サーモエレメント
【課題】サーモエレメントのパラフィンから成る熱膨張体の密封性を改良し、熱膨張体が漏れにくくする。熱膨張体の体積膨張を直線運動に滑らかに変換し、応答性の良いサーモエレメントを得る。
【解決手段】サーモエレメントは、底のある円筒形のケース(1)と、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体(2)と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストン(6)と、前記ピストンを摺動自在に保持するガイド部材(5)と、を備える。熱膨張体とピストンとの間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層(4)を備える。
【解決手段】サーモエレメントは、底のある円筒形のケース(1)と、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体(2)と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストン(6)と、前記ピストンを摺動自在に保持するガイド部材(5)と、を備える。熱膨張体とピストンとの間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層(4)を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化によるパラフィンの膨張収縮を利用したサーモアクチュエータであるサーモエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度センサとしてパラフィン等の熱膨張体を用いたサーモエレメントが用いられている。サーモエレメントは、温度によるパラフィンの相変化による体積変化をピストンの軸線方向の直線運動に変換する。サーモエレメントは、図1に示すダイアフラムタイプ、図2に示すスリーブタイプ、図3に示す肉厚封止部材タイプ等がある。
図1に示すダイアフラムタイプのサーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1に、円筒形のガイド部材5が固定される。ケース1内に熱膨張体2が充填され、熱膨張体2の上端面は、ダイアフラム3により封止されている。ガイド部材5の基端部内の当接面5aと、ダイアフラム3の上側との間には変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体4が充填されている。ガイド部材5のガイド筒部内には、ガム状流体4の上に、ラバーピストン7、保護板8、ピストン6が設けられている。
【0003】
環境温度が上昇すると熱膨張体2が膨張し、ダイアフラム3が上方に膨出し、ダイアフラム3の上方に配置されたガム状流体4を押し上げる。ガム状流体4は変形しガイド筒部内に進入して、ラバーピストン7、保護板8を介して、ピストン6を上方へ押し上げる。温度が下降すると熱膨張体2が収縮し、ピストン6に印加された負荷(図示せず)によりピストン6が押し下げられる。こうして、温度変化によりピストン6がガイド部材5から上下方へ出入する。
本明細書においては、上とは図面の上方向、下とは図面の下方向を言うものとする。
【0004】
図2に示すスリーブタイプのサーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1に熱膨張体2が充填され、熱膨張体2の上端部はスリーブ9により密封されている。スリーブ9の中央部にピストン6を挿入するためのピストン挿入孔が形成されている。スリーブ9の上側は、押さえ板10により、ケース1に固定される。ケース1の上端部には、円筒形のガイド部材5が設けられ、ガイド部材5の基端部は、ケース1の上端部に固定される。スリーブ9のピストン挿入孔内から、ガイド部材5を貫通してピストン6が設けられている。
環境温度が上昇すると熱膨張体2が膨張し、熱膨張体2がスリーブ9を押し潰し、スリーブ9に挿入されているピストン6を上方へ押し出す。温度が下降すると熱膨張体2が収縮し、ピストン6に印加された負荷(図示せず)により、ピストン6は下方へ押し戻される。こうして、温度変化によりピストン6がガイド部材5の上下方向に出入する。
【0005】
図3は、肉厚封止部材11を使用した肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの縦断面図である。サーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1と、ケース1の一端部に係合する円筒形のガイド部材5と、ガイド部材の内側に摺動自在に保持されたピストン6と、ケース1に熱膨張体2を封入し、ピストン6を出入りさせるためガイド部材5と熱膨張体2との間に配置された肉厚封止部材11とを備える。
肉厚封止部材11は、ゴム状弾性体で形成され、中央部にピストン6の一端部を支持するピストン挿入孔が形成され、温度変化により熱膨張体2が膨張すると、肉厚封止部材20が変形して、ピストン6を押し上げるようになっている。
【0006】
しかし、ダイアフラムタイプのサーモエレメントは構造が複雑であり、非圧縮性流動体から成るガム状流体が漏洩しやすい。スリーブタイプのサーモエレメントは、温度の上昇下降におけるヒストリシスが大きい。肉厚封止部材タイプのサーモエレメントは、肉厚封止部材の製造が難しい。各々のサーモエレメントは、それぞれ欠点があり、これらの欠点を改善すべくいろいろな提案がなされている。
【0007】
特許文献1は、スリーブタイプの改良として、スリーブとピストンの間に密閉室を形成し、ここに非圧縮性流動体を充填して、スリーブが非圧縮性流動体を介してピストンを押し上げるようにした構造を開示する。
特許文献2は、ダイアフラムタイプの改良としてダイアフラムタイプの被圧縮性流動体から成るガム状流体内にピストンを挿入し、ガイド部材とピストンの間をパッキングにより密封して、ラバーピストン、保護板を無くした構造を開示する。特許文献1、2は、何れも非圧縮性流動体から成るガム状流体の漏洩の問題が残り、また構造が複雑になる。
【0008】
特許文献3は、被圧縮性流動体から成るガム状流体の改良として、合成生ゴムを細かく破砕し、その破砕片をグリス・オイル等の潤滑剤と混和して、半流動体に練成し、ガム状流体とした流動体を開示する。しかし、この流動体は、ゴム破砕片のブロッキング等の現象を起こしロック状態になる危険がある。
【0009】
図4は、スリーブレスタイプのサーモエレメントの縦断面図である。図2のスリーブタイプのサーモエレメントのスリーブ9をなくし、ケース1とガイド部材5の間にシール部材20を設け、ガイド部材5とピストン6の間にシール部材20を設けてある。
特許文献4は、スリーブレスタイプのサーモエレメントンの改良として、ケース内に熱膨張体を封入するシール部材にリップ部を設けることにより、ピストンが熱膨張体に直接接し、体積変化に伴い熱膨張体がピストンを直接押し上げる構造を開示する。特許文献4は、熱膨張体としてパラフィンの固体から液体への相変化の膨張を利用する場合、熱膨張体の状態によりピストンを押し上げ、下げる力が大きく変化することから、作動が不安定になるおそれがある。
【0010】
特許文献5は、熱膨張体であるパラフィンをカーボンブラックの粒子に吸収させて粉末状にし、パラフィンを漏れ難くすることにより、ピストンを熱膨張体内に直接挿入し、熱膨張体の体積変化に伴い膨張体がピストンを直接押し上げる構造を開示する。特許文献5のカーボンブラックの粒子に吸収されたパラフィンは粉末状であり、シール部材でシールされているが、特許文献4と同様に作動が不安定になる懸念がある。
そのため、構造が単純で、安定して作動し、耐久性の良いサーモエレメントが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実公昭58−16003号
【特許文献2】特許第3225386号
【特許文献3】実公平6−43591号
【特許文献4】特許第4293506号
【特許文献5】特開平11−293235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、サーモエレメントのパラフィンから成る熱膨張体の密封性を改良し、熱膨張体が漏れにくくすることである。
本発明の他の目的は、パラフィンから成る熱膨張体の体積膨張を直線運動に滑らかに変換し、応答性の良いサーモエレメントを提供することである。
本発明の他の目的は、上記二つの改良を組み合わせ、構造が単純で、応答性が良く、作動が安定し、耐久性の良いサーモエレメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1(第4の態様、図5)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備え、前記熱膨張体の膨張収縮により前記ピストンを軸方向に移動するサーモエレメントであって、
前記熱膨張体と前記ピストンの下部との間に、前記熱膨張体と前記ピストンとに直接接する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層を備えることを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンが円滑に軸方向に移動することができる。
【0014】
請求項2(第5の態様)の発明は、請求項1に記載のサーモエレメントであって、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであるサーモエレメントである。
ガム状流体の流動性が良く、且つ漏れにくくなる。
【0015】
請求項3(第6、第7の態様)の発明は、請求項1又は2に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメントである。
熱膨張体のパラフィンは吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収されるので、液状体とならず漏れにくくなる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体の上方で、前記ガイド部材の下部と前記ピストンとの間、又は前記ガイド部材の下部と前記ケースとの間に流体溜りが形成され、前記ガム状流体は前記流体溜りを満たすサーモエレメントである。
ピストンにより押し出されるガム状流体は、流体溜りに溜まることが出来る。
【0017】
請求項5(第1の態様、ガム状流体)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記ケース内に前記熱膨張体を密封する弾性密封部材と、前記熱膨張体の膨張収縮で前記弾性密封部材が変形することにより軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、前記弾性密封部材と前記ピストンとの間に介在する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであることを特徴とするサーモエレメントである。
ガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性が良く、吸油性のあるポリマーに吸収されるので漏れにくい。
【0018】
