説明

ゴム混練装置

【課題】ゴムの混練性能を高くして、ゴム中の成分を均一に分散させることができる一対のロータ備えたゴム混練装置を提供する。
【解決手段】ゴム混練装置1は、ゴムを収容する混練室3と、混練室3内に並べて配置された一対のロータ10とを備えている。一対のロータ10を、互いに外周の螺旋状の突条12が噛み合う状態で軸心20回りの逆方向に回転させ、回転する一対のロータ10により、混練室3内でゴムを混練する。回転中における一対のロータ10間の最小間隔を、一対のロータ10の軸心20間の距離の2〜7%に設定する。ロータ10の外周を平面に展開したときに、ロータ10の突条12に沿って延びる線とロータ10の軸心20に直交する線との間の角度を、25〜65度の角度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練室内で一対のロータを回転させてゴムを混練するゴム混練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりに伴い、車両の排気ガスの削減や省エネルギー化を推進するため、車両の低燃費性能がクローズアップされている。車両の低燃費性能は、タイヤに関しては、その転動抵抗を低減することで効果的に改良できる。このタイヤの転動抵抗の主要因は、タイヤを構成する材料の内部摩擦であり、トレッド、サイドウォール、カーカス、インナーライナ等、タイヤ各部における内部摩擦が転動抵抗に影響する。その内、トレッドは、タイヤの転動抵抗に対する寄与が最も大きく、その内部摩擦を低減することで転動抵抗を大幅に低減できる。また、トレッドの内部摩擦及びタイヤの転動抵抗の低減に対しては、トレッド用に配合するゴムの圧縮、曲げ、せん断等による歪みエネルギー損失を低減させることが最も有効であり、特に、60℃におけるゴムの損失正接(tanδ)との相関が大きいことが知られている。即ち、トレッドゴムのtanδを小さくすることで、転動抵抗及び低燃費性能を改良できる。
【0003】
これに対し、ゴム中に補強剤としてシリカを所定の割合で配合することで、60℃におけるゴムのtanδを小さくできる。このゴムは、ゴム混練装置を使用して、回転する一対のロータにより、ゴム成分とシリカ、及び、硫黄等の配合剤とを混練して製造される。ところが、混練中にシリカを均一に分散できずに、ゴム内におけるシリカの混合性が低くなると、ゴムのtanδを充分に低減できず、かつ、シリカの分散不良により、タイヤの耐摩耗性にも影響が生じる虞がある。
【0004】
このような問題に対処するため、従来、ロータの外周に、複数の長翼と短翼を組み合わせて配置して、ゴム中の成分を分散させる能力を高めたゴム混練装置が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この従来のゴム混練装置は、主に、ロータにより、混練中のゴムに大きなせん断力を付加してゴムを混合している。そのため、このゴム混練装置は、分散性がせん断力に高く依存するカーボンを添加したゴムを混練するときには、カーボンをゴム中に充分に分散させることができる。一方、シリカは、せん断力を付加するよりも、混練中に化学反応を起こさせながら、ゴム成分との混合を進行させて、ゴム中に分散させる必要があるため、従来のゴム混練装置で均一に分散させるのには困難が伴う。従って、従来のゴム混練装置は、ゴム中の各種の成分をより均一に分散させて、ゴムの混合性を向上させる観点から、ゴムの混練性能を一層高くすることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−29294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これら従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ゴム混練装置が備える一対のロータによるゴムの混練性能を高くして、ゴム中の成分を均一に分散させ、ゴムの混合性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴムを収容する混練室と、混練室内に並べて配置され、互いに外周に設けられた螺旋状の突条が噛み合う状態で軸心回りの逆方向に回転する一対のロータとを備え、回転する一対のロータにより混練室内でゴムを混練するゴム混練装置であって、回転中における一対のロータ間の最小間隔が、一対のロータの軸心間距離の2〜7%であり、ロータの突条のねじれ角度が、25〜65度であるゴム混練装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム混練装置が備える一対のロータによるゴムの混練性能を高くでき、ゴム中の成分を均一に分散させて、ゴムの混合性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のゴム混練装置を示す概略構成図である。
