説明

ゴム補強用コード

【課題】繊維コード物性が高く、同時に高温雰囲気下での剥離接着、引抜接着などのゴム接着性能にも優れるゴム補強用コードを提供すること。
【解決手段】合成繊維からなるコードであって、コードを構成する合成繊維の20〜80重量%が脂肪族ポリケトン繊維であり、コード表面に、エポキシ化合物を含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤とが付着しており、接着処理剤が無機充填剤を含むことを特徴とするゴム補強用コード。さらには、無機充填剤がカーボンブラックまたはシリカであることや、コードを構成する合成繊維として、ポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維が含まれていることが好ましく、さらには芳香族ポリアミド繊維が共重合パラ型芳香族ポリアミド繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム・繊維複合材料に使用されるゴム補強用コードに関し、更に詳しくはゴム製品の補強用としてコード物性や対ゴム接着性を改善したゴム補強用コードであり、特にタイヤのカーカス、キャッププライ用として好適なゴム補強用コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤ、ホース、ベルト等の繊維補強ゴム構造物はより過酷な条件下で使用されるケースが増えている。当然、ゴム構造物に対しては高性能化が要求され、結果としてその原料である繊維コードに対しても更なる性能向上が求められている。例えば、自動車のエンジンルームに使用されるホースやベルトの補強用コードには、高圧・高温化に対する強度、弾性率、耐熱性の向上が求められている。また、タイヤも高速化、パンクしても走行可能なランフラットタイヤの開発が進められており、特にカーカスやキャッププライなどの部位に用いられるタイヤコードには、高温雰囲気下での強度、弾性率、耐熱性、接着性の向上要求がより強く求められている。
【0003】
その中で、高い強度と弾性率を有する脂肪族ポリケトン繊維に、各種物性のバランスが取れていてコストメリットも高い汎用合成繊維とを組み合わせ、高性能でコストメリットが高いゴム補強用コードが、例えば特許文献1において、脂肪族ポリケトン繊維に、芳香族ポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維とを交撚したゴム補強用コードが開示されている。
【0004】
しかし脂肪族ポリケトン繊維は単純なRFL接着剤のみでゴムと容易に接着するものの、芳香族ポリアミド繊維に代表される高強力合成繊維は表面活性が低く、ゴムと強固に接着することは困難であり、また接着力を重視するために繊維コード物性が低下することがあり、それらのバランスをとることは困難であった。
【0005】
ゴム補強用の材料として、接着性が十分でかつ繊維コード物性に優れたゴム補強用コードの開発が待たれていたのである。
【特許文献1】特開2003−55855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、繊維コード物性が高く、同時に高温雰囲気下での剥離接着、引抜接着などのゴム接着性能にも優れるゴム補強用コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のゴム補強用コードは、合成繊維からなるコードであって、コードを構成する合成繊維の20〜80重量%が脂肪族ポリケトン繊維であり、コード表面に、エポキシ化合物を含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤とが付着しており、接着処理剤が無機充填剤を含むことを特徴とする。
【0008】
さらには、無機充填剤がカーボンブラックまたはシリカであることや、コードを構成する合成繊維として、ポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維が含まれていることが好ましく、さらには芳香族ポリアミド繊維が共重合パラ型芳香族ポリアミド繊維であることが好ましい。また、前処理剤または接着剤がイソシアネート化合物を含むことや、エポキシ化合物がソルビトールポリグリシジルエーテルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維コード物性が高く、同時に高温雰囲気下での剥離接着、引抜接着などのゴム接着性能にも優れるゴム補強用コードが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴム補強用コードは、合成繊維からなるコードであるが、そのコードを構成する合成繊維の20〜80重量%が脂肪族ポリケトン繊維であることを必須とするものである。
【0011】
ここで本発明に使用される脂肪族ポリケトン繊維としては、主として1−オキソトリメチレンから構成されたポリケトン繊維であれば特に制限はないが、特には下記式(1)の構造を有するものであることが好ましい。
式(1) −(CH−CH−CO)n−(R−CO)m−
(ここで、Rは炭素数が3以上のアルキレン基、1.10≧(n+m)/n≧1.00)
【0012】
