説明

サーメット積層体の製造方法、および、サーメット積層体

【課題】本発明は、基材上に、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、平面性に優れたサーメット層を直接形成することができるサーメット積層体の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料により構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体の製造方法であって、上記基材上に、互いに異なる金属元素を含有する2種類以上の金属酸化物が含まれる金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、上記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物のうち、少なくとも1種類の金属酸化物を還元することにより、上記金属酸化物膜を、少なくとも1種類の金属と少なくとも1種類の金属酸化物とを含有するサーメット状態にする還元工程と、を有することを特徴とする、サーメット積層体の製造方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に、金属および金属酸化物を含有するサーメット層が形成されたサーメット積層体の製造方法に関するものであり、より詳しくは、上記サーメット層を基材上に直接形成することができるサーメット積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーメットは、金属炭化物、ホウ化物、または、酸化物と金属との共焼結体からなる材料であり、金属材料の強靭性とセラミックス材料の耐熱性とを兼ね備えるという利点を有することから、近年、その用途展開が盛んに検討されている。サーメットのなかでも、主に用途展開が期待されているのは、金属酸化物と金属との共焼結体からなるサーメットであり、例えば、Fe,Ni,Co,Cr,Moなどの金属と、Al,ZrO,ThOなどの金属酸化物との共焼結体がこれに当たる。
【0003】
サーメットは、金属および金属酸化物等が共焼結された特異的な状態を備えるものであることからその製造方法は限られており、工業的に用いられる製造方法としては、金属および金属酸化物等を適当な組み合せにおいて、セラミックスの微粒子と金属粉末とを高圧プレス成形した後、高温焼結させるか、高温高圧プレスで焼結させる方法しか知られていないのが現状である(例えば、特許文献1)。
【0004】
ここで、サーメットは薄膜化することにより、その組成によっては、例えば、燃料電池の電極としての用途等にも有望視される材料である。したがって、サーメットの幅広い用途展開を可能にするには、サーメットを簡易的に薄膜状に形成できることが望ましいものである。
しかしながら、上述したサーメットの製造方法では、一度サーメットを形成した後に、それを薄膜状に成形する方法しかサーメットを薄膜化できる手段がなく、工業的な手段として用いることが困難であるという問題があった。
また、上述したサーメットの製造方法は、金属酸化物および金属ともに微粒子を出発材料として用いるため、上記微粒子の粒子径よりも厚みが薄い膜を形成することが不可能であり、平面性に優れた薄膜を形成することが困難であるという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−194573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材上に、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、平面性に優れたサーメット層を直接形成することができるサーメット積層体の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料により構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体の製造方法であって、上記基材上に、気相成長法、あるいは、化学溶液法によって互いに異なる金属元素を含有する2種類以上の金属酸化物が含まれる金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、上記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物のうち、少なくとも1種類の金属酸化物を還元することにより、上記金属酸化物膜を、少なくとも1種類の金属と少なくとも1種類の金属酸化物とを含有するサーメット状態にする還元工程と、を有することを特徴とするサーメット積層体の製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記金属酸化物膜形成工程において、気相成長法、あるいは、化学溶液法という、いわゆる結晶成長型のセラミック薄膜形成プロセスにより基材上に上記金属酸化物膜を形成した後、上記還元工程により、上記金属酸化物膜をサーメット状態にすることにより、基材上にサーメット層を直接形成することができる。また、本発明においては、このような方法でサーメット層を形成することにより、平面性に優れたサーメット層を形成することができる。
このようなことから、本発明のサーメット積層体の製造方法によれば基材上に、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、平面性に優れたサーメット層を直接形成することができる。
【0009】
本発明においては、上記還元工程が、上記金属酸化物膜に水素ガスを接触させる方法により、上記金属酸化物膜を上記サーメット状態にするものであることが好ましい。このような方法によれば、金属酸化物膜を均一に還元することが容易になるからである。
【0010】
本発明は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料から構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体であって、上記サーメット層の膜厚が10nm〜10μmの範囲内であることを特徴とするサーメット積層体を提供する。
【0011】
本発明によれば、上記サーメット層の厚みが上記範囲内であることにより、例えば、燃料電池用の電極、工具や基材への硬化膜、硬い導電性薄膜および透明導電性薄膜、光学薄膜、および、マイクロマシン向けの保護硬化膜等として好適に用いることができるサーメット積層体を得ることができる。
【0012】
また本発明は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料から構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体であって、上記サーメット層が上記サーメット材料からなり、かつ、平均粒子径が500nm以下のサーメット微粒子から構成されることを特徴とするサーメット積層体を提供する。
【0013】
