説明

サイディングの防水構造

【課題】 サイディングの目地から内部へと侵入した雨雪水が、柱や土台に達することがないようにする。
【解決手段】 サイディング14の目地(25)裏側に、胴縁13の外側面に固定した板状の弾性樹脂材20を備え、この弾性樹脂材20は、その外側面に、縦方向に延設させた複数の排水凹溝22を備える(請求項1)。弾性樹脂材20は防水性を持ち、釘打ちしても孔部を閉じる復元性(膨張性)があるから、目地から侵入した雨雪水は、この弾性樹脂材20より奥へと侵入できない。弾性樹脂材20には複数の排水凹溝22があるので、目地から侵入した雨雪水は、排水凹溝22に従って下降し、屋外へと排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材として使用するサイディングの構造に係り、とくにサイディングの防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
サイディングは、外壁に張る板状外装材であり、工場生産された製品が一般的で、耐火性や耐久性などに優れたものが多く知られている。近年は種類も増え、セメント(窯業)系、セラミック系、金属系、樹脂系などのサイディングがある。色柄などデザインが豊富で、比較的安価で施工も容易なため、住宅(とくに木造住宅)の外壁として使用されることが多い。サイディングは、耐久性が高く軽量なので、外壁のリフォームにも多用される。
【0003】
図3は、サイディングの一般的な配設構造を例示するものである。符号1は、柱(または間柱)、2は、透湿防水シート、3は、胴縁(縦胴縁)、4は、サイディング(サイディング材)である。サイディング4は、胴縁3を利用して左右のサイディング4同士を並設固定し、その継ぎ目(目地)に充填材(コーキング材)5を配して目地部分の防水を図っている。
【0004】
なお、目地部分の防水性能を高めるため、図4に示すように、胴縁3にバックアップ材6を配して、このバックアップ材6の中央に突起7を設け、この突起7を目地部分に嵌入するよう配置させて、目地の防水性能を高める技術も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−283446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
問題は、経年劣化による雨雪水の内部侵入である。雨雪水の内部への侵入によって、木造躯体(柱材や木製土台)の腐食が惹起されるからである。とくに近時の高気密住宅では、室内温度が比較的高く維持されるため、内部に侵入した雨雪水の温度も高くなりやすく、木造躯体の腐食は一層促進される傾向にある。
【0007】
雨雪水の内部侵入は、さまざまな理由に起因して起こる。第一に、サイディング(4)の目地を埋めている充填材(5)は、太陽光線に含まれる紫外線によって劣化しやすいうえ、外気温の寒暖差に起因して収縮膨張を繰り返し、施工当初の状態に較べて痩せてゆくため、目地部分に隙間が生じてそれが徐々に広がってゆく。
【0008】
第二に、外気温の寒暖差あるいは室内温度と外気温との差によって、サイディング(4)も膨張収縮を繰り返している。サイディング(4)は、釘打ち等の定点固定で胴縁(3)に留めてあるから、膨張収縮を繰り返して変形を生じる場合も少なくない。サイディング(4)が変形や位置ズレを起こすと、目地の充填材
(5)に問題がなくても、目地部分に隙間が生じて雨雪水が内部侵入する。
【0009】
サイディング(4)の目地から内部侵入した雨雪水は、胴縁(3)に達して左右に展開して回り込み、透湿防水シート2に達する。透湿防水シート2は、雨雪水の侵入を防ぐためのものであるが、実際の施工では、サイディング(4)を固定するための釘が、胴縁(3)を貫いて透湿防水シート2にも孔をあけていることが少なくない。このため、内部に侵入した雨雪水は透湿防水シート2の孔から奥へ、つまり柱(1)へと侵入する。
【0010】
こうして雨雪水が柱(1)へ侵入すると、雨雪水は下方に流れ落ちて土台に達するため、柱(1)そのものと土台とが雨雪水に晒されることになる。近時の木造住宅は高気密であるため、冬期でも室内温度は高く維持されているので、内部に侵入した雨雪水の温度も高く維持されることになり、柱(1)や土台が木製である場合は、数年でこれを腐食させることになる。
【0011】