ここで、nの割合、すなわち1−オキソトリメチレンの割合が増えるほど、分子鎖の配向度が増すために機械的強度が高いコードが得られる。より好ましくは、mが0となり、1−オキソトリメチレンだけから構成される脂肪族ポリケトン繊維を用いることが望ましい。
【0013】
このような脂肪族ポリケトン繊維は従来公知の例えば特開平1−124617号公報、特開平2−112413号公報、特開平9−324377号公報などに開示された紡糸方法によって得ることが出来る。
【0014】
またここで脂肪族ポリケトン繊維と同時に使用される他の合成繊維としては、特に限定するものではないが、好ましくは、ポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維が含まれていることが好ましい。ポリエステル繊維としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示されるが、強度の点からはこれらポリエステル繊維よりも芳香族ポリアミド繊維であることが好ましい。このような芳香族ポリアミド繊維を用いた場合には、特に高負荷、高温の特殊条件下での性能に優れる。また芳香族ポリアミド繊維(いわゆるアラミド繊維)としては、パラ型芳香族ポリアミド繊維やメタ型芳香族ポリアミド繊維が例示されるが、この中でも、強度・弾性率の面ではパラ型芳香族ポリアミド繊維であることが好ましく、例えばフェニレンテレフタルアミド繊維を挙げることができる。さらに耐久性の面からは、共重合芳香族ポリアミド繊維であることが好ましく、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレン−テレフタルアミド繊維であることが特に好ましい。
【0015】
ここで本発明の合成繊維中における脂肪族ポリケトン繊維の占める割合は20〜80重量%であることが必要であるが、脂肪族ポリケトン繊維の比率が高すぎる場合には、ガラス転移点温度が低いため、特に100℃以上の高温領域においての圧縮特性の低下やクリープの増大が発生し、補強用繊維コードとしての耐熱性が低下する。逆に脂肪族ポリケトン繊維の比率が低すぎる場合には、ゴムとの接着性が低下し高い補強性能を発揮できない。
【0016】
本発明に使用する脂肪族ポリケトン繊維を含む複合コードの作製方法は特に限定されないが、コードの形態は撚りが掛けられていることが好ましい。そのため、片撚りコードは脂肪族ポリケトン繊維と芳香族ポリアミド繊維等の他の合成繊維を合糸した後に、撚りを掛けることにより得ることができる。撚数は10cm当り10〜50回であることが好ましい。諸撚りコードは、脂肪族ポリケトン繊維と他の合成繊維にそれぞれ下撚りを施した後に、これらを合わせて更に上撚りを行うことによりコードを得ることができる。この場合、下撚りコードは2本だけでなく、2本以上の複数本を用いても良い。また、脂肪族ポリケトン繊維と他の合成繊維とを合糸し、撚りを掛けて片撚りコードを作製した後に、これらを複数本合わせて上撚りを掛けることによっても諸撚りコードを得ることができる。下撚数は10cm当り10〜50回、上撚数は10cm当り20〜50回であることが好ましい。このように、コードに撚りをかけることにより、繊維強力をより有効に活用すると共にコードの耐久性も高めることができ、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強用途に適したコードとなる。
【0017】
本発明のゴム補強用コードは、上記の2種以上の繊維からなる複合コードの表面に、エポキシ化合物を含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤とが付着しており、接着処理剤が無機充填剤を含むことを必須とする。
【0018】
前処理剤で用いるエポキシ化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するものであり、ポリエポキシ化合物、すなわちエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が、良好な性能を示すので特に好ましい。その中でもエポキシ基数が多く、該化合物100gあたりに0.2モル相当分以上のエポキシ基を含有するものが、高活性な水酸基をより多く生成することからより好ましい。また、本発明で使用する接着液は水系で用いることが多いため、エポキシ化合物は水溶性であることが好ましい。これらの条件を満たすエポキシ化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル系の化合物を特に好ましい例として挙げることが出来る。
【0019】
本発明のゴム補強用コードにおいて、繊維表面に付与されるエポキシ化合物の付着量は、繊維重量に対して0.01〜10重量%の範囲であることが好ましく、0.1〜1重量%の範囲であることがより好ましい。エポキシ化合物の付着量が多すぎると、繊維が硬くなりすぎてその後の工程での処理が困難になると共に、接着剤の付着量が低下するために接着性能が低下する傾向にある。
【0020】
