説明

サルビアノール酸Bを有効成分とする神経幹細胞増殖剤

【課題】 神経幹細胞増殖剤、当該増殖剤による神経幹細胞増殖方法、当該方法により増殖した神経幹細胞の含有液、当該神経幹細胞含有液または当該増殖剤を有効成分とする神経疾病治療剤を提供すること。
【解決手段】 サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物に神経幹細胞増殖作用を見つけ、この作用を適用して、これら化合物を有効成分とすることを特徴とする神経幹細胞増殖剤、当該増殖剤による神経幹細胞増殖方法、当該方法による神経幹細胞の含有液、当該含有液を有効成分とする神経疾病治療剤および当該増殖剤を有効成分とし、神経幹細胞増殖作用の機序による神経疾病治療剤を開発した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)サルビアノール酸B(英語名:Salvianolic・Acid・B、中国名:丹フン酸B又は丹フン酸乙、なお、フンに該当する中国字は酉偏に分と書くが、日本の漢字には無い)等を有効成分とすることを特徴とする神経幹細胞増殖剤、(2)当該神経幹細胞増殖剤を,要すれば賦活化後,体外で投与することを特徴とする体外での神経幹細胞増殖方法、(3)当該神経幹細胞増殖方法で増殖することを特徴とする神経幹細胞の含有液、(4)血清、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF、別名:繊維芽細胞増殖因子2:FGF2)および神経成長因子(NGF)を含まない当該神経幹細胞含有液を有効成分とすることを特徴とする神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤、(5)当該神経幹細胞増殖剤を有効成分とし、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によることを特徴とする当該疾病の治療剤、(6)サルビアノール酸Bと亜硫酸塩とビタミンC以外の薬学的に許容することのできる抗酸化剤から選ばれる抗酸化剤を少なくとも1種類を添加剤として添加することを特徴とする(1)に記載する神経幹細胞増殖剤と(2)に記載する神経幹細胞増殖方法と(3)に記載する神経幹細胞含有液と(4)と(5)に記載する治療剤を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
神経疾病、例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、小脳変性症、交通性水頭症、ハンチントン病、前頭葉への照射、多発性硬化症、正常圧水頭症、パーキンソン病、ピック病、進行性多巣性白質脳症、進行性核上麻痺、拳闘家痴呆、脳外傷、外科手術、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、脳卒中(脳梗塞または脳出血)、脳血管性痴呆、ウィルソン病細菌性心内膜炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、HIV関連疾病、神経梅毒、結核性および真菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、無酸素症、B12欠乏症、慢性的な薬物-アルコール-栄養性乱用、葉酸欠乏症、副甲状腺機能亢進症に伴う高カルシウム血症、低血糖、甲状腺機能低下症、肝性脳症、肺性脳症、尿毒素性脳症等の臓器系不全、ペラグラ等は繊維化、免疫反応、血管傷害、栄養と酸素欠乏、感染等により、神経細胞が退化、減少、細胞死し、または傷害、除外されることにより、組織や臓器がその機能を失い発症すると考えられている。したがって、これらの疾病を治療の1つの方法として失われた神経細胞を何らかの方法で補充するか再生することが考えられ、その効果が多数報告されている。
【0003】
例えば、パーキンソン病は黒質線条体のドパミン作動性神経の退化に起因するが、後期有糸分裂ドパミン作動性神経に富んだヒト胎児性中脳組織の脳内移植により病状が改善されたという報告がある(非特許文献1−7)。しかし、この間、移植に伴う拒絶反応を避けるため、免疫抑制剤を使用している(非特許文献8)。
【0004】
脳梗塞は中枢神経系に重大な虚血をもたらし、神経やグリア細胞を退化させる。脳梗塞部位にヒトエヌティ2(NT‐2)奇形癌細胞由来の神経を移植したところ、改善が見られたという報告がある(非特許文献9)。移植細胞が神経細胞になったことを移植細胞に神経マーカーが出現したことにより確認したという報告もある(非特許文献10)。
【0005】
これら補充すべき神経細胞の供給源として、ES細胞、神経幹細胞または骨髄間質細胞が注目される。ES細胞は種々の細胞に分化しうる細胞だからである。神経幹細胞は未分化の細胞であり、神経細胞が死滅すると、その失われた細胞を補うように自然に分化を始め、生体機能の維持に大きく貢献する可能性があるからである。骨髄間質細胞はすでにある程度分化しているので、自然には神経細胞に分化しないが、最近、種々の生体因子または化合物処理により人工的に神経細胞に分化しうる(特許文献1−2、非特許文献11−15)ことが明らかになったからである。
【0006】
しかし、補充すべき神経細胞の供給源として注目されるES細胞は胚性幹細胞であり、ヒトの胚を原料に用いるという倫理性の問題と移植抗原性の問題を有する。一方、神経幹細胞の場合も内在性の神経幹細胞は神経に分化する(非特許文献16)が、内在性の神経幹細胞の数は極わずかで、脳梗塞等により退化する細胞を充分に補充することはできない(非特許文献17)。外部からの入手は胎児由来の神経幹細胞しか困難であり、胎児由来の神経幹細胞は倫理性の問題と移植抗原性の問題を有する。骨髄間質細胞は自分自身の骨髄から充分量を採取可能であるから、他人の細胞を用いるという倫理性の問題と移植抗原性の問題はない。しかし、骨髄間質細胞は自然には神経細胞に分化しない細胞である。したがって、内在性の神経幹細胞を増殖する方法が開発されるなどして、自家の神経幹細胞が供給源として使えるようになれば、その方がより望ましい。したがって、内在性の神経幹細胞を増殖する方法の開発が強く望まれる。
【0007】
胎児性および成人性神経幹細胞は既に齧歯類の中枢神経系から(胎児性:非特許文献18、成人性:非特許文献19−20)のみならず、ヒトの中枢神経系から(胎児性:非特許文献21−22、成人性:非特許文献23−24)から分離されている。神経幹細胞は神経、アストロサイト、オリゴデントロサイトに分化し、興奮性神経シナプスと抑制性神経シナプスに分化し(非特許文献25−26)、活性の神経系ネットワークを形成する(非特許文献27)という。
【0008】
近年、機能を失った組織に対して、神経幹細胞を移植し、個々の生体機能を発現する細胞へ特異的に分化させることにより、当該病態を改善・治療する試みが行われている。例えば、パーキンソン病に関し、神経幹細胞を線条体内部へ移植すると、細胞が生き残り臨床効果を得る(非特許文献28)、神経幹細胞移植によりパーキンソン病の作動性システムのシナプスおよび末端機能が保持される(非特許文献29)、1‐メチル‐4‐フェニル‐1,2,3,6‐テトラヒドロピリジン起因パーキンソン病のマウスの脳に神経幹細胞を移植すると生き残り、機能性のあるドパミン作動性神経になる(非特許文献30)という報告がある。また、脳梗塞の場合は、神経幹細胞の移植により脳梗塞の改善が見られという(非特許文献31)。多くの神経幹細胞の脳内移植データー(前述の非特許文献31と非特許文献32−35)は神経幹細胞の移植または増殖により、神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病が治療できることを示唆している。最大の課題は移植可能な質と量の神経幹細胞を生産する方法を確立することまたは脳内で内在する神経細胞を増殖することが可能な低毒性の神経幹細胞増殖剤を開発することである。
【0009】
最近、ラットの脳動脈を一時的に止めて脳虚血にして海馬の神経細胞に傷害を与えた後に、NGFを注入すると、失われた神経細胞の4割が回復したという報告がある(非特許文献36)。この環境で、NGFが神経幹細胞を増殖させることを示唆している。研究としては素晴らしいが、NGFというタンパク質を臨床的に脳内に注入することは可能な限り避けた方がよい。したがって、このNGF等生物学的因子の代わりになる低分子化合物の探索が望まれる。
【0010】
非神経細胞や神経幹細胞を神経細胞に分化させる低分子はすでに報告されている(前述の特許文献2と非特許文献37)。骨髄間質細胞等非神経細胞を神経疾病の神経細胞の補充の供給源として用いる目的のためには、神経細胞への分化剤は重要である。しかし、神経細胞に分化した細胞は増殖しないので、神経幹細胞を神経疾病の神経細胞の補充の供給源として用いる目的のためには、神経幹細胞の神経への分化剤よりは神経幹細胞を神経に分化させないで、神経幹細胞のまま増殖させる神経幹細胞増殖剤がより重要である。神経幹細胞分化剤は神経幹細胞を増殖させた後に要すれば考慮すべき問題である。
【0011】
一方、サルビアノール酸Bはシソ科の植物の1種である丹参(学名:Labiatae・Salvia・miltiorrhiza・Bunge)の水溶性成分の一つ(非特許文献38)であり、高速ティ・エル・シ(HPTLC)(非特許文献39)、樹脂カラムのアルコール展開(特許文献3)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(非特許文献40)または高速カウンター・カレント・クロマトグラフィー(非特許文献41)、カラムクロマトグラフィー(特許文献4)等により分離される。分子量718、分子式C36H30O16で、その平面構造式は非特許文献42に示され、その立体構造式は図1で表される(非特許文献43)。山東省天然薬物工程技術研究中心の曲桂武らによれば、水溶液中のサルビアノール酸Bは高温で不安定で、摂氏80度で72時間加温すると35%変化し、チオ硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、システイン塩酸塩、EDTA2ナトリウム塩を添加しても一部変化するという。ビタミンCを添加した時のみ摂氏80度で72時間加温してもサルビアノール酸Bは安定であるいう(非特許文献44)。
【0012】
サルビアノール酸Bは非常に強い抗酸化作用(非特許文献45)、脂肪過酸化阻止作用、脱水酸化ラジカル作用(非特許文献46)を有する。この抗過酸化作用に基づき、以下の生理作用を有する。すなわち、四塩化炭素またはジ・メチルニトサミンによる肝臓の繊維化予防作用(非特許文献47−48)、脳虚血による記憶喪失の予防作用(非特許文献49)、アテロム性動脈硬化症縮小作用(非特許文献50)、抗虚血作用(非特許文献51)、心臓血管系に対する保護作用(非特許文献52)、抗ウイルス作用(特許文献5−7)、虚血による脳障害の予防作用(非特許文献53)、子牛大動脈内皮細胞の血管内皮細胞成長因子(VEGF)により誘導される高透過性の阻止作用(非特許文献54)、アミロイド・ベーターたんぱく質の凝集阻止作用と繊維化形成阻止作用(前述の非特許文献42)、新生細胞のアポトーシス誘導作用(非特許文献55)、肝星細胞増殖阻止作用とコラーゲン産生阻止作用とトランスホーミング成長因子(TGF)ベーター1・有糸分裂活性化タンパク質リン酸化酵素(MAPR)系のシグナルトランスダクション阻止作用(非特許文献56)、神経退化に関与する前立腺アポトーシス反応4(Par‐4)関与によるアミロイド・ベーターたんぱく質の凝集阻止作用(非特許文献57)、コレスタン・3ベーター・5アルファー・6ベータートリオールによるヒトへそ静脈内皮細胞(HUVEC)傷害の緩和作用(非特許文献58)、酸化低密度リポたんぱく質による心臓血管系炎症障害の治療作用(特許文献8−9)を有する。また、サルビアノール酸Bとサポニンの混合物が心臓血管疾病および脳血管疾病部位を縮小させ(特許文献10)、サルビアノール酸Bとリソスペルミン酸(英語名:Lithospermic・acid)の混合物がアテローマ動脈硬化症または動脈再狭窄症に有効である(特許文献11−12)。サルビアノール酸Bの構成成分がリパーゼ阻害作用を有する(特許文献13)。
