧延方向(図1における19の方向)、すなわちコード入りゴム部材10の長手方向に略直角方向にタイヤ1本分の幅W0で裁断する。このW0がカーカス層の幅になる。コード入りゴム部材10の幅方向において、その両側にシングルコード13および14を示しているが、前述したようにゴム層15が被覆しているので、実際にはコードは外観では見えない。図2には示していないが簾反のコード層もコード入りゴム部材10の長手方向に平行に入っている。このように、簾反内のコード(経糸)11、シングルコード(これも経糸である)13および14はコード入りゴム部材10の長手方向に平行であるから、上記の裁断はこれらのコードに略直角方向となる。裁断されたコード入りゴム部材20は、ドラムに巻かれて両側のシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2が重なりスプライス(接合)される。
【0034】
図3は、裁断されたコード入りゴム部材をドラムに巻き付けてスプライスした状態を示す模式図である。このコード入りゴム部材のコード配置は図1と同様のものを用いている。すなわち、図1に示す、簾反8およびその両側にシングルコード群ゴム層領域B(B−1およびB−2)を有するコード入りゴム部材10を裁断したものをドラムに巻き付け、シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2を重ねてスプライス(接合)する。図3は、スプライス部分を含むコード入りゴム部材の一部の周方向における断面を示す。ドラムに巻き付けた状態なので本来は少しドラムの周形状に沿った湾曲状をしているが、図3においては、記載の便宜上直線状で示す。シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2には、シングルコード13および14がそれぞれ3本入っている。シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2におけるコードピッチw3およびw5は簾反8領域のゴム層Aにおけるコードピッチw1より大きいので、シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2におけるコード密度は簾反8領域のゴム層Aにおけるコード密度より小さい。(コード直径は等しいとする。)従って、単純にシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2をスプライスしたスプライス領域Cにおけるコード密度は、簾反8領域のゴム層Aにおけるコード密度の2倍より小さい。
【0035】
シングルコード群ゴム層領域B−1内にシングルコードがp本存在すると、コード密度はほぼp/{w2+(p−1)*w3+w6}(本/単位長さ)となる。図3における場合には、p=3であるから、コード密度は3/(w2+2*w3+w6)となり、さらに、w6は小さいので無視したとして(スプライス部の長さが短いときには無視できないが)、コード間距離w3を簾反8領域のゴム層Aのコード間距離w1の2倍とし、さらにw2も2*w1と等しいとすれば、コード密度は1/2*w1となり、簾反8領域のゴム層Aのコード密度1/w1の半分になる。
同様に、シングルコード群ゴム層領域B−2内にシングルコードがq本存在すると、コード密度はほぼq/{w4+(q−1)*w5+w7}(本/単位長さ)となる。図3における場合には、q=3であるから、コード密度は3/(w4+2*w5+w7)となり、さらに、w7は小さいので無視して、コード間距離w5を簾反8領域のゴム層Aのコード間距離w1の2倍とし、さらにw4も2*w1と等しいとすれば、コード密度は1/2*w1となり、簾反8領域のゴム層Aのコード密度1/w1の半分になる。
【0036】
従って、この場合には、シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2をスプライスしたスプライス領域Cにおけるコード密度は1/w1となり、簾反8領域のゴム層Aのコード密度1/w1と等しくなる。従って、スプライス部分の厚みおよび横糸の効果を考えなければ、スプライス部分の剛性はスプライス部以外の剛性とほぼ等しくなるので、前述した剛性による問題点が解消される。
【0037】
シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2をスプライスするとき、互いのシングルコードが相手のシングルコードの間におけるコードが存在しない部分に来るようにしてシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2を重ねてスプライスし(プレスすれば)、互いのシングルコードが相手のシングルコードの間におけるコードが存在しない部分に入り込むので、スプライス部分の厚みもスプライス部以外の厚みに近づけることができる。これは、シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2においては横糸(緯糸)が存在しないので、シングルコードが隙間に移動できるからである。或いは、お互いのシングルコードが或る程度上下に重なっていても、シングルコードの中心位置が相手のシングルコードの間におけるコードが存在しない部分に来るようにしてシングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2を重ねてスプライスし(プレスすれば)、お互いのシングルコードが落ち込んで或る程度厚みを小さくすることもできる。
【0038】
たとえば、w2=w3=w4=w5=w、r1=r2=r3=r0とし、かつシングルコード間の隙間(コードのない部分、長さ(w−2r0))が2r0より大きい{(w−2r0)>2r0}として、シングルコード群ゴム層領域B−1におけるコード13−2が、シングルコード群ゴム層領域B−2におけるコード14−1およびA領域におけるコード11−2の間に来るように配置すれば、シングルコード群ゴム層領域B−2におけるコード14−2がシングルコード群ゴム層領域B−1におけるコード13−1およびA領域におけるコード11−1の間に配置され、さらに他のシングルコードも相手のコード間に配置されるので、シングルコード群ゴム層領域B−1およびB−2をスプライスしてプレスすれば、一方のシングルコードが他方のシングルコード間に入り込み、スプライス部分の厚みが単に重ねた厚み(2*t0)より大幅に小さくできる。尚、タイヤコードの直径は、ほぼ0.3〜1.0mmである。
【0039】
以上のように、横糸が存在すると剛性力が大きくなり、ゴム層が厚くなると剛性も大きくなることを考慮すると、シングルコード群ゴム層領域B(B−1およびB−2)のコード密度を簾反8領域のゴム層Aにおけるコード密度の0.5〜0.8の範囲内、好適には0.55〜0.7の範囲内にすれば良い。上記の場合には、w2=w3=w4=w5がw1の1.25〜2.0、好適にはw1の1.43〜1.82の範囲内とする。
【0040】
以上のように、本発明のコード入りゴム部材を用いることによりスプライス部分の剛性をコントロールでき、大幅に剛性を減らすことが可能となる。この結果、スプライス部の大きな剛性による上述した諸問題を減退または解消することができる。
【0041】
次に、本発明のコード入りゴム部材の製造方法について説明する。図4は、本発明の製造方法を示す模式図である。タイヤコードを経糸(縦糸)として、それと直交する緯糸(横糸)で撚りあわせて、タイヤコードを整列させたコード入りの簾反を作成する。このコード入り簾反の幅はドラムに巻きつける通常のタイヤ周長より短い。図4に示すように、簾反41は簾反用幅広ロール37に巻かれた状態でセットされる。簾反41の幅方向における一方の側面に配置されるシングルコード42を巻き付けたロール38がロール37の横側の隣接する一方にセットされる。また、簾反41の幅方向における他方の側面に配置されるシングルコード43を巻き付けたロール39がロール37の横側の隣接する他方にセットされる。
【0042】
図4においては、2つのロール38から2本のシングルコード42が巻きだされているが、1本或いは3本以上のシングルコード42が巻き出されても良い。コード入りゴム部材のスプライス部分をどの程度の幅にするか、スプライス部分に何本のシングルコードを入れるかによって決まる。本質的には、剛性をどの程度にするか、外観基準をどの程度にするか等のコード入りゴム部材の特性値(最終的にはタイヤ性能)によって決まる。同様に、図4においては、2つのロール39から2本のシングルコード43が巻き出されているが、1本或いは3本以上のシングルコード43が巻きだされても良い。ロール37からは簾反41が巻き出される。
【0043】
これらのロール37、38、39からなるレットオフ装置36から簾反41、コード38および39が巻き出されて、コード・簾反整列装置45において、簾反41、コード38および39が一列に整列する。コード・簾反整列装置45を拡大して示したものが50である。コード・簾反整列装置45は、たとえば拡大図50で示すように、コードガイド用リング型ガイド51および52を簾反が通る簾道中の上側に設置して、これらのコードガイド用リング型ガイド51および52内にシングルコード42および43を導いて、シングルコード42および43が簾反41のコードと平行にしかも同一レベルに整列させることができる。
【0044】
