説明

サイジングプレス用熱処理設備

【課題】鉄系焼結合金の機械部品を連続的に焼き入れし、これをマルテンサイト変態開始点以上、オーステナイト化温度以下の温度が維持されている間にサイジングプレスで良好にサイジングするための熱処理設備であって、搬送装置を構成する機器の作動中のしゃくりをなくして搬送装置の運転が正確かつ円滑になされるようにすること、及び搬送中にワークにダメージを与えないようにすることを課題としている。
【解決手段】連続熱処理装置に加熱炉1で加熱したワークWを焼き入れ油槽12内に入れて引き上げる焼き入れ搬送装置4を含ませ、その焼き入れ搬送装置を構成する投入機構13の駆動源である水平シリンダ13aを油圧シリンダで、回転テーブル15の駆動源をサーボモータ15aで、取り出し装置の昇降機構をボールねじとサーボモータでそれぞれ構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄系焼結合金で形成される機械部品の熱処理とサイジングを連続的に円滑に行うためのサイジングプレス用熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理して強度や硬度を高める鉄系焼結合金製の機械部品は、サイジングまたはコイニング後に熱処理を行うと、サイジング、コイニングを行ったときの残留応力が熱処理工程で開放されて寸法精度が大きく低下する。そこで、その不具合を無くすために本出願人は、マルテンサイト変態開始点(Ms点)が50〜350℃の温度域にある鉄系焼結体をオーステナイト化温度以上の温度(Ael点)で加熱してオーステナイト化した後、マルテンサイト変態が出現する冷却速度で焼き入れし、焼き入れ体の温度がMs点以上、Ael点以下の温度域に達したときにサイジング又はコイニングを行う方法を下記特許文献1によって提案し、さらに、その方法を実施するための熱処理装置を伴った温間サイジング設備を下記特許文献2で提案した。
【0003】
特許文献2で提案したサイジング設備は、供給部と、加熱炉と、冷却部と、排出部を順に通ってサイジングプレスに供給されるワークを前記供給部からプレス投入部に向けて1個ずつ搬送する搬送装置を備えた連続熱処理装置(この発明でいうサイジングプレス用熱処理設備)を有し、前記搬送装置が、サイジング処理に同期してワークを1個ずつ送るものになっている。
【0004】
この設備の搬送装置は、具体的には、加熱装置内のワークを間欠送りする搬送機構(例えばベルトコンベヤ)と、その搬送機構上の先頭位置のワークを加熱装置の出口に連なる冷却部の焼き入れ油槽中に投入する投入機構と、前記焼き入れ油槽内に設けるワーク受け具と、そのワーク受け具を焼き入れ油槽内でワーク受け部と取り出し部に交番に移動させる回転テーブルと、前記取り出し部に移動したワーク受け具を焼き入れ油槽から取り出す取り出し装置とを組み合わせた焼き入れ搬送装置と、焼き入れ油槽から取り出されたワークを受け取ってプレス投入部に移動させる排出装置とで構成しており、焼き入れ搬送装置を構成する前記投入機構、回転テーブル、取り出し装置の駆動は、いずれも圧搾空気を動力源とするエアーシリンダ、アクチュエータ、エアーチャックなどのエアー機器で行っていた。また、搬送装置の動作は時間制御とし、各部の動きをサイジング処理時間に同期させるものにしていた。
【特許文献1】特開平7−138613号公報
【特許文献2】特開2004−137539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気は液体に比べると圧縮比が大きい。そのため、エアー機器を駆動源にした投入機構や昇降機構は、引っかかるようなぎこちない動き(所謂しゃくり)が発生し易く、焼き入れ油槽からのワークの取り出しが円滑になされないことがある。
【0006】