請求項6(第2の態様 熱膨張体)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備えるサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンを混合練成し、前記熱膨張体が、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有するようにしたことを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を有するので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンを滑らかに移動させることが出来る。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体のパラフィンは、炭素数が18〜36であり、炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンは、炭素数が13〜21であるサーモエレメントである。
【0020】
請求項8(図4、スリーブレス)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備え、スリーブがなく、前記ピストンの下部が前記熱膨張体内に直接挿入され、前記熱膨張体の膨張収縮で前記ピストンを軸方向に移動するようにしたサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンと、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成し、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有することを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を有するので、スリーブがなくても、ピストンに無理な力がかからない。
【0021】
請求項9(第8の態様、図9、ダイアフラムレス)は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガイド部材の前記貫通孔の下部は下に向かってテーパ状に広がり、前記テーパ状の部分の内側で前記熱膨張体と前記ピストンの下面との間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体を備え、前記熱膨張体と前記ガム状流体とはダイアフラムを介さずに直接接し、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成して成り、前記熱膨張体の膨張収縮により、前記ガム状流体を介して前記ピストンを移動させることを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体とガム状流体との間にダイアフラムがなくても、ガム状流体のパラフィンは給油性のあるポリマーに吸収されるので、熱膨張体とガム状流体とは相容性がなく混合しにくい。
【0022】
請求項10(第9の態様)は、請求項9に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメントである。
これにより、熱膨張体とガム状流体とは一層混合しにくくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、サーモエレメントのパラフィンから成る熱膨張体の密封性を改良し、熱膨張体が漏れにくいサーモエレメントを提供することができる。
また、本発明によれば、パラフィンから成る熱膨張体の体積膨張を直線運動に滑らかに変換し、応答性の良いサーモエレメントを提供することができる。
また、本発明によれば、上記二つの改良を組み合わせ、構造が単純で、応答性が良く、作動が安定し、耐久性の良いサーモエレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ダイアフラムタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図2】スリーブタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図3】肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図4】スリーブレスタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図5】第4の態様の実施形態のサーモエレメントの縦断面図。
【図6】第4の態様のサーモエレメントに使用するワックス成型体の縦断面図。
【図7】第4の態様のサーモエレメントに使用する他のワックス成型体の縦断面図。
【図8A】ケースにワックス成型体を挿入し、ガム状流体を注入した状態の縦断面図。
【図8B】ケースにガイド部材等を組み入れた状態の縦断面図。
【図8C】ケースにガイド部材をカシメ、ピストンを押しこんだ状態の縦断面図。
【図8D】ガイド部材の下部とケースとの間に流体溜りを形成した例の縦断面図。
【図9】第8の態様のサーモエレメントの縦断面図。
【図10】図5に示すサーモエレメントのガム状流体のシール部材をガイド部材の上部に設けた縦断面図。
【図11】肉厚封止部材タイプのサーモエレメントのシール部材をガイド部材の上部に設けた縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の態様)
本発明の第1の態様は、パラフィンを含む膨張体を密封する弾性密封部材と、膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンとの間に、非圧縮性流動体であるガム状流体を介在させ、このガム状流体を漏れ難くする。
【0026】
第1の態様のガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン(以下、「液状パラフィン」と言う)に、吸油性のあるポリマー(以下、「吸油性ポリマー」と言う)と、充填材とを融解混合して流動体とし、非圧縮性で流動性のあるガム状流体としている。
【0027】
サーモエレメントの主な用途である自動車用サーモスタットの使用温度範囲は−20℃から150℃と広範囲であるが、パラフィンを含む熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)は大凡70℃〜90℃の範囲である。水道関連の自動混合水栓の使用温度範囲は0℃から100℃であり、熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)は大凡30℃〜50℃の範囲である。
【0028】
したがって、サーモエレメントのガム状流体は、広い温度範囲で耐熱性が必要であるが、使用するパラフィンを含む熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)より5〜10℃低い温度より高い温度で非圧縮性の半流動状態であれば良く、それより低い温度では固形であってもよい。
【0029】
したがって、ガム状流体に使用する液状パラフィンは、熱膨張体の膨張収縮する温度範囲(相変化する温度範囲)より5℃〜10℃以上低い温度から液状又は流動性があるパラフィンであれば良く、広範囲の温度で流動性のある流動パラフィン、又は前述の温度範囲(相変化温度)で液状である低炭素数のパラフィン、例えば炭素数13のトリデカン(融点−5℃)から炭素数21のヘンイコサン(融点40.5℃)のパラフィンでも良い。又は、これらの低炭素数のパラフィンを混合したものでもよく、不純物を含有しても良い。
【0030】
ガム状流体に添加する吸油性ポリマーは、吸油性を高めた吸油性ポリマーが良いが、吸油性のある熱可塑性エラストマーであっても良い。吸油性ポリマーの例として熱可塑性ゴムブロックコポリマー、親油性高分子ゲルがある。吸油性のある熱可塑性エラストマーは、スチレン系、オレフィン形、ポリウレタン系、塩ビ系がある。特にスチレン系熱可塑性エラストマーは、吸油性が良いので適する。
【0031】
又、ガム状流体に添加する充填材は、カーボン類、フッ素粉末、二硫化モリブデン等潤滑性が良いものがよく、又パラフィンとなじみが良いとさらに適する。カーボン類には、黒鉛、ブラックカーボン等がある。黒鉛は、パラフィンと親和性があり潤滑性があるので適している。数種類の充填材を充填して、それぞれの充填材の良い面を組み合わせることもできる。例えば、吸油性のあるカーボンを充填すると、吸油性ポリマーからパラフィンがブリードした際にカーボンがパラフィンを吸収するので、吸油性ポリマーの比率を少なく出来る等の利点がある。
第1の態様のガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性があり、給油性ポリマーに吸収されているので漏れにくい。
【0032】
第1の態様のガム状流体の作成方法は、液状パラフィンと、吸油性ポリマーと、充填材とを混合し、液状パラフィンが吸油性ポリマーに吸収されたら、ニーダー等練作用のある混合機で練成する。昇温すると吸油性ポリマーが液状パラフィンを吸収するのを促進できるので昇温して混合練成する。ガム状流体の硬さは、液状パラフィンと、給油性ポリマーと、充填材との比率を変えることにより調整することができる。液状パラフィンに対し吸油性ポリマーを少なくすると低温時にパラフィンがブリードするので、液状パラフィンと吸油性ポリマーの比率はパラフィンがブリードしない比率に固定して、充填材の比率を変えて調整するのが良い。
【0033】
サーモエレメントの用途によりガム状流体の適する硬さは変わる。そのため、液状パラフィンと、吸油性ポリマーと、充填材との比率は、用途により変わる。主な用途における比率は、液状パラフィン100部に対し、吸油性ポリマー3〜30部、充填材100〜300部である。ガム状流体に混合する必要のある吸油性ポリマーの比率は、使用する吸油性ポリマーの吸油性能により変わる。
又液状パラフィンとして、低炭素数のパラフィンを使用する場合は、サーモエレメントの膨張体のパラフィンに適合する低炭素数のパラフィンを適宜選択し、サーモエレメントの用途に最適なガム状流体とすることができる。
【0034】
第1の態様の実施例では、流動パラフィン100部に対しスチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック)7部を混合し、80℃に昇温して混合練成した後に、潤滑性の良い黒鉛150部、吸油性のある黒鉛50部を混合しさらに混合練成し、適度の硬さで潤滑性のあるガム状流体を得ることができた。流動パラフィンに代えて、テトラデカン(炭素数14)が主成分のパラフィンを用いても、同様なガム状流体を得ることができた。
【0035】
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体を、熱膨張体の熱膨張を利用する温度範囲(相変化温度範囲)より低い温度から柔軟性を保持するようにし、熱膨張体の膨張収縮を直線運動に滑らかに変換することである。
【0036】
パラフィンは、相変化温度より低い温度では固形状態となる。サーモエレメントが、外側から急速に加熱されると、熱膨張体の内部への熱伝導が遅れ、ケースに密封された熱膨張体は、温度が上昇して外周部が相変化し液体になっても、内部は固形状態のままである。外周部の熱膨張体が相変化して膨張し、内部の固形状態の熱膨張体を押す。このとき、ダイアフラムタイプでは、固体状態の熱膨張体がダイアフラムを押し上げる。スリーブタイプでは、固体状態の熱膨張体がスリーブを押しつぶし、ピストンを押し出す。スリーブレスタイプでは、固体状態の熱膨張体がピストンを直接押し出す。そのため、ダイアフラムタイプではダイアフラムに無理な力が加わる。スリーブタイプ、スリーブレスタイプではピストンを押し出す力が大きくなり、ケース内圧力が高くなる。
