説明

ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線

【課題】 生産性を損なわず、また、伸線加工性を劣化させることなく、Co塩を配合しないゴムとの接着性に優れ、かつ時間が経過しても接着強度の劣化が少ない、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線を提供する。
【解決手段】 線径が0.1〜0.4mmであり、表面に、平均厚さが50〜500nmであるめっき層を有し、該めっき層は、質量%で、Cu:65〜80%、Co:0.5〜5%、Mo:0.1〜5%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードなど、タイヤを始めとする各種ゴム製品の補強材に使用される、表面にめっき処理が施された極細鋼線であって、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム補強材、例えば、タイヤの補強材として使用されているスチールコードの表面には、ブラスめっきが形成されている。このスチールコードを、未硫化ゴムに埋め込み、加硫することにより、スチールコードとゴムとを接着させる。なお、加硫は、ゴム製品を製造する際の最終工程であり、150〜200℃に20〜40分加圧、加熱する工程である。加硫によって、ゴムの架橋とともにスチールコードのブラスめっきとゴムとの界面に接着層が生成する。この接着層は、ブラスめっきのCu及びZnとゴムに含まれるS(硫黄)との反応によって形成された硫化物である。
【0003】
このように、スチールコードとゴムとは、加硫時に生成する硫化物によって接着される。そのため、ゴム中には、硫化物の生成を促進する触媒としてCoを含む有機コバルト塩が配合されることがある。Coは、スチールコードとゴムとの初期の接着強度を確保するためには有用である。しかし、タイヤなどを高温、高湿環境で使用すると、ブラスめっきのCu及びZnとゴムに含まれるSとの反応が進行する。その結果、接着層が厚くなり、硫化物の組成が変化し、スチールコードとゴムとの接着強度が低下する。
【0004】
さらに、有機コバルト塩は、ゴム分子の二重結合を切断し、ゴムを劣化させるという問題がある。また、CuとSとの加硫反応の触媒として作用するCoは希少金属であり、ゴムにCoを含有させると、コストが非常に高くなる。そのため、タイヤなどのゴムから有機コバルト塩を削減することが望まれている。
【0005】
このような問題に対して、Coを含むブラスめっきを設けたスチールコードが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。Coは、めっきとゴムとの接着性の改善に有用な元素であるが、更なる改善が望まれている。また、最表層にCoをめっきした後、めっき線を洗浄する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、撚り線加工後にCoめっきを施すと、コストの上昇が懸念される。
【0006】
さらに、ブラスめっきや亜鉛めっきに比べて、ゴムとの接着性や伸線加工性に優れためっき層として、Zn−Mo−Xめっき(Xは、Co、Fe又はNi)が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、亜鉛合金めっきを設けた鋼線を伸線加工すると、伸線加工性が低下し、断線が発生しやすくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−98632号公報
【特許文献2】特開2002−13085号公報
【特許文献3】特開平1−177390号公報
【特許文献4】特開2000−54185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生産性を損なわず、また、伸線加工性を劣化させることなく、Cu−Zn−Coめっきを設けた極細めっき鋼線よりも、さらに、Co塩を配合しないゴムとの接着性に優れ、かつ時間が経過しても接着強度の劣化が少ない、ゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究し、その結果、Cu−Zn−Coめっきに、更にMoを含有させることにより、極細めっき鋼線とゴム加硫処理時に優先的にMo硫化物を生成させて、Coの硫化物の生成を抑制することでCoの触媒作用を更に高めて、初期の接着強度を向上させ、かつ、接着強度の経年劣化を抑制することが可能な、極細めっき鋼線が得られることを見出して本発明を完成した。
