説明

サルコペニア(加齢性筋肉減退性疾患)を治療するためのミオスタチン(GDF−8)拮抗物質の使用

本発明は、1種または複数のミオスタチン拮抗物質を用いてミオスタチンの活性を阻害することによりヒトまたは動物患者においてサルコペニアを治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星細胞の活性化により、特に、これに限定されないが、サルコペニアを治療するために筋肉再生を誘発する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋組織再生において関与する正常なメカニズムは最初に衛星細胞の補充を含む。筋肉衛星細胞は成熟筋原線維の基底膜と筋鞘の間に位置する独立した系統の筋原性前駆細胞である。(Bischoff、1994;GroundsおよびYablonka−Reuveni、1993)。再生サイクルの間、衛星細胞は活性化され、筋線維から再生部位まで移動して、筋芽細胞を生じさせる。ほとんどの増殖筋芽細胞は分化して筋管になる。筋管は成熟し、筋繊維中に組み入れられる。残りの筋芽細胞は筋繊維に戻り、衛星細胞集団を回復し、このようにして再生サイクルを継続する能力を回復する(図1−概略図)。
【0003】
最近の研究は、骨格筋再生の初期変化の間のマクロファージの役割も証明している(Merlyら、1999)。移植モデルは、マクロファージ浸潤の刺激の結果、衛星細胞の初期活性化がもたらされることを示し、このことはマクロファージが実際に筋肉再生において直接的役割を果たすことを示す(Lescaudronら、1997;Lescaudronら、1993)。
【0004】
筋肉再生サイクルは、個人の一生を通して連続して疲弊または損傷した筋肉組織が置換される場合に起こる。しかしながら、身体が老化するにつれ、筋肉再生サイクルは効率が悪くなる。サルコペニアは、その結果、筋肉の量および性能が低下するが、正常な老化に関連する。骨格筋はそれ自体まだ再生できるが、中高年の筋肉における環境は、筋肉衛星細胞活性化、増殖および分化に対して有効でなくなり、その結果、筋肉組織の純損失が出る(GreenlundおよびNair、2003)。
【0005】
骨格筋再生の間のマクロファージ、衛星細胞および筋芽細胞の移動を指示する化学シグナルの性質は完全には理解されていない。
【0006】
肝細胞成長因子(HGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)および機械成長因子(MGF)を包含するいくつかの成長因子は、衛星細胞活性化を調整することにより筋肉再生に積極的な影響を及ぼすことが証明されている(Flossら、1997; Millerら、2000、GoldspinkおよびHarridge、2004)。しかしながら、現在、成長因子は臨床的に用いられておらず、サルコペニアの治療は体操、または成長ホルモン補給に限定されている(GreenlundおよびNair、2003)。これらの治療法は限られた効果しか上げていない。
【非特許文献1】Bischoff、1994
【非特許文献2】GroundsおよびYablonka−Reuveni、1993
【非特許文献3】Merlyら、1999
【非特許文献4】Lescaudronら、1997
【非特許文献5】Lescaudronら、1993
【非特許文献6】GreenlundおよびNair、2003
【非特許文献7】Flossら、1997
【非特許文献8】Millerら、2000
【非特許文献9】GoldspinkおよびHarridge、2004
【非特許文献10】GreenlundおよびNair、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、サルコペニアにおいて衛星細胞活性化、増殖および分化により筋肉再生の有効な臨床治療を提供する必要がある。
【0008】
本発明の一つの目的は、この必要性を何らかの形で満足させること、および/または少なくとも有用な選択をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
意外にも、成長因子のTGE−ベータファミリーのメンバーである成長因子ミオスタチンは、はじめてサルコペニアの病因と関係があることが証明された。ミオスタチン活性の阻害はサルコペニアの動物モデルにおいて衛星細胞の活性化を著しく改善することが判明している。
【0010】
従って、本発明は、サルコペニアの治療法であって、有効量の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質を、これを必要とする患者に投与する段階を含む方法を提供する。本発明は、ヒトおよびヒト以外の患者の両方のサルコペニア、ならびに筋肉萎縮および衛星細胞が活性化するようになる能力の低下により特徴づけられるサルコペニア関連疾患の治療に有用である。
【0011】
ミオスタチン拮抗物質は、1種または複数の公知ミオスタチン阻害物質から選択することができる。例えば、米国特許第6096506号および米国特許第6468535号は、抗ミオスタチン抗体を開示している。米国特許第6369201号およびWO01/05820は、免疫反応を惹起し、ミオスタチン活性を遮断することができるミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーおよびミオスタチン免疫抱合体を教唆している。ミオスタチンのタンパク質阻害物質がWO02/085306において開示されており、これは、切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメイン、およびホリスタチンを含む。ミオスタチンペプチド由来の他のミオスタチン阻害物質が公知であり、例えば、ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質(WO00/43781);ミオスタチンの優性阻害物質(WO01/53350)を含み、ピエドモンテーゼ対立遺伝子(313位のシステインがチロシンで置換されている)およびアミノ酸位置335から375またはその間の位置のいずれかでC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドを含む。US2004/0181033も、アミノ酸配列WMCPPを含む小ペプチドであって、ミオスタチンと結合でき、ミオスタチンを阻害できる小ペプチドを教唆している。
【0012】
好ましくは、1種または複数のミオスタチン拮抗物質は、アミノ酸335、350の位置またはその間にC末端切断を有するミオスタチンペプチドおよびピエドモンテーゼ対立遺伝子からなる群から選択される1種または複数の優性阻害を含む。
【0013】
1種または複数のミオスタチン拮抗物質は、配列番号8〜14のいずれか一つのポリペプチドあるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと95%、90% 85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列を含むミオスタチンスプライス変異体も含むことができる。
【0014】
1種または複数のミオスタチン拮抗物質は、配列番号16または配列番号18のポリペプチドあるいはそのフラグメントまたは変異体、あるいはこれと少なくとも95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列を含む、ミオスタチン経路に関与する調節剤も含むことができる。
【0015】
ミオスタチン拮抗物質は、アンチセンスポリヌクレオチド、干渉RNA分子、例えば、RNAiまたはsiRNA、あるいは抗ミオスタチンリボザイムであって、ミオスタチン遺伝子発現を阻害することによりミオスタチン活性を阻害するものも含むことができる。
【0016】
1種または複数のミオスタチン拮抗物質が抗体を含む場合、前記抗体は哺乳動物または非哺乳動物由来の抗体、例えば、サメ由来のIgNAR抗体であるか、あるいは抗体はヒト化抗体であるか、あるいは抗体由来の機能性フラグメントを含む。
【0017】
本発明はさらに、これを必要とする患者においてサルコペニアを治療するための医薬の製造における1種または複数のミオスタチン拮抗物質の使用を提供する。
【0018】
1種または複数のミオスタチン拮抗物質は、前記で開示されたミオスタチン拮抗物質の群から選択することができる。
【0019】
医薬は、局所または全身性投与用に処方することができ、例えば、医薬は筋肉中に直接注射するために処方することができるか、あるいは筋肉への全身性投与のための経口投与用に処方することができる。
【0020】
本発明はさらに、1種または複数のミオスタチン拮抗物質を医薬上許容される担体とともに含む組成物であって、これを必要とする患者におけるサルコペニアの治療において用いられる組成物を提供する。
【0021】
本発明はさらに、これを必要とする患者におけるサルコペニアの治療において用いられる1種または複数のミオスタチン拮抗物質を提供する。
【0022】
定義
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「サルコペニア」とは、老いにより引き起こされる筋肉量および性能における減退、ならびに筋肉萎縮および衛星細胞の活性化されるようになる能力の低下により特徴づけられるサルコペニア関連状態を意味する。
【0023】
本明細書および請求の範囲全体庭田って用いられる「肥大」とは、細胞サイズの増加を意味する。
【0024】
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「過形成」とは、細胞数の増加を意味する。
【0025】
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「筋肉萎縮」とは、使用しない結果起こる筋肉組織の消耗または喪失を意味する。
【0026】
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「阻害物質」または「拮抗物質」とは、タンパク質の活性を全体として、または一部のいずれかで減少させる働きをする任意の化合物を意味する。これは、タンパク質に結合し、タンパク質の活性を直接阻害するか、またはタンパク質の産生を減少させるか、またはその産生を増大させる働きをして、これにより存在するタンパク質の量に影響を及ぼし、その活性を減少させる化合物を包含する。
【0027】
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「遺伝子発現」とは、転写の開始、DNAの切片をmRNA中に転写すること、およびmRNAをポリペプチド中に翻訳することを意味する。
【0028】
本明細書および請求の範囲全体にわたって用いられる「含む」とは、「少なくとも一部において〜からなる」、すなわち、この語を含む独立した請求項を解釈する場合、各請求項においてこの語より始まる特性はすべて存在する必要があるが、他の特性も存在し得ることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、最初に、ミオスタチンがサルコペニアの病因に関連することを示す。特に、ミオスタチンは衛星細胞活性化、増殖および分化、したがってサルコペニアならびに骨格筋萎縮および衛星細胞の活性化されるようになる能力の減少により特徴づけられるサルコペニア関連疾患における筋肉再生の負の調節因子である。
【0030】
ミオスタチンは筋肉成長の調節に関与する公知成長因子である。特に、ミオスタチンは成長因子のTGF−βファミリーのメンバーであり、筋形成の有効な負の調節因子である(McPherronら、1997)。
【0031】
ミオスタチンに関するノックアウトマウスは、その全身にわたって筋肉量が著しく増大している。ミオスタチンゼロマウスは正常なマウスよりもほぼ30%重い体重を有し、筋繊維過形成および肥大のために個々の筋肉重量において2〜3倍の増加を示す。ミオスタチンにおける自然突然変異は、例えば、ベルギー・ブルーおよびピエドモンテーゼ種のウシなどの「筋肉倍増」表現型の原因として特定されている(McPherronら、1997b、Kambadurら、1997、Grobetら、1997)。
【0032】
