説明

サスペンション構造、サスペンションリンク配置方法

【課題】リンクの相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保する。
【解決手段】前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13によって車輪1とサスペンションメンバ2とを揺動可能な状態で連結し、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13同士をコネクトブッシュ27及び28によって連結する。また、前側ロアリンク12の上方に配置したアッパリンク14によって車輪1とサスペンションメンバ2とを揺動可能な状態で連結する。そして、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)と車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)とを結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンション構造、サスペンションリンク配置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術では、車体上下方向に並んだロアリンク及びアッパリンクによって車輪と車体とを連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−214743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、アッパリンクと、その上方に存在する車体のサイドメンバとの干渉を避けるために、アッパリンクを下方に曲げた形状としている。そのため、今度はアッパリンクとロアリンクとの干渉が問題となり、サスペンションの充分なストローク量を確保しにくい。
本発明の課題は、リンクの相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、前側ロアリンク及び後側ロアリンクによってアクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結し、前側ロアリンクと後側ロアリンクとをブッシュによって連結する。また、前側ロアリンクの上方に配置したアッパリンクによってアクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結する。そして、前側ロアリンクにおける車輪側との連結点よりも、ブッシュの位置を下方に配置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前側ロアリンクにおけるアクスルハウジング側との連結点よりも、ブッシュの位置を下方に配置することで、前側ロアリンクの形状が上方に張り出すことを抑制できる。したがって、前側ロアリンクとアッパリンクとの相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
【図2】後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
【図3】後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【図4】後側ロアリンクの外観図である。
【図5】コネクトブッシュの単品図である。
【図6】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【図7】前側ロアリンクの構成図である。
【図8】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
【図9】本実施形態における前側ロアリンク及びアッパリンクの正面図である。
【図10】比較例における前側ロアリンク及びアッパリンクの正面図である。
【図11】サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
【図12】比較例における前側ロアリンク及びブレーキホースの位置関係を示す図である。
【図13】本実施形態における前側ロアリンク及びブレーキホースの位置関係を示す図である。
【図14】前側ロアリンクの変形例1を示す構成図である。
【図15】前側ロアリンクの変形例2を示す構成図である。
【図16】コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
図2は、後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
図3は、後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【0009】
本実施形態では、独立懸架した後左輪のサスペンションについて説明する。
サスペンション構造は、車輪1を車体側のサスペンションメンバ2に懸架し、アクスルハウジング11(ハブキャリア)と、前側ロアリンク12と、後側ロアリンク13と、アッパリンク14と、コイルスプリング15と、ストラット5(図1)と、を備える。
アクスルハウジング11は、車輪1を回転自在に支持する。
前側ロアリンク12、及び後側ロアリンク13は、略同等の上下位置で、車体前後方向に並べてある。
【0010】
前側ロアリンク12は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ21を介して揺動可能にアクスルハウジング11の前側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ22を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の前側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)よりもやや後側である。
【0011】
後側ロアリンク13は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ23を介して揺動可能にアクスルハウジング11の後側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ24を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の後側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)とは略同等である。
