説明

サッシュブラック塗料組成物および塗膜形成方法

【課題】自動車のサッシュ部の塗装に用いられる塗料組成物であって、塗膜層間の界面での反転が生じることなく、かつ、仕上がり外観に優れた塗膜を得ることができる、サッシュブラック塗料組成物を提供すること。
【解決手段】オイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であり、イミノ基含有メラミン樹脂(c)の量は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50である、サッシュブラック塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサッシュ部の塗装に用いられるサッシュブラック塗料組成物および塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装では、意匠性を高める、すなわち自動車全体の印象を引き締めるために、窓枠(サッシュ)部、ピラー部、フロントグリル部またはリヤハッチ部またはそれらの周辺部に、サッシュブラック塗料組成物が塗装されることがある。このサッシュブラック塗料組成物は、その名の示す通り黒色塗料である。サッシュブラック塗料組成物を用いる場合、塗装される自動車の車体外板の塗装は、通常は、まず電着塗膜を形成し、次いで中塗り塗料組成物を塗装し、得られた中塗り塗膜を硬化させることなくウエット・オン・ウエット方式でサッシュ部分などにサッシュブラック塗料組成物を塗装し、加熱硬化させ、さらにサッシュ部以外の部分に上塗り塗料組成物を塗装し加熱硬化することにより塗膜形成される。
【0003】
サッシュブラック塗料組成物は、このように自動車の車体外板の塗装に用いる場合は、他の部分とは異なった黒色の塗膜を形成することを目的として用いられる。そのためサッシュブラック塗料組成物には、その他の部分に形成される塗膜との混和性がないこと、およびマスキング性が良好であることなどといった、サッシュブラック塗料組成物特有の技術的課題がある。その一方で、自動車の車体外板に形成される塗膜には、耐候性、仕上がり外観(塗膜の有する平滑性、艶など)が良好であることが求められる。この要求については、本発明が対象とするサッシュブラック塗料組成物についても例外ではない。
【0004】
サッシュ部を他の部位と同等に仕上げて自動車塗装の全体的な仕上がり水準を向上させることを目的として、特開昭62−149765号公報(特許文献1)には、アクリル樹脂45〜30質量%、メラミン樹脂5〜20質量%、顔料0.5〜5質量%及び溶媒49.5〜45質量%を含むことを特徴とするポリエステル樹脂を主成分とする塗膜の上にウエット・オン・ウエットで塗装するのに適したアクリル/メラミン樹脂塗料が開示されている。
【0005】
また、塗膜の反転を防ぐためにはかつて必要とされていた中塗り塗料及びサッシュ用上塗り塗料の表面張力の調整をほぼ不要のものにするとともに、サッシュ部以外に上塗り塗料のダストを残存させず、シーリング剤等の充填箇所においても仕上がり外観を低下させないような塗装方法の開発を目的として、特開平5−7827号公報(特許文献2)には、未硬化の中塗り塗膜面に着色上塗り塗料(サッシュブラック塗料)を塗装し、次いで加熱して該両塗膜を硬化せしめる塗装方法において、該着色上塗り塗料にシリカ系微粉末を添加してチクソトロピック性を付与せしめておくことを特徴とする塗装方法が開示されている。ここで塗膜の「反転」とは、サッシュブラック塗膜を、中塗り塗膜の上に形成する場合において、先に塗装された中塗り塗膜とその上に塗装されたサッシュブラック塗膜との間で、部分的にあるいは全面的に塗膜の浮き沈み(塗膜層の入れ替わり)が生じ、これにより、隠ぺい膜厚以上の膜厚を有する部分においても、不透明である塗膜の表面から、下の塗膜の色が視認される現象を意味する。
【0006】
サッシュ部に中塗り塗膜及びサッシュブラックからなる塗膜をウエット・オン・ウエットで積層する場合に、サッシュのエッジ部のシーラー上において両塗膜の境面で生じうる反転を防ぐことを目的として、特開2002−249709号公報(特許文献3)には、ポリエステル樹脂及びメラミン樹脂を含む塗料組成物であって、上記メラミン樹脂は、数平均分子量が1500〜5000であり、かつ、上記塗料組成物の樹脂固形分に対して1〜10質量%であることを特徴とする塗料組成物が開示されている。
【0007】
また特開2002−254024号公報(特許文献4)には、サッシュブラックにマスキング材の跡が残らない塗膜形成方法として、特定の動的弾性率が得られる中塗り塗料を用いる塗膜形成方法が開示されている。
【0008】
さらに特開平10−314665号公報(特許文献5)には、仕上がり性不良が生じないサッシュ黒塗膜を得ることができる塗装方法として、上部色と下部色とからなる車体の2トーンメタリック塗装において、サッシュ黒塗料に光輝性顔料を配合した塗料を用いることを特徴とする車体の塗装方法が開示されている。
【0009】
上記のように、サッシュブラックの塗装に用いられる塗料または塗装方法に関する発明がこれまでにも開示されている。しかしながら現状においては、サッシュブラックの塗装における種々の課題を全てクリヤーできる手段は未だ見いだせていない。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−149765号公報
【特許文献2】特開平5−7827号公報
