説明

ゴム組成物、ゴム組成物の製造方法及び摩擦伝動ベルト

【課題】スティックスリップやミスアライメントによる発音を軽減し、かつ耐磨耗性に優れた摩擦伝動ベルト、およびこの伝動ベルトに使用する低摩擦係数を有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】摩擦伝動面を構成した圧縮ゴム4からなる摩擦伝動ベルト1であって、圧縮ゴム層4としてエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合することで摩擦係数を低下させたゴム組成物を用いることで、走行によって短繊維が飛散してその効果が小さくなった後も長期間、低摩擦係数を維持することができ、ミスアライメントやスティックスリップによる発音を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数を有するゴム組成物とその製造方法、及びスティックスリップやミスアライメントによる発音を軽減し、かつ耐磨耗性に優れた摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動ベルトの重要な特性として、動力を伝達することに加え、使用中に異音が発生しないこと、耐久性、特に耐摩耗性に優れることが挙げられる。これらの特性を満たすためにナイロンおよびメタ系またはパラ系アラミドなどの有機短繊維を配合し、それらでベルト側面を覆うことで耐発音性,耐摩耗性,耐粘着摩耗性の向上を図っている。
【0003】
特に近年の自動車用エンジンでは、コンパクト化、燃費向上、排出ガス低減を行うため希薄燃焼となっており、このためにエンジンの回転変動、振動が従来エンジンと比べ大きくなっている。また補機ベルトのサーペンタイン化によって小プーリ化、屈曲角の小さなエンジンレイアウトになっており、補機ベルトへの負荷が一層大きくなりミスアライメントやスティックスリップによる異音発生の問題が顕在化している。
【0004】
このような問題に対し、従来は前述のように圧縮ゴム層に有機短繊維を配合してベルト側面に該繊維を突出させることでベルト側面を覆い摩擦係数を低下させ異音発生の対策とすることが一般的であった。
【0005】
また、タルクなどのパウダーをリブ部表面に塗付する方法や、シリコン油を付着させ、リブ部表面の摩擦係数を低下させることが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、ベルト表面の摩擦係数を長期にわたって実質的に一定にするために、活性炭のような多孔性粒子にシリコン油を吸着させたものを配合した伝動ベルトが開示されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】実公平7−31006号公報
【特許文献2】特開平5−132586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ベルト側面を有機短繊維で覆う方法では、有機短繊維の配合量が増加すると、たとえ表面を接着処理したとしても、物性低下や加工性に問題が発生するため、配合量に限界があるとともにベルト走行によって表面に突出した有機短繊維の脱落、摩滅などにより、摩擦係数の低減効果が低下するという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献1のリブ表面にタルクなどのパウダーを塗付するとか、シリコン油を付着させる方法は、ベルトの初期走行段階でのスリップ音を軽減することができるが、長時間走行した後のベルトでは、滑剤が表面から飛散しやすくなるため、ベルト表面の摩擦係数を軽減する効果を長期間にわたって維持することはできなかった。一方、シリコン油を吸着させた多孔性粒子を配合した伝動ベルトでは、ベルト表面へのブリーディング効果を発揮させるために所定量の該多孔性粒子をゴム中に均一に分散させることは困難な作業であった。しかも、ベルト表面層に近い多孔性粒子のみがブリーディング効果を発揮しやすく、内部に埋設した多孔性粒子の効果は期待しにくかった。
【0008】
また、一般的に摩擦係数を低下させるための添加剤としてはテトラフルオロエチレン、グラファイト、二硫化モリブデンなどが用いられる。確かにこれらの添加剤は摩擦係数を低下させることができるが、ゴムとの相溶性が悪いことから接着性が低く、早期のベルト走行で脱落し、ゴム組成物の耐摩耗性等の物性低下を起こした。
【0009】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、スティックスリップやミスアライメントによる発音を軽減し、かつ耐磨耗性に優れた摩擦伝動ベルト、およびこの伝動ベルトに使用する低摩擦係数を有するゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明のゴム組成物は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合し、分散させたものであり、ゴムと比較して大幅に摩擦係数の低い超高分子量ポリエチレン粉体が作用し、プーリなどの相手材表面と接触するゴムの面積割合が低下して、低摩擦係数をもつゴム配合物を得ることができる。またエチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体の組み合わせであるため、相溶性が良くなってゴム組成物中で分散しやすく、そして物性低下を抑制して長期間安定した低摩擦係数を実現することが可能になる。
