説明

コールドミラー

【課題】少ない積層数で高い可視光線の反射率を得ることのできるコールドミラーを提供する。
【解決手段】コールドミラーAは、基板1と、屈折率の異なる薄膜が交互に積層された誘電体多層膜3と、誘電体多層膜3を構成するいずれの薄膜の屈折率よりも高い屈折率を有する赤外線透過膜2とを有し、基板1と誘電体多層膜3との間に、赤外線透過膜2を介在させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線を反射し、赤外線を透過するコールドミラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲンランプ、メタルハライドランプなどの赤外線(熱線)を伴う光源に使用するミラーとして、誘電体多層膜を利用して可視光線を反射させ、不要な赤外線を透過させて放熱を行うコールドミラーが知られている。このコールドミラーは、基板上に、低屈折率薄膜とこの薄膜よりも屈折率の高い高屈折率薄膜とを交互に積層し、光波の干渉を利用して可視光線を反射させるものであり、高い可視光線の反射率を得るためには同じ光学的膜厚の薄膜を数多く積層する必要があった。(例えば、特許文献1の第3頁右上欄参照)。
【特許文献1】特開昭63−311301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、薄膜の積層数が多くなればなるほど工程が増えて製造に手間が掛かると共に、積層数に比例して膜厚が厚くなり、薄膜の剥離が起こりやすくなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、少ない積層数で高い可視光線の反射率を得ることのできるコールドミラーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る手段は、基板と、屈折率の異なる薄膜が交互に積層された誘電体多層膜と、前記誘電体多層膜を構成するいずれの薄膜の屈折率よりも高い屈折率を有する赤外線透過膜と、を有し、前記基板と前記誘電体多層膜との間に、前記赤外線透過膜を介在させた構成のコールドミラーである。
【0006】
請求項2に係る手段は、請求項1に記載の発明において、赤外線透過膜が珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)の中から選ばれたいずれか一の物質からなる構成のコールドミラーである。
【0007】
請求項3に係る手段は、請求項1または請求項2に記載の発明において、赤外線透過膜の光学的膜厚が、λIR/2(λIRは透過させたい赤外線の設計中心波長)である構成のコールドミラーである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコールドミラーは、基板と誘電体多層膜との間に赤外線透過膜を介在させたため、不要な赤外線を透過させて放熱を行いつつ、誘電体多層膜を構成する薄膜が少ない積層数であっても高い可視光線の反射率を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を、図1に基づき説明する。
本発明のコールドミラーAは、基板1と、赤外線透過膜2と、誘電体多層膜3とを備えており、基板1と誘電体多層膜3との間に、赤外線透過膜2を介在させた構成となっている。
【0010】
基板1は、この基板1上に形成される赤外線透過膜2および誘電体多層膜3を支持すると共に、熱線である赤外線を透過させたり、一旦吸収してコールドミラーAの背面A1側から放熱させたりする媒体でもある。したがって、基板1は、赤外線を透過させる場合にあってはガラスやプラスチック等の赤外線透過材料が用いられ、赤外線を一旦吸収する場合にあっては金属やセラミックス等の熱伝導率、放熱性の良い材料が用いられる。
【0011】
前述の赤外線透過膜2は、後記する誘電体多層膜3を構成するいずれの薄膜の屈折率よりも高い屈折率を有し、可視光線を反射して赤外線を透過する例えば珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの材料が用いられる。
【0012】
なお、赤外線透過膜2の光学的膜厚は(2m−1)×λIR/2(λIRは透過させたい赤外線の設計中心波長、mは自然数)とするのが好ましい。誘電体多層膜3と赤外線透過膜2との界面bでの赤外線の反射光、および赤外線透過膜2と基板1との界面aでの赤外線の反射光が干渉し、赤外線の反射が弱められるためである。なお、好適にはλIR/2(m=1)が用いられる。より薄い赤外線透過膜2で同じ効果が得られるためである。