【図2】一対のロータを軸方向から見た正面図である。
【図3】1つのロータを拡大して示す正面図である。
【図4】ロータの外周を展開して示す要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のゴム混練装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のゴム混練装置は、密閉式のゴム混練装置(例えば、バンバリーミキサ)であり、ゴム成分に各種の配合剤が添加されたゴムを混練する。以下では、ゴムとして、タイヤのトレッド用に配合されたトレッド用のゴム(未加硫ゴム組成物)を製造する例を説明する。また、このゴム混練装置で混練するゴムは、シリカが含有されたゴムである。
【0012】
図1は、本実施形態のゴム混練装置を示す概略構成図であり、ゴム混練装置1の要部をロータ10の軸心20の方向(軸方向という)から見て模式的に示している。また、図1では、ゴム混練装置1を切断して内部の構成を示している。
ゴム混練装置1は、図示のように、中空状のケース2(図1では断面で示す)と、ケース2内に形成されたゴムを収容する混練室3と、混練室3内に収納された一対のロータ10とを備えている。ゴム混練装置1は、混練室3内に、一対のロータ10が、水平に、かつ、軸心20を平行にして配置され、ケース2により、一対のロータ10を軸心20回りに回転可能に支持する。また、ゴム混練装置1は、一対のロータ10を軸心20回りに回転させるモータ等からなる回転手段(図示せず)を備えている。回転手段は、一対のロータ10を、互いに軸心20回りの逆方向に同期して所定の回転速度(回転数)で回転させて、任意の回転角で停止させる。
【0013】
ケース2は、上部に設けられたホッパー(図示せず)から筒状の投入路4を通して、ゴム成分、及び、充填材や薬品等の各種の配合剤が混練室3に投入される。混練室3は、ロータ10の最大径よりも直径が大きい円柱状の2つの空間からなり、両空間の一部を交わらせた形状に形成されている。ゴム混練装置1は、投入路4内を上下動するラム(ウエイト)(図示せず)により、混練室3の上部開口を塞いで、混練室3内に収容したゴムを押さえる。また、ゴム混練装置1は、ケース2の下部に設けられた開閉式のドロップドア(図示せず)を開放して、混練室3内から混練後のゴムを取り出す。
【0014】
ロータ10は、円柱状の軸部11と、軸部11の外周面に一体に形成された突条12とを有し、所定の断面形状の突条12が、外周に1つ以上設けられている。突条12は、ロータ10の外周で、半径方向外側に突出し、かつ、周方向に対して傾斜して形成されている。また、突条12は、ロータ10の軸方向の全体、又は、所定範囲に形成されるとともに、ロータ10の軸方向に螺旋状に延びるように形成される。突条12がロータ10の周方向に2つ以上設けられるときには、複数の突条12が、周方向に沿って互いに等角度離して配置される。また、突条12は、例えば、ロータ10の軸方向の全体に亘り形成された、相対的に長く螺旋状に延びる長翼、又は、長翼をロータ10の軸方向に分断等して形成された、長翼よりも短い短翼からなる。
【0015】
一対のロータ10は、軸心20の方向を揃えて混練室3内に並べて配置され、外周同士を向かい合わせてケース2に取り付けられる。また、一対のロータ10は、軸部11を平行にして配置され、互いに、外周に設けられた螺旋状の突条12が噛み合う状態で軸心20回りの逆方向に回転する。ゴム混練装置1は、回転する一対のロータ10により、混練室3内で内部に収容したゴムを混練する。
【0016】
