説明

サブマージアーク溶接装置

【課題】立向きサブマージアーク溶接装置において、耐熱布と対象部の表面との間に形成される隙間からフラックスが漏れ出すことを抑止する。
【解決手段】溶接トーチ2の下方に配置される耐熱布4と、耐熱布4を対象部Xに対して押圧する押圧部6と、押圧部6と対象部Xとの間に形成される隙間を埋める隙間充填部材5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接装置では、粉状のフラックスを母材(対象物)の表面に対して供給しながらアーク溶接を行うものである。
例えば、LNG(Liquefied Natural Gas)タンク等の二重殻タンクを建設する場合には、金属製の内槽を形成するにあたり、複数の側板同士をサブマージアーク溶接装置によって接合している。
そして、特許文献1及び特許文献2には、溶接トーチを鉛直方向上方に向けて移動させながら溶接を行う立向きサブマージアーク溶接が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−307570号公報
【特許文献2】特開2011−88162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、立向きサブマージアーク溶接装置においては、溶接トーチの上方からフラックスを供給することから、供給されたフラックスが重力の影響によって対象部に沿って垂れ下がる。この結果、供給されたフラックスの一部が溶接トーチの下方に垂れることは避けられない。
このため、特許文献2に示すように、溶接トーチの下方に耐熱布を配置し、この耐熱布によってフラックスが周囲に漏れ出すことを抑制している。
【0005】
特許文献2に示すように、耐熱布は、押圧部によって側板(対象部)の表面に対して押圧されて支持されている。
しかしながら、押圧部にて耐熱布を対象部の表面に押圧した場合であっても、耐熱布と対象部の表面との間に僅かな隙間が生じてしまう。このため、僅かながら、フラックスが周囲に漏れ出す可能性があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、立向きサブマージアーク溶接装置において、耐熱布と対象部の表面との間に形成される隙間からフラックスが漏れ出すことを抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、鉛直方向上向きに溶接トーチを移動させながら対象部に対して溶接を行うサブマージアーク溶接装置であって、上記溶接トーチの先端に向けてフラックスを供給するフラックス供給手段と、上記溶接トーチの下方に配置される耐熱布と、当該耐熱布を上記対象部に対して押圧する押圧部と、上記押圧部と上記対象部との間に形成される隙間を埋める隙間充填部材とを備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記隙間充填部材が、上記耐熱布と上記対象部との間に配置されるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記隙間充填部材が、複数のワイヤからなるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、押圧部と対象部との間に形成される隙間を埋める隙間充填部材を備えている。このため、フラックスの漏れ通路となる押圧部と耐熱布の間の隙間が減少し、フラックスが耐熱布の周囲に漏れ出すことを抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態におけるサブマージアーク溶接装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるサブマージアーク溶接装置が備える耐熱布、ワイヤ及び押圧部を抜き出した斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるサブマージアーク溶接装置が備える押圧部が耐熱布を押圧する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るサブマージアーク溶接装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、本実施形態のサブマージアーク溶接装置は、LNGタンク等の内槽の形成にあたり、複数の側板の接合を行うものとして説明する。
【0014】
図1は、本実施形態のサブマージアーク溶接装置1の概略構成を示す模式図である。図1において、(a)が側板X(対象部)から離間した状態を示し、(b)が側板Xに対して溶接を行っている状態を示す図である。