見栄えを改善する外装リフォームによっては、たとえ目地部分を綺麗に充填補充しなおしたとしても、腐食した柱(1)や土台の危険性(耐震性など)を改善することは出来ない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、サイディングの目地から内部へと侵入した雨雪水が、柱(1)や土台に達することがないようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成して、課題を解決するため、本発明に係るサイディングの防水構造は、サイディングの目地裏側に、胴縁の外側面(屋外側面;以下同じ)に固定した板状の弾性樹脂材を備え、この弾性樹脂材は、その外側面に、縦方向に延設させた複数の排水凹溝を備える(請求項1)。
【0014】
板状の弾性樹脂材は、特許文献1に開示されるようなバックアップ材(6)がない場合は胴縁外側面の全面に、或いは、目地裏側の雨雪水の侵入個所を防水できる左右幅をもたせた範囲で設ける。雨雪水の侵入防止のためには必ずしも胴縁外側面の全面を被覆する必要はない。
【0015】
一方、特許文献1に開示されるようなバックアップ材(6)がある場合は、バックアップ材(6)の両側に、胴縁外側面の左右両端部を被覆する状態で設けることが出来る。施工コスト、作業効率の点から、バックアップ材(6)を取り除くことが可能な場合は、バックアップ材(6)を取り除いた上で、胴縁外側面の全面に、或いは、目地裏側の雨雪水の侵入個所を防水できる左右幅をもたせた範囲に弾性樹脂材を設ける。この場合、バックアップ材(6)は取り外したままでも良いし、再度装着(再固定)しなおしても良い。
【0016】
弾性樹脂材の肉厚(肉厚平均)は、略1〜5mmとする場合がある(請求項2)。弾性樹脂材の肉厚は、使用する弾性材の材質、強度、寒暖差等を考慮して定める。雨雪水を防止する目的だけであれば、弾性樹脂材の肉厚平均値は薄い方が原材料コストの点で好ましいが、厳しい寒暖差に耐える強度を保証するためには、過度に厚くならない範囲内で若干の肉厚余裕をもたせることも大切である。
【0017】
弾性樹脂材に設ける排水凹溝は、幅0.5〜10mm、深さ0.5〜10mmとする場合がある(請求項3)。
【0018】
弾性樹脂材は、目地裏側に侵入した雨雪水を受け止めて、排水凹溝を使って下方流動させるものである。従って、弾性樹脂材に形成される凹部(排水凹溝)と凸部の左右幅は必ずしも同一である必要はない。しかしながら、排水凹溝の左右幅が狭すぎると雨雪水を効果的に下降案内することが出来ないため、排水凹溝は幅0.5〜10mm、深さ0.5〜10mm程度に設計することが望ましい。排水凹溝の左右に生ずる凸部は、雨雪水を排出する機能に着目すれば直接の関与は少ないが、弾性樹脂材の強度保証や劣化防止等の観点からみると、排水凹溝と同程度またはそれ以上の左右幅、すなわち例えば0.5〜10mmに設定しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るサイディングの防水構造は、サイディングの目地裏側に、胴縁の外側面(屋外側面)に固定した板状の弾性樹脂材を備え、この弾性樹脂材は、その外側面(屋外側面)に、縦方向に延設させた複数の排水凹溝を備えるから、目地から内部に侵入した雨雪水は、この弾性樹脂材によって、それ以上の奥への内部侵入を妨げられる。
【0020】
サイディングを固定するための金具(例えば釘)によって弾性樹脂材に小孔があいたとしても、弾性樹脂材の膨張特性によって当該小孔は金具に密着するため、雨雪水が内部侵入できるような隙間は形成されない。また、弾性樹脂材の外側面には、縦方向に延設した複数の排水凹溝が存在するので、目地から内部に侵入した雨雪水は弾性樹脂材に突き当たった後、この排水凹溝に従って下方に流れ落ち、屋外へ排出される。透湿防水シート2の奥へ雨雪水が侵入する事態は確実に避けることが出来る。この結果として、サイディングの目地から内部へと侵入した雨雪水が、柱(1)や土台に達することを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係るサイディングの防水構造例を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るサイディングの防水構造例を示す平面図である。
【図3】従来のサイディングの防水構造例を示す斜視図である。