なお、突条12が噛み合う状態で回転するとは、一対のロータ10が、回転時の突条12の移動範囲同士を重複させた状態で、互いに突条12同士及び突条12と他の部分(例えば軸部11)とを接触させずに逆方向に回転することをいう。即ち、一対のロータ10は、突条12や軸部11を含む全体が接触せず、突条12同士も干渉せずに、軸心20回りの逆方向に回転する。その際、一対のロータ10は、例えば、互いに相手の突条12の間に自己の突条12が位置する状態を維持して回転し、或いは、相手の突条12の間に自己の突条12を順に挿入するようにして回転する。
【0017】
ゴム混練装置1は、一対のロータ10を、噛み合わされたギアと同様に、同時に回転を開始させて、突条12同士の位置をずらせた状態で、常に同じ回転速度で同期して回転させて同時に停止させる。この回転時に突条12と軸部11が接触しないように、一対のロータ10は、突条12の移動範囲と軸部11との間に所定間隔の隙間を開けて配置される。また、一対のロータ10は、回転中に互いの突条12同士が接触しないように、一部又は全部の突条12が、相手の突条12に合わせて部分的に切り欠いて、又は、分断して形成される。一対のロータ10は、突条12の移動範囲と混練室3の内面との間にも、所定間隔の隙間を開けて配置され、混練室3の内面とも接触せずに回転する。
【0018】
次に、一対のロータ10と各ロータ10の構成について、詳細に説明する。
図2は、一対のロータ10を軸方向から見た正面図である。また、図2Aは、図1に対応する状態の一対のロータ10を、図2Bは、図2Aの状態から所定角度回転した後の一対のロータ10を、それぞれ模式的に示している。
ロータ10は、図示のように、突条12の先端面13が円弧状に形成されている。先端面13は、同じロータ10の複数の突条12で、ロータ10の軸心20を中心とする1つの円周上に位置し、かつ、同じ曲率に形成される。そのため、突条12の先端面13は、軸部11の周面14と同心状をなし、ロータ10の回転時に、軸部11の周面14(図2A参照)と一定の間隔を開けて対向する。
【0019】
本実施形態では、回転中における一対のロータ10間の最小間隔Tが、一対のロータ10の軸心20間の距離W(軸心間距離Wという)の2〜7%(0.02×W〜0.07×W)の間隔になっている。最小間隔Tは、回転に伴い変化する一対のロータ10の外面間の間隔の最小値であり、回転する一対のロータ10が最も接近する位置におけるロータ10間の間隔を表す。この最小間隔Tは、例えば、突条12とロータ10の外周面の間隔や、突条12同士の間隔に対応する。
【0020】
ここでは、最小間隔Tは、突条12(図2A参照)の先端面13と軸部11の周面14が最も接近したときの間隔、及び、先端面13(図2B参照)の縁部と周面14が最も接近したときの間隔である。また、突条12の形状、位置、寸法によっては、一対のロータ10の突条12同士が最も接近したときの間隔が最小間隔Tとなる。一対のロータ10は、この最小間隔Tで混練室3内に配置されて、互いの間隔の量を表すクリアランスが所定値に設定される。各ロータ10は、混練室3の内面との間の最小間隔も、一対のロータ10間の最小間隔Tと同じ間隔に設定される。従って、一対のロータ10は、突条12と混練室3の内面との間に最小間隔Tの隙間を開けた状態で回転する。
【0021】
図3は、1つのロータ10を拡大して示す正面図である。
ロータ10は、図示のように、突条12の先端面13における直径(最大径D1)、軸部11の周面14の直径(最小径D2)、突条12の先端面13の幅H、及び、突条12の両側面を延長してできる三角形の頂角を半分にした角度Fが、それぞれ所定値に設定される。例えば、ロータ10の最大径D1は、軸心間距離Wから最小間隔Tと最小径D2の1/2とを引いた値を2倍した径(D1=2×(W−T−D2÷2))に設定される。また、突条12の先端面13の幅Hは、最小径D2の60〜80%の幅(0.6×D2〜0.8×D2)に設定される。
【0022】
図4は、ロータ10の外周を展開して示す要部平面図であり、図3の矢印X方向から見た1つの突条12を拡大して示している。また、図4では、突条12として、上記したロータ10の軸方向の全体に亘り形成された長翼を示す。
