説明

ゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りラジアルタイヤ

【課題】コード構造の改良により、従来に比しより耐久性に優れたゴム物品補強用スチールコードを提供する。また、それを用いることで、操縦安定性および耐久性の向上を図った空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】複数本のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のゴム物品補強用スチールコードである。スチール素線の本数が6〜12本であり、かつ、スチール素線の直径が0.08〜0.21mmである。一対のビード部11間でトロイド状に延びるカーカス1を骨格とし、カーカスのクラウン部をベルト層2で補強した空気入りラジアルタイヤである。ベルト層を構成するコードに上記ゴム物品補強用スチールコードが適用されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「コード」および「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、空気入りラジアルタイヤ等のゴム物品の補強用に好適に用いられるゴム物品補強用スチールコード、および、それを用いた空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スチールコードを補強材として用いるゴム物品の典型例である空気入りラジアルタイヤにおいては、操縦安定性の向上や耐久性の向上等の観点から、ベルト層の補強材として、可撓性が高くかつ耐久性に優れるスチールコードが求められており、従来より種々検討がなされてきている。特に、高性能ラジアルタイヤとしての操縦安定性を確保するために、ベルト層に必要な重要特性は、周方向の引っ張り剛性が高いこと、面内曲げ剛性が高いこと、および、面外曲げ剛性が低いことである。
【0003】
即ち、ベルト部材は内圧による張力を負担して、たが効果を発揮するため、周方向に大きな剛性を持つ必要がある。このため、ベルト層は第一に、高い周方向の引張剛性を有することが望ましい。また、ベルト部材はコーナリング時に面内曲げ変形を受けるため、ベルトの面内曲げ変形が小さいタイヤのほうが、大きなコーナリングフォースを発生して、良好な操縦安定性を発揮することができる。このため、ベルト層は第二に、高い面内曲げ剛性を有することが望ましい。さらに、コーナリング限界点近傍では、ベルト層は大きな面内方向への曲げ変形を受ける。この変形により、曲げ変形内側ではベルト層は大きな圧縮変形を受けて、バックリングが発生する。しかし、ベルト層の面外曲げ剛性を低下させることにより、圧縮に伴う面外変形圧力が低下し、タイヤ内部圧力によってバックリング変形を抑えることが可能になる。これにより、接地圧力の抜けを抑制して、接地圧を均一にすることができる。このため、ベルト層は第三に、低い面外曲げ剛性を有することが望ましい。
【0004】
タイヤのベルト層への適用を意図したスチールコードの改良に係る技術として、例えば、特許文献1には、素線径の細い(素線径0.06〜0.10mm)特定のスチールコードを用いることによりコーナリング時の操縦性、安定性等を向上させる技術が記載されており、特許文献2には、曲げ抵抗および引張り伸びによりスチールコードを規定したタイヤが開示されている。また、特許文献3には、所定のスチールフィラメントからなるスチールコードであって、ベルト曲げ剛性、コード強力およびベルトコードの空隙量により定義される値の範囲を所定に規定したタイヤが開示され、特許文献4〜6には、所定の撚り構造を有し、コード強力、コード破断時伸びおよびコード曲げ剛性により定義される値の範囲を所定に規定したタイヤ補強用スチールコードが開示されている。これら特許文献1〜6の技術は、極細のスチール素線を用いた複撚りコードをベルト層に適用するものである。
【0005】
さらに、特許文献7には、ベルトコードの撚り合わせ構造および素線径並びにベルトコード打ち込み数によりベルトを規定したタイヤ(4本以下の1×n構造,素線径0.22mm以下)が、特許文献8には、撚り構造、曲げ剛性/コード強力比、コード強力および素線径について所定の要件を満足するタイヤ(1×n構造(n=2〜5),素線径0.12〜0.20mm)が、特許文献9には、ベルトコード構造および打ち込み本数を所定に規定したベルトプライを、緩衝ゴムを介して配置したタイヤ(5本以下の1×n構造,素線径0.10〜0.22mm)が、夫々開示されている。これら特許文献7〜9の技術は、5本以下の細径素線を用いた1×nスチールコードをベルト層に適用するものである。
【0006】
さらにまた、6本以上のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のスチールコードについては、特許文献10,11等に開示がある。