【0013】
要約すると、サルビアノール酸Bは非常に強い抗過酸化作用を有し、この抗過酸化作用により、心臓血管系や脳神経系や肝臓細胞での過酸化による細胞死予防作用と抗ウイルス作用を有する。また、サルビアノール酸Bは新生細胞のアポトーシスを誘導することにより、アテローマ動脈硬化症等の血管内皮細胞の増殖を阻害する。つまり、サルビアノール酸Bの基本作用は抗過酸化作用、抗ウイルス作用ならびに新生細胞のアポトーシス誘導作用である。したがって、脳梗塞に起因する虚血による脳神経細胞の予防やウイルス性脳炎の予防および脳神経細胞の補充ないし増殖を要しない極初期の脳神経疾病の治療の可能性は考えられる。しかし、サルビアノール酸Bの効果は抗過酸化作用や抗ウイルス作用によるので、当該疾病の治療はできても、神経幹細胞を増殖させて、すでに脳神経細胞の退化または減少してしまったことに起因する脳神経疾病を治療することはできないと思われた。サルビアノール酸Bは新生細胞のアポトーシスを誘導し、細胞増殖を阻害するので、神経幹細胞の増殖には、むしろ不利に働くと思われた。実際、サルビアノール酸B関連化合物のアセチルサルビアノール酸Aは抗血栓作用を有するので、その作用により脳梗塞予防に有益な効果があるであろうと推定し(非特許文献59)、サルビアノール酸Aは、その抗酸化作用により過酸化による肝細胞障害を予防し(非特許文献60)、繊維芽細胞の増殖を阻害し(非特許文献61)、神経幹細胞の生存率を上昇させるが、神経幹細胞の増殖を促進させないことが確認されている(非特許文献62)。
なお、最近神経幹細胞の分離、増殖、分化に関し、多くの特許が出願され、公開されている(特許文献14−72)。いずれも、生物学的因子を用いる方法である。低分子の神経幹細胞増殖剤としてはベンゼン環縮合5員複素環式化合物(特許文献73)、または薬用人参中のサポニン類等、例えば、ギンセノシドRg1(英語名:Ginsenoside Rg1)(特許文献74および前述の非特許文献62)が報告されているに過ぎない。また、サルビアノール酸Bの抽出もとの丹参の薬効に関する特許も多いが、その多くは丹参の主薬効から類推可能な血管系に関する薬効である。痴呆薬に関する特許公開公報が存在するが、丹参の他、種々の生薬の配合剤に関する特許出願である(特許文献75)。これらの特許文献から本発明は予見できない。
【0014】
以下に先行文献を特許文献と非特許文献に分けて表示する。
【特許文献1】特表2002−513545号公報
【特許文献2】特開2004−91344号公報
【特許文献3】米国特許2001年6,299,910号公報
【特許文献4】中国特許2003年1425659号公報
【特許文献5】カナダ特許1999年2335956号公報
【特許文献6】カナダ特許2000年2376922号公報
【特許文献7】米国特許2000年6,043,276号公報
【特許文献8】カナダ特許2003年2459406号公報
【特許文献9】米国特許2003年2003086987号公報
【特許文献10】中国特許2003年1425430号公報
【特許文献11】米国特許2002年2002197274号公報
【特許文献12】国開WO2002年02085398号国際公報
【特許文献13】欧州特許2003年1371368号公報
【特許文献14】特開2004−236607号公報
【特許文献15】特開2004−229523号公報
【特許文献16】特開2004−166604号公報
【特許文献17】特開2004−129561号公報
【特許文献18】特開2003−325167号公報
【特許文献19】特開2003−189847号公報
【特許文献20】特開2003−125759号公報
【特許文献21】特開2003−081959号公報
【特許文献22】特開2002−348239号公報
【特許文献23】特開2002−291469号公報
【特許文献24】特開2002−281962号公報
【特許文献25】特開2002−051775号公報
【特許文献26】特開2002−034580号公報
【特許文献27】特開2001−316285号公報
【特許文献28】特開2001−292768号公報
【特許文献29】特開2001−186829号公報
【特許文献30】特表2004−523216号公報
【特許文献31】特表2004−522414号公報
【特許文献32】特表2004−517620号公報
【特許文献33】特表2004−500103号公報
【特許文献34】特表2003−525034号公報
【特許文献35】特表2003−523166号公報
【特許文献36】特表2003−521474号公報
【特許文献37】特表2003−516141号公報
【特許文献38】特表2003−514565号公報
【特許文献39】特表2003−514550号公報
【特許文献40】特表2003−512333号公報
【特許文献41】特表2003−511352号公報
【特許文献42】特表2003−507349号公報
【特許文献43】特表2003−505023号公報
【特許文献44】特表2002−544235号公報
【特許文献45】特表2002−537802号公報
【特許文献46】特表2002−536991号公報
【特許文献47】特表2002−536023号公報
【特許文献48】特表2002−530351号公報
【特許文献49】特表2002−530068号公報
【特許文献50】特表2002−526104号公報
【特許文献51】特表2002−526065号公報
【特許文献52】特表2002−518990号公報
【特許文献53】特表2002−518043号公報
【特許文献54】特表2002−517982号公報
【特許文献55】特表2002−512842号公報
【特許文献56】特表2002−508666号公報
【特許文献57】特表2002−500879号公報
【特許文献58】特表2001−520878号公報
【特許文献59】特表2001−518289号公報
【特許文献60】特表2001−511788号公報
【特許文献61】特表2001−511456号公報
【特許文献62】特表2001−504123号公報
【特許文献63】特表平10−509592号公報
【特許文献64】特表平10−509319号公報
【特許文献65】特表平10−505754号公報
【特許文献66】特表平09−500004号公報
【特許文献67】特表平08−505762号公報
【特許文献68】特表平08−502652号公報
【特許文献69】特表平08−502172号公報
【特許文献70】特表平08−500245号公報
【特許文献71】国開WO02/05811号国際公報
【特許文献72】国開WO01/88100号国際公報
【特許文献73】特開2003−081959号公報
【特許文献74】特開2001−139483号公報
【特許文献75】特開平6−56684号公報
【非特許文献1】J.H.Kordowerら、N.Engl.J.Med.、1995年332巻1118頁
【非特許文献2】J.H.Kordowerら、J.Comp.Neurol.、1996年370巻203頁
【非特許文献3】J.H.Kordowerら、Mov.Disord.、1998年13巻383頁
【非特許文献4】P.Picciniら、Nat.Neurosci、1999年2巻1137頁
【非特許文献5】P.Picciniら、Ann.Neural.、2000年48巻689頁
【非特許文献6】O.Lindvailら、Prog.BrainRes.、2000年127巻299頁
【非特許文献7】S.Polgarら、BrainRes.Bull.、2003年60巻1頁
【非特許文献8】C.W.Clanowら、Ann.Neurol.、2003年54巻403頁
【非特許文献9】D.Kondziolkaら、Neurology、2000年55巻565頁
【非特許文献10】P.T.Nelsonら、Am.J.Pathol.、2002年160巻1201頁
【非特許文献11】M.Dezawaら、Eur.J.Neurosci.、2001年14巻1771頁
【非特許文献12】W.Dengら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、2001年282巻148頁
【非特許文献13】D.Woodburyら、J.Neurosci.Res.、2000年61巻363頁
【非特許文献14】J.Sanchez−Ramosら、Exp.Neurol.、2000年164巻247頁
【非特許文献15】J.Kohyyamaら、Differentiation、2001年68巻235頁
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【非特許文献17】A.Arvidssonら、Nat.Med.、2002年8巻963頁
【非特許文献18】K.K.Joheら、Genes・Dev.、1996年10巻3129頁
【非特許文献19】A.Grittiら、Am.J.Neurosci.、1996年16巻1091頁
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【非特許文献22】C.N.Svendsenら、Brain・Pathol.、1999年9巻499頁
【非特許文献23】V.G.Kukekpvら、Exp.Neurol.、1999年156巻333頁
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【非特許文献28】P.Hagellら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.、2001年60巻741頁
【非特許文献29】O.Isacsonら、Ann.Neurol.、2003年53巻s135頁
【非特許文献30】X.Liら、Act・Pharmacol.Sin、2003年24巻1192頁
【非特許文献31】T.Veizovicら、Stroke、2001年32巻1012頁
【非特許文献32】F.H.Grageら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1995年92巻11879頁
【非特許文献33】T.Quら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1995年92巻11879頁
【非特許文献34】A.E.Rosserら、Eur.J.Neurosci.、2000年12巻2405頁
【非特許文献35】J.W.Mcdonaldら、Nat.Med.、1999年5巻1410頁
【非特許文献36】H.Nakatomiら、Cell、2002年110巻429頁
【非特許文献37】S.Dingら、Pro.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、2003年100巻7632頁
【非特許文献38】Z.X.Chenら、Chin.Pharm.Bull.、1981年16巻24頁
【非特許文献39】J.Liら、Act・Pharm.Sin.、1993年28巻543頁
【非特許文献40】Q.W.Zhangら、Zhongguo・Zhong・Yao・Za・Zhi、2001年26巻848頁
【非特許文献41】H.B.Liら、J.Chromatogr.A.、2002年943巻235頁
【非特許文献42】M‐K.Tangら、Act・Pharmacol.Sin.、2001年22巻380頁
【非特許文献43】Ivy・Fine・Chemicals・Corporationのカタログ番号NE01‐004
【非特許文献44】曲桂武ら、http://www.ndcenter.com.cn/tongxun/2/quguiwu2.pdf.