本発明によれば、上記サーメット層が上記サーメット微粒子から構成されることにより、平面性に優れたサーメット層を有するサーメット積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、基材上にサーメット層を直接形成することによりサーメット積層体を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のサーメット積層体の製造方法およびサーメット積層体について詳細に説明する。
【0016】
A.サーメット積層体の製造方法
まず、本発明のサーメット積層体の製造方法について説明する。本発明のサーメット積層体の製造方法は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料により構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体の製造方法であって、上記基材上に、気相成長法、あるいは、化学溶液法によって互いに異なる金属元素を含有する2種類以上の金属酸化物が含まれる金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、上記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物のうち、少なくとも1種類の金属酸化物を還元することにより、上記金属酸化物膜を、少なくとも1種類の金属と少なくとも1種類の金属酸化物とを含有するサーメット状態にする還元工程と、を有することを特徴とするものである。
【0017】
このような本発明のサーメット積層体の製造方法について図を参照しながら説明する。図1は、本発明のサーメット積層体の一例を示す概略図である。図1に例示するように、本発明のサーメット積層体の製造方法は、まず、スプレー装置1により、互いに異なる金属元素(A、B)を含有する2種類の金属化合物が溶解した金属酸化物膜形成用溶液2を霧化し、霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液2と、金属酸化物膜形成温度以上に加熱された基材3とを接触させることにより(図1(a))、上記基材3上に金属酸化物膜4を形成する(金属酸化物膜形成工程)(図1(b))。このようにして形成された金属酸化物膜4中には、上記金属化合物に含有されていた金属元素を有する2種類の金属酸化物(AO、BO)が含まれることになる。
次に、上記金属酸化物膜4中に含まれる2種類の金属酸化物(AO,BO)のうち、AOを還元し、上記金属酸化物膜4を金属(A)と、金属酸化物(BO)とを含有するサーメット状態にする(還元工程)(図1(c))。
本発明のサーメット積層体の製造方法は、このような工程により、基材3上に、サーメット層5が形成されたサーメット積層体10を製造するものである。
【0018】
ここで、上記の例においては、2種類の金属化合物を用いた例を説明したが、本発明のサーメット積層体の製造方法は、3種類以上の金属化合物を用いるものでもよい。
【0019】
本発明によれば、上記金属酸化物膜形成工程において、気相成長法、あるいは、化学溶液法という、いわゆる結晶成長型のセラミック薄膜形成プロセスにより基材上に上記金属酸化物膜を形成した後、上記還元工程により、上記金属酸化物膜をサーメット状態にすることにより、基材上にサーメット層を直接形成することができる。また、本発明においては、このような方法でサーメット層を形成することにより、平面性に優れたサーメット層を形成することができる。
このようなことから、本発明のサーメット積層体の製造方法によれば基材上に、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、平面性に優れたサーメット層を直接形成することができる。
【0020】
本発明のサーメット積層体の製造方法は、金属酸化物膜形成工程と、還元工程とを有するものである。以下、これらの各工程について順に説明する。
【0021】
1.金属酸化物膜形成工程
まず、本発明における金属酸化物膜形成工程について説明する。本発明における金属酸化物膜形成工程は、気相成長法、あるいは、化学溶液法により、上記基材上に互いに異なる金属元素を含有する2種類以上の金属酸化物が含まれる金属酸化物膜を形成する工程である。
【0022】
(1)金属酸化物膜の形成方法
本工程において、基材上に金属酸化物膜を形成する方法としては、気相成長法、あるいは、化学溶液法に相当する方法であれば特に限定されるものではない。
ここで、上記気相成長法とは、ガス状化合物を下地物体の上で熱分解または還元により凝着、堆積させて、固体の層を成長させる方法である。このような気相成長法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法等を挙げることができる。
一方、上記化学溶液法とは、互いに異なる金属元素を含有する金属化合物が2種類以上溶解された金属酸化物膜形成用溶液を基材に接触させる方法である。このような化学溶液法としては、例えば、ゾルゲル法、スプレー熱分解法、めっき法等を挙げることができる。
【0023】
本工程においては、上記気相成長法または上記化学溶液法のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでも化学溶液法を用いることが好ましい。化学溶液法を用いることにより、本工程に用いられる基材の種類に関わらず、例えば、多孔質状の基材に対しても、平面性に優れたサーメット層を直接形成することが可能になるからである。また、化学溶液法で金属酸化物膜を形成することにより、本工程において形成される金属酸化物膜の組成を調整することが容易になったり、あるいは、後述する還元工程を経た後であっても基材とサーメット層との密着性が優れるという利点を有するからである。
【0024】
以下、このような化学溶液法を用いて金属酸化物膜を形成する方法について詳細に説明する。
【0025】
a.金属酸化物膜形成用溶液
まず、上記金属酸化物膜形成用溶液について説明する。上記金属酸化物膜形成用溶液は、互いに異なる金属元素を有する金属化合物が2種類以上溶解されたものであり、通常、2種類以上の金属化合物と、これを溶解する溶媒とを含むものが用いられる。
【0026】
i.金属化合物
上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属化合物について説明する。上記金属化合物は、後述する金属酸化物膜形成温度以上に加熱されることにより、金属酸化物膜を形成するものである。
【0027】
ここで、本工程における、上記「金属酸化物膜形成温度」とは、上記金属化合物に金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属化合物の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。
このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属化合物が溶解された金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本工程における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成されたか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0028】