或いは、図5(a)はコード・簾反整列用ガイド(スレッドバー)の断面を示す図であるが、この図5(a)に示すようなガイド80に簾反41並びにシングルコード42および43を導いて、シングルコード42および43を簾反41のコード85と平行にかつ同一レベルに整列させることができる。すなわち、図5(a)に示すように、コード・簾反整列用ガイド80において、ガイド基台81の一主面上の中央部分Dに複数のガイド溝82、その両外側部分E(E−1、E−2)に複数のガイド溝83および複数のガイド溝84が形成されている。中央部分Dのガイド溝82に簾反41のコード85が入り、簾反41がガイドされ整列される。従って、複数のガイド溝82の溝ピッチ(溝中央と隣接する溝の中央との距離)w8は、(図1およびその説明に示した記号を用いると)簾反41のコードピッチw1と同じピッチで形成される。中央部分Dの一方の外側部分E(E−1)における複数のガイド溝83にシングルコード42が入り、シングルコード42がガイドされ整列される。複数のガイド溝83の溝ピッチw9は、(図1およびその説明に示した記号を用いると)シングルコードのコードピッチw5と同じピッチで形成される。すなわち、シングルコード42のコードピッチはガイド溝83の溝ピッチw9によりコントロールされる。中央部分Dの他方の外側部分E(E−2)における複数のガイド溝84にシングルコード43が入り、シングルコード43がガイドされ整列される。複数のガイド溝84の溝ピッチw10は、(図1およびその説明に示した記号を用いると)シングルコード43のコードピッチw3と同じピッチに形成される。すなわち、シングルコード43のコードピッチはガイド溝84の溝ピッチw10によりコントロールされる。
【0045】
また、ガイド80におけるガイド溝83の位置は、簾反41に対して幅方向にどの程度の距離(w11)にシングルコード42を配置するかによって決まり、(図1およびその説明に示した記号を用いると)簾反41の一方の最外側におけるコード位置から距離w4と同じ距離に配置する。すなわち、簾反41とシングルコード42との距離はw11によってコントロールされる。ガイド80におけるガイド溝84の位置は、簾反41に対して幅方向にどの程度の距離(w12)にシングルコード42を配置するかによって決まり、(図1およびその説明に示した記号を用いると)簾反41の他方の最外側におけるコード位置から距離w2と同じ距離に配置する。すなわち、簾反41とシングルコード43との距離はw12によってコントロールされる。
ガイド溝82、83および84は、簾反41、シングルコード42および43が同一レベルで一列に整列するように、配置される。たとえば、ガイド溝82、83および84に入った簾反41のコード85並びにシングルコード42および43の各コードの中心が同一レベルになるように各ガイド溝の幅やガイド溝深さが決定される。簾反41のコード85には横糸が連結しているので、横糸が溝部を乗り越えることができるようにガイド溝82の溝幅を簾反41のコード85の直径より少し小さめにしたり、或いはガイド溝82の溝の深さを浅めにしても良い。これに合わせてガイド溝83および84のガイド溝幅やガイド溝深さを決定することができる。
【0046】
このようにして、シングルコード43および44のコードピッチが固定され、シングルコード43および44並びに簾反41の距離も定まり、シングルコード42および43が簾反41のコード85と平行にかつ同一レベルに整列する。
尚、ガイド溝は82、83、84は長方形状として図示されているが、簾反41のコード85やシングルコード42および43がスムーズに通るような溝であれば他の形状でも良い。たとえば、V字状、U字状や半円形状の溝であっても良い。
図5(a)に示すようなスレッドバー80は、図5(b)に示すようなゴムトッピング用のカレンダーロール90の手前に設置され、簾反およびシングルコード91を整列させる。整列後の簾反およびシングルコード91はカレンダーロール90へ導かれ、ゴム部材で挟みこまれ、コード入りゴム部材92として矢印方向へ移動していく。図5(b)に示すコード・簾反整列用ガイド(スレッドバー)80はロール状(円柱状)であり、この円柱状の周囲に図5(a)に示す溝が形成されている。尚、スレッドバー80の形状は、簾反およびシングルコード91を整列できる形状であれば、円柱状に限らず他の形状であってもよい。たとえば、直方体状や半円弧形状などであっても良い。
【0047】
他にも簾反41、シングルコード42および43を整列させる方法があるが、それらも本発明に用いることができる。次に、図4に示すように、整列した簾反・シングルコード44は、スプライスプレス46に通される。簾反・シングルコード44の整列が乱れないように、スプライスプレス46により簾反41およびシングルコード42、43を一体化させる。この一体化方法として、たとえば、スプライスプレス46を用いて、簾反とシングルコードの間に薄く樹脂またはゴムを流して固めて仮止めをしたり、薄い接着テープで固定させて仮止めをするという方法がある。
