説明

シアナト基含有環状ホスフィネート化合物およびその製造方法

【課題】樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくい環状ホスフィネート化合物を実現する。
【解決手段】下記の式で表されるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホスフィネート化合物およびその製造方法、特に、シアナト基含有環状ホスフィネート化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用および民生用の機器並びに電気製品などの分野において、合成樹脂は、その加工性、耐薬品性、耐候性、電気的特性および機械的強度等の点で他の材料に比べて優位性を有するため多用されており、また、使用量が増加している。しかし、合成樹脂は、燃焼し易い性質を有するため、難燃性の付与が求められており、近年その要求性能が次第に高まっている。このため、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に使用されている樹脂組成物、例えばエポキシ樹脂組成物は、難燃化するために、ハロゲン含有化合物やハロゲン含有化合物と酸化アンチモンなどのアンチモン化合物との混合物が一般的な難燃剤として添加されている。ところが、このような難燃剤を配合した樹脂組成物は、燃焼時や成形時等において、環境汚染のおそれがあるハロゲン系ガスを発生する可能性がある。また、ハロゲン系ガスは、電子部品の電気的特性や機械的特性を阻害する可能性がある。そこで、最近では、合成樹脂用の難燃剤として、燃焼時や成形時等においてハロゲン系ガスが発生しにくい非ハロゲン系のもの、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物系難燃剤やリン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン酸アミド系、ポリリン酸アンモニウム系およびホスファゼン系などのリン系難燃剤が多用されるようになっている。
【0003】
このうち、金属水和物系難燃剤は、脱水熱分解の吸熱反応とそれに伴う水の放出が合成樹脂の熱分解や燃焼開始温度と重複した温度領域で起こることで難燃化効果を発揮するが、その効果を高めるためには樹脂組成物に対して多量に配合する必要がある。このため、この種の難燃剤を含む樹脂組成物の成形品は、機械的強度が損なわれるという欠点がある。
【0004】
また、リン系難燃剤のうち、リン酸エステル系および縮合リン酸エステル系のものは、可塑効果を有するため、難燃性を高めるために樹脂組成物に対して多量に添加すると、樹脂成形品の機械的強度が低下するなどの欠点が生じる。また、リン酸エステル系、リン酸アミド系およびポリリン酸アンモニウム系のものは、容易に加水分解することから、機械的および電気的な長期信頼性が要求される樹脂成形品の製造用材料においては実質的に使用が困難である。
【0005】
これらに対し、環状ホスフィネート化合物、特にホスファフェナンスレン環を有する化合物が、リン酸エステル系やリン酸アミド系のリン系難燃剤に比べて加水分解性が小さく、樹脂組成物に対する添加量を大きくすることができるため、特許文献1〜6に記載のように、合成樹脂用の有効な難燃剤として多用されつつある。
【0006】
一方、近年の電子機器の小型・高機能化に伴い、印刷配線板では薄型・軽量でありかつ高密度配線が可能な基板材料が求められている。また、印刷配線板では、小径でありかつ必要な層間のみを非貫通穴で接続するIVH(Interstitial Via Hole)構造のビルドアップ積層方式のものの普及が急速に進んでいる。ビルドアップ積層方式印刷配線板の絶縁層にはガラス布等の基材を用いず、高いガラス転移温度(Tg)を有する耐熱性樹脂が要求されている。
【0007】
また、コンピュータや情報機器端末などでは、大量のデータを高速で処理するために、その信号の高周波化が進んでいるが、周波数が高くなる程電気信号の伝送損失が大きくなるという問題があり、高周波化に対応した印刷配線板の開発が強く求められている。高周波回路での伝送損失は、配線周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損の影響が大きく、印刷配線板用基板(特に絶縁樹脂)の低誘電率化および低誘電正接(tanδ)化が必要となる。例えば移動体通信関連の機器では、信号の高周波化に伴い準マイクロ波帯(1〜3GHz)での伝送損失を少なくするため誘電正接の低い基板が強く望まれるようになっている。
【0008】
さらに、コンピュータなどの電子情報機器では、動作周波数が1GHzを超える高速マイクロプロセッサが搭載されるようになり、印刷配線板での高速パルス信号の遅延が問題になっている。信号の遅延時間は、印刷配線板では配線周辺の絶縁物の比誘電率εrの平方根に比例して長くなるため、高速コンピュータなどでは誘電率の低い配線板用基板が求められている。
【0009】
合成樹脂にホスファフェナンスレン環を有する化合物を添加または反応することによって、その合成樹脂に難燃性を付与することはできるが、高いガラス転移温度と同時に、低い誘電率や誘電正接を達成できていない。このため、ホスファフェナンスレン環を有する化合物からなる難燃剤は、樹脂成形品の誘電特性を損ないにくくする必要、すなわち、樹脂成形品の低誘電率化および低誘電正接化を達成する必要もある。
【0010】
本発明の目的は、樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくい環状ホスフィネート化合物を実現することにある。
【0011】
【特許文献1】特開平4−11662号公報
【特許文献2】特開平11−166035号公報
【特許文献3】特開2000−297138号公報
【特許文献4】特開2000−309623号公報
【特許文献5】特開2001−261791号公報
【特許文献6】国際公開WO2004/111121号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく研究を重ねた結果、シアナト基を有する新規な環状ホスフィネート化合物、特にホスファフェナンスレン環を有する化合物を含む樹脂組成物からなる成形体が優れた機械的特性および難燃性を示し、同時に高温下での信頼性が高く、誘電特性に優れていることを見出した。
【0013】
本発明の環状ホスフィネート化合物は、下記の式(1)で表されるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物である。
【0014】
【化1】