本工程に用いられる2種類以上の金属化合物は、含有する金属元素が互いに異なるものであり、かつ、後述する溶媒に溶解可能なものであれば特に限定されるものではない。
このような金属化合物としては、金属塩および有機金属化合物を挙げることができる。
ここで、本工程における「有機金属化合物」とは、金属イオンに対して有機物が配位したもの、あるいは、中心原子に別種のイオン、分子、または、多原子イオンが結合した集合体である、いわゆる金属錯体を意味するものとする。
【0029】
上記金属元素としては、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、W、および、Taを挙げることができる。本工程においては、このような金属元素の中から任意に2種類以上を組み合わせて用いることができるが、なかでも本工程においては、後述する還元工程において、本工程により形成される金属酸化物膜をサーメット状態にする際の温度において、金属酸化物形成時の酸素の化学ポテンシャルの差が10kcal以上、より好ましくは、20kcal以上、さらに好ましくは50kcal以上の金属元素を組み合わせて用いることが好ましい。上記金属元素をこのような組み合わせで用いることにより、後述する還元工程において金属酸化物膜を還元する際に、金属酸化物膜中に含まれる2種類以上の金属酸化物の少なくとも1つを選択的に還元することが容易になるからである。
ここで、上記酸素の化学ポテンシャルの差は、各金属元素についてエリンガム図を作図することにより求めることができる。
【0030】
このような金属元素の組み合わせとしては、例えば、Cu、Fe、Ni、Pb、Co、Mo、および、Crからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、Ca、Mg、Li、Al、Ti、Si、V、Mn、および、Zrからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素との組み合わせを例示することができる。なかでも本工程において採用することが好ましい組み合わせとしては、例えば、NiとZr、FeとAl、CuとTi、PbとCa、CoとSi、MoとV、CrとLi等を挙げることができる。
【0031】
本工程に用いられる金属塩としては、例えば、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。なかでも、本工程においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0032】
また、本工程に用いられる有機金属化合物としては、例えば、マグネシウムジエトキシド、金属アセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。なかでも、本工程においては、マグネシウムジエトキシド、金属アセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物を使用することが好ましい。
【0033】
本工程に用いられる金属酸化物膜形成用溶液中の上記金属化合物の濃度は、金属化合物の種類等に応じて任意調整すればよい。なかでも上記金属化合物として金属塩を用いる場合は、0.001mol/L〜2mol/Lの範囲内であることが好ましく、特に0.01mol/L〜1mol/Lの範囲内であることが好ましい。
一方、上記金属化合物として有機金属化合物を用いる場合は、0.001mol/L〜2mol/Lの範囲内であることが好ましく、特に0.01mol/L〜1mol/Lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜に時間がかかり、工業的に好適でない可能性があるからである。また、濃度が上記範囲以上であると、均一な膜厚の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。
【0034】
ii.溶媒
本工程に用いられる溶媒は、上述した金属化合物を所望の濃度に溶解することができるものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、例えば、上記金属化合物として金属塩を用いる場合は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、トルエン、および、これらの混合溶媒等を挙げることができる。
また、上記金属化合物として有機金属化合物を用いる場合は水、上述した低級アルコール、トルエン、および、これらの混合溶媒を挙げることができる。
【0035】
本工程においては、上記溶媒を組み合わせて使用してもよい。例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属化合物と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性が高い還元剤とを使用する場合は、水と有機溶媒とを混合することにより両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
【0036】
iii.酸化剤および還元剤
本工程においては、上記金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤および/または還元剤が含有されていることが好ましい。上記金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤、還元剤が含有されていることにより、本工程において、より低い温度で金属酸化物膜を形成することができるからである。また、これにより本工程における基材の加熱温度を低下することができることから、透明性の高い金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0037】
ここで、上記酸化剤は、上述した金属化合物が溶解してなる金属イオンの酸化を促進する働きを有するものである。金属イオンの価数を変化させることにより、金属酸化物膜を形成しやすい環境とすることができ、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0038】
本工程に用いられる酸化剤としては、上述した溶媒に溶解することができ、かつ、金属イオンの酸化を促進することができるものであれば特に限定されるものではない。このような酸化剤としては、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等を挙げることができる。なかでも本工程においては過酸化水素、または、亜硝酸ナトリウムを挙げることができる。
【0039】
本工程において上記酸化剤を用いる場合、上記金属酸化物膜形成用溶液に含有させる酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常、0.001mol/L〜1mol/Lの範囲内であることが好ましく、なかでも0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、酸化剤を含有させることによる基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があるからである。また、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0040】
