説明

サイドインフレータ用のガス発生装置

【課題】高速応答性の下でも、破損のおそれなしにエアバッグを適切に膨張させることができるサイドインフレータ用のガス発生装置を提供する。
【解決手段】筒状ハウジング内にガス発生剤を充填した燃焼室と、フィルタ材を装着したフィルタ室と、該燃焼室内のエンハンサ剤およびガス発生剤を点火燃焼させるスクイブとを有するサイドインフレータ用のガス発生装置において、
1フィートキュービックタンク内の常温(18〜24℃)作動において、1.2Aの通電開始から5msec後における噴出ガス圧Pを25〜90kPaでかつ5msec後における噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtを8〜20kPa/msecの範囲に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドインフレータ用のガス発生装置に関し、特に該装置におけるガス発生状況に工夫を加えることによって、サイドインフレータの作動特性の安定化を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時における衝撃から乗員を保護する安全装置の一つとして、エアバッグが知られている。このエアバッグは、ガス発生装置で発生させた多量の高温、高圧ガスで作動するものである。
かようなエアバッグとしては、運転席や助手席の前面に設置されるもの(前面エアバッグ)と、運転席や助手席および他の乗員席の側面に設置されるもの(サイドエアバッグ)とに大別される。
【0003】
運転席や助手席の前面に設置される前面エアバッグは、設置位置と乗員との間にある程度のスペースがあるので、通電してから点火具が点火薬の点火温度に達するまでの時間(応答時間)が幾分長くてもさほど問題はないが、運転席や助手席の側面に設置されるサイドエアバッグは、設置位置と乗員との間の距離が短いので、素早い応答性が要求される。
【0004】
ところで、自動車に装着されるエアバッグを膨張させるためのガス発生器用の点火具すなわちスクイブとして、従来から種々の電気式スクイブが開発されている。
このスクイブは、通常、外部と電気的に接続するための金属ピンを有し、またこの金属ピンの他端には火薬に点火するための加熱素子をそなえている。
【0005】
従来使用されてきたスクイブは、点火薬に点火するために架橋ワイヤを使用していた。架橋ワイヤとしては、ニクロム線を用いており、架橋ワイヤの線径が細すぎると取り付けることができない。また、取り付けることができる線径の架橋ワイヤでは熱容量が大きいために、通電してから架橋ワイヤが点火薬の点火温度に達するまでの時間が長くなり、自動車用のサイドインフレータに要求される高速応答性は十分とはいえなかった。
【0006】
また別のスクイブとして、プリント回路基板の製造技術を用い、プリント回路基板上に直接厚膜抵抗体を形成する方法が知られている。
例えば特許文献1には、プリント回路基板を用い、厚膜抵抗体をプリント回路基板上に直接形成し、回路基板上の別の部分に静電気保護の目的でバリスタを搭載したスクイブが示されている。
また、特許文献2には、同様に、プリント回路基板に抵抗性加熱素子を搭載し、コンデンサとバリスタをハンダでプリント回路基板に接続したものを、さらに電極ピンに接続して得られるスクイブが開示されている。
これらの技術により、高速応答性は架橋ワイヤーを用いる場合よりも改善されたとはいえ、サイドインフレータ用としては依然として十分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2003-205823号公報
【特許文献2】特開2000-108838号公報
【0007】
一方、半導体ブリッジ(SCB:Semiconductor Bridge)は、スパッタや蒸着などの半導体技術を用いて製造されたブリッジを総称するものであるが、架橋ワイヤやプリント回路基板に比べ半導体ブリッジを用いた点火具は、線幅を細くした非常に微細な構造を作ることができ、厚みも数ミクロン程度の膜厚の薄膜ブリッジを利用するので、熱容量を小さくすることができ、高速応答性を持たせることが可能である。架橋ワイヤでは、1.2Aの通電で点火薬を点火温度まで加熱するのに800から1000マイクロ秒程度の時間を要していたが 、半導体ブリッジでは、一般に100から200マイクロ秒程度で点火薬を点火することができる。また、SCBは、スパッタや蒸着などの半導体製造設備を使うので基板サイズを大幅に小さくできるだけでなく、発熱部の熱容量を小さく、かつ正確に制御することができるので点火応答性が高いスクイブを安定して作ることができる。