式(1)中、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、Zは下記のA1基およびA2基から選ばれた基を示す。
【0015】
下記の式(2)で表されるA1基:
【0016】
【化2】

式(2)中、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつmは1〜4の整数を示す。
【0017】
下記の式(3)で表されるA2基:
【0018】
【化3】

式(3)中、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示す。
【0019】
このシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、例えば、式(1)においてZがA1基であり、かつ式(2)で表されるA1基のmが2である。また、このシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、例えば、式(1)においてZがA2基であり、かつ式(3)で表されるA2基のnが2である。
【0020】
このシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、例えば、式(1)において、X1〜X8が水素原子であり、Zが式(2)で表されるA1基であり、Xが水素原子、アルキル基またはアリール基であり、aが1〜4であり、bが0〜2であり、かつmが1〜2である。
【0021】
また、このシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、例えば、式(1)において、X1〜X8 が水素原子であり、Zが式(2)で表されるA1基であり、Xが水素原子であり、aが3であり、bが0であり、かつmが2である。
【0022】
また、のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、例えば、式(1)において、X1〜X8が水素原子であり、Zが式(3)で表されるA2基であり、cが0であり、かつnが2である。
【0023】
本発明に係るシアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造方法は、次の工程を含んでいる。
下記の式(4)で表されるヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物と
【0024】
【化4】

(式(4)中、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、Yは下記のB1基およびB2基から選ばれた基を示す。)
【0025】
下記の式(5)で表されるB1基:
【0026】
【化5】

式(5)中、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつhは1〜4の整数を示す。
【0027】
下記の式(6)で表されるB2基:
【0028】
【化6】

式(6)中、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示す。)
ハロゲン化シアンとを反応させる工程。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物とを含んでいる。樹脂成分は、例えば、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選ばれたものである。
【0030】
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を含んでいる。
【0031】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物若しくは本発明の重合性組成物の重合物からなるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、上述のような特定の構造を有するものであるため、樹脂成形体の機械的特性を損なわずに、その難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくい。
【0033】
本発明に係るシアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造方法は、上述のような工程を含むものであるため、本発明に係る上述のような特定の構造を有するシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を製造することができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を難燃剤として含むため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を含むものであるため、その重合により、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0036】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物若しくは本発明に係る重合性組成物の重合物からなるため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
シアナト基含有環状ホスフィネート化合物
本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、下記の式(1)で表されるものである。
【0038】
【化7】

【0039】
式(1)において、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示している。
【0040】
このX 〜Xとしては、例えば、X〜Xのすべてが水素原子である場合、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、X、XおよびXがメチル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがtert−ブチル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがα,α−ジメチルベンジル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがシクロヘキシル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがフェニル基である場合等を挙げることができる。このうち、X〜Xのすべてが水素原子である場合、およびX、X、X、XおよびXが水素原子であり、X、XおよびXがメチル基である場合が好ましく、X〜Xのすべてが水素原子である場合が特に好ましい。
【0041】
式(1)において、Zは下記のA1基およびA2基から選ばれた基を示す。
A1基としては、下記の式(2)で表され、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつmは1〜4の整数を示している。
【0042】
【化8】

【0043】
このA1基としては、例えば、1−シアナトフェニル―3―イル基、1−シアナトフェニル―4―イル基、1,4−ジシアナトフェニル―2―イル基、1,4−ジシアナト―5―tert−ブチルフェニル―2―イル基、1,4−ジシアナト―5―シクロヘキシルフェニル―2―イル基、1,4−ジシアナト―5―フェニルフェニル―2―イル基、1,4,5−トリシアナトフェニル―2―イル基、1,4,5,6−テトラシアナトフェニル―2―イル基、3−シアナトベンジル基、4−シアナトベンジル基、4−シアナト−3,5−ジメチルベンジル基および4−シアナト−3,5−ジ―tert―ブチルベンジル基等を挙げることができる。このうち、1−シアナトフェニル―4―イル基、1,4−ジシアナトフェニル―2―イル基、4−シアナトベンジル基および4−シアナト−3,5−ジ―tert―ブチルベンジル基が好ましく、1,4−ジシアナトフェニル―2―イル基が特に好ましい。
【0044】
また、A2基としては、下記の式(3)で表され、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示している。
【0045】
【化9】

【0046】
このA2基としては、例えば、1−シアナトナフチル−2−イル基、4−シアナトナフチル−2−イル基、1,4−ジシアナトナフチル−2−イル基および1,3,4−トリシアナトナフチル−2−イル基等を挙げることができる。このうち、4−シアナトナフチル−2−イル基および1,4−ジシアナトナフチル−2−イル基が好ましく、1,4−ジシアナトナフチル−2−イル基が特に好ましい。
【0047】
シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造方法
本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、次のような方法により製造することができる。
【0048】
すなわち、下記の式(4)で表されるヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物としては、いずれも、市販のものや、特許文献7に記載の方法などの公知の方法に従って製造したものを使用することができる。
【0049】
【化10】