一方、上記還元剤は、分解反応により電子を放出し、水の電気分解によって水酸化物イオンを発生させ、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上げる働きを有するものである。金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇することで金属酸化物膜を形成しやすい環境とすることができるため、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0041】
本工程に用いられる還元剤としては、後述する溶媒に溶解することができ、かつ、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではない。このような還元剤としては、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウムを挙げることができる。なかでも本工程においてはボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0042】
本工程において上記還元剤を用いる場合、上記金属酸化物膜形成用溶液に含有される還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001mol/L〜1mol/Lの範囲内であることが好ましく、なかでも0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、還元剤を添加することによる基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があるからである。また、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0043】
なお、本工程においては、上記還元剤と上記酸化剤とを組み合わせて使用してもよい。上記還元剤と上記酸化剤とを組み合わせて使用した場合でも、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができるからである。
本工程において、上記還元剤と上記酸化剤とを組み合わせ使用する場合、上記還元剤および上記酸化剤の組合せとしては、基材加熱温度を所望の温度まで低下させることができる組み合せであれば特に限定されるものではない。このような組み合わせとしては、例えば、過酸化水素または亜硝酸ナトリウムと任意の還元剤との組合せ、任意の酸化剤とボラン系錯体との組合せ等を挙げることができる。なかでも本工程においては、過酸化水素とボラン系錯体との組合せが好ましい。
【0044】
iv.添加剤
本工程に用いられる金属酸化物膜形成用溶液には、セラミックス微粒子、補助イオン源、および界面活性剤等の添加剤が含有されていてもよい。
以下、これらの添加剤について順に説明する。
【0045】
(セラミック微粒子)
上記セラミックス微粒子は、上記金属酸化物膜形成用溶液に含有されることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成することができ、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができるという利点を有する。
【0046】
本工程に用いられるセラミックス微粒子としては、上記目的を達成することができるものであれば特に限定されるものではない。このようなセラミック微粒子としては、例えば、ITO、金属酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等からなる微粒子を挙げることができる。
【0047】
なお、本工程において上記セラミック微粒子を用いる場合、上記金属酸化物膜形成用溶液におけるセラミック微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜調整することになる。
【0048】
(補助イオン源)
上記補助イオン源は、上記金属酸化物膜形成用溶液に含有されることにより、上記還元剤の熱分解等により生じる電子と反応して水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させて金属酸化物膜を形成しやすい環境にする機能を有するものである。このため、上記金属酸化物膜形成用溶液に補助イオン源を含有させることにより、従来の方法に比べ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができるようになる。
【0049】
本工程に用いられる補助イオン源としては、例えば、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。
【0050】
また、本工程において上記セラミック微粒子を用いる場合、上記金属酸化物膜形成用溶液における補助イオン源の含有量は、使用する金属化合物や還元剤等に合わせて適宜調製することになる。
【0051】
(界面活性剤)
上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液に含有されることにより、上記金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との界面に作用するものであり、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるという利点を有する。
【0052】
本工程に用いられる界面活性剤としては、例えば、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0053】
また、本工程において上記界面活性剤を用いる場合、上記金属酸化物膜形成用溶液における界面活性剤の含有量は、使用する金属化合物や還元剤に合わせて適宜調整することになる
【0054】
b.接触方法
次に、上記金属酸化物膜形成用溶液を基材に接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を形成する方法について説明する。
【0055】
本工程において、上記金属酸化物膜形成用溶液を基材に接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を形成する方法としては、上記基材上に所望の平面性を有する金属酸化物膜を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記金属酸化物膜形成温度以上に加温された基材に上記金属酸化物膜形成用溶液を接触させる方法と、上記金属酸化物膜形成用溶液を上記基材に接触させた後に、上記基材を上記金属酸化物膜形成温度以上に加温する方法とを挙げることができる。本工程においては、これらのいずれの方法であっても好適に用いることができる。