ロータ10は、図示のように、外周を平面に展開すると、軸心20、軸部11の周面14、突条12、及び、先端面13が同一平面上に表される。ロータ10は、外周を平面に展開したときに、突条12に沿って延びる線L1と、軸心20に直交する線L2との間の角度K(ねじれ角度Kという)が、25〜65度の間の角度に設定される。この線L1は、突条12が螺旋状に延びる方向に対応する線(例えば、突条12の幅方向の中央線)であり、ロータ10の外周を展開した平面で線L2と交差する。また、交差位置において、線L1と線L2間の鋭角な方の角度が、突条12のねじれ角度Kとなる。
【0023】
ここで、一対のロータ10間の最小間隔Tと突条12のねじれ角度Kは、粒子を用いた数値解析手法である粒子法を用いて、コンピュータによりゴム混練装置1によるゴムの混練をシミュレートし、このシミュレーション結果に基づいて規定した。数値解析には、市販のゴム混練解析用ソフトウェアである、プロメテック・ソフトウェア株式会社製の粒子法CAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェア(商品名「Particleworks」)を使用した。この粒子法CAEソフトウェアは、粒子法に非圧縮性流れの計算アルゴリズムを導入したMPS(Moving Particle Semi-implicit)法により、ゴムの撹拌・混練挙動を解析する。これにより、各種条件で混練するゴムの挙動や、混練後のゴムに関する特性値を算出して、ゴムの分配混合について評価する。
【0024】
数値解析では、まず、粒子法CAEソフトウェアをインストールしたコンピュータに、ゴム混練装置1の解析に必要な部分のCAD(Computer Aided Design)データを入力する。これにより、例えば、一対のロータ10と混練室3の形状や寸法のデータを設定する。また、混練室3内に、モデル化(粒子化)したゴムを設定し、一対のロータ10の回転速度や混練条件等、各種のパラメータを設定する。各設定に基づき数値解析して、ゴム混練装置1によるゴムの混練をシミュレートする。ここでは、一対のロータ10間の最小間隔Tと突条12のねじれ角度Kを、それぞれ順次変化させて解析し、各条件でのゴムの混練についてシミュレートした。また、シミュレーション結果として、混練室3内におけるゴムの混合の程度を示す混合度を算出した。
【0025】
このようにして、粒子法解析により、混練開始から所定時間(例えば3分)経過したときのゴムの混合度を算出した。算出した混合度は、理想的な均一状態の混合(完全混合)における混合度を100%としたときに、85%以上でゴムの混合性を高くする効果があるとして、85%以上になるか否かで評価した。また、混合度が85%以上となる条件に基づき、一対のロータ10間の最小間隔Tと突条12のねじれ角度Kを規定した。その結果、一対のロータ10間の最小間隔Tが一対のロータ10の軸心間距離Wの2〜7%であり、突条12のねじれ角度Kが25〜65度であるときに、粒子法解析により算出した所定時間混練後のゴムの混合度が、完全混合の85%以上となることが分かった。これより、上記のように、最小間隔Tを軸心間距離Wの2〜7%と、ねじれ角度Kを25〜65度と規定した。
【0026】
次に、ゴム混練装置1によりゴムを混練する手順と、混練中のゴムに生じる現象や作用について説明する。
まず、混練室3に、ブロック状のゴムを、硫黄、カーボン、シリカ、及び、他の薬品等の配合剤とともに、それぞれ所定量ずつ投入して、混練室3の上部開口を塞ぐ。続いて、一対のロータ10を、上記のように、互いに外周の螺旋状の突条12が噛み合う状態で軸心20回りの逆方向に回転させる。混練室3内のゴムは、一対のロータ10により強力に混練されて可塑度が低下し、ゴム成分、薬品、配合剤等のゴム中の成分が分散する。
【0027】
この混練中に、ゴムは、回転する一対のロータ10に挟み込まれて、ロータ10間の隙間をロータ10の回転方向に通過する。その際、ゴムは、一対のロータ10から力(せん断力)を受けて変形しつつ、ロータ10間の隙間に接近し、それに伴い、せん断力と変形が次第に大きくなる。続いて、ゴムは、ロータ10間の隙間を通過して伸張変形するとともに、引き伸ばされて内部の歪みが増大する。ここでは、一対のロータ10を、突条12が噛み合う状態で回転させるため、ロータ10間の隙間が狭くなり、ゴムに付加されるせん断力とゴムの伸張変形が大きくなる。また、ロータ10の回転に伴い、突条12が、移動方向前方のゴムを捕捉して、ゴムの流動と混練とを行う。同時に、突条12が、ゴムを、対向するロータ10との間の狭い隙間を通過させて、より大きなせん断力を付加しつつ薄く引き伸ばす。