【0011】
超高分子量ポリエチレン粉体は溶融せずに粉体形状で分散させた場合には、ゴム組成物の表面に露出した超高分子量ポリエチレン粉体が摩擦係数を効率よく低下させることができる
【0012】
上記超高分子量ポリエチレン粉体の平均一次粒子径が10〜200μmであると、混練り中に凝集してしまう恐れもなく、ゴム組成物の物性を維持することができる。
【0013】
エチレン−α−オレフィンエラストマーがエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマーに特定される場合、摩擦伝動ベルトに要求される物性を得ることが可能になる。
【0014】
ゴム組成物中にアラミド短繊維とナイロン短繊維の少なくとも一方が含まれると、低摩擦係数を長期に維持できるゴム配合物を得ることができる。
【0015】
有機過酸化物によって架橋可能になるゴム配合物であり、エチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体との界面では共架橋が起こり、超高分子量ポリエチレン粉体の脱落も少なくなってより耐摩耗性低下、物性低下などが起こりにくくなる。
【0016】
架橋は有機過酸化物によって行われるゴム組成物の製造方法であり、有機過酸化物で架橋された場合には、エチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体との界面では共架橋が起こる可能性がより強くなり、より望ましい効果が得られる。
【0017】
また本願発明は、エチレン−α−オレフィンエラストマーに超高分子量ポリエチレン粉体を配合し、混練りして分散させたゴム組成物の製造方法において、上記混練りがエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合し、かつ混練り時の温度を超高分子量ポリエチレンの融点未満で行い、溶融せずに粉体形状で分散させるものである。
【0018】
また本願発明では、上記混練りが少なくとも2段階で行なわれ、架橋剤を混合する最終段階の混練り時においてエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合し、かつ混練り時の温度を超高分子量ポリエチレンの融点未満で行うゴム組成物の製造方法も含む。
【0019】
混練りを超高分子量ポリエチレンの融点未満で行うと、ゴム組成物中に分散した超高分子量ポリエチレンの粉体形状を保持することに有効である。該融点を超える温度で混練りすれば、ゴム組成物中で超高分子量ポリエチレン粉体が変形しやすくなって微細に分散し、摩擦係数を低下させる効果が少なくなり、更にこのような状態になると、ゴム組成物が未加硫状態でも剛直してしまい、混練り後の成形が困難になるという不具合も発生する。本発明では、超高分子量ポリエチレン粉体を分散した状態、すなわち添加した時点と略同レベルの粒子径を保持したものである。
【0020】
また、超高分子量ポリエチレンの融点を超えた温度で架橋を行うことで、超高分子量ポリエチレン粉体が保形性を有したまま溶融状態に近づき、もしくは溶融し、周りに存在するエチレン−α−オレフィンエラストマーとの界面での親和性が増し、脱落による耐摩耗性低下、物性低下などが起こりにくくなる。またこの組成物が有機過酸化物で架橋された場合には、該界面では共架橋が起こり、より望ましい効果が得られる。
【0021】
また本願発明では、摩擦伝動面を構成した圧縮ゴムからなる摩擦伝動ベルトであり、圧縮ゴム層にはエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体が2〜30重量部配合され、該超高分子量ポリエチレン粉体が溶融せずに粉体形状を維持した状態で分散している摩擦伝動ベルトも含んでおり、摩擦係数を低下させたゴム組成物を用いることで、走行によって短繊維が飛散してもその効果が小さくなった後も長期間、低摩擦係数を維持することができ、ミスアライメントやスティックスリップによる発音を抑制する。また、ゴム組成物中に分散した超高分子量ポリエチレンの粉体形状を保持することができ、ゴム組成物中で超高分子量ポリエチレン粉体が変形し微細に分散してしまうことがなく、摩擦係数を効率よく低下させることができる。
【0022】
摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を埋設したVリブドベルトであると、長期に渡ってミスアライメントやスティックスリップによる発音を抑制することができる。
【0023】
圧縮ゴム層のゴム組成物中に含まれる超高分子量ポリエチレン粉体の平均一次粒子径が10〜200μmであると、摩擦係数を低下させたゴム組成物になり、長期間、低摩擦係数を維持することができ、ミスアライメントやスティックスリップによる発音を抑制できる摩擦伝動ベルトになる。