【0056】
上記金属酸化物膜形成用溶液を上記基材に接触させる方法としては、上記基材の表面に上記金属酸化物膜形成用溶液を均一に接触させることができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、スプレー装置を用いて上記金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に接触させる方法や、金属酸化物膜形成用溶液に基材を浸漬させて引き上げる方法等を挙げることができる。本工程においてはこれらのいずれの接触方法であっても好適に用いることができるが、なかでもスプレー装置を用いて上記金属酸化物膜形成用溶液を霧化し、霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に接触させる方法を用いることが好ましい。このような方法を用いることにより、微小な微粒子からなる金属酸化物膜を形成することができるため、本工程により平面性に優れた金属酸化物を形成することが容易になるからである。
以下、このような接触方法について詳細に説明する。
【0057】
上記スプレー装置としては、上述した金属酸化物膜形成用溶液を所望の大きさの液滴からなる霧状とすることができるスプレー方式を備える装置であれば特に限定されるものではない。このようなスプレー方式としては、例えば、エアースプレー方式、エアーレススプレー方式、または回転微粒子化スプレー方式、超音波スプレー方式等を例示することができる。
【0058】
また、上記スプレー装置のノズル径としては、所望の金属酸化物膜を得ることができる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、10μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、なかでも50μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、特に100μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0059】
上記スプレー装置により霧化された上記金属酸化物膜形成用溶液と、上記基材とを接触させる方法としては、上述したスプレー装置により霧化された金属酸化物膜形成用溶液と、上記基材とを均一に接触させることができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法と、霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法とを挙げることができる。
【0060】
上記接触方法として、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法を用いる場合、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液の液滴の径としては、基材との接触時に基材の温度を低下させない範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本工程においては、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、さらには0.5μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、液滴が基材に接触する際に、基材温度が低下せず、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0061】
また、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液の吐出量についても、金属酸化物膜形成用溶液が基材と接触する際に、基材の温度を低下させない範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本工程においては、0.001L/min〜1L/minの範囲内であることが好ましく、さらには0.001L/min〜0.05L/minの範囲内であることが好ましく、特に0.01L/min〜0.05L/minの範囲内であることが好ましい。上記範囲を超える場合は、基材温度の低下を引き起こす可能性があるからである。また、上記範囲に満たない場合は、金属酸化物膜の成膜に時間がかかり、コスト上好ましくないからである。
【0062】
上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法としては、基材上に所望の金属酸化物膜を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、固定された基材上に噴霧する方法と、移動する基材上に噴霧する方法とを例示することができる。
【0063】
上記固定された基材上に噴霧する方法としては、例えば、図2に示すように、固定された基材3を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、この基材3に対して、スプレー装置1を用いて霧化された金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧する方法を挙げることができる。
【0064】
一方、上記移動する基材上に噴霧する方法としては、例えば、図3に示すように、基材3を、金属酸化物膜形成温度以上に加熱したローラー6〜8を用いて連続的に移動させ、この基材3に対して、スプレー装置1を用いて霧化された金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧する方法等が挙げられる。この方法は、連続的に金属酸化物膜を形成することができるという利点を有する。
【0065】
また、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液を基材に噴霧する方法において、用いられる基材の形状としては、スプレー装置による噴霧ができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、板状、筒状の基材を用いることができる。上記筒状の基材を用いた場合、スプレー装置が筒の内部に入り込むことができれば、筒の内面に金属酸化物膜を形成することができる。
【0066】
一方、上記接触方法として、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法を用いる場合、上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液の液滴の径としては、基材の温度の低下させない範囲であれば特に限定されるものではない。なかでも本工程においては0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、なかでも1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0067】