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1) 線径が0.1〜0.4mmであり、表面に、平均厚さが50〜500nmであるめっき層を有し、該めっき層が、質量%で、
Cu:65〜80%、
Co:0.5〜5%、
Mo:0.1〜5%
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなることを特徴とするゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。
【発明の効果】
【0012】
本発明の極細めっき鋼線によれば、スチールコードなどの極細めっき鋼線とゴムとの接着強度が、加硫直後から良好であり、かつ、タイヤの使用時などの高温及び多湿の環境で時間が経過しても接着強度の劣化が小さく、優れたゴムとの接着性を確保することができる。さらに、ゴムに有機Co塩を含有させる必要がなく、めっきを合金化させる拡散処理も不要となり、伸線加工性も悪化しないため製造コストの削減が可能となり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のめっき層を有する鋼線の製造プロセスの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
極細めっき鋼線とゴムとの接着は、極細鋼線表面のブラスめっきとゴムに含まれるSが加硫処理時に反応し、接着層を形成することで発現する。接着強度は接着層のCu硫化物の組成に依存し、CuSに近いほど接着強度が高く、CuSに近い組成では接着強度は低下すると考えられている。また、Zn硫化物も接着強度を発現するものの、その接着強度はCu硫化物の50〜70%程度であると考えられている。
【0015】
本発明者らは、Cu−Zn−Coめっきを設けた極細めっき鋼線とゴムとの初期の接着強度について検討を行った。加硫時には、Coがめっきに含まれるCuとゴムに含まれるSとの反応の触媒として作用する。その結果、CuとSとの反応が促進され、極細めっき鋼線とゴムとの界面に、組成がCuSに近いCu硫化物が生成し、Cu−Zn−Coめっきを設けた極細めっき鋼線とゴムとの初期の接着強度は良好である。
【0016】
本発明者らは、さらに詳細に、Cu−Zn−Coめっきを設けた極細めっき鋼線(三元系合金めっき鋼線)とゴムとの界面に形成された初期の接着層を調査した。その結果、初期の接着層には、Cu硫化物だけではなく、Coを含む硫化物も形成されていることがわかった。したがって、加硫時に、Co硫化物の形成を抑制することができれば、極細めっき鋼線とゴムとの初期の接着強度を更に高めることができると考えられる。
【0017】
そこで、本発明者らは、Co以外の元素の硫化物を優先的に生成させてCo硫化物の形成を抑制するため、Coに比べて、硫化物を形成し易い元素として、Moに注目した。本発明者らは、Cu−Zn−Co−Moめっきを設けた極細めっき鋼線(四元系合金めっき鋼線)について検討を行い、四元系合金めっき鋼線とゴムとの初期の接着強度が、上述の三元系合金めっき鋼線の結果に比べて良好であることを確認した。また、四元系合金めっき鋼線とゴムとの界面には、組成がCuSに近いCu硫化物に加えて、Mo硫化物が形成されており、Co硫化物の生成は抑制されていることがわかった。
【0018】
更に、本発明者らは、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度の経年劣化についても検討を行った。タイヤを使用する際には、タイヤの発熱による温度の影響で、時間の経過とともに、スチールコードの表面に設けためっきに含まれるCuがゴム側へ拡散して接着層が厚くなる。また、接着層中のCuはゴム側に拡散し、Cu硫化物のCu硫化物の組成はCuSに近づくため、接着強度が低下する。
【0019】