【0024】
圧縮ゴム層のゴム組成物中にアラミド短繊維とナイロン短繊維の少なくとも一方を含んでいると、低摩擦係数を長期に維持できる摩擦伝動ベルトになる。
【0025】
エチレン−α−オレフィンエラストマーがエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマーに選定すると、摩擦伝動ベルトに要求される物性を得ることが可能になる。
【0026】
該圧縮ゴム層が有機過酸化物で架橋されている摩擦伝動ベルトであり、この場合にはチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体との界面では共架橋が起こり、超高分子量ポリエチレン粉体の脱落も少なくなってより耐摩耗性低下、物性低下などが起こりにくくなる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明のゴム組成物は、ゴムに分散した超高分子量ポリエチレン粉体が摩擦係数を低下させる作用し、低摩擦係数をもつゴム配合物を得ることができ、またエチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体の組み合わせであるため、相溶性が良くゴム組成物中で分散しやすいこと、そして物性低下を抑制して長期間安定した低摩擦係数を実現することが可能になる。更には、超高分子量ポリエチレン粉体が溶融せずに粉体形状を維持した状態で分散すると、ゴム組成物の表面に露出した超高分子量ポリエチレン粉体が摩擦係数を効率よく低下させることができ、超高分子量ポリエチレンの粉体形状を保持して長期間、低摩擦係数を維持することができる。
【0028】
本願発明のゴム組成物の製造方法では、混練りを超高分子量ポリエチレン粉体の融点温度未満で行うために、ゴム組成物中で添加した超高分子量ポリエチレン粉体が形状を保持することに有効であり、長期間安定した低摩擦係数を実現することが可能になる。また、超高分子量ポリエチレンの融点を超えた温度で架橋を行うことで、超高分子量ポリエチレン粉体が保形性を有したまま溶融状態に近づき、もしくは溶融し、周りに存在するエチレン−α−オレフィンエラストマーとの界面の親和性が増し、脱落による耐摩耗性低下、物性低下などが起こりにくくなる
【0029】
本願発明の摩擦伝動ベルトは、圧縮ゴム層としてエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合することで摩擦係数を低下させたゴム組成物を使用することにより、長期間、低摩擦係数を維持することができ、ミスアライメントやスティックスリップによる発音を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1に本発明に係る摩擦伝動ベルトの一例としてVリブドベルト1を示す。Vリブドベルト1は、カバー帆布5からなる伸張ゴム層2と、コードよりなる心線3を埋設した接着層4、その下側に弾性体層である圧縮ゴム層6からなっている。この圧縮ゴム層6は、ベルト長手方向に延びる断面略三角形である台形の複数のリブを有している。
【0031】
圧縮ゴム層6は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体2〜30重量部を配合し、混練りを超高分子量ポリエチレン粉体の融点温度未満で行ったゴム組成物であり、分散した超高分子量ポリエチレン粉体の存在によって、プーリなどの相手材表面と接触するエラストマー成分の比率が低下して、低摩擦係数をもつゴム配合物を得ることができる。またエチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレンの組み合わせであるため、相溶性が良くゴム組成物中で分散しやすいこと、そして物性低下を抑制して長期間安定した低摩擦係数を実現することが可能になる。
【0032】
尚、超高分子量ポリエチレン粉体の添加量が2重量部未満になると、摩擦係数を低下させる効果が小さくなり、一方30重量部を超えると摩擦係数は低下するが、その反面ゴム組成物の硬度が高く、またモジュラスが大きく、切断時の伸びが小さくなって、圧縮ゴム層に適さないゴム組成物になる。
【0033】
ここで使用する超高分子量ポリエチレン粉体は、市販の粉末状の超高分子量ポリエチレン樹脂で、平均分子量が粘度法で100万g/mol以上、光散乱法で300万g/mol以上のものを総称するが、本発明で用いられるものとしてはその中でも粘度法による平均分子量が300万〜800万g/molのものであり、例えばティコナ・ジャパン(株)のGUR、三井化学(株)のハイゼックスミリオン(Hi−zex Million)などが挙げられる。また、上記超高分子量ポリエチレン粉体の平均一次粒子径が10〜200μmであり、融点が130〜135℃である。
【0034】
エチレン・α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体であり、具体的にはエチレン−プロピレンゴム(EPM)やエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマー(EPDM)などのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