【0037】
第2の態様では、温度変化により膨張収縮する熱膨張体のパラフィン(元のパラフィン)に、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を混合練成して、熱膨張体が、相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を保持するようにする。
【0038】
その結果、熱膨張体の外周部の温度が上昇して外周部が相変化する時でも、熱膨張体の内部が柔軟なので、熱膨張体の内部に無理なく力が伝達され、ピストンを容易に押し出すことができ、より一層応答性が良くなる。
【0039】
熱膨張体に添加する液状パラフィンは、用途に合わせ、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より5℃〜10℃以上低い温度から液状又は流動性があるパラフィンを適宜選択すればよい。
液状パラフィンは、広い温度範囲で流動性のある流動パラフィン、又は低い温度で液状である低炭素数のパラフィン、例えば炭素数13のトリデカン(融点−5℃)から炭素数21のヘンイコサン(融点40.5℃)までのパラフィン、又はこれらのパラフィンを混合したパラフィンから選択するのが良い。
【0040】
熱膨張体のパラフィンとして、自動車用サーモスタットのサーモエレメトの相変化温度が70〜90℃のパラフィン(炭素数26〜36)を使用する場合、添加する液状パラフィンは、50℃以下で液状又は流動性があるパラフィンであればよい。流動パラフィン、炭素数13〜21のパラフィンはこの条件に適合する。
又、自動混合水栓のサーモエレメントの相変化温度が30〜50℃のパラフィン(炭素数18〜21)を使用する場合、添加する液状パラフィンは、10℃以下で液状又は流動性があるパラフィンであればよい。流動パラフィン、炭素数13〜15のパラフィンはこの条件に適合する。
【0041】
第2の態様の熱膨張体の作成方法は、熱膨張体のパラフィンと、選択した液状パラフィンとをパラフィン100部に対し液状パラフィン10〜40部の比率で混合し、液状体になる温度まで昇温して良く混合する。熱膨張体の相変化温度より低い温度でも柔軟性のある熱膨張体が得られる。炭素数の少ない液状パラフィンを混合する場合、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に近い相変化温度の液状パラフィンを混合すると、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に影響する恐れがあるので、熱膨張体のパラフィンの相変化温度から離れた低い相変化温度を有する液状パラフィンを混合するのが良い。
【0042】
さらに、吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを熱膨張体のパラフィン100部に対し、3〜30部混合し、昇温し混合練成すると、熱膨張体のパラフィン、液状パラフィンが、吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収され、熱膨張体のパラフィンの相変化温度になっても液状体でなくなり、安定した漏れ難い熱膨張体となる。吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンの混合比率は、使用する吸油性ポリマー、吸油性のあるカーボンの吸油性能に大きく依存する。
【0043】
第2の態様の実施例では、熱膨張体のパラフィン(相変化温度70〜90℃)100部に、流動パラフィン20部、スチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック)10部を混合し、95℃に昇温混合練成した後、熱伝導を良くする為に熱伝導の良いカーボンブラック100部と、吸油性のある黒鉛10を昇温混合練成した。その結果、常温で柔軟性のある熱膨張体が得られた。
【0044】
(第3の態様)
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様と第2の態様との組み合わせである。ガム状流体は、第1の態様のガム状流体を使用する。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合して流動体化したものである。
熱膨張体は、第2の態様の熱膨張体である。即ち、熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンに、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を混合練成し、相変化温度より低温で柔軟性のある熱膨張体としたものである。
第3の態様により、ガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性が良く、漏れにくく、熱膨張体は、相変化温度範囲より低い温度から柔軟性を保持するので、温度変化に対し応答性が良く、作動が安定し、耐久性のあるサーモエレメントを得ることができる。
【0045】
(第4の態様)
本発明の第4の態様は、ピストンの下端をスリーブを介して熱膨張体内に挿入して、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンを軸方向に移動するようにしたスリーブタイプのサーモエレメントについて、熱膨張体とピストンとの間にスリーブの代わりにガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体の層を介してピストンを軸方向に移動するようにしたものである。熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンが円滑に軸方向に移動することができる。
【0046】
図5は、本発明の第4の態様のサーモエレメントの実施形態の縦断面図である。サーモエレメントは、底のある円筒形のケース1と、ケース1の上部に係合するガイド部材5とを備える。ケース1の上部にガイド部材5をカシメ、気密状態に一体化されている。ケース1には、熱膨張体2が充填される。ピストン6が、ガイド部材5の中心軸に沿って、上方からガム状流体4を介して熱膨張体2に挿入され、摺動自在に配置されている。ガイド部材5の内側に軸に沿ってシール部材部21を設け、シール部材部21に保護板8、シール部材20を挿入し、ガイド部材5とピストン6の間を気密状態としている。
【0047】
ガイド部材5のシール部材部21の下側に軸に位置するピストン6の外周に沿って流体溜り22が設けられている。ピストン6が熱膨張体2に挿入された状態で、ガイド部材5の流体溜まり22、ピストン6の周囲、熱膨張体2の上部にガム状流体4が充填されている。
流体溜り22は、ガイド部材5の下部とケース1との間に形成することもできる。
ガイド部材5の下端面の外周部に沿ってシール部23が設けられ、ここにもシール部材20が入れられる。
【0048】
図5のサーモエレメントが外部から急速に加熱されると、熱膨張体2の外周部が急速に温度上昇して膨張し、相変化温度に達するが、熱膨張体2の内部は熱伝導が遅く温度上昇が遅れるので固形状態のままである。そのため、外周部の熱膨張体2により、固形状態の内部の熱膨張体2が上方、内方に向かって押し出される。熱膨張体2の動きにより、熱膨張体2の上面、ピストン6の周囲のガム状流体4が加圧され、ピストン6を上方に押し出す。温度が上昇し、ピストン6を上方に押し出す場合でも、温度が下降し、ピストン6が下方へ戻る場合でも、熱膨張体2は、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体4を介してピストン6を押し出し、戻すので、ピストン6は円滑に移動する。
【0049】
図5のサーモエレメントの製造方法を説明する。まず、パラフィンを含む熱膨張体2をケース1の熱膨張体を収容する部分に適合する寸法で作成する。具体的には、熱膨張体2の外径は、ケース1の熱膨張体を収容する部分の内径より約0.5mm小さくし、熱膨張体2の高さはケース1の熱膨張体を収容する部分の深さより約1mm小さくする。熱膨張体2の中心軸に沿ってピストン6が入る孔をあける。具体的には、熱膨張体2の中心軸に沿って、ピストンが最下点にきた状態を想定し、ピストンの外径の約1.4倍(ピストンの外径より1mm程度大きい)の内径でピストンを収容できる穴を穿つ。こうして熱膨張体2のペレットを作成する。
【0050】
この熱膨張体2のペレットを、ケース1に挿入する。ペレットの中心軸に穿った穴に、ガム状流体4を充填する。保護板8と、シール部材20と、最も上の位置にした状態のピストン6とを、ガイド部材5に組付ける。ケース1にガイド部材5をセットし、ガイド部材5をケース1にカシメ一体化する。その後、ピストン6を最下点まで押し下げると、ピストン6は、熱膨張体2のペレットを押し広げると共に、充填されたガム状流体4を押し出す。ガム状流体4は、熱膨張体2のペレットの上面、流体溜り22を満たす。流体溜り22は押し出されるガム状流体4の溜まる部分であり、押し出されるガム状流体4が少ない場合(小径のピストンの場合)はなくても良い。サーモエレメントは、内圧が60kg/cm2程度以上に加圧した状態で使用するので、ケース1の内部にある空気は圧縮され微小体積になると共に、後工程中に殆どがシール部より外部に抜けるため、無視して問題ない。
【0051】
図6〜図8Cは、図5のサーモエレメントの製造方法の他の例であり、量産化に最適な製造方法である。図6では、外部がパラフィンから成る熱膨張体2、内部がガム状流体4である円柱を2重押し出し成型により押し出し、所定の長さ(ケースの挿入部の高さより少し短い)に切断して、熱膨張体2のペレットをつくる。
図7は、図6とは異なる方法であり、熱膨張体2を押し出し成型、又は加圧成型により中心が空洞の円筒状の熱膨張体2のペレットを作る。
図6の2重押し出し成型により成形した円柱状ペレットをケース1に挿入すると、図8Aの状態となる。
又は、ケース1に図7の熱膨張体2の円筒状ペレットを挿入し、円筒ペレットの内側の空洞にガム状流体4を注入し、図8Aの状態としても良い。
【0052】
図8Bは、熱膨張体2とガム状流体4のペレットを挿入しケース1にセットし、ピストン6を上方に引き上げた状態で、保護板8、シール部材20をガイド部材5に挿入したガイド部材5をケース1に組み付けた状態を示す。
図8Cは、ガイド部材5とケース1とをカシメ一体化した後、ピストン6をガム状流体4に挿入するように圧入し、熱膨張体2を押し広げ熱膨張体2がケースを満たした状態を示す。ガム状流体4は、熱膨張体2とピストン6の間で加圧され、熱膨張体2の上面、流体溜り22を満たす。ケース1の内圧が60kg/cm2程度以上に加圧した状態で使用するので、内部にある空気は圧縮され微小体積になると共に殆どは、後工程中にシール部より外部に抜けるので、無視して良い。
【0053】