【非特許文献45】L.N.Liら、J.Chin.Pharm.Sci.、1997年6巻57頁
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【非特許文献58】D.Renら、Chin.Med.J.、2003年116巻630頁
【非特許文献59】J.C.Dongら、Yao・Xue・Xue・Bao、1996年31巻6頁
【非特許文献60】Y.Y.Huら、World・J.Gastroenterol.、2000年6巻402頁
【非特許文献61】C.H.Liuら、World・J.Gastroenterol.、2000年6巻361頁
【非特許文献62】L.H.Shenら、Yao・Xue・Xue・Bao、2003年38巻735頁
【非特許文献63】G.J.Brewerら、J.Neurosci.Res.、1993年35巻567頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、(1)サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物を有効成分とすることを特徴とする神経幹細胞増殖剤、(2)当該神経幹細胞増殖剤を、要すれば賦活化後、体外で投与することを特徴とする体外での神経幹細胞増殖方法、(3)当該神経幹細胞増殖方法で増殖することを特徴とする神経幹細胞の含有液、(4)血清、bFGFおよびNGFを含まない当該神経幹細胞含有液を有効成分とすることを特徴とする神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤、(5)当該神経幹細胞増殖剤を有効成分とし、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によることを特徴とする当該疾病の治療剤、(6)サルビアノール酸Bと亜硫酸塩とビタミンC以外の薬学的に許容することのできる抗酸化剤から選ばれる抗酸化剤を少なくとも1種類を添加剤として添加することを特徴とする(1)に記載する神経幹細胞増殖剤と(2)に記載する神経幹細胞増殖方法と(3)に記載する神経幹細胞含有液と(4)と(5)に記載する治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み、神経幹細胞を血清、bFGFおよびNGFで処理することなく増殖させる能力を有する、薬学的許容範囲の毒性しかない低分子物質を種々探索した結果、驚くべきことに、サルビアノール酸Aと異なり、サルビアノール酸Bに、公知の抗過酸化作用、抗ウイルス、新生細胞アポトーシス誘導作用とは全く異なる、神経幹細胞を増殖させる作用があることを見出し、さらに種々研究した結果、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、(1)サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物を有効成分とすることを特徴とする神経幹細胞増殖剤、(2)前記化合物が、サルビアノール酸Bおよびそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれることを特徴とする(1)に記載する神経幹細胞増殖剤、(3)前記化合物が、サルビアノール酸Bおよび薬学的に許容することのできるその塩ならびにそれらの水和物から選ばれることを特徴とする(2)に記載する神経幹細胞増殖剤、(4)当該神経幹細胞増殖剤を、要すれば賦活化後、体外で投与することを特徴とする体外での神経幹細胞増殖方法、(5)血清、bFGFおよびNGFを含まない細胞培養液を用いることを特徴とする(4)に記載する神経幹細胞増殖方法、(6)(4)または(5)に記載する神経幹細胞増殖方法で増殖することを特徴とする神経幹細胞の含有液、(7)(5)に記載する方法で増殖することを特徴とする当該神経幹細胞の含有液を有効成分とすることを特徴とする神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤、(8)当該神経幹細胞増殖剤を有効成分とし、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によることを特徴とする当該疾病の治療剤、(9)サルビアノール酸Bと亜硫酸塩とビタミンC以外の薬学的に許容することのできる抗酸化剤から選ばれる抗酸化剤を少なくとも1種類を添加剤として添加することを特徴とする(1)、(2)または(3)に記載する神経幹細胞増殖剤と(4)または(5)に記載する神経幹細胞増殖方法と(6)に記載する神経幹細胞含有液と(7)記載する神経幹細胞含有液含有治療剤または(8)に記載する神経幹細胞増殖作用機序による治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の神経幹細胞増殖剤は、(1)体外での神経幹細胞の増殖剤として有用であり、(2)後述の神経幹細胞増殖方法においてその方法を特徴付ける薬剤として有用であり、(3)後述の神経幹細胞含有液の液質を特徴付ける薬剤として有用であり、(4)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の性質を特徴付ける薬剤として有用であり、(5)後述の当該神経幹細胞増殖作用機序による療剤の有効成分としても有用である。本発明の神経幹細胞増殖方法は、(1)体外での神経幹細胞の増殖方法として有用であり、(2)後述の神経幹細胞含有液の生産方法として有用であり、(3)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の生産方法またはその一工程として有用である。本発明の神経幹細胞含有液は、(1)神経幹細胞の供給源として有用であり、(2)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の有効成分として有用である。本発明の神経幹細胞含有液含有治療剤と神経幹細胞増殖剤を含有し、神経幹細胞増殖作用機序による治療剤の2剤は神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤として有用である。本発明のサルビアノール酸Bと亜硫酸塩とビタミンC以外の薬学的に許容することのできる抗酸化剤から選ばれる抗酸化剤を少なくとも1種類を添加剤として添加することを特徴とする(1)、(2)または(3)に記載する神経幹細胞増殖剤と(4)または(5)に記載する神経幹細胞増殖方法と(6)に記載する神経幹細胞含有液と(7)記載する神経幹細胞含有液含有治療剤または(8)に記載する神経幹細胞増殖作用機序による治療剤は各々前述の有用性の上に、より安定性に優れているという性質を有し、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の1つは新しい神経幹細胞増殖剤である。本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分はサルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物である。サルビアノール酸Bの光学または幾何異性体の中で、サルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有しないものは、本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分として用いることはできない。これに対し、サルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するサルビアノール酸Bの光学または幾何異性体は本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分として用いることができる。しかし、サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものの中でサルビアノール酸Bに関するデーターが一番蓄積されているので、サルビアノール酸Bおよびそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物がより望ましく、サルビアノール酸Bおよび薬学的に許容することのできるその塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物が更により望ましい。
【0020】
最も望ましい有効成分の1つであるサルビアノール酸Bは、目下、シソ科の植物の1種である丹参(Labiatae・Salvia・miltiorrhiza・Bunge)から分離精製される。しかし、丹参以外のサルビアノール酸B含有植物があれば、その植物から分離してもよく、合成が可能な場合は合成品でもよい。現在サルビアノール酸Bは中国(景天生物工程有限公司)と米国(Ivy・Fine・Chemicals・Corporation社)等で市販されている。サルビアノール酸Bの構造式から多くの光学または幾何異性体の存在が想定される。サルビアノール酸A、C、D、E、F、イソサルビアノール酸B等がすでに分離されている。前述したように、これらのうち、サルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞を増殖させる作用を有しないものは本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分として用いることが出来ないが、サルビアノール酸Bと同様に神経幹細胞を増殖させる作用を有するものは本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分として用いることが出来る。
【0021】
サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するもののプロドラッグは加水分解等分解を受けてサルビアノール酸Bまたはその光学または幾何異性体に成るものであれば、薬学的に許容することのできる限り、どのようなものでもよい。当該プロドラッグの一つとしてサルビアノール酸B分子中のカルボキシル基でのメチルまたはエチルエステル誘導体やサルビアノール酸B分子中のフェノール基でのアセチル誘導体等が挙げられるが、それらに限らない。将来合成されるものでも差し支えない。
【0022】
サルビアノール酸Bの塩およびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものの塩、およびそれらのプロドラッグの塩は薬学的に許容することのできる塩に限られる。薬学的に許容することのできる塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等のアンモニウム塩、トリエチルアミン、リジン、アルギニン等の有機アミンの塩、塩酸、臭化水素酸、硫酸等鉱酸との酸付加塩等が挙げられるが、それらに限らない。薬学的に許容することのできる塩であればよく、薬学的に許容することのできる限り、将来合成される有機化合物との塩でも差し支えない。
【0023】
サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩の水和物も本発明の神経幹細胞増殖剤の有効成分として用いることができる。
【0024】
本発明の神経幹細胞増殖剤または後述の当該神経幹細胞増殖剤を有効成分とし、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によることを特徴とする神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病治療剤の有効成分は酸素および湿気のない状態では比較的安定である。しかし、抗酸化剤であるので、空中および水溶液中で比較的不安定である。特にプロドラッグ化していない有効成分は水溶液中80度72時間の加温で35%変化する。保存する時は酸素や湿気の無い状態で保存することが望ましい。長期保存を考慮に入れると、本発明の神経幹細胞増殖剤または当該疾病治療剤には有効成分の安定のため、他の抗酸化剤を添加剤として添加することが望ましい。抗酸化剤としては薬学的に許容することのできる抗酸化剤に限られる。薬学的に許容することのできる抗酸化剤としては、アルファ・カロチン、ベータ・カロチン、リコペン、ルテイン、フラボノイド、カテキン、リザベラトール、イソフラボン、ビタミンA、ビタミンE、セレン、亜鉛、補酵素Q10、グルタチオン、エンゾジノール等が挙げられる。これらの抗酸化剤は高温の水溶液中のサルビアノール酸Bの変化を抑える。亜硝酸塩はサルビアノール酸Bの変化を完全には抑えない。したがって、亜硝酸塩は、単独では安定剤としては不十分である。ビタミンCはサルビアノール酸Bの変化を抑える。したがって、ビタミンCはサルビアノール酸B等の安定剤として使用は可能であるが、ビタミンC自体が空中および水溶液中で比較的不安定であり、ビタミンCを多量に添加するか他の抗酸化剤との併用が必要になる。
【0025】
本発明の神経幹細胞増殖剤は、(1)体外での神経幹細胞の増殖剤として有用であり、(2)後述の神経幹細胞増殖方法においてその方法を特徴付ける薬剤として有用であり、(3)後述の神経幹細胞含有液の液質を特徴付ける薬剤として有用であり、(4)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の性質を特徴付ける薬剤として有用であるばかりで無く、(5)体内の内在性の神経幹細胞をそのまま体内で増殖させることにも用いることが出来る。本発明の神経幹細胞増殖剤を、神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病に対して投与した場合、内在する神経幹細胞を増殖させ、神経細胞に分化することにより、欠落した神経細胞の補充がされ、病状が改善されるので、本発明の神経幹細胞増殖作用機序による治療剤の有効成分としても有用である。
【0026】
本発明のもう1つは、新しい神経幹細胞増殖方法である。前述の本発明の神経幹細胞増殖剤を用い、体外で神経幹細胞を増殖することを特徴とする。本発明の神経幹細胞増殖剤を添加する以外は、例えば、2%の培養用サプルメントN2含有ダルベッコ修正イーグル最少必須培地(DMEM)/ハムF12培地(DMEMとF12を1:1で混合したもの)の無血清培養液等公知の培養液、5%炭酸ガス中、摂氏37度で数日間培養等公知の培養条件を用いることができる。前述の先行文献には神経幹細胞増殖剤として、胎児性牛血清(FBS)、bFGF、NGF等神経細胞等のたんぱく質性の生体因子を用いている。これらの血清または生体因子の代わりに、本発明の神経幹細胞増殖剤を用いるところに特徴がある。もちろん、目的によってはこれらの血清や生体因子を含有しても良いが、本発明の治療剤に用いる神経幹細胞含有液を作成する場合は、神経幹細胞を増殖する培養液にこれらを培養液に加えてはならない。血清や生体因子を添加せずに、本発明の神経幹細胞増殖剤を加えて培養することが肝要である。なお、本発明の神経幹細胞増殖剤としてプロドラッグを用いる場合には、プロドラッグによっては、培養中の細胞によりマスクが除かれ、活性体になるので、賦活化の必要が無い場合もあるが、プロドラッグによっては培養細胞により活性体にならない場合もある。したがって、要すれば、投与前に賦活化する必要がある。最後に基本培養液の1例として、培養用サプルメントN2、DMEM、ハムF12培地等の組成を示す。神経幹細胞が増殖する限り、組成は変更してもかまわない。また、細胞の分離や細胞の洗浄に用いる緩衝液の1例としてD‐ハンクス液、リン酸緩衝食塩水(PBS)、デルベッコのPBS(DPBS)等の組成を示す。後の操作に悪い影響を与えない限り、これ以外の緩衝液も用いることができる。
【0027】
培養用サプルメント、培地、緩衝液の組成の例示
培養用サプルメントN2の組成(ミリグラム/リットル):インスリン:5、ヒトトランスフェリン:100、プロゲステロン:0.0063、プトレッシン16.11、亜セレン酸塩:0.0052.