【0008】
かようなSCBをスクイブに搭載する方法としては、ヘッダーに直接載置し、両端電極をワイヤーボンディングで電極ピンに接続する方法や、特許文献3に述べられているように、プリント回路基板同様、一旦プリント回路基板にSCBを載置し、その基板をヘッダー上に載置して電極ピンとプリント回路基板の所定の電極とをハンダ付けする方法が知られている。
【特許文献3】特開2002-13900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したとおり、スクイブとしてSCBを用いることにより、点火応答性が高いガス発生装置を得ることができる。
しかしながら、発明者らの研究によれば、たとえかような点火応答性の高いSCBスクイブをサイドインフレータ用のガス発生装置に適用したとしても、必ずしもエアバッグを適切に膨張させ得るとは限らないことが判明した。
すなわち、点火応答性が高いと、通電から点火までの時間が短く急激にガスが発生するわけであるが、このガス発生があまりに急激すぎるとエアバッグを破損する場合があることが判明したのである。
【0010】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、高速応答性の下でも、破損のおそれなしにエアバッグを適切に膨張させることができるサイドインフレータ用のガス発生装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
まず、発明者らは、従来の架橋ワイヤを用いたスクイブおよびSCBを用いたスクイブの点火応答性について調査した。その結果を図1(a),(b)に比較して示す。
図1(a)に示したように、架橋ワイヤスクイブは、点火応答性が低く(点火時間が長く)、しかも点火のタイミングのバラツキが大きい。点火のタイミングのバラツキが大きいと、通電から一定時間後の圧力のバラツキはさらに大きくなる。
この点、図1(b)に示したように、SCBスクイブは、架橋ワイヤスクイブに比べると、点火応答性が高く(点火時間が短く)、しかも点火のタイミングのバラツキは小さい。
従って、サイドインフレータに要求される高速応答性に応えるためには、SCBスクイブの方が有利である。
【0012】
しかしながら、点火応答性が高いSCBスクイブを用いただけでは、必ずしもエアバッグを適切に膨張させ得るとは限らず、ガス発生があまりに急激すぎる場合にはエアバッグの破損を招くことは、前述したとおりである。
【0013】
そこで、次に、発明者らは、破損を招くことのないエアバッグ性能について検討した。その結果、エアバッグを安定して展開させるには、通電から一定時間後、好適には5msec後の発生ガスの圧力、より具体的にはガス圧の絶対値Pおよび増加率ΔP/Δtが重要であることが判明した。
【0014】
すなわち、単にエアバッグの展開を早くするためには、通電から一定時間後、例えば5msec後の発生ガスの圧力は高い方が好ましい。
しかしながら、図2に示すように、SCBスクイブと架橋ワイヤスクイブを用いて、5msec後に同じガス圧を得ようとすると、架橋ワイヤスクイブを用いた場合、SCBスクイブに比べると5msec後におけるガス圧の増加率ΔP/Δtは格段に大きくなる。
この点、SCBスクイブを用いた場合は、架橋ワイヤスクイブに比べると点火時間が格段に早いので、5msec後に所定のガス圧に達したとしても、ガス圧の増加率ΔP/Δtは小さい。
【0015】
従って、スクイブとして点火応答性の高いSCBスクイブを用い、通電から一定時間後の発生ガス圧Pおよびガス圧Pの増加率ΔP/Δtを適正に制御すれば、エアバッグに対して破損のおそれなしに安定した展開性能を付与することができるものと考えられる。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)筒状ハウジング内にガス発生剤を充填した燃焼室と、フィルタ材を装着したフィルタ室と、該燃焼室内のエンハンサ剤およびガス発生剤を点火燃焼させるスクイブとを有するサイドインフレータ用のガス発生装置において、
1フィートキュービックタンク内の常温(18〜24℃)作動において、1.2Aの通電開始から5msec後における噴出ガス圧Pが25〜90kPaでかつ5msec後における噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtが8〜20kPa/msecの範囲を満足することを特徴とするサイドインフレータ用のガス発生装置。
【0017】
(2) 前記スクイブが、カップ体と、複数の電極ピンを互いに絶縁して保持し該カップ