本発明者らは、三元系合金めっき鋼線及び四元系合金めっき鋼線と、ゴムとの接着強度の経年劣化についても検討を行った。その結果、四元系合金めっき鋼線は、三元系合金めっき鋼線に比べて、接着強度の経年劣化が抑制されていることがわかった。この理由は明確ではないが、四元系合金めっき鋼線とゴムとの界面に形成されたMo硫化物が、Cuの拡散を抑制したものと考えられる。
【0020】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0021】
極細めっき鋼線の線径は、しなやかさを得るために、0.4mm以下とする。これは、線径が0.4mmより太くなり、しなやかさが低下すると、タイヤのゴム補強材に使用した場合に、自動車の乗り心地が低下するためである。また、線径が太くなると、伸線加工による加工強化代が小さくなり、十分な補強効果が得られない。したがって、極細めっき鋼線の線径は0.4mmを上限とする。一方、線径を細くすると、製造工程が長くなり、最終製品の生産性も低下するために製造に時間とコストがかかる。このため、極細めっき鋼線の線径の下限を0.1mm以上とする。極細鋼線の線径は、より好ましくは0.17〜0.34mmである。
【0022】
極細めっき鋼線の強度は、補強効果を得るため、3200MPa以上であること好ましい。鋼線の成分は必ずしも限定はされないが、強度を確保するため、C含有量を、0.6〜1.0質量%とすることが好ましい。また、鋼線の金属組織は、強度を確保するため、伸線加工されたパーライトであることが好ましい。
【0023】
本発明の極細めっき鋼線は、熱間圧延、伸線加工によって製造され、めっき後にはめっき層を合金化する熱処理を施し、更に伸線加工を行う。製造工程の途中では必要に応じて熱処理を施してもよい。なお、めっきは、酸化Moの形成を抑制してMoが金属モリブデンとして存在するようにして行うことが好ましい。まず、線径が3〜5.5mmの鋼線を熱間圧延によって製造し、これを線径1〜3mmまで伸線加工する。次に、線径1〜3mmの鋼線に、必要に応じてパテンティング熱処理を行い、湿式めっきを施して、めっき層を合金化する熱処理を施し、線径が0.1〜0.4mmになるように伸線加工を行う。鋼線の引張強さは、伸線加工の加工度によって調整する。
【0024】
本発明の極細めっき鋼線のめっき層は、Cu、Zn、Co、Moからなる四元系合金である。上述のとおり、本発明のめっき層は、ブラスめっきとゴムとの接着性を向上させるCoの触媒作用を有効に発現させ、かつ使用時のCuの拡散を抑制するために、Moを活用することを最大の特徴とする。以下、好ましいめっき組成について説明する。なお、めっき組成の「%」は、「質量%」を意味する。
【0025】
Cu:65〜80%
Cuは、ゴムに含まれるSと硫化物を形成し、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度に影響を及ぼす元素である。また、Cuは展伸性に富み、湿式伸線時の潤滑性を改善し、伸線加工性を向上させる元素である。Cuが少ない場合は、合金化熱処理を施した際に、非平衡層である硬質のβブラス相が増加し、伸線加工性が劣化する。極細めっき鋼線とゴムとの初期の接着強度及び伸線加工性を高めるためには、Cu量を65%以上にすることが好ましい。一方、Cu量が80%を超えると、使用時にCuがゴム側に拡散し、接着層が成長して、Cu硫化物の組成がCuSに近くなる。そのため、接着強度の経年劣化を顕著に抑制するには、Cu量の上限を80%以下にすることが好ましい。
【0026】
Co:0.5〜5%
Coは、Cuの拡散を抑制する元素であるが、加硫時のCuとSとの反応を促進する触媒としても作用する。極細めっき鋼線とゴムとの界面に形成されるCu硫化物の組成をCuSに近いものとし、接着強度を向上させるために、Coを0.5%以上含有させることが好ましい。一方、5%を超えるCoを含有させても、触媒として作用しないCo硫化物が形成し、効果が飽和するため、5%以下を上限とする。また、Co量が過剰であると、Co硫化物がめっきに含まれるCuの拡散を抑制し、接着反応を阻害して、初期の接着強度が低下する。さらに、Coの含有量が増加するとめっき層が硬化するため、伸線加工性を確保するためにも、Co量の上限を5%以下にすることが好ましい。より好ましくは0.7%〜4%である。
【0027】
Mo:0.1〜5%