【特許文献1】特開昭59−38102号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭60−185602号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開昭64−85381号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭64−85382号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開昭64−85381号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開昭64−85382号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開平1−141103号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献8】特開平3−74206号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献9】特開平3−143703号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献10】特開平9−279492号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献11】特開平9−279493号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、操縦安定性の向上や乗心地の向上等を目的として、可撓性が高くかつ耐久性に優れるスチールコードをタイヤのベルト層に適用する技術については、種々検討され、提案がなされてきている。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜6に記載されているように、細い素線を用いた複撚スチールコードの適用により操縦安定性の向上を図る技術では、素線径が極細であり、しかも複撚なので、生産性が低くコストが高いこと、ベルトコードとして一般的に用いられている単撚コードと比べてゴムペネ性が劣るので、耐腐食疲労性が低下しやすいなどの問題点があった。特に、特許文献4〜6に記載の技術は、ストランド構造の改良によりゴムペネ性を改良しようとするものであるが、単撚コード並みに良好なゴムペネ性を得ることは困難である。そのため、レース用タイヤ等の特殊用途に限られ、高性能乗用車への適用を意図した、より一般的な高性能ラジアルタイヤヘの適用は難しかった。
【0009】
また、特許文献7〜9では、5本以下の細径素線を用いた1×nスチールコードをベルト層に用いることが提案されているが、このようなコードはコード1本当たりの強度が低いので、高性能ラジアルタイヤのベルト補強材として用いた場合、高速耐久性に問題がある。さらに、6本以上のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のスチールコードについては特許文献10,11等に記載があるが、これら文献には、このコードを高性能ラジアルタイヤのベルト補強材として用いて操縦安定性を改善する技術については開示されていない。
【0010】
そこで本発明の目的は、コード構造の改良により、従来に比しより耐久性に優れたゴム物品補強用スチールコードを提供することにあり、また、それを用いることで、操縦安定性および耐久性の向上を図った空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記目的を達成しうることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のゴム物品補強用スチールコードにおいて、前記スチール素線の本数が6〜12本であり、かつ、該スチール素線の直径が0.08〜0.21mmであることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のコードは、好適には曲げ抵抗が49〜196MPa(5.0〜20.0kgf/mm2)である。また、本発明において好適には、前記スチール素線の、本数が7〜10本であり、直径が0.10〜0.20mmであり、引張強さが3200〜4000MPaである。さらに、本発明においては、特に、コードの外郭形状が扁平であり、かつ、外郭形状の短径D1と長径D2との比D1/D2が0.5〜0.8であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部をベルト層で補強した空気入りラジアルタイヤであって、該ベルト層を構成するコードに上記本発明のゴム物品補強用スチールコードが適用されてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記ベルト層からゴム付きで取り出した前記ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Ec)は、好適には49〜294MPa(5.0〜30.0kgf/mm2)である。また、前記ベルト層からゴム付きで取り出した前記ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Ec)が、ゴムを除去した該ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Er)の1.0〜1.3倍であることが好ましい。さらに、より好適には、前記ベルト層を構成するコードに、コードの外郭形状が扁平であって外郭形状の短径D1と長径D2との比D1/D2が0.5〜0.8であるゴム物品補強用スチールコードが適用されてなり、かつ、コードの外郭形状の長径方向が該ベルト層の幅方向に沿うように配列してなるものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来に比しより耐久性に優れたゴム物品補強用スチールコードを実現することができ、それを用いることで、操縦安定性および耐久性の向上を図った空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。即ち、前述したような好適なベルト層特性を実現するために、従来は細径素線を用いた複撚りスチールコードが用いられてきたが、本発明のコードは、複数本のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造であるため、生産性が高く、低コストで製造することができるメリットを有する。また、オープン構造等を採用することにより良好なゴムペネ性を付与することができ、さらなるゴムペネの促進を図る場合には、特許文献10、11等に開示されているような技術を採用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のコードである。