【0048】
整列させた簾反・シングルコード48をこの後、カレンダーロールに通して簾反・シングルコード48の周囲にゴム引きをして、図1や図2に示すような長尺のシート状の未加硫コード入りゴム部材を得る。図10はゴム引き(トッピング)工程を示す模式図である。図10に示す装置71は4本のカレンダーロールを有するトッピング装置(カレンダー処理装置)であり、本発明の簾反・シングルコード48を矢印方向から張力をかけて流し中央の2つのカレンダーロール70間に入れる。両側のカレンダーロール70と中央のカレンダーロール間の隙間からゴム材74を入れて、カレンダーロール70の回転によりゴム材74が簾反・シングルコード48の両側の面Sおよびサイドへ圧延コーティングされ、コード入りゴム部材76が製造される。一体化した簾反・シングルコード48をカレンダーロールに通し圧延する前に、RFL(レソルシノール・ホルムアルデヒド・ラテックス)液等の接着液に浸漬等するなどして接着処理を施してゴムと簾反・シングルコードとの接着性を改善しても良い。このようにして製造された長尺のコード入りゴム部材をタイヤ径方向に必要な長さに裁断した後、この裁断ゴム引き簾織物を成形ドラム上に、タイヤコードを軸方向に揃えて巻き付け、両端の耳部同士をスプライス(接合)することにより、カーカス層を成形する。
【0049】
以上説明した様に、本発明は、経糸に対し略直角方向に交差する横糸を用いて簾織りしたタイヤ用簾織物を中心部側領域に配置したコード入りゴム部材であって、簾織物が配置されていない中心部側領域以外のコード入りゴム部材の外側領域に、横糸のない1本または複数のシングルコードを配置したコード入りゴム部材であり、シングルコードは簾織物に使用されるコードに対して略平行に配置されている。簾織物が配置されている中心部側領域の両外側に存在するシングルコード領域は、コード入りゴム部材をドラムに巻き付けてスプライスして成形するときのスプライス部分となる。経糸に対し略直角方向に交差する横糸を用いて簾織りしたタイヤ用簾織物だけを用いた従来のコード入りゴム部材のスプライス部分に比較すると、本発明のコード入りゴム部材のスプライス部分はコード密度が小さいので剛性が大きくならない。この結果、タイヤ周上の剛性不均一性、ユニフォーミティの悪化、タイヤ外観不良、さらには繰り返し変形による疲労破壊や接合部のセパレーションなど従来問題となっていた種々の問題を解決することができる。簾反の量も削減できるので、材料のコストダウンも可能となる。
【0050】
また、本発明のコード入りゴム部材のシングルコード領域は、シングルコードのコードピッチ(エンドピッチとも言う)は任意に設定できるので、エンドピッチをコントロールした部分同士をスプライスすることができ、タイヤ周方向の剛性差を最小化することができる。従来提案されているコード入りゴム部材引伸ばし法や耳部コード引抜き法、或いは製品を引き伸ばして耳部のコード密度を変化させる方法のようなコード入り部材を再加工することなく、エンドピッチをコントロールできるので、製品へのダメッジや品質劣化を起こすおそれもない。また、スプライスされる部分以外の大部分のコード入りゴム部材の領域は従来の簾反を使用しているので、生産性も従来と同等であり、シングルコードを入れたことによる歩留まり低下の問題も殆どない。さらに本発明を用いることにより、従来のスプライス部の問題を低減するために高伸度系の経糸を一部使用する必要もなくなり、異種コードの混在使用によるタイヤ周上の剛性が不安定になるという問題も解消できる。本発明のコード入りゴム部材は、コード入りゴム部材を作製する段階で耳部のコードピッチ等をコントロールして接合部になる箇所の剛性を落とすので、従来のコード入りゴム部材作製後にさらに工程を加えて接合部の剛性をコントロールする方法に比較して、工数の削減および加工バラツキを無くすことができる。本発明のコード入りゴム部材の製造も従来の工程を利用できるので、大きな設備投資も大きな工程増加にもならない。従って、従来と同様の製造コストで大幅な品質向上を行うことも可能となる。
【0051】
尚、長尺のコード入りゴム部材を長手方向にタイヤの幅分の長さに切断し、シングルコード部分をつなぎ合わせて長いカーカス材とし、この長いカーカス材を1周分カットしてカーカス層用成形部材を作製するときにも、本発明を用いることができる。
また、上述の説明において、1つの実施例において記載した内容であって他の実施例において記載しなかった内容であっても、お互いに矛盾なく適用できるものに関しても、当該実施例において適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、タイヤのカーカス層やシート状ゴム部材に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