本発明のゴム補強用コードの内層部分にある前処理剤にはエポキシ化合物のほかに、接着層のマトリックスとなるような高分子成分、接着層の強度を高める成分、接着層の活性を高める成分を含んでいても良い。高分子成分としては成膜性や膜強度の高いものが好ましく、例としてレゾルシン・ホルマリン縮合物、ゴムラテックスなどが挙げられる。強度向上成分としては、高分子成分が形成した膜を架橋可能なイソシアネート化合物、ブロックドイソシアネート化合物などが挙げられる。活性向上成分としてはエポキシ化合物の活性を高める塩基が好ましく、水酸化ナトリウムやアンモニアのような無機塩基、有機アミンを代表とする有機塩基が例として挙げられる。
【0021】
本発明のゴム補強用コードにおいてはその外層部分、すなわち前処理剤の表面側には、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤(以下、RFL接着剤とする)が付着しており、さらに接着処理剤が無機充填剤を含むことが必須とされる。
【0022】
このような接着処理剤が本発明のゴム補強用コードの最表面に位置することにより、前処理剤にて表面が活性化された繊維コードの表面と、マトリックスであるゴムとの間の接着をより有効に行うことが出来るのである。
【0023】
ここでRFL接着剤とは、ゴム/繊維用途に汎用的に用いられている、水系接着剤であるレゾルシン・ホルマリン縮合物とゴムラテックス系のRFL系接着剤であり、より具体的にはレゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させて得られる初期縮合物と、ゴムラテックスの混合物である。レゾルシン/ホルマリン初期縮合物におけるレゾルシンとホルマリンの好ましいモル比は、1:0.6〜1:3である。ゴムラテックスの種類としては、天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等を挙げることができる。この中でも特に、ビニルピリジン系単量体、スチレン系単量体、共役ジエン系単量体からなる三元共重合体ゴムラテックスが好ましい。ビニルピリジン系単量体としては2−ビニルピリジン、スチレン系単量体としてはスチレン、共役ジエン系単量体としては1,3−ブタジエンが例示される。また、上記三元共重合体の他に天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等単独あるいは併用して用いることもできる。レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスの好ましい固形分重量比は1:3〜1:15、より好ましくは1:4〜1:12である。
【0024】
本発明においては、このRFL接着剤が無機充填剤を含むことを必須としている。この無機充填剤が添加されることにより、本発明のゴム補強用コードの接着性の顕著な向上が見られるのである。このような本発明の効果を有する無機充填剤としては、例えばカーボンブラック、シリカ、チタニア、炭酸カルシウムなどを挙げることができ、その中でもカーボンブラックやシリカであることが、特に好ましい。
【0025】
本発明のゴム補強用コードにおける無機充填剤の働きは明らかではない。しかし、例えばカーボンブラックの場合は次のように考えられる。カーボンブラックの主骨格はベンゼン環(芳香環)の集合体である。本発明で使用する接着剤の主成分は、レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックス(RFL接着剤)であり、RFL中にも多くのベンゼン環があることから、カーボンブラックとRFLは、ベンゼン環同士が相互作用をしているものと考えられる。さらに、ゴム中にも多くのベンゼン環があり、カーボンブラックとゴムの相互作用も同様の機構で生じており、さらに加硫によってカーボンブラックがゴム中に浸透・拡散した後は粒子としての効果が発現し、アンカーの役割を果たしていると考えられる。その他、異物であるカーボンブラックが接着層に存在することによる、RFL等の接着剤成分の凝集力を高める働きや、カーボンブラックが本来有する耐熱性により、結果的に接着層全体の耐熱性を高めたのであろうと考えられる。
【0026】
一方、無機充填剤がシリカの場合には、次のような機構が考えられる。繊維表面の接着剤/シリカ間において、接着剤とシリカ粒子表面のシラノール基(−Si−OH)には相互作用が生じ、接着剤とシリカは結合する。さらにシリカ/ゴム間においては、ゴム構造体の加硫によってゴム中に浸透・拡散したシリカ粒子がアンカー接着の役割を果たし、接着性を向上させていると考えられる。また、異物であるシリカが接着層に存在することにより、接着成分の凝集力を高め、接着層全体の耐熱性を高める効果が発揮されたのであろうと考えられる。
【0027】
本発明のゴム補強用コードにおいては、上記のような無機充填剤の効果が相乗的に作用し、繊維とゴム間の接着性と耐熱性を高めていると考えられるのである。
【0028】
本発明で用いられる無機充填剤の粒子径としては、10nm以上、3000nm以下の範囲が好ましく、さらには30〜1000nmであることがより好ましい。無機充填剤の粒子径が10nmより小さいと接着性に対する効果が発現しにくい。逆に1000nm以上になると接着処理液中での分散性が低下し、沈降が生じるため不均一となりやすい傾向にあり、十分な接着性向上効果が得られない。
【0029】