【0050】
式(4)において、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示している。
【0051】
このX 〜Xとしては、例えば、X〜Xのすべてが水素原子である場合、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、X、XおよびXがメチル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがtert−ブチル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがα,α−ジメチルベンジル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがシクロヘキシル基である場合、X、X、X、X、X、XおよびXが水素原子であり、Xがフェニル基である場合等を挙げることができる。このうち、X〜Xのすべてが水素原子である場合、およびX、X、X、XおよびXが水素原子であり、X、XおよびXがメチル基である場合が好ましく、X〜Xのすべてが水素原子である場合が特に好ましい。
【0052】
また、式(4)において、Yは下記のB1基およびB2基から選ばれた基を示している。
【0053】
B1基としては、下記の式(5)で表され、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつhは1〜4の整数を示している。
【0054】
【化11】

【0055】
このB1基としては、例えば、1−ヒドロキシフェニル―3―イル基、1−ヒドロキシフェニル―4―イル基、1,4−ジヒドロキシフェニル―2―イル基、1,4−ジヒドロキシ−5―tert−ブチルフェニル―2―イル基、1,4−ジヒドロキシ−5―シクロヘキシルフェニル―2―イル基、1,4−ジヒドロキシ−5―フェニルフェニル―2―イル基、1,4,5−トリヒドロキシフェニル―2―イル基、1,4,5,6−テトラヒドロキシフェニル―2―イル基、3−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジル基および4−ヒドロキシ−3,5−ジ―tert―ブチルベンジル基等を挙げることができる。このうち、1−ヒドロキシフェニル―4―イル基、1,4−ジヒドロキシフェニル―2―イル基、4−ヒドロキシベンジル基および4−ヒドロキシ−3,5−ジ―tert―ブチルベンジル基が好ましく、1,4−ジヒドロキシフェニル―2―イル基が特に好ましい。
【0056】
B2基としては、下記の式(6)で表され、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示している。
【0057】
【化12】