体の開口部を塞ぐヘッダーをそなえ、該カップ体の内部には、点火薬を有すると共に、該
電極ピンに接続され外部からの通電により点火薬を点火させるSCBチップを備えている
ことを特徴とする上記(1)記載のサイドインフレータ用ガス発生装置。
(3)前記スクイブの点火時間が、1.2Aの点火電流の通電開始から100〜200μsecの範囲であることを特徴とする上記(1)または(2)記載のサイドインフレータ用ガス発生装置。
(4)前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記エンハンサ剤の充填量調整であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【0018】
(5)前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記フィルタ材の装着量調整であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【0019】
(6)前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記ガス発生剤の形状調整であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【0020】
(7)前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、ハウジングの開口部総面積、あるいは、仕切り板の開口部面積の調整であることを特徴とする上記(1)〜(6)に記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
(8)前記スクイブが、その塞栓の外周に、円筒頭部が少なくともSCBチップの高さレベルに達する円筒状のカラーを配置し、このカラーの内側で該SCBチップを除く領域に樹脂を充填して、該カラーの内部エリアを平坦化したことを特徴とする上記(2)〜(7)のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、点火用スクイブとして点火までの時間が短いSCBスクイブを用い、かつ通電から5msec後における噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtを適正範囲に制御することにより、バッグ破損のおそれなしにエアバッグに安定した展開性能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
図3に、従来の架橋ワイヤを用いたスクイブおよびSCBを用いたスクイブの点火応答性を比較して示す。
同図に示したとおり、架橋ワイヤスクイブは、点火までの時間が長く、しかも点火のタイミングのバラツキ(σwire)が大きい。これに対し、SCBスクイブの場合、架橋ワイヤスクイブに比べると、点火までの時間が短く、しかも点火のタイミングのバラツキ(σSCB)は小さい。従って、SCBスクイブを用いた場合、通電から一定時間後の発生ガス圧のバラツキ(σPSCB)も、架橋ワイヤスクイブを用いた場合の通電から一定時間後の発生ガス圧のバラツキ(σPwire)よりも小さい。ここに、σSCBは約100〜200μsec、σwireは約800〜1000μsecである。
【0023】
前述したとおり、エアバッグの展開を早くするためには、通電から一定時間後の発生ガスの圧力は高い方が好ましい。しかしながら、点火応答性の低い架橋ワイヤスクイブを用いた場合には、一定時間後のガス圧の増加率ΔP/Δtが格段に大きくなり、バッグの破損が懸念される。
この点、SCBスクイブは、点火応答性が高いので、ガス圧の増加率ΔP/Δtが小さくても、一定時間後には高い発生ガス圧Pを得ることができる。
【0024】
そこで、かようなSCBスクイブを用いて、エアバッグを安定して膨張させるために適切なエアバッグの展開性能について調査したところ、通電からのスクイブの点火が100から200μsecのスクイブを用い、1フィートキュービックタンク内での圧力が通電から5msec後のガス圧Pを25〜90kPaにすると共に、同じく5msec後における噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtを8〜20kPa/msecの範囲に制御する必要があることが判明した。
【0025】
ここに、通電からのスクイブの点火時間が200μsec(上限値)を超えると、スクイブの点火応答性が速いことにより、ガス圧の増加率ΔP/Δtが小さくても、一定時間後の高い発生ガス圧Pを得るというガス発生装置の特徴が得にくくなり、一方100μsec(下限値)を下回ると、スクイブのパルス電流に対する耐ノイズ性が確保できなくなり、静電気のようなノイズに非常に敏感となるため、誤発火の危険が増す。