【図4】従来のサイディングの防水構造例を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜図2は、本発明に係るサイディングの防水構造の一実施形態を示すものである。この防水構造は、柱(または間柱)10の外側面(屋外側面)に透湿防水シート12を配設し、この透湿防水シート12の外側面(屋外側面)に胴縁(縦胴縁)13を固定し、この胴縁13の外側面(屋外側面)の全体(表面全面)を被覆する板状の弾性樹脂材20を配してなる。
【0023】
そして、この弾性樹脂材20の外側面の略中央部に、外装材であるサイディング(サイディング材)14の継ぎ目(左右方向の継ぎ目)を位置させ、この継ぎ目(目地)に充填材(コーキング材;例えばモルタル)25を配する。なお、サイディング14を固定する場合、上下の縁部は重ね合わせて固定するので隙間は生じない。柱(または間柱)10の外側面に透湿防水シート12を配設し、透湿防水シート12の外側面に胴縁13を固定する点は、従来のサイディングの防水構造と同じである。
【0024】
本実施形態で用いる弾性樹脂材20は、板状、つまり肉厚が略均一のものである。弾性樹脂材20の外側面(屋外側面)にサイディング14を固定するため、弾性樹脂材20の外側面の凸部21は略平滑な面を構成するよう成形する。
【0025】
弾性樹脂材20の外側面(屋外側面)に成形する複数の排水凹溝22は、縦方向に延設する。内部に侵入した雨雪水を下方流動させ、屋外へ排出させるためである。排水凹溝22の底面(屋内側面)には排水を妨げるような突起や障害物は形成せず、底面平滑、側面平滑に成形することが望ましい。
【0026】
排水凹溝22は、上下方向に略直線状を呈するもので、それが左右方向に複数並列するよう平行に設けることが望ましい。配設間隔は必ずしも均等である必要はない。
【0027】
排水凹溝22は、雨雪水を下方流動させる機能を備えればよいから、必ずしも直線状のものである必要はない。湾曲カーブを描く凹溝であっても構わない。しかしながら、雨雪水の凍結の虞がある寒冷地において使用する場合は、雨雪水は可能な限り速やかに下方流動させて屋外排出するように、排水凹溝22は、上下方向に略直線状を呈するよう成形することが望ましい。
【0028】
排水凹溝22を並列的に複数設けるのは、弾性樹脂材20の凸部21がサイディング14の裏面(内側面;室内側面)を支持する役目を果たすため、左右幅が大きな排水凹溝(22)を一個だけ設けるより、弾性樹脂材20の凸部21が複数存在してサイディング14の裏面を均等支持できるよう、凹凸を形成する凸部21と排水凹溝22とを分散配置する方が好ましいからである。
【0029】
排水凹溝22は、水の流動性を保証する観点から、例えば幅を0.5〜10mm程度、深さを0.5〜10mm程度に設計しておけば、実用に耐える。目地の充填材25を通過して内部に侵入する雨雪水は、単位時間当たりの量はごく少ないので、排水凹溝22の幅が0.5mm程度、深さが0.5mm程度であっても機能する。ごく少量の水であれば、水の表面張力作用による流動阻害といった事態を生じにくいからである。排水凹溝22の幅と深さは、それらを大きく設定する分には、排水機能の点では問題は生じない。つまり、排水凹溝22の幅と深さが5mmを超えても(例えば5〜10mmであっても)、排水機能の点では問題は生じない。ただし、目地裏の胴縁13の左右寸法には限りがあるので、排水凹溝22の幅と深さは、限定寸法内で効率的に機能するよう設計することが望まれる。
【0030】
弾性樹脂材20は、天然ゴム、合成ゴムのいずれであっても良い。有機高分子を主成分とする弾性材料(いわゆる弾性ゴム)であれば良い。これらはいずれも水を遮断する性質をもつ。また、固定のための釘打ちをした際に、釘打ちによって出来た釘まわりの隙間(小孔)を閉じる復元力を備えている。合成ゴムには、ポリブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系などがあるが、いずれであっても良い。
【0031】