【0012】
アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)との距離は、サスペンションメンバ2に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ22)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ24)との距離よりも短い。すなわち、ブッシュ21及び22を結ぶ直線L1(前側ロアリンク12の軸線)と、ブッシュ23及び24を結ぶ直線L2(後側ロアリンク13の軸線)とは、車幅方向外側で交差する。
【0013】
アッパリンク14は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ25を介して揺動可能にアクスルハウジング11の上部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ26を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の上部に連結してある。
各ブッシュ21〜26は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、前側ロアリンク12、後側ロアリンク13、アッパリンク14の夫々の両端を外筒に連結し、アクスルハウジング11、サスペンションメンバ2の夫々に内筒を連結する。
【0014】
後側ロアリンク13には、前側ロアリンク12に向かって張り出した板状の張出部16が一体形成してある。張出部16は、車体前後方向の前端が、コネクトブッシュ27及び28を介して一定の相対変位が可能な状態で前側ロアリンク12に連結してある。
コネクトブッシュ27及び28は、前側ロアリンク12に沿って並べてある。コネクトブッシュ27及び28は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、ブッシュ軸を略前後方向とし、前側ロアリンク12を外筒に連結し、張出部16を内筒に連結する。
【0015】
これらコネクトブッシュ27及び28の可動範囲(撓み範囲)で、前側ロアリンク12に対して張出部16及び後側ロアリンク13が相対変位可能となる。なお、本実施形態では、コネクトブッシュ27及び28の剛性は、上下方向の剛性に対して車幅方向の剛性が低くなる異方性を有する。
なお、コネクトブッシュ27及び28について詳しくは後述する。
【0016】
ここで、制動時のトーコントロールについて説明する。
制動などによって車輪1に対し車体後側への入力があると、アクスルハウジング11が車体後側へ変位する。このとき、アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)とは、車体後方への変位量が略同等となる。しかしながら、直線L1及びL2を前述したように配置した場合、車幅方向内側への変位量については、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)の方が後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)よりも大きくなる。つまり、アクスルハウジング11の前側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側へ引き込まれる。したがって、制動時に車輪1にトーイン方向のトー変化が生じるので、安定性が向上する。
【0017】
次に、コイルスプリング15について説明する。
コイルスプリング15は、コイル軸XAを略上下方向とし、後側ロアリンク13と車体との間に介装してある。平面視で、コイルスプリング15の位置は、直線L2に重なるように配置し、好ましくはコイル軸XAを直線L2上に配置する。
本実施形態では、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)と、の略中間位置にマウントしてある。コイルスプリング15の座面は、張出部16にも重なり、コイルスプリング15の外径に応じて、後側ロアリンク13における車体後側の外形を拡張させている。
【0018】
次に、コイルスプリング15の組み付け構造について説明する。
図4は、後側ロアリンクの外観図である。
後側ロアリンク13とコイルスプリング15の下端との間には、ロアスプリングシート17を介装してある。すなわち、後側ロアリンク13に対して環状のロアスプリングシート17を組み付け、このロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15の下端を組みつけてある。
後側ロアリンク13は、薄平型で略凹状に形成した一対のロアブラケット31及びアッパブラケット32を、夫々の凹面を対向させて接合した中空構造にしてある。ロアブラケット31とアッパブラケット32とは、アーク溶接によって一体化させている。
【0019】
後側ロアリンク13において、サスペンションメンバ2との連結点(ブッシュ24)から前側ロアリンク12との車幅方向内側の連結点(ブッシュ28)にかけて断面積が急変している湾曲部18がある。この湾曲部18には、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に双方を挟持する補剛ブラケット19を連結してある。後側ロアリンク13と補剛ブラケット19とは、アーク溶接によって一体化させている。
なお、ロアブラケット31の凹面(内側の底面)にロアスプリングシート17を設置しており、このロアスプリングシート17に下端を組み付けたコイルスプリング15は、アッパブラケット32に形成した開口部を介して上方に突出している。
【0020】
次に、コネクトブッシュ27及び28について説明する。
なお、コネクトブッシュ27及び28は同一構造であるため、ここではコネクトブッシュ27について説明する。