また、エアー機器は、動作速度を上げると停止動作を、ストッパなどを使って物理的に行う必要が生じ、停止時の衝撃が大きくなってワークの変形、傷つきなどが発生し易くなる。例えば、焼き入れ油槽内の回転テーブルを早い速度で回転させてストッパで急停止させると、ワーク受け具に収納されたワークが慣性で移動して受け具の内壁に衝突する。ワーク受け具とともにワークを昇降機構で焼き入れ油槽から取り出すときも、昇降機構を早い速度で動かして急停止させると、ワークがワーク受け具内で跳ねてそのワークに衝撃が加わり、これが変形、傷つきの原因になる。
【0007】
また、エアー機器が作動中にしゃくることによって連動させるべき機器の作動にタイミングずれが生じ、搬送装置の時間制御を行っているために各機器の作動の安定性が損なわれる。そのために、搬送が不安定かつ不確実になって搬送装置を停止せざるを得なくなるなどのトラブルが発生し、熱処理設備の稼働率低下につながる。
【0008】
この発明は、上記の問題を解消し、搬送装置の運転が正確かつ円滑になされるようにして熱処理設備の稼働率低下を無くすとともに、ワークにダメージを与えないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、特許文献2に開示された熱処理設備の焼き入れ搬送装置を構成する各機器のうち、投入機構の駆動源を油圧シリンダ(もしくは電動シリンダ)で、回転テーブルの駆動源をサーボモータで、取り出し装置の昇降機構をサーボモータとボールねじでそれぞれ構成する。
【0010】
この熱処理設備の加熱炉の内部は、無酸化雰囲気となるガス(窒素ガスなどの変性ガス)を用いると好ましい。
【発明の効果】
【0011】
焼き入れ搬送装置に含まれる投入機構の駆動源として油圧シリンダ又は電動シリンダを
、回転テーブルの駆動源としてサーボモータをそれぞれ使用し、さらに、取り出し装置の昇降機構をサーボモータとボールねじで構成したので、投入機構、回転テーブル、昇降機構が作動中にしゃくることがない。従って、機器のしゃくりによる動作のタイミングずれが無くなる。そのために、搬送装置全体の動きの調和がとれ、搬送装置が停止することがなくなって熱処理設備の稼働率が向上する。
【0012】
また、油圧シリンダや電動シリンダやサーボモータは、速度を制御して緩やかに停止させることができるので処理中のワークに衝撃が加わらず、停止時の衝撃によるワークの変形や傷つきの問題も無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明のサイジングプレス用熱処理設備の実施の形態を添付図面の図1〜図6
に基づいて説明する。例示の熱処理設備は、加熱炉1と、その加熱炉の出口に連ならせた冷却部2と、加熱炉1内に引き通した搬送機構3と、冷却部2に設けた焼き入れ搬送装置4と、その焼き入れ搬送装置4から受け取ったワーク(鉄系焼結合金で形成された機械部品)Wをプレス投入部6に向けて搬送する排出装置5とを設けて成る。プレス投入部6に移動したワークWは、サイジングプレス7に供給してサイジング処理を施す。
【0014】
加熱炉1は、内部の温度分布を均一化するための攪拌ファン8と、加熱用の熱源9を有し、内部温度を制御可能となっている。この加熱炉1の熱源9は、電気ヒータや誘導加熱装置などを採用できる。
【0015】
冷却部2は、カバー10に覆われた冷却室2aを有しており、その冷却室2aの内部にガイド11を有する焼き入れ油槽12を設けている。また、冷却室2aの内部は、加熱炉1と同様の雰囲気ガスを用いて無酸化雰囲気にしている。
【0016】
ここで採用した搬送機構3は、金属のメッシュベルトを用いた耐熱性のあるコンベヤであり、供給されるワークWを間欠送りして炉の出口に向けて移動させる。図示の搬送機構3は、ワークWを2列に並べて搬送するが、ワークは1列に並べて搬送することもできる。
【0017】
焼き入れ搬送装置4は、投入機構13、ワーク受け具14、回転テーブル15、取り出し装置16を有している。
【0018】
投入機構13は、2列に並べて搬送されるワークに対応させて同じものを2組設けて交番にワーク投入を実施するものにしている。その投入機構13は、駆動源となる水平シリンダ13aと垂直シリンダ13bを有しており、その2つのシリンダで掻き落とし具13cを駆動し、ワークWを掻き落として焼き入れ油槽12中に投入する。この投入機構13に採用した駆動源の水平シリンダ13aは、油圧シリンダ(これに代えて電動シリンダを採用してもよい)であり、コントローラによる速度制御が行え、エアーシリンダの欠点であるしゃくりを生じ難い。垂直シリンダ13bは細かい動きを必要としないので、エアーシリンダでもよい。