最近の研究は、ミオスタチンが、筋形成の増殖および分化段階の両方を調節することによる細胞周期の進行および機能の有効な調節物質であることを示唆している(Langleyら、2002;Thomasら、2000)。幾つかの研究は、胚筋形成の間だけでなく、出産後の筋肉成長おいてのミオスタチンの役割を証明している。Wehlingらによる研究(Wehlingら、2000)およびCarlsonらによる研究(Carlsonら、1999)は、マウスにおける後肢懸垂による萎縮関連筋肉喪失はエム・プランタリス(M.plantaris)における増加したミオスタチンレベルと関連することを示唆した。増加したミオスタチンレベルは、HIV患者において見られる重度の筋肉の萎縮にも関連する(Gonzalez−Cadavidら、1998)。筋肉不使用中に観察される高レベルのミオスタチンの一つの説明は、ミオスタチンが衛星細胞活性化の阻害物質として機能し得ることである。実際、これは、ミオスタチンがない結果、インビボにおける活性化衛星細胞のプールが増大し、衛星細胞の自己再生が向上することを証明する最近の研究により裏付けされている(McCroskeryら、2003)。
【0033】
今まで、動物の全身量の調節を助けるためのミオスタチン阻害物質の開発、または全身性筋肉萎縮に関連する状態の治療における使用をはじめとするミオスタチンの多くの潜在的用途が示唆されてきた。しかしながら、現在、臨床または獣医学的に使用されているミオスタチン阻害物質はない。加えて、ミオスタチンは老化において見られる筋肉量および機能の自然な減少(サルコペニア)に関連づけられていない。
【0034】
本発明は、したがって、サルコペニアの治療法であって、これを必要とする患者に有効量の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質を投与する段階を含む方法に関する。患者は好ましくはヒト患者であるが、本発明の方法はヒト以外の動物におけるサルコペニアを治療するためにも用いることができる。
【0035】
ミオスタチン拮抗物質は、全体としてまたは一部分においてミオスタチンの活性を阻害できる1種または複数の分子から選択することができる。
【0036】
特に、ミオスタチン拮抗物質は、任意の1種または複数の公知ミオスタチン拮抗物質から選択することができる。例えば、US6096506およびUS6468535は、抗ミオスタチン抗体を開示している。US6369201およびWO01/05820は、ミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーおよびミオスタチン免疫抱合体であって、免疫反応を惹起し、ミオスタチン活性を遮断できるものを示唆している。ミオスタチンのタンパク質阻害物質は、WO02/085306において開示され、これは、切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメイン、およびホリスタチンを包含する。ミオスタチンペプチド由来の他のミオスタチン阻害物質は公知であり、例えば、ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質(WO00/43781);ミオスタチンの優性阻害物質(WO01/53350)を包含し、これはピエドモンテーゼ対立遺伝子(313位のシステインはチロシンで置換されている)および335〜375のアミノ酸位置、またはその間の位置のいずれかでC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドを包含する。US2004/0181033は、アミノ酸配列WMCPPを含み、ミオスタチンと結合し、ミオスタチンを阻害できる小ペプチドも示唆している。
【0037】
好ましくは、ミオスタチン拮抗物質は優性阻害ペプチドである。これらは、親タンパク質の生物学的活性を阻害する働きをする親患者由来のペプチドである。前述のように、ミオスタチンの優性阻害ペプチドは公知であり、アミノ酸335、350の位置またはその間でC末端切断されている成熟ミオスタチンペプチドおよびピエドモンテーゼ対立遺伝子を含む(ここで、3位のシステインがチロシンで置換されている)。
【0038】
ミオスタチンは、最初は、N末端でセクレタリーシグナル配列を有する375アミノ酸前駆体分子として産生され、これは開裂されて、不活性プロフォームが残る。ミオスタチンはArg266でのフリンエンドプロテアーゼ開裂により活性化され、N末端プロドメイン(または潜在関連ペプチド(LAP)ドメイン)および成熟ミオスタチンドメインを放出するしかしながら、開裂後、プロドメインは不活性複合体中の成熟ドメインと結合したままであり得る(Leeら、2001)。従って、プロドメイン、またはそのフラグメントは本発明においてサルコペニアを治療するためのミオスタチン拮抗物質として用いることもできる。
【0039】
ミオスタチン拮抗物質としての働きもするミオスタチンのスプライス変異体が特定されている(PCT/NZ2005/000250)。ミオスタチンスプライス変異体(MSV)は、第三エクソンの大部分を除去する余分なスプライス事象に起因する。結果として得られるMSVポリペプチド、ヒツジ(oMSV;配列番号8)およびウシMSV(bMSV;配列番号11)は最初の257アミノ酸を天然のミオスタチンプロペプチドと共有するが、独自の64アミノ酸C末端(ヒツジoMSV65、配列番号9およびウシbMSV65、配列番号12)を有する。mRNAは195ヌクレオチドで異なるが、MSVにおける257位のバリン残基は標準ミオスタチン配列と同じである。ベルギー・ブルーウシのMSV(bMSVbb;配列番号7)は7aa短い314aaタンパク質(配列番号14)をコードするが、タンパク質配列の残りは調べた2種において完全な相同性を示した。独自の65aaC末端ペプチド(配列番号12)がbMSVbbにおいて保存される。
【0040】
フリンエンドペプチダーゼを含むプロペプチド転換酵素(PC1−7)の(KERK)開裂部位が271〜274位で存在することも判明している。274位での開裂により、47アミノ酸C末端成熟MSVフラグメント(ヒツジoMSV47、配列番号10およびウシbMSV47、配列番号13)が放出される。
【0041】
65アミノ酸MSVフラグメント(配列番号12)はインビトロでミオスタチン拮抗物質としての働きをすることが証明されており(PCT/NZ2005/000250)、MSVはインビトロでミオスタチン活性を調節する働きをすることが予想される。従って、本発明において開示されるMSVポリペプチドはミオスタチンを阻害し、かくして本発明に従ってサルコペニアを治療するために用いることができる。
【0042】
もう一つ別のミオスタチン拮抗物質は、ミオスタチン遺伝子発現のモジュレーターである。ミオスタチン遺伝子発現は、転写および/または翻訳を妨害するポリヌクレオチドを導入することにより変更することができる。例えば、アンチセンスポリヌクレオチドを導入することができ、これは;アンチセンス発現ベクター、アンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド、アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシリボヌクレオチド、アンチセンスオリゴリボヌクレオチド、アンチセンスホスホロチオエートオリゴヌクレオチド、または当該分野において公知の任意の他の手段であって、アンチセンスポリヌクレオチドの有効性を向上させるための化学的修飾の使用を含むものを包含する。ミオスタチンのアンチセンス分子は、当該分野において公知の方法、例えば、(Rayburnら、2005)において記載されているもの、およびミオスタチン遺伝子配列の知見(McPherronら、1997)により産生することができる。
【0043】
任意のアンチセンスポリペプチドは問題になっているポリヌクレオチドに対して100%相補性である必要はないが、アンチセンスポリヌクレオチドが遺伝子と結合するか、または他の遺伝子の発現を実質的に中断することなく、mRNAが遺伝子発現を中断させることを可能にするために十分な同一性を有する必要があるだけであると理解される。5’未翻訳領域を含む、遺伝子に対して相補性であるポリヌクレオチドも、ミオスタチンタンパク質の翻訳を中断するために用いることができると理解される。同様に、これらの相補性ポリヌクレオチドは100%相補性である必要はなく、mRNAと結合し、他の遺伝子の翻訳を実質的に中断することなく翻訳を中断するために十分である必要がある。
【0044】
遺伝子発現の調節は公知技術に準拠することにより、当業者により理解されるように、RNA干渉(RNAi)または小干渉RNA(siRNA)をはじめとする干渉RNA分子の使用も含む(Renら、2006)。
【0045】
遺伝子発現の調節は、触媒RNA分子またはリボザイムの使用により行うこともできる。かかるリボザイムは、特異的に標的とされるRNA分子と組み合わせるために設計できることは当該分野において公知である。リボザイムは標的RNAと結合し、開裂させる(Nakamuraら、2005)。
【0046】
遺伝子発現の調節およびRNA処理の分野において公知の任意の他の技術は、ミオスタチン遺伝子発現を調節するためにも用いることができる。
【0047】
ミオスタチンのさらなる拮抗物質は、ミオスタチン受容体由来のペプチドである。このような受容体由来のフラグメントは一般に、ミオスタチン結合ドメインを含み、これはその後、野生型ミオスタチンと結合し、阻害する。ミオスタチン受容体はアクチビンIIB型であり、そのペプチド配列は(Leeら、2001)において記載されている。従って、当業者らは、不必要な実験を行うことなく、かかる受容体拮抗物質を製造できる。
【0048】
別のミオスタチン拮抗物質は、抗ミオスタチン抗体を含む。ミオスタチンに対する抗体は、前述のように、かかる抗体の製造法同様、当該分野において公知である。抗体は、哺乳動物または非哺乳動物抗体、例えば、サメから得られるIgNARクラスの抗体;またはミオスタチンと結合できる、かかるタンパク質由来のフラグメントまたは誘導体などである。
【0049】
ミオスタチンシグナル伝達経路に関与する他の分子、特に、ミオスタチンに対して拮抗作用を有する分子は本発明における使用に適していると理解される。「マイティー」と呼ばれ、PCT/NZ2004/000308に開示されているこのようなペプチドは、筋肉成長を促進する働きをする。「マイティー」発現は、ミオスタチンにより抑制され、従って、同じシグナル伝達経路に関与する。従って、ミオスタチンを直接阻害する代わりに、ミオスタチンのシグナル伝達作用に対抗するペプチド、例えば、「マイティー」を用いてサルコペニアを治療できると理解される。
【0050】
「マイティー」遺伝子(ヒツジ;配列番号15およびウシ;配列番号17)をコードするポリヌクレオチドを、「マイティー」の永久的または一過性発現のいずれかを有する筋肉部位で、局所遺伝子療法に用いることができるか、あるいは「マイティー」タンパク質(ヒツジ;配列番号16およびウシ;配列番号18)を直接使用できることが期待される。遺伝子コードにおける余剰のために、本質的に同じ活性を有し、配列番号15〜18において開示されているものと同一でな配列を製造できる。さらに、同じ本質的機能を有する重要なドメインのいずれにおいても変化を有さないペプチドも作成できる。変化は、挿入、欠失、または1つのアミノ酸残基からもう一つ別のものへの変化を含むことができる。このようなバリエーションは本発明の範囲内に含まれる。
【0051】
本発明は、ミオスタチン拮抗物質がサルコペニアを治療でき、従って、公知または開発された任意のミオスタチン拮抗物質はこの方法における使用に適しているという知見に基づく。これは、ミオスタチンと結合できる任意の分子、例えば、イー・コリ(E.coli)から得られるIMM7免疫タンパク質、または当該分野において公知の任意の他の種類の結合タンパク質を包含する。ミオスタチンと結合し、阻害できる他のペプチドは公知であり、例えば、アミノ酸WMCPPを含有するペプチドである(US2004/0181033)。ミオスタチンを阻害できる任意の化合物は本発明の方法および医薬において有用であると理解される。
【0052】
本発明の方法において有用なミオスタチン拮抗物質は、以下に議論されるようにサルコペニアを包含する筋肉再生の動物モデルにおいて、またはインビトロモデルにおいて生物学的活性について試験することができ、医薬組成物中に処方される適切に活性な化合物である。本発明の医薬組成物は、本明細書において記載される1種または複数のミオスタチン拮抗物質に加えて、医薬上許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤または当該分野において周知の他の物質を含むことができる。このような物質は、非毒性であるべきであり、活性成分の有効性を妨害すべきでない。担体または他の物質の厳密な性質は、医薬組成物の所望の性質、および、例えば、経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、局所、鼻、肺、筋肉内または腹腔内などの投与経路に依存するであろう。
【0053】