図5のガム状流体4の形状と、図8Cのガム状流体4の形状を比較すると、図5では、ピストン6の下の部分はガム状流体4の薄い層で、その下は熱膨張体2となっているが、図8Cでは、ピストン6の下の部分がケース1の底までガム状流体4となっている。これは製造方法の違いによるものであり、何れも熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、ピストンは円滑に移動することができる。又ガム状流体4が熱膨張体2の下面に流入し層を形成しても支障ない。
図5では、流体溜り22は、ガイド部材5の下部と、ピストン6との間にあるが、ガイド部材5の下部とケース1との間に形成することもできる。図8Dは、ガイド部材5の下部にリング状の凸部を形成し、この凸部とケース1との間に流体溜り22を形成した例である。
【0054】
第4の態様により、漏れ難く安定性のあるガム状流体を、熱膨張体とピストンの間に介在させることにより、ピストンが円滑に動き、応答性が良く耐久性の良いサーモエレメントを得ることができる。
【0055】
(第5の態様)
本発明の第5の態様は、第4の態様の熱膨張体とピストンとの間に形成するガム状流体4の層として、第1の態様のガム状流体を使用したものである。即ち、熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体を介してピストンを軸方向に移動するようにする。このガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したもの である。
第5の態様により、ガム状流体は低い温度から流動性が良く、さらに漏れ難いので、応答性が良く耐久性の良いサーモエレメントを得ることができる。
【0056】
(第6の態様)
本発明の第6の態様は、第4の態様により熱膨張体とピストンとの間にガム状流体4の層を形成し、熱膨張体2には吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加した熱膨張体を使用したものである。即ち、熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体を介してピストンを軸方向に移動するようにする。熱膨張体のパラフィンを吸収する吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを、熱膨張体に混合練成する。その結果、熱膨張体のパラフィンは吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収されるので、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に至っても、熱膨張体が液体状態にならず、熱膨張体とガム状流体とが混合し難くなる。
熱膨張体とガム状流体とが混合し難くなり、安定した漏れ難い熱膨張体を得ることができる。
熱膨張体に、さらに熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を添加したものであれば熱膨張体が半流動体的となりより良い。
【0057】
(第7の態様)
本発明の第7の態様は、第5の態様と、第6の態様を組み合わせたものである、即ち、第4の態様により熱膨張体とピストンとの間にガム状流体4の層を形成してある。ガム状流体は、第1の態様のガム状流体であり、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。熱膨張体は、第6の態様の吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成したものである。
【0058】
(第8の態様)
図9は、本発明の第8の態様のサーモエレメントである。第8の態様のサーモエレメントは、ダイアフラムタイプのサーモエレメントのダイアフラムを無くし、熱膨張体の上に、第1の態様のガム状流体を充填したものである。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。
第8の態様は、ダイアフラムが無いので、サーモエレメントの形状の制限が少なく、安価に製造することができる。
熱膨張体とガム状流体との間にダイアフラムがなくても、ガム状流体のパラフィンは給油性のあるポリマーに吸収されるので、熱膨張体とガム状流体とは相容性がなく混合しにくい。
この場合、熱膨張体2が膨張した状態でも、ケース1の上部とガイド部材5とシール部23とをガム状流体4が覆うようにする。即ち、熱膨張体2とガム状流体4の境界24の位置が、図9のシール部23より下にくるようにする。こうすると、シール部23に熱膨張体2が接することがなく、熱膨張体2が液状体でも漏れることがない。
【0059】
(第9の態様)
第9の態様は、第8の態様のサーモエレメントに、熱膨張体2に吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加し、熱膨張体としたものである。即ち、ダイアフラムタイプのサーモエレメントのダイアフラムを無くし、熱膨張体の上に、第1の態様のガム状流体(液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したもの)を充填し、熱膨張体2に吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加したものである。
こうすると、熱膨張体とガム状流体とが更に混合し難くなり、一層耐久性の良いサーモエレメントとなる。
【0060】
図10、図11は、シール部材20を、ガイド部材5の上端に配置し、ガイド部材上部よりガイド部材とピストンの摺動部に水、塵等の侵入部を無くし、ガイド部材とピストンの固着を防止したものである。図10は、図8Cに近似する。図8Cのガム状流体4をシールするための、ガイド部材5とピストン6の間のシール部材20を、ガイド部材5の上端に配置したものである。
【0061】
図11は、肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの肉厚封止部材11の下側の薄い部分をダイアフラム3(ゴム)とし、その上の部分は、ガム状流体4としてある。ガイド部材5とピストン6の間には、シール部材20を設けてある。ガム状流体4としては、第1の態様のガム状流体を使用する。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。ガム状流体4をシールするため、シール部材20をガイド部材5の上端に配置してある。
【0062】
ガイド部材5とピストン6との間に、水、塵等が入りガイド部材にピストンが固着し動かなくなる場合があり、従来は、ガイド部材5の上端にゴムカバーを被せ、水ゴミの侵入を防止していた。
図10、11では、ガム状流体4のシール部材20をガイド部材の上端に配置し、ガイド部材5とピストン6との間にガム状流体4の層を作ることで、ガム状流体4がピストン6の潤滑剤として働くと共に、水ゴム等の侵入を防止することができる。その結果、ゴムカバーが不要となる。
ガム状流体で熱膨張体を覆うような形状とすることにより、熱膨張体の漏れを防止することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース
2 熱膨張体
3 ダイアフラム
4 ガム状流体
5 ガイド部材
6 ピストン
7 ラバーピストン
8 保護板
9 スリーブ
10 押さえ板
11 肉厚封止部材
20 シール部材
21 シール部材部
22 流体溜り
23 シール部
24 境界
25 押さえ板
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化によるパラフィンの膨張収縮を利用したサーモアクチュエータであるサーモエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度センサとしてパラフィン等の熱膨張体を用いたサーモエレメントが用いられている。サーモエレメントは、温度によるパラフィンの相変化による体積変化をピストンの軸線方向の直線運動に変換する。サーモエレメントは、図1に示すダイアフラムタイプ、図2に示すスリーブタイプ、図3に示す肉厚封止部材タイプ等がある。
図1に示すダイアフラムタイプのサーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1に、円筒形のガイド部材5が固定される。ケース1内に熱膨張体2が充填され、熱膨張体2の上端面は、ダイアフラム3により封止されている。ガイド部材5の基端部内の当接面5aと、ダイアフラム3の上側との間には変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体4が充填されている。ガイド部材5のガイド筒部内には、ガム状流体4の上に、ラバーピストン7、保護板8、ピストン6が設けられている。
【0003】
環境温度が上昇すると熱膨張体2が膨張し、ダイアフラム3が上方に膨出し、ダイアフラム3の上方に配置されたガム状流体4を押し上げる。ガム状流体4は変形しガイド筒部内に進入して、ラバーピストン7、保護板8を介して、ピストン6を上方へ押し上げる。温度が下降すると熱膨張体2が収縮し、ピストン6に印加された負荷(図示せず)によりピストン6が押し下げられる。こうして、温度変化によりピストン6がガイド部材5から上下方へ出入する。
本明細書においては、上とは図面の上方向、下とは図面の下方向を言うものとする。
【0004】
図2に示すスリーブタイプのサーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1に熱膨張体2が充填され、熱膨張体2の上端部はスリーブ9により密封されている。スリーブ9の中央部にピストン6を挿入するためのピストン挿入孔が形成されている。スリーブ9の上側は、押さえ板10により、ケース1に固定される。ケース1の上端部には、円筒形のガイド部材5が設けられ、ガイド部材5の基端部は、ケース1の上端部に固定される。スリーブ9のピストン挿入孔内から、ガイド部材5を貫通してピストン6が設けられている。
環境温度が上昇すると熱膨張体2が膨張し、熱膨張体2がスリーブ9を押し潰し、スリーブ9に挿入されているピストン6を上方へ押し出す。温度が下降すると熱膨張体2が収縮し、ピストン6に印加された負荷(図示せず)により、ピストン6は下方へ押し戻される。こうして、温度変化によりピストン6がガイド部材5の上下方向に出入する。
【0005】
図3は、肉厚封止部材11を使用した肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの縦断面図である。サーモエレメントは、底のある円筒形状のケース1と、ケース1の一端部に係合する円筒形のガイド部材5と、ガイド部材の内側に摺動自在に保持されたピストン6と、ケース1に熱膨張体2を封入し、ピストン6を出入りさせるためガイド部材5と熱膨張体2との間に配置された肉厚封止部材11とを備える。
肉厚封止部材11は、ゴム状弾性体で形成され、中央部にピストン6の一端部を支持するピストン挿入孔が形成され、温度変化により熱膨張体2が膨張すると、肉厚封止部材20が変形して、ピストン6を押し上げるようになっている。
【0006】
しかし、ダイアフラムタイプのサーモエレメントは構造が複雑であり、非圧縮性流動体から成るガム状流体が漏洩しやすい。スリーブタイプのサーモエレメントは、温度の上昇下降におけるヒストリシスが大きい。肉厚封止部材タイプのサーモエレメントは、肉厚封止部材の製造が難しい。各々のサーモエレメントは、それぞれ欠点があり、これらの欠点を改善すべくいろいろな提案がなされている。
【0007】