【特許文献3】特開2002−249709号公報
【特許文献4】特開2002−254024号公報
【特許文献5】特開平10−314665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、自動車のサッシュ部の塗装に用いられる塗料組成物であって、塗膜層間の界面での反転が生じることなく、かつ、仕上がり外観に優れた塗膜を得ることができる、サッシュブラック塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
オイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、
オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であり、
イミノ基含有メラミン樹脂(c)の量は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50である、サッシュブラック塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0013】
また上記アルキド樹脂(b)はトール油を20〜40質量%含有するのが好ましい。
【0014】
本発明はまた、下記工程
被塗物に中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上にサッシュブラック塗料組成物を塗装して、未硬化のサッシュブラック塗膜を形成する工程、および
未硬化の中塗り塗膜およびサッシュブラック塗膜を加熱硬化させて、積層塗膜を得る工程、
を包含する、塗膜形成方法であって、
このサッシュブラック塗料組成物は、オイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、
オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であり、
イミノ基含有メラミン樹脂(c)の量は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50である、塗膜形成方法も提供する。
【0015】
本発明はまた、上記塗膜形成方法により得られる積層塗膜を有する自動車車体も提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、被塗物上に形成された未硬化の中塗り塗膜の上にウエット・オン・ウエットで塗装する場合であっても、中塗り塗膜とサッシュブラック塗膜との境面で生じうる反転などの不具合が生じないという優れた利点を有している。こうして形成される塗膜はさらに、肌荒れ等の他の外観不良を有しておらず、良好な仕上がり外観を有している。そして本発明のサッシュブラック塗料組成物は、油脂成分の含有量が特定範囲であるアルキド樹脂を特定量用いることによって、上記の優れた利点が得られている。本発明のサッシュブラック塗料組成物は、優れた外観性を有する塗膜を形成することができ、そしてマスキング性能、耐候性、耐擦傷性および上塗り付着性にも優れるため、自動車車体の外板のサッシュ部の塗装に好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
サッシュブラック塗料組成物
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)、アルキド樹脂(b)およびイミノ基含有メラミン樹脂(c)を含む塗料組成物である。以下、本発明のサッシュブラック塗料組成物に含まれる各種成分について詳しく記載する。
【0018】
オイルフリーポリエステル樹脂(a)
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)を含む。オイルフリーポリエステル樹脂(a)としては特に限定されず、例えば、通常、塗膜形成性樹脂として使用されているものを使用することができる。
【0019】
オイルフリーポリエステル樹脂(a)は、数平均分子量が1000〜4000であることが好ましい。1000未満であると、耐水性等の塗膜性能が低下するほか、サッシュブラック塗膜との混層等の起こるおそれがある。4000を超えると、得られる塗膜の外観(肌)が低下すると同時に、塗着時の粘度が高くなりすぎる場合がある。オイルフリーポリエステル樹脂(a)数平均分子量は好ましくは1200〜3200である。
【0020】
なお、本明細書内における数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定し、ポリスチレン分子量を標準として換算した値である。
【0021】
またオイルフリーポリエステル樹脂(a)は、酸価が4〜15mgKOH/gであることが好ましい。4mgKOH/g未満であると硬化性が不良となるおそれがあり、15mgKOH/gを超えると耐水性が低下するおそれがある。好ましくは、6〜10mgKOH/gである。またオイルフリーポリエステル樹脂(a)は、水酸基価が50〜250であることが好ましい。50未満であると硬化性が不良となるおそれがあり、250を超えると、塗膜が硬くなりすぎて付着性、耐チッピング性が低下するおそれがある。好ましくは、80〜220である。
【0022】
オイルフリーポリエステル樹脂(a)は、必須成分として多価カルボン酸及び/又は酸無水物と多価アルコールとを重縮合することによって製造することができる。上記多価カルボン酸及び/又は酸無水物としては特に限定されず、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸等が挙げられる。