Moは、本発明では最も重要な元素である。Moは、CoよりもSとの親和性が強く、硫化物を生成しやすい元素であり、加硫時に極細めっき鋼線とゴムとの界面にMo硫化物を形成する。その結果、Co硫化物の生成が抑制され、Cu硫化物を生成させる触媒としてCoを有効に活用することができる。Moは、少量で効果を発現し、0.1%以上を含有させることが好ましい。Mo硫化物の生成により、Coの触媒作用を最大限発揮させるためには、0.3%以上のMoを含有させることが好ましい。一方、5%超のMoを含有させると、加硫時にCu硫化物の生成が抑制されて初期の接着強度が低下することがあるため、Mo量の上限は5%以下が好ましい。
【0028】
Moは、湿式めっきでは単独で析出しない元素であり、鉄属元素と同時に誘起共析析出する。本発明では、Zn−Coと共析させ、Zn−Co−Moめっきとし、Cuめっき後にZn−Co−Moめっきを行い、拡散熱処理して合金化する。なお、本発明のめっきは、ブラスめっきにCo、Moを添加したものであるから、Cu、Co、Moの残部は、Zn及び不可避的不純物である。
【0029】
Cu−Zn−Co−Moめっきが薄すぎると、めっきを施す前の鋼線の表面の凹凸に起因して、めっき鋼線の表面に、局所的に鉄が露出した部分(Fe露出部)が生じることがある。このFe露出部では、ゴムとの接着は期待できず、時間の経過により酸素と水分が浸透し、鉄錆が発生する。鉄錆が生じると体積膨張に起因して、接着強度が著しく低下する。したがって、Cu−Zn−Co−Moめっきの平均厚さを50nm以上にすることが好ましい。一方、Cu−Zn−Co−Moめっきが厚すぎると、使用時に接着層に供給されるCu量が増加し、時間の経過とともに、接着層が成長、Cu硫化物の組成がCuSに近くなり、接着強度が低下することがある。したがって、極細めっき鋼線とゴムとの接着強度の経年劣化を抑制するには、Cu−Zn−Co−Moめっきの平均厚さを500nm以下にすることが好ましい。Cu−Zn−Co−Moめっきの平均厚さは150〜350nmがさらに好ましい。
【0030】
なお、極細めっき鋼線のめっき層の平均厚さは、めっき層を溶解除去した前後の重量変化から計算して求める。本発明の複数元素からなるめっき層の場合は拡散後に7%アンモニア水溶液に25g/lのトリクロロ酢酸を混合したアルカリ溶液に浸漬して溶解した重量変化からめっき重量を求め、溶解液中のCu、Zn、Co、Moの元素をICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)あるいは原子吸光分析によりそれぞれの元素の濃度を求め、各元素のめっき重量から、以下の式で各元素のめっきの平均厚さを求める。
【0031】
めっき厚t=w/(A×ρ)
W:金属種毎のめっき重量
A:鋼線表面積A
t:平均めっき厚さ
ρ:めっき金属種の比重
【0032】
他にXPS(X線光電子分光分析)、AES(オージェ電子分光法)等の表面分析が可能な機器分析により、表面から元素のデプスプロファイルを測定しても推定可能である。ただし、機器分析では、鋼線の円周方向、長手方向での測定部位によって、めっき厚が変動するため、測定箇所が少ないと正確なめっき厚さを評価できない可能性がある。めっき溶解法によって平均めっき厚さを求めることが好ましい。
【0033】
次に、本発明の極細めっき鋼線の製造工程の例について説明する。図1の製造工程のブロック図に示すように、まず、熱間圧延によって製造した線径が3〜5.5mmの鋼線を、デスケーリングして、これを線径1〜3mmまで伸線加工(乾式伸線)して、コイルに巻き取る。次に、コイルから繰り出した線径1〜3mmの鋼線に、パテンティング熱処理を施し、加工の影響を除去することが好ましい。さらに、必要に応じて、酸洗によるデスケーリング、脱脂のめっき前処理を施す。
【0034】
めっき前処理に引き続き、湿式Cuめっきを行い、その後、Zn−Co−Mo合金めっきを行う。ここで、Zn−Co−Mo合金めっきに含まれるMo量は、定電流及び電流密度を周期的に変動(サイクル電流)させて制御することができる。また、場合によってはCuめっき、Znめっきを行った後、Co−Moめっきを行うこと、さらに単独でCoめっきを行ってもよい。ただし、比較的、めっき層に含まれる量が少ないCo、Moの含有量を制御するためには、Zn−Co−Moが同時に析出する合金めっきが好ましい。また、Zn−Co−Mo合金めっきは、製造工程が少なく、組成、厚さの制御も容易であり、好ましいめっき処理形態である。