経口投与用医薬組成物は、錠剤、ロゼンジ、カプセル、粉末、顆粒または液体形態であり得る。錠剤または他の固体投与形態は通常、固体担体、例えば、ゼラチン、デンプン、マンニトール、結晶性セルロース、または医薬製造において一般的に用いられる他の不活性物質を含む。同様に、液状医薬組成物、たとえば、シロップまたはエマルジョンは、一般的に、液体担体、例えば、水、石油、動物性または植物性油、鉱油または合成油を含む。
【0054】
静脈内、皮膚、皮下、皮内または腹腔内注射に関して、活性成分は、非経口的に許容される水溶液であって、発熱因子を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する水溶液の形態である。
【0055】
鼻または肺投与に関して、活性成分は、吸入に適した微粉末または溶液または懸濁液の形態である。あるいは、活性成分は、鼻粘膜への直接適用に適した形態、例えば、軟膏またはクリーム、鼻スプレー、点鼻薬またはエアゾルの形態であってよい。
【0056】
1種または複数のミオスタチン拮抗物質のサルコペニアを治療する能力は、Kirk(2000)の方法に従った高齢マウスモデルにおいて証明することができる。
【0057】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の医薬組成物と同時投与して、治療計画に対して相加効果または相乗効果をもたらすことができる1種または複数の筋肉成長因子の使用を想定している。このような成長因子は、HGF、FGF、IGF、MGF、成長ホルモンなどからなる群から選択することができる。このような物質は、本明細書において記載される少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質と分離、連続、または同時のいずれかで投与することができる。
【0058】
本発明の医薬組成物の投与は、好ましくは「予防上有効な量」または「治療上有効な量」であり、これは個体に対して有益性を示すために十分である。投与される実際の量、ならびに投与速度および時間経過は、治療されるサルコペニアの性質および重さに依存する。治療の処方、例えば、用量の決定などは、一般的な開業医および他の医師の責任の範囲内であり、典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および実施者に公知の他の因子を考慮する。前述の技術およびプロトコルの例は、レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)、第16版、Oslo、A.(編)、1980において見出すことができる。
【0059】
本発明はさらに、これを必要とする患者においてサルコペニアを治療するための医薬の製造における1種または複数のミオスタチン阻害物質の使用にも関する。1種または複数のミオスタチン拮抗物質は前記のミオスタチン拮抗物質の群から選択することができる。
【0060】
医薬は、局所または全身性投与用に処方することができ、例えば、医薬は筋肉中に直接注射するために処方することができるか、または筋肉に全身性送達するための経口投与用に処方することができる。
【0061】
医薬は、さらに、サルコペニアの治療に対して相加効果または相乗効果をもたらすために、HGF、FGF、IGF、MGF、成長ホルモンなどからなる群から選択される1種または複数の追加の筋肉成長促進化合物を含むことができる。医薬は、1種または複数のミオスタチン拮抗物質および1種または複数の筋肉成長促進化合物と分離、連続または同時投与するために処方することができる。
【0062】
理論に拘束されないが、ミオスタチン拮抗物質は、衛星細胞活性化、増殖および分化を惹起することにより、サルコペニアの治療において有効であると考えられる。
【0063】
例えば、ミオスタチン活性の阻害は、筋肉再生に対して直接影響を及ぼす。特に、衛星細胞および筋芽細胞移動は、ミオスタチンが存在しないか(ミオスタチンゼロマウス)、またはミオスタチン拮抗物質を用いて阻害される場合に増大する。加えて、衛星細胞活性化は、はじめて、老化筋肉において顕著に増加することが証明された。
【0064】
加えて、ミオスタチン活性の阻害は、マクロファージ補充に対して直接影響を及ぼすことがはじめて証明されている。特に、マクロファージの数および再生部位への移動時間は、ミオスタチンが存在しないか(ミオスタチンゼロマウス)、またはミオスタチン拮抗物質を用いて阻害される場合に増大する。前述のように、マクロファージは衛星細胞活性化に関与すると考えられる。
【0065】
従って、ミオスタチンの阻害は、衛星細胞移動および活性化を増加させるために直接作用し、またマクロファージ補充により衛星細胞活性化に対して間接的に作用するようである。
【0066】
ミオスタチンゼロマウスにおける結果は、ミオスタチン活性の阻害の結果、衛星細胞活性化、増殖および分化が増大することを間接的に証明する。これは、ミオスタチンの阻害が、正常なミオスタチンレベルを有する動物において衛星細胞活性化の増大に有用であることを示唆する。しかしながら、衛星細胞は胚起源であり、ミオスタチンゼロマウスは胚形成期で衛星細胞の有意に高次の集団を有するので、ミオスタチンゼロ表現型は野生型動物において複製することができる。これは、衛星細胞の実際の数がミオスタチンゼロ基底レベルまで増大させることができないためだけでなく、筋肉細胞再生サイクルそれ自体がミオスタチンゼロマウスにおいてさらに有効であるためである。加えて、ミオスタチンは筋肉以外の組織において見出されるので、ミオスタチン活性の部分的ノックアウトは不都合な副作用を有し得る。従って、ミオスタチン拮抗物質の使用によるミオスタチン活性の阻害の、高齢者における出産後の筋肉再生サイクルに対する効果は、予想するのが困難である。これは、示唆されたサルコペニアの治療は、正常な機能が損なわれた呼吸器および心血管機能の結果であるので、ミオスタチンの部分的ノックアウトでないことを示す、GoldspinkおよびHarridge、2004により立証されている。しかしながら、驚くべきことに、本発明はまず、ミオスタチン拮抗物質は不都合な副作用なしにサルコペニアを首尾よく治療するために使用できることを見出した。
【0067】
本発明は、概して、本出願の明細書において個々に、またはまとめて記載または指示されている部分、要素および特徴、および前記部分、要素または特性の任意の2つまたはそれ以上のいずれかまたはすべての組み合わせからなると言われ、本明細書において、本発明が関連する分野において公知の同等物を有する具体的な整数が記載されている場合、このような公知同等物は個々に記載されているように本発明に組み入れられると見なされる。
【0068】
本発明は、前記事項にあり、また以下の実施例において記載されている構造も想定する。
[実施例]
【実施例1】
【0069】
ミオスタチンは衛星細胞活性化を調節する。
方法
衛星細胞のインビボBrdU標識
衛星細胞活性化を、インビボでの5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン(BrdU)標識により調査した。野生型およびミオスタチンゼロマウスにBrdU(Roche)(30 mg/kg)を単一パルスとして2時間腹腔内投与した後、安楽死させた。Yablonka−ReuveniおよびNameroff(1987)の適応プロトコに従って衛星細胞を単離した。簡単にいうと、1および6月齢の野生型およびミオスタチンゼロマウス(1群あたりn=10)をCOガス、続いて頸椎脱臼により殺した。後肢筋肉をばらばらにし、細かく切り刻み、ダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)中0.2%(w/v)1A型コラゲナーゼ(>260 CDU/mg、Sigma)中で90分間37℃で消化した。筋肉スラリーを摩砕し、次いで70μMフィルター(BD Biosciences)に通した後、70%および40%Percoll勾配(Sigma)上にロードし、2000×gで20分間25℃で遠心分離した。2つの勾配溶液間の界面を回収し、細胞をPBS中に再懸濁させた。BrdU取り込みを検出するために、In Situ Cell Proliferation Kit、FLUOS(Roche)を使用した。細胞を30分間、氷上70%エタノール中に固定し、2N HCL + 0.5 % Triton X−100で30分間室温(RT)で処理した後、0.1 M四ホウ酸二ナトリウム緩衝液(pH 8.5)中で中和した。細胞を0.5%PBS中Tween−20中に透過化させ、45分間モノクローナル抗BrdU−FLUOS抗体(1:25、Roche)とともにインキュベーション緩衝液(Roche)中、37℃でインキュベートした。細胞をFACScan(Beckton−Dickinson)フローサイトメーターにより分析した。
【0070】
単一筋原線維単離および培養
単繊維をすでに記載したRosenblattら(1995)と同様にして単離した。 簡単に言うと、1および24月齢野生型およびミオスタチンゼロマウスをCOガス、次いで頸椎脱臼により安楽死させた。TAをばらばらにし、ダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)(Invitrogen)中0.2%(w/v)1A型コラゲナーゼ(>260 CDU/mg、Sigma)中で60分間37℃で消化した。筋肉をDMEM + 10%ウマ血清(HS) + 0.5%ニワトリ胚抽出物(CEE)に移し、穏やかに摩砕することにより繊維を分離した。単離された繊維を、10%マトリゲル(Becton Dickinson)でコーティングされた4穴チャンバースライド(Becton Dickinson)に移し、37℃で10分間4%PBS中パラホルムアルデヒド中で固定するか、またはDMEM + 10% HS + 0.5% CEE + BrdU(1:1000)(Roche)中、48時間37℃、COで培養した。
【0071】
ミオスタチン拮抗物質(アミノ酸350でC末端切断されたミオスタチンの優性阻害ペプチド、本明細書において、以下「350」または「350タンパク質」と称する)の衛星細胞活性化に対する影響を決定するために、6月齢野生型マウスのTA筋肉から得られる単一筋繊維を5μg/mlまたは10μ/mlのいずれかの350の存在下、培地中、32時間培養し、メタノールで固定し、PBS中で洗浄した。固定された繊維を1:50希釈度の抗PCNA抗体で0.35%カラギーナンラムダ中一夜インキュベートした。ヤギ抗マウス−alexa fluor546を用いて初代抗体を検出した。PCNA陽性活性化衛星細胞を顕微鏡下で計数し、合計筋核のパーセントとして表した。
【0072】
衛星細胞は、CD34抗体で、Beauchampら(2000)の適応法に準拠して検出された。簡単にいうと、繊維をパラホルムアルデヒドで固定し、PBS中で洗浄し、PBS中0.5% TritonX−100中で10分間透過化し、PBS中10%正常ヤギ血清中で30分間室温で遮断した。ラット抗マウスCD34モノクローナル抗体(クローンRAM34;PharMingen)(PBS中0.35%カラギーナンラムダ(Sigma)中1:100)を一夜導入した。ビオチニル化ヤギ抗ラットIgGポリクローナル抗体(Amersham)をPBS中0.35%カラギーナンラムダ(Sigma)中1:300で、2時間室温で用い、続いてストレプトアビジン接合Alexa Fluor 488(Molecular Probes)をPBS中0.35%カラギーナンラムダ(Sigma)中1:4で、1時間室温で用いて、初代抗体を検出した。繊維をDAPI(PBS中1:1000)で5分間対比染色した後、蛍光封入剤(Dako)でマウントし、Olympus BX50顕微鏡およびSPOT RTカメラおよびソフトウェアを用いて調べた。
【0073】
BrdUを組み入れた細胞を検出するために、5−ブロモ−2’−デオキシ−ウリジン標識および検出キット(Roche)プロトコルに従った。繊維をDAPI(PBS中1:1000)で5分間対比染色した後、蛍光封入剤(Dako)でマウントし、Olympus BX50顕微鏡およびSPOT RTカメラおよびソフトウェアを用いて調べた。
【0074】
ミオスタチンによる衛星細胞活性化の阻害。
前述のようにして単一筋繊維を4週齢野生型マウス(n=3)から単離した。繊維を3分間付着させたままにし、次いで500μlの繊維媒体(FM)[DMEM、10%(v/v)ウマ血清(HS)、0.5% (v/v)ニワトリ胚抽出物(CEE)、(ペニシリン/ストレプトマイシン)]またはFMと増加する量の組み換えミオスタチン(Thomasら、2000)を添加した。イー・コリからの組み換えミオスタチンの精製は他のところに記載されている(Thomasら、2000)。細胞を72時間、37℃/5%COで繊維から移動させた。各ウェル中の移動した衛星細胞の数を倒立顕微鏡下で計数した。統計分析のために少なくとも30単繊維の複製を用いた。グループ間の差を、GenStat6を用いた二項分布を有する一般化線型モデルにより分析した。