【0023】
上記多価アルコールとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0024】
オイルフリーポリエステル樹脂(a)の調製において、上記多価カルボン酸及び/又は酸無水物並びに多価アルコール以外の他の反応成分として、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等を含んでいてもよい。但しオイルフリーポリエステル樹脂であるため、反応成分として各種油脂およびこれらの脂肪酸などの油脂成分を含有しないことを条件とする。オイルフリーポリエステル樹脂(a)の調製に用いることができるその他の反応成分として、カージュラE(シェル化学社製)等のモノエポキサイド化合物、ラクトン類などを挙げることもできる。上記ラクトン類は、多価カルボン酸及び多価アルコールのポリエステル類へ開環付加してグラフト鎖を形成し得るものであり、例えば、β−プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等が挙げられるが、なかでもε−カプロラクトンが好ましい。上記多価カルボン酸及び/又は酸無水物、多価アルコール、その他のラクトン類等については、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
オイルフリーポリエステル樹脂(a)の合成は、上記反応成分を常法により窒素気流中、例えば150〜250℃で4〜10時間加熱し、縮合することによって行うことができる。その際触媒として、ジブチルスズオキサイド、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸カルシウム、酢酸鉛、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネートなどの公知の触媒を使用することができる。反応成分は全量を一時に添加してもよいが、数回に分けて添加してもよい。反応成分のモル比および反応条件は、得られるオイルフリーポリエステル樹脂(a)の酸価、水酸基価および数平均分子量が、酸価4〜15、水酸基価50〜250および数平均分子量1000〜4000の範囲に達するように調節するのが好ましい。尚、オイルフリーポリエステル樹脂(a)は単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0026】
アルキド樹脂(b)
本発明のサッシュブラック塗料組成物においては、樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b)が用いられる。
【0027】
アルキド樹脂(b)は、多価カルボン酸および/または酸無水物、多価アルコール、そして脂肪酸および/または脂肪酸トリグリセライド、の3成分の反応により得られる。アルキド樹脂(b)が他のポリエステル樹脂と異なるところは、分子内に脂肪酸および/または脂肪酸トリグリセライドが結合している点である。なお本明細書中においては、脂肪酸および/または脂肪酸トリグリセライドをまとめて「油脂成分」と記載する。
【0028】
本発明におけるアルキド樹脂(b)は、全反応成分の合計質量の12〜50質量%が油脂成分であることを特徴とする。なおこの量を「樹脂中の油脂成分の含有量(質量%)」として表す。この含油量は、塗料分野においては一般に「油長」といわれている。アルキド樹脂(b)における油脂成分の含有量は、好ましくは20〜40質量%である。油脂成分の含有量が12質量%を下まわる場合は、塗膜の反転が生じるおそれがある。また油脂成分の含有量が50質量%を超える場合は、塗膜が軟らかく脆くなるおそれがある。
【0029】
アルキド樹脂(b)を構成する油脂成分として、例えばヒマシ油、アマニ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、トール油、ヤシ油、パーム核油、そしてこれらの脂肪酸などが挙げられる。油脂成分としてヒマシ油、大豆油、サフラワー油、トール油などの半乾性油またはこれらの脂肪酸を用いるのが好ましく、油脂成分としてトール油を用いるのが特に好ましい。
【0030】
アルキド樹脂(b)の調製に用いられる、多価カルボン酸および/または酸無水物、そして多価アルコールは、上記オイルフリーポリエステル樹脂(a)の調製に用いられるものを用いることができる。アルキド樹脂(b)の合成は、多価カルボン酸および/または酸無水物、多価アルコール、そして脂肪酸および/または脂肪酸トリグリセライド、の3成分を常法により窒素気流中、例えば150〜250℃で4〜10時間加熱し、縮合することによって行うことができる。触媒として上記オイルフリーポリエステル樹脂(a)の調製において列挙した触媒を用いることができる。反応成分は全量を一時に添加してもよいが、数回に分けて添加してもよい。反応成分のモル比および反応条件は、得られるアルキド樹脂(b)の酸価、水酸基価および数平均分子量が、酸価3〜12、水酸基価100〜150の範囲に達するように調節するのが好ましい。
【0031】
本発明で用いられるアルキド樹脂(b)は、数平均分子量が1500〜4000であることも特徴とする。数平均分子量が1500を下まわる場合は、中塗り塗膜とのウェットオンウェット塗装時に反転が生じるおそれがあり、一方数平均分子量が4000を超える場合は、得られる塗膜の平滑性が劣ることとなるおそれがある。