【0035】
めっき後、鋼線に拡散熱処理(合金化処理)を施し、Cu、Zn、Co、Moを合金化する。拡散熱処理は、CuとZnの合金化反応によりブラスめっきとする条件でよく、温度は480〜600℃、保持時間は2〜15sが好ましい。めっき層を合金化した後、必要に応じてコイルに巻き取り、繰り出して更に湿式伸線により、極細めっき鋼線の線径が0.1〜0.4mmになるように伸線加工する。その後、撚り加工してスチールコードとし、コイルに巻き取る。
【0036】
Zn−Co−Mo合金めっきは、硫酸亜鉛、硫酸コバルトを主体としためっきにMoを誘起共析させるためにモリブデン酸アンモニウムを0.5〜5g/l配合しためっき浴を用いて行うことができる。Moは、Coとともに共析する性質があり、高電流密度でより多く共析する。Moを含むめっき浴では、電流密度が高いと不めっきが発生しやすくなるため、低電流密度でMoを安定的に共析させる必要がある。一方、低電流密度ではめっきの効率が悪い。そのため、Moを効率よく、安定的に析出させるためには、Moの析出が安定となる10A/dm以下の低電流密度と、析出速度が速い20A/dm以上の高電流密度を交互に付与することが好ましい。
【0037】
高電流密度と低電流密度を交互に付与し、付与した電流でZn−Co−Mo合金めっきを安定的に析出させるためには、電流の印加時間の下限を50ms以上にすることが好ましい。一方、電硫の印加時間の上限は、より安定しためっきを析出させるために1000ms以下が好ましい。高電流密度と低電流密度の印加時間の組み合わせは特に限定されず、最適めっきが得られる条件を適宜選定すればよい。
【0038】
本発明の極細めっき鋼線をタイヤに適用する場合は、タイヤの走行性能にあわせて適宜複数本撚り合わせ、ゴムとカーボンブラック、硫黄、酸化亜鉛、その他各種添加剤を配合した原材料を練ったシート状ゴムに挟み込まれ、補強ベルト構造とする。その後、タイヤ構成部材を貼り合わせて加硫機にセットし、プレス、加熱し、ゴムの強度を発現するための架橋と同時にゴムと極細めっき鋼線との接着を行う。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例に記載の内容により本発明の内容は制限されない。
【0040】
図1の製造工程に従って製造した。具体的には表1に示す成分を有する鋼材を熱間圧延し、線径が5.5mmの熱間圧延線材を製造した。得られた熱間圧延線材を酸洗し、スケールを除去した後、石灰処理を行い、ステアリン酸Naを主体とした乾式潤滑剤を用いて1.5mmまで伸線加工した。この伸線材を950℃に加熱して75s保持し、金属組織をオーステナイトにした後、570℃の鉛浴に20s浸漬するパテンティング処理を行った。
【0041】
【表1】

【0042】
パテンティング処理を行った鋼線に、連続して、硫酸による電解酸洗とアルカリ溶液による電解脱脂を施し、ピロリン酸銅めっき、Zn−Co−Moの合金めっきを行い、500℃に加熱して4s保持する合金化処理を行い、Cu−Zn−Co−Moめっきとし、巻き取った。ここで、Zn−Co−Mo合金めっきに含まれるMo量は、定電流及び電流密度を周期的に変動させて制御した。
【0043】
さらに、湿式潤滑剤を用いた湿式伸線により、線径が0.1〜0.4mmになるように伸線加工を行い、極細めっき鋼線を製造した。比較のために、Cuめっき及びZnめっきと拡散熱処理によって、平均厚さが230nmであり、Cu濃度が63%であるブラスめっき設けた極細めっき鋼線を製造した。伸線加工性は、ダイス寿命と断線発生率によって評価し、ブラスめっき鋼線の伸線性を100とし、これに対する指数を極細めっき鋼線の伸線加工性として評価した。
【0044】
極細めっき鋼線から試料を採取し、レーザー式非接触線径測定装置によって極細めっき鋼線の線径を測定した。めっき厚さは、7%アンモニア水溶液に25g/lのトリクロロ酢酸を混合したアルカリ溶液に浸漬し、めっきを溶解し、重量変化からめっき付着量を求め、溶解液をICP分析でCu、Zn、Co、Mo濃度を分析し、それぞれの元素のめっき量を計算して求めた。表2に極細めっき鋼線の線径、めっき組成(なお、残部はZn及び不可避不純物である)、めっき厚さを示す。
【0045】
【表2】

【0046】