DMEMの組成(ミリグラム/リットル):塩化カルシウム:200、硝酸鉄(三価)9水和物:0.1、塩化カリウム:400、硫酸マグネシウム:97.6、塩化ナトリウム:6,400、リン酸二水素ナトリウム2水和物:125、L‐アルギニン塩酸塩:84、L‐シスチン2塩酸塩:62.6、L‐グルタミン:584、L‐グリシン:30、L‐ヒスチジン塩酸塩1水和物:42、L‐イソロイシン:104.8、L‐ロイシン:104.8、L‐リジン塩酸:146.2、L‐メチオニン:30、L‐フェニルアラニン:66、L‐セリン:42、L‐スレオニン:95.2、L‐トリプトファン:16、L‐チロシン二ナトリウム塩:89.5、L‐バリン:93.6、パントテン酸カルシウム:4、コリン酒石酸水素塩:7.2、葉酸:4、イノシトール:7.2、ニコチンアアミド:4、ピリドキサール塩酸塩:4、リボフラビン:0.4、チアミン塩酸塩:4、デキストロース:1,000、ピルビン酸ナトリウム:110、フェノール・レッド:5。
培養用サプルメントB27の成分(B27の組成は開示されていないので、B27そのものを使用する場合は市販品を購入せざるを得ないが、開示されている成分(非特許文献63)より、似たような効果を有する培養用サプルメントは作ることは可能である):ビオチン、L‐カルニチン、コルチコステロン、エタノールアミン、D(+)ガラクトース、還元型グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレッシン、レチニル酢酸、セレン、トリオド‐l‐チロミン、ビタミンE、ビタミンE酢酸塩、ウシアルブミン、カタラーゼ、インスリン、スーパーオキシド・ジスムターゼ、トランスフェリン。
ハムF12培地の組成:塩化カルシウム:33.3、硫酸銅(ニ価)5水和物:0.0025、硫酸鉄(ニ価)7水和物:0.834、塩化カリウム:224、塩化マグネシウム:57.1、塩化ナトリウム:7,600、リン酸水素二ナトリウム:142、硫酸亜鉛7水和物、L‐アラニン:8.9、L‐アルギニン塩酸塩:211、L‐アスパラギン1水和物:15.0、L‐アスパラギン酸:13.3、L‐システイン塩酸塩1水和物:35.1、L‐グルタミン酸:14.7、L‐グルタミン:146、L‐グリシ:7.5、L‐ヒスチジン塩酸塩1水和物:21.0、L‐イソロイシン:3.94、L‐ロイシン:13.1、L‐リジン塩酸塩:36.5、L‐メチオニン:4.48、L‐フェニルアラニン:4.96、L‐プロリン:34.5、L‐セリン:10.5、L‐スレオニン:11.9、L‐トリプトファ:2.04、L‐チロシン:5.44、L‐バリン:11.7、ビオチン:0.0073、パントテン酸カルシウム:0.477、塩化コリン:14.0、シアノコバラミン:1.355、葉酸:1.324、イノシトール:18.0、リポ酸:0.206、ニコチンアミド:0.0366、ピリドキシン塩酸塩:0.0617、リボフラビン:0.0376、チアミン塩酸塩:0.337、デキストロース:1,802、ヒポキサンチン:4.08、リノレイン酸:0.0841、ピルビン酸ナトリウム:110、チミジン:0.727、プトレッシン2塩酸塩:0.61、フェノール・レッド:1.242。
D‐ハンクス液の組成(ミリグラム/リットル):塩化カルシウム:185.5、塩化カリウム:400、リン酸二水素カリウム:60、硫酸マグネシウム:97.7、塩化ナトリウム:8,000、リン酸水素二ナトリウム:47.5、D‐グルコース:1,000。
PBSの組成(ミリグラム/リットル):塩化カルシウム:132.5、塩化カリウム:200、リン酸二水素カリウム:200、硫酸マグネシウム:59.2、塩化ナトリウム:8,000、リン酸水素二ナトリウム:1150。
DPBSの組成(ミリグラム/リットル):塩化カルシウム:100、塩化カリウム:200、リン酸二水素カリウム:200、塩化マグネシウム:100、塩化ナトリウム:8,000、リン酸水素二ナトリウム:1150。
RPMI1640の組成(ミリグラム/リットル):硝酸カルシウム:69.5、塩化カリウム:400、硫酸マグネシウム:48.8、塩化ナトリウム:6,000、リン酸水素二ナトリウム:801、L‐アルギニン:200、L‐アスパラギン1水和物:56.8、L‐アスパラギン酸:20、L‐システイン2塩酸塩:65.2、L‐グルタミン酸:20、L‐グルタミン:300、L‐グリシ:10、L‐ヒスチジン:15、L‐ヒドロキシプロリン:20、L‐イソロイシン:50、L‐ロイシン:50、L‐リジン塩酸塩:40、L‐メチオニン:15、L‐フェニルアラニン:15、L‐プロリン:20、L‐セリン:30、L‐スレオニン:20、L‐トリプトファ:5、L‐チロシン:20、L‐バリン:20、p‐アモノ安息香酸:1、パラビオチン:0.2、パントテン酸カルシウム:0.25、塩化コリン:3、シアノコバラミン:0.005、葉酸:1、イノシトール:35、ニコチンアミド:1、ピリドキシン塩酸塩:1、リボフラビン:0.2、チアミン塩酸塩:1、デキストロース:2,000、還元型グルタチオン:1、フェノール・レッド:5。
20倍SSCの組成(モル/リットル):塩化ナトリウム:3、クエン酸ナトリウム:0.3。
本発明の神経幹細胞増殖方法は、(1)体外での神経幹細胞の増殖方法として有用であり、(2)後述の神経幹細胞含有液の生産方法として有用であり、(3)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の生産方法またはその一工程として有用である。
【0028】
本発明の更にもう1つは、体外で増殖した神経幹細胞の含有液である。神経幹細胞の増殖に本発明の神経幹細胞増殖方法を用いることを特徴とする。体外で増殖した神経幹細胞含有液は神経細胞培養液としてどのような培養液を用いたか、或いは神経幹細胞の増殖剤としてどのような神経細胞増殖剤を用いたかに異なる。例えば、神経細胞培養液として血清含有培養液を用いた場合、或いは神経細胞増殖剤としてbFGFやNGFを加えて培養した場合は、増殖した神経幹細胞含有液に血清やbFGFやNGFが混入する。本発明の神経幹細胞含有液には本発明の神経幹細胞増殖剤が混入している。移植免疫の問題があるので、血清やbFGFやNGF等が混入する神経幹細胞含有液は、次に説明する神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤に用いることはできない。公知の無血清の神経細胞培養液には血清は存在しないが、bFGFやNGFは一般には添加する。したがって、神経幹細胞含有液製造の最終工程ではこれらの因子を添加しないことが肝要である。培養用サプルメントN2中にたんぱく質としてインスリンとヒトトランスフェリンが存在する。インスリンまたはヒトトランスフェリン投与によりインスリン抗体やヒトトランスフェリン抗体が出現するものの、臨床上の抗原抗体反応としてはあまり問題にならない。もし、インスリンとヒトトランスフェリンの混入が問題になる場合は、本発明方法で培養した後に、培養液を捨て、インスリンとヒトトランスフェリンを除いたN2サプルメントと本発明の細胞幹細胞増殖剤を添加した細胞培養液で1日間培養することにより、混入するインスリンとヒトトランスフェリンを消化し尽くす方法を取ればよい。いずれにしろ、本発明の神経幹細胞含有液に本発明の神経幹細胞増殖剤が混入するが、本発明の神経幹細胞増殖剤はサルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物を含有するが、これらは抗原性は無い。
本発明の神経幹細胞含有液は、(1)神経幹細胞の供給源として有用であり、(2)後述の神経幹細胞含有液含有治療剤の有効成分として有用である。
【0029】
本発明の更にもう1つは、神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤である。本発明の神経幹細胞含有液を含有することを特徴とする治療剤と、本発明の神経幹細胞増殖剤を含有し、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によりことを特徴とする治療剤と2種類存在する。本発明の治療剤を神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病患者に投与されると、神経幹細胞含有液含有治療剤の場合は、治療剤に含有される神経幹細胞含有液中の神経幹細胞が疾病により失われた神経細胞部位に移動し、そこで、神経細胞に分化し、失われた神経細胞が補充されることにより病状が改善され、神経幹細胞増殖作用機序による治療剤の場合は、その治療剤に含まれる神経幹細胞増殖剤が体内に内在する神経幹細胞の存在部位に浸透し、その内在神経幹細胞を増殖する。内在神経幹細胞は増殖しつつ、失われた神経細胞部位に移動し、そこで、神経細胞に分化し、失われた神経細胞が補充されることにより病状が改善される。後者の治療剤の方が前者の治療剤の方より患者に対する負担が少ないので、通常、先ず、後者を投与して有効かどうかを調べ、無効の場合に前者の神経幹細胞含有液含有治療剤を投与する方がよい。神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の例としては、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、小脳変性症、交通性水頭症、ハンチントン病、前頭葉への照射、多発性硬化症、正常圧水頭症、パーキンソン病、ピック病、進行性多巣性白質脳症、進行性核上麻痺、拳闘家痴呆、脳外傷、外科手術、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、脳卒中(脳梗塞または脳出血)、脳血管性痴呆、ウィルソン病細菌性心内膜炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、HIV関連疾病、神経梅毒、結核性および真菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、無酸素症、B12欠乏症、慢性的な薬物-アルコール-栄養性乱用、葉酸欠乏症、副甲状腺機能亢進症に伴う高カルシウム血症、低血糖、甲状腺機能低下症、肝性脳症、肺性脳症、尿毒素性脳症等の臓器系不全、ペラグラ等の神経疾病、繊維化、免疫反応、血管傷害、栄養と酸素欠乏、感染等による神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病が挙げられるが、これに限らない。神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病であればよい。
【0030】
本発明の神経幹細胞増殖剤または神経幹細胞増殖作用機序による治療剤は、有効成分が低分子であることから、体外投与は勿論、経口投与または非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、脳内、坐薬など)のいずれでも投与できる。体外投与の場合は本発明の組成物中にプロドラッグが含まれているときは、既に述べたが、適宜の方法で活性化してから用いた方がより大きな効果を得るので好ましい。プロドラッグが含まれていないときはそのまま用いてよい。体内投与の場合は多くの場合体内でプロドラッグが活性化するので、プロドラッグを予め活性化しておく必要は少ない。