【0028】
そのため、ゴムは、一対のロータ10により、大きなせん断と引き伸ばし変形(歪み変形)とを受けて強力に混練され、ゴム中の成分の均一な分散、可塑度の低下、及び、ゴムの混合度の上昇が促進される。また、ゴムの混合や各成分の分散に対しては、せん断に比べて、伸張による引き伸ばし変形の影響が大きい。ここでは、ゴムは、突条12とロータ10との間や、突条12と混練室3の内面との間で、大きく引き伸ばされるため、ゴムの混合や各成分の分散がより進行する。
【0029】
また、混練室3内のゴムは、回転するロータ10の螺旋状の突条12に押されてロータ10の軸方向にも移動する。これに伴い、ゴムは、ロータ10の軸方向の位置が突条12に沿って変化し、混練室3内で流動して混練される。また、ゴムは、引き伸ばされた後に、ロータ10の軸方向に押されて、引き伸ばされた形状から折り畳まれるように変形(折り畳み変形という)する。更に、ゴムは、混練室3の壁面まで達すると、壁面に押し付けられて圧力が増大し、かつ、壁面から押し返されて、強い力で変形して大きな折り畳み変形を受ける。続いて、ゴムは、再び、一対のロータ10や突条12により上記のように混練され、混練室3内で、繰り返し、引き伸ばし変形や折り畳み変形を受ける。
【0030】
ゴムは、引き伸ばしと折り畳みとにより、離れた部分同士が近づき、或いは、近い部分同士が遠くに引き離される等して、各部の変化や変形量が大きくなる。その結果、ゴムは、効率よくランダムに混合されて、各成分の均一な分散や可塑度の低下が促進する。また、このゴム混練装置1は、混練室3内で回転する一対のロータ10により、シリカを含有するゴムを混練する。シリカは、上記したように、混練中に化学反応を起こさせながらゴム成分と混合する必要がある。これに対し、このゴムは、せん断に加えて、引き伸ばしと折り畳みとにより、大きな歪みや変形を受けるため、シリカの化学反応が促進される。その結果、シリカは、ゴム成分と確実に混合して、ゴム内に高い均一性で分散する。
【0031】
ここで、一対のロータ10間の最小間隔Tを、ロータ10の軸心間距離Wの2%未満にすると、ゴムの粘度に対して最小間隔Tが小さくなりすぎて、ゴム混練装置1の動力負荷が大きくなり、ゴムの加工性が低下する虞がある。一方、最小間隔Tが軸心間距離Wの7%を超えると、一対のロータ10がゴムを引き伸ばす作用とゴムの変形量が小さくなり、充分なゴムの混合性が得られない虞がある。これに対し、最小間隔Tを軸心間距離Wの2〜7%にすると、ゴムの加工性を維持しつつ、ゴムをロータ10間の隙間を確実に通過させて引き伸ばすことができる。また、一対のロータ10により、ゴムを充分に引き伸ばして、ゴムの変形量を大きくできるため、ゴムの混合性を高くできる。
【0032】
突条12のねじれ角度Kを25度未満にすると、ロータ10の回転時に、突条12に押されてロータ10の軸方向に移動するゴムの量よりも、突条12を乗り越えるゴムの量が多くなる。その結果、ゴム混練装置1の動力負荷が大きくなり、ゴムの加工性が低下する虞がある。一方、突条12のねじれ角度Kが65度を超えると、ロータ10の回転時に、突条12に押されてロータ10の軸方向に移動するゴムの量が少なくなる。その結果、上記したゴムの折り畳み変形の量が小さくなり、充分なゴムの混合性が得られない虞がある。これに対し、突条12のねじれ角度Kを25〜65度にすると、ゴムの加工性を維持しつつ、突条12を乗り越えるゴムの量よりも、ロータ10の軸方向に移動するゴムの量を多くできる。これにより、ゴムの軸方向の移動と折り畳みを確実に行えるため、ゴムの折り畳み変形の量を多くできる。また、ゴムの引き伸ばしと折り畳みをバランスよく行えるため、ゴムを適切に混練することもできる。
【0033】
以上説明したように、このゴム混練装置1では、一対のロータ10間の最小間隔Tを一対のロータ10の軸心間距離Wの2〜7%に、突条12のねじれ角度Kを25〜65度に、それぞれ設定している。そのため、混練中のゴムにせん断力を付加できるとともに、上記したように、引き伸ばしと折り畳みとを組み合わせてゴムを変形させることができる。これにより、ゴムに大きな歪みや変形を加えて、ゴムを強力に混練できるため、ゴムを混練する効率を高くできる。また、シリカは、化学反応を促進させてゴム成分と確実に混合できるため、ゴム内における分散の均一性を高くできる。