また、通電から5msec後のガス圧Pが25kPa(下限値)に満たないと、エアバッグの膨張を開始する初期の圧力が不足し、展開の遅れが生じる。一方90kPa(上限値)を超えるとバッグ展開初期でバッグ内の容積が小さい間に、ガス発生器からより多くのガスが発生することになり、その圧力によりバッグが耐えられず破損するおそれがある。より好ましくは35〜70kPaの範囲である。
さらに、通電から5msec後のガス圧Pの増加率ΔP/Δtが8kPa/msec(下限値)に満たないとバッグの展開速度はガス発生器から発生するガス量によるので、バッグの体積が増加した分に見合う量のガス量が得られないため、その後の展開速度が十分得られず、結果としてフル展開までの時間が遅くなる。一方20kPa/msec(上限値)を超えると、バッグの体積増加よりもガス発生器から発生するガス量が過多となるので、バッグ内圧の上昇に耐えられず、破損する危険が生じる。より好ましくは10〜15kPa/msecの範囲である。
【0026】
ところで、図3に示したように、SCBスクイブを用いた場合、架橋ワイヤスクイブを用いた場合に比べると、点火のタイミングのバラツキ(σSCB)は小さいとはいえ、幾分かのバラツキは生じる。
SCBスクイブは、点火のタイミングのバラツキ(σSCB)が小さいとはいえ、点火応答性が高いので、通電から一定時間後の発生ガス圧のバラツキ(σPSCB)はσSCBに応じて大きくなる。
従って、通電から5msec後における発生ガス圧のバラツキ(σPSCB)を小さくするには、点火のタイミングのバラツキ(σSCB)はできるだけ小さい方が好ましい。
【0027】
ここに、通電から一定時間後における発生ガス圧のバラツキ(σPSCB)を小さくするには、SCBスクイブを作製するに当たって、本発明者らが開発したポッテング技術(特願2006−326039参照のこと)を利用することが有利である。
この、ポッテング技術とは、スクイブの塞栓の外周に、円筒頭部が少なくともSCBチップの高さレベルに達する円筒状のカラーを配置し、このカラーの内側で該SCBチップを除く領域に樹脂を充填して、該カラーの内部エリアを平坦化する技術である。
【0028】
このポッテング技術について、いま少し具体的に説明すると、図4(a)に示すように、円筒状カラー28の円筒頭部を、少なくともSCBチップ21の高さレベルとほぼ同じレベルとする。そして、この円筒状カラー28で囲まれた内部に、同図(b)に示すようにして樹脂29を充填することにより、円筒状カラー28の内部エリアを平坦にする技術である。
なお、この際、充填した樹脂29がSCBチップ21の薄膜ブリッジ部を覆うと、点火薬27を点火させることができなくなるので、樹脂29の充填に際しては、SCBチップ21の薄膜ブリッジ部を除く領域に充填することが重要である。
【0029】
このような構造とすることにより、塞栓23上の表面段差がなくなり、点火薬27との接触面が平坦化されるので、点火が安定化し、その結果、通電から一定時間後における発生ガス圧のバラツキ(σPSCB)を格段に小さくすることができる。
【0030】
次に、本発明に従い、通電から5msec後のガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtを適正範囲に制御するための手段について説明する。
かような手段としては、次の3つ方法が好適である。
(1) 燃焼室内に供給するエンハンサ剤の充填量を調整すること。
(2) フィルタ室に装着するフィルタ材の装着量を調整すること。
(3) 燃焼室内に供給するガス発生剤の形状を調整すること。
(4) ハウジングの開口部総面積、あるいは、仕切り板の開口部面積を調整すること。
なお、上記の制御手段は、単独で使用できるのはいうまでもないが、2つ以上の手段を併用することによって、より安定した調整が可能となる。
【0031】
図5に、代表的なサイドインフレータ用のガス発生装置を示す。
図中、番号1はハウジング、2はプラグ、3はフィルタ、4は仕切り板、5はシールテープ、6はスペーサー、7はガス発生剤、8はGGクッション、9はエンハンサカップ、10はエンハンサ剤、11はOリング、そして12がスクイブである。なお、13はスクイブホルダー、14はショーティングクリップ、15はOリング、16はハウジング開口部、17は仕切り板開口部である。
