説明

ゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りタイヤ

【課題】 タイヤベルトの補強材として適用することにより軽量化と耐久性と操縦安定性とを同時に満足することができるゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 2本の撚り合わせていないコア素線1を長手方向に並列して配置してなるコアと、3本〜5本のシース素線2をコアの回りに撚り合わせてなる1層のシースとによって構成され、コード軸に直交する断面でのコード輪郭形状が偏平であるゴム物品補強用スチールコードである。コード断面の、シース1ピッチあたりの最大径を長径Xとし、長径Xと直交する方向に測定した、シース1ピッチあたりの最大径を短径Yとしたとき、短径/長径(Y/X)で表される偏平比が、0.75〜0.95の範囲内でコード長手方向において変動し、かつ、コード側面から見たコア素線の傾きが、コード軸方向に対して3°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りタイヤに関し、詳しくは、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるスチールコードおよびこのスチールコードをベルトの補強材として備える空気入りタイヤに関する。本発明では、特に、スチールコードで補強すべきゴム物品、特には空気入りタイヤの耐久性を損なわずに軽量化を達成するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の典型例である空気入りタイヤにおいて、その耐久性を低下させる要因として、カット傷などを介してタイヤの外部から内部のベルト等に浸入する水分がベルトのコードを腐食し、この腐食域の拡大によってコードとゴムとが剥離して生じるセパレーションが知られている。
【0003】
このセパレーションを回避するには、コード内部へゴムを十分に浸入させてコードのフィラメント間に水分が伝播する隙間を形成させない構造、いわゆるゴムペネ構造が有効である。このゴムペネ構造は、コードを緩く撚ることによってフィラメント間の隙間を大きくしてゴムの浸透を実現したものであり、特に1×3や1×5構造の単撚りコードに適している。
【0004】
しかしながら、近年、空気入りタイヤの乗り心地性や操縦安定性などの性能面から、より剛性の高いスチールコードが要望されている。なお、タイヤのベルトにおけるコードの打ち込み数を増加することによってベルトの引張剛性を確保することは可能であるが、タイヤの重量増の原因となる上、ベルトでの隣接コード間隔が狭くなるため、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が容易に隣接コード間に伝播して、いわゆるベルトエッジセパレーションを招き易くなる。
【0005】
高い剛性を有するスチールコードとして、特許文献1には、2+4の撚り構造のスチールコードが提案されている。このスチールコードは、撚りにより柔軟さが生ずる1×N構造のスチールコードに比べて相対的に剛性は高いものとなる。
【特許文献1】特開2002−227081号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のスチールコードは、コアを構成する2本のスチール素線からなる束に波形螺旋癖付けが施されているため、タイヤ製造時に掛かるコードへの張力付加時にコア素線とシース素線間の隙間が無くなり、コード内部への充分なゴム浸透性が得られない。このため、セパレーション現象が発生するという問題があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、スチールコードで補強したゴム物品において、該コード周辺でのセパレーションの発生による耐久性の低下を招くことなしに、ゴム物品の引張剛性を高めることが可能で、かつ1×N構造のコードよりもコード生産性向上が可能な2+n(n=3〜5)構造を基本とするスチールコードを提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、上記スチールコードをベルトの補強材として適用することにより、軽量化と耐久性と操縦安定性とを同時に満足させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、2本の撚り合わせていないコア素線を長手方向に並列して配置してなるコアと、3本〜5本のシース素線を前記コアの回りに撚り合わせてなる1層のシースとによって構成され、コード軸に直交する断面でのコード輪郭形状が偏平であるゴム物品補強用スチールコードであって、
前記コード断面の、シース1ピッチあたりの最大径を長径Xとし、該長径Xと直交する方向に測定した、シース1ピッチあたりの最大径を短径Yとしたとき、短径/長径(Y/X)で表される偏平比が、0.75〜0.95の範囲内でコード長手方向において変動し、かつ、コード側面から見たコア素線の傾きが、コード軸方向に対して3°以下であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム物品補強用スチールコードがベルトの補強材として使用されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスチールコードによれば、ゴム物品におけるコード周辺でのセパレーションの発生による耐久性の低下を招くことなしに、当該ゴム物品の引張剛性を高めることができるため、このコードを特にタイヤに適用することによって、タイヤの軽量化と耐久性と操縦安定性とを同時に満足することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明のゴム物品補強用スチールコードは、2本の撚り合わせていないコア素線を長手方向に並列して配置してなるコアと、3本〜5本のシース素線をコアの回りに撚り合わせてなる1層のシースとによって構成され、コード軸に直交する断面でのコード輪郭形状が偏平である。かかる構成とすることにより、1×N構造のスチールコードに比べて相対的に剛性が高くなり、かつ、1×N構造のコードよりもコード生産性が向上する。