【0019】
回転テーブル15はワーク受け具14を支持しており、垂直軸を支点にして所定角度回転してワークを受け取ったワーク受け具14を取り出し部に移動させる。この回転テーブル15は、サーボモータ15aを駆動源にしている。
【0020】
取り出し装置16は、ワークを焼き入れ油槽から取り出すときに回転テーブル15上のワーク受け具14を掴む保持具17と、その保持具17を昇降させる昇降機構18と、保持具17を傾ける傾動機構19を備えている。保持具17は、ワークに衝撃を与えるものではないので、コスト面で有利なエアーチャックを使用してもよい。昇降機構18は、ボールねじ18aとそのボールねじを回転させるサーボモータ18bを組み合わせ、ボールねじ18aに螺合したスライダ18cに支持部材18dを連結し、その支持部材18dに保持具17を取付けている。スライダ18cは、ボールねじ18aの正逆回転によって昇降し、降下時に保持具17が焼き入れ油槽12内に入り込んでワーク受け具14を掴む。
【0021】
排出装置5は、ベルトコンベヤ(これも金属のメッシュベルトを用いたコンベヤ)で構成しており、この排出装置5で冷却室2aを出たワークWをプレス投入部6に向けて1個ずつ送り出す。この排出装置(ベルトコンベヤ)5は、ワークWの温度維持のために、入口と出口を除く部分がカバー20で覆われている。排出装置5による搬送距離が長いときには、カバー20の内部に、熱風発生装置21で発生させた熱風を導入すると好ましい。熱風発生装置21に代えて電気ヒータやガスバーナ等を用いることもでき、そのようものでもカバー20の内部温度を一定に保ってワークWの温度低下を抑えることができる。
【0022】
サイジングプレス7は、プレス機にサイジング金型を有するダイセットを取り付けた周知の設備である。このサイジングプレス7の金型は、強制冷却機能を有するもの、その強制冷却機能のないものどちらであってもよい。
【0023】
プレス投入部6に移動したワークWは、手作業でサイジングプレス7に移し替えてもよいし、ロボットハンドなどを用いて作業を機械化してもよい。
【0024】
また、ワークが落下中に接触するガイド11、ワーク受け具14、シュータ16a、及びプレス投入部6の表面には、ワークの傷つきを防止するために、例えば、シリコン樹脂やフッ素樹脂などの耐熱性のある緩衝材を貼り付けておくのがよい。
【0025】
このように構成した熱処理設備は、特許文献2が述べているように、ワーク供給部Sにおいて搬送機構3に載せたワークWを加熱炉1に送り込み、例えば850℃程度の目標温度に加熱する。次に、目標温度に加熱されたワークWが所定の位置に到達したら、投入機構13を作動させ、降下、前進運動する掻き落とし具13cによってコンベヤ上の先頭位置のワークWを焼き入れ油槽12内に掻き落とす。投入機構13は油圧シリンダを駆動源としているので、しゃくりの無い円滑な投入が行える。2組目の投入機構による投入を確認したら搬送機構3を駆動して次ぎのワークWをそのコンベヤの先頭位置に移動させ、復帰した投入機構13とともに次の投入指示を受けるまで待機させる。
【0026】
焼き入れ油槽12の中に落としたワークWは、ガイド11に誘導されて油面下のワーク受け具14の中に納まる。そのワークWを所定の焼き入れ時間経過後に焼き入れ油槽12から取り出す。焼き入れの時間はワークの品質を安定させるために管理される。
【0027】
焼き入れ油槽12からのワークWの取り出しは、ここでは、以下の手順で行われる。即ち、ワーク受け部に待機させたワーク受け具14内にワークWが収納された回転テーブル15を駆動し、保持具17を作動させてワーク受け具14を保持具17で掴む。その後、昇降機構18を作動させ、ワークWをワーク受け具14と一緒に焼き入れ油槽12上に引き上げる。
