説明

サーマル方式インクジェット記録用水系インク

【課題】保存安定性や印字濃度を満足しつつ、サーマル方式のインクジェットプリンタにおけるインクの吐出性を向上させた水系インク、それに用いる水分散体、及び印字方法を提供する。
【解決手段】顔料を含有するポリマー粒子を含む水性顔料分散体であって、該ポリマーが、(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位、及び特定の(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位から本質的になる、サーマル方式インクジェットプリンタ用の水性顔料分散体、その分散体を含有する水系インク、及びそれに用いる印字方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーを用いてインクを吐出させるサーマル方式のインクジェット記録用水系インク、それに用いる水分散体、及び印字方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能で、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しく、その中でも特に印字物の耐候性や耐水性の観点から、顔料に顔料系インクを用いるものが多くなっている。
さらに近年は、印字物の耐擦過性や耐マーカー性を向上させる観点から、ポリマーに顔料を含有させたものが主流となっている。たとえば特許文献1には、水不溶性のビニルポリマーに顔料を含有させた水系インクであって、高印字濃度を付与するために、ビニルポリマーとしてマクロマーを用いたグラフトポリマーが開示されている。
【0003】
しかし、ポリマーを用いた水系インクはノズルからインク液滴を吐出させる際に問題が生じることがあり、その解決のために種々の提案がなされている。
例えば、特許文献2には、顔料、分散剤、水溶性有機溶剤及び水を含む水性顔料インクにおいて、該分散剤が親水部と疎水部を有するポリマーであって、親水部を構成するモノマーとして、特定の長鎖ノニオン基含有モノマー及びα、β−エチレン性不飽和カルボン酸を含有することで、吐出安定性、長期貯蔵安定性を改良しようとする水性顔料インクが開示されている。
特許文献2のインクでは親水性部位の構造について検討されているが、疎水性部位の構造については詳細な検討がなされておらず、十分な吐出性を発現できていなかった。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO00/39226号パンフレット
【特許文献2】特開平6−306317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、保存安定性や印字濃度を満足しつつ、サーマル方式のインクジェットプリンタにおけるインクの吐出性を向上させた水系インク、それに用いる水分散体、及び印字方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料を含有するポリマー粒子を含有するインクであって、(メタ)アクリル酸以外のモノマーがエステル基を有する特定のモノマーからなるポリマーを用いると、サーマル方式のインクジェットプリンタであっても、吐出性が良好であることを見出した。
すなわち、本発明は、次の(1)〜(3)を提供する。
(1)顔料を含有するポリマー粒子を含む水性顔料分散体であって、該ポリマーが、(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位、及び下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位から本質的になる、サーマル方式インクジェットプリンタ用の水性顔料分散体。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (1)
(式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2又は3の炭化水素基、R3は、水素原子又は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、qは平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す。但し、qが4以下の場合、R3は炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
(2)前記(1)の水性顔料分散体を含有する、サーマル方式インクジェット記録用水系インク。
(3)前記(2)の水系インクを、サーマル方式のインクジェットプリンタで印字する、印字方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存安定性や印字濃度を満足しつつ、サーマル方式のインクジェットプリンタにおけるインクの吐出性を向上させた水系インク、それに用いる水分散体、及び印字方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水性顔料分散体は、顔料を含有するポリマー粒子を含む水性顔料分散体であって、該ポリマーが、(メタ)アクリル酸(a)(以下、「(a)成分」ともいう)由来の構成単位、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)(以下、「(b)成分」ともいう)由来の構成単位、及び下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)(以下、「(c)成分」ともいう)由来の構成単位から本質的になる、サーマル方式インクジェットプリンタ用の水性顔料分散体である。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (1)
(式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2又は3の炭化水素基、R3は、水素原子又は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、qは平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す。但し、qが4以下の場合、R3は炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
以下、本発明の各構成を詳細に記載する。
【0009】
[ポリマー]
本発明に用いられるポリマーは、本質的に、(a)成分由来の構成単位、(b)成分由来の構成単位、及び(c)成分由来の構成単位からなるポリマーである。このポリマーは、アニオン性モノマーであるアクリル酸(a)由来の構成単位を有するが、本明細書においては、以下、単に「ポリマー」ともいう。
ここで「本質的に」とは、本発明の効果を損なわない範囲、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下で、他のモノマー成分由来の構成単位を有していてもよいことを意味し、他のモノマー成分由来の構成単位を有さないことが好ましい。マクロマー由来の構成単位は、顔料への吸着が強く、エステル基を有していても本発明の効果を充分発揮し難いと考えられる。
本発明に用いられるポリマーは、顔料への吸着性の観点から、水不溶性ポリマーが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。溶解量は、ポリマーが有する(メタ)アクリル酸を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0010】