【0058】
このB2基としては、例えば、1−ヒドロキシナフチル−2−イル基、4−ヒドロキシナフチル−2−イル基、1,4−ジヒドロキシナフチル−2−イル基および1,3,4−トリヒドロキシナフチル−2−イル基等を挙げることができる。このうち、4−ヒドロキシナフチル−2−イル基および1,4−ジヒドロキシナフチル−2−イル基が好ましく、1,4−ジヒドロキシナフチル−2−イル基が特に好ましい。
【0059】
【特許文献7】特開昭60−126293号公報
【非特許文献1】Guey−Sheng Liou,Sheng−HueiHsiao,High Perform.Polym.,13,S137,2001
【0060】
本発明の製造方法では、式(4)で表されるヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物とハロゲン化シアンとを反応させ、−OH基部分を−OCN基に変換する(工程)。これにより、目的とするシアナト基含有環状ホスフィネート化合物が得られる。
【0061】
−OH基部分を−OCN基に変換するための方法、すなわち、シアン酸エステルの製造方法は、各種の文献、例えば、下記のような非特許文献2および3に記載されている。
【0062】
【非特許文献2】CHEMISTRY AND TECHNOLOGY OF CYANATEESTER RESINS、I.HAMERTON著、1994年刊、BLACKIE ACADEMIC & PROFESSIONAL社
【非特許文献3】THE CHEMISTRY OF FUNCTIONAL GROUPS.THE CHEMISTRY OF CYANATES AND THEIR THIO DERIVATIVES、S.PATAI編、1977年刊、JOHN WILEY & SONS社
【0063】
これらの文献に記載されているように、シアン酸エステルの製造方法として、(1)ハロゲン化シアンとフェノール類とを3級アミン存在下で反応させる方法、(2)アルコール系またはフェノール系化合物のアルカリ金属塩とハロゲン化シアンとを反応させる方法等が知られている。ここで利用可能なハロゲン化シアンとしては、塩化シアンおよび臭化シアンが挙げられる。これらのシアン酸エステルの製造方法は、ヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物の種類およびその安定性等に応じて選択することができる。
【0064】
このようなヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物とハロゲン化シアンとの反応により得られる、目的とするシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、濾過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィーおよび再結晶等の通常の方法によって、反応系から単離精製することができる。
【0065】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と樹脂成分とを含むものである。
【0066】
本発明の樹脂組成物において、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、一種類のものが用いられてもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。また、樹脂成分としては、各種の熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂を使用することができる。これらの樹脂成分は、天然のものであってもよいし、合成のものであってもよい。
【0067】
ここで利用可能な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(MABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン並びに液晶ポリマー等を挙げることができる。変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリフェニレンエーテルの一部または全部に、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、無水ジカルボキシル基などの反応性官能基を、グラフト反応や共重合などの何らかの方法により導入したものが用いられる。なお、本発明の樹脂組成物を電子機器用途、特に、OA機器、AV機器、通信機器および家電製品用の筐体や部品用の材料として用いる場合は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル若しくはポリアミド等を用いるのが好ましい。
【0068】
一方、ここで利用可能な熱硬化性樹脂の具体例としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミドーシアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリカルボジイミド並びにエポキシ樹脂等を挙げることができる。また、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリカルボジイミド、マレイミド樹脂、マレイミドーシアン酸エステル樹脂等のポリイミド系樹脂は、その取り扱い加工性および接着性を向上するために、熱可塑性や溶媒可溶性が付与されたものであってもよい。なお、本発明の樹脂組成物を電子部品用途、特に、各種IC素子の封止材、配線板の基板材料、層間絶縁材料や絶縁性接着材料等の絶縁材料、Si基板またはSiC基板等の絶縁材料、導電材料および表面保護材料として用いる場合は、熱硬化性樹脂として、ポリウレタン、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミドーシアン酸エステル樹脂、ポリイミド系樹脂若しくはエポキシ樹脂等を用いるのが好ましい。
【0069】
上述の各種樹脂成分は、それぞれ単独で用いられてもよいし、必要に応じて二種以上のものが併用されてもよい。
【0070】
本発明の樹脂組成物において、シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の使用量は、樹脂成分の種類、樹脂組成物の用途等の各種条件に応じて適宜設定することができるが、通常、固形分換算での樹脂成分100重量部に対して0.1〜200重量部に設定するのが好ましく、0.5〜100重量部に設定するのがより好ましく、1〜50重量部に設定するのがさらに好ましい。シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の使用量が0.1重量部未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。逆に、200重量部を超えると、樹脂成分本来の特性を損ない、当該特性による樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
【0071】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の種類や樹脂組成物の用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤としては、例えば、天然シリカ、焼成シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、ホワイトカーボン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛、天然マイカ、合成マイカ、アエロジル、カオリン、クレー、タルク、焼成カオリン、焼成クレー、焼成タルク、ウオラストナイト、ガラス短繊維、ガラス微粉末、中空ガラスおよびチタン酸カリウム繊維等の無機充填剤、シランカップリング剤などの充填材の表面処理剤、ワックス類、脂肪酸およびその金属塩、酸アミド類およびパラフィン等の離型剤、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、リン酸アミド、リン酸アミドエステル、リン酸アンモニウム、赤リン、塩素化パラフィン、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メロンおよびサクシノグアナミン等の窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤並びに臭素系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のドリッピング防止剤、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダートフェノール、スチレン化フェノールなどの酸化防止剤、チオキサントン系などの光重合開始剤、スチルベン誘導体などの蛍光増白剤、硬化剤、染料、顔料、着色剤、光安定剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤、チクソ性付与剤、可塑剤並びに帯電防止剤等を挙げることができる。
【0072】
さらに、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、熱硬化性樹脂の硬化剤や硬化促進剤を配合することができる。ここで用いられる硬化剤や硬化促進剤は、一般に使用されるものであれば、特に限定されるものではないが、通常、アミン化合物、フェノール化合物、酸無水物、イミダゾール類および有機金属塩などである。これらは、二種以上を併用することもできる。
【0073】
本発明の樹脂組成物を電気・電子分野用の材料、具体的には、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に用いる場合、樹脂成分としては、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0074】
本発明の樹脂組成物において利用可能なシアン酸エステル樹脂は、1分子中に2個以上のシアナト基を有するものであれば、特に限定されるものではない。このようなシアン酸エステル樹脂の例としては、シアン酸エステル化合物、およびシアン酸エステル化合物のシアナト基の三量化によって形成されるトリアジン環を有する、重量平均分子量が500〜5,000のプレポリマー等を挙げることができる。
【0075】
ここで利用可能なシアン酸エステル化合物としては、例えば、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、1,3−ジシアナトナフタレン、1,4−ジシアナトナフタレン、1,6−ジシアナトナフタレン、1,8−ジシアナトナフタレン、2,6−ジシアナトナフタレン、2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4,4’−ジシアナトビフェニル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジシアナトビフェニル、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)エタン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アリル−4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(3−アリル−4−シアナトフェニル)ブタン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナトフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)カルボニル、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)カルボニル、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスファイトおよびトリス(4−シアナトフェニル)ホスフェートを挙げることができる。
【0076】
上述のようなプレポリマーの製法としては、シアン酸エステル化合物を、例えば鉱酸やルイス酸等の酸類、ナトリウムアルコラート類や第三級アミン類等の塩類、炭酸ナトリウム等の塩類を触媒として重合させる方法などを挙げることができる。この際、重合反応系には、ノボラック樹脂や水酸基含有熱可塑性樹脂のオリゴマー(例えば、ヒドロキシポリフェニレンエーテルやヒドロキシポリスチレンなど)とハロゲン化シアンとを添加してもよい。