【0031】
経口用製剤を調製する場合、賦形剤、さらに必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により、錠剤、被服錠剤、顆粒剤、カプセル剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性または水性の懸濁液剤などとする。賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビット、結晶セルーロスなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0032】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン未、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストラン、ペクチンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが挙げられる。着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているものが使用できる。矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、竜脳、桂皮末などが使用できる。これらの錠剤は、顆粒剤には、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングしてもよい。
【0033】
注射剤を調製する場合、必要により、グルコースや生理的食塩水等の等調液、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤などを添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内、脳内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥などによって、固形製剤として、用事調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、多投与量を同一の容器に収納してもよい。溶液の場合、酸素や湿気を遮断する方がよい。そのため、場合によってはアンプル型の容器に入れ、空気を抜くか、窒素ガス等で空気を置換しておく方がよい。公知の方法でよい。
【0034】
本発明の神経幹細胞増殖剤の試薬としての使用濃度は通常0.001から100マイクロモル濃度、好ましくは、0.01〜10マイクロモル濃度で使用し、本発明の神経幹細胞増殖剤の医薬としての投与量または神経幹細胞増殖作用機序による治療剤の投与量は、ヒトの場合、成人1日当たり通常0.01〜1000ミリグラム、好ましくは、0.1〜100ミリグラムの範囲で、1日量を1日1回、あるいは2〜4回に分けて投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
【0035】
本発明の神経幹細胞増殖方法に用いる神経幹細胞の入手先は使用目的によって限定の度合いが異なるが、適合する限りどこから入手しても良い。使用目的がヒトを対象としない場合には限定が少ないが、神経幹細胞含有液含有治療剤に用いる神経幹細胞含有液用の場合は、後述するように、ヒトの胎児の脳または治療対象の患者またはその患者と主要組織適合抗原が実質的に同じ、または非常に類似するヒトの脳内より無菌的に採取するのが好ましい。倫理的問題を考慮すると治療対象の患者の脳内より無菌的に採取するのが一番好ましい。
【0036】
本発明の神経幹細胞含有液に含有される神経幹細胞は本発明の神経幹細胞増殖方法によって体外で増殖した神経幹細胞である。神経幹細胞の入手先は、 この神経幹細胞含有液の使用目的によって限定の度合いが異なるが、適合する限りどこから入手しても良い。使用目的がヒトを対象としない場合には限定が少ないが、神経幹細胞含有液含有治療剤用の場合はヒトの胎児の脳または治療対象の患者またはその患者と主要組織適合抗原が実質的に同じ、または非常に類似するヒトの脳内より無菌的に採取するのが好ましい。倫理的問題を考慮すると治療対象の患者の脳内より無菌的に採取するのが一番好ましい。同治療剤用には、更に神経幹細胞増殖の際に、血清やbFGFやNGF等を添加せずに増殖させる必要がある。
【0037】
本発明の神経幹細胞含有液含有治療剤は神経幹細胞を含有しているため、動脈内、静脈内または脳内注射剤に限られる。この中で、静脈内注射が一番安全性に優れている。但し、後述するように、静脈内注射により効果が期待される場合は限られている。一般には脳内注射が適用される。本発明に用いる神経幹細胞の入手先は、ヒトの胎児の脳または治療対象の患者またはその患者と主要組織適合抗原が実質的に同じ、または非常に類似するヒトの脳に限られる。倫理的問題を考慮すると治療対象の患者の脳内に内在する神経幹細胞を無菌的に採取して、本発明の神経幹細胞増殖方法において、bFGFやNGF等高分子を添加せずに増殖させて得られる神経幹細胞含有液を用いる必要がある。本発明の神経幹細胞含有液含有治療剤は静脈内注射する場合は、脳血管バリアの問題があるので、脳障害直後または脳炎症中等脳血管バリアが壊れている時か、将来、人工的に中等脳血管バリアを壊した場合に限られる。脳内注射の場合は、そのような制限はない。中枢神経系に移植するのに適切であるように様々な方法で投与されうる。これに限定されるわけではないが、くも膜下腔投与、脳室内投与および黒質内投与等が挙げられる。
【0038】
本発明の細胞幹細胞増殖剤、細胞幹細胞増殖作用機序による治療剤、細胞幹細胞含有液または当該液含有治療剤および細胞幹細胞増殖方法は、いずれも、本発明の細胞幹細胞増殖剤の有効成分に特徴があるだけである。本発明の特徴以外の操作や工程は公知の操作や工程でよく、それらは前述の先行文献に開示されている。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
海馬、線条体と大脳皮質を2週齢のスプラグ‐ダウレイ(Sprague‐Dawley(SD))系の雄のラットの脳から取り出した。これらを直ちにD‐ハンクス液(HyClone・Laboratories・Inc社製)の中に入れ、0.125%のトリプシンと混合させ、これらを静かにピペットで吸い込み、吐き出す方法で、迅速に4回もみほぐして組織を個々の細胞にし、もみほぐした細胞を、最初網目の大きさが180マイクロメーターのナイロン性の網でろ過し、次いで網目の大きさが75マイクロメーターのナイロン性の網でろ過した。ろ過した細胞を回転速度800rpmで5分間遠心分離して、沈殿した細胞を分離し、分離した細胞を2%の培養用サプルメントN2(GIBCO社製)と1リットル当たり20マイクログラムのbFGF(PEPRO・TECH社製)と1ミリリットル当たり100単位のペニシリン(SIGMA社製)と100マイクログラムのストレプトマイシン(SIGMA社製)を含むダルベッコ修正イーグル最少必須培地/ハムF12培地(DMEMとF12を1:1で混合したもの、GIBCO社製)の無血清培養液で洗浄後、当該培養液中に、1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度になるように懸濁し、この懸濁した細胞を摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で培養し、2日毎に培養液の半量を新しい培養液で置き換えた。1週間後に球形の最初の細胞塊が形成された。この第1次球形細胞塊を集め、これらをピペットで吸い込み、吐き出す方法で機械的に個々の細胞にばらし、前述の培養液で、1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度で、再び培養した。5日後に再び球形細胞塊が形成された。この操作を繰り返し、第5次の球形細胞塊を得た。
【実施例2】
【0040】
実施例1で得られた第5次の球形細胞塊の性質を調べるために、ネスチン(Nestin)免疫蛍光染色試験を行った。ネスチンは神経幹細胞に発現し、神経細胞には発現しない。したがって、この球形細胞塊がネスチン免疫蛍光染色試験陽性であれば、神経幹細胞を取得したことを意味する。そこで、得られた第5次の球形細胞塊を前述の方法により個々の細胞にばらし、その一部を5%の胎児性牛血清(FBS)を含む前述のDMEM/F12培養液で1ミリリットル当たり200,000個の細胞密度になるように懸濁し、スライドグラスの上の中央に100マイクロリットルだけ小分けし、2時間放置したところ、細胞がスライドグラスに付着した。この付着細胞を、付着した状態で、D‐ハンクス液で洗浄し、洗浄後の付着細胞を4%パラホルムアルデヒド含有0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)(フナコシ社製)100マイクロリットルに摂氏4度で30分間浸す方法で固定した。この固定した細胞をPBSに室温で30分間浸す方法で3回洗浄した後、自然に乾燥させた。この乾燥させた固定化細胞に1ミリリットル当たり0.05マイクログラムのタンパク分解酵素を加え、摂氏37度で2分反応させた。引き続き、タンパク分解酵素処理をした固定化細胞を0.5%トリトン・エックス100(tritonX100)と5%ヤギ正常血清含有D‐ハンクス液(D‐ハンクスTS液)150マイクロリットルで摂氏37度で30分間浸した。次にこの固定した細胞に同液で100倍に希釈したマウスの抗ラットネスチン抗体(大日本製薬製)を加え、摂氏4度で一晩放置した。翌日、第1次抗体反応をさせた固定化細胞をD‐ハンクスTS液で室温で10分間浸す方法で3回洗浄した。この固定した細胞を同液に1ミリリットル当たり10マイクログラムの第2次抗体であるビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体で、室温で2時間浸した。この第2次抗体処理した固定化細胞をD‐ハンクスTS液で室温で10分間浸す方法で3回洗浄した。この洗浄した固定化細胞を使用直前にアビジン‐ビオチン複合体(Avidin‐Biotin・Complex)溶液(Vector社のVectastain・Elite・ABC・Kit・Standard使用)用の溶液A(アビジン)10マイクロリットルと溶液B(ビオチン)10マイクロリットルとPBS500マイクロリットルを混合した液に室温で1時間浸し、直ちにPBSで3回洗浄した。このABC処理した固定化細胞を0.05%3,3‘‐ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(3,3’‐diaminobenzidine・tetrahydrochloride)(DAB、DojinDo社製)と0.1%過酸化水素を含むPBS200マイクロリットルで室温で10分間反応させた。DAB処理をした固定化細胞をPBSで室温で10分間浸す方法で3回洗浄した。この固定した細胞を70度のエチルアルコールに浸し、80度、90度、95度、100度のエチルアルコールに順次浸し、固定化細胞を脱水させた。キシレン1、キシレン2で各10分処理した後にエンテランおよびカバーグラスで細胞を封入し、標本を作製した。この標本を共焦点レーザー走査顕微鏡で観察し、標本が陽性に染色していることより、神経幹細胞を分離したことを確認した。一方、実施例1で得られた第5次の球形細胞塊について、前述の1ミリリットル当たり10マイクログラムの第2次抗体であるビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体の代わりに、1ミリリットル当たり5マイクログラムの第2次抗体であるインドカルボシアニン(Indocarbocyanine:Cy3)標識ヤギ抗マウスIgG抗体を用いて、Cy‐3標識免疫染色も行った。