図5は、コネクトブッシュの単品図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、縦断面図、及び軸直角断面図であり、(b)は内筒71及び外筒81の単品の斜視図である。
【0021】
コネクトブッシュ27は、略車体前後方向に沿った軸を有する内筒71と、この内筒71の径方向外側に配置した外筒81と、これら内筒71及び外筒81の間に介装した弾性体91と、を備える。内筒71は、後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81は前側ロアリンク12に連結する。
内筒71と外筒81とは、略同軸に配置してあり、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82を対向させている。外筒81の内周面82のうち、軸方向(P方向)の略中央で、車体上下方向(R方向)における両側の二箇所には、内筒71の外周面72に向かって突出し、且つ略車幅方向(Q方向)に沿って筋状に延びる一対の凸部83を形成してある。
【0022】
凸部83は、外筒81における外周面84を、車体上下方向(R方向)に沿って内筒71側に凹状に変形させて形成してある。すなわち、外筒81を径方向外側から車体上下方向(R方向)に挟圧することで、径方向内側に圧潰している。軸方向に見て、挟圧部85は、径方向外側に膨らむ略円弧状に形成してある。
この凸部83の形成により、弾性体91には、車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みが薄肉となる薄肉部92と、車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚肉となる厚肉部93と、を形成してある。これにより、軸直角方向の圧縮変形において、薄肉部92の剛性は、厚肉部93の剛性よりも高くなる。すなわち、コネクトブッシュ27は、車体上下方向(R方向)のバネが硬く(弾性力が高く)、車幅方向(Q方向)のバネが柔らかく(弾性力が低く)なる。
【0023】
なお、外筒81に対する凸部83の形成は、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形した後に行う。このように、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成すると、弾性体91は、内筒71の外周面72と凸部83と間に位置する部位が、他の部位よりも高密度となり、車体上下方向(R方向)の剛性がより高まることになる。
【0024】
弾性体91における軸方向(P方向)両側の端面94のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、軸方向に凹む一対のスグリ95を周方向に沿って形成してある。このスグリ95は、軸方向に貫通しない比較的浅い溝からなる。このスグリ95の形成により、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、スグリ95を形成しない場合よりも低くなる。
【0025】
内筒71における軸方向(P方向)一端側の外周面72のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、車体上下方向(R方向)と略平行な一対の切欠面73を形成してある。この切欠面73の形成により、内筒71における車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みは、車幅方向(Q方向)における径方向の厚みよりも薄くなる。したがって、外筒81の内径を一定とすると、弾性体91における車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚くなり、その分、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、切欠面73を形成しない場合よりも低くなる。
【0026】
上記の構成により、弾性体91における薄肉部92における径方向の厚みや密度、及び軸方向の幅や周方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。又は、凸部83における突出量、軸方向の幅や車幅方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。一方、スグリ95における軸方向の深さや径方向の幅、及び周方向の長さ等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。又は、切欠面73における軸方向の長さや車体上下方向の長さ、及び切欠高さ(=軸からの距離)等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。そして、これら全てを総合して、軸直角方向における角度毎の剛性を調整する。
【0027】
なお、前述したように内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成する場合、一対のスグリ95に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成する必要がある。一対のスグリ95と一対の切欠面73とは同一方向に配置してあるので、一対の切欠面73に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成すればよい。
【0028】
したがって、コネクトブッシュ27の製造過程で、凸部83を形成する際には、一対の切欠面73を基準にしてコネクトブッシュ27を治具(図示省略)へとセットする。すなわち、一対の切欠面73は、コネクトブッシュ27の製造過程において、治具に対する位置決め機能をも兼ねる。
図6は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【0029】
車体標準姿勢、つまりサスペンションがストロークしていない状態では、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)と車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)とを結ぶ直線L1が、略車幅方向(略水平方向)に沿うように配置してある。