【0032】
本発明のサッシュブラック塗料組成物に含まれるオイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)は、80:20〜55:45の範囲である。オイルフリーポリエステル樹脂(a)の量がこの範囲を超える場合は、得られる塗膜の平滑性が劣り、または反転が生じるおそれがある。アルキド樹脂(b)の量がこの範囲を超える場合もまた、得られる塗膜の平滑性が劣るおそれがある。なおここでいう質量比は、固形分質量比を意味する。オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)は、75:25〜55:45であるのがより好ましい。
【0033】
イミノ基含有メラミン樹脂(c)
イミノ基含有メラミン樹脂は、下記化学式のメラミン骨格を有するメラミン樹脂の窒素原子に結合した水素、すなわちイミノ基、が、分子中に少なくとも1個以上含まれているものが好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
上記メラミン樹脂のトリアジン核のNに結合する基は、6個存在するが、イミノ型の数が多いものをイミノ基含有メラミン樹脂(もしくは、イミノ型メラミン樹脂)と称する。残りの結合基はその他の基を有していてもよい。
【0036】
イミノ基含有メラミン樹脂は前述したようにイミノ基を1分子内に平均1個以上有するものをいう。下限を下まわると硬化性および付着性が低下するおそれがある。ただし、イミノ基が多すぎるもの、例えば1分子内に平均3.5個以上のものは、硬く脆弱な塗膜を形成する傾向があり、塗膜の耐水性・耐衝撃性が劣るため好ましくない。
【0037】
イミノ基を1個以上含有するメラミン樹脂の例として、ユーバン−125(三井化学、商品名)、ユーバン−225(三井化学、商品名)、サイメル254、同325、同370、同327(三井サイテックインダストリー、商品名)、マイコート508(三井サイテックインダストリー、商品名)などが挙げられる。
【0038】
本発明のサッシュブラック塗料組成物に含まれるイミノ基含有メラミン樹脂(c)は、上記オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50の範囲の量で含まれるのが好ましい。この質量比((a)+(b)):(c)は、65:35〜55:45であるのがより好ましい。イミノ基含有メラミン樹脂(c)の質量比が上記範囲を下まわる量で含まれる場合は、サッシュブラック塗料組成物の硬化性が低下するおそれがある。一方イミノ基含有メラミン樹脂(c)の質量比が上記範囲を超える量で含まれる場合は、サッシュブラック塗料組成物の硬化反応が早く進み過ぎて、仕上がり外観が低下するおそれがある。なおここでいう質量比は、固形分質量比を意味する。
【0039】
顔料
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、その名のとおり黒色の塗料組成物である。本発明のサッシュブラック塗料組成物は、艶有りの黒色であってもよく、また艶消しの黒色であってもよい。サッシュブラック塗料組成物は、上述の樹脂(a)〜(c)以外にさらに顔料を含み、これにより艶有りの黒色または艶消しの黒色を有することとなる。
【0040】
顔料としては従来公知の顔料を用いることができ、例えば黒色顔料としてはカーボンブラック、艶消剤としてシリカ微粉末等を挙げることができる。これらの顔料は、サッシュブラック塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して1〜25質量部であることが好ましい。1質量部未満であると、自動車用サッシュブラックとして適当な黒色又は塗色(つや)が得られず、25質量部を超えると、得られる塗膜の平滑性に欠け、肌荒れ等の外観不良を起す傾向にある。顔料の量はより好ましくは、2〜10質量部である。
【0041】
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、所望により、酸化クロム、フタロシアニン、酸化鉄、キナクリドン等の着色顔料;硫酸バリウム、タルク、焼成カオリン、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の体質顔料等のその他の顔料を用いることもできる。
【0042】
他の成分
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、上記成分のほかに、増粘剤として架橋樹脂粒子、有機ベントナイト、脂肪酸ポリアマイド、ポリエチレンワックス等;有機溶媒として芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、エステル系、アルコール系溶媒等;その他の添加剤として酸触媒、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、可塑剤、消泡剤等を使用してもよい。
【0043】
また本発明のサッシュブラック塗料組成物は、上記オイルフリーポリエステル樹脂(a)、アルキド樹脂(b)および(c)イミノ基含有メラミン樹脂の他にも、他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂などが挙げられる。
【0044】
サッシュブラック塗料組成物の調製