【0035】
また、上記ゴム組成物には、架橋剤として有機過酸化物が配合されることが望ましい。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ゴム100重量部に対して0.5〜8重量部の範囲で好ましく使用される。
【0036】
更に、前記ゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対して、N,N’−m−フェニレンジマレイミドを好ましくは0.5〜13重量部配合することができる。N,N’−m−フェニレンジマレイミドは共架橋剤として作用し、0.5重量部未満では添加による効果が顕著でなく、13重量部を超えると引裂き力並びに接着力が急激に低下する。このとき、共架橋剤としてN,N’−m−フェニレンジマレイミドを選択した場合、架橋密度が高くなり、耐摩耗性が高く、また注水時と乾燥時の伝達性能の差が少なくなる。
【0037】
また、圧縮ゴム層には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミドからなる短繊維を混入して圧縮ゴム層の耐側圧性を向上させるとともに、プーリと接する面になる圧縮ゴム層の表面をグラインダーによって研磨加工して該短繊維を突出させる。圧縮ゴム層の表面の摩擦係数は低下して、ベルト走行時の騒音を軽減する。中でも、アラミド短繊維とナイロン短繊維の少なくとも一方を含めた場合には、低摩擦係数を長期に維持できるゴム配合物を得ることができる。
尚、本発明では、圧縮ゴム層に超高分子量ポリエチレン粉体が含有されているため、短繊維を添加する必要はない。
【0038】
上記短繊維が前述の効果を充分に発揮するためには、その繊維長さは0.5〜3mmで、その添加量はエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して10〜30重量部である。
【0039】
そして、それ以外に必要に応じてカーボンブラック、シリカのような増強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが使用される。
【0040】
ゴム組成物の架橋物の作製では、エチレン−α−オレフィンエラストマーと超高分子量ポリエチレン粉体を配合し、超高分子量ポリエチレンの融点(130〜135℃)未満で混練りし、続いて超高分子量ポリエチレン粉体の融点を超える温度で架橋する。
【0041】
混練りを超高分子量ポリエチレン粉体の融点未満で行うと、ゴム組成物中で添加した超高分子量ポリエチレンの粉体形状を保持することができて、摩擦係数を低下させる効果がある。融点を超える温度で混練りすれば、ゴム組成物中で超高分子量ポリエチレン粉体が変形し微細に分散してしまうことになり、摩擦係数を低下させる効果が少なくなる。またこのような状態になった場合、ゴム組成物が未加硫状態でも剛直になってしまい、混練り後の成形が困難になるという不具合も発生する。本発明では、超高分子量ポリエチレン粉体を添加した状態、すなわち添加した時点と同レベルの粒子径を保持することが必要である。また、融点を超えた温度で架橋を行うことで、超高分子量ポリエチレン粉体が保形性を有したまま溶融状態に近づき、もしくは溶融し、周囲に存在するエチレン−α−オレフィンエラストマーとの界面の親和性が増すことになる。
【0042】
心線3としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維が使用され、中でもエチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数が4,000〜8,000の接着処理したコードが、ベルトスリップ率を低くできてベルト寿命を延長させるために好ましい。このコードの上撚り数は10〜23/10cmであり、また下撚り数は17〜38/10cmである。総デニールが4,000未満の場合には、心線のモジュラス、強力が低くなり過ぎ、また8,000を越えると、ベルトの厚みが厚くなって、屈曲疲労性が悪くなる。
【0043】
エチレン−2,6−ナフタレートは、通常ナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下に適当な条件のもとにエチレングリコールと縮重合させることによって合成させる。このとき、エチレン−2,6−ナフタレートの重合完結前に適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合体ポリエステルが合成される。
【0044】
心線3にはゴムとの接着性を改善する目的で接着処理が施される。このような接着処理としては繊維をレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス(RFL)液に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成するのが一般的である。しかし、これに限ることなくエポキシ又はイソシアネート化合物で前処理を行った後に、RFL液で処理する方法等もある。
【0045】