[(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位]
本発明に用いられるポリマーは、顔料が該ポリマーに含有された後に安定に分散させる観点から、(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位を有する。
(a)成分は、単独で又は2種を組み合わせて用いることができるが、どちらかを単独で用いる方が好ましい。
【0011】
[(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位]
本発明で用いられるポリマーは、顔料に強固に吸着させ、保存安定性と印字濃度を高める観点から、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位を有する。
(b)成分のアルキル基としては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸(イソ又はtert−)ブチル、(メタ)アクリル酸(イソ)アミル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸(イソ)オクチル、(メタ)アクリル酸(イソ)デシル、(メタ)アクリル酸(イソ)ドデシル、(メタ)アクリル酸(イソ)ステアリル等が挙げられる。
【0012】
(メタ)アクリル酸アリールエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、より好ましくは炭素数6〜12のアリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基を有していてもよいアリール基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
なお、本明細書にいう「(イソ又はtert−)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を示す。
上記の中では、顔料への吸着力を高め、より高い保存安定性と印字濃度を得る観点から、(メタ)アクリル酸アリールエステルが好ましく、メタクリル酸ベンジルが更に好ましい。
(b)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
[(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位]
本発明で用いられるポリマーは、顔料が該ポリマーに含有された後の安定性を補助し、吐出性を高めるという観点から、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位を有する。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (1)
(式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2又は3の炭化水素基、R3は、水素原子又は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、qは平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す。但し、qが4以下の場合、R3は炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
2は、炭素数2又は3の炭化水素基であり、エチレン基、トリメチレン基、又はプロパン−1,2−ジイル基である。
qは平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示すが、好ましくは7〜30であり、更に好ましくは、8〜23である。qが2以上の場合、R2は同一でも異なっていてもよく、ブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよい。
3は、水素原子又は炭素数1〜22、好ましくは炭素数3〜22、より好ましくは炭素数8〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、(イソ又はtert−)ブチル基、(イソ)アミル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、(イソ)オクチル基、(イソ)デシル基、(イソ)ドデシル基、(イソ)ステアリル基、ベヘニル基等があげられる。
qが4以下の場合、吐出性、保存安定性の観点から、R3は炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、好ましくはR3は炭素数8〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
また、qが6以下の場合、吐出性、保存安定性の観点から、R3は好ましくは炭素数3〜22、より好ましくは炭素数8〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0014】
(c)成分の好適例としては、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリエチレングリコール(n=2〜30、nはアルカンジイルオキシ基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中では、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリエチレングリコール(n=2〜30)モノメタクリレート、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))が好ましく、末端に炭素数3以上のアルキル基を有するポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。特に好適な具体例としては、2−エチルヘキシロキシポリエチレングリコール(n=4)メタクリレート、2−エチルヘキシロキシポリエチレングリコール(n=9)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=9)メタクリレート等が挙げられる。
商業的に入手しうる(c)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の単官能性アクリレートモノマー(NKエステル)EH−4E、EH−9E、M−90G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、50PEP−300、50POEP−800B等が挙げられる。
上記(c)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
[(a)〜(c)成分の含有量]
本発明で用いられるポリマーは、(a)〜(c)成分の各成分のモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合することによって得ることができる。
ポリマーの共重合比率に特に制限はないが、好適な本発明の効果を得るための(a)〜(c)成分に由来する構成単位の一般的な含有量、モノマー混合物中の含有量、[(a)成分+(b)成分+(c)成分]中の各成分の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性等の観点から、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、更に好ましくは3〜20重量%、特に好ましくは5〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、保存安定性と印字濃度等の観点から、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜75重量%、更に好ましくは15〜65重量%である。