【0034】
従って、本実施形態によれば、ゴム混練装置1が備える一対のロータ10によるゴムの混練性能を高くでき、ゴム中の成分を均一に分散させて、ゴムの混合性を向上させることができる。また、ゴム中のシリカの均一性も向上できるため、60℃におけるゴムの損失正接(tanδ)を小さくして、タイヤの転動抵抗を低減できる。
【0035】
なお、一対のロータ10間の隙間を狭くするときには、ゴムの加工性を維持するため、一度に混練するゴムの量を減少させるのが一般的であり、ゴムの生産性が低くなる傾向がある。しかしながら、このゴム混練装置1は、ゴムの混練性能が高いため、一度に混練するゴムの量を減少させることなく、ゴムを充分均一に混練できる。そのため、高いゴムの加工性と生産性とを確保できる。
【0036】
また、このゴム混練装置1によれば、シリカ以外の成分も、従来よりも均一に分散させることができ、かつ、ゴムに対するシリカの配合割合に関わらず、上記した各効果が得られる。従って、シリカの配合割合が変化しても、全ての配合割合で、ゴム中のシリカや他の成分の均一性を向上できる。また、シリカを含まないゴムを混練するときにも、同様の効果が得られる。
【0037】
混練するゴムに用いるゴム成分は、特に制限されず、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)が挙げられる。また、ゴム成分は、1種のゴム成分を単独で使用してもよく、2種以上のゴム成分を混合して使用することもできる。
【0038】
ゴムに用いるカーボンブラックは、特に限定されず、例えば、ASTM N339、N234、N110に適合する品質のものが挙げられる。カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対して5〜50重量部である。
【0039】
ゴムに用いるシリカは、特に限定されず、例えば、窒素吸着表面積(NSA)が100〜300m/g、好ましくは150〜250m/gのシリカが挙げられる。シリカとしては、沈降法による合成シリカを使用でき、具体的には、日本シリカ工業(株)製の「ニップシールVN3 AQ」、ドイツデグサ社製の「ULTRASIL VN3」、「BV3370GR」、ローヌ・プーラン社製の「RP1165MP」、「Zeosil 165GR」、「Zeosil 175VP」、PPG社製の「Hisil 233」、「Hisil 210」、「Hisil 250」(いずれも商品名)等が挙げられる。シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して5〜50重量部である。また、カーボンブラックとシリカの合計配合量は、ゴム成分100重量部に対して30〜90重量部(好ましくは、45〜70重量部)の配合量であるのが望ましい。カーボンブラックとシリカの合計配合量を30〜90重量部にすることで、優れたウェット制動性能と旋回性能を有するゴムが得られる。合計配合量が30重量部未満であると、目的とするウェット制動性能、旋回性能、及び、耐摩耗や耐偏摩耗等の耐久性能が得られない虞がある。合計配合量が90重量部を越えると、ゴムが硬く、脆くなりすぎる虞がある。
【0040】
また、ゴムには、シリカとゴム成分との結合力を強め、耐摩耗性を更に向上させるため、シランカップリング剤を使用する必要がある。シランカップリング剤の配合量は、シリカの量に対して、5〜20重量%(好ましくは7.5〜12.5重量%)であるのが望ましい。使用できるシランカップリング剤は、特に限定されず、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N、N−ジメチルカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドが挙げられる。シランカップリング剤の配合量が5重量%未満であると、シリカ配合の効果が得られない。配合量が20重量%を越えても、シランカップリング剤配合の効果はあまり変わらないが、コストアップとなるため、好ましくない。