上記霧化された金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、スプレー装置1を用いて金属酸化物膜形成用溶液2をミスト状にした空間に、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱された基材3を通過させる方法等を挙げることができる。
【0068】
また、上記基材を加熱する温度としては、上記金属酸化物膜形成温度以上であれば特に限定されるものではない。上記金属酸化物膜形成温度の具体的な温度は、金属化合物の種類や溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって異なるものであるが、金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤および/または還元剤を加えない場合は、通常、400℃〜600℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、450℃〜550℃の範囲内であることが好ましい。一方、金属酸化物膜形成用溶液に酸化剤および/または還元剤を加える場合は、通常、150℃〜400℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、300℃〜400℃の範囲内であることが好ましい。
【0069】
さらに、上記基材を加熱する方法としては、基材を金属酸化物膜形成温度以上に加熱できる方法であれば特に限定されない。このような方法としては、基材を金属酸化物膜が形成される成膜面側から加熱する表面加熱方法、基材を上記成膜面とは反対面側から加熱する裏面加熱方法、および、基材を上記成膜面とその反対面との両面から加熱する両面加熱方法を挙げることができる。本工程においては上記表面加熱方法、裏面加熱方法、および、両面加熱方法のいずれであっても好適に用いることができる。
【0070】
ここで、上記表面加熱方法は、基材の厚みが大きい場合や、基材の形態が平面ではなく、凹凸形状を有するものであったり、メッシュ状等の形態を有するものである場合であっても、基材の成膜面を容易に金属酸化物膜形成温度以上に加熱できるという利点を有する。
また、上記裏面加熱方法は、実施が容易であるという利点を有する。
さらに、上記両側加熱方法は、基材の両側の熱膨張率の差を低減することができるため、加熱時の基材の変形を防止することができるという利点を有する。
【0071】
上記基材を加熱する加熱方式としては、対流加熱方式、伝導加熱方式、および、輻射加熱方式を挙げることができるが、本工程においてはいずれの加熱方式であっても好適に用いることができる。
ここで、上記対流加熱方式とは、空気やガスまたは液体等を媒体とし、これらの媒体を加熱して基材に接触させることにより基材を加熱する方式である。
また、上記伝導加熱方式とは、媒体を介さずに熱源を直接基材に接触させ、上記熱源からの熱伝導により基材を加熱する方式である。
さらに、上記輻射加熱方式とは、分子振動を誘起する電磁波を基材に照射することにより加熱する方式である。
【0072】
なお、基材の加熱装置としては、例えば、ホットプレート、赤外線ヒーター等を例示することができる。また、上記赤外線ヒーターとしては、短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、カーボンヒーター等を例示することができる。
【0073】
(2)基材
次に、本工程に用いられる基材について説明する。本工程に用いられる基材は、本工程において、その表面に金属酸化物膜が形成されるものである。
【0074】
本工程に用いられる基材としては、上記「金属酸化物膜形成温度」に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではない。このような基材としては、可撓性を有するフレキシブル材であってもよく、または、可撓性を有さないリジッド材であってもよい。
【0075】
本工程に用いられる基材を構成する材料としては、例えば、ガラス、SUS、金属板、セラミック基板、耐熱性プラスチック等を挙げることができる。なかでも本工程においては、ガラス、SUS、金属板、セラミック基板を使用することが好ましい。これらの材料は汎用性があり、充分な耐熱性を有しているからである。
【0076】
また、本工程に用いられる基材の形態は特に限定されるものではなく、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたもの等であってもよい。なかでも本工程においては、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものが好適に使用される。
【0077】
(3)その他
本工程においては、成膜された金属酸化物膜の洗浄を行ってもよい。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。
【0078】
2.還元工程
次に、本発明における還元工程について説明する。本発明における還元工程は、上記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物のうち、少なくとも1種類の金属酸化物を還元することにより、上記金属酸化物膜を、少なくとも1種類の金属と少なくとも1種類の金属酸化物とを含有するサーメット状態にする工程である。
【0079】
本工程における上記2種類以上の金属酸化物の還元態様としては、上記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物の種類や組み合わせ等に応じて、少なくとも1種類の金属酸化物を還元できる態様であれば特に限定されない。このような還元態様としては、上記2種類以上の金属酸化物のうち、1種類の金属酸化物のみを選択的に還元する態様であってもよく、また、2種類以上の金属酸化物を還元する態様であってもよい。
【0080】
本工程における還元方法としては、上記金属酸化物膜に含まれる所望の金属酸化物を所望の程度に還元できる方法であれば特に限定されない。このような還元方法としては、金属酸化物膜に水素ガス、一酸化炭素ガス、または、炭素Cを接触させる方法等を例示することができる。なかでも本工程においては、金属酸化物膜に水素ガスを接触させる方法を用いることが好ましい。このような方法によれば、金属酸化物膜を均一に還元することが容易になるからである。
【0081】
3.サーメット積層体
次に、本発明により製造されるサーメット積層体について説明する。本発明により製造されるサーメット積層体は、基材と、基材上に形成され、サーメット材料からなるサーメット層とを有するものになる。
ここで、上記サーメット層は、上記金属酸化物膜形成工程により一旦金属酸化物膜が形成された後に、上記還元工程において金属酸化物が一部還元されることにより形成されるものである。換言すると、上記サーメット層は、上記金属酸化物膜形成工程により形成される金属酸化物膜から酸素成分の一部を除去することによって形成されたものである。このため、本発明により形成される上記サーメット層は、酸素成分が除去された箇所に微小な空孔を有する多孔質体となる。そして、上記多孔質体の多孔度は、上述した金属酸化物膜形成用溶液の組成や、上記還元工程における還元の程度により任意に調整することが可能である。