車体正面視では、前側ロアリンク12は、横長に延びる矩形状に形成してあり、前側ロアリンク12の両端側で、且つ上端側に、ブッシュ21及び22を配置してある。すなわち、前側ロアリンク12は、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも下方側に張り出した形状にしてある。
【0030】
前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及びコネクトブッシュ28をΔHだけ下方に配置させている。具体的には、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28をΔHだけ下方に配置させている。そして、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1と、コネクトブッシュ27及び28同士を結ぶ直線L3とを略平行にしてある。
【0031】
コネクトブッシュ27及び28において、前述したスグリ95を対向させている方向をQ方向とし、凸部83(挟圧部85)を対向させている方向をR方向とする。概ね、何れのコネクトブッシュ27及び28も、Q方向は略車幅方向で、R方向は略車体上下方向となるように配置してある。
厳密には、車幅方向内側のコネクトブッシュ28については、Q方向を車幅方向に沿うように配置しているが、車幅方向外側のコネクトブッシュ27については、Q方向を車幅方向に対して予め定められた角度βだけ変位させている。ここでは、車体標準姿勢における車体正面視で、Q方向を車幅方向に対して反時計回りにβ=30度回転させている。
【0032】
図7は、前側ロアリンクの構成図である。
図中の(a)は、前側ロアリンク12の斜視図であり、(b)は、前側ロアリンク12の断面図である。
前側ロアリンク12は、断面が上方に開いたC形のロアブラケット31と、このロアブラケット31の上方を塞ぐアッパブラケット32と、を備えた中空構造にしてある。
【0033】
図8は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
図中の(a)はコネクトブッシュ27の従断面図であり、(b)は外筒81の圧入方向における先端86の拡大断面図である。
前側ロアリンク12に対してコネクトブッシュ27を車体後側から圧入してある。すなわち、前側ロアリンク12の嵌合孔29に対してコネクトブッシュ27の外筒81を車体後側から圧入してある。外筒81における圧入方向の先端86は、圧入時のガイドのために、前記ロアリンク13の嵌合孔に対して径方向内側に向けて折り曲げた形状にしている。
【0034】
《作用》
図9は、本実施形態における前側ロアリンク及びアッパリンクの正面図である。
図中の(a)は、車体標準姿勢時の状態であり、(b)はフルバウンドストローク時の状態である。
アッパリンク14は、その上方に存在する車体のサイドメンバ(図示省略)との干渉を避けるために、車幅方向の略中央を下方に曲げた形状としている。そのため、アッパリンク14における車幅方向の中央が、前側ロアリンク12に対して接近している。したがって、アッパリンク14及び前側ロアリンク12の配置や形状によっては、相互干渉が問題となり、サスペンションの充分なストローク量を確保しにくくなる。
【0035】
車体標準姿勢の状態では、図6に示すように、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及びコネクトブッシュ28を下方に配置させている。具体的には、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28を下方に配置させている。
これにより、前側ロアリンク12の形状が、上方に張り出すことを抑制し、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも下方側に張り出した形状とすることができる。したがって、図9の(b)に示すように、フルバウンドストロークしたとしても、前側ロアリンク12とアッパリンク14との相互干渉を抑制することができる。すなわち、サスペンションの充分なストローク量を確保することができる。
【0036】
ここで、比較例について説明する。
図10は、比較例における前側ロアリンク及びアッパリンクの正面図である。
図中の(a)は、車体標準姿勢時の状態であり、(b)はフルバウンドストローク時の状態である。
ここでは、前側ロアリンク20として図示する。なお、アッパリンク14の形状は同一とする。前側ロアリンク20における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、車幅方向外側のコネクトブッシュ27を上方に配置している。なお、コネクトブッシュ28については、前側ロアリンク20における車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)よりも下方に配置している。
【0037】
これにより、前側ロアリンク20の形状が、上方に張り出すことになる。したがって、図10の(b)に示すように、フルバウンドストロークしたときに、前側ロアリンク20とアッパリンク14との相互干渉を招いてしまう。すなわち、前側ロアリンク20とアッパリンク14との相互干渉しない位置で、サスペンションのストロークを止めなければならないので、充分なストローク量を確保できなくなる。
【0038】
次に、前側ロアリンク12とブレーキホースとの関係について説明する。
図11は、サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
ディスクロータ3に制動力を付与するブレーキキャリパ3には、油圧回路に連通したブレーキホース4が接続されている。このブレーキホース4は、前側ロアリンク12における上方のやや車体前側で、略U字状に設けてある。
【0039】
図12は、比較例における前側ロアリンク及びブレーキホースの位置関係を示す図である。
図中の(a)は、前述した前側ロアリンク20を略上方から見た斜視図であり、(b)は前述した前側ロアリンク20を略前方から見た斜視図である。