【0018】
本発明においては、コードを構成するスチール素線の直径が、0.08〜0.21mm、好適には0.10〜0.20mmである。直径が0.21mmを超えるスチール素線は曲げ剛性が高過ぎるので、高性能ラジアルタイヤのベルト補強材として用いたときに、十分に低い面外曲げ剛性を確保することが困難となる。このため、素線径を0.21mm以下、好ましくは0.20mm以下とする。なお、スチールコードの曲げ抵抗は、49〜196MPa(5.0〜20.0kgf/mm2)であることが好ましい。
【0019】
一方、スチール素線の直径が0.08mm未満であると、素線本数6〜12本ではコード強力が低いので、ベルト層としての周方向剛性を確保するためにはコードの打ち込み数を大幅に増加する必要があり、ゴムとコードとのセパレーションが生じやすくなる。あるいは、高速走行時の径成長により高速耐久性が損なわれるおそれがある。このため、素線径を0.08mm以上、好ましくは0.10mm以上とする。
【0020】
また、本発明においては、コードを構成するスチール素線の本数が6〜12本、好適には7〜10本である。コードに曲げ変形を加えると素線間に相対移動が生じるが、互いに接触している素線間ではこの相対移動を妨げる相互作用が生ずる。この相互作用は素線本数が多いほど大きくなりやすいので、素線本数の上限を12本、好ましくは10本とする。一方、素線本数が6本未満であると、素線径0.08〜0.21mmではコード強力が低いので、ベルト層としての周方向剛性を確保するためにはコードの打ち込みを大幅に増加して密にコードを配置する必要があり、ゴムとコードとのセパレーションが生じやすくなる。あるいは、高速走行時の径成長により高速耐久性が損なわれるおそれがある。このため、素線本数を6本以上、好ましくは7本以上とする。
【0021】
ここで、スチールコードの素線として用いられる直径0.08〜0.21mm程度のブラスめっき鋼線の引張強さは、通常3000MPa前後であるが、本発明においては、引張強さが好適には3200〜4000MPa、より好適には3300〜4000MPaの素線を用いることにより、適正な打ち込み密度にてベルト層としての周方向剛性を確保することが容易になる。
【0022】
また、本発明においては、コードの外郭形状を扁平化して、外郭形状の短径D1と長径D2との比D1/D2が0.5〜0.8となるようにすることが好ましく、これにより、このコードをタイヤに適用する際に、コードの外郭形状の長径方向をベルト層の幅方向に沿うように配列することで、ベルト層の面内曲げ剛性を大きくし、かつ、面外曲げ剛性を小さくすることができる。
【0023】
本発明においては、上記したように、1×n構造のコードにおいてコードを構成するスチール素線の直径および本数を規定する以外の点については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜決定することができる。例えば、コードの撚りピッチは5.0〜15.0mm程度である。本発明のコードは、タイヤ、工業用ベルト等の各種ゴム物品の補強用として好適に適用することができるものであり、特には、高性能空気入りラジアルタイヤに好適に適用可能である。
【0024】
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの一構成例を示す。図示するように、本発明のタイヤは、一対のビード部11間でトロイド状に延びるカーカス1を骨格とし、そのクラウン部をベルト層2で補強してなり、かかるベルト層2を構成するコードに、上記ゴム物品補強用スチールコードが適用されてなるものである。これにより、ベルト層の周方向引張剛性および面内曲げ剛性を十分に確保しつつ、面外曲げ剛性を低くすることができ、このため、高速耐久性を確保しつつ良好な操縦安定性を発揮することができる。
【0025】
また、スチールコードにより補強されたベルト層を有する空気入りラジアルタイヤを製造する際、特に加硫時の拡張の際に、スチールコードには張力に張力が加わって素線間の距離が縮まるので、タイヤ中のコードにおける、曲げ変形を加えた際の素線間の相対移動を妨げる相互作用は、タイヤに埋設する前のコードのそれよりも一般に大きくなる。本発明においては、実際にベルト層に埋設された状態でのスチールコードの曲げ抵抗が、49〜294MPa(5.0〜30.0kgf/mm2)の範囲にあることが好ましい。この実際にベルト層に埋設された状態でのコードの曲げ抵抗は、ベルト層からゴム付きで取り出したコードの曲げ抵抗(Ec)を測定することにより評価することができる。
【0026】
さらに、ベルト層に埋設する前後でのコードの曲げ抵抗の変化は小さいことが好ましく、具体的には、ベルト層からゴム付きで取り出したコードの曲げ抵抗(Ec)が、ゴムを除去したコードの曲げ抵抗(Er)の1.0〜1.3倍程度であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明におけるコードの曲げ抵抗は、市販のテーバー剛性試験機を用いて、コードを所定の長さに切断後、支点より15度曲げた状態で測定することにより得られる値である。外郭形状が扁平なコードの曲げ抵抗は、短径方向の曲げに対する抵抗とする。また、タイヤのベルト層からゴム付きで取り出したスチールコードの曲げ抵抗は、コードをゴム付きで取り出した後、コード表面の被覆ゴムを厚さ0.1〜0.5mm程度まで削いだ状態で測定し、ゴムを除去したスチールコードの曲げ抵抗は、ゴムを有機溶剤等で完全に除去した状態で測定する。