本発明のサッシュブラック塗料組成物の製造方法としては、塗料組成物の塗料形態に従って製造することができ、例えば、上記のオイルフリーポリエステル樹脂(a)、アルキド樹脂(b)および(c)イミノ基含有メラミン樹脂、そして顔料、溶媒、及び、所望により顔料分散剤およびその他の塗膜形成性樹脂等の配合物を混合して顔料分散ペーストを得た後、硬化剤と混合する等の当業者に周知の方法を使用することができる。
【0045】
サッシュブラック塗料組成物の調製および希釈に用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。
【0046】
本発明のサッシュブラック塗料組成物の塗装時の全固形分量は、40〜75質量%であることが好ましい。40質量%未満であると、粘性が低すぎて反転、タレ等の外観不良が発生するおそれがある。一方75質量%を超えると、粘性が高すぎて塗膜外観が低下するおそれがある。塗装時の全固形分量は好ましくは50〜70質量%である。
【0047】
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、自動車外板のサッシュ部に好適に用いられる塗料組成物である。この塗料組成物をサッシュ部の塗装に使用することによって、仕上がり外観の異常または反転を効果的に防止することができる。本発明のサッシュブラック塗料組成物は、サッシュ部以外にも更に、ドアー下部のロッカー部、フロントの垂直部等の塗装にも用いることができる。
【0048】
塗膜形成方法
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、下記工程を含む塗膜形成方法に用いることができる:
被塗物に中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上にサッシュブラック塗料組成物を塗装して、未硬化のサッシュブラック塗膜を形成する工程、および
未硬化の中塗り塗膜およびサッシュブラック塗膜を加熱硬化させて、積層塗膜を得る工程。
【0049】
上記のようにしてサッシュブラック塗膜が形成される。そして自動車車体の外板の塗装においては、サッシュ部に形成されたサッシュブラック塗膜の部分にマスキングが施され、次いで上塗りベース塗料組成物が塗装される。マスキングすることによって、サッシュブラック塗装された部分には上塗りベース塗料組成物が塗装されず、外観上、黒色が保たれることとなる。こうして塗装された自動車車体の外板は、上塗りベース塗膜が形成された着色部と、サッシュブラック塗膜が形成された黒色部とを有する。上塗りベース塗料組成物は、水性型または溶剤型の通常用いられる上塗りベース塗料組成物を用いることができる。
【0050】
被塗物としては特に限定されず、例えば、金属、プラスチック、発泡体等が挙げられる。これらの被塗物のうち、カチオン電着塗装可能な金属基材が特に好適に使用される。金属基材としては特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属単体、並びに、これらの金属単体を含む合金及び鋳造物が挙げられ、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車の車体及び部品が挙げられる。
【0051】
これらの金属基材を被塗物として用いる場合は、リン酸塩、クロム酸塩等で予め化成処理されているのが特に好ましい。そしてこのような化成処理がなされた金属基材上に電着塗膜が形成されているのが好ましい。電着塗料組成物としては、カチオン型およびアニオン型の何れも使用することができるが、カチオン型電着塗料組成物を用いることにより防食性においてより優れた塗膜を形成することができるため好ましい。カチオン型電着塗料組成物は通常用いられる塗料組成物を用いることができる。
【0052】
このように必要に応じて化成皮膜および電着塗膜が形成された被塗物に、中塗り塗料組成物を塗装して中塗り塗膜を形成する。中塗り塗膜を形成することによって、被塗物および電着塗膜の欠陥が隠蔽され、これによりサッシュブラック塗料組成物を塗装した後の表面平滑性が確保される。さらに中塗り塗膜を形成することによって、耐衝撃性、耐チッピング性等の塗膜物性を向上させることができる。
【0053】
中塗り塗料組成物としては特に限定されないが、顔料、塗膜形成樹脂及び硬化剤、そして必要に応じて消泡剤、塗面調整剤等の添加剤を含む塗料組成物が好ましく用いられる。
【0054】
中塗り塗料組成物に用いることができる顔料の例として、本発明のサッシュブラック塗料組成物に用いることができる顔料を挙げることができる。用いることができる顔料の例としてはカーボンブラックおよび二酸化チタンの組み合わせなどが挙げられ、これらを用いることによってグレー系中塗り塗料組成物を調製することができる。なお、上記電着塗料組成物および中塗り塗料組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば従来公知の方法により調製することができる。
【0055】
中塗り塗料組成物を塗装する方法としては特に限定されず、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー;通称「マイクロ・マイクロ(μμ)ベル」、「マイクロ(μ)ベル」、「メタベル」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用いることにより行うことができる。中塗り塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で10〜60μmとなるように塗装するのが好ましく、20〜50μmがより好ましい。上限を超えると、塗装時にワキ、タレ等の不具合が起こることがある。下限を下回ると、下地の凹凸が隠蔽できず、膜切れや塗膜肌不良が発生したりすることがある。