また、無機充填剤は接着剤がゴム補強用コードのゴムと接する最外層に位置することが好ましい。最外層に位置することにより、無機充填剤のゴム接着におけるアンカー効果や拡散効果を、より効率よく発揮することが可能となる。
【0030】
また、本発明で用いられるRFL接着剤には、無機充填剤に加えて、接着層の架橋度、すなわち膜強度等を調整する目的で、イソシアネート化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ化合物を配合しても良い。これらの化合物を添加する場合の添加量は、RFL接着剤100重量部に対して5〜25重量部が好ましい。添加量が多すぎると接着膜は硬く、脆くなり、ゴムとの界面強度が低下する。
【0031】
イソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のイソシアネート、あるいはこれらのイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(−NCO)と水酸基(−OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネートが優れた性能を発現するので好ましい。
【0032】
さらに、ブロックドイソシアネート化合物とは、イソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、接着処理剤を繊維に付与した後の熱処理工程での加熱によってブロック成分が遊離して、活性なイソシアネート化合物を生じるものである。通常、イソシアネート化合物は化学的に非常に活性であるため水中には安定して存在できず、非水系の有機溶媒を用いないと濃度調整等が行えない。しかし、例えばフェノール類等でイソシアネート基をブロックしたものは水中でも安定して存在できるので、より広い範囲での使用が可能となる。したがって本発明においては、ブロックドイソシアネート化合物の方がイソシアネート化合物よりも好ましい。
【0033】
ブロックドイソシアネート化合物のブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム類、および酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0034】
ゴム補強用コードにおけるコード外層部分のRFL接着剤の繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲であることが好ましく、更には1〜5重量%の範囲であることがより好ましい。固形分付着量が0.1%を下回る場合には、繊維/ゴム間の接着性能が十分に発現しない。固形分付着量が10%以上になると、ゴム補強用繊維の処理コストが高くなりすぎて不利となる。
【0035】
また繊維重量に対する無機充填剤の付着割合は、0.05〜5重量%さらには0.1〜3重量%であることが好ましい。繊維に対する無機充填剤の割合が0.05重量%以下では、無機充填剤の効果が十分に発現しにくい傾向にある。逆に5重量%以上になると接着剤中での分散性が低下し、接着性が阻害される。接着剤の乾燥固形分重量に対する無機充填剤の割合は3〜30重量%、さらには5〜25重量%であることが好ましい。接着剤中で無機充填剤が多すぎると、接着液の安定性に影響を及ぼして沈降やゲル化が生じる傾向にある。
【0036】
これらの処理に用いられる接着処理剤や前処理剤は、界面活性剤を含まないものであることがより好ましい。界面活性剤は、水系分散液である接着液の安定性を保つためには有用であるものの、種類や添加量を誤ると接着剤の一部の成分あるいは全成分の分離やゲル化を誘発する。また、接着面では、界面活性剤により繊維/ゴム間の接着を阻害される場合があり、特に80℃以上の高温雰囲気下における耐熱接着においては、その影響が生じやすい。
【0037】
本発明のゴム補強用コードは、上記のようにコードの接着剤層が内外二層となっているため、コードを構成する脂肪族ポリケトン繊維と他の合成繊維の表面活性が異なるにもかかわらず有効にゴムとの接着力を発現しうる。脂肪族ポリケトン繊維は、ポリマーの主鎖を構成するカルボニル結合(CO)の活性が高い繊維であるため、ゴム用接着剤であるRFL接着剤中の水酸基と水素結合を形成し、容易に結合することができる。すなわち、脂肪族ポリケトン繊維はRFL接着剤のみの処理によっても、ゴムへの接着性を発現しうる。これに対して、汎用的にゴム補強用の合成繊維として用いられる芳香族ポリアミド繊維やポリエステル繊維等のポリマーには通常のRFL接着剤の水酸基と結合できる高活性な構成成分がなく、RFL接着剤との接着性はきわめて低い。そのため本発明では繊維コードとゴムとの高接着性を発揮させるために、RFL接着剤中に無機充填剤を含有することと、繊維表面のエポキシ化合物による前処理が必要となるのである。
【0038】
仮に脂肪族ポリケトン繊維と他の合成繊維から成るコードをRFL接着剤のみで処理してゴム成形体を作製した場合、あるいはエポキシ前処理を行ってもRFL接着剤に無機重点剤が含まれていない場合には、脂肪族ポリケトン繊維はゴムと接着するが他の合成繊維はゴムと接着しない、いわゆる斑付きの状態となり、コード全体の接着性は低くなる。このことは、ゴム成形体が強い外力を受けた場合にゴムからのコード剥離につながり、ゴム成形体の性能や機能を奪うこととなる。