【0075】
繊維上の活性化SC中のインビトロBrdU取り込み:
前述の方法により、4週齢野生型マウス(n=6)から筋繊維を単離し、10%マトリゲルコーティングされた4穴Lab−Tek(登録商標)チャンバースライドに付着させた。10μM BrdU(増加する濃度のミオスタチンを含むか、または含まない)を含むFM培地をウェルに添加し、繊維を48時間インキュベートした。救済実験において、単離された繊維を、1μg/mlミオスタチンを含有するFM中で24時間培養し、次いで半分を穏やかに洗浄し、FMに変え、一方、組み換えミオスタチンを有する培地中でもう半分をさらに24時間放置した。繊維をCarnoys固定剤で一夜−20℃で固定した。Roche(Roche Diagnostics Corporation International)細胞増殖キット1プロトコルを用いてBrdU取り込みおよび検出を行った。DAPI染色を用いてすべての筋核を可視化した。繊維上のBrdU陽性核(n=30)を計数し、100 DAPI陽性核あたりのBrdU陽性核の数を計算した。グループ間の差を、GenStat6を用いて、Poisson分布を有する一般化線型モデルにより分析した。
【0076】
結果
ミオスタチンは衛星細胞の活性化を阻害する
ミオスタチンの衛星細胞活性化に対する直接的影響を証明するために、本発明者らはミオスタチン処理後の衛星細胞増殖を評価した。野生型マウスから単離された個々の筋細胞を培養して、BrdU取り込みにより示されるように衛星細胞を活性化させ、増殖させた(ConboyおよびRand、2002;Rosenblattら、1995)。組み換えミオスタチンの不在下で、衛星細胞が増殖し、計数された6%の核におけるBrdUの取り込みに至った。しかしながら、濃度を増大させながら組み換えミオスタチンを培地に添加すると、衛星細胞の増殖は少なくなった。5μg/mlの濃度のミオスタチンで、1%未満の計数された核がBrdUを取り込んだ(P<0.001)。ミオスタチンの衛星細胞増殖に対する影響が可逆的であることを証明するために、添加された組み換えミオスタチンを除去し、組み換えミオスタチンの除去に際して、有意に多数の衛星細胞が増殖した(P<0.001、図2AおよびB)。
【0077】
これらの結果は、静止衛星細胞が細胞周期に参加することをミオスタチンが直接阻害することを示す。ミオスタチンの衛星細胞増殖に対する影響をさらに研究するために、衛星細胞を繊維から分離し、移動させ、その後増殖させた。図2Cは、組み換えミオスタチンを培地に添加しない場合、平均30の筋芽細胞が検出されたことを示す。しかしながら、移動した筋芽細胞の数は、ミオスタチンの濃度が増加するにつれて減少した。これらの結果は、ミオスタチンが衛星細胞の活性化を直接阻害することを明らかに示す。
【0078】
老化の間の衛星細胞数および活性化に対するミオスタチンの影響
ミオスタチンを衛星細胞において発現させ、幼齢ミオスタチンゼロマウスを用いた研究は、ミオスタチンがないと、単位繊維長あたりの衛星細胞数が多くなり、またその活性化される傾向が増加することを示した(McCroskeryら、2003)。ミオスタチンおよび加齢の衛星細胞挙動に対する影響を解明するために、衛星細胞の合計数およびその活性化されるようになる能力を1〜24月齢野生型およびミオスタチンゼロマウスから定量化した。
【0079】
単位繊維長あたりの衛星細胞数を分析するために、1および24月齢の野生型およびミオスタチンゼロTAマウスから単離された単繊維に付着した衛星細胞を、細胞表面マーカーCD34を用いて計数した(図3A)。結果は、繊維100筋核あたりの衛星細胞の平均数は、1月齢野生型繊維において観察された5匹から1月齢ミオスタチンゼロ繊維において観察された11匹まで有意に増加したことを示す(図3A)。1および24月齢野生型またはミオスタチンゼロ繊維間で顕著な変化は観察されないので、老化は衛星細胞数にほとんど影響を及ぼさないようである(図3A)。
【0080】
衛星細胞の数だけでなく、衛星細胞の活性も、筋肉が再生する能力に関連するので、インビトロおよびインビボBrdU標識を用いて、衛星細胞活性を調査した。単離された繊維に付着したインビトロBrdU標識衛星細胞は、1月齢野生型TAにおける繊維あたりの活性化された衛星細胞の平均パーセンテージは6.5%であるのに対して、1月齢のミオスタチンゼロTA筋肉においては10%であったことを示す(図3B)。しかしながら、老化の間に、衛星細胞活性化は、野生型およびミオスタチンゼロの両方の24月齢マウスにおいて減少した(図3B)。24月で、野生型繊維に比べて、ミオスタチンゼロ繊維において依然として2倍の数の活性化された衛星細胞があることは注目に値する。最後に、衛星細胞が活性化されるようになる傾向も、インビボBrdU取り込みを用いて測定した。BrdU標識された衛星細胞のFACS分析は、インビトロ標識衛星細胞と類似した傾向を示した。1月齢野生型筋肉からの活性化衛星細胞のパーセンテージは8.5%であるのに対して、1月齢ミオスタチンゼロ繊維においては14.8%であった。年齢が増加するにつれ、野生型およびミオスタチンゼロの両方の6月齢筋肉における活性化衛星細胞のパーセンテージはそれぞれ2%および5%まで有意に減少した(図3C)。ミオスタチンゼロマウスにおいて、対照と比較して2倍の数の活性化可能な衛星細胞があることは注目に値する。
【0081】
350は衛星細胞を活性化できる
ゼロマウスにおける衛星細胞の筋繊維あたりの数および活性化の程度をはじめとする生理学的特性は、出産後にミオスタチンと接触しないことよりも、胎児発育の間に介在する影響のためであるので、本発明者らは、ミオスタチン拮抗物質の野生型マウスからの衛星細胞活性化に対する影響を試験した。衛星細胞を含有する野生型マウスからの単一筋繊維を、増加する濃度の350とともにインキュベートした場合、衛星細胞活性化の数も増大することが観察された。この結果は、350が野生型筋肉において衛星細胞の有効なアクチベーターであることを裏付ける。これはさらに、ミオスタチンゼロマウスにおける増大した衛星細胞活性化が観察されることは、胎児のミオスタチンに対する非接触から生じる効果よりも、引き続き出産後もミオスタチンに非接触であるためであるらしいことを示す。350が静止野生型衛星細胞を活性化できるという知見は、ミオスタチンゼロマウスが老化に際して活性化衛星細胞のレベルを増大させるという観察と併せて、350または他のミオスタチン拮抗物質の投与は、高齢者におけるサルコペニアなどの疾患の開始を防止することが期待できることを示す。さらに、活性化された衛星細胞の割合がすでに有効である場合において、状態の重さを軽減することが期待できる(図4)。
【実施例2】
【0082】
ミオスタチン拮抗物質は、衛星細胞の炎症反応および走化性を増加させる
サルコペニアは加齢に関連する筋肉萎縮の形態である。加齢に伴って、筋肉量の減少は、筋繊維の萎縮を伴う。これらの事象は、筋繊維だけでなく、衛星細胞にも影響を及ぼし、筋肉が再生する能力の低下に至る。これは主に、衛星細胞が損傷および筋繊維の正常な補充の必要性に反応して活性化する傾向の喪失による。加えて、もう一つ別の再生の主な段階である筋肉損傷に対する反応も、高齢者において減少し、サルコペニアの症状の部分的原因である。ミオスタチンは筋形成の有効な負の調節剤であり、老化中の循環において増加することが証明されている。本発明者らは、増加したミオスタチンレベルは衛星細胞の活性化および炎症細胞の走化性に対して抑制的であることを裏付けるデータを提示する。本発明者らはさらに、強力なミオスタチン拮抗物質は衛星細胞活性化および炎症細胞の走化性のミオスタチンによる阻害を逆転または救済するという証拠も提供する。これらの驚くべき知見は、ミオスタチン阻害物質がサルコペニアの治療法としての働きをすることができることを示す。
【0083】
材料および方法
350の発現および精製
ウシミオスタチンの267〜350アミノ酸に対応するcDNA(以下、350または350タンパク質と称する)をPCR増幅し、pET16−Bベクター中にクローンした。350タンパク質の発現および精製を製造業者(Qiagen)のプロトコルに従って、自然条件下で行った。
【0084】
ノテキシンモデル
25%Hypnorm(クエン酸フェンタニル0.315 mg/mlおよびフルアニゾン10 mg/ml)および10%Hypnovel(Midazolam、5 mg/ml)の混合物を体重10gあたり0.1 mlで使用して、6〜8週令オスC57BL/10およびMstn−/−マウス(n=27/群)を麻酔した。100μlシリンジ(SGE、Australia)を用いて、右足の前脛骨筋に10μlの10μg/mlノテキシンを筋肉注射した。0日(対照)、および1、2、3、5、7、10、14または28(n=3/日)で安楽死させたマウスから前脛骨筋を取り出した。前脛骨筋をTissue Tec中にマウントし、液体窒素中で冷却されたイソペンタン中で凍結させた。老化した筋肉に対する350の試験に関して、1才の野生型マウスに前記のようなノテキシンを左前脛骨(TA)筋中に注射した。ノテキシンを注射されたマウスに、ミオスタチン拮抗物質、350を体重1グラムあたり6μgのミオスタチン拮抗物質、350、または等量の食塩水(対照マウス)を1、3、5、および7日に皮下注射するかのいずれかであった。350の筋肉治癒に対する影響を評価するために、マウスをノテキシンの注射後1、3、7、10および28日に安楽死させ、TA筋肉をばらばらにし、タンパク質単離または組織切断のために処理した。凍結された筋肉サンプルを−80℃で貯蔵した。7μmの横断面(n=3)を3レベルで、100μm離れて切り出した。切片を次いでヘマトキシリン、エオシンまたはVan Geisenで染色した。切片を次いで、DAGE−MTI DC−330カラーカメラ(DAGE−MTI Inc.)を取り付けたOlympus BX50顕微鏡(Olympus Optical Co.、Germany)を用いて調べ、撮影した。
【0085】
免疫組織化学
凍結筋肉切片(厚さ7μm)を2%パラホルムアルデヒド中で後固定し、次いでPBS中0.3%(v/v)Triton X−100中で透過化し、次いで10%(v/v)正常ヤギ血清−Tris緩衝塩溶液(NGS−TBS)で1時間室温で遮断した。切片を5% NGS−TBS中で希釈された抗体とともに一夜4℃でインキュベートした。使用した抗体は、マウス抗MyoD、1:25希釈(554130;PharMingen)活性化筋芽細胞の特異的マーカー(Cooperら、1999; Koishiら、1995);ヤギ抗Mac−1、1:400希釈(Integrin M−19;Santa Cruz)浸潤末梢マクロファージについて特異的な抗体(Springerら、1979);1:300希釈度のマウス抗ビメンチン抗体、線維芽細胞のマーカーであった。切片を3回PBSで洗浄し、次いでロバ抗マウスCy3接合体、1:400希釈度(715−165−150; Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA、USA)またはビオチニル化ロバ抗ヒツジ/ヤギIgG抗体1:400希釈度(RPN 1025; Amersham)のいずれかとともにインキュベートした。二次抗体インキュベーションに続いて、5% NGS−TBS中で希釈されたフルオレセイン(1:400希釈度(S−869; Molecular Probes))と接合したストレプトアビジンとともに30分間室温でインキュベートした。切片をPBS中で3回リンスし、DAPIで対比染色し、Dako(登録商標)蛍光封入剤でマウントした。前脛骨筋切片を落射蛍光顕微鏡により調べた。代表的な顕微鏡写真を、DAGE−MTI DC−330カラーカメラ(DAGE−MTI Inc.、IN、USA)を取り付けたOlympus BX50顕微鏡(Olympus Optical Co.、Germany)で撮影した。Scion画像化プログラム(NIH)を用いて、Mstn−/−および野生型マウスから、あらかじめ免疫組織化学について使用した5つのランダム筋肉切片について平均筋肉面積を測定した。
【0086】
走化性分析