【0056】
中塗り塗膜の形成後は、加熱硬化させることなく次工程のサッシュブラック塗膜の形成工程に移る。サッシュブラック塗膜を形成する前に、得られた中塗り塗膜に対して、一定時間室温で放置したり、又は例えば60〜100℃未満にて2〜10分間加熱することによって、中塗り塗膜を予め乾燥させるプレヒート工程を施すこともできる。なお本発明において「未硬化」とは、完全に硬化していない状態をいい、プレヒートが行なわれた塗膜の状態も含むものである。
【0057】
こうして得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、サッシュブラック塗料組成物をウエット・オン・ウエットで塗装してサッシュブラック塗膜を形成する。サッシュブラック塗料組成物を塗装する方法は特に限定されないが、通常、エアースプレーや手吹きスプレー、REAガン塗装機等が用いられる。サッシュブラック塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で10〜30μmとなるように塗装するのが好ましく、15〜25μmがより好ましい。上限を超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがある。下限を下回ると、中塗り塗膜の色相が隠蔽できず、色相不良になることがある。
【0058】
こうして得られた未硬化の中塗り塗膜およびサッシュブラック塗膜を加熱することによって、これらの2層の塗膜を一度に加熱硬化させる。加熱硬化は、一般的な焼付条件、例えば120〜160℃、好ましくは130〜150℃で行うことができる。硬化時間は硬化温度により変化するが、130〜150℃では15〜30分間が適当である。このように焼き付けることによって、高い架橋密度を有する硬化塗膜を得ることができる。加熱硬化が120℃未満であると、硬化が充分ではなく、160℃を超えると塗膜が固く脆くなるおそれがある。
【0059】
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、上述のようにオイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であることから、被塗物上に形成された未硬化の中塗り塗膜の上にウエット・オン・ウエットで塗装する場合であっても、中塗り塗膜とサッシュブラック塗膜との境面で生じうる反転などの不具合が生じないという優れた利点を有している。こうして形成される塗膜はさらに、肌荒れ等の他の外観不良をも生じない。
【0060】
特に、本発明のサッシュブラック塗料組成物は、樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるという特定のアルキド樹脂を含むことによって、疎水部が導入された樹脂を特定量含むことになり、これにより効果的に反転を抑えることが可能となる。
【0061】
このように本発明のサッシュブラック塗料組成物は、優れた外観性を有する塗膜を形成することができるため、自動車車体の外板の塗装に好ましく用いられる。本発明のサッシュブラック塗料組成物はさらに、自動車車体の内板の塗装などにも用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0063】
合成例1 オイルフリーポリエステル樹脂(a−1)の合成
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽にイソフタル酸354部、セバシン酸249部、トリメチロールプロパン84部、ネオペンチルグリコール281部、カージュラE(シェル社製、バーサティック酸グリシジルエステル)42部、ジブチル錫オキサイド2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン105部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価100mgKOH/g(固形分)のオイルフリーポリエステル樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0064】
合成例2 オイルフリーポリエステル樹脂(a−2)の合成
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽にイソフタル酸214部、セバシン酸328部、トリメチロールエタン91部、ネオペンチルグリコール307部、カージュラE(シェル社製、バーサティック酸グリシジルエステル)45部、ジブチル錫オキサイド2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン114部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量1500、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価200mgKOH/g(固形分)のオイルフリーポリエステル樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0065】