【0028】
この取り出し過程での回転テーブル15の停止と昇降機構18による引き上げは駆動源のサーボモータ15a、18bの回転を制御してなされ、ワークに衝撃が加わらない。
【0029】
焼き入れ油槽12上に引き上げられたワークWは、ワーク受け具14を傾動させて排出装置5の排出用メッシュベルトコンベヤ上に移され、プレス投入部6に送られる。
【0030】
ワークWを供給部からプレス投入部まで移動させる搬送装置の搬送機構3、焼き入れ搬送装置4、及び排出装置5は、サイクルタイムにより制御されるフィードバック制御にしてもよい。
【0031】
プレス投入部6に送り込まれたワークWは、作業者やロボットハンドによりサイジングプレス7にセットされてサイジング処理される。そのサイジング処理は、ワークWが180℃以上の温度を保っている間に行うと好ましいので、特許文献2で提案したように、ワークWが焼き入れ油槽12を出てからサイジングを実施する直前までの時間をタイマーでカウントしてその時間が目標時間をオーバーしたか否かでサイジングの可否を決定するとよい。放射温度計などでサイジングプレスに投入する直前のワーク温度を測定してサイジングの可否を決定してもよく、そのような方法を採ることで、不良発生率が高くて無駄となるサイジング作業をやめさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の熱処理設備の実施形態を簡略化して示す平面図
【図2】図1のA−A線に沿った断面図
【図3】図1のB−B線に沿った断面図
【図4】図1のC−C線に沿った断面図
【図5】図1のD−D線に沿った断面図
【符号の説明】
【0033】
1 加熱炉
2 冷却部
2a 冷却室
3 搬送機構
4 焼き入れ搬送装置
5 排出装置
6 プレス投入部
7 サイジングプレス
8 攪拌ファン
9 熱源
10 カバー
11 ガイド
12 焼き入れ油槽
13 投入機構
13a 水平シリンダ
13b 垂直シリンダ
13c 掻き落とし具
14 ワーク受け具
15 回転テーブル
15a サーボモータ
16 取り出し装置
16a シュータ
17 保持具
18 昇降機構
18a ボールねじ
18b サーボモータ
18c スライダ
18d 支持部材
19 傾動機構
20 カバー
21 熱風発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続熱処理装置の加熱炉(1)から冷却部(2)を通ってサイジングプレス(7)に供給されるワーク(W)をプレス投入部(6)に向けて1個ずつ搬送する搬送装置を有し、
その搬送装置が、加熱炉(1)内のワーク(W)を間欠送りする搬送機構(3)と、その搬送機構上の先頭位置のワーク(W)を前記冷却部(2)の焼き入れ油槽(12)中に投入する投入機構(13)と、ワーク受け具(14)を焼き入れ油槽(12)内で取り出し部に移動させる回転テーブル(15)と、前記取り出し部に移動したワーク受け具を焼き入れ油槽(12)から取り出す取り出し装置(16)を組み合わせた焼き入れ搬送装置(4)と、
焼き入れ油槽(12)から取り出されたワーク(W)を受け取ってプレス投入部(6)に移動させる排出装置(5)を組み合わせて構成され、
前記投入機構(13)の駆動源が油圧シリンダもしくは電動シリンダで、回転テーブル(15)の駆動源がサーボモータ(15a)で、前記取り出し装置(16)の昇降機構(18)がサーボモータ(18a)とボールねじ(18b)でそれぞれ構成されるサイジングプレス用熱処理設備。
【請求項2】
前記加熱炉(1)の内部雰囲気を無酸化雰囲気にした請求項1に記載のサイジングプレス用熱処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161785(P2009−161785A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339197(P2007−339197)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】