【0039】
合成繊維の表面活性を高めるための前処理剤としてはさまざまな配合が知られているが、本発明においてはエポキシ化合物を含むことが必須である。本発明ではゴム補強用コードはまずエポキシ化合物を含む接着剤で処理されるが、例えば他の合成繊維として芳香族ポリアミド繊維(以下アラミド繊維)を用いた場合、アラミド繊維とエポキシ化合物との相溶性は高く、アラミド繊維をエポキシ化合物で処理するとエポキシ化合物はアラミド繊維表層部に吸着する。そしてエポキシ化合物は、塩基などの触媒存在下で開環して高活性な水酸基を生成するために、結果としてアラミド繊維表面が活性化された形となり、無機充填剤を含むRFL接着剤と結合できるようになる。さらに脂肪族ポリケトン繊維とRFL接着剤との間に阻害作用もなく、その結果高い繊維コードの物性を保ちながら、ゴムへの高い接着性をも発現するのである。
【0040】
このようにして得られた本発明のゴム補強用コードは、高強力・高弾性率の脂肪族ポリケトン繊維と、高物性の合成繊維とを組み合わせており、さらにこの複合コードに最適な特殊な2浴処理を行っているために、高物性を保ちながら、ゴムとの接着性、特に高温での接着性が極めて高いコードとなっている。そのため、疲労性に優れタイヤ、ホース、ベルト等のゴム成形体の補強分野で好適に使用でき、特に高温雰囲気下での強度、弾性率、耐熱性、接着性の向上が要求されるカーカスやキャッププライなどの部位や、耐圧ホースに最適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例だけの限りではない。なお、実施例における特性の測定は次の測定法を用いて行った。
【0042】
(1)コード剥離接着(剥離接着力、ゴム付き)
処理コードとゴムとの剥離接着性能を示すものである。接着処理されたコードを未加硫ゴムに平行プライ(打込み本数24本/2.54cm(インチ))として埋め込み、所定の条件でプレス加硫して放冷後、両プライを所定の速度で剥離測定した。剥離接着力は両プライを剥離させるのに要した力をN/2.54cm(インチ)で示したものであり、ゴム付きはゴムから剥離したコード表面のゴムの付着率を目視観察して百分率で示したものである。
【0043】
(2)コード引抜接着力
処理コードとゴムとの引抜接着性能を示すものである。接着処理されたコードを未加硫ゴムに所定の長さ埋め込み、所定の条件でプレス加硫して放冷後、コードをゴムから所定の速度で引抜測定した。引抜接着力はコードをゴムから引き抜くのに要した力をN/cmで示したものである。
【0044】
(3)コード強伸度
インストロン試験機を用いて、JIS L 1017(1995年)に準拠して測定した。
【0045】
(4)接着剤付着量
JIS L 1017(1995年)に準拠して重量法で測定した。
【0046】
(各処理液の調整方法)
[前処理剤1]
(エポキシ化合物を有する前処理液)
980重量部の水に、少量(0.5重量部以下)の水酸化ナトリウムと20重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌し、全体の固形分濃度が2重量%のコード内層部分用の前処理剤1を調製した。
【0047】
[前処理剤2]
(エポキシ化合物、ゴムラテックス等を有する前処理液)
735重量部の水に、少量(0.1重量部以下)の水酸化ナトリウムと3重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌した。この液に固形分として86重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスを加えて混合した後、純分として12重量部のε−カプロラクタムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合し、全体の固形分濃度が10重量%のコード内層部分用の前処理剤2を調製した。
【0048】
[RFL接着剤1]
(シリカ粒子を含有するRFL処理液)
375重量部の水に少量のアンモニア水を加えた後、レゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を固形分として14重量部加えて混合した。この混合液に、固形分として81重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと3重量部のホルマリンを添加して混合した後、20℃で24時間熟成してRFL処理液のベース液を調製した。
このRFL処理液のベース液に、繊維への処理直前に表1に示す粒子径50nmのシリカ粒子を固形分として3重量部添加して混合し、全体の固形分濃度23重量%、接着処理剤主成分に対するシリカ粒子割合13重量%のRFL処理液1とした。
【0049】
[RFL接着剤2]
(カーボンブラックを含有するRFL処理液)
RFL処理液1のベース液に、繊維への処理直前に表1に示す平均粒子径120nmのカーボンブラックを固形分として3重量部添加した以外はRFL処理液1と同様の操作を行い、全体の固形分濃度23重量%、接着処理剤主成分に対するカーボンブラック割合13重量%のRFL処理液2とした。
【0050】