【0028】
本発明のコードは素線本数が6〜12本、好ましくは7〜10本と少ないので、素線間の相互作用は小さいが、好ましくは下記のような構成とすることにより、ベルト層に埋設する前後でのコードの曲げ抵抗の変化を小さくすることができる。(1)コード構造として、素線間にゴムが浸透しやすいオープン構造等を採用する。ゴムペネの促進を図るにあたっては、特許文献10,11のほか、特開平5−302283,特開平6−10281,特開平6−73673,特開平7−279067,特開平7−331587,特開平8−92884,特開平8−113886、特開平9−209283,特開平9−268485,特開平10−250310,特開平10−292277,特開平10−298880,特開平11−335985,特開平11−350367等に開示されているような技術を採用してもよい。素線間にゴムを介在させることにより、素線同士が直接接触する場合よりも相互作用が小さくなる。(2)コード断面において、ゴムが浸透し難い中心構造(即ち、他の素線により周囲を囲まれた構造)を有しない単層構造にする。この場合、素線間のゴム介在が確実に実現しやすくなるとともに、隣接する素線本数も両側合わせて2本と最低限の本数となる。
【0029】
なお、本発明のタイヤは、ベルト層に、上記本発明のゴム物品補強用スチールコードが適用されているものであればよく、これにより操縦安定性および耐久性の向上効果を得ることができるものであり、それ以外の具体的なタイヤ構造や材質等については、常法に従い適宜設定することができ、特に制限されるものではない。例えば、図示するように、本発明のタイヤの一対のビード部11には夫々ビードコア3が埋設され、カーカス1はこのビードコア3の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されている。また、ベルト層2のクラウン部外周にはトレッド部12が、カーカス1のサイド部にはサイドウォール部13が、夫々配置されている。また、交錯ベルト層2a,2bのクラウン部外周には、周方向剛性を高める目的で、少なくともベルト層2を覆う幅方向長さを有し、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列されたゴム引き補強コードからなるキャップ層4(図示する例では2層)と、夫々ベルト層の片側幅方向端部を覆う幅方向長さを有し、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列されたゴム引き補強コードからなる一対のレイヤー層5を配置することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記の表1,表2に示す条件に従い、各ゴム物品補強用スチールコードを製造して、得られたコードをベルト層に適用したタイヤサイズ225/45/R17の空気入りラジアルタイヤを製造した(図1参照)。図示するように、ベルト構成は、2層の交錯スチールベルト層2a,2b(角度:±60°)と、タイヤ周方向に対し略平行に配列した補強コードからなる2層のキャップ層4および1対のレイヤー5(材質:ナイロン)とからなる。
【0031】
(ゴム浸透性)
各供試コードをゴムにより被覆、加硫した後、NaOH−10%水溶液に片端を浸して、24時間放置後、「ゴムの剥離長さ」を測定した。コードの内部までゴムが浸透していれば、ゴムは剥離しない。ここでは、剥離長さが10mm以下程度であれば、実用上問題を生じない。
【0032】
(操縦安定性)
各供試タイヤを空気圧205.8kPa(2.1kgf/cm2)で乗用車の4輪に装着し、このテスト車輌にてテストドライバーがテストコースを走行させ、テストドライバーによる操縦安定性についてのフィーリング結果を、コントロールタイヤ(従来例1)との対比にて評点付けを行うことにより評価した。評価の基準点は以下のとおりである。
+3:良い
+2:やや良い
+1:やや良いと思われる
±0:変わらない
−1:やや悪いと思われる
−2:やや悪い
−3:悪い
【0033】
(高速耐久性)
高速耐久試験は、各供試タイヤをリムサイズ7.5J×17のリムに空気圧300kPaにて装着し、JATMA規格のテスト法に準じてステップスピード法で行った。結果は、従来例1の供試タイヤの故障時の速度を100として、指数にて示した。数値が大なるほど結果は良好である。
【0034】
(腐食耐久性)
各供試タイヤを、JATMA規格に定める標準リムに装着後、JATMA YEAR BOOKにおける最大負荷能力に対応する内圧を充填し、乗用車に装着した。舗装路を50000km走行した後、タイヤを解剖してカット傷からのコードの腐食長さを調査した。結果は、従来例1の供試タイヤの腐食長さを100として、指数にて示した。数値が小なるほど結果は良好である。
【0035】
上記各測定結果を、下記表1,表2中に併せて示す。なお、表中、各供試コードの曲げ抵抗は、テーバー剛性試験機((株)東洋精機製作所デジタルテーバー剛性度試験機)を用い、コードを90〜95mmに切断後、支点より15度曲げた状態で測定した。外郭形状が扁平なコードの曲げ抵抗は、短径方向の曲げに対する抵抗とした。また、タイヤのベルト層からゴム付きで取り出したコードの曲げ抵抗(Ec)は、コードをゴム付きで取り出した後、コード表面の被覆ゴムを厚さ0.1〜0.5mm程度まで削いだ状態で測定し、ゴムを除去したコードの曲げ抵抗(Er)は、ゴムを有機溶剤により完全に除去した状態で測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