【0015】
図1に示すように、サブマージアーク溶接装置1は、溶接トーチ2と、フラックス供給部3と、耐熱布4と、ワイヤ5(隙間充填部材)と、押圧部6と、側部プレート7と、昇降装置8とを備えている。
【0016】
溶接トーチ2は、溶接ワイヤと側板Xとの間にアークを発生させるものである。この溶接トーチ2は、図1に示すように、ベース部10に対して固定されており、先端を側板X側に向けられるように水平配置されている。
なお、溶接トーチ2には、不図示の電源装置と電気的に接続するための接続ケーブル2aが接続されている。そして、溶接トーチ2には、接続ケーブル2aを介して電力が供給される。
また、溶接トーチ2の先端部には、不図示の溶接ワイヤ供給装置が接続されている。そして、この溶接ワイヤ供給装置から溶接ワイヤが溶接トーチ2の先端に供給されるように構成されている。
【0017】
フラックス供給部3は、溶接トーチ2の上方に配置されており、溶接トーチ2の先端に向けてフラックスを供給するものである。
フラックスは、溶接トーチ2によって形成されるアークを安定させたり、脱酸や合金添加等の治金反応を行ったりするためのものである。このフラックスとしては、溶融フラックスやボンドフラックスが用いられる。
【0018】
耐熱布4は、溶接トーチ2の下方に配置され、側板Xの表面に押圧された状態にて側板X表面のフラックスを受ける布部材である。
この耐熱布4は、フラックスの温度以上の耐熱性能を有するグラスウールやアラミド繊維によって形成されている。
なお、図1に示すように、耐熱布4は、ベース部10に固定された支持部11に対して上端が固定されることにより支持されている。
【0019】
ワイヤ5は、押圧部6と側板Xとの間に形成される隙間を埋めるためのものである。
本実施形態のサブマージアーク溶接装置1においては、複数のワイヤ5が備えられており、これらのワイヤ5は、上端が支持部11に対して固定されることで支持されている。
また、ワイヤ5は、高温のフラックスが接触した場合であっても変質しない材料によって形成されており、具体的には、例えば硬質のステンレス鋼によって形成されている。
【0020】
図2は、耐熱布4、ワイヤ5及び押圧部6を抜き出して示す斜視図である。そして、図1及び図2に示すように、本実施形態において耐熱布4が、ワイヤ5と押圧部6との間に配置されている。つまり、側板Xの溶接時にワイヤ5が最も側板X寄りに配置される。この結果、ワイヤ5は、側板Xの溶接時に耐熱布4と側板Xとの間に配置される。
【0021】
押圧部6は、耐熱布4を側板Xに対して押圧するものである。この押圧部6は、耐熱布4を支えるアーム部6aと、当該アーム部6aと一体化された錘部6bとからなる押圧プレート6cを複数備えている。これらの複数の押圧プレート6cは、溶接時に側板Xの表面に沿って配列されるように水平配列されている。
【0022】
各押圧プレート6cは、水平配置された回動軸6dによって軸支されており、不図示のストッパによって回動範囲が規制されている。
【0023】
そして、図1(a)に示すように、側板Xが存在せずに重力の作用によって錘部6bが最も下方に位置する場合に、アーム部6aが、側板Xが配置される領域側に突出するようにアーム部6aが錘部6bに対して屈曲して取り付けられている。
【0024】
また、図1(b)に示すように、側板Xが存在する場合には、アーム部6aが耐熱布4及びワイヤ5を介して側板X側から抵抗力を受け、これによって錘部6bが上昇するように押圧プレート6cが回動される。これと同時に錘部6bが元の位置に戻ろうとするため、押圧プレート6cに耐熱布4を側板Xに向けて押圧するトルクが作用し、これによって耐熱布4が側板Xの表面に押圧される。
【0025】
側部プレート7は、フラックスが供給される範囲を規定するものであり、溶接トーチ2を挟んで一対設けられており、互いが水平方向に離間して対向配置されている。
また、これらの側部プレート7は、側板Xの表面と当接することによって、側板Xと溶接トーチ2との位置関係を固定する。
【0026】
昇降装置8は、ベース部10を昇降させることによって、溶接トーチ2と、フラックス供給部3と、耐熱布4と、ワイヤ5と、押圧部6と、側部プレート7を昇降するものである。
そして、側板X同士の溶接を行う場合には、昇降装置8は、ベース部10を鉛直方向上方に移動させることによって、溶接トーチ2を鉛直方向上向きに移動させる。
【0027】
このように構成された本実施形態のサブマージアーク溶接装置1では、昇降装置8でベース部10を鉛直方向上向きに移動させながら側板X同士の溶接接合を行う。