一次筋芽細胞を4〜6週齢マウスの後肢筋肉から、公開されたプロトコル(Allen ら、1997;Partridge、1997)に従って培養した。簡単に言うと、筋肉を細かく刻み、0.2%コラゲナーゼ1A型中で90分間消化した。コーティングされていないプレート上で3時間プレプレートすることにより培養物を筋芽細胞について濃縮した。筋芽細胞培養物を10%マトリゲルコーティングされたプレート上、37℃/5% COで20%ウシ胎仔血清(FCS)、10%HSおよび1% CEEで補足された成長培地(GM)中に保持した。培養物純度の程度を培養物中48時間後のMyoD発現のフローサイトメトリー分析により評価した。トリプシンを用いて細胞を収穫し、10細胞/200μlの濃度で懸濁し、一夜5mlの70%エタノール中、−20℃で固定した。染色は、30分間室温で、ウサギポリクローナル抗MyoD、1:200(Santa Cruz)を用い、続いてAlexa fluor 488抗ウサギ抱合体、1:500(Molecular Probes)を用いて行った。分析は、各分析において集められた10細胞的事象に関して2通りで行われた。順方向および側面散乱特性に関してゲートでコントロールすることにより、デブリスを除外した。細胞をFACScan(Becton Dickinson)により分析した。マクロファージを腹腔洗浄技術により単離した。ザイモサン活性化マウス血清(ZAMS)を公開されたプロトコル(ColditzおよびMovat、1984)に従って調製した。直径7mmのウェルを用いたシングルブラインド−ウェルボイデン型チャンバー(Neuro Probe、MD USA)中で走化性実験を行った。8μm穴を有する標準的ポリカーボネートフィルター(Neuroプローブ;穴=表面積の6%)を完全に洗浄し、筋芽細胞分析に関しては、フィルターを1%DMEM中マトリゲルで30分間処理した。フィルターを次いで乾燥し、チャンバーの最上部および底部の間に置いた。
【0087】
筋芽細胞の走化性分析に関して、5%ニワトリ胚抽出物(CEE)+透析緩衝液を含有するDMEMを正の対照として使用した。組み換えミオスタチン(2.5および5μg/mlのミオスタチン)および350タンパク質(5倍ミオスタチン濃度、すなわち、12.5μg/mlおよび25μg/ml)を正の対照培地に添加した。プレーンDMEMを負の対照として使用した。24穴プレート上で、最下部ウェルを試験培地または対照培地で満たした。75000細胞を最上ウェルに添加した。プレートを7時間37℃、5%COでインキュベートした。膜の上面をあらかじめ湿らせた綿棒で洗浄して、移動しなかった細胞を除去した。膜を次いで固定し、Gillのヘマトキシリン中で染色し、スライド上にウェットマウントした。移動した細胞を膜ごとに4つの代表的領域で計数し、平均数をプロットした。
【0088】
マクロファージの走化性分析のために、33%ザイモサン活性化マウス血清(ZAMS)+透析緩衝液を含有するDMEMを正の対照として使用した。組み換えミオスタチン(5μg/mlミオスタチン)および350タンパク質(2および5倍ミオスタチン濃度、すなわち、10μg/mlおよび25μg/ml)を正の対照培地またはプレーンDMEMに添加した。24穴プレート上で、最下部ウェルを試験培地または対照培地で満たした。75000細胞を、ポリエチレンテレフタレート(PET)0.8μm膜を含有する最上ウェルに添加した。プレートを4時間37℃、5%COでインキュベートした。膜の上面をあらかじめ湿らせた綿棒で洗浄して、移動しなかった細胞を除去した。膜を次いで固定し、Gillのヘマトキシリン中で染色し、スライド上にウェットマウントした。移動した細胞を膜ごとに4つの代表的な領域で計数し、平均数をプロットした。
【0089】
一次線維芽細胞を子羊皮膚外植片から得た。10pg/mlの組み換えTGF−βを含有するDMEMを正の対照として使用した。組み換えミオスタチン(5μg/mlミオスタチン)を正の対照培地に添加した。24穴プレート上で、最下部ウェルを試験培地または対照培地で満たした。88000細胞を、ポリエチレンテレフタレート(PET)0.8μm膜を含有する最上ウェルに添加した。プレートを4時間、37℃、5%COでインキュベートした。膜の上面をあらかじめ湿らせた綿棒で洗浄して、移動しなかった細胞を除去した。膜を次いで固定し、Gillのヘマトキシリン中で染色し、スライド上にウェットマウントした。移動した細胞を膜ごとに4つの代表的な領域で計数し、平均数をプロットした。
【0090】
遺伝子発現のRT PCR
Trizol(Invitrogen)を用い、製造業者のプロトコルに従って、全RNAを単離した。Superscript前値増幅キット(Invitrogen)を用いて逆転写反応を行った。1μlの逆転写反応を用いてPCRを94℃で30秒、55℃で30秒、そして72℃で30秒行った。各遺伝子について、指数関数的増幅に必要なサイクル数を、様々なサイクルを用いて決定した。アガロースゲル上で、単位複製配列を分離し、ナイロン膜に移した。PCR産物をサザンブロットハイブリダイゼーションにより検出した。各データポイントを多数のグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAにより標準化した。
【0091】
結果
ミオスタチンは筋芽細胞、マクロファージおよび線維芽細胞の走化性に影響を及ぼす。
炎症反応は、例えば、損傷を受けたか、あるいは疲弊した筋肉細胞に反応した再生サイクルに関与する。免疫反応は、好酸球の存在により特徴づけられ、野生型およびMstn−/−筋肉の両方においてノテキシン注射後24時間以内に筋芽細胞移動が見られた(図5C)。2日までに、炎症反応および衛星細胞移動における野生型およびMstn−/−反応間の差は顕著であり、Mstn−/−筋肉片の再生の部位で核の付着が顕著に増大していた(図5D、矢印)。観察された核の数の増加は、マクロファージおよび筋芽細胞の数の増加のためである。核の最高密度は、壊死性筋原線維の縁に沿って(図5D、矢印)、特に、Mstn−/−部分において見られた。3日までに、再生野生型筋肉部分も核の数が増大したが、依然としてMstn−/−マウスから集められた匹敵する組織においてよりもずっと少なかった(図5E)。ノテキシン注射後の単核細胞の付着は、野生型およびMstn−/−筋肉片の両方において5日で最高であった(図5F)。認められる主な効果は、マクロファージおよび筋芽細胞のMstn−/−筋肉片における再生部位への移動の促進であった。
【0092】
筋肉再生の間に、炎症細胞および衛星細胞は再生の部位へ移動する(Wattら、1994)。ミオスタチンの欠損が活性化衛星細胞または炎症細胞のいずれかの移動を促進するかどうかを究明するために、再生の部位での炎症細胞および筋芽細胞の割合を定量化した。免疫組織化学を使用して、筋芽細胞の特異的マーカーであるMyoDを検出し(Beauchampら、2000)、浸潤末梢マクロファージに関して、Mac−1を検出した(Kawakamiら、1995)。対照未処理筋肉片はMyoD免疫染色に関して陰性であることが判明した。筋肉片をDAPIで染色して、核の合計数を計数した。定量化の結果は、Mstn−/−再生筋肉において、野生型切片と比較して、2倍の数の筋原性細胞(MyoD陽性)(図6A)およびマクロファージ(Mac−1陽性)(図6B)が2日に再生の部位で存在することを示す。注射後2日から5日まで、Mstn−/−筋肉片は野生型筋肉よりも多くの筋芽細胞を有していた(図6A)。MyoD陽性細胞と同様に、ノテキシン損傷に反応して、Mstn−/−筋肉においてマクロファージの増大した再生部位への浸潤が、ずっと早期に見られた(2日)(図6B)。加えて、炎症細胞数は、Mstn−/−筋肉においてより迅速に減少し、このことは、炎症細胞反応の全プロセスがMstn−/−マウスにおいて加速されたことを示す(図6B)。
【0093】
Groundsら(Groundsら、1992)は、MyoDおよびミオゲニン遺伝子発現を筋肉再生の間の移動する筋芽細胞の非常に早期の検出のためのマーカーとして使用できることを証明した。従って、MyoDおよびミオゲニンの発現が再生組織において検出された。定量的RT−PCR結果は、筋肉調節因子myoDおよびミオゲニンの発現は、野生型筋肉と比較して、Mstn−/−筋肉においてより早期に発現されたことを裏付ける。高レベルのMyoD mRNAがMstn−/−筋肉においてノテキシン注射後12時間以内に検出された。しかしながら、野生型筋肉において、MyoD発現は、ノテキシン注射後1日までは検出不可能であった(図6C)。同様に、ミオゲニンについてのより高レベルのmRNAも再生Mstn−/−筋肉においてノテキシン注射後12時間以内に非常に早期に検出された。しかしながら、野生型再生筋肉において、ミオゲニンmRNAはノテキシン注射により引き起こされる筋肉損傷後1日まで検出されなかった(図6C)。このように、免疫組織化学および遺伝子発現分析からの結果は、Mstn−/−筋肉における再生部位への筋原性細胞の移動が増大し、促進されるということと一致する。
【0094】
老齢期で、骨格筋において衛星細胞活性化および炎症反応の減少が見られた。本明細書において提示されたデータに基づいて、本発明者らは、老化筋肉において見られるミオスタチンのレベルの増加は、損傷に反応して、また必要に応じて筋肉塊の減少を予防するために、衛星細胞が活性化される傾向の喪失の一因となることを提案する。サルコペニアにおいて見られるこれらの状態を逆転するために、本発明者らは老齢マウスをミオスタチン拮抗物質で処理した。
【0095】
350によるミオスタチン活性阻害の増大した炎症反応に対する有用な効果を証明するために、ノテキシン注射後に筋肉再生を受けるマウスを350タンパク質で処置し、炎症反応を測定した。350で処置された2日の損傷筋肉において、より高いパーセンテージのMac1陽性マクロファージが見られた(図7)。3日までに、パーセンテージは350処置筋肉において、食塩水で処置された3日の筋肉よりも低くなり、7日および10日の筋肉においてさらに低下し続けた。この結果は、350処置筋肉における2日までの早期またはより顕著なマクロファージの補充と、それに続く7日および10日までの補充の減少を示す。これらの結果は、350処置で促進された筋肉炎症プロセスを示す。ミオスタチン拮抗物質、例えば350が、ミオスタチンの阻害効果を減少させることによりマクロファージ応答を向上させる能力は、ミオスタチン阻害物質または拮抗物質の投与は、サルコペニアにかかっている人々に対して、老齢期の筋肉完全性を保持するために必要な炎症反応の復元により、有益な影響を及ぼすことを示す。
【0096】
筋芽細胞に加えて、線維芽細胞も再生部位に移動し、占拠する。筋肉再生中の線維芽細胞移動の動力学に対するミオスタチンの影響を調査した。図8において示されるように、ビメンチン抗体(線維芽細胞の特異的マーカー)での染色は、野生型筋肉と比較して、Mstn−/−マウスにおけるTA筋肉において線維芽細胞の付着が実質的に少ないことを示す。この結果は、線維芽細胞に関する移動分析についての以下のデータと合わせて、ミオスタチンは線維芽細胞の化学誘因物質として作用することを明らかに証明する。
【0097】
ミオスタチンによる筋芽細胞およびマクロファージの走化性の阻害および350によるその救済
24時間後にノテキシンにより損傷を受けた筋肉組織においてミオスタチンレベルにおいて著しい倍数の増加があることが証明されている(Kirkら、2000)。
【0098】
前述の結果は、Mstn−/−筋肉で、再生部位へのマクロファージの浸潤が増加し、筋芽細胞の移動が促進されることを示す。両細胞種はその動きを支配する走化性因子により直接影響を受けることが知られているので(Bischoff、1997;Jones、2000)、筋芽細胞由来の衛星細胞およびマクロファージの移動能力に対するミオスタチンの効果を調査した。ミオスタチンが走化性シグナルを妨害するかどうかを試験するために、ブラインドウェル走化性チャンバーを使用した。単離された筋芽細胞またはマクロファージを、フィルターを通って化学誘因物質(筋芽細胞についてCEE、マクロファージについてZAMS活性化血清)へ移動するその能力について評価した。単離された筋芽細胞は、フローサイトメトリーにより評価すると、90%筋原性(MyoD陽性)であることが判明した。図9において示されるように、5μg/mlミオスタチンをZAMS培地に添加することは、マクロファージ移動を完全に阻害する。5μg/mlミオスタチンを含有する培地に350タンパク質を添加する場合、ミオスタチンのマクロファージに対する化学阻害効果の顕著な救済が観察される(20倍増加)。この結果は、ミオスタチン阻害物質、例えば、350の投与は、ミオスタチンによるマクロファージ移動の阻害を減少させることにより、筋肉再生を促進できることを裏付ける。
【0099】
マクロファージ移動に対する影響に加えて、本発明者らはさらに、ミオスタチン拮抗物質、例えば350はミオスタチンの筋芽細胞の走化性移動に対する負の影響も減少させることができることを示す。組み換えミオスタチンを2.5および5μg/mlで正の対照培地に添加することは、それぞれ筋芽細胞移動の66および82%阻害に至る。350タンパク質が組み換えミオスタチンを含有する培地に添加される場合、ミオスタチンの筋芽細胞に対する化学阻害効果は、正の対照において観察されるのと同様のレベルまで救済され、かくして、ミオスタチン拮抗物質、例えば350は筋芽細胞移動を向上させることにより筋肉再生を有効に促進できることが示される(図10B)。ミオスタチン拮抗物質、例えば350がミオスタチンの阻害効果を減少させることにより筋芽細胞移動を向上させる能力は、ミオスタチン阻害物質の投与は、老齢期に筋肉完全性を維持するために必要な筋肉再生反応を再生することにより、サルコペニアにかかっている人々に対して有用な影響を及ぼすことを示す。