【0077】
なお、シアン酸エステル樹脂として好ましいものは、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、ノボラック樹脂およびハロゲン化シアンの反応により得られるシアン酸エステル樹脂類である。シアン酸エステル樹脂は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0078】
樹脂成分としてシアン酸エステル樹脂を用いる場合、本発明の樹脂組成物は、熱硬化性を向上させるために、硬化触媒および他の樹脂を添加するのが好ましい。シアン酸エステル樹脂を用いた本発明の樹脂組成物(以下、「シアン酸エステル樹脂組成物」という場合がある)は、硬化の程度が高い場合において後述するような優れた誘電特性を発現し得るため、シアン酸エステル樹脂を十分に硬化させることが必要であるが、シアン酸エステル樹脂の硬化反応には200℃以上の高温で2時間以上の時間を要する場合があるため、シアン酸エステル樹脂の硬化反応を促進させるために硬化触媒を用いることが好ましい。
【0079】
ここで利用可能な硬化触媒は、シアン酸エステル樹脂の硬化反応を促進し得る化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、銅(II)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、亜鉛(II)アセチルアセトナートおよびマンガン(II)アセチルアセトナート等のアセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、オクチル酸銅、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルトおよびナフテン酸亜鉛等のカルボン酸金属塩触媒、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、4−クミルフェノールおよびノニルフェノール等のアルキルフェノール類、フェノール樹脂並びに揮発性の低いアルコール類等の活性水素を有する化合物などを挙げることができる。また、これらの硬化触媒は、単独であるいは適宜組み合わせて用いることができる。硬化触媒として好ましいものは、より硬化反応を促進することができる点で、アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、特に、銅(II)アセチルアセトナート若しくは亜鉛(II)アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物である。
【0080】
硬化触媒の使用量は、硬化触媒の種類や硬化反応を促進する程度に応じて設定することができる。例えば、硬化触媒がアセチルアセトナートと金属とのキレート化合物の場合、シアン酸エステル樹脂組成物100重量部に対して、0.001重量部〜0.1重量部の範囲内で用いるのが好ましい。また、硬化触媒が他の化合物の場合、シアン酸エステル樹脂組成物100重量部に対して0.1重量部〜20重量部の範囲で用いるのが好ましい。硬化触媒の使用量が上記範囲未満であると、硬化反応の促進効果が不十分になる可能性があり、また、上記範囲を超えると、得られるシアン酸エステル樹脂組成物の保存安定性に支障が生じる可能性がある。
【0081】
シアン酸エステル樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物に対して1価のフェノール類化合物を適正量反応することで、シアナト基をイミドカーボネート化し、硬化後に残存するシアナト基を減らすことができる。高極性のシアナト基を硬化後に減らすことによって、硬化物全体の誘電率と誘電正接をシアン酸エステル樹脂のみからなる硬化物の値まで低下させることができる。この目的で用いる1価のフェノール類化合物は、シアナト基との反応性が高く、また単官能で比較的低分子量であり、しかもシアネートエステル類化合物との相溶性が良いものが好ましい。このような1価のフェノール類化合物としては、例えば、硬化触媒として使用されるp−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、4−クミルフェノールおよびノニルフェノール等を挙げることができる。
【0082】
本発明の樹脂組成物において利用可能なエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。その具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール類とアルデヒド類との反応により得られるノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビスフェノール−F型エポキシ樹脂、ビスフェノール−AD型エポキシ樹脂、ビスフェノール−S型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、シクロペンタジェン型エポキシ樹脂、アルキル置換ビフェノール型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン等のフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン、オリゴプロピレングリコールおよび水添ビスフェノール−A等のアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる脂肪族エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸若しくはフタル酸とエピクロルヒドリン若しくは2−メチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル系エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンやアミノフェノール等のアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン系エポキシ樹脂、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られる複素環式エポキシ樹脂、グリシジル基を有するホスファゼン化合物、エポキシ変性ホスファゼン樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂並びにウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂およびトリス(ヒドロキシフェニル)メタンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。
【0083】
樹脂成分として上述のエポキシ樹脂を用いる場合(以下、このような樹脂組成物を「エポキシ樹脂組成物」という場合がある)、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、エポキシ基との反応によって、オキサゾリドン環を形成することから、エポキシ樹脂の硬化剤として機能し得る。また、エポキシ樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と共に、他の硬化剤を併せて含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物が、硬化剤として本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と他の硬化剤とを併用している場合、硬化剤の合計量(すなわち、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と他の硬化剤との合計量)に占める本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物の割合は、0.1〜99重量%が好ましく、0.5〜90重量%がより好ましい。シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の割合が0.1重量%未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。
【0084】
エポキシ樹脂組成物において、シアナト基含有環状ホスフィネート化合物と併用され得る他の硬化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンおよびポリアミドポリアミン等のポリアミン系硬化剤、無水ヘキサヒドロフタル酸および無水メチルテトラヒドロフタル酸等の酸無水物系硬化剤、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラック等のフェノール系硬化剤、水酸基を有するホスファゼン化合物、三フッ化ホウ素等のルイス酸およびそれらの塩類並びにジシアンジアミド類等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0085】
エポキシ樹脂組成物において、硬化剤(すなわち、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物または本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と上述の他の硬化剤との併用物)の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.5当量になるよう設定するのが好ましく、0.6〜1.2当量になるよう設定するのがより好ましい。
【0086】
エポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでいてもよい。利用可能な硬化促進剤は、公知の種々のものであり、特に限定されるものではないが、例えば、2−メチルイミダゾールおよび2−エチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3アミン系化合物、トリフェニルホスフィン化合物等を挙げることができる。硬化促進剤を用いる場合、その使用量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜15重量部に設定するのが好ましく、0.1〜10重量部に設定するのがより好ましい。
【0087】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて公知の反応性希釈剤や添加剤が配合されていてもよい。利用可能な反応性希釈剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテル等の脂肪族アルキルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートおよび3級カルボン酸グリシジルエステル等のアルキルグリシジルエステル、スチレンオキサイドおよびフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテルおよびノニルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族アルキルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの反応性希釈剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。一方、添加剤としては、既述のようなものを用いることができる。
【0088】