特許文献1は、スリーブタイプの改良として、スリーブとピストンの間に密閉室を形成し、ここに非圧縮性流動体を充填して、スリーブが非圧縮性流動体を介してピストンを押し上げるようにした構造を開示する。
特許文献2は、ダイアフラムタイプの改良としてダイアフラムタイプの被圧縮性流動体から成るガム状流体内にピストンを挿入し、ガイド部材とピストンの間をパッキングにより密封して、ラバーピストン、保護板を無くした構造を開示する。特許文献1、2は、何れも非圧縮性流動体から成るガム状流体の漏洩の問題が残り、また構造が複雑になる。
【0008】
特許文献3は、被圧縮性流動体から成るガム状流体の改良として、合成生ゴムを細かく破砕し、その破砕片をグリス・オイル等の潤滑剤と混和して、半流動体に練成し、ガム状流体とした流動体を開示する。しかし、この流動体は、ゴム破砕片のブロッキング等の現象を起こしロック状態になる危険がある。
【0009】
図4は、スリーブレスタイプのサーモエレメントの縦断面図である。図2のスリーブタイプのサーモエレメントのスリーブ9をなくし、ケース1とガイド部材5の間にシール部材20を設け、ガイド部材5とピストン6の間にシール部材20を設けてある。
特許文献4は、スリーブレスタイプのサーモエレメントンの改良として、ケース内に熱膨張体を封入するシール部材にリップ部を設けることにより、ピストンが熱膨張体に直接接し、体積変化に伴い熱膨張体がピストンを直接押し上げる構造を開示する。特許文献4は、熱膨張体としてパラフィンの固体から液体への相変化の膨張を利用する場合、熱膨張体の状態によりピストンを押し上げ、下げる力が大きく変化することから、作動が不安定になるおそれがある。
【0010】
特許文献5は、熱膨張体であるパラフィンをカーボンブラックの粒子に吸収させて粉末状にし、パラフィンを漏れ難くすることにより、ピストンを熱膨張体内に直接挿入し、熱膨張体の体積変化に伴い膨張体がピストンを直接押し上げる構造を開示する。特許文献5のカーボンブラックの粒子に吸収されたパラフィンは粉末状であり、シール部材でシールされているが、特許文献4と同様に作動が不安定になる懸念がある。
そのため、構造が単純で、安定して作動し、耐久性の良いサーモエレメントが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実公昭58−16003号
【特許文献2】特許第3225386号
【特許文献3】実公平6−43591号
【特許文献4】特許第4293506号
【特許文献5】特開平11−293235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、サーモエレメントのパラフィンから成る熱膨張体の密封性を改良し、熱膨張体が漏れにくくすることである。
本発明の他の目的は、パラフィンから成る熱膨張体の体積膨張を直線運動に滑らかに変換し、応答性の良いサーモエレメントを提供することである。
本発明の他の目的は、上記二つの改良を組み合わせ、構造が単純で、応答性が良く、作動が安定し、耐久性の良いサーモエレメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1(第4の態様、図5)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備え、前記熱膨張体の膨張収縮により前記ピストンを軸方向に移動するサーモエレメントであって、
前記熱膨張体と前記ピストンの下部との間に、前記熱膨張体と前記ピストンとに直接接する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層を備えることを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンが円滑に軸方向に移動することができる。
【0014】
請求項2(第5の態様)の発明は、請求項1に記載のサーモエレメントであって、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであるサーモエレメントである。
ガム状流体の流動性が良く、且つ漏れにくくなる。
【0015】
請求項3(第6、第7の態様)の発明は、請求項1又は2に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメントである。
熱膨張体のパラフィンは吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収されるので、液状体とならず漏れにくくなる。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体の上方で、前記ガイド部材の下部と前記ピストンとの間、又は前記ガイド部材の下部と前記ケースとの間に流体溜りが形成され、前記ガム状流体は前記流体溜りを満たすサーモエレメントである。
ピストンにより押し出されるガム状流体は、流体溜りに溜まることが出来る。
【0017】
請求項5(第1の態様、ガム状流体)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記ケース内に前記熱膨張体を密封する弾性密封部材と、前記熱膨張体の膨張収縮で前記弾性密封部材が変形することにより軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、前記弾性密封部材と前記ピストンとの間に介在する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであることを特徴とするサーモエレメントである。
ガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性が良く、吸油性のあるポリマーに吸収されるので漏れにくい。
【0018】
請求項6(第2の態様 熱膨張体)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備えるサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンを混合練成し、前記熱膨張体が、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有するようにしたことを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を有するので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンを滑らかに移動させることが出来る。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体のパラフィンは、炭素数が18〜36であり、炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンは、炭素数が13〜21であるサーモエレメントである。
【0020】
請求項8(図4、スリーブレス)の発明は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備え、スリーブがなく、前記ピストンの下部が前記熱膨張体内に直接挿入され、前記熱膨張体の膨張収縮で前記ピストンを軸方向に移動するようにしたサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンと、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成し、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有することを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を有するので、スリーブがなくても、ピストンに無理な力がかからない。
【0021】
請求項9(第8の態様、図9、ダイアフラムレス)は、底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガイド部材の前記貫通孔の下部は下に向かってテーパ状に広がり、前記テーパ状の部分の内側で前記熱膨張体と前記ピストンの下面との間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体を備え、前記熱膨張体と前記ガム状流体とはダイアフラムを介さずに直接接し、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成して成り、前記熱膨張体の膨張収縮により、前記ガム状流体を介して前記ピストンを移動させることを特徴とするサーモエレメントである。
熱膨張体とガム状流体との間にダイアフラムがなくても、ガム状流体のパラフィンは給油性のあるポリマーに吸収されるので、熱膨張体とガム状流体とは相容性がなく混合しにくい。
【0022】
請求項10(第9の態様)は、請求項9に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメントである。
これにより、熱膨張体とガム状流体とは一層混合しにくくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、サーモエレメントのパラフィンから成る熱膨張体の密封性を改良し、熱膨張体が漏れにくいサーモエレメントを提供することができる。
また、本発明によれば、パラフィンから成る熱膨張体の体積膨張を直線運動に滑らかに変換し、応答性の良いサーモエレメントを提供することができる。
また、本発明によれば、上記二つの改良を組み合わせ、構造が単純で、応答性が良く、作動が安定し、耐久性の良いサーモエレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ダイアフラムタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図2】スリーブタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図3】肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図4】スリーブレスタイプのサーモエレメントの縦断面図。
【図5】第4の態様の実施形態のサーモエレメントの縦断面図。
【図6】第4の態様のサーモエレメントに使用するワックス成型体の縦断面図。
【図7】第4の態様のサーモエレメントに使用する他のワックス成型体の縦断面図。
【図8A】ケースにワックス成型体を挿入し、ガム状流体を注入した状態の縦断面図。
【図8B】ケースにガイド部材等を組み入れた状態の縦断面図。
【図8C】ケースにガイド部材をカシメ、ピストンを押しこんだ状態の縦断面図。
【図8D】ガイド部材の下部とケースとの間に流体溜りを形成した例の縦断面図。
【図9】第8の態様のサーモエレメントの縦断面図。
【図10】図5に示すサーモエレメントのガム状流体のシール部材をガイド部材の上部に設けた縦断面図。
【図11】肉厚封止部材タイプのサーモエレメントのシール部材をガイド部材の上部に設けた縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の態様)
本発明の第1の態様は、パラフィンを含む膨張体を密封する弾性密封部材と、膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンとの間に、非圧縮性流動体であるガム状流体を介在させ、このガム状流体を漏れ難くする。