したがって、本発明のサーメット積層体の製造方法は、このような多孔質体のサーメット層を形成できる点においても特徴を有するものということもできる。
【0082】
なお、本態様のサーメット積層体の製造方法により製造されるサーメット積層体の具体的態様については、後述する「B.サーメット積層体」においてその一例を説明するため、ここでの説明は省略する。
【0083】
B.サーメット積層体
次に、本発明のサーメット積層体について説明する。本発明のサーメット積層体は、基材と、上記基材上に形成され、金属および金属化合物を含有するサーメット材料から構成されるサーメット層とを有するものである。
【0084】
このような本発明のサーメット積層体について図を参照しながら説明する。図5は、本発明のサーメット積層体の一例を示す概略断面図である。図5に例示するように、本発明のサーメット積層体10は、基材3と、上記基材3上に形成されたサーメット層5を有するものである。上記のような例において、サーメット層5は金属および金属酸化物を含有するサーメット材料から構成されるものである。
【0085】
本発明のサーメット積層体は、上記サーメット層の態様により2態様に分けることができる。
以下、各態様に分けて、本発明のサーメット積層体について説明する。
【0086】
B−1:第1態様のサーメット積層体
まず、本発明の第1態様のサーメット積層体について説明する。本態様のサーメット積層体は、上記サーメット層の膜厚が10nm〜10μmの範囲内であることを特徴とするものである。また、本態様のサーメット積層体は、例えば、燃料電池用の電極として好適に用いることができるサーメット積層体を得ることができるという利点を有するものである。
【0087】
本態様のサーメット積層体は、基材と、サーメット層とを有するものである。以下、本態様のサーメット積層体の各構成について詳細に説明する。
なお、本態様に用いられる基材については、上記「A.サーメット積層体の製造方法」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
1.サーメット層
本態様におけるサーメット層について説明する。本態様におけるサーメット層は、厚みが、10nm〜10μmの範囲内であることを特徴とするものである。
【0089】
本態様におけるサーメット層の厚みは、上記範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも100nm〜10μmの範囲内であることが好ましく、特に500nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
なお、上記サーメット層の厚みは、上記走査型電子顕微鏡または上記透過型電子顕微鏡で測定することにより求めることができる。
【0090】
上記サーメット層を構成するサーメット材料は、金属および金属酸化物を含有するものであるが、このような金属および金属酸化物の組み合わせの態様としては、少なくとも1種類の金属と、少なくとも1種類の金属酸化物が組み合わされた態様であれば特に限定されない。このような態様としては、1種類の金属と1種類の金属酸化物とが組み合わされた態様、1種類の金属と2種類以上の金属酸化物が組み合わされた態様、2種類以上の金属と1種類の金属酸化物とが組み合わされた態様、および、2種類以上の金属および金属酸化物が組み合わされた態様を挙げることができる。本態様においては、これらの態様のいずれであっても好適に用いることができる。また、上記金属を構成する金属元素と、上記金属酸化物に含まれる金属元素とが共通するものであってもよい。
【0091】
また、上記金属および金属酸化物の具体的な組み合わせとしては、特に限定されるものではなく、本態様のサーメット積層体の用途等に応じて任意に選択することができる。なかでも本態様においては、上記金属および金属酸化物の組み合わせが、上記金属から金属酸化物を生成する際の酸素の化学ポテンシャルと、上記金属酸化物が生成される際の酸素の化学ポテンシャルとの差が、10kcal以上、より好ましくは、20kcal以上、さらに好ましくは50kcal以上であることが好ましい。これにより、本発明のサーメット積層体を上記本発明のサーメット積層体の製造方法を用いて製造することが容易になるからである。
ここで、上記酸素の化学ポテンシャルは、各金属元素についてエリンガム図を作図することにより求めることができる。また、上記化学ポテンシャルは温度依存性を有するものであるが、本発明においては任意の温度における化学ポテンシャルに上記範囲の差があればよいものとする。
【0092】
このような金属および金属酸化物の組み合わせとしては、Cu、Fe、Ni、Pb、Co、Mo、および、Crからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素からなる金属と、Ca、Mg、Li、Al、Ti、Si、V、Mn、および、Zrからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素からなる金属酸化物の組み合わせを例示することができる。なかでも本態様において採用することが好ましい組み合わせとしては、例えば、NiとZrO、FeとAl、CuとTiO、PbとCaO、CoとSiO、MoとV、CrとLiO等を挙げることができる。
【0093】
なお、本態様におけるサーメット層の形態は、空孔を有さない緻密体であってもよく、または、空孔を有する多孔質体であってもよい。
【0094】
2.その他
本態様のサーメット積層体の用途としては、例えば、燃料電池用の電極、工具や基材への硬化膜、導電性薄膜、透明導電性薄膜、光学薄膜、または、マイクロマシン向け等の保護硬化膜としての用途を挙げることができる。
【0095】
また、本態様のサーメット積層体は、例えば、上記「A.サーメット積層体の製造方法」の項において説明した方法により製造することができる。
【0096】
B−2:第2態様のサーメット積層体
次に、本発明の第2態様のサーメット積層体について説明する。第2態様のサーメット積層体は、上記サーメット層が金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、かつ、平均粒子径が500nm以下のサーメット微粒子から構成されることを特徴とするものであり、これにより平面性に優れたサーメット層を有するサーメット積層体を得ることができる利点を有するものである。
【0097】
本態様のサーメット積層体は、基材と、サーメット層とを有するものである。以下、本態様のサーメット層の各構成について詳細に説明する。
なお、本態様に用いられる基材については、上記「A.サーメット層の製造方法」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0098】
1.サーメット層
本態様に用いられるサーメット層について説明する。本態様に用いられるサーメット層は、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料からなり、かつ、平均粒子径が500nm以下であるサーメット微粒子からなるものである。
【0099】