上記の構造において、通電によりスクイブ12が発火すると、まずエンハンサ剤10が燃焼し、ついでガス発生剤を燃焼させることにより、高温で高圧のガスが急激に発生する。この高温、高圧ガスの熱をフィルタ3で吸収して降温させつつ、高圧ガスをハウジング開口部16から噴出させるのである。
【0032】
本発明では、上記のようにして噴出する高圧ガスの通電から5msec後におけるガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtを、前記した調整手段(1)〜(3)によって、適正な範囲に制御するのである。
ここで、代表的なガス圧調整要領を具体的に説明すると次のとおりである。
【0033】
すなわち、まず最初にエアバッグモジュールに合わせて、エアバッグを膨らますために必要とするガス量、1フィートキュービックタンク内で作動させた場合の最大圧力(Pmax)と、通電からその圧力を発生するまでの時間(TPmax)についての要求事項を決める。この要求に従い、燃焼室内に供給するガス発生剤量と形状を決定する。すると、そのガス発生剤の量に応じてフィルタ材の必要な装着量がおおよそ求まる。最後にガス発生剤への伝火性能を安定させるために最低限必要なエンハンサ剤を燃焼室内に充填する。つぎに通電から5msec後のガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtを適正範囲に調節するために、エンハンサ剤の充填量、フィルタ材の装着量、ハウジングの開口部総面積、あるいは仕切り板の開口部面積を調節する。すなわち、エンハンサ剤の充填量を増すとガス発生剤への伝火が急速に行われ、5msec後のガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtは高くなる。また、フィルタ材の装着量を増すと、燃焼したガスが冷却される効果が大きくなり、5msec後のガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtは下がる。また、ハウジングの開口部総面積、あるいは仕切り板の開口部面積を増加させると、インフレータ内部の燃焼時圧力が低くなるため、5msec後のガス圧Pおよびガス圧の増加率ΔP/Δtは下がる。このようにして所期した目的を達成することができる。
【0034】
本発明で使用するスクイブについては特に制限はなく、従来から公知のスクイブいずれもが適合する。例えば、図6に示すような構造になるSCBスクイブは特に好適である。
図6に示したSCBスクイブは、金属製のカップ体31と、複数の電極ピン39をそれぞれ絶縁して保持し、該カップ体31の開口部を封じる金属製の塞栓38とをそなえ、該カップ体31の内部には、点火薬32を有し、該電極ピン39と電気的に接続されたSCBチップ36を搭載した構造になるものである。
なお、かようなSCBスクイブにおいても、前述したポッティング技術により、点火薬との接触面を平滑にすることが有利であることはいうまでもない。
【0035】
次に、中央制御ユニットによる制御要領について説明する。
図7は、中央制御ユニット110とエアバッグモジュール111a, 111b, 111cを接続したエアバッグシステムの例を示したものである。エアバッグモジュール111aは、例えばサイドエアバッグを膨張させるガス発生器を有することができる。
【0036】
これらモジュールの各々に含まれるガス発生器内に点火装置が収納されていて、各点火装置は2つの電極ピン114,115を有し、中央制御ユニット110と連絡された電気供給導電体112,113により接続されている。
【0037】
通常の動作状態、すなわち自動車がエアバッグモジュール111aを活性化することを求める特定の衝撃に巻き込まれていない時には、中央制御ユニット110は定期的に該電気供給導電体112,113に低い強度の電流を与え、この電流は電極ピン114と115を介してエアバッグモジュール111a, 111b, 111cに含まれる点火装置に送られる。この弱い強度の電流により、中央制御ユニットは点火装置の抵抗を測定し、異常が無いことをモニターしている。
【0038】
衝撃が生じて、例えばエアバッグ111aを活性化することが望ましい場合には、中央制御ユニット110はエアバッグ111aにつながる電気供給導電体112、113にエアバッグモジュール111aの点火装置のための点火電流を送る。この点火電流は電極ピン114と115を介して各点火装置に送られるが、エアバッグモジュール111aの点火装置に含まれる点火薬を起動せしめる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来の架橋ワイヤを用いたスクイブ(a)およびSCBを用いたスクイブ(b)の点火応答性を比較して示した図である。