次に、極細めっき鋼線の引張試験を行い、引張強さを測定し、従来のブラスめっき鋼線の引張強さを100とした指数で評価した。極細めっき鋼線4本を、5mmのピッチで撚り合わせてコードとし、金型にセットして、表3に示すゴム組成物に埋め込み、160℃で、30分加熱するホットプレスにより加硫処理を行い、接着性評価用試料を製造した。この試料を用いて、初期の接着強度(初期接着強度)及び接着強度の経時による劣化(経年劣化)を評価した。初期接着強度は、引張試験装置でコードをゴムから引き抜いた時の引抜力を測定し、最大引抜力で評価した。また、接着強度の経年劣化は、試料を80℃の水に3日浸漬した後、初期接着強度と同様にして、コードをゴムから引き抜いた時の最大引抜力として評価した。なお、初期接着強度及び経年劣化は、比較のために製造したブラスめっき鋼線の初期接着強を100とし、これに対する指数で評価した。
【0047】
【表3】

【0048】
表4に、ゴム組成物のCo塩の有無(ゴム種類)、極細めっき鋼線とゴムとの初期接着強度及び経年劣化の評価結果、伸線加工性の評価結果、極細めっき鋼線の引張強さ(極細鋼線の強度)を示す。本発明の極細めっき鋼線は、ナフテン酸コバルト塩を配合しない条件でも十分な初期接着強度が確保され、かつ経年劣化がブラスめっきに比べて小さいことがわかる。また、交互に高電流密度と低電流密度を付与することでZn−Co−Moめっき時に高いMo析出が可能である。
【0049】
【表4】

【0050】
一方、従来のブラスめっきは、試験No.18のナフテン酸コバルトを配合したゴム組成(Co塩あり)の場合は加硫直後の初期接着性は高いものの、劣化処理後の接着性(経年劣化)は低下した。また、従来のブラスめっきは、試験No.19のナフテン酸コバルトの配合がないゴム組成(Co塩なし)では接着反応性が低下し、初期接着強度が低下している。なお、経年劣化も不十分ではあるものの、試験No.18に比べると、若干、良好である。
【0051】
試験No.8は、めっきに含まれるCu量が少ないため、めっき中のβブラスが増加し、伸線加工性が悪化した例である。試験No.9は、めっきに含まれるCu量が多いため、経年劣化が発生した例である。試験No.10はめっきに含まれるMo量が少なく、試験No.12はCo量が少なく、初期接着強度が低下した例である。試験No.11は、めっきに含まれるMo量が多く、伸線性加工性が劣化した例である。なお、No.13は、めっきに含まれるCo量が多いため、初期接着強度が低下し、伸線加工性も低下した例である。
【0052】
試験No.14は、めっきが薄く、局部的に地鉄が露出した部分が大きくなり、初期接着強度が低下し、伸線加工性が悪化した例である。試験No.15は、めっきが厚すぎるため、経年劣化が発生した例である。試験No.16は、極細めっき鋼線の線径が細いために伸線加工性が低下した例である。試験No.17は、極細めっき鋼線の線径が太く、強度が低下した例である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の極細めっき鋼線は、ゴムと補強材が強固に接着され、時間が経過してもその接着強度の低下が著しく小さいため、ゴム製品の強度を高く維持可能である。したがって、タイヤコード及びビードワイヤだけでなく、ゴムホースやベルトの補強材として使用することが可能であり、産業上の利用可能性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線径が0.1〜0.4mmであり、表面に、平均厚さが50〜500nmであるめっき層を有し、該めっき層が、質量%で、
Cu:65〜80%、
Co:0.5〜5%、
Mo:0.1〜5%
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなることを特徴とするゴムとの接着性に優れた極細めっき鋼線。

【図1】
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【公開番号】特開2011−219837(P2011−219837A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92424(P2010−92424)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】