【0026】
第1の態様のガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン(以下、「液状パラフィン」と言う)に、吸油性のあるポリマー(以下、「吸油性ポリマー」と言う)と、充填材とを融解混合して流動体とし、非圧縮性で流動性のあるガム状流体としている。
【0027】
サーモエレメントの主な用途である自動車用サーモスタットの使用温度範囲は−20℃から150℃と広範囲であるが、パラフィンを含む熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)は大凡70℃〜90℃の範囲である。水道関連の自動混合水栓の使用温度範囲は0℃から100℃であり、熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)は大凡30℃〜50℃の範囲である。
【0028】
したがって、サーモエレメントのガム状流体は、広い温度範囲で耐熱性が必要であるが、使用するパラフィンを含む熱膨張体の膨張収縮を利用する温度範囲(相変化温度)より5〜10℃低い温度より高い温度で非圧縮性の半流動状態であれば良く、それより低い温度では固形であってもよい。
【0029】
したがって、ガム状流体に使用する液状パラフィンは、熱膨張体の膨張収縮する温度範囲(相変化する温度範囲)より5℃〜10℃以上低い温度から液状又は流動性があるパラフィンであれば良く、広範囲の温度で流動性のある流動パラフィン、又は前述の温度範囲(相変化温度)で液状である低炭素数のパラフィン、例えば炭素数13のトリデカン(融点−5℃)から炭素数21のヘンイコサン(融点40.5℃)のパラフィンでも良い。又は、これらの低炭素数のパラフィンを混合したものでもよく、不純物を含有しても良い。
【0030】
ガム状流体に添加する吸油性ポリマーは、吸油性を高めた吸油性ポリマーが良いが、吸油性のある熱可塑性エラストマーであっても良い。吸油性ポリマーの例として熱可塑性ゴムブロックコポリマー、親油性高分子ゲルがある。吸油性のある熱可塑性エラストマーは、スチレン系、オレフィン形、ポリウレタン系、塩ビ系がある。特にスチレン系熱可塑性エラストマーは、吸油性が良いので適する。
【0031】
又、ガム状流体に添加する充填材は、カーボン類、フッ素粉末、二硫化モリブデン等潤滑性が良いものがよく、又パラフィンとなじみが良いとさらに適する。カーボン類には、黒鉛、ブラックカーボン等がある。黒鉛は、パラフィンと親和性があり潤滑性があるので適している。数種類の充填材を充填して、それぞれの充填材の良い面を組み合わせることもできる。例えば、吸油性のあるカーボンを充填すると、吸油性ポリマーからパラフィンがブリードした際にカーボンがパラフィンを吸収するので、吸油性ポリマーの比率を少なく出来る等の利点がある。
第1の態様のガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性があり、給油性ポリマーに吸収されているので漏れにくい。
【0032】
第1の態様のガム状流体の作成方法は、液状パラフィンと、吸油性ポリマーと、充填材とを混合し、液状パラフィンが吸油性ポリマーに吸収されたら、ニーダー等練作用のある混合機で練成する。昇温すると吸油性ポリマーが液状パラフィンを吸収するのを促進できるので昇温して混合練成する。ガム状流体の硬さは、液状パラフィンと、給油性ポリマーと、充填材との比率を変えることにより調整することができる。液状パラフィンに対し吸油性ポリマーを少なくすると低温時にパラフィンがブリードするので、液状パラフィンと吸油性ポリマーの比率はパラフィンがブリードしない比率に固定して、充填材の比率を変えて調整するのが良い。
【0033】
サーモエレメントの用途によりガム状流体の適する硬さは変わる。そのため、液状パラフィンと、吸油性ポリマーと、充填材との比率は、用途により変わる。主な用途における比率は、液状パラフィン100部に対し、吸油性ポリマー3〜30部、充填材100〜300部である。ガム状流体に混合する必要のある吸油性ポリマーの比率は、使用する吸油性ポリマーの吸油性能により変わる。
又液状パラフィンとして、低炭素数のパラフィンを使用する場合は、サーモエレメントの膨張体のパラフィンに適合する低炭素数のパラフィンを適宜選択し、サーモエレメントの用途に最適なガム状流体とすることができる。
【0034】
第1の態様の実施例では、流動パラフィン100部に対しスチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック)7部を混合し、80℃に昇温して混合練成した後に、潤滑性の良い黒鉛150部、吸油性のある黒鉛50部を混合しさらに混合練成し、適度の硬さで潤滑性のあるガム状流体を得ることができた。流動パラフィンに代えて、テトラデカン(炭素数14)が主成分のパラフィンを用いても、同様なガム状流体を得ることができた。
【0035】
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体を、熱膨張体の熱膨張を利用する温度範囲(相変化温度範囲)より低い温度から柔軟性を保持するようにし、熱膨張体の膨張収縮を直線運動に滑らかに変換することである。
【0036】
パラフィンは、相変化温度より低い温度では固形状態となる。サーモエレメントが、外側から急速に加熱されると、熱膨張体の内部への熱伝導が遅れ、ケースに密封された熱膨張体は、温度が上昇して外周部が相変化し液体になっても、内部は固形状態のままである。外周部の熱膨張体が相変化して膨張し、内部の固形状態の熱膨張体を押す。このとき、ダイアフラムタイプでは、固体状態の熱膨張体がダイアフラムを押し上げる。スリーブタイプでは、固体状態の熱膨張体がスリーブを押しつぶし、ピストンを押し出す。スリーブレスタイプでは、固体状態の熱膨張体がピストンを直接押し出す。そのため、ダイアフラムタイプではダイアフラムに無理な力が加わる。スリーブタイプ、スリーブレスタイプではピストンを押し出す力が大きくなり、ケース内圧力が高くなる。
【0037】
第2の態様では、温度変化により膨張収縮する熱膨張体のパラフィン(元のパラフィン)に、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を混合練成して、熱膨張体が、相変化する温度範囲より低い温度でも柔軟性を保持するようにする。
【0038】
その結果、熱膨張体の外周部の温度が上昇して外周部が相変化する時でも、熱膨張体の内部が柔軟なので、熱膨張体の内部に無理なく力が伝達され、ピストンを容易に押し出すことができ、より一層応答性が良くなる。
【0039】
熱膨張体に添加する液状パラフィンは、用途に合わせ、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より5℃〜10℃以上低い温度から液状又は流動性があるパラフィンを適宜選択すればよい。
液状パラフィンは、広い温度範囲で流動性のある流動パラフィン、又は低い温度で液状である低炭素数のパラフィン、例えば炭素数13のトリデカン(融点−5℃)から炭素数21のヘンイコサン(融点40.5℃)までのパラフィン、又はこれらのパラフィンを混合したパラフィンから選択するのが良い。
【0040】
熱膨張体のパラフィンとして、自動車用サーモスタットのサーモエレメトの相変化温度が70〜90℃のパラフィン(炭素数26〜36)を使用する場合、添加する液状パラフィンは、50℃以下で液状又は流動性があるパラフィンであればよい。流動パラフィン、炭素数13〜21のパラフィンはこの条件に適合する。
又、自動混合水栓のサーモエレメントの相変化温度が30〜50℃のパラフィン(炭素数18〜21)を使用する場合、添加する液状パラフィンは、10℃以下で液状又は流動性があるパラフィンであればよい。流動パラフィン、炭素数13〜15のパラフィンはこの条件に適合する。
【0041】
第2の態様の熱膨張体の作成方法は、熱膨張体のパラフィンと、選択した液状パラフィンとをパラフィン100部に対し液状パラフィン10〜40部の比率で混合し、液状体になる温度まで昇温して良く混合する。熱膨張体の相変化温度より低い温度でも柔軟性のある熱膨張体が得られる。炭素数の少ない液状パラフィンを混合する場合、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に近い相変化温度の液状パラフィンを混合すると、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に影響する恐れがあるので、熱膨張体のパラフィンの相変化温度から離れた低い相変化温度を有する液状パラフィンを混合するのが良い。
【0042】
さらに、吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを熱膨張体のパラフィン100部に対し、3〜30部混合し、昇温し混合練成すると、熱膨張体のパラフィン、液状パラフィンが、吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収され、熱膨張体のパラフィンの相変化温度になっても液状体でなくなり、安定した漏れ難い熱膨張体となる。吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンの混合比率は、使用する吸油性ポリマー、吸油性のあるカーボンの吸油性能に大きく依存する。
【0043】
第2の態様の実施例では、熱膨張体のパラフィン(相変化温度70〜90℃)100部に、流動パラフィン20部、スチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック)10部を混合し、95℃に昇温混合練成した後、熱伝導を良くする為に熱伝導の良いカーボンブラック100部と、吸油性のある黒鉛10を昇温混合練成した。その結果、常温で柔軟性のある熱膨張体が得られた。
【0044】
(第3の態様)
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様と第2の態様との組み合わせである。ガム状流体は、第1の態様のガム状流体を使用する。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合して流動体化したものである。
熱膨張体は、第2の態様の熱膨張体である。即ち、熱膨張体は、熱膨張体のパラフィンに、熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を混合練成し、相変化温度より低温で柔軟性のある熱膨張体としたものである。
第3の態様により、ガム状流体は、非圧縮性で熱膨張体の相変化温度範囲で流動性が良く、漏れにくく、熱膨張体は、相変化温度範囲より低い温度から柔軟性を保持するので、温度変化に対し応答性が良く、作動が安定し、耐久性のあるサーモエレメントを得ることができる。
【0045】
(第4の態様)
本発明の第4の態様は、ピストンの下端をスリーブを介して熱膨張体内に挿入して、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンを軸方向に移動するようにしたスリーブタイプのサーモエレメントについて、熱膨張体とピストンとの間にスリーブの代わりにガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体の層を介してピストンを軸方向に移動するようにしたものである。熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、熱膨張体の膨張収縮により、ピストンが円滑に軸方向に移動することができる。