ここで、本実施形態のサブマージアーク溶接装置1は、ワイヤ5を備えている。このため、図3に示すように、側板Xと耐熱布4の間の隙間(押圧部6と側板Xとの間に形成される隙間)にワイヤ5が入り込み、フラックスの漏れ通路が減少する。このため、フラックスが耐熱布4の周囲に漏れ出すことを抑止することが可能となる。
【0028】
また、本実施形態のサブマージアーク溶接装置1においては、ワイヤ5が耐熱布4と側板Xとの間に配置される構成を採用している。
このため、従来、フラックスの漏れ通路となっていた耐熱布4と側板Xとの間に形成される隙間をワイヤ5によって直接埋めることができ、より確実にフラックスが漏れることを防ぐことが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態のサブマージアーク溶接装置1においては、ワイヤ5が耐熱布4と側板Xとの間に配置される構成を採用している。しかしながら、例えば、ワイヤ5を耐熱布4と押圧部6との間に配置される構成を採用することもできる。
このような構成を採用する場合には、押圧部6が耐熱布4を押圧する際に押圧部6と耐熱布4との間にワイヤ5が存在するため、ワイヤ5が存在しない場合よりも耐熱布4を側板Xに向けて強く押圧することができる。また、ワイヤ5が押圧部6と耐熱布4との間に形成される隙間を埋めるため、耐熱布4の全体が側板Xに向けて均等な力で押圧される。このため、従来、フラックスの漏れ通路となっていた耐熱布4と側板Xとの間に形成される隙間をなくすことができ、より確実にフラックスが漏れることを防ぐことが可能となる。
【0030】
また、本実施形態のサブマージアーク溶接装置1においては、本発明の隙間充填部材として、複数のワイヤ5を用いる構成を採用している。
このような構成を採用する本実施形態のサブマージアーク溶接装置1によれば、簡易な構成にて、フラックスの漏れ通路となっていた耐熱布4と側板Xとの間に形成される隙間を埋めることができる。
また、ワイヤ5は、可撓性を有する細い線状部材であることから、フラックスの漏れ通路となっていた耐熱布4と側板Xとの間に形成される隙間に容易に入り込むことができ、確実に当該隙間を埋めることが可能となる。
【0031】
なお、隙間充填部材としては、ワイヤ5に換えて、硬質な細いロッド状部材を用いることも可能である。
このような本発明の隙間充填部材としては、耐熱布4と側板Xとの間に形成される隙間を埋めることができる部材であれば良い。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態における支持部11等の形状や配置は一例であり、他の形状や配置を採用することも可能である。
また、溶接トーチ2やフラックス供給部3についても、形状や配置は一例であり、他の形状や配置を採用することも可能である。
【0034】
また、ワイヤ5や耐熱布4を溶接トーチ2の先端が向く方向に複数列に亘って配置する構成を採用することも可能である。
【0035】
また、上記実施形態においては、側板Xが本発明の対象物である例について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、側板X以外のものを本発明の対象物として溶接を行う構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1……サブマージアーク溶接装置、2……溶接トーチ、3……フラックス供給部、4……耐熱布、5……ワイヤ(隙間充填部材)、6……押圧部、7……側部プレート、8……昇降装置、X……側板(対象部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向上向きに溶接トーチを移動させながら対象部に対して溶接を行うサブマージアーク溶接装置であって、
前記溶接トーチの先端に向けてフラックスを供給するフラックス供給手段と、
前記溶接トーチの下方に配置される耐熱布と、
当該耐熱布を前記対象部に対して押圧する押圧部と、
前記押圧部と前記対象部との間に形成される隙間を埋める隙間充填部材と
を備えることを特徴とするサブマージアーク溶接装置。
【請求項2】
前記隙間充填部材は、前記耐熱布と前記対象部との間に配置されることを特徴とする請求項1記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項3】
前記隙間充填部材は、複数のワイヤからなることを特徴とする請求項1または2記載のサブマージアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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