合成例3 アルキド樹脂(b−1)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:40%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油(白石カルシウム社製) 400部、ペンタエリスリトール 230部、ネオペンチルグリコール 70部、無水フタル酸 380部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。樹脂酸価が8.5mgKOH/g(固形分)に達したところで150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0066】
合成例4 アルキド樹脂(b−2)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:20%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 200部、ペンタエリスリトール 300部、ネオペンチルグリコール 90部、無水フタル酸 490部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0067】
合成例5 アルキド樹脂(b−3)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:50%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 500部、ペンタエリスリトール 200部、ネオペンチルグリコール 60部、無水フタル酸 320部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0068】
比較合成例1 アルキド樹脂(b−4)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:10%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 100部、ペンタエリスリトール 330部、ネオペンチルグリコール 100部、無水フタル酸 550部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0069】
比較合成例2 アルキド樹脂(b−5)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:60%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 600部、ペンタエリスリトール 160部、ネオペンチルグリコール 50部、無水フタル酸 270部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量3000、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0070】
比較合成例3 アルキド樹脂(b−6)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:40%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 400部、ペンタエリスリトール 245部、ネオペンチルグリコール 70部、無水フタル酸 365部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量1200、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0071】
比較合成例4 アルキド樹脂(b−7)の合成(樹脂中の油脂成分の含有量:40%)
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管、水分離機及び精留塔を備えた反応槽に、トール油 400部、ペンタエリスリトール 200部、ネオペンチルグリコール 70部、無水フタル酸 410部、ジブチル錫オキサイド 2部を仕込み加熱し、210℃まで昇温せしめた。ただし、160℃から210℃までは、3時間かけて一定昇温速度で昇温せしめた。生成する縮合水は系外へ留去した。210℃に達したところで保温し、保温1時間後、反応槽内に還流溶媒としてキシレン30部を徐々に添加し、溶媒存在下での縮合に切り替え反応を続けた。150℃まで冷却し、ε−カプロラクトン200部を加え150℃で2時間保温した後、100℃まで冷却した。更にキシレン430部を加え、数平均分子量4500、酸価8.5mgKOH/g(固形分)、水酸基価120mgKOH/g(固形分)のアルキド樹脂を含む不揮発分70%のワニスを得た。
【0072】
実施例1
上記合成例で得たポリエステル樹脂(a−1)22.5部、ポリエステル樹脂(a−2)22.5部およびアルキド樹脂(b−1)15部、キシレン70部、堺化学工業社製硫酸バリウムBF−20を135部、三菱化学社製カーボンブラックMA−100を50部加え予備混合を行った後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で1時間混合分散し、粒度5μm以下、不揮発分71%の顔料分散ペーストを得た。上記顔料分散ペースト100部に、表1に示すようにイミノ基含有メラミン樹脂40部を加え、さらに三井化学社製レジミックスRL−4を0.1部、三沢化学社製艶消し剤ミズカシルNP8を5部加え、サッシュブラック塗料組成物を得た。メラミン樹脂としては、三井化学社製イミノ基含有メラミン「ユーバン125」を用いた。