上述のシアン酸エステル樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物等の本発明の樹脂組成物は、各成分を均一に混合することにより得られる。この樹脂組成物は、樹脂成分に応じて100〜250℃程度の温度範囲で1〜36時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。例えば、エポキシ樹脂組成物は、通常、150〜250℃の温度で2〜15時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。このような硬化過程において、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、そのシアナト基が樹脂成分と反応し、硬化物中において安定に保持されることになるため、当該硬化物の高温信頼性を損ないにくい。また、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、そのような硬化物の機械的特性(特に、ガラス転移温度)を損なわずに、その難燃性を高めることができる。このため、本発明の樹脂組成物は、各種の樹脂成形体の製造用材料、塗料用、接着剤用およびその他の用途用として、広く用いることができる。
【0089】
また、高分子材料の誘電特性は、使用されている分子の双極子の配向分極による影響が大きいことから、分子内の極性基を少なくすることにより誘電率を低くすることができ、また、極性基の運動性を抑えることにより誘電正接を低くすることができる。本発明の樹脂組成物に含まれるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、極性の高いシアナト基を有しているが、硬化時には対称性を有しかつ剛直なトリアジン構造を生成することができるため、誘電率および誘電正接を高めにくい。このため、本発明の樹脂組成物によれば、低い誘電率および誘電正接の硬化物が得られる。したがって、本発明の樹脂組成物は、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルム、カバーインク)形成用等の電気・電子部品の製造用材料として特に好適である。
【0090】
重合性組成物
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を含んでいる。ここで用いられるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、二種以上のものであってもよい。
【0091】
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物に、他の重合性化合物を併用することができる。他の重合性化合物として、例えば、ビスマレイミド化合物が挙げられ、そのビスマレイミド化合物としては、ビスマレイミド構造を有するであれば、特に限定されるものではない。その代表的な例としては、ビス(3−メチルー4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチルー4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3、5−ジメチルー4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチルー5−メチルー4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3、5−ジエチルー4−マレイミドフェニル)メタン、これらビスマレイミド化合物のプレポリマー、もしくはビスマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられる。これらのビスマレイミド化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。
【0092】
この重合性組成物は、その用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤は、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のものである。
【0093】
また、この重合性組成物は、熱硬化性を向上させるために、硬化触媒を含んでいてもよい。ここで利用可能な硬化触媒は、通常、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のもの、すなわち、アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、カルボン酸金属塩触媒、アルキルフェノール類、フェノール樹脂および揮発性の低いアルコール類等の活性水素を有する化合物などである。
【0094】
さらに、この重合性組成物は、上述の樹脂組成物の場合と同じく、シアナト基をイミドカーボネート化して硬化後に残存するシアナト基を減らし、重合物(硬化物)の誘電率と誘電正接とを低下させることを目的として、1価のフェノール類化合物を含んでいてもよい。この目的で用いる1価のフェノール類化合物は、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のものである。
【0095】
本発明の重合性組成物は、所要の成分を均一に混合することにより得られる。この重合性組成物は、通常、加熱するとシアナト基含有環状ホスフィネート化合物間での重合が進行して重合物となり、硬化物(樹脂成形体)を形成する。この硬化物は、実質的に本発明のシアナト基含有環状ホスファゼンの重合体からなるため、難燃性および高温信頼性に優れ、また、ガラス転移温度が高いために機械的特性においても優れている。このため、本発明の重合性組成物は、各種の分野において用いられる樹脂成形体の製造用材料として、広く用いることができる。
【0096】
また、本発明の重合性組成物に含まれるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物は、極性の高いシアナト基を有しているが、硬化時には対称性を有しかつ剛直なトリアジン構造を生成することができるため、硬化物の誘電率および誘電正接を高めにくい。このため、本発明の重合性組成物によれば、低い誘電率および誘電正接の硬化物が得られる。したがって、本発明の重合性組成物は、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルム、カバーインク)形成用等の電気・電子部品の製造用材料として特に好適である。
【実施例】
【0097】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下においては、特に断りがない限り、「%」および「部」とあるのは、それぞれ「重量%」および「重量部」を意味する。
【0098】
実施例等で得られたホスフィネート化合物は、H−NMRスペクトルの測定、CHN元素分析、IRスペクトルの測定の結果に基づいて同定した。
【0099】
実施例1(シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造)
撹拌装置、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた5Lの四つ口フラスコ中に10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(三光株式会社製、商品名HCA−HQ)324.3g(1.0mol)、臭化シアン262.1g(2.4mol)アセトン3,000mlを仕込み、氷浴で5℃まで冷却し、トリエチルアミン242.9g(2.4mol)とアセトン500mlの混合液を0〜5℃で2時間かけて滴下し、同温度で1時間撹拌し、反応を行った。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、その残渣を塩化メチレン1,500mlで溶解した後、水で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、減圧下で塩化メチレンを留去して白色固体366.4g(収率:98%)を得た。
【0100】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであった。
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
フェニルC−H 7.2〜8.4(11H)
◎IRスペクトル(KBr、cm−1):
−OCN 2256,2200、図1にIRスペクトルを示す。
◎CHNP元素分析:
理論値 C:64.2%,H:3.0%,N:7.5%,P:8.3%
実測値 C:64.0%,H:3.2%,N:7.4%,P:8.1%
【0101】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は10−(2,5−ジシアナトフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドであることを確認した。
【0102】
実施例2(シアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた5Lの四つ口フラスコ中に10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(三光株式会社製、商品名HCA)432.4g(2.0mol)、キシレン2,400mlを仕込み、70℃まで撹拌加熱しHCAの溶解を確認した後、1,4−ナフトキノン288.3g(1.8mol)を70〜80℃で2時間かけて少量ずつ投入し、70〜90℃で2時間撹拌し反応を行った。反応終了後、反応液を20℃まで冷却し、析出した結晶をろ過し、その結晶をエトキシエタノール400mlで、次いでメタノール400mlで洗浄した後、減圧乾燥して黄紅色固体601.7g(粗収率:89.3%)を得た。更に、得られた結晶をエトキシエタノール4,600mlで再結晶して淡黄色粉末性結晶483.8g(収率:71.8%)を得た。この生成物の融点(融解ピーク温度)は296℃であった。
【0103】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであった。
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
フェニルC−H 11.6(1H),7.1〜8.6(11H),6.2〜6.3(1H)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:70.6%,H:4.0%,P:8.3%
実測値 C:70.3%,H:4.2%,P:8.2%
【0104】
上記の結果から、また、得られた化合物の融点が
【非特許文献4】記載の融点と一致することから、10−(2,7−ジヒドロキシナフチル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドであることを確認した。
【0105】
次に、撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた10Lの四つ口フラスコ中に上記生成物10−(2,7−ジヒドロキシナフチル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド374.3g(1.0mol)、臭化シアン262.1g(2.4mol)アセトニトリル5,000mlを仕込み、氷浴で5℃まで冷却し、トリエチルアミン242.9g(2.4mol)とアセトニトリル500mlの混合液を0〜5℃で2時間かけて滴下し、同温度で1時間撹拌し、反応を行った。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、その残渣を塩化メチレン2,000mlで溶解した後、水で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、減圧下で塩化メチレンを留去して灰白色固体419.9g(収率:99%)を得た。
【0106】
得られた化合物の分析結果は以下の通りであった。
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
フェニルC−H 7.2〜8.3(13H)
◎IRスペクトル(KBr、cm−1):
−OCN 2256,2200、図2にIRスペクトルを示す。
◎CHNP元素分析:
理論値 C:67.9%,H:3.1%,N:6.6%,P:7.3%
実測値 C:67.7%,H:3.3%,N:6.5%,P:7.1%
【0107】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は10−(2,7−ジシアナトナフチル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドであることを確認した。
【0108】
実施例3〜4(樹脂成形体の作製)