【実施例3】
【0041】
実施例1で得られた球状細胞塊をピペットで静かに吸い込み、吐き出すやり方を繰り返して、機械的に個々の細胞にばらばらにし、この細胞(神経幹細胞)を0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bと2%のN2と1ミリリットル当たり100単位のペニシリンと100マイクログラムのストレプトマイシンを含み、血清やbFGFを含まないDMEM/F12培養液(実験群)または2%のN2と1ミリリットル当たり100単位のペニシリンと100マイクログラムのストレプトマイシンを含み、サルビアノール酸Bと血清やbFGFを含まないDMEM/F12培養液(対照群)に1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度になるように懸濁し、5枚の96穴(well)プラスチックプレートの中央の各20穴(well)に100マイクロリットルずつ小分けした。
【実施例4】
【0042】
神経幹細胞を小分けした実施例3の96穴(well)プラスチックプレートの1枚について対照群と実験群の培養前の神経幹細胞の細胞賦活評価試験(MTTアッセイ)を行った。MTTアッセイの原理は生きた細胞の糸粒体のコハク酸脱水素酵素が外来のMTTを酸化して細胞中に蓄積して、水不溶のロイヤル・パープル色のフォルマザンを形成するのに対し、死んだ細胞ではそのような現象が絶対に起こらないことにある。そこで、この神経幹細胞を懸濁したばかりの96穴(well)プラスチックプレートを回転速度800rpmで5分間遠心し、実験群と対照群各20個の穴(well)中の細胞を沈殿させて、その上清の培養液を捨て、摂氏37度に暖めたフェノールレッドを含まないRPMI‐1640液(フナコシ社製)で穴(well)中の細胞を洗浄した。1ミリリットル当たり0.5ミリグラムの濃度のメチルチアゾールテトラゾリウム(Methylthiazoletetorazoliumu:MTT)100マイクロリットルを洗浄後の各穴(well)に加え、炭酸ガス細胞培養器で摂氏37度で4時間反応させた。倒立顕微鏡で細胞を観察したところ、青みかかった紫色(ロイヤル・パープル色)の針状のフォルマザンが生きた細胞に見られた。そこで、96穴(well)プラスチックプレートを回転速度800rpmで5分間遠心し、各穴(well)中の細胞を沈殿させて、その上清を捨て、ジメチルスルフオキシド(DMSO)を100マイクロリットルずつ各穴(well)に加え、各穴(well)中でピペットで細胞とDMSOを吸い込み、吸い出すやり方で、細胞中の色素の結晶を溶解した。このプレートを回転速度1,000rpmで20分間遠心した。各穴(well)中の上清を新しい96穴(well)プラスチックプレートの各穴(well)に移し、ムルティスカン(Multiskan)プレート・リーダーを用いて、570ナノメーターの波長で各穴(well)の溶液の吸光度を測定した。対照群の20穴(well)の吸光度と実験群の20穴(well)の吸光度は共に平均値が0.065で標準偏差がプラスマイナス0.005であった。このことは、実験群20穴(well)と対照群20穴(well)に小分けした神経幹細胞の中で、生きた細胞は各穴(well)に約同数存在することを示している。
【実施例5】
【0043】
実施例4の培養前MTTアッセイ操作と並行して、神経幹細胞を小分けした実施例3の96穴(well)プラスチックプレートの残りの4枚を摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で6日間培養した。6日間培養した細胞の形態は実験群と対照群共に球状で神経細胞状の突起は出ていなかった。3枚のプラスチックプレートの実験群と対照群各5つの穴(well)の細胞につぃて、実施例2に記載の方法で、これらの細胞のネスチン陽性の有無を調べたところ、いずれも、ネスチン陽性であり、血清やbFGFを含まないDMEM/F12培養液で培養した場合、神経幹細胞は神経細胞に分化せずに神経幹細胞として存在すること確認した。図2参照。
【実施例6】
【0044】
実施例5で6日間培養した96穴(well)プラスチックプレート中の神経幹細胞の増殖の程度を測定するために、この培養した96穴(well)プラスチックプレーの1枚を用いて実施例4と同様の操作により、6日間培養した対照群と実験群の神経幹細胞のMTTアッセイを行った。対照群の20穴(well)の吸光度が平均値が0.204で標準偏差がプラスマイナス0.059に対し、実験群の20穴(well)の吸光度は平均値が0.375で標準偏差がプラスマイナス0.070、両群間でt検定でPが0.01以下で有意に差が認められた。MTTアッセイ自体は生きた細胞の数を測定するに過ぎないが、培養前と培養後の細胞のMTTアッセイをすることにより、細胞の増殖の度合いを測定することができる。本実施例の場合、培養後の対照群の吸光度は培養前に比べ、約3.1倍に増えたが、培養後の実験群の吸光度は培養前に比べ、約5.7倍に増えた。このことは、N2サプルメン添加培地により、神経幹細胞はある程度増殖するが、サルビアノール酸Bの添加により、増殖が促進したことを意味する。図3参照。
【実施例7】
【0045】
サルビアノール酸Bの細胞増殖作用をDNAの複製レベルで観測するために、実施例3と同様の操作により得られた2枚の神経幹細胞を小分けした96穴(well)プラスチックプレートを摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で3日間培養した。その中の1枚のプラスチックプレートの各穴(well)に静かに10マイクロリットルの1ミリモル濃度のブロモデオキシウリジン(BrdUrd)(Boehringer・Mannheim社製)のDPBS溶液を加え、他の1枚のプラスチックプレートの各穴(well)には10マイクロリットルのDPBS溶液を加え、摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で40分間培養した。プラスチックプレートを回転速度800rpmで5分間遠心し、各穴(well)中の細胞を沈殿させて、その上清捨て、各穴(well)中の細胞を各穴(well)中でDPBS溶液で洗浄した。これらの細胞中のBrdUrdの取り込み量を抗BrdUrd抗体法で測定した。即ち、実施例2において、スライドグラスに付着した細胞の代わりに各穴(well)の底に付着した洗浄細胞を用い、実施例2と同様の操作を行い、細胞を固定化し、タンパク質分解酵素処理をする代わりにDNA分解酵素(DNase)処理を行い、D‐ハンクスTS液で100倍に希釈したマウスの抗ラットネスチン抗体の代わりにD‐ハンクスTS液で400倍に希釈したマウスのフルオレセイン・イソチオシャネート(FITC‐)標識アルファ‐抗BrdUrd抗体を用い、その他は実施例2と同様の操作を行い、細胞を免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察し、BrdUrdの量を測定した。BrdUrdを加えないプラスチックプレートについても同様の操作を行い、バックグランド値とした。実験群(サルビアノール酸B添加群)の細胞のBrdUrdの取り込み量は対照群(サルビアノール酸B無添加群)に比較し、約2倍多かった。
【実施例8】
【0046】
実施例5で6日間培養したが、実施例6でMTTアッセイに用いなかった残りの2枚の96穴(well)プラスチックプレートの実験群の各穴(well)の培養液を0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bと2%のN2を含み、血清やbFGFを含まない新鮮なDMEM/F12培養液で入れ替えて、引続き炭酸ガス細胞培養器で摂氏37度で1週間培養した。実験群の細胞は培養液中で浮遊したまま集まり、数十個から数百個の細胞の球状集落を形成した。この細胞の一部を実施例2と同様の操作により免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、細胞はネスチン陽性であった。
【実施例9】
【0047】
実施例8で得られた球状細胞塊を集め、この細胞塊をピペットで静かに吸い込み、吐き出すやり方を繰り返して、機械的に個々の細胞にばらばらにし、この細胞(神経幹細胞)を10%FBSと1ミリリットル当たり100単位のペニシリンと100マイクログラムのストレプトマイシンを含むDMEM培養液に1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度になるように懸濁し、96穴(well)プラスチックプレートの中央の20穴(well)に100マイクロリットルずつ小分けした。このプレートを摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で6日間培養した。最初は細胞集落を形成したが、細胞集落の幾つかは自然に穴(well)の底に付着し、突起を出し、神経細胞やアストロサイト状の形態に変化した。
【実施例10】
【0048】
実施例9で得られた神経細胞状の形態を有する細胞とアストロサイト状の形態を有する細胞について、実施例2と同様の操作により免疫染色し、顕微鏡および共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、両者の細胞は共にネスチン陰性であった。このことは神経細胞状の形態を有する細胞はもはや神経幹細胞でないことを意味する。そこで、神経細胞状の形態を有する細胞につぃて、実施例2において、D‐ハンクスTS液で100倍に希釈したマウスの抗ラットネスチン抗体の代わりに、D‐ハンクスTS液で200倍に希釈したマウスの抗ラット神経特異的エノラーゼ(neuron・specific・enolase:NSE)抗体を用い、その他は実施例2と同様の操作により免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、当該細胞はNSE陽性であった。NSEは神経特異的マーカーである。したがって、この神経細胞状の形態を有する細胞は神経細胞であり、神経幹細胞が神経に分化したことを意味する。次に、アストロサイト状の形態を有する細胞について、実施例2において、D‐ハンクスTS液で100倍に希釈したマウスの抗ラットネスチン抗体の代わりに、D‐ハンクスTS液で1,000倍に希釈したウサギの抗ラットグリア繊維性酸性たんぱく質(glial・fibrillary・acidic・protein:GFAP)抗体を用い、ビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体の代わりに、ビオチン標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を用い、その他は実施例2と同様の操作により免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、当該細胞はGFAP陽性であった。GFAPはアストロサイト特異的マーカーである。したがって、このアストロサイト状の形態を有する細胞はアストロサイトであり、神経幹細胞がアストロサイトに分化したことを意味する。すなわち、サルビアノール酸Bで増殖した神経幹細胞は生体外で、10%胎児性牛血清存在下で神経細胞とアストロサイトに分化したことを意味する。