接着処理されたコードは、スピニングピッチ、即ち心線の巻き付けピッチを1.0〜1.3mmにすることで、モジュラスの高いベルトに仕上げることができる。1.0mm未満になると、コードが隣接するコードに乗り上げて巻き付けができず、一方1.3mmを越えると、ベルトのモジュラスが徐々に低くなる
【0046】
一方、接着ゴム層4には耐熱性を有し、圧縮ゴム層4と同種のゴムが使用される。ただし、超高分子量ポリエチレン粉体、短繊維は混入されないが、必要に応じてカーボンブラック、シリカのような増強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合に用いるものが使用される。
【0047】
上記カバー帆布5は綿、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アラミド繊維からなる糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布である。無論、カバー帆布を使用しない場合もある。
【0048】
Vリブドベルトの代表的な製造方法は以下の通りである。まず、円筒状の成形ドラムの周面に帆布と接着ゴム層とを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に接着ゴム層、圧縮ゴム層を順次巻きつけて積層体を得た後、これを架橋してスリーブを得る。
【0049】
次に、架橋スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架して所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の架橋スリーブに当接するように移動して架橋スリーブの圧縮ゴム層表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨する。
【0050】
このようにして得られた架橋スリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該架橋スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定の幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
【0051】
また、本発明においては、上記のVリブドベルト以外にも、図2に示すようにベルトの上下表面のみにゴム付き帆布22を付着したローエッジVベルト21なども本発明の技術範疇に属するものである。該ベルト21は、心線23を接着ゴム層24中に埋設し、その下側に弾性体層である圧縮ゴム層26を有している。この圧縮ゴム層26には、コグを長手方向に沿って所定間隔で設けてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、具体的な実施例を伴って説明する。
実施例1〜4、比較例1〜3
エチレン含量が55%、ジエン量が2.0%のエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマー(EPDM)100重量部に対して平均分子量730万g/mol、融点135℃、平均粒子径120μmの超高分子量ポリエチレンを変量して配合し、密閉式混練機で混練りを行った。
【0053】
混練りはまず、EPDM、カーボンブラックN330、パラフィン系オイルを混合してゴム温度が165℃になるまで所定の時間混練りを行ない、ゴムを排出して50℃程度まで冷却した後、該混練りゴムに架橋剤、超高分子量ポリエチレン粉末を混合して120℃以下の温度で混練りを行なった。混練りゴムをカレンダーロールによって所定厚さのゴムシートとし、165℃で30分間加硫した。
【0054】
得られた加硫ゴムの硬度(JIS−A)をJIS K6253に、切断時の伸びEBをJIS K6251、100%伸張時の応力M100をJIS K6251に準じて測定した。摩擦係数の測定はピンオンディスク摩擦係数測定装置を用い相手材表面粗さRa=2.5μm、押付け荷重0.3kgf/cm、摩擦速度2m/secの条件で摩擦力を測定し摩擦係数を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例1は超高分子量ポリエチレンを配合しない例である。比較例2では超高分子量ポリエチレンを1重量部配合したが摩擦係数に大きな変化は見られなかった。
【0057】
実施例1〜4では摩擦係数の低下が認められた。また伝動ベルトは厳しい屈曲のもとで使用されるため、応力の増大、伸びの低下は性能に大きな影響を及ぼす。実施例1〜4ではそれらの値は比較例1に比較し、大幅に変化することはなかった。
【0058】
実施例5〜8、比較例4〜6
ナイロン短繊維(繊維長3mm、繊維径6デニール)、アラミド短繊維(繊維長3mm、繊維径2デニール)、超高分子量ポリエチレン粉末の配合量を変量し発音限界張力試験での発音評価、伝達性能試験による伝達力評価、6%スリップ磨耗試験による摩耗率及びベルト作製時の加工性(ゴムシート圧延性)の評価を行った。その評価結果を表2に示す。
【0059】