(c)成分の含有量は、吐出性、保存安定性等の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%、更に好ましくは15〜35重量%である。
また、(a)成分と(c)成分の合計含有量は、水中での分散安定性、吐出性等の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。
(a)成分と(c)成分との重量比[(a)/(c)]は、分散安定性と吐出性との両立の観点から、0.1〜2が好ましく、0.3〜1が更に好ましい。
(b)成分と(c)成分との重量比[(b)/(c)]は、吐出性と印字濃度との両立の観点から、0.5〜5が好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0016】
[ポリマーの製造]
本発明で用いられるポリマーの製造は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により行うことができる。
これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いる溶媒としては、ポリマーと親和性の高い極性の有機溶媒が好ましく、水に対する溶解度が20℃において、50重量%以下のものが好ましく、5重量%以上のものが好ましい。極性有機溶媒としては、例えば、ブトキシエタノール等の脂肪族アルコール;トルエン、キシレン等の芳香族類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブトキシエタノール、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
【0017】
重合の際には、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、tert−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができる。
重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、更に、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加することができる。
モノマー混合物の重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は30〜100℃、好ましくは50〜80℃であり、重合時間は1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
得られるポリマーの重量平均分子量は、顔料の分散安定性、耐水性、吐出性等の観点から10,000〜200,000が好ましく、15,000〜100,000が更に好ましく、18,000〜50,000が特に好ましい。ポリマーの重量平均分子量は、実施例記載の方法によって測定される。
【0018】
前記ポリマーは、(a)成分由来の塩生成基を、中和剤により中和して用いるのがよい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
ポリマーを中和せずに用いると、顔料を媒体中に安定に分散させる働きが弱まり、該ポリマーから調製される顔料を含有するポリマー粒子の水分散体、及びこれから調製されるインクの安定性が悪くなり、経時的に分散体やインクの粘度が増大してしまう。これを抑制するために、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体のpH(20℃)は好ましくは6以上、より好ましくは7以上であり、好ましくは6〜10、より好ましくは7〜10である。
また、該水分散体から調製されるサーマル方式インクジェットプリンタ用インクのpHも、同じく20℃で測定したときに、好ましくは6以上、より好ましくは7以上であり、好ましくは6〜10、より好ましくは7〜10である。
【0019】
塩生成基の中和度は、保存安定性の観点から、10〜200%であることが好ましく、20〜150%であることがより好ましく、50〜100%であることが特に好ましい。ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基であることから、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
酸価は、ポリマーの構成単位から算出することができるが、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して滴定する方法を用いて求めることもできる。ポリマーの酸価は、50〜200が好ましく、50〜150がより好ましい。
【0020】
[顔料]
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用できる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、C.I.ピグメント・グリーン等の各品番製品が挙げられる。 体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
[水性顔料分散体の製造方法]
本発明の水性顔料分散体を得る方法に特に制限はないが、下記工程I及びIIを有する方法によれば効率的に製造することができる。
工程I:前記ポリマー、顔料、有機溶媒、及び水を含有する混合物を分散処理して、顔料を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から有機溶媒を除去する工程
工程Iでは、まず、ポリマーを有機溶媒に溶解させることが好ましい。次に得られた有機溶媒溶液に、顔料、水を添加し、更に必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。混合物中、印字濃度の観点から、顔料は、5〜60重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、ポリマー量は、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、1〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
ポリマーは、最終的に得られる水分散体の液性を考慮して、pH(20℃)が好ましくは6〜10、更に好ましくは7〜10であることが好ましい。中和剤としては、前記のものが挙げられる。
【0022】
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。好ましくは、水に対する溶解度が20℃において、50重量%以下でかつ10重量%以上のものであり、特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。フェノール樹脂を溶解する観点から、用いるフェノール樹脂20g/L(25℃)以上溶解する有機溶媒であることが好ましい。