【0013】
ここで、本発明では、コード側面から見たコア素線の傾きがコード軸方向に対して3°以下、好ましくは実質的に0°であることが肝要である。この理由は、コア素線を横並びでかつほぼ真直とすることで、タイヤ製造時に掛かるコードへの張力付加時のコード伸びが抑制され、コアとシース間に閉鎖空間が形成されることがないためである。これにより、ゴムがコア素線とシース素線相互間に容易に浸入するため、カット傷などを介してタイヤの外部から内部のベルト等に浸入した水分がベルトのコードを腐食して、この腐食域の拡大によってコードとゴムとの間に剥離が生じるセパレーションを回避することが可能となる。
【0014】
また、本発明のゴム物品補強用スチールコードにおいては、コード断面の、シース1ピッチあたりの最大径を長径Xとし、この長径Xと直交する方向に測定した、シース1ピッチあたりの最大径を短径Yとしたとき、短径/長径(Y/X)で表される偏平比が、0.75〜0.95の範囲内でコード長手方向において変動し、そのシース10ピッチ分の変動幅は、好適には0.05〜0.15の範囲内である(図1参照)。この範囲内とすることで、タイヤ製造時におけるコードに対する張力付加時に、張力によりコードが伸ばされた場合でも、コード長手方向でコア素線とシース間にゴムの浸入が可能な空間を確保することができる。偏平比が0.75未満では撚り性状が不安定となり、一方、0.95を超えると、短径が大きくなることでゲージが厚くなり、軽量化できなくなる。また、変動幅が0.05未満であるとゴムの浸入可能な空間が確保できなくなり、一方、0.15を超えると撚り性状が不安定となる。
【0015】
さらに、本発明のゴム物品補強用スチールコードでは、シース素線がコアの周りに均一に分散配置されずに、偏った配置となることが好ましい(後述する実施例における図1参照)。かかる配置とすることで、コード上下方向の厚みを薄くすることができ、更にはベルト層の厚みを薄くできることから、タイヤの軽量化が可能となる。また、コーナリング中の踏面部外側に発生するベルトのバックリング変形に対する柔軟性およびコード折れ性が改善される。
【0016】
さらにまた、本発明のゴム物品補強用スチールコードのコア素線およびシース素線の抗張力は、2.9kN/mm2(300kg/mm2)以上であることが、軽量化の点から好ましい。また、コア素線およびシース素線の直径は0.21mm〜0.24mmの範囲内であることが好ましく、この直径が0.21mm未満ではベルトの強度を確保することが困難となり、一方、0.24mmを超えると、ベルトの面外方向の曲げ剛性が大きくなり過ぎて操縦安定性が低下してしまうことになる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤでは、上記の本発明のスチールコードの複数本を互いに並行に揃えてゴムシートに埋設してなるプライをベルトとして適用し、ベルト以外のタイヤ構造は特に制限されるべきものではなく、慣用に従い適宜採用することができる。
【0018】
ここで、本発明のスチールコードをベルトの補強材として適用するにあたり、コア素線の横並び方向がベルト幅方向に略沿う配置とすることが肝要である。かかる配置とすることで、ベルト面に沿う向きに生じる面内曲げ変形に対する剛性が高くなり、タイヤの操縦安定性が向上する。すなわち、本発明のスチールコードはコア素線2本が横並び配列となっており、かつコア素線同士が横並びで接触しているため、コードの横曲げ変形に対してコア素線同士のフリクションが働いて横方向のコード曲げ剛性が高くなることから、コードの横並び方向がベルト幅方向に略揃ったタイヤのベルトは、その面内曲げ剛性が高くなるためである。また、本発明のスチールコードは上下方向の厚みが従来の断面円形のスチールコードに比べ薄くなるため、ゴム物品、例えばベルトの厚さも薄くなり、重量を軽くすることが可能となる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明する。
実施例1
図1に、2+4撚り構造のスチールコードを示す。図中、(a)は上から見た部分側面図、(b)は(a)におけるa−a、b−b、c−c、d−d、e−eの各位置での、コード軸に直交する断面の断面図である。また、(c)は横から見た部分側面図、(d)は(c)におけるa−a、b−b、c−c、d−d、e−eの各位置でのコード軸に直交する断面の断面図である。図中、1はコア素線、2はシース素線であり、2本のコア素線1はコード軸方向にほぼ直線で、2本のコアが平行を保って保持されている。一方、4本のシース素線2はコア素線1の外層上に14mmのピッチPをもって撚り合わされている。
【0020】
かかるスチールコードの作製にあたっては、コアのコード軸方向傾きを小さくするために、撚り線時のコア巻き出しテンションをシースの巻き出しテンション対比大きくし、撚り合わせ後のアフターフォーミング量を適正化した。
【0021】