本態様におけるサーメット層を構成するサーメット微粒子は、粒子径が上記範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、特に10nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記粒子径はSEM写真から求めることができる。
【0100】
上記サーメット微粒子を構成するサーメット材料は、金属および金属酸化物を含有するものであるが、このような金属および金属酸化物の組み合わせの態様としては、少なくとも1種類の金属と、少なくとも1種類の金属酸化物が組み合わされた態様であれば特に限定されない。
ここで、本態様に用いられる上記金属および金属酸化物の組み合わせの態様としては、上記「B−1:第1態様のサーメット積層体」の項において説明した態様と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0101】
また、本態様におけるサーメット層の厚みは、本態様のサーメット積層体の用途等に応じて任意に決定することができるが。なかでも本態様においては、100nm〜10μmの範囲内であることが好ましく、さらには500nm〜5μmの範囲内であることが好ましく、特に500nm〜3μmの範囲内であることが好ましい。サーメット層の厚みが上記範囲内であることにより、例えば、本態様のサーメット積層体を、燃料電池用の電極として好適なものにできるからである。
なお、上記サーメット層の厚みの測定方法は、上記「B−1:第1態様のサーメット積層体」の項に記載したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0102】
さらに本態様におけるサーメット層の形態は、空孔を有さない緻密体であってもよく、または、空孔を有する多孔質体であってもよい。
【0103】
2.その他
本態様のサーメット積層体の用途は、上記「B−1:第1態様のサーメット積層体」の項において説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0104】
また、本態様のサーメット積層体は、例えば、上記「A.サーメット積層体の製造方法」の項において説明した方法により製造することができる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0107】
本実施例においては、アルミナ板(150mm×150mm、厚さ1mm)を基材とした。
【0108】
まず、硝酸イットリウム(関東化学社製)0.008mol/L、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)0.1mol/L、ニッケルアセチルアセトナート(関東化学社製)0.05mol/Lとなるように溶液(溶媒はエタノール55%、トルエン40%、水5%)を1L調整し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。
【0109】
超音波ネプライザ(オムロン社製)を用いて基材に上記金属酸化物膜形成用溶液を1000mL噴霧し、酸化ニッケルとYSZが含有された金属酸化物膜を得た。当該金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、酸化ニッケル、YSZが形成していることを確認した。
【0110】
次に、上記方法により得られた金属酸化物膜を、温度600℃の条件で2時間水素ガスと接触させ、酸化ニッケルのみを還元して金属ニッケルを得た。この還元後の膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、金属ニッケル、YSZが形成されていることを確認した。また、TEM(透過電子顕微鏡)観察により、金属ニッケルとYSZがサーメット状態であることを確認した。また、SEM観察より、構成している微粒子は平均15nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明のサーメット積層体の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のサーメット積層体の製造方法の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明のサーメット積層体の製造方法の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明のサーメット積層体の製造方法の他の例を示す概略図である。
【図5】本発明のサーメット積層体の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0112】
1 … スプレー装置
2 … 金属酸化物膜形成用溶液
3 … 基材
4 … 金属酸化物膜
5 … サーメット膜
6〜8 … ローラー
10 … サーメット積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料により構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体の製造方法であって、
前記基材上に、気相成長法、あるいは、化学溶液法によって互いに異なる金属元素を含有する2種類以上の金属酸化物が含まれる金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜形成工程と、
前記金属酸化物膜に含まれる2種類以上の金属酸化物のうち、少なくとも1種類の金属酸化物を還元することにより、前記金属酸化物膜を、少なくとも1種類の金属と少なくとも1種類の金属酸化物とを含有するサーメット状態にする還元工程と、を有することを特徴とする、サーメット積層体の製造方法。
【請求項2】
前記還元工程が、前記金属酸化物膜に水素ガスを接触させる方法により、前記金属酸化物膜を前記サーメット状態にするものであることを特徴とする、請求項1に記載のサーメット積層体の製造方法。
【請求項3】
基材と、前記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料から構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体であって、
前記サーメット層の膜厚が10nm〜10μmの範囲内であることを特徴とする、サーメット積層体。
【請求項4】
基材と、前記基材上に形成され、金属および金属酸化物を含有するサーメット材料から構成されたサーメット層とを有するサーメット積層体であって、
前記サーメット層が、前記サーメット材料からなり、かつ、平均粒子径が500nm以下のサーメット微粒子により構成されることを特徴とする、サーメット積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−88495(P2008−88495A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269855(P2006−269855)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】