【0046】
図5は、本発明の第4の態様のサーモエレメントの実施形態の縦断面図である。サーモエレメントは、底のある円筒形のケース1と、ケース1の上部に係合するガイド部材5とを備える。ケース1の上部にガイド部材5をカシメ、気密状態に一体化されている。ケース1には、熱膨張体2が充填される。ピストン6が、ガイド部材5の中心軸に沿って、上方からガム状流体4を介して熱膨張体2に挿入され、摺動自在に配置されている。ガイド部材5の内側に軸に沿ってシール部材部21を設け、シール部材部21に保護板8、シール部材20を挿入し、ガイド部材5とピストン6の間を気密状態としている。
【0047】
ガイド部材5のシール部材部21の下側に軸に位置するピストン6の外周に沿って流体溜り22が設けられている。ピストン6が熱膨張体2に挿入された状態で、ガイド部材5の流体溜まり22、ピストン6の周囲、熱膨張体2の上部にガム状流体4が充填されている。
流体溜り22は、ガイド部材5の下部とケース1との間に形成することもできる。
ガイド部材5の下端面の外周部に沿ってシール部23が設けられ、ここにもシール部材20が入れられる。
【0048】
図5のサーモエレメントが外部から急速に加熱されると、熱膨張体2の外周部が急速に温度上昇して膨張し、相変化温度に達するが、熱膨張体2の内部は熱伝導が遅く温度上昇が遅れるので固形状態のままである。そのため、外周部の熱膨張体2により、固形状態の内部の熱膨張体2が上方、内方に向かって押し出される。熱膨張体2の動きにより、熱膨張体2の上面、ピストン6の周囲のガム状流体4が加圧され、ピストン6を上方に押し出す。温度が上昇し、ピストン6を上方に押し出す場合でも、温度が下降し、ピストン6が下方へ戻る場合でも、熱膨張体2は、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体4を介してピストン6を押し出し、戻すので、ピストン6は円滑に移動する。
【0049】
図5のサーモエレメントの製造方法を説明する。まず、パラフィンを含む熱膨張体2をケース1の熱膨張体を収容する部分に適合する寸法で作成する。具体的には、熱膨張体2の外径は、ケース1の熱膨張体を収容する部分の内径より約0.5mm小さくし、熱膨張体2の高さはケース1の熱膨張体を収容する部分の深さより約1mm小さくする。熱膨張体2の中心軸に沿ってピストン6が入る孔をあける。具体的には、熱膨張体2の中心軸に沿って、ピストンが最下点にきた状態を想定し、ピストンの外径の約1.4倍(ピストンの外径より1mm程度大きい)の内径でピストンを収容できる穴を穿つ。こうして熱膨張体2のペレットを作成する。
【0050】
この熱膨張体2のペレットを、ケース1に挿入する。ペレットの中心軸に穿った穴に、ガム状流体4を充填する。保護板8と、シール部材20と、最も上の位置にした状態のピストン6とを、ガイド部材5に組付ける。ケース1にガイド部材5をセットし、ガイド部材5をケース1にカシメ一体化する。その後、ピストン6を最下点まで押し下げると、ピストン6は、熱膨張体2のペレットを押し広げると共に、充填されたガム状流体4を押し出す。ガム状流体4は、熱膨張体2のペレットの上面、流体溜り22を満たす。流体溜り22は押し出されるガム状流体4の溜まる部分であり、押し出されるガム状流体4が少ない場合(小径のピストンの場合)はなくても良い。サーモエレメントは、内圧が60kg/cm2程度以上に加圧した状態で使用するので、ケース1の内部にある空気は圧縮され微小体積になると共に、後工程中に殆どがシール部より外部に抜けるため、無視して問題ない。
【0051】
図6〜図8Cは、図5のサーモエレメントの製造方法の他の例であり、量産化に最適な製造方法である。図6では、外部がパラフィンから成る熱膨張体2、内部がガム状流体4である円柱を2重押し出し成型により押し出し、所定の長さ(ケースの挿入部の高さより少し短い)に切断して、熱膨張体2のペレットをつくる。
図7は、図6とは異なる方法であり、熱膨張体2を押し出し成型、又は加圧成型により中心が空洞の円筒状の熱膨張体2のペレットを作る。
図6の2重押し出し成型により成形した円柱状ペレットをケース1に挿入すると、図8Aの状態となる。
又は、ケース1に図7の熱膨張体2の円筒状ペレットを挿入し、円筒ペレットの内側の空洞にガム状流体4を注入し、図8Aの状態としても良い。
【0052】
図8Bは、熱膨張体2とガム状流体4のペレットを挿入しケース1にセットし、ピストン6を上方に引き上げた状態で、保護板8、シール部材20をガイド部材5に挿入したガイド部材5をケース1に組み付けた状態を示す。
図8Cは、ガイド部材5とケース1とをカシメ一体化した後、ピストン6をガム状流体4に挿入するように圧入し、熱膨張体2を押し広げ熱膨張体2がケースを満たした状態を示す。ガム状流体4は、熱膨張体2とピストン6の間で加圧され、熱膨張体2の上面、流体溜り22を満たす。ケース1の内圧が60kg/cm2程度以上に加圧した状態で使用するので、内部にある空気は圧縮され微小体積になると共に殆どは、後工程中にシール部より外部に抜けるので、無視して良い。
【0053】
図5のガム状流体4の形状と、図8Cのガム状流体4の形状を比較すると、図5では、ピストン6の下の部分はガム状流体4の薄い層で、その下は熱膨張体2となっているが、図8Cでは、ピストン6の下の部分がケース1の底までガム状流体4となっている。これは製造方法の違いによるものであり、何れも熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層があるので、ピストンは円滑に移動することができる。又ガム状流体4が熱膨張体2の下面に流入し層を形成しても支障ない。
図5では、流体溜り22は、ガイド部材5の下部と、ピストン6との間にあるが、ガイド部材5の下部とケース1との間に形成することもできる。図8Dは、ガイド部材5の下部にリング状の凸部を形成し、この凸部とケース1との間に流体溜り22を形成した例である。
【0054】
第4の態様により、漏れ難く安定性のあるガム状流体を、熱膨張体とピストンの間に介在させることにより、ピストンが円滑に動き、応答性が良く耐久性の良いサーモエレメントを得ることができる。
【0055】
(第5の態様)
本発明の第5の態様は、第4の態様の熱膨張体とピストンとの間に形成するガム状流体4の層として、第1の態様のガム状流体を使用したものである。即ち、熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体を介してピストンを軸方向に移動するようにする。このガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したもの である。
第5の態様により、ガム状流体は低い温度から流動性が良く、さらに漏れ難いので、応答性が良く耐久性の良いサーモエレメントを得ることができる。
【0056】
(第6の態様)
本発明の第6の態様は、第4の態様により熱膨張体とピストンとの間にガム状流体4の層を形成し、熱膨張体2には吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加した熱膨張体を使用したものである。即ち、熱膨張体とピストンとの間にガム状流体の層を形成し、熱膨張体の膨張収縮によりガム状流体を介してピストンを軸方向に移動するようにする。熱膨張体のパラフィンを吸収する吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを、熱膨張体に混合練成する。その結果、熱膨張体のパラフィンは吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンに吸収されるので、熱膨張体のパラフィンの相変化温度に至っても、熱膨張体が液体状態にならず、熱膨張体とガム状流体とが混合し難くなる。
熱膨張体とガム状流体とが混合し難くなり、安定した漏れ難い熱膨張体を得ることができる。
熱膨張体に、さらに熱膨張体のパラフィンの相変化温度より低い温度で液状又は流動体である液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)を添加したものであれば熱膨張体が半流動体的となりより良い。
【0057】
(第7の態様)
本発明の第7の態様は、第5の態様と、第6の態様を組み合わせたものである、即ち、第4の態様により熱膨張体とピストンとの間にガム状流体4の層を形成してある。ガム状流体は、第1の態様のガム状流体であり、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。熱膨張体は、第6の態様の吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成したものである。
【0058】
(第8の態様)
図9は、本発明の第8の態様のサーモエレメントである。第8の態様のサーモエレメントは、ダイアフラムタイプのサーモエレメントのダイアフラムを無くし、熱膨張体の上に、第1の態様のガム状流体を充填したものである。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。
第8の態様は、ダイアフラムが無いので、サーモエレメントの形状の制限が少なく、安価に製造することができる。
熱膨張体とガム状流体との間にダイアフラムがなくても、ガム状流体のパラフィンは給油性のあるポリマーに吸収されるので、熱膨張体とガム状流体とは相容性がなく混合しにくい。
この場合、熱膨張体2が膨張した状態でも、ケース1の上部とガイド部材5とシール部23とをガム状流体4が覆うようにする。即ち、熱膨張体2とガム状流体4の境界24の位置が、図9のシール部23より下にくるようにする。こうすると、シール部23に熱膨張体2が接することがなく、熱膨張体2が液状体でも漏れることがない。
【0059】
(第9の態様)
第9の態様は、第8の態様のサーモエレメントに、熱膨張体2に吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加し、熱膨張体としたものである。即ち、ダイアフラムタイプのサーモエレメントのダイアフラムを無くし、熱膨張体の上に、第1の態様のガム状流体(液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したもの)を充填し、熱膨張体2に吸油性ポリマー又は吸油性のあるカーボンを添加したものである。
こうすると、熱膨張体とガム状流体とが更に混合し難くなり、一層耐久性の良いサーモエレメントとなる。
【0060】
図10、図11は、シール部材20を、ガイド部材5の上端に配置し、ガイド部材上部よりガイド部材とピストンの摺動部に水、塵等の侵入部を無くし、ガイド部材とピストンの固着を防止したものである。図10は、図8Cに近似する。図8Cのガム状流体4をシールするための、ガイド部材5とピストン6の間のシール部材20を、ガイド部材5の上端に配置したものである。
【0061】
図11は、肉厚封止部材タイプのサーモエレメントの肉厚封止部材11の下側の薄い部分をダイアフラム3(ゴム)とし、その上の部分は、ガム状流体4としてある。ガイド部材5とピストン6の間には、シール部材20を設けてある。ガム状流体4としては、第1の態様のガム状流体を使用する。即ち、ガム状流体は、液状パラフィン(流動パラフィン又は炭素数の少ないパラフィン)に、吸油性ポリマーと、充填材とを融解混合したものである。ガム状流体4をシールするため、シール部材20をガイド部材5の上端に配置してある。