弾性樹脂材20は、寒暖差による経年劣化に耐える程度の肉厚をもっていれば良い。例えば、排水凹溝22の深さをα1とし、排水凹溝22の底面がもつ肉厚をα2とした場合、弾性樹脂材20の肉厚(肉厚平均)は(α1+α2)/2である。弾性樹脂材20の肉厚平均の最小値は、寒暖差による劣化防止を考慮して1mm以上とすることが望ましい。また肉厚平均は、製造コスト、輸送コスト、施工コストを考慮すれば、例えば、30mm以下とする。好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下とする。実用上は、5mm以下でよく、通常の施工では5mm程度で実用に耐える性能をもつ。例えば、肉厚平均を5mmとした場合、凸部21部分の肉厚は10mm程度となり、排水凹部22の深さは、例えば、3〜8mm程度の範囲で自由に設定できる。
【0032】
従って、かかるサイディングの防水構造によれば、胴縁13の外側面を被覆する板状の弾性樹脂材20を設け、弾性樹脂材20の外側面に複数の排水凹溝22を設けたから、目地(25)から内部に侵入した雨雪水は、この弾性樹脂材20によって、それ以上の奥への内部侵入を妨げられるとともに、排水凹溝22に従って下方に流れ落ち、屋外へ排出される。従って、透湿防水シート12の奥へ雨雪水が侵入する事態を確実に防止できる。
【0033】
本発明に係るサイディングの防水構造は、新築工事、リフォーム工事のいずれにおいても適用することが出来る。
【0034】
本発明に係るサイディングの防水構造は、前記実施形態のものに限定されない。例えば、リフォーム工事の際に、胴縁13に特許文献1に開示されているようなバックアップ材(6)が存在する場合であって、工期や施工コスト等の諸般の事情からバックアップ材(6)を取り除くことが難しい場合は、バックアップ材(6)の左右両側に、胴縁13の外側面を被覆する板状の弾性樹脂材20を設ければ良い。バックアップ材(6)の左右部分に排水凹溝22を備える弾性樹脂材20を設けるだけでも、目地の内部に侵入した雨雪水を屋外へ排出することが出来る。バックアップ材(6)を取り除くことが可能であれば、バックアップ材(6)を取り除いた後、胴縁13の外側面全面を被覆する弾性樹脂材20(排水凹溝22を備えるもの)を設けることが望ましい。
【0035】
排水凹溝22を備える弾性樹脂材20は、胴縁13の外側面に沿って上下方向に延設する。この場合、弾性樹脂材20の左右寸法は、胴縁13の左右寸法と完全一致させる必要はない。雨雪水の侵入を防止できればよいからである。従って、弾性樹脂材20の左右寸法は、胴縁13の左右寸法より若干小さい場合もあるし、若干大きい場合もあり得る。弾性樹脂材20には孔(貫通孔)は形成しない。雨雪水の奥部への侵入を確実に遮断するためである。
【0036】
弾性樹脂材20の配設後、弾性樹脂材20の外側面に各種の塗膜材(例えば樹脂系またはモルタル系の防水塗膜材)を設けても良い。塗膜材は、弾性樹脂材20を釘打ち固定した後に、釘などの固定金具を設ける部分(固定点)を中心として(集中的に)塗布すると一層効果的である。また、防水性を高め、見栄えを良好にするためにも目地には充填材25を施しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0037】
10 柱(または間柱)
12 透湿防水シート
13 胴縁(縦胴縁)
14 サイディング(サイディング材)
20 弾性樹脂材
21 凸部
22 排水凹溝
25 充填材(目地のコーキング材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイディングの目地裏側に、胴縁の外側面に固定した板状の弾性樹脂材を備え、
この弾性樹脂材は、その外側面に、縦方向に延設させた複数の排水凹溝を備えることを特徴とするサイディングの防水構造。
【請求項2】
弾性樹脂材の肉厚は、略1〜5mmであることを特徴とする請求項1記載のサイディングの防水構造。
【請求項3】
弾性樹脂材に設ける排水凹溝は、幅0.5〜10mm、深さ0.5〜10mmとすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のサイディングの防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174344(P2011−174344A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41029(P2010−41029)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(500152887)日本アーク開発株式会社 (16)
【Fターム(参考)】