【0013】
前述の誘電体多層膜3は、屈折率の異なる薄膜が交互に積層されたものであり、たとえば屈折率の異なる薄膜として低屈折率薄膜4と、この低屈折率薄膜4よりも高い屈折率を有する高屈折率薄膜5とが交互に積層されている。また、可視光線の波長帯域全体に渡って透過する材料が好ましく、二酸化珪素(SiO2)、酸化珪素(SiO)、フッ化マグネシウム(MgF2)、二酸化チタン(TiO2)、五酸化タンタル(Ta35)、五酸化ニオブ(Nb35)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al23)などの物質が用いられる。
【0014】
また、誘電体多層膜3の各薄膜の光学的膜厚は(2n−1)×λ0/4(λ0は反射させたい可視光線の設計中心波長、nは自然数)であり、好適にはλ0/4(n=1)が用いられる。より薄い薄膜で同じ反射効果が得られるためである。
【0015】
なお、誘電体多層膜3の積層数は6層以上とするのが好ましい。6層よりも少ないと赤外線透過膜2自身の反射特性の影響でコールドミラーによって反射される反射光zの白色からの色ズレが大きくなり、例えば赤みがかった光色となってしまうためである。
【0016】
次に、本発明に係るコールドミラーの製造方法について説明する。まず、基板1の表面をアルコール等で洗浄した後、基板1上に赤外線透過膜2を所定の膜厚に形成する。その後、赤外線透過膜2上に例えば前述の低屈折率薄膜4を形成し、更に低屈折率薄膜4上に高屈折率薄膜5を形成し、以下、低屈折率薄膜4と高屈折率薄膜5とを交互に所定の積層数となるように積層して形成する。また、赤外線透過膜2、低屈折率薄膜4および高屈折率薄膜5の形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング蒸着法、あるいはその他の公知技術による方法が用いられる。
【0017】
ところで、上記では赤外線透過膜2の上面に低屈折率薄膜4を形成し、以下、高屈折率薄膜5とを交互に形成する構成について説明したが、赤外線透過膜2の上面に高屈折率薄膜5を形成し、以下、低屈折率薄膜4とを交互に形成する構成であっても構わない。また、所定の積層後のコールドミラーAの表面A2の薄膜は低屈折率薄膜4または高屈折率薄膜5のいずれであっても構わない。
【0018】
次に、本発明に係るコールドミラーAの作用について説明する。
【0019】
可視光線および赤外線を含んでいる入射光xをコールドミラーAに照射した場合、入射光xのうち可視光線については、誘電体多層膜3を構成する低屈折率薄膜4と高屈折率薄膜5とにより光波の干渉で反射される。すなわち、低屈折率薄膜4および高屈折率薄膜5の光学的膜厚を(2n−1)×λ0/4とすることで、低屈折率薄膜4の上面に隣接する高屈折率薄膜5との界面cで反射する可視光線と、前記の低屈折率薄膜4の下面に隣接する高屈折率薄膜5との界面dで反射する可視光線とが同じ位相となって強めあい反射が起こる。また、高屈折率薄膜5の上面に隣接する低屈折率薄膜4との界面dで反射する可視光線と前記の高屈折率薄膜5の下面に隣接する低屈折率薄膜4との界面cで反射する可視光線とについても同じ位相となるため同様に反射が起こる。
【0020】
なお、低屈折率薄膜4と高屈折率薄膜5とを交互に数多く積層するのは、界面cおよび界面dの数を増やすためであり、これらの界面c、dによって可視光線を反射させて反射率を高めるためである。
【0021】
ところで、可視光線の一部は誘電体多層膜3を透過して赤外線透過膜2に達するが、この可視光線の大部分は界面bによって反射される。これは、赤外線透過膜2の屈折率が、誘電体多層膜3を構成するいずれの薄膜よりも高い屈折率を有するためである。
【0022】
一方、コールドミラーAに入射した入射光xのうちの赤外線については大部分が誘電体多層膜3および赤外線透過膜2を透過して基板1と赤外線透過膜2との界面aに達する。これは、誘電体多層膜3を構成するいずれの薄膜も赤外線に対して透明であると共にこれらの薄膜による干渉(反射)がないこと、および赤外線透過膜2の材料に珪素(Si)等を使用しているため赤外線が透過することによるものである。なお、赤外線透過膜2の光学的膜厚を(2m−1)×λIR/2とすることで、界面bで反射した赤外線と、界面aで反射した赤外線とは位相が180°ずれて互いに打ち消しあい赤外線の反射がいっそう抑えられる。
【0023】