【0062】
ガイド部材5とピストン6との間に、水、塵等が入りガイド部材にピストンが固着し動かなくなる場合があり、従来は、ガイド部材5の上端にゴムカバーを被せ、水ゴミの侵入を防止していた。
図10、11では、ガム状流体4のシール部材20をガイド部材の上端に配置し、ガイド部材5とピストン6との間にガム状流体4の層を作ることで、ガム状流体4がピストン6の潤滑剤として働くと共に、水ゴム等の侵入を防止することができる。その結果、ゴムカバーが不要となる。
ガム状流体で熱膨張体を覆うような形状とすることにより、熱膨張体の漏れを防止することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース
2 熱膨張体
3 ダイアフラム
4 ガム状流体
5 ガイド部材
6 ピストン
7 ラバーピストン
8 保護板
9 スリーブ
10 押さえ板
11 肉厚封止部材
20 シール部材
21 シール部材部
22 流体溜り
23 シール部
24 境界
25 押さえ板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備え、前記熱膨張体の膨張収縮により前記ピストンを軸方向に移動するサーモエレメントであって、
前記熱膨張体と前記ピストンの下部との間に、前記熱膨張体と前記ピストンとに直接接する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層を備えることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項2】
請求項1に記載のサーモエレメントであって、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであるサーモエレメント。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメント。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体の上方で、前記ガイド部材の下部と前記ピストンとの間、又は前記ガイド部材の下部と前記ケースとの間に流体溜りが形成され、前記ガム状流体は前記流体溜りを満たすサーモエレメント。
【請求項5】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記ケース内に前記熱膨張体を密封する弾性密封部材と、前記熱膨張体の膨張収縮で前記弾性密封部材が変形することにより軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、前記弾性密封部材と前記ピストンとの間に介在する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項6】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備えるサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンを混合練成し、前記熱膨張体が、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有するようにしたことを特徴とするサーモエレメント。
【請求項7】
請求項6に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体のパラフィンは、炭素数が18〜36であり、炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンは、炭素数が13〜21であるサーモエレメント。
【請求項8】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備え、前記熱膨張体と前記ピストンとの間にスリーブがなく、前記ピストンの下部が前記熱膨張体内に直接挿入され、前記熱膨張体の膨張収縮で前記ピストンを軸方向に移動するようにしたサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンと、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成し、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有することを特徴とするサーモエレメント。
【請求項9】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガイド部材の前記貫通孔の下部は下に向かってテーパ状に広がり、前記テーパ状の部分の内側で前記熱膨張体と前記ピストンの下面との間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体を備え、前記熱膨張体と前記ガム状流体とはダイアフラムを介さずに直接接し、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成して成り、前記熱膨張体の膨張収縮により、前記ガム状流体を介して前記ピストンを移動させることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項10】
請求項9に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメント。
【請求項1】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備え、前記熱膨張体の膨張収縮により前記ピストンを軸方向に移動するサーモエレメントであって、
前記熱膨張体と前記ピストンの下部との間に、前記熱膨張体と前記ピストンとに直接接する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体の層を備えることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項2】
請求項1に記載のサーモエレメントであって、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであるサーモエレメント。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメント。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体の上方で、前記ガイド部材の下部と前記ピストンとの間、又は前記ガイド部材の下部と前記ケースとの間に流体溜りが形成され、前記ガム状流体は前記流体溜りを満たすサーモエレメント。
【請求項5】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記ケース内に前記熱膨張体を密封する弾性密封部材と、前記熱膨張体の膨張収縮で前記弾性密封部材が変形することにより軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、前記弾性密封部材と前記ピストンとの間に介在する変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成したものであることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項6】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備えるサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンを混合練成し、前記熱膨張体が、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有するようにしたことを特徴とするサーモエレメント。
【請求項7】
請求項6に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体のパラフィンは、炭素数が18〜36であり、炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンは、炭素数が13〜21であるサーモエレメント。
【請求項8】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材とを備え、前記熱膨張体と前記ピストンとの間にスリーブがなく、前記ピストンの下部が前記熱膨張体内に直接挿入され、前記熱膨張体の膨張収縮で前記ピストンを軸方向に移動するようにしたサーモエレメントであって、
前記熱膨張体のパラフィンに、流動パラフィン又は炭素数が前記熱膨張体のパラフィンの炭素数より少ないパラフィンと、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを混合練成し、前記熱膨張体のパラフィンが相変化する温度範囲より低い温度から柔軟性を有することを特徴とするサーモエレメント。
【請求項9】
底のある円筒形のケースと、前記ケースに充填され温度変化により膨張収縮するパラフィンを含む熱膨張体と、前記熱膨張体の膨張収縮により軸方向に移動するピストンと、前記ケースの上部に固定され前記ピストンを摺動自在に保持する貫通孔を有するガイド部材と、を備えるサーモエレメントであって、
前記ガイド部材の前記貫通孔の下部は下に向かってテーパ状に広がり、前記テーパ状の部分の内側で前記熱膨張体と前記ピストンの下面との間に、変形自在な非圧縮性流動体から成るガム状流体を備え、前記熱膨張体と前記ガム状流体とはダイアフラムを介さずに直接接し、前記ガム状流体は、流動パラフィン又は炭素数が13〜21のパラフィンと、吸油性のあるポリマーと、充填材と、を混合練成して成り、前記熱膨張体の膨張収縮により、前記ガム状流体を介して前記ピストンを移動させることを特徴とするサーモエレメント。
【請求項10】
請求項9に記載のサーモエレメントであって、前記熱膨張体は、吸油性のあるポリマー又は吸油性のあるカーボンを含むサーモエレメント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−104556(P2013−104556A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52864(P2012−52864)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2011−247089(P2011−247089)の分割
【原出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(509139612)OSK株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2011−247089(P2011−247089)の分割
【原出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(509139612)OSK株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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