【実施例11】
【0049】
実施例1で得られた第5次の球形細胞塊で、未使用の細胞塊をピペットで静かに吸い込み、吐き出すやり方で個々の細胞に分散させ、この細胞(神経幹細胞)を実施例3に記載の0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bと2%のN2と1ミリリットル当たり100単位のペニシリンと100マイクログラムのストレプトマイシンを含み、血清やbFGFを含まないDMEM/F12培養液に1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度になるように懸濁し、摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で6日間培養し、サルビアノール酸Bによる増殖神経幹細胞を得た。
【実施例12】
【0050】
実施例11で得られたサルビアノール酸Bによる増殖神経幹細胞を10マイクロモル濃度のBrdUrdと0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bと2%のN2と1ミリリットル当たり100単位のペニシリンと100マイクログラムのストレプトマイシンを含み、血清やbFGFを含まないDMEM/F12培養液に1ミリリットル当たり50,000個の細胞密度になるように懸濁し、摂氏37度で、5%炭酸ガス中で炭酸ガス培養器で4日間培養した。培養プレートを回転速度800rpmで5分間遠心し、上清を捨て、細胞を分離した。トリプシン処理をして細胞を個々の細胞にばらし、DPBSで洗浄し、1マイクロリットル当たり50,000個の細胞密度になるように0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bを含有するDPBSに懸濁した。
【実施例13】
【0051】
実施例12で得られたBrdUrdで標識した神経幹細胞を5マイクロリットル容量の26ゲイジのメモリが付いたハミルトン注射器で細胞懸濁液1マイクロリットルを麻酔した大人の雌のSDラットの背面の海馬にゆっくりと注入した。細胞懸濁液注入後1、4、8、12週間後にラットを3匹ずつ麻酔し、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液で還流した。脳を取り出し、50%ホルムアミド/2xSSC溶液中で摂氏65度で2時間加温し、引続き、2モル濃度の塩酸中摂氏37度で30分反応させた後に、脳冠状凍結ミクロトームで、脳組織を2ミリメートル間隔で7等分の環状ブロックに切断した。前頭面で各切断ブロックから6マイクロメートルの厚さの切片を作成した。
【実施例14】
【0052】
実施例10において、固定した神経細胞の代わりに、実施例13で得られたラットの固定した脳切片を用い、D‐ハンクスTS液で200倍に希釈したマウスの抗ラットNSE抗体の代わりに、D‐ハンクスTS液で400倍に希釈したマウスのFITC‐アルファ‐抗BrdUrd抗体と200倍に希釈したマウスの抗ラットNSE抗体を用い、その他は実施例10における固定した神経細胞に対する操作と同様の操作により免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、NSE陽性でFITC陰性の神経細胞の他にNSEとFITCが共に陽性の神経細胞が観察された。NSE陽性でFITC陰性の神経細胞は内在性の神経細胞であることを意味し、NSEとFITCが共に陽性の神経細胞は外来性の神経細胞であること意味する。したがって、NSEとFITCが共に陽性の神経細胞の存在は脳内に注入した神経幹細胞が脳内で神経細胞に分化したことを示している。
【実施例15】
【0053】
実施例10において、固定したアストサイトの代わりに、実施例13で得られたラットの固定した脳切片を用い、D‐ハンクスTS液で1,000倍に希釈したウサギの抗ラットGFAP抗体の代わりに、D‐ハンクスTS液で400倍に希釈したマウスの蛍光イソチオシアネート(FITC‐)標識アルファ‐抗BrdUrd抗体と1,000倍に希釈したウサギの抗ラットGFAP抗体を用い、その他は実施例10における固定したアストサイトに対する操作と同様の操作により免疫染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察したところ、GFAP陽性でFITC陰性のアストロサイトの他にGFAPとFITCが共に陽性のアストロサイトが観察された。GFAP陽性でFITC陰性の神経細胞は内在性のアストロサイトであることを意味し、GFAPとFITCが共に陽性の神経細胞は外来性のアストロサイトであること意味する。したがって、GFAPとFITCが共に陽性のアストロサイトの存在は脳内に注入した神経幹細胞が脳内でアストロサイトに分化したことを示している。神経幹細胞が神経細胞に分化するかアストロサイトに分化するかは、脳内の部位の環境によると思われる。
【実施例16】
【0054】
体重300グラム前後の大人のSDラット10匹を4%イソフルラン、66%N2O、30%酸素の混合ガスで麻酔し、1.5%のイソフルラン、68.5%N2O、30%酸素の混合ガスで麻酔を維持した。血圧、血液冲のガス分圧、血糖値を左の大腿骨動脈でモニターした。直腸温度、中大脳動脈閉塞の反対側の側頭筋温度を常時モニターして、加熱パッドで摂氏37.0−37.5度に維持した。左外頚動脈を6−0絹縫合糸で結び、遠位を切開し、左内頚動脈を分離し、迷走神経から離した。左内頚動脈の頭蓋外枝をその枝分れの根元のところで、6−0絹縫合糸で結んだ。円形チップの付いた3−0外科用単層ナイロン縫合糸を外頚動脈断片を通して左内頚動脈に導き、その頚動脈の枝分れ部分より20ミリメートル過ぎたところで、90分間結び、その後直ぐ解き、縫合糸による閉塞による中大脳動脈閉塞を起したラットを作成した。このラット10匹に実施例12で得られたBrdUrd標識神経幹細胞をハミルトン注射器で細胞懸濁液1マイクロリットルを麻酔下で背面の海馬にゆっくりと注入した。
【実施例17】
【0055】
実施例16でBrdUrd標識神経幹細胞を海馬に注入した中大脳動脈閉塞ラットに対して、即日より殺す日まで毎日2ミリグラム/キログラムの割合でサルビアノール酸Bを腹腔内投与した。対照として別のBrdUrd標識神経幹細胞を海馬に注入した中大脳動脈閉塞ラット10匹に対してサルビアノール酸Bを投与しなかった。中大脳動脈閉塞後第1,3,7,14日にこれらのラット2匹ずつをキシラジン10ミリグラム/キログラムとケタミン80ミリグラム/キログラムで麻酔して殺した。直ちに、生理的食塩水で還流し、続いて4%パラホルムアルデヒドで還流した。脳組織を2ミリメートル間隔で7等分の環状ブロックに切断した。前頭面で各切断ブロックから6マイクロメートルの厚さの切片を作成した。
【実施例18】
【0056】
実施例14において、実施例13で作成した切片の代わりに、実施例17で作成した切片を用い、その他は実施例14と同様の操作をして、NSEとFITCに対する二重免疫標識した。サルビアノール酸Bを投与したラットは中大脳動脈閉塞後第2日に殺した群からNSEとFITCの二重陽性が認められ、日数に比例して二重陽性が強くなった。サルビアノール酸Bを投与しなかったラットは中大脳動脈閉塞後第2日に殺した群からNSEとFITCの二重陽性が認められなかったが、第4日になってNSEとFITCの二重陽性は確認できた。このことから、脳内に注入した神経幹細胞はサルビアノール酸Bが存在しなくとも、脳内で神経細胞に分化するが、サルビアノール酸Bの投与により脳内で神経幹細胞が増殖し、その結果として神経幹細胞の神経への分化が促進されたと思われる。
【実施例19】
【0057】
実施例16と同様の操作により、中大脳動脈閉塞ラットを40匹作成し、その中で20匹の背面の海馬に実施例12においてBrdUrdを添加せずに他は実施例12と同様の操作をして得られたBrdUrd非標識の神経幹細胞を1マイクロリットル当たり50,000個の細胞密度になるように、0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bを含有するDPBS(サルビアノール酸B投与群用)またはサルビアノール酸Bを含有しないDPBS(サルビアノール酸B非投与群用)に懸濁した神経幹細胞含有液1マイクロリットルを5マイクロリットル容量のハミルトン注射器でゆっくりと注入した。増殖神経幹細胞含有液を注入したラット10匹と注入しないラット10匹に毎日2ミリグラム/キログラムの割合でサルビアノール酸Bを3ヶ月間腹腔内投与した。一方、残りの増殖神経幹細胞含有液を注入したラット10匹と注入しないラット10匹にはサルビアノール酸Bを投与しなかった。このラットについて高架式十字迷路試験を行った。高架式十字迷路試験とは高架式の十字形の細長い平板の一方にラットの餌を置き、他方の一つにラットを放すと、ラットは最初は試行錯誤で十字路の一方の行き止まりまで行き、そこに餌が無いことを知って、十字路にもどり、別の道を行く、そうこうしているうちにラットが餌の置いてある端にたどりつく。もう一度実験をすると記憶力のあるラットは迷うことなく、餌がおいてある道を進み餌にありつく。しかし、記憶力の悪いラットは1回目と同様に試行錯誤を繰返す。この試験によりラットの記憶力が測定できる。神経幹細胞含有液もサルビアノール酸Bも投与しなかった対照群は餌にたどり着くまでに多くの時間を要し、記憶力が極度に低下していた。これに対し、サルビアノール酸Bだけを投与した群は餌にたどり着くまでの時間が短くなり、神経幹細胞含有液を注入した群は餌にたどり着くまでの時間が更に短くなり、神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与し続けた群が餌にたどり着くまでの時間が一番短くなった。ラットが餌にたどり着くまでの時間が短くなったということは記憶力の回復を意味し、神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与群、神経幹細胞含有液注入群、サルビアノール酸Bを投与群の順で神経細胞が再生し、かつ再生した神経細胞が機能していることを示している。
【実施例20】
【0058】
実施例19において、中大脳動脈閉塞ラット40匹の代わりに、24ヶ月齢の老齢のラット40匹を用いて同様の操作により、老齢のラットの記憶力を測定した。神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与群、神経幹細胞含有液注入群、サルビアノール酸Bを投与群の順で記憶力が強かった。神経幹細胞含有液もサルビアノール酸Bも投与しない対照群は餌にたどり着くまでに多くの時間を要した。
【実施例21】
【0059】