上記表1,表2に示すように、直径0.08〜0.21mmのスチール素線6〜12本を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造とした各実施例のタイヤにおいては、この条件を満足しない従来例および比較例のタイヤに比し、操縦安定性および耐久性のいずれについても良好な結果が得られることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りラジアルタイヤの概略断面図である。
【図2】実施例1に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図3】実施例2に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図4】実施例3に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図5】実施例4に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図6】従来例1に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図7】従来例2に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図8】従来例3に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図9】比較例1に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【図10】比較例2に係るゴム物品補強用スチールコードの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 カーカス
2(2a,2b) 交錯ベルト層
3 ビードコア
4 キャップ層
5 レイヤー層
11 ビード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチール素線を同一方向かつ同一撚りピッチで撚り合わせてなる1×n構造のゴム物品補強用スチールコードにおいて、前記スチール素線の本数が6〜12本であり、かつ、該スチール素線の直径が0.08〜0.21mmであることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
曲げ抵抗が49〜196MPa(5.0〜20.0kgf/mm2)である請求項1記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
前記スチール素線の本数が7〜10本である請求項1または2記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記スチール素線の直径が0.10〜0.20mmである請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記スチール素線の引張強さが3200〜4000MPaである請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項6】
コードの外郭形状が扁平であり、かつ、外郭形状の短径D1と長径D2との比D1/D2が0.5〜0.8である請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項7】
一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部をベルト層で補強した空気入りラジアルタイヤであって、該ベルト層を構成するコードに請求項1〜6のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコードが適用されてなることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項8】
前記ベルト層からゴム付きで取り出した前記ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Ec)が、49〜294MPa(5.0〜30.0kgf/mm2)である請求項7記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項9】
前記ベルト層からゴム付きで取り出した前記ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Ec)が、ゴムを除去した該ゴム物品補強用スチールコードの曲げ抵抗(Er)の1.0〜1.3倍である請求項7または8記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項10】
前記ベルト層を構成するコードに請求項6記載のゴム物品補強用スチールコードが適用されてなり、かつ、コードの外郭形状の長径方向が該ベルト層の幅方向に沿うように配列してなる請求項7〜9のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−162163(P2007−162163A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359704(P2005−359704)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】