8 簾反、9 シングルコード部分、10 コード入りゴム部材、11 コード(経糸)、
12 横糸(緯糸)、13 コード、14 コード、15 ゴム層、
20 コード入りゴム部材、36 レットオフ装置、37 ロール、38 ロール、
39 ロール、41 簾反、42 シングルコード、43 シングルコード、
44 簾反・シングルコード、45 コード・簾反整列装置、46 スプライスプレス、
48 簾反・シングルコード、51 コードガイド用リング型ガイド、
52 コードガイド用リング型ガイド、70 カレンダーロール、71 トッピング装置、73 簾反・シングルコード、74 ゴム材、76 コード入りゴム部材、
80 コード・簾反整列用ガイド(スレッドバー)、81 ガイド基台、82 ガイド溝、83 ガイド溝、84 ガイド溝、85 簾反コード、90 カレンダーロール、91簾反およびシングルコード、100 コード入りゴム部材、101 タイヤコード、
102 緯糸、103 ゴム層、105 コード入りゴム部材、




【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸(タイヤコード)に対し略直角方向に交差する横糸を用いて簾織りしたタイヤ用簾織物を中心部側領域に配置したコード入りゴム部材であって、前記簾織物が配置されていない前記中心部側領域以外のコード入りゴム部材の両外側領域に横糸のない1本または複数のシングルコードを配置したコード入りゴム部材。
【請求項2】
シングルコードは前記簾織物に使用されるコードに対して略平行に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のコード入りゴム部材。
【請求項3】
簾織物が配置されていない前記両外側領域は、ドラムに巻かれて互いにスプライスされる領域であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコード入りゴム部材。
【請求項4】
簾織物が配置されていない前記両外側領域に配置されたシングルコードのコード間隔は、簾織物に配置されているコードのコード間隔より大きいことを特徴とする、請求項1〜3に記載のコード入りゴム部材。
【請求項5】
簾織物が配置されていない前記外側領域に配置されたシングルコードのコード間隔は、シングルコードの直径より大きいことを特徴とする、請求項1〜4に記載のコード入りゴム部材。
【請求項6】
簾織物が配置されていない両側の外側領域が互いにスプライスされる場合において、互いのコードは相手のコード間に配置されてスプライスされること特徴とする、請求項5に記載のコード入りゴム部材。
【請求項7】
経糸に対し略直角方向に交差する横糸を用いて簾織したタイヤ用簾織物を中心部側に配置し、前記タイヤ用簾織物の両側で簾織物内のコードと略平行にシングルコードを配置する工程、
前記タイヤ用簾織物および前記タイヤ用簾織物の両側に配置されたシングルコードを略同一レベルで一列に整列させる工程、および
整列した簾織物およびシングルコードにゴム引きをする工程、
を含むことを特徴とする、コード入りゴム部材の製造方法。
【請求項8】
コード入りゴム部材をコードに対して略直角に裁断する工程、および
裁断されたコード入りゴム部材をドラムに巻き付けて、前記タイヤ用簾織物の両側に配置されたシングルコードの領域同士をスプライスする工程、
をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載のコード入りゴム部材の製造方法。
【請求項9】
簾織物が配置されていない前記外側領域に配置されたシングルコードのコード間隔は、簾織物に配置されているコードのコード間隔より大きいことを特徴とする、請求項7または8に記載のコード入りゴム部材の製造方法。
【請求項10】
簾織物が配置されていない前記外側領域に配置されたシングルコードのコード間隔は、シングルコードの直径より大きいことを特徴とする、請求項7〜9のいずれかの項に記載のコード入りゴム部材の製造方法。
【請求項11】
簾織物が配置されていない両側の外側領域が互いにスプライスされる場合において、互いのコードは相手のコード間に配置されてスプライスされること特徴とする、請求項8〜10に記載のコード入りゴム部材の製造方法。

【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245814(P2011−245814A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123705(P2010−123705)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】