[RFL接着剤3]
(シリカ粒子とブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)
73重量部の水に少量の苛性ソーダとアンモニア水を加えた後、レゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を固形分として6重量部加えて混合した。この混合液に、55重量部の水に、固形分として53重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと23重量部のスチレン/ブタジエンラテックスを乳化させた液を添加して更に混合した。その後、3重量部のホルマリンと14重量部のアルキルケトオキシムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合した後、20℃で48時間熟成してRFL処理液のベース液を調製した。
このRFL処理液のベース液に、繊維への処理直前に表1に示す粒子径50nmのシリカ粒子を固形分として5重量部添加して混合し、全体の固形分濃度25重量%、接着処理剤主成分に対するシリカ粒子割合25重量%のRFL接着剤3とした。
【0051】
[RFL接着剤4]
(カーボンブラックとブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)
RFL処理液3のベース液に、繊維への処理直前に表1に示す平均粒子径120nmのカーボンブラックを固形分として5重量部添加した以外はRFL処理液3と同様の操作を行い、全体の固形分濃度25重量%、接着処理剤主成分に対するカーボンブラック割合25重量%のRFL接着剤4とした。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例1]
1−オキソトリメチレンのみから構成された1625dtex/1500フィラメントの脂肪族ポリケトン繊維(POK)を40T/10cmで下撚した。また、1670dtex/1000フィラメントのコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレン−テレフタルアミド繊維(CPOTA)を40T/10cmで下撚りした。これらの下撚コードを2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを作製した。
【0054】
この生コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記前処理剤1(エポキシ化合物を有する前処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、RFL接着剤1(シリカ粒子を含有するRFL処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、シリカ粒子を含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表2に示す。
【0055】
[実施例2]
脂肪族ポリケトン繊維(POK)とコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレン−テレフタルアミド繊維(CPOTA)の下撚数、およびこれらの上撚数をそれぞれ30T/10cmとした以外は、実施例1と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、シリカ粒子を含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表2に併せて示す。
【0056】
[実施例3]
RFL接着剤処理液として、RFL接着剤1(シリカ粒子を含有するRFL処理液)の代わりに、RFL接着剤2(カーボンブラックを含有するRFL処理液)を用いた以外は、実施例1と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、カーボンブラックを含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表2に併せて示す。
【0057】
[比較例1]
シリカ粒子を添加せずに全体の固形分濃度を25重量%に調整したRFL接着剤1改を調製して用いた以外は、実施例1と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とする接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表2に併せて示す。
【0058】
[比較例2]
生コードをRFL接着剤2(カーボンブラックを含有するRFL処理液)のみで接着処理し、エポキシ化合物を有する前処理液で処理しなかった以外は、実施例3と同様の処理を行って、RFLを主成分とし、カーボンブラックを含む接着層を有する接着処理コードを得た。この接着処理コードのRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表2に併せて示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[実施例4]