以上のように、基板1と誘電体多層膜3との間に赤外線透過膜2を介在させることにより、可視光線にあっては赤外線透過膜2を設けることで反射率を高めることができ、赤外線にあっては放熱のために透過させることが可能となる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0025】
(実施例)図1に本発明の一実施例の構成の略図を示した。基板1として厚さ3mmの洗浄済みのガラス板を用い、この基板1上に光学的膜厚がλIR/2(λIRは1500nm)となるように珪素(Si)を真空蒸着法で蒸着して赤外線透過膜2形成した。さらに、赤外線透過膜2上には低屈折率薄膜4と高屈折率薄膜5を真空蒸着法により積層数が10層となるように交互に積層して誘電体多層膜3を形成した。また、低屈折率薄膜4は光学的膜厚がλ0/4(λ0は500nm)の二酸化珪素(SiO2)薄膜とし、高屈折率薄膜5は光学的膜厚がλ0/4の二酸化チタン(TiO2)薄膜とした。なお、合計膜厚L1(赤外線透過膜2の膜厚と誘電体多層膜3の膜厚の和)は0.88μmである。
【0026】
図2は本実施例のコールドミラーAにおいて入射光xの入射角を0度としたときの反射率の分光特性を示している。
【0027】
(比較例1)図3に比較例1の構成の略図を示した。比較例1は実施例の赤外線透過膜2を設けない例であり、赤外線透過膜2以外は実施例と同じ構成とした。なお、基板1と誘電体多層膜3の構成および製作方法は実施例と同様であり、同一部分に同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0028】
図4は本比較例1のコールドミラーにおいて入射角を0度としたときの反射率の分光特性を示しているが、前述の実施例との比較した場合、赤外線の透過率は概ね同じであるのに対し、可視光線の反射率が小さいことが判る。換言すれば、実施例のように赤外線透過膜2を設けることにより可視光線の反射率を高めることが可能となる。
【0029】
(比較例2)図5に比較例2の構成の略図、図6に比較例2の入射角0度における反射率の分光特性を示した。比較例2は比較例1の低屈折率薄膜4と高屈折率薄膜5の積層数を増やし、実施例とほぼ同等な可視光線の反射率を得ることができる構成とした例であるが、積層数は24層(実施例の2.4倍)、合計膜厚L2(誘電体多層膜3の膜厚)は1.58μm(実施例の1.8倍)とする必要があった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例の構成を示す略図である。
【図2】図1のコールドミラーの反射率の分光特性を示す図である。
【図3】比較例1のコールドミラーの構成を示す略図である。
【図4】図3のコールドミラーの反射率の分光特性を示す図である。
【図5】比較例2のコールドミラーの構成を示す略図である。
【図6】図5のコールドミラーの反射率の分光特性を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
A コールドミラー
1 基板
2 赤外線透過膜
3 誘電体多層膜
4 低屈折率薄膜
5 高屈折率薄膜
x 入射光
z 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
屈折率の異なる薄膜が交互に積層された誘電体多層膜と、
前記誘電体多層膜を構成するいずれの薄膜の屈折率よりも高い屈折率を有する赤外線透過膜と、
を有し、
前記基板と前記誘電体多層膜との間に、前記赤外線透過膜を介在させたことを特徴とするコールドミラー。
【請求項2】
赤外線透過膜は珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)の中から選ばれたいずれか一の物質からなることを特徴とする請求項1に記載のコールドミラー。
【請求項3】
赤外線透過膜の光学的膜厚は、λIR/2(λIRは透過させたい赤外線の設計中心波長)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコールドミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−259124(P2006−259124A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75272(P2005−75272)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(392022215)河合光学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】