比較例における前側ロアリンク20の場合、前述したように、前側ロアリンク20の形状が、上方に張り出した形状である。したがって、サスペンションがストロークするときに、コネクトブッシュ27がブレーキホース4に干渉してしまう。
【0040】
図13は、本実施形態における前側ロアリンク及びブレーキホースの位置関係を示す図である。
図中の(a)は、前側ロアリンク12を略上方から見た斜視図であり、(b)は前側ロアリンク12を略前方から見た斜視図である。
本実施形態における前側ロアリンク12の場合、前述したように、前側ロアリンク12の形状が、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも下方側に張り出した形状としている。したがって、サスペンションがストロークするときに、コネクトブッシュ27がブレーキホース4に干渉することを抑制できる。
【0041】
次に、横力の入力について説明する。
本実施形態における前側ロアリンク12の場合、前述したように、ブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28同士を結ぶ直線L3を下方に配置させている。このように、コネクトブッシュ27及び28同士を結ぶ直線L3をタイヤ接地点に近づけることで、偶力の関係によりサスペンション構造の横剛性を高めることができる。
【0042】
次に、前後力の入力について説明する。
前述した比較例のように、前側ロアリンク20における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりもコネクトブッシュ27を上方に配置することで、制動による前後力の入力時に、車輪1のトーイン変化を確保できる。なお、コネクトブッシュ27におけるQ方向を車幅方向に沿わせた状態とする。
【0043】
一方、本実施形態のように、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりもコネクトブッシュ27を下方に配置しているため、このままでは、制動による前後力の入力時に、車輪1のトーイン変化を確保しにくい。そこで、本実施形態では、コネクトブッシュ27におけるQ方向を車幅方向に対して予め定められた角度β(≒30度)だけ変位させている。これにより、制動時による前後力の入力時に、比較例と同等のトーイン変化を確保することができ、安定性が向上する。
なお、各部品の形状、配置、数量などは、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変更してもよい。
以上より、コネクトブッシュ27及び28が「ブッシュ」に対応する。
【0044】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション構造によれば、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置している。
このように、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置することで、前側ロアリンク12の形状が上方に張り出すことを抑制できる。したがって、前側ロアリンク12とアッパリンク14との相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保することができる。
【0045】
(2)本実施形態のサスペンション構造によれば、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)と車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)とを結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置している。
このように、前側ロアリンク12におけるブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置することで、前側ロアリンク12の形状が上方に張り出すことを抑制できる。したがって、前側ロアリンク12とアッパリンク14との相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保することができる。
【0046】
(3)本実施形態のサスペンション構造によれば、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13同士を、車幅方向に沿って設けた二つのコネクトブッシュ27及び28で連結する。そして、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)と車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)とを結ぶ直線L1と、車幅方向に沿って設けた二つのコネクトブッシュ27及び28同士を結ぶ直線L3と、を車体正面視で平行に配置している。
このように、前側ロアリンク12におけるブッシュ21及び22同士を結ぶ直線L1と、コネクトブッシュ27及び28同士を結ぶ直線L3とを平行に配置したことで、サスペンションの横剛性を高めることができる。
【0047】
(4)本実施形態のサスペンション構造によれば、車幅方向外側のコネクトブッシュ27における軸直角方向となるR方向の剛性を、軸直角方向でR方向と直交するQ方向の剛性よりも低く設定する。そして、車体の標準姿勢で、Q方向を車幅方向に対して予め定められた角度β(≒30度)だけ変位させている。
このように、コネクトブッシュ27のQ方向を車幅方向に対して予め定められた角度βだけ変位させることで、制動による前後力の入力時に、車輪1にトーイン方向のトー変化を生じさせることができる。したがって、ブレーキング時の安定性を向上させることができる。
【0048】
(5)本実施形態のサスペンションリンク配置方法によれば、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置している。
このように、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)よりも、コネクトブッシュ27及び28の位置を下方に配置することで、前側ロアリンク12の形状が上方に張り出すことを抑制できる。したがって、前側ロアリンク12とアッパリンク14との相互干渉を抑制し、サスペンションの充分なストローク量を確保することができる。