実施例19において、中大脳動脈閉塞ラット40匹の代わりに、脳外傷のあるラット40匹を用いて同様の操作により、脳外傷のあるラットの記憶力を測定した。神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与群、神経幹細胞含有液注入群、サルビアノール酸Bを投与群の順で記憶力が強かった。神経幹細胞含有液もサルビアノール酸Bも投与しない対照群は餌にたどり着くまでに多くの時間を要した。
【実施例22】
【0060】
実施例19において、中大脳動脈閉塞ラット40匹の代わりに、1‐メチル‐4‐フェニル‐1,2,3,6‐テトラヒドロピリジン(MPTP)塩酸塩(Sigma社製)をキログラム当たり40ミリグラムを16時間間隔で2度投与して作成したパーキンソン病モデルラット40匹を用いて同様の操作により、パーキンソン病モデルラットの記憶力を測定した。神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与群、神経幹細胞含有液注入群、サルビアノール酸Bを投与群の順で記憶力が強かった。神経幹細胞含有液もサルビアノール酸Bも投与しない対照群は餌にたどり着くまでに多くの時間を要した。
【実施例23】
【0061】
実施例19において、中大脳動脈閉塞ラット40匹の代わりに、臭化水素酸スコポラミン(メルク社製)の0.9%食塩水を臭化水素酸スコポラミン換算でキログラム当たり2ミリグラムを投与して作成したアルツハイマー病モデルラット40匹を用いて同様の操作により、アルツハイマー病モデルラットの記憶力を測定した。神経幹細胞含有液注入後サルビアノール酸Bを投与群、神経幹細胞含有液注入群、サルビアノール酸Bを投与群の順で記憶力が強かった。神経幹細胞含有液もサルビアノール酸Bも投与しない対照群は餌にたどり着くまでに多くの時間を要した。
【実施例24】
【0062】
実施例3において、サルビアノール酸Bの代わりに、サルビアノール酸Bマグネシウム、サルビアノール酸Bエチルエステルをそれぞれ用い、その他は実施例3から実施例6と同様の操作を行い、サルビアノール酸Bについての結果と同様の結果を得た。
【実施例25】
【0063】
サルビアノール酸BのPBS溶液(1ミリグラム/2.5ミリリットル)を50マイクロリットルずつ、96穴(well)プラスチックプレートの中央16穴(well)に入れ、更に各々0.2%のアルファ・カロチン、ベータ・カロチン、リコペン、ルテイン、フラボノイド、カテキン、リザベラトール、イソフラボン、ビタミンA、ビタミンE、セレン、亜鉛、補酵素Q10、グルタチオンまたはエンゾジノールのPBS溶液または抗酸化剤が入ってないPBS溶液を50マイクロリットルずつ加え、摂氏80度で72時間加温し、加温前後の穴(well)中の溶液を286ナノメータで吸光度を測定した。抗酸化剤を加えたサルビアノール酸Bの溶液の286ナノメータでの吸光度は加温前後で変化しなかったが、抗酸化剤を加えないサルビアノール酸Bの溶液の吸光度は30%減少した。
【実施例26】
【0064】
実施例3において、実施例1で得られたラット神経細胞塊の代わりに、正常ヒト神経前駆細胞(Cambrex社製)1バイアルを用い、実施例3と同様の操作を行い、実施例4から実施例10までにおいて、ラット神経幹細胞の代わりに、購入した正常ヒト神経前駆細胞の増殖細胞を用い、実施例4から実施例10までと同様の操作を行い、正常ヒト神経前駆細胞もラット神経幹細胞と同様に、無血清培地中でサルビアノール酸Bにより増殖し、血清培地中で神経細胞とアストロサイトに分化することを確認した。
【実施例27】
【0065】
アルツハイマー病に対する薬効評価。日本語で読み書きができ、自分の意志を医者に伝えることが可能であるがアルツハイマー病の可能性ありという臨床診断を受けている患者で、サルビアノール酸Bナトリウムに過敏症の既往歴がなく、腎機能と肝代謝が低下している疑いがなく、かつ妊娠または妊娠している可能性のある人および授乳婦以外の人に対して、下記ミニメンタルステート試験を行う。なお、患者は重症度の指標が25以下であることを確認し、重症度の指標が25以上の患者はいる場合は、重症度の指標が25以下である患者と入れ替える。また、測定前4ヶ月以内に治験薬を使用していた患者は除外する。また、シメチジン、プロプラノロール等親油性6遮断剤やクロニジン、抗コリン作動薬、および抗コリン活性を有する抗うつ剤、神経弛緩剤、推定認識力増強物質および中枢神経刺激物質、または半減期が長いベンゾジアゼピンは投与を禁止する。
【0066】
ミニメンタルステート試験の内容:見当識(1.今の年は?1点、季節は?1点、曜日は?1点、日付は?1点、月は?1点、2.私たちが今いる県の名前は?1点、郡の名前は?1点、市/町の名前は?1点、階数は?1点、は?1点、住所/建物の名前は?1点)、記銘力(3.医師が3つの物の名前を書く秒かけて言う。医師が言った後で次に患者に3つ全部の名前を尋ねる。患者が3つ全てを正しく言えるまで答えを繰返させる。3点)、注意と計算(4.100から続けて7を引かせる。正しい答え1つにつき1点与える。5回答えたところで終える。5点)、想起(5.質問3で覚えた3つの物の名前を尋ねる。正しい答え1つにつき1点与える。3点)、言語(6.医師が鉛筆と時計を指す。患者に医師が指した物の名前を言わせる。2点、7.患者に「いいえ、もし、そして、しかし」と言わせる。1点、8.患者に3段階の命令を与え、それにしたがってもらう。「右手で紙をつまみ上げてください。紙を半分に折ってください。紙を机の上に置いてください。」3点、9.患者に次の指示を読ませ、それにしたがってもらう。「目を閉じてください。」1点、10.患者に自由に1つの文章を書いてもらう。文章には守護つと目的語1つを含み、しかも意味をなしている必要がある。得点には書字の誤りは考慮しない。1点、11.1辺が約5センチメートルの2つの五角形が1頂点だけ重なった図形を見せ、患者に書き写させる。全ての角および角度が保たれており、しかも交わった領域が四角形をなしていれば1点をあたえる。1点)、合計30点。
【0067】
医師の管理下に被験者にサルビアノール酸Bナトリウム2ミリグラム錠を1日2回、6ヶ月間投与する。6ヵ月後にミニメンタルステート試験を行う。ミニメンタルステート試験によりサルビアノール酸Bナトリウム投与による見当識、記銘力、注意と計算、想起、言語の改善を確認できる。
【実施例28】
【0068】
実施例27において、アルツハイマー病が疑われる患者の代わりに、パーキンソン病、脳外傷、脳梗塞または脳血管性痴呆が疑われる患者に対しても、実施例27と同様な薬効評価を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の神経幹細胞増殖剤、神経幹細胞増殖方法、神経幹細胞含有液、神経幹細胞含有液含有治療剤および神経幹細胞増殖剤を含有し、神経幹細胞増殖作用機序による治療剤は、種々の産業に利用可能性があるが、特に、医療においては、神経幹細胞増殖作用機序による治療剤の2剤は神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤として、またはその有効成分として、またはその製造方法として適用される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】サルビアノール酸Bの立体構造式。構造式中で三角形状の太い実線ないし一部が太い実線で示す結合は紙面の上に突き出た結合を表し、点線で示す結合は紙面の下に突き出た結合を表す。
【図2】実施例5において、0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bにより増殖したスプラグ・ダウレイ(SD)ラット脳の神経幹細胞のネスチンに対するインドカルボシアニン(Cy3)標識標本の共焦点レーザー走査顕微鏡写真(倍率100倍)。写真中央の明るい部分がネスチン陽性部分である。
【図3】実施例4と6において、0.035マイクロモル濃度のサルビアノール酸Bを加えた群(実験群)と加えない群(対照群)の6日間培養前(実施例4)と培養後(実施例6)の神経幹細胞の細胞賦活評価試験値(MTTアッセイ)。縦軸は570ナノメーターにおける吸光度(OD)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルビアノール酸Bおよびその光学または幾何異性体でサルビアノール酸Bと同様の神経幹細胞増殖作用を有するものおよびそれらのプロドラッグ、ならびに上記化合物またはそれらのプロドラッグの薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれる化合物を有効成分とすることを特徴とする神経幹細胞増殖剤。
【請求項2】
化合物が、サルビアノール酸Bおよびそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩ならびにそれらの水和物から選ばれることを特徴とする請求項1に記載する神経幹細胞増殖剤。
【請求項3】
化合物が、サルビアノール酸Bおよび薬学的に許容することのできるその塩ならびにそれらの水和物から選ばれることを特徴とする請求項2に記載する神経幹細胞増殖剤。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載する化合物を要すれば賦活化後体外で投与することを特徴とする体外での神経幹細胞増殖方法。
【請求項5】
血清、塩基性繊維芽細胞増殖因子および神経成長因子を含まない細胞培養液を用いることを特徴とする請求項4に記載する神経幹細胞増殖方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載する方法で増殖することを特徴とする神経幹細胞の含有液。
【請求項7】
請求項5に記載する方法で増殖することを特徴とする神経幹細胞の含有液を有効成分とすることを特徴とする神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤。
【請求項8】
請求項1、2または3に記載する神経幹細胞増殖剤を有効成分とし、当該有効成分の神経幹細胞増殖作用によることを特徴とする、神経細胞の退化、減少、細胞死、傷害、除外による組織や臓器の機能低下または喪失により発症する疾病の治療剤。
【請求項9】
サルビアノール酸Bと亜硫酸塩とビタミンC以外の薬学的に許容することのできる抗酸化剤から選ばれる抗酸化剤を少なくとも1種類を添加剤として添加することを特徴とする請求項1、2または3に記載する神経幹細胞増殖剤、請求項4または5に記載する神経幹細胞増殖方法、請求項6に記載する神経幹細胞含有液、請求項7に記載する神経幹細胞含有液含有治療剤または請求項8に記載する神経幹細胞増殖作用機序による治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−76948(P2006−76948A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264016(P2004−264016)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(300027510)学校法人鈴鹿医療科学大学 (6)
【出願人】(300007235)
【Fターム(参考)】