実施例1若しくは2で合成したシアナト基含有環状ホスフィネート化合物からなる重合性組成物を170℃で1時間加熱し、一部を3量化させてプレポリマーを調製した。次に、これをPTFEの型に流し込んで200℃で2時間、220℃で3時間加熱硬化させ、1/16インチ厚および5mm厚の二種類のシート状硬化物(樹脂成形体)を作製した。硬化物は、IRスペクトルによってシアナト基(OCN)の吸収が完全に消失していることを確認した。
【0109】
得られたシート状硬化物について、燃焼性、耐熱性、ギガヘルツ帯での誘電特性およびガラス転移温度を調べた。燃焼性および耐熱性は1/16インチ厚のシート状硬化物を用いて評価した。また、誘電特性およびガラス転移温度については5mm厚のシート状硬化物を用いて評価した。各項目の評価方法は次の通りである。結果を表1に示す。
【0110】
(燃焼性)
アンダーライターズラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験に基づき、10回接炎時の合計燃焼
時間と燃焼時の滴下物による綿着火の有無により、V−0、V−1、V−2および規格外の四段階に分類した。評価基準を以下に示す。難燃性レベルはV−0>V−1>V−2>規格外の順に低下する。
【0111】
V−0:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が50秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が5秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは30秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0112】
V−1:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0113】
V−2:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)試験片5本のうち、少なくとも1本は、滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がある。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0114】
(耐熱性)
試験片を288℃で20分間処理し、外観の変化を観察した。表1において、「有」は、シアナト基含有環状ホスフィネート化合物のブリードアウトによる外観変化がないことを示す。また、「無」は、シアナト基含有環状ホスフィネート化合物のブリードアウトによる外観変化があることを示す。
【0115】
(誘電特性)
空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置(関東電子応用開発株式会社の商品名)を用い、下記の条件にて24時間放置したシート状硬化物の誘電率および誘電正接を下記の条件下で測定した。
測定温度 :22〜24℃
測定湿度 :45〜55%
測定周波数:5GHz
【0116】
(ガラス転移温度)
セイコー電子工業株式会社のDMS−200(商品名)を用い、測定長(測定治具間隔)を20mmとして、下記の条件下で、シート状硬化物の貯蔵弾性率(ε’)の測定を行い、当該貯蔵弾性率(ε’)の変曲点をガラス転移温度(℃)とした。
【0117】
測定雰囲気:乾燥空気雰囲気
測定温度 :20〜400℃の範囲内
測定試料 :幅9mm、長さ40mmにスリットした硬化樹脂シート
【0118】
比較例1(樹脂成形体の作製)
実施例1で製造したシアナト基含有環状ホスフィネート化合物に代えて、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)25.0gを使用した点を除き、実施例3と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例3〜4と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、燃焼性、耐熱性、誘電特性およびガラス転移温度を評価した。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1から明らかなように、実施例3〜4のシート状硬化物は、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度を示している。
【0121】
合成例1(可溶性ポリイミド樹脂の合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのガラス製フラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン277.7g(0.95mol)および3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル10.7g(0.05mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)700mlを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌溶解した。次に、フラスコ内の溶液を窒素雰囲気下で撹拌し、4、4’−(4、4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビスフタル酸無水物(IPBP)のDMF溶液[IPBP520.5g(1.00mol)、DMF1,100ml]を5〜10℃で3時間かけて滴下し、さらに室温で3時間撹拌してポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液2,500gをフッ素樹脂(PTFE)でコートしたトレイに移し、真空オーブンで減圧加熱(条件:200℃、5.7hPa以下、6時間)することによって、可溶性ポリイミド樹脂748gを得た。
【0122】
合成例2(2官能PPEオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および空気導入管を備えた2リットルのガラス製フラスコ中にCuCl1.3g(0.012mol)、ジ−n−ブチルアミン70.7g(0.55mol)およびメチルエチルケトン500mlを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予めメチルエチルケトン1,000mlに溶解させた4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)45.4g(0.16mol)と2,6−ジメチルフェノール58.6g(0.48mol)とを2リットル/分の空気のバブリングを行いながら2時間かけて滴下し、その後、1時間、2リットル/分の空気のバブリングを続けながら撹拌を行った。そして、これにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。その後、3%塩酸水溶液で3回洗浄を行った後、イオン交換水でさらに洗浄を行った。得られた溶液を濃縮し、さらに減圧乾燥を行い、両末端にヒドロキシル基を有する2官能PPEオリゴマーを102.3g得た。このオリゴマーは、数平均分子量が870、重量平均分子量が1,160、水酸基当量が456g/eq.であった。
【0123】
実施例5〜8(樹脂組成物の調製)
合成例1で得られた可溶性ポリイミド樹脂50g、ビスフェノールA系シアン酸エステル化合物である2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)25.0gおよび表2に示すシアナト基含有環状ホスフィネート化合物をジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0124】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚み50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度230℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層の樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。
【0125】
このようにして得られた、両面に銅箔層を有する銅箔積層体について、半田耐熱性を評価した。また、得られた銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去し、硬化シートを得た。この硬化シートについて、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度(Tg)を測定した。半田耐熱性の評価方法は次の通りである。また、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度は、実施例3〜4と同様の方法および条件で測定した。結果を表2に示す。
【0126】
(半田耐熱性)
銅箔積層体から長さ30mm、幅15mmの試験片を切り出し、この試験片を温度22.5〜23.5℃、湿度39.5〜40.5%の環境下で24時間放置した。そして、288℃の溶融半田に試験片を1分間ディップし、片側の銅箔のみをエッチングした。その後、目視にて樹脂部分を観察し、発泡や膨れ等の異常がなければ合格とし、20検体中の不合格数を調べた。
【0127】
比較例2(樹脂組成物の調製)
実施例1で製造したシアナト基含有環状ホスフィネート化合物に代えて、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)25.0gを使用した点を除き、実施例5と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例5〜8と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を評価した。結果を表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
表2から明らかなように、実施例5〜8の樹脂組成物からなる硬化物は、比較例2に比べ、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度と優れた半田耐熱性を示している。
【0130】
実施例9〜11(樹脂組成物の調製)
合成例2で得られた2官能PPEオリゴマー(水酸基当量:455g/eq)20.0g、表3に示すシアナト基含有環状ホスフィネート化合物および 2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)50.0gをジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0131】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分間加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚みは50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度220℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。そして、この銅箔積層体について、実施例5〜8と同様の方法で半田耐熱性を評価した。また、銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去して得られた硬化シートについて、実施例5〜8と同様の方法により、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を測定した。結果を表3に示す。
【0132】
比較例3(樹脂組成物の調製)
実施例1で製造したシアナト基含有環状ホスフィネート化合物に代えて、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)30.0gを使用した点を除き、実施例9と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例9〜11と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を評価した。結果を表3に示す。
【0133】
【表3】