1−オキソトリメチレンのみから構成された1625dtex/1500フィラメントの脂肪族ポリケトン繊維(POK)を40T/10cmで下撚した。また、1670dtex/1000フィラメントのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)を40T/10cmで下撚りした。これらの下撚コードを2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを作製した。
【0061】
この生コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記前処理剤2(エポキシ化合物、ゴムラテックス等を有する前処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、RFL接着剤3(シリカ粒子とブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、シリカ粒子を含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表3に示す。
【0062】
[実施例5]
脂肪族ポリケトン繊維(POK)とポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)の下撚数、およびこれらの上撚数をそれぞれ30T/10cmとした以外は、実施例1と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、シリカ粒子を含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表3に併せて示す。
【0063】
[実施例6]
RFL接着剤処理液として、RFL接着剤3(シリカ粒子とブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)の代わりに、RFL接着剤4(カーボンブラックとブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)を用いた以外は、実施例4と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とし、カーボンブラックを含む接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表3に併せて示す。
【0064】
[比較例3]
シリカ粒子を添加せずに全体の固形分濃度を25重量%に調整したRFL接着剤3改を調製して用いた以外は、実施例4と同様の処理を行って、コード内層部分にエポキシ化合物を含む接着層を有し、コード外層部分がRFLを主成分とする接着処理コードを得た。この接着処理コードの前処理剤とRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表3に併せて示す。
【0065】
[比較例4]
生コードをRFL接着剤4(カーボンブラックとブロックドイソシアネート化合物を有するRFL処理液)のみで接着処理し、エポキシ化合物を有する前処理液で処理しなかった以外は、実施例6と同様の処理を行って、RFLを主成分とし、カーボンブラックを含む接着層を有する接着処理コードを得た。この接着処理コードのRFL接着剤の固形分付着量、接着性能、強伸度の評価結果を表3に併せて示す。
【0066】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなるコードであって、コードを構成する合成繊維の20〜80重量%が脂肪族ポリケトン繊維であり、コード表面に、エポキシ化合物を含む前処理剤と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤とが付着しており、接着処理剤が無機充填剤を含むことを特徴とするゴム補強用コード。
【請求項2】
無機充填剤がカーボンブラックまたはシリカである請求項1記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
コードを構成する合成繊維として、ポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維が含まれている請求項1または2記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前処理剤または接着剤がイソシアネート化合物を含む請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
エポキシ化合物がソルビトールポリグリシジルエーテルである請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用コード。
【請求項6】
芳香族ポリアミド繊維が共重合パラ型芳香族ポリアミド繊維である請求項3記載のゴム補強用コード。

【公開番号】特開2010−47868(P2010−47868A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212784(P2008−212784)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】