発音限界張力試験では、得られたVリブドベルトを直径135mmの駆動プーリ、直径112mmの第1従動プーリ、クラッチ機構を有する直径60mmの第2従動プーリの間に所定のベルト張力で懸架して、室温で駆動プーリを5,000rpmで回転させながら第2従動プーリを回転始動させた時に発生した鳴き音と、この時のベルトの最低張力である発音限界張力を測定した。
【0060】
伝達性能試験では、得られたVリブドベルトを直径80mmの駆動プーリ、直径110mmの従動プーリに5kgf/リブの荷重で掛架して、駆動プーリを2,000rpmで回転させながら従動プーリ側に徐々に負荷をかけていき、ベルトのスリップ率が2%となるときの伝達力を測定した。
【0061】
6%スリップ磨耗試験では、駆動プーリ(直径80mm)、従動プーリ(直径80mm)、そしてテンションプーリ(直径120mm)を配置したものである。試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、ベルトのテンションプーリへの巻き付け角度を90°とし、室温条件下で、駆動プーリの回転数を3,300rpm、従動プーリのトルクを0.7kg・m、ベルトスリップ率が6%となるようベルト張力を自動調整しながら24時間走行させた。そして走行試験前後のベルト重量を測定し、ベルト重量減量(走行前ベルト重量−走行後ベルト重量)を走行前ベルト重量で除したものを、摩耗率として算出した。
【0062】
ベルト作製時の加工性の評価では、○がゴムのシーティングがスムーズに行うことができ、シートの穴が開いたりする不具合が発生しない状態であり、△はシーティングしたゴムシートに穴あきが見られた場合であり、×はシーティングができない状態をいう。
【0063】
【表2】

【0064】
比較例4〜5では慣らし走行後の発音限界張力が高い(狙いは40kgf以下)。比較例6では発音限界張力が25kgf以下と良好な結果であったが、加工性が悪い。また、超高分子量ポリエチレンを50重量部配合すると摩擦係数の低下が大きく十分な伝達力が得られない。実施例5〜8では発音限界張力、加工性ともに良好な結果であった。
【0065】
比較例7〜9
エチレン含量が55%、ジエン量が2.0%のEPDM100重量部に対して平均分子量730万g/mol、融点135℃、平均粒子径120μmの超高分子量ポリエチレン粉体を変量して配合し、密閉式混練機で混練りを行なった。
【0066】
比較例7〜9ではEPDM、カーボンブラック、可塑剤および超高分子量ポリエチレン粉体を混合してゴム温度が165℃になるまで混練りを行ない、ゴムを排出して50℃程度まで冷却した後、該混練りゴム、架橋剤を混合して120℃以下の温度で混練りを行なった。摩擦係数の測定はピンオンディスク摩擦係数測定装置を用いて相手材表面粗さRa=2.5μm、押付け荷重0.3kgf/cm、摩擦速度2m/秒の条件で摩擦力を測定し摩擦係数を算出した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
その結果、比較例7の超高分子量ポリエチレン粉体を5重量部混合した場合は、ベルト作製時の加工性(ゴムシート圧延性)は悪く、シーティング後のゴムシートの表面状態は悪かった。また、比較例7の摩擦係数は実施例2の超高分子量ポリエチレン粉体を5重量部混合し、120℃以下の温度で混練を行なった場合に比べて高くなった。
【0069】
比較例8、9の超高分子量ポリエチレン粉体を10、30重量部混合した場合は、加工性は非常に悪く、シーティングすることができなかった。
【0070】
以上のことから、超高分子量ポリエチレン粉体を融点以上の温度で混練りを行なうと未加硫ゴムシートの圧延性が悪化し、ベルトの成形が困難になることが確認された。また、EPDMとカーボンブラックなどの配合剤の混合においては、配合剤などの分散を考慮するとある程度の混練り時間が必要であり、ゴムの発熱により混練の終了時にはゴム温度は150℃以上になることが多い。そのため、超高分子量ポリエチレン粉体を融点以下の温度で分散させるためには加硫剤を混合する時と同様の段階で混合するのが好ましい。
【0071】
スティックスリップが生じる要因の1つにゴム部材の摩擦係数が高いことが考えられる。エンジンに大きな回転変動が生じると摩擦係数の大きいゴム部分がプーリ−部と接触し、その結果スティックスリップ現象が起こる。エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体2〜30重量部を融点以下の温度で混練りを行なうことで、その形状を保持したまま混合した本発明のゴム組成物を用いた摩擦伝動ベルトは、摩擦係数を低下させることができ、ミスアライメントやスティックスリップによる発音抑制に効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明にかかるVリブドベルトは自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る摩擦伝動ベルトの一例としてVリブドベルトの斜視図を示す。
【図2】本発明に係る摩擦伝動ベルトの他の例であるローエッジVベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 Vリブドベルト