分散手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔(株)イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー(株)、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン(株)、商品名〕、ジーナスPY〔白水化学(株)、商品名〕、DeBEE2000 〔日本ビーイーイー(株)、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等を用いることができる。これらの装置を用いることによって、顔料を細かく粉砕することができる。顔料の粉砕における目標値としては、平均粒径が200nmが目処となる。そのためには上記に挙げた中でもチャンバー式高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0023】
前記の分散手段を用いて顔料を細かく粉砕した後、粉砕の際に使用した有機溶媒を留去して水系にすることで、本発明の水性顔料分散体を得ることができる。該分散体に含まれる有機溶媒の除去は、減圧蒸留等による一般的な方法により行うことができる。得られた顔料を含有するポリマー粒子を含む水性顔料分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.1重量%以下、更に好ましくは0.01重量%以下である。
得られた水性顔料分散体には粗大粒子は存在しないか、存在してもわずかであるが、プリンタのノズルが詰まらないようにするために、フィルターでろ過することが好ましい。このときフィルター開口径は、好ましくは1〜10μm、より好ましくは3〜7μmである。
ここで、顔料を含有するポリマー粒子の形態には特に制限はなく、少なくとも顔料とポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーに顔料が内包された粒子形態、ポリマーに顔料が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれる。
【0024】
ポリマーの平均粒径は、保存安定性、吐出性の観点から、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは50〜200nm、更に好ましくは70〜170nm、特に好ましくは90〜150nmである。
顔料を含有するポリマー粒子のD90(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積90%の値)は、粗大粒子を減らして、分散体の保存安定性を高める観点から、350nm以下が好ましく、300nm以下が更に好ましく、270nm以下が特に好ましい。下限は、製造のし易さから、100nm以上が好ましい。
ポリマーのD10(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積10%の値)は、印字濃度の観点、製造のし易さから、10nm以上が好ましく、20nm以上がさらに好ましく、30nm以上が特に好ましい。
なお、平均粒径、D90、D10は、実施例記載の方法により行う。
【0025】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、前記水分散体を含むインクであり、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる、界面活性剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加することもできる。
本発明の水系インク中、顔料の含有量は、保存安定性、印字濃度等の観点から、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは2〜10重量%、より更に好ましくは3〜8重量%である。また、ポリマーと顔料の量比は、印字濃度、保存安定性等の観点から、〔顔料/ポリマー〕の重量比が、好ましくは50/50〜90/10、より好ましくは50/50〜80/20である。
また、水系インク中、ポリマーによって被覆されている水性顔料分散体の含有量(固形分)は、印字濃度及び吐出性の観点から、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%となるように調整することが望ましい。
本発明の水系インク中、水の含有量は、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは40〜80重量%である。
【0026】
[サーマル方式インクジェットプリンタで印字する印字方法]
本発明の印字方法は、本発明の水系インクを、サーマル方式インクジェットプリンタで印字する。
サーマル方式のインクジェットプリンタは、プリンタヘッドが加熱されるため、吸着したポリマーが加熱されて、焦げて付着することで、吐出性が悪くなる。しかし、本発明の水系インクは、加熱されても、焦げて付着する量が少なく、吐出性が良好である。この理由が定かではないが、熱により、本発明で用いられるポリマーは加水分解性が高く、焦げて付着するのではなく、加熱分解するためと考えられる。
【実施例】
【0027】
以下の合成例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、重量平均分子量、平均粒径、及び粘度の測定方法は以下のとおりである。
(1)ポリマーの重量平均分子量
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8220GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/分〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)ポリマー粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定条件は、標準物質としてセラディン(Seradyn)社製のユニフォーム・マイクロパーティクルズ(平均粒径204nm)を使用し、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力する。測定濃度は、5×10-3%程度を標準とする。
(3)粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、RE80)を用いて、標準ローター(1°34′×R24)を使用し、測定温度20℃、測定時間1分、回転数100rpmの条件で測定した。
【0028】
合成例1(水不溶性ビニルポリマー1の製造)
反応容器内に、表1に示すモノマー及び溶媒の各々の量を仕込んで混合し、窒素ガス置換を十分に行ない、混合溶液を得た。一方、滴下ロートに、表1に示すモノマー、溶媒、及び重合開始剤等を入れ、十分に窒素置換を行なった。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、85℃で2時間熟成させ、水不溶性ビニルポリマー1のメチルエチルケトン溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量は2万であった。結果を表1に示す。
【0029】
合成例2〜5(水不溶性ビニルポリマー2〜5の製造)
合成例1において、表1に示すモノマー、溶媒、及び重合開始剤等を用いた他は合成例1と同様にして、水不溶性ビニルポリマー2〜5のメチルエチルケトン溶液を得た。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
製造例1(顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの水分散体Aの製造)