【0041】
(ゴム混練試験)
本発明の効果を確認するため、実際に、本実施形態のゴム混練装置1によりゴムを混練して、ゴムの混練性能を評価した。その際、ゴム混練装置1の一対のロータ10を3種類のロータ10(以下、噛合ロータA、B、Cという)に変更して、それぞれゴムを混練(以下、実施例1、2、3という)した。
【0042】
また、比較のため、突条12が噛み合わない状態で回転する2種類のロータ(以下、非噛合ロータA、Bという)により、それぞれゴムを混練(以下、比較例1、2という)した。非噛合ロータA、Bは、いわゆる接線式(tangential式)ロータであり、回転時の突条12の移動範囲同士を重複させずに、混練室3内に比較的離して一対配置され、その状態で一方のみを回転可能な構造になっている。
表1に、混練したゴム、比較例と実施例の構造、及び、混練後の各ゴムの評価結果を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
試験では、スチレンブタジエンゴム(SBR)100重量部に対して、シリカを50重量部配合したゴムを混練した。比較例1、2では、一対の非噛合ロータA、Bを、38mmの軸心間距離Wで配置した。実施例1、2、3では、噛合ロータA、B、Cの突条12を、42度のねじれ角度Kで形成し、一対の噛合ロータA、B、Cを、28mmの軸心間距離Wで配置した。一対の噛合ロータA、B、C間の最小間隔Tは、それぞれ1.6mm、1.4mm、0.8mmである。
【0045】
比較例と実施例では、ロータ10以外の条件を全て同一にして、ゴムを混練した。また、混練した各ゴムから所定の試験形状のサンプルを形成し、それらを加硫して、通常の加硫ゴムサンプルを作成した。各加硫ゴムサンプルを使用して、試験温度25℃、周波数15Hzの条件で、せん断方法の粘弾性試験を行い、各加硫ゴムサンプルの同一試験条件における10%歪みを計測して損失正接(10%tanδ)を測定した。10%tanδは、シリカ等のゴム中の成分が、より均一に分散して、ゴムの混合性が高くなるほど小さくなるため、その大小により、ゴム中の成分の分散性や混合性を評価できる。
【0046】
試験の結果、比較例1、2の10%tanδは、0.21、0.18であった。これに対し、実施例1、2、3の10%tanδは、0.12、0.10、0.09となり、比較例1、2の10%tanδに比べて、大幅に小さくなっていた。これより、実施例は、比較例に比べて、ゴム中の成分が、より均一に分散して、その混合性が高くなり、転動抵抗及び低燃費性能を改良できることが分かった。
【0047】
以上の結果から、本発明により、ゴム混練装置1が備える一対のロータ10によるゴムの混練性能を高くでき、ゴム中の成分を均一に分散させて、ゴムの混合性を向上できることが証明された。
【符号の説明】
【0048】
1・・・ゴム混練装置、2・・・ケース、3・・・混練室、4・・・投入路、10・・・ロータ、11・・・軸部、12・・・突条、13・・・先端面、14・・・周面、20・・・軸心、K・・・ねじれ角度、T・・・最小間隔、W・・・軸心間距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムを収容する混練室と、混練室内に並べて配置され、互いに外周に設けられた螺旋状の突条が噛み合う状態で軸心回りの逆方向に回転する一対のロータとを備え、回転する一対のロータにより混練室内でゴムを混練するゴム混練装置であって、
回転中における一対のロータ間の最小間隔が、一対のロータの軸心間距離の2〜7%であり、
ロータの突条のねじれ角度が、25〜65度であるゴム混練装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム混練装置において、
混練するゴムが、シリカを含有するゴムであるゴム混練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−66448(P2012−66448A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212330(P2010−212330)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】