【0049】
《変形例》
先ず、本実施形態では、内筒71を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81を前側ロアリンク12に連結しているが、勿論、外筒81を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、内筒71を前側ロアリンク12に連結してもよい。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、ロアブラケット31の上方をアッパブラケット32で塞いで中空構造の前側ロアリンク12を形成しているが、他の構造を採用してもよい。
【0050】
図14は、前側ロアリンクの変形例1を示す構成図である。
図中の(a)は、前側ロアリンク12の斜視図であり、(b)は、前側ロアリンク12の断面図である。
前側ロアリンク12は、前後一対となるフロントブラケット33及びリアブラケット34を対向させて接合した中空構造にしてある。
この変形例1であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
図15は、前側ロアリンクの変形例2を示す構成図である。
図中の(a)は、前側ロアリンク12の斜視図であり、(b)は、前側ロアリンク12の断面図である。
前側ロアリンク12は、ハイドロフォームによって断面が略矩形の中空構造にしてある。
この変形例2であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、前側ロアリンク12と後側ロアリンク13とを二つのコネクトブッシュ27及び28で連結しているが、一つのコネクトブッシュ27で連結してもよい。
図16は、コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 車輪
2 サスペンションメンバ
3 ディスクロータ
4 ブレーキキャリパ
5 ブレーキホース
11 アクスルハウジング
12 前側ロアリンク
13 後側ロアリンク
14 アッパリンク
15 コイルスプリング
16 張出部
17 ロアスプリングシート
18 湾曲部
19 補剛ブラケット
27 コネクトブッシュ
28 コネクトブッシュ
31 ロアブラケット
32 アッパブラケット
33 フロントブラケット
34 リアブラケット
71 内筒
72 外周面
73 切欠面
81 外筒
82 内周面
83 凸部
84 外周面
85 挟圧部
86 先端
91 弾性体
92 薄肉部
93 厚肉部
94 端面
95 スグリ
XA コイル軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪を支持するアクスルハウジングと、
車体前後方向に並び、夫々が前記アクスルハウジングと車体とを連結点を介して揺動可能に連結した前側ロアリンク及び後側ロアリンクと、
前記前側ロアリンクと前記後側ロアリンクとを連結したコネクトブッシュと、
前記前側ロアリンクの上方に位置し、前記アクスルハウジングと前記車体とを揺動可能に連結したアッパリンクと、を備え、
前記コネクトブッシュの位置を、前記前側ロアリンクの前記アクスルハウジング側との連結点よりも下方に配置したことを特徴とするサスペンション構造。
【請求項2】
前記前側ロアリンクにおける前記アクスルハウジング側との連結点と前記車体側との連結点とを結ぶ直線よりも、前記コネクトブッシュの位置を下方に配置したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション構造。
【請求項3】
前記前側ロアリンクと前記後側ロアリンクとを、車幅方向に沿って設けた二つの前記コネクトブッシュで連結し、
前記前側ロアリンクにおける車幅方向外側の連結点と車幅方向内側の連結点とを結ぶ直線と、車幅方向に沿って設けた二つの前記コネクトブッシュ同士を結ぶ直線と、を車体正面視で平行に配置したことを特徴とする請求項2に記載のサスペンション構造。
【請求項4】
前記コネクトブッシュは、
車体前後方向に沿った軸を有し、前記前側ロアリンク及び後側ロアリンクの一方に連結した内筒と、
前記内筒の外周面に対向する内周面を有し、前記前側ロアリンク及び前記後側ロアリンクの他方に連結した外筒と、
前記内筒及び前記外筒の間に介装した弾性体と、を備え、
前記弾性体における軸直角方向となるR方向の剛性を、軸直角方向で前記R方向と直交するQ方向の剛性よりも低く設定すると共に、前記車体の標準姿勢で、前記Q方向を車幅方向に対して予め定められた角度だけ変位させて前記コネクトブッシュを配置したことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のサスペンション構造。
【請求項5】
車輪をアクスルハウジングによって支持し、
車体前後方向に並ぶ前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクによって前記アクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結し、
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンク同士をコネクトブッシュによって連結し、
前記前側ロアリンクの上方に配置したアッパリンクによって前記アクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結し、
前記前側ロアリンクにおける車幅方向外側の連結点よりも、前記コネクトブッシュの位置を下方に配置することを特徴とするサスペンションリンク配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−240459(P2012−240459A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109666(P2011−109666)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】