【0134】
表3から明らかなように、実施例21〜26の樹脂組成物からなる硬化物は、比較例3と比べ、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度と優れた半田耐熱性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】10−(2,5−ジシアナトフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドのIRスペクトル。
【図2】10−(2,7−ジシアナトナフチル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドのIRスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるシアナト基含有環状ホスフィネート化合物。
【化1】

(式(1)中、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、Zは下記のA1基およびA2基から選ばれた基を示す。
下記の式(2)で表されるA1基:
【化2】

式(2)中、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつmは1〜4の整数を示す。
下記の式(3)で表されるA2基:
【化3】

式(3)中、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示す。)
【請求項2】
式(1)において、X〜Xが水素原子であり、Zが式(2)で表されるA1基であり、Xが水素原子、アルキル基またはアリール基であり、aが1〜4であり、bが0〜2であり、かつmが1〜2である、請求項1に記載のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物。
【請求項3】
式(1)において、X〜Xが水素原子であり、Zが式(2)で表されるA1基であり、Xが水素原子であり、aが3であり、bが0であり、かつmが2である、請求項1および2に記載のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物。
【請求項4】
式(1)において、X〜Xが水素原子であり、Zが式(3)で表されるA2基であり、cが0であり、かつnが2である、請求項1に記載のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物。
【請求項5】
下記の式(4)で表されるヒドロキシル基を有する環状ホスフィネート化合物と
【化4】

(式(4)中、X〜Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、Yは下記のB1基およびB2基から選ばれた基を示す。
下記の式(5)で表されるB1基:
【化5】

式(5)中、Xは、同一または異なってよい水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、aは1〜4の整数を示し、bは0〜4の整数を示し、かつhは1〜4の整数を示す。
下記の式(6)で表されるB2基:
【化6】

式(6)中、cは0〜4の整数を示し、かつnは1〜3の整数を示す。)
ハロゲン化シアンとを反応させる工程と、を含むシアナト基含有環状ホスフィネート化合物の製造方法。
【請求項6】
樹脂成分と、請求項1から4のいずれかに記載のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物と、を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂成分が、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選ばれたものである、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のシアナト基含有環状ホスフィネート化合物を含む、重合性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の重合性組成物の重合物からなる樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−88079(P2008−88079A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268643(P2006−268643)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【Fターム(参考)】