図2に、このスチールコードのコード軸に直交する一断面を拡大して示す。また、このスチールコードの仕様(素線径、素線抗張力、コード偏平比(短径Y/長径X)および変動幅(シース1ピッチ分ごとに測定した偏平比のシース10ピッチ分(n=10)の変動幅)、コード側面から見たコア素線の傾き(コード長径方向のコアの傾き及びコード短径方向のコアの傾き))を下記の表1に示す。
【0022】
作製されたスチールコードを下記の表1に示す打込み数にて第1および第2ベルト層からなるベルトに適用し、サイズ185/70R14のタイヤを試作した。なお、ベルトは、カーカス上に、タイヤの赤道面に対してスチールコードが左22°の角度で傾斜する向きで内側の第1ベルト層を配置し、さらにその上にタイヤの赤道面に対してスチールコードが右22°の角度で傾斜する向きで第2ベルト層を配置した。
【0023】
試作したタイヤを、JATMA規格に定める標準リムに装着後、JATMA YEAR BOOKにおける最大負荷能力に対応する内圧を充填し、乗用車に装着した。舗装路を50000km走行した後、タイヤを解剖して、カット傷からのコードの腐食長さ、ベルト端での亀裂長さをそれぞれ調査した。ここで、腐食長さは10mm以下、亀裂長さは20mm以下であれば耐久上問題ない。また、操縦安定性については、特定試験路を同一走行モードで各タイヤを装着して走行し、3人のドライバーによるフィーリング評価を行った。このフィーリング評価は10点満点で行い、3人のドライバーの平均値で算出した。数値が6.5以上であれば実用上問題とならない。これらの評価および調査結果を下記の表1に併記する。
【0024】
実施例2〜4,比較例
実施例2〜4および比較例として下記の表1に示す仕様のスチールコードを作製した。実施例2のスチールコードのコード軸に直交する一断面を図3に拡大して示す。図3から分かるように、このスチールコードではシース素線2がコアの周りにほぼ均一に分散配置されている。実施例3および4のスチールコードのコード軸に直交する一断面を拡大して示す図は、図2と同じである。また、図4には比較例のスチールコードのコード軸に直交する一断面を拡大して示す。
【0025】
これらスチールコードを用いて実施例1と同様にタイヤを試作し、同様の評価を行った。また、タイヤのベルト重量を、実施例1を100としたときの指数で表示した。数値が小さい程軽量であることを示す。さらに、耐久性に関連する評価項目である腐食長さおよび亀裂長さの夫々の平均値を掛け合わせた値に軽量性(ベルト重量)および操縦安定性の評価結果を加味した結果を総合評価として10点満点で示した。これらの評価結果を表1に併記する。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1のスチールコードの説明図である。
【図2】実施例1,3,4のスチールコードの拡大断面図である。
【図3】実施例2のスチールコードの拡大断面図である。
【図4】比較例のスチールコードの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 コア素線
2 シース素線
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の撚り合わせていないコア素線を長手方向に並列して配置してなるコアと、3本〜5本のシース素線を前記コアの回りに撚り合わせてなる1層のシースとによって構成され、コード軸に直交する断面でのコード輪郭形状が偏平であるゴム物品補強用スチールコードであって、
前記コード断面の、シース1ピッチあたりの最大径を長径Xとし、該長径Xと直交する方向に測定した、シース1ピッチあたりの最大径を短径Yとしたとき、短径/長径(Y/X)で表される偏平比が、0.75〜0.95の範囲内でコード長手方向において変動し、かつ、コード側面から見たコア素線の傾きが、コード軸方向に対して3°以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
前記偏平比の、シース10ピッチ分の変動幅が、0.05〜0.15の範囲内である請求項1記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
前記シース素線が前記コアの周りに均一に分散配置されずに、偏った配置である請求項1または2記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記コア素線及び前記シース素線の抗張力が2.9kN/mm2(300kg/mm2)以上である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記コア素線及び前記シース素線の直径が0.21mm〜0.24mmである請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコードがベルトの補強材として使用されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム物品補強用スチールコードが、そのコアのコア素線の横並び方向がベルト幅方向に略沿う配置である請求項6記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−328558(P2006−328558A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149710(P2005−149710)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】