【0100】
ミオスタチンは線維芽細胞の化学誘因物質として作用する
マクロファージおよび筋芽細胞と対照的に、ミオスタチンは線維芽細胞の移動に関して走化性剤として作用する。このことは、ミオスタチンゼロ筋肉において線維芽細胞の再生部位への移動の減少が観察されることにより裏付けられる(図10A)。ミオスタチンの線維芽細胞に対する走化性効果を直接証明するために、組み換えミオスタチンを用いて移動分析をインビトロで行った。図10Aにおいて示されるように、ミオスタチンの添加は、緩衝液対照と比較して、線維芽細胞の走化性移動を増大させる。
【実施例3】
【0101】
ミオスタチンに対抗することは、線維症を軽減し、筋肉再生を向上させる
方法
切断損傷モデル
各マウス(野生型およびミオスタチンゼロ)の左前脛骨筋(TA)で3mmの横切開を行った。損傷後0、3、5、および7日に、野生型のTAに、体重1gあたり2μg/g(合計85μg/マウス)の350タンパク質または食塩水のいずれかを損傷部位に注射した(TA筋肉中)。損傷を受けていない右TAを対照として使用した。損傷および対照筋肉を切断後2、4、7、10および21日に集め、その重量を測定した。再生および再生切断筋肉組織におけるコラーゲン沈着の程度もVan Geisen染色により測定した。
【0102】
SE顕微鏡法
筋肉サンプルから脂肪および腱を除去し、2.5%(v/v)グルタルアルデヒドを含有する10 mlの0.1 Mリン酸塩緩衝液(pH 7.4)中に48時間穏やかに揺動させながら固定した。グルタルアルデヒドをPBS中1時間洗浄した後、50mlの2M NaOHに移し、5日間、一定の25℃でインキュベートした。サンプルを次いでPBS中で洗浄し、50mlの無菌蒸留水に移した。筋肉を一定の25℃でさらに4日間保持した。最初の36時間、水を12時間ごとに替え、次いでその後24時間ごとに替えた。筋肉を1%タンニン酸に2時間移し、次いでPBS中で3回洗浄した。筋肉を1%OsO4で2時間洗浄し、続いて上昇勾配のエタノール(50%〜100%)中に3回、それぞれ15分間浸漬することにより脱水した。二酸化炭素を用いて筋肉サンプルを乾燥し、金でコーティングした。10kVの加速電圧で走査型電子顕微鏡(HITACHI 4100、Japan)を用いて試験片を調べ、撮影した。
【0103】
コラーゲン蓄積を野生型対ゼロ切断TAにおいて、21日で、実施例2において記載するようにVan Geisenを用いて評価した。
【0104】
結果
ミオスタチンがない結果、筋肉再生が向上し、線維症が軽減される
サルコペニアの特質の1つは、線維症の増進による筋肉強度の喪失である。出産後老化の間の骨格筋の退化および再生の繰り返されるサイクルの結果、繊維性組織が蓄積される。線維症におけるミオスタチンの役割を評価するために、両筋肉遺伝子型の組織学をノテキシン注射後で比較した(実施例2における方法の項を参照)。28日で、損傷を受けた野生型筋肉からのヘマトキシリンおよびエオシンで染色された部分において瘢痕組織が観察され、一方、Mstn−/−筋肉部分においてはほとんど見られなかった(図11A)。結合組織の存在は、Van Geisenの染色によりさらに確認された(図11A)。28日での野生型筋肉部分はさらに大きなコラーゲンの部分を有し、従って、Mstn−/−筋肉と比較して、より多くの瘢痕組織が切断された野生型組織において見られた。この結果をさらに確認するために、走査型電子顕微鏡を用いて再生された筋肉を分析した。0日(対照)および24日の再生された筋肉走査型電子顕微鏡写真は、筋原線維により占められていた空間を取り巻く結合組織フレームワークを示す(図11A)。野生型もMstn−/−筋肉も、対照(損傷を受けていない)サンプルにおいて線維空洞のまわり肥厚性結合組織を有していなかった。しかしながら、筋肉再生の24日までに、緻密な結合組織の束状構造が野生型筋肉において観察されたが(図11A)、Mstn−/−筋肉においては観察されなかった。同様に、ミオスタチンゼロ対野生型マウスを比較する切断された筋肉モデルにおいて、28日の再生筋肉部位でのコラーゲン蓄積の程度は、ミオスタチンゼロマウスにおいて有意に減少した(データは省略)。これらの結果は、ミオスタチンがないと、筋肉再生後の瘢痕組織の減少につながることを裏付ける。これは、老化筋肉において瘢痕組織の減少を助け、かくしてサルコペニアの症状の軽減の助けることが期待できる。
【0105】
350処置は筋肉再生を増進し、線維症を軽減する
筋肉再生におけるミオスタチン拮抗物質、例えば350の有効性を研究するために、1才の野生型マウス(C57 Black)をノテキシンで傷つけ、350を注射した(実施例2の方法を参照)。ノテキシン損傷後、典型的には、結果として生じる浮腫のために筋肉重量はまず増加し、続いて損傷を受けた筋繊維が壊死し、損傷の部位から除去されるために減少する。この後、新しい線維の成長により筋肉重量は再び増加し始める。試験の結果は、350処置された筋肉は7および10日で対照の食塩水を注射された筋肉ほど多くの重量が減らないことを示す(図12)。これは、おそらくは損傷を受けた筋肉におけるより速い修復のためである。示された分子データ(図7)は、実際に350処置マウスにおいて、促進され、向上されたマクロファージ移動およびサルコペニアを治療するためのミオスタチン拮抗物質の使用に関連すると先に議論された、他の促進された筋肉再生プロセスの組み合わせのために、損傷を受けた筋肉はずっと速く再生されたという仮説を裏付ける。
【0106】
組織学的分析は、食塩水および350処置筋肉間の変動を確認した。ヘマトキシリンおよびエオシン染色は、食塩水処置筋肉と比較して、350で処置された筋肉中の壊死部分における、より早期の発生期筋繊維形成および関連するより早期の減少を示した(図13)。この結果は、350処置マウスにおける促進され、向上された筋肉再生を裏付ける。図9において示される組織学的データを分析して、全筋肉断面図の再生および非再生部分の両方を定量化した。筋肉部分は、一貫して、各筋肉の中腹部分から採取された。図14において示される分析は、7日で、食塩水処置されたマウスにおいて、350処置マウスに比べて非再生部分が増加することを示す。その結果、7日で350処置されたマウスと比較して、対照において再生筋肉は比較的少ない。同じ効果が、10日においても見られる。これらの結果は、食塩水処置対照と比較して、350処置筋肉において、非再生部分は減少するが、再生部分は増加することを裏付ける。
【0107】
加えて、コラーゲンを検出するVan Geisen染色は、ノテキシン投与後10および28日で、食塩水処置筋肉と比較して、350処置筋肉において、減少したレベルのコラーゲン堆積を示し、このことは、350処置は筋肉再生プロセス中に線維症を軽減したことを示す(図15)。この結果は、ミオスタチン拮抗物質、例えば、350は、筋肉再生中の瘢痕組織(線維症)形成を減少させることを示す。これは、ミオスタチン拮抗物質、例えば、350の投与は、老化筋肉において瘢痕組織の減少を助け、かくしてサルコペニアの症状を減少させることが期待できることを示す。
【0108】
Van Geisen染色された画像を用いて、ランダムに選択された再生繊維部分を測定して、ノテキシン投与後28日での線維サイズを評価した(図16)。この分析からの結果は、350処置筋肉からの再生された繊維は、食塩水処置された筋肉よりも明らかに大きかったことを示した。修復された筋繊維サイズの増加は、350によるミオスタチン機能の阻害による筋肉細胞における肥大の誘発を裏付ける。
【0109】
350処置マウスにおける増大した筋肉再生が一つには衛星細胞の増大した活性化によることをさらに裏付けるために、本発明者らは、Pax7およびMyoDタンパク質の発現について分子分析を行った。Pax7タンパク質は、衛星細胞のマーカーであり、MyoDの発現は、衛星細胞の活性化を示す。タンパク質分析は、衛星細胞および活性化の増大したレベルを裏付けた(図17)。Pax7レベル(図17A)は、350処置で、3、7、10、および28日でより高く、このことは、食塩水処置筋肉と比較して、衛星細胞活性化における増加を示す。加えて、350処置筋肉において、Pax7のレベルは7および10日間で増加したのに対して、食塩水処置筋肉においては減少が観察された。これは、350処置筋肉における10日付近での衛星細胞活性化の増加を示す。MyoDレベル(図17B)も、350処置で3、7、および10日で高くなり、このことは、食塩水処置筋肉と比較して筋形成が増大したことを示す。まとめて考えると、350処置組織におけるより高いPax7およびMyoレベルは、衛星細胞の活性化と、従ってその後の筋形成が増大するという観察を裏付ける。この結果は、350での処置は筋肉再生を促進し、増進させ、サルコペニアの症状を減少させることを裏付ける。
【0110】
350の局所適用は筋肉再生を増進させた
筋肉再生の増進において、筋肉再生部位での350の直接投与の有効性を評価するために、前記のようにして切断することにより傷を負わせた後で再生しているTA筋肉に350タンパク質を適用した。損傷を受けていない右TAを対照として使用した。損傷および対照筋肉を損傷後2、4、7、10および21日で集め、その重量を測定した。炎症浸潤による筋肉重量における初期増加は、350および食塩水を注射されたTAの両方において、切断後2および4日で観察された(図18)。損傷後7〜10日で、筋肉は350および食塩水注射されたTAの両方において、その正常な重量を回復する。しかしながら、損傷後21日で、350注射されたTAは食塩水処置筋肉と比較して筋肉重量において反映されるように筋肉サイズにおいて有意な増加を示す。
【0111】
考察
サルコペニアは筋肉量および強度の加齢に関連した損失である。筋肉量の減少は、一つには、衛星細胞活性化およびその結果として損傷後に筋肉が再生し、加齢中、長期にわたる筋肉補充の正常なプロセスを維持する能力が減少することにより引き起こされる。炎症反応の遅い反応速度および筋芽細胞反応の減少した数は、高齢期の減少した筋肉再生の主な原因となる因子である。最近、筋肉成長の有効な負の調整物質のレベルは、高齢の男性および女性において高いことが証明されている。ここで記録されているデータは、ミオスタチンが衛星細胞活性化および炎症反応を阻害することを明らかに示す。したがって、本発明者らは、ミオスタチンがサルコペニアの進行に関与することを提案する。ここで示されるデータは、ミオスタチンがないか、または350によるミオスタチン活性化の阻害の結果、筋肉萎縮の間の衛星細胞活性化および炎症反応が増加することを示す。350は衛星細胞を大いに活性化することができ、350の投与の結果、炎症反応が活性化され、衛星細胞活性化により駆動されるプロセスによる加齢の間に筋肉組織が再生され、補充される。これはさらに、再生部分へのマクロファージおよび筋芽細胞の両方の増進された走化性につながる。ミオスタチンがないことはさらに筋芽細胞の増殖の増加につながるので、これはさらに、筋形成の増加、筋損傷の修復および加齢中の筋肉の補充の増加につながる。実際に、本明細書に示されたインビボ試験データは、350投与は筋肉再生を増進できることを明らかに示し、従って、350および他のミオスタチン拮抗物質がサルコペニアの有益な治療選択肢であることを裏付ける。
【0112】
筋肉損傷および再生の繰り返されるサイクルのために、筋肉の繊維過多が増大し、筋肉強度の低下につながる。筋肉再生の間、筋肉再生の間、繊維過多は、浸潤する線維芽細胞が一因となる。本発明者らは、本明細書において、ミオスタチンが線維芽細胞移動の走化性物質としての働きをすることが明らかに示す。反対に、ミオスタチンがない結果、線維芽細胞が減少する。350を筋肉再生中に投与した場合、本発明者らは線維症における減少を観察した。従って、サルコペニア中の350投与はまた、加齢で起こる筋肉の線維過多を軽減するのを助け、老化筋肉において筋肉強度を増加させるであろう。
【0113】
結論
ミオスタチン拮抗物質は、老化筋肉において筋肉再生を増加させ、線維症を軽減することにより、筋肉を首尾よく改善することができる。従って、ミオスタチン拮抗物質は、サルコペニアの治療および/または予防に関して有益な治療選択肢を提供する。
【0114】