【図2】SCBスクイブと架橋ワイヤスクイブを用いて、通電から一定時間後に同じガス圧Pを得ようとする場合のガス圧の増加率ΔP/Δtの違いを示した図である。
【図3】従来の架橋ワイヤスクイブとSCBスクイブの点火応答性の違いを比較して示した図である。
【図4】ポッティング要領を示した図である。
【図5】代表的なサイドインフレータ用ガス発生装置の断面図である。
【図6】代表的なスクイブの断面図である。
【図7】中央制御ユニットの説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ハウジング
2 プラグ
3 フィルタ
4 仕切り板
5 シールテープ
6 スペーサー
7 ガス発生剤
8 GGクッション
9 エンハンサカップ
10 エンハンサ剤
11 Oリング
12 スクイブ
13 スクイブホルダー
14 ショーティングクリップ
15 Oリング
16 ハウジング開口部
17 仕切り板開口部
21 SCBチップ
23 塞栓
27 点火薬
28 円筒状カラー
29 樹脂
31 カップ体
32 点火薬
36 SCBチップ
38 塞栓
39 電極ピン
110 中央制御ユニット
111a〜111c エアバッグモジュール
112,113 電気供給導電体
114,115 電極ピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ハウジング内にガス発生剤を充填した燃焼室と、フィルタ材を装着したフィルタ室と、該燃焼室内のエンハンサ剤およびガス発生剤を点火燃焼させるスクイブとを有するサイドインフレータ用のガス発生装置において、
1フィートキュービックタンク内の常温(18〜24℃)作動において、1.2Aの通電開始から5msec後における噴出ガス圧Pが25〜90kPaでかつ5msec後における噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtが8〜20kPa/msecの範囲を満足することを特徴とするサイドインフレータ用のガス発生装置。
【請求項2】
前記スクイブが、カップ体と、複数の電極ピンを互いに絶縁して保持し該カップ体の開
口部を塞ぐヘッダーをそなえ、該カップ体の内部には、点火薬を有すると共に、該電極ピ
ンに接続され外部からの通電により点火薬を点火させるSCBチップを備えていることを
特徴とする請求項1記載のサイドインフレータ用ガス発生装置。
【請求項3】
前記スクイブの点火時間が、1.2Aの点火電流の通電開始から100〜200μsecの範囲であることを特徴とする請求項1または2記載のサイドインフレータ用ガス発生装置。
【請求項4】
前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記エンハンサ剤の充填量調整であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【請求項5】
前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記フィルタ材の装着量調整であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【請求項6】
前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、前記ガス発生剤の形状調整であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【請求項7】
前記噴出ガス圧Pおよび噴出ガス圧の増加率ΔP/Δtの調整手段が、ハウジングの開口部総面積、あるいは、仕切り板の開口部面積の調整であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。
【請求項8】
前記スクイブが、その塞栓の外周に、円筒頭部が少なくともSCBチップの高さレベルに達する円筒状のカラーを配置し、このカラーの内側で該SCBチップを除く領域に樹脂を充填して、該カラーの内部エリアを平坦化したことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のサイドインフレータ用のガス発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40143(P2009−40143A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205397(P2007−205397)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】