上記で得られた水不溶性ビニルポリマー1のメチルエチルケトン溶液(固形分を50%に調整したもの)10部、メチルエチルケトン20部、水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業社製、滴定用標準液:5N)1.5部、イオン交換水300部を、ガラス製容器に計量し、プライミクス株式会社製の高速攪拌分散機(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型)を用い、1500rpmで15分間混合した。
得られた混合物に、顔料としてカーボンブラック(キャボットスペシャリティケミカルス社製、商品名:Monarch880)15部を添加し、8000rpmで60分間攪拌した後、更に、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)を用いて、150MPaで19パス高圧分散処理し、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子を得た。
得られた顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー粒子を減圧下、60℃でメチルエチルケトンを完全に除去し、更に水を除去することにより濃縮し、固形分濃度が20%の、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの水分散体Aを得た。得られた水分散体A中のポリマー粒子の平均粒径は100nmであった。結果を表2に示す。
【0032】
製造例2〜5(顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの水分散体B〜Eの製造)
製造例1において、水不溶性ビニルポリマー1の代わりに水不溶性ビニルポリマー2(固形分を50%に調整したもの)を用いたほかは、製造例1と同様にして、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの水分散体Bを得た(固形分20%)。結果を表2に示す。
【0033】
実施例1
製造例1で得られた水不溶性ビニルポリマー1の水分散体A26.7部、グリセリン(花王株式会社製、化粧品用濃グリセリン)7.5部、ジエチレングリコール(キシダ化学株式会社製)5部、トリメチロールプロパン(和光純薬工業株式会社製)7.5部、アセチレングリコール・ポリエチレンオキサイド付加物(川研ファインケミカル社製、アセチレノールEH)0.3部及びイオン交換水53部を混合し、得られた混合液を1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去して水系インク1を得た。
実施例2〜3及び比較例1〜2
実施例1において製造例1で得られた水分散体A26.7部の代わりに、表2に示す水分散体26.7部を用いた他は、実施例1と同様にして水系インク2〜5を得た。
【0034】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた水系インク1〜5について、吐出性、保存安定性、及び印字濃度を以下の方法により評価した。結果を表2に示す。
(1)吐出性
キヤノン株式会社製のサーマル方式インクジェトプリンタ(型番:PIXUS560i)用純正インクのカートリッジに、実施例1〜3及び比較例1〜2のインクを詰め替えて市販のコピー用紙(ZEROX社製普通紙4024)に100枚のベタ印字を行い、印字後のノズルの状態、及び100枚目の印刷状態を目視で観察した。
固形物の付着状態
〔評価基準〕
1:プリンタヘッドに水分散体固着物の付着が全く認められない。
2:プリンタヘッドに水分散体固着物が僅かに付着した。
3:プリンタヘッドに水分散体の固着物が付着した。
印字物の印字状態
〔評価基準〕
1:印字物に「よれ」、「ぬけ」がない
2:印字物に「よれ」が少しある
3:印字物に「よれ」、「ぬけ」が目立つ。
ここで、「よれ」とは、インクが吐出していないノズルはないが、細く白い筋が入る場合をいい、「ぬけ」とは、インクが吐出していないノズルがあり、太く白い筋が入る場合をいう。
【0035】
(2)保存安定性
実施例1〜3及び比較例1〜2のインクを70℃で1週間保存し、
B=(保存前の粘度/保存後の粘度)×100 を算出し、以下の基準で評価した。
数字が小さい方が保存安定性が良好である。
〔評価基準〕
1: B≦105
2: 105<B≦110
3: 110<B≦115
4: 115<B
【0036】
(3)印字濃度
市販のキヤノン社製のインクジェトプリンタ(型番:PIXUS560i)
用純正インクのカートリッジに実施例1〜3、比較例1、2のインクを詰め替えて市販のコピー用紙(ZEROX社製、普通紙4024)にベタ印字を行い、23℃で24時間放置した後にマクベス社製印字濃度測定装置で印字濃度(C)を測定し、以下の評価基準で評価した。数字が小さい方が印字濃度が良好である。
〔評価基準〕
1: C≧1.20
2: 1.20>C≧1.10
3: 1.10>C
【0037】
【表2】

【0038】
表2から、実施例1〜3の水系インクは、比較例1〜2の水系インクに比べて、保存安定性や印字濃度に優れ、サーマル方式のインクジェットプリンタにおけるインクの吐出性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有するポリマー粒子を含む水性顔料分散体であって、該ポリマーが、(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位、及び下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位から本質的になる、サーマル方式インクジェットプリンタ用の水性顔料分散体。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (1)
(式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2又は3の炭化水素基、R3は、水素原子又は炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、qは平均付加モル数を意味し、1〜60の数を示す。但し、qが4以下の場合、R3は炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
【請求項2】
ポリマーが、(メタ)アクリル酸(a)由来の構成単位2〜30重量%、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はアリールエステル(b)由来の構成単位5〜90重量%、及び前記(メタ)アクリル酸のアルカンジイルオキシドエステル(c)由来の構成単位5〜40重量%を含有する、請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸アリールエステル(b)が、炭素数6〜22のアリール基を有する(メタ)アクリル酸アリールエステルである、請求項1又は2に記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性顔料分散体を含有する、サーマル方式インクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
請求項4に記載の水系インクを、サーマル方式のインクジェットプリンタで印字する、印字方法。

【公開番号】特開2009−132781(P2009−132781A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308966(P2007−308966)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】