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Zimmers、T. A.、Davies、M. V.、Koniaris、L. G.、Haynes、P.、Esquela、A. F.、Tomkinson、K. N.、McPherron、A. C.、Wolfman、N. M.およびLee、S. J. (2002).ミオスタチンの全身性投与によるマウスにおけるカへキシーの誘発(Induction of cachexia in mice by systemically administered myostatin.)Science 296、148
特許文献
US 6 096 506、US 6 369 201、US 6 468 535、US 2004/0181033、US 2002/0181033、WO 02/085306、WO 01/53350、WO 01/05820、WO 00/43781、PCT/NZ2005/000250、PCT/NZ2004/000308
【0115】
本明細書において記載されるすべての文献は出典明示により本明細書の一部とされる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、これを必要とする患者に1種または複数のミオスタチン拮抗物質を投与することにより、サルコペニアを治療する方法を提供する。この方法は、老化した筋肉に改善された筋肉量をもたらし、再生筋肉組織においてコラーゲン形成を減少させ、これにより再生された筋肉組織の全体的な機能を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0117】
本発明を添付の図面を参照してさらに詳細に説明する。
【図1】筋肉再生における衛星細胞の役割のモデル図である。
【図2】(A)ミオスタチンによる衛星細胞活性化の阻害を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルコペニアを治療する方法であって、これを必要とするヒトまたはヒト以外の患者に、有効量の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質を投与する工程を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が:
・抗ミオスタチン抗体;
・免疫応答を惹起し、ミオスタチン活性を遮断できるミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーまたはミオスタチン免疫抱合体;
・切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメインおよびホリスタチンから選択されるミオスタチンのタンパク質阻害物質、あるいは該タンパク質阻害物質の機能的フラグメント;
・ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質;
・ピエドモンテーゼ対立遺伝子および335ないし375のアミノ酸位置でまたはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質;
・アミノ酸配列WMCPPを含み、ミオスタチンと結合でき、ミオスタチンを阻害できる小ペプチド;
・ミオスタチンのスプライス変異体;
・ミオスタチン経路の調節物質;および
・アンチセンスポリヌクレオチド、RNAi、siRNAまたは抗ミオスタチンリボザイムであって、ミオスタチン遺伝子発現の阻害によりミオスタチン活性を阻害できるもの
からなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質がピエドモンテーゼ対立遺伝子あるいは335ないし375のアミノ酸位置で、またはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質である請求項2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質がアミノ酸位置335または350でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドである請求項3記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、配列番号8〜14のポリペプチド、またはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列から選択されるミオスタチンのスプライス変異体である請求項2記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、配列番号16または配列番号18の「マイティー」ペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと少なくとも95%、90%、85%、80%、75%、または70%の配列同一性を有する配列を含むミオスタチン経路の調節物質である請求項2記載の方法。
【請求項7】
衛星細胞の活性化、ならびに再生筋肉における筋芽細胞およびマクロファージの移動を増大させるための請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
筋肉再生をさらに促進するために、HGF、FGF、IGF、MGFおよび成長ホルモンからなる群から選択される1種または複数の追加の成長促進化合物が、別々に、連続して、または同時のいずれかで、少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質と併用される請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
局所または全身投与のために少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が処方される請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、鼻、肺、筋肉内または腹腔内投与用に処方される請求項9記載の方法。
【請求項11】
これを必要とするヒトまたはヒト以外の患者におけるサルコペニアの治療用医薬の製造における少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質の使用。
【請求項12】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が:
・抗ミオスタチン抗体;
・免疫応答を惹起し、ミオスタチン活性を遮断できるミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーまたはミオスタチン免疫抱合体;
・切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメインおよびホリスタチンから選択されるミオスタチンのタンパク質阻害物質、あるいは該タンパク質阻害物質の機能的フラグメント;
・ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質;
・ピエドモンテーゼ対立遺伝子あるいは335ないし375のアミノ酸位置またはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質;
・アミノ酸配列WMCPPを含み、ミオスタチンと結合でき、ミオスタチンを阻害できる小ペプチド;
・ミオスタチンのスプライス変異体;
・ミオスタチン経路の調節物質;および
・アンチセンスポリヌクレオチド、RNAi、siRNAまたは抗ミオスタチンリボザイムであって、ミオスタチン遺伝子発現の阻害によりミオスタチン活性を阻害できるもの
からなる群から選択される請求項11記載の使用。
【請求項13】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、ピエドモンテーゼ対立遺伝子あるいは335ないし375のアミノ酸位置で、またはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質である請求項12記載の使用。
【請求項14】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が335または350のアミノ酸位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドである請求項13記載の使用。
【請求項15】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、配列番号8〜14のポリペプチド、またはその機能的フラグメントまたは変異体、またはこれと95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列から選択されるミオスタチンのスプライス変異体である請求項12記載の使用。
【請求項16】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が配列番号16または配列番号18の「マイティー」ペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと少なくとも95%、90%、85%、80%、75%、または70%の配列同一性を有する配列を含むミオスタチン経路の調節物質である請求項12記載の使用。
【請求項17】
医薬が、HGF、FGF、IGF、MGFおよび成長ホルモンからなる群から選択される1種または複数の追加の筋肉成長促進化合物をさらに含み、その医薬が少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質および追加の化合物の分離、連続、または同時投与用に処方される請求項11〜17のいずれか1項記載の使用。
【請求項18】
医薬が局所または全身投与用に処方される請求項11〜16のいずれか1項記載の使用。
【請求項19】
医薬が経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、鼻、肺、筋肉内または腹腔内投与用に処方される請求項18記載の使用。
【請求項20】
これを必要とするヒトまたはヒト以外の患者においてサルコペニアを治療する方法において用いられる、少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項21】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が:
・抗ミオスタチン抗体;
・免疫応答を惹起し、ミオスタチン活性を遮断できるミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーまたはミオスタチン免疫抱合体;
・切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメインおよびホリスタチンから選択されるミオスタチンのタンパク質阻害物質、あるいは該タンパク質阻害物質の機能的フラグメント;
・ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質;
・ピエドモンテーゼ対立遺伝子または335ないし375のアミノ酸位置で、またはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質;
・アミノ酸配列WMCPPを含み、ミオスタチンと結合でき、ミオスタチンを阻害できる小ペプチド;
・ミオスタチンのスプライス変異体;
・ミオスタチン経路の調節物質;および
・アンチセンスポリヌクレオチド、RNAi、siRNAまたは抗ミオスタチンリボザイムであって、ミオスタチン遺伝子発現の阻害によりミオスタチン活性を阻害できるもの
からなる群から選択される請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、ピエドモンテーゼ対立遺伝子および成熟ミオスタチンペプチドであって、335〜375のアミノ酸位置で、またはその間でC末端切断を有するものから選択されるミオスタチンの優性阻害物質である請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、成熟ミオスタチンペプチドであって、335〜350のアミノ酸位置で、またはその間でC末端切断を有するミオスタチンの優性阻害物質である請求項22記載の医薬組成物。
【請求項24】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、配列番号8〜14のポリペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれに対して95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列から選択されるミオスタチンのスプライス変異体である請求項21記載の医薬組成物。