【0073】
実施例2〜5および比較例1〜6
用いるポリエステル樹脂およびアルキド樹脂を、表1または2に示す種類および量に変更した他は、実施例1と同様にしてサッシュブラック塗料組成物を調製した。
【0074】
塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8cm、20cm×30cmのSPCC−SD鋼板(ダル鋼板)に、カチオン電着塗料組成物(日本ペイント社製「パワートップU−50(商品名)」)を乾燥膜厚で約25μmになるように塗装し、170℃で30分間焼き付けた。その後、中塗り塗料組成物として日本ペイント社製「オルガP−5−1(商品名)」をシンナー(質量比でエクソン社製S−100/酢酸ブチル50/50)で希釈したものを乾燥膜厚で約40μmになるようにエアスプレーガンにて塗装し、更に上記実施例および比較例により得られたサッシュブラック塗料組成物をシンナー(質量比で酢酸ブチル/エクソン社製S−100=50/50)で希釈し、エアスプレーガンにて乾燥膜厚が約25μmに塗装し、サッシュブラック塗膜を形成した。次いで7〜10分セッティングした後140℃で30分焼き付け、硬化塗膜を得た。
【0075】
塗膜評価
得られた塗膜について、目視により下記基準に従って評価した。評価結果を表1および2に示す。下記評価においていずれも4以上が合格であると判断できる。
【0076】
塗膜表面の凹凸状態評価
5:凹凸が全く確認されず、非常に平滑である。
4:僅かに凹凸が確認される。
3:凹凸が確認される。
2:凹凸がやや顕著である。
1:凹凸が顕著である。
【0077】
中塗り塗膜とサッシュブラック塗膜との間の反転の評価
5:中塗り塗膜の色が、サッシュブラック塗膜によって完全に隠ぺいされている。
4:全面積の5%未満において中塗り塗膜の色が確認される。
3:全面積の5%以上10%未満において中塗り塗膜の色が確認される。
2:全面積の10%以上20未満において中塗り塗膜の色が確認される。
1:全面積の20%以上において中塗り塗膜の色が確認される。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表1および2に示されるとおり、実施例のサッシュブラック塗料組成物を用いて形成された塗膜は、表面凹凸状態評価および反転評価の両方において優れるものであった。一方比較例により得られた塗膜はいずれも、表面凹凸状態が劣るものであった。また比較例1、3および5により得られた塗膜は、反転評価においても劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のサッシュブラック塗料組成物は、被塗物上に形成された未硬化の中塗り塗膜の上にウエット・オン・ウエットで塗装する場合であっても、中塗り塗膜とサッシュブラック塗膜との境面で生じうる反転などの不具合が生じないという優れた利点を有している。こうして形成される塗膜はさらに、肌荒れ等の他の外観不良を有しておらず、良好な仕上がり外観を有している。本発明のサッシュブラック塗料組成物は、優れた外観性を有する塗膜を形成することができるため、自動車車体の外板のサッシュ部の塗装に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、
該オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であり、
該イミノ基含有メラミン樹脂(c)の量は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50である、サッシュブラック塗料組成物。
【請求項2】
前記アルキド樹脂(b)はトール油を20〜40質量%含有する、請求項1記載のサッシュブラック塗料組成物。
【請求項3】
被塗物に中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上にサッシュブラック塗料組成物を塗装して、未硬化のサッシュブラック塗膜を形成する工程、および
未硬化の中塗り塗膜およびサッシュブラック塗膜を加熱硬化させて、積層塗膜を得る工程、
を包含する、塗膜形成方法であって、
該サッシュブラック塗料組成物は、オイルフリーポリエステル樹脂(a);樹脂中の油脂成分の含有量が12〜50質量%であり、数平均分子量が1500〜4000であるアルキド樹脂(b);およびイミノ基含有メラミン樹脂(c);を含み、
該オイルフリーポリエステル樹脂(a)とアルキド樹脂(b)との質量比(a):(b)が80:20〜55:45であり、
該イミノ基含有メラミン樹脂(c)の量は、オイルフリーポリエステル樹脂(a)およびアルキド樹脂(b)との質量比((a)+(b)):(c)として、70:30〜50:50である、
塗膜形成方法。
【請求項4】
請求項3記載の塗膜形成方法により得られる積層塗膜を有する自動車車体。

【公開番号】特開2008−95010(P2008−95010A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280229(P2006−280229)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】