2,23 心線
3,24 接着ゴム層
4,26 圧縮ゴム層
5,22 ゴム付帆布
7 リブ部
21 ローエッジVベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合し、分散させたことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
超高分子量ポリエチレン粉体は溶融せずに粉体形状で分散している請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
上記超高分子量ポリエチレン粉体の平均一次粒子径が10〜200μmである請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
エチレン−α−オレフィンエラストマーがエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマーである請求項1乃至3記載の何れかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
アラミド短繊維とナイロン短繊維の少なくとも一方を含んでいる請求項1乃至4の何れかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
有機過酸化物によって架橋可能になる請求項1乃至5の何れかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
エチレン−α−オレフィンエラストマーに超高分子量ポリエチレン粉体を配合し、混練りして分散させたゴム組成物の製造方法において、上記混練りは、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部配合し、かつ混練り時の温度を超高分子量ポリエチレンの融点未満で行い、溶融せずに粉体形状で分散させたことを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
上記混練りは、少なくとも2段階で行なわれ、架橋剤を混合する最終段階の混練り時においてエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体を2〜30重量部を配合し、かつ混練り時の温度を超高分子量ポリエチレンの融点未満で行う請求項7記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
最終段階の混練りを終えた後、超高分子量ポリエチレンの融点を超えた温度で架橋を行う請求項7または8記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
架橋は有機過酸化物によって行われる請求項9記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
摩擦伝動面を構成した圧縮ゴムからなる摩擦伝動ベルトであり、該圧縮ゴム層にはエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して超高分子量ポリエチレン粉体が2〜30重量部配合され、該超高分子量ポリエチレン粉体が溶融せずに粉体形状で分散していることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項12】
摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を伸張部と圧縮部の間に埋設したVリブドベルトである請求項11記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項13】
上記超高分子量ポリエチレン粉体の平均一次粒子径が10〜200μmである請求項11または12記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項14】
該圧縮ゴム層には、アラミド短繊維とナイロン短繊維の少なくとも一方を含んでいる請求項11乃至13の何れかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項15】
該圧縮ゴム層で使用されるエチレン−α−オレフィンエラストマーがエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマーである請求項11乃至14の何れかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項16】
該圧縮ゴム層が有機過酸化物によって架橋されている請求項11乃至15の何れかに記載の摩擦伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−70592(P2007−70592A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325898(P2005−325898)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】