【請求項25】
少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質が、配列番号16または配列番号18の「マイティー」ポリペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれに対して95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列を含むミオスタチン経路の調節物質である請求項21記載の医薬組成物。
【請求項26】
HGF、FGF、IGF、MGFおよび成長ホルモンからなる群から選択される1種または複数の追加の筋肉成長促進化合物をさらに含む請求項20〜25のいずれか1項記載の医薬組成物であって、組成物が少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質との分離、連続、または同時投与用に処方される医薬組成物。
【請求項27】
局所または全身性投与のために処方される請求項20〜25のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項28】
経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、鼻、肺、筋肉内または腹腔内投与のために処方される、請求項27記載の医薬組成物。
【請求項29】
これを必要とするヒトまたはヒト以外の患者においてサルコペニアを治療する方法において用いられる少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項30】
・抗ミオスタチン抗体;
・免疫応答を惹起し、ミオスタチン活性を遮断できるミオスタチンペプチド免疫原、ミオスタチンマルチマーまたはミオスタチン免疫抱合体;
・切断アクチビンII型受容体、ミオスタチンプロドメインおよびホリスタチンから選択されるミオスタチンのタンパク質阻害物質、あるいは該タンパク質阻害物質の機能的フラグメント;
・ミオスタチンを過剰発現する細胞からの培養物中に放出されるミオスタチン阻害物質;
・ピエドモンテーゼ対立遺伝子あるいは335ないし375のアミノ酸位置で、またはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質;
・アミノ酸配列WMCPPを含み、ミオスタチンと結合でき、ミオスタチンを阻害できる小ペプチド;
・ミオスタチンのスプライス変異体;
・ミオスタチン経路の調節物質;および
・アンチセンスポリヌクレオチド、RNAi、siRNAまたは抗ミオスタチンリボザイムであって、ミオスタチン遺伝子発現によりミオスタチン活性を阻害できるもの
からなる群から選択される請求項29記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項31】
ピエドモンテーゼ対立遺伝子あるいは335ないし375のアミノ酸位置で、あるいはその間の位置でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドから選択されるミオスタチンの優性阻害物質を含む請求項30記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項32】
アミノ酸位置335または350でC末端切断を有する成熟ミオスタチンペプチドを含む請求項31記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項33】
配列番号8〜14のポリペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと95%、90%、85%、80%、75%または70%の配列同一性を有する配列から選択されるミオスタチンのスプライス変異体を含む請求項30記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項34】
配列番号16または配列番号18の「マイティー」ペプチド、あるいはその機能的フラグメントまたは変異体、あるいはこれと少なくとも95%、90%、85%、80%、75%、または70%の配列同一性を有する配列を含むミオスタチン経路の調節剤を含む請求項30記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項35】
筋肉再生をさらに改善するために、少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質との分離、連続または同時投与用の、HGF、FGF、IGF、MGFおよび成長ホルモンからなる群から選択される1種または複数の追加の筋肉成長促進化合物との組み合わせにおける、請求項29〜34のいずれか1項記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項36】
局所または全身性投与のために処方される請求項29〜34のいずれか1項記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。
【請求項37】
経口、静脈内、皮膚、皮下、皮内、鼻、肺、筋肉内または腹腔内投与用に処方される請求項32記載の少なくとも1つのミオスタチン拮抗物質。

【図2】(B)ミオスタチンによる衛星細胞活性化の阻害は、ミオスタチンが媒体から除去される場合(Rescue)、可逆的であることを示す。
【図2】(C)衛星細胞の移動に対するミオスタチンの効果を示す。
【図2】(D)BrdU陽性核を有する典型的な筋線維(i)、およびDAPI染色された核を有する同じ筋線維(ii)の顕微鏡写真を示す。
【図3】(A)1および24月齢の野生型およびミオスタチンゼロTA筋肉から単離された線維上の、100筋核あたりの衛星細胞のパーセントを示す。衛星細胞は、DAPI対比染色によりCD34および全核について免疫染色することにより可視化した。線維を1群あたり3匹の動物から単離し、1群あたり1000を超える核を計数した(P < 0.001)。
【図3】(B)1および24月齢野生型およびミオスタチンゼロTA筋肉から単離された線維上の、100筋核あたりの活性化された衛星細胞のパーセントを表す。活性化された衛星細胞は、インビトロBrdU取り込みおよびDAPI対比染色による全核により表される。線維は、1群あたり3匹の動物から単離され、1群あたり1000核を超えるものを計数した(P<0.05)。
【図3】(C)フローサイトメトリーにより決定されるBrdU陽性細胞のパーセントを表す。衛星細胞はインビトロでBrdU標識され、Percoll勾配を用いて1および6月齢野生型およびミオスタチンゼロ後肢筋肉から単離された。1サンプル群あたり最低10000個の細胞を3通りで分析した(P<0.001)。白抜きの棒グラフは、1月齢マウス、黒い棒グラフは6月齢マウスを表す。異なる小文字は、データ間の有意な差を示す。
【図4】単離された線維上のPCNA陽性核の数を表す。単離された線維を5または10μgの350とともにインキュベートし、PCNA抗体で免疫染色して、100筋核あたりの活性化された衛星細胞の数を決定した。データは平均±s.e.mとして表される(**=P<0.001)。
【図5】(A)野生型およびミオスタチンゼロマウスからの対照筋肉片のヘマトキシンおよびエオジン染色を示す。
【図5】(B)ノテキシン注射後1日(D1)の低倍率図を示す。
【図5】(C)好酸球性(e)細胞質および、細細胞内空間が増加し、顕著な筋線維破壊(矢印)がある筋線維の微細細胞内空胞形成(v)を示すために染色された(B)と同じ部分の高倍率図である。
【図5】(D)ミオスタチンゼロマウスの筋肉中の核(矢印)の数が増加した2日(D2)の筋肉切片を示す。矢印の先は、壊死性筋線維の端に沿った筋核を示す。
【図5】(E)野生型およびミオスタチンゼロ筋肉の両方において単核細胞が浸潤しているが、より多数のミオスタチンゼロ部分を有する3日(D3)の筋肉部分を示す。スケールバーは10μmに等しい。
【図5】(F)ノテキシン処理されたミオスタチンゼロ角切片において核の数が増大した5日切片(D5)を示す。
【図6】(A)野生型(Mstn+/+)およびミオスタチンゼロ(Mstn−/−)再生筋肉におけるMyoD陽性筋原性前駆細胞のパーセンテージを示す。
【図6】(B)野生型(Mstn+/+)およびミオスタチンゼロ(Mstn−/−)再生筋肉におけるMac−1陽性細胞のパーセンテージを示す。
【図6】(C)ノテキシン注射後28日までの対照未損傷筋肉(C)および再生野生型(wt)およびミオスタチンゼロ(Mstn null)筋肉におけるMyoDおよびミオゲニン遺伝子の発現特性を示す。使用されたRNAの等しい量を示すためにGAPDHを対照として使用した。
【図7】食塩水処理およびミオスタチン阻害物質350処理されたマウスにおいてノテキシン注射後2、3、7および10日の再生された筋肉におけるMac1陽性細胞の平均数を示す。
【図8】ノテキシン注射後14日(D14)、21日(D21)および28日(D28)のミオスタチンノックアウト(KO)および野生型(WT)マウスから得られた組織片に関する免疫蛍光を示す。WT組織は、染色の強度がより強い。すなわち、KO組織と比較した場合、より高濃度のビメンチン陽性細胞を示す。
【図9】マクロファージ移動およびミオスタチン拮抗物質(アミノ酸350でC末端切断された優性阻害ミオスタチンペプチド)を用いた回復に対するミオスタチンの化学阻害効果を示す。
【図10】(A)ミオスタチンのヒツジ初代線維芽細胞に対するミオスタチンの化学誘因効果を示す。
【図10】(B)ヒツジ初代筋芽細胞およびミオスタチン拮抗物質(アミノ酸350でC末端切断された優性阻害ミオスタチンペプチド)を用いた回復に対するミオスタチンの化学阻害効果を示す。
【図11】28日(D28)野生型およびミオスタチンゼロ筋肉切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色(H&E)ならびにVan Geisen(iii)染色の低倍率(i)および高倍率(ii)顕微鏡写真を示す。厚い結合組織T(矢印)が野生型筋肉切片(ii)において見られ;コラーゲン(矢印)が野生型筋肉切片(iii)において見られ、スケールバーは10μmに等しい;再生の24日後の野生型およびミオスタチンゼロ筋肉の走査型電子顕微鏡写真を(iv)において示す;スケールバーは120μmに等しい。
【図12】ノテキシン注射から回復したマウスにおけるミオスタチン拮抗物質(アミノ酸350でC末端切断された優性阻害ミオスタチンペプチド)の筋肉重量に対する効果を示す。
【図13】(A)〜(D)7日(A−食塩水処理;B−ミオスタチン拮抗物質350処理)および10日(C−食塩水処理;D−ミオスタチン拮抗物質350処理)のノテキシン注射後の再生筋肉からの筋肉切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色を示す。星印は壊死性領域を示す。
【図14】図13の筋肉切片の未再生(白色)領域および再生(網かけ)領域のパーセンテージを示す。
【図15】食塩水処理およびミオスタチン阻害物質350処理されたマウスにおけるノテキシン注射後10および28日の再生筋肉におけるコラーゲン形成(%)を示す。
【図16】食塩水処理およびミオスタチン阻害物質350処理マウスにおけるノテキシン注射後28日の再生された筋肉線維の平均線維面積を示す。
【図17】食塩水(sal)および350処理されたTA筋肉におけるノテキシンの投与後1、3、7、10および28日の遺伝子Pax7(A)およびMyoD(B)タンパク質レベル(ウェスタンブロッティングにより検出)を示す。
【図18】損傷後2および4日の再生筋肉における増大した炎症反応および再生された筋肉における増大した筋肉量(21日)を示す。
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2008−530004(P2008−530004A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554036(P2007−554036)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【国際出願番号】PCT/NZ2006/000010
【国際公開番号】WO2006/083183
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507103400)オリコ・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】ORICO LIMITED
【Fターム(参考)】