説明

シェル形針状ころ軸受の外輪

【課題】シェル形針状ころ軸受の小サイズ化によってハウジングとの間の摩擦が減少しても、圧入代を増やす方法によることなく、クリープを生じないようにしたシェル形針状ころ軸受を提供することである。
【解決手段】胴部13の両端部に内向きのつば縁14a、14bが設けられたシェル形針状ころ軸受の外輪において、製造工程上先に形成される板厚の大きい方のつば縁14aに凹部17を設け、前記凹部17をハウジングの凸部に係合させることによりクリープを防止する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シェル形針状ころ軸受の外輪、これを用いたシェル形針状ころ軸受及びシェル形針状ころ軸受装置に関し、特に、ハウジングに対する回り止め構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シェル形針状ころ軸受は、その外輪をハウジングの内径面に一定の締め代をもって圧入され、圧入による摩擦によってハウジングに対する回り止めが図られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−4051号公報(コラム0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車の省スペース化の進展に伴い、自動車の各部に使用される軸受についても小サイズ化の要求が厳しくなっている。シェル形針状ころ軸受について、これが実際に小サイズ化された場合、外輪とハウジングとの接触面積が減少するため摩擦が減少し、クリープ発生の原因となる問題が生じる。摩擦を増大させるために圧入代を増やすと、外輪軌道面が変形して形状精度に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0005】
そこで、この発明は、小サイズ化によって摩擦が減少しても、圧入代を増やす方法によることなく、クリープ防止機能を発揮し得るシェル形針状ころ軸受の外輪を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、この発明は、胴部の両端部に内向きのつば縁が設けられたシェル形針状ころ軸受の外輪において、前記いずれか一方のつば縁にハウジングとの係合部が設けられた構成としたものである。
【0007】
前記両方のつば縁はそれぞれの板厚に差があり、厚い方のつば縁に前記の係合部が設けられた構成をとることができる。
【0008】
前記係合部が、前記つば縁の内周縁から外周縁に一定幅だけ寄った位置に設けられることにより、係合部の内側に一定幅のリング部が残された構成をとることができる。リング部によりつば縁の剛性が保持される。
【0009】
前記係合部が凹部により形成され、その凹部の深さのつば縁の板厚に対する割合が5〜50%であることが望ましい。前記範囲に設定することにより、凹部に対応した軌道面に生じる凹部の膨出量を一定以下に低く抑えることができる。
【0010】
前記のつば縁の肩部がアール形状を有し、前記凹部の径方向の壁面となる対向した端面が前記肩部に達し、その端面が肩部のアール形状に従い外径方向に至るに従い低くなり端部において消滅する形状をなし、前記凹部が外径方向に開放されている構成をとることができる。凹部が外径方向に開放されていると、ハウジングの外径面から打ち込んだピンを係合させる回り止め手段をとる場合に便利である。
【0011】
なお、前記構成の外輪に針状ころを組み込んだ針状ころ軸受、その針状ころ軸受をハウジングに収納した針状ころ軸受も本出願の発明に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明に係るシェル形針状ころ軸受の外輪及びその外輪を用いたシェル形針状ころ軸受は、ハウジングに圧入された場合に、外輪のつば縁に設けられた係合部とハウジング側係合部との係合により、外輪のハウジングに対する回り止めとなり外輪のクリープが防止される。
【0013】
外輪のつば縁に設けられる係合部の具体例として、つば縁に凹部を設ける場合、その凹部の深さの板厚に対する割合を5〜50%に設定することにより、ハウジングに対する係合機能を維持しつつ、軌道面側への膨出による精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は、実施形態1の断面図、図1(b)は図1(a)の一部拡大断面図である。
【図2】図2は、実施形態1の外輪の斜視図である。
【図3】図3は、図2の変形例の一部を示す斜視図である。
【図4】図4は、板厚に対する溝深さの割合と、内部膨出量の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施形態2の一部を示す断面図である。
【図6】図6は、実施形態2の他の例の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0016】
図1から図3に示した実施形態1のシェル形針状ころ軸受11の外輪12は、円筒状の胴部13の両端部にそれぞれ内向きのつば縁14a、14bが屈曲形成されている。胴部13の内径面に形成された軌道面13aに針状ころ15が組み込まれる。針状ころ15を一定間隔に保持する保持器を用いる場合と、図示のように、保持器を用いない、いわゆる総ころ型の場合がある。
【0017】
外輪12は、鋼板に絞り工程を含むプレス加工を施すことにより製作され、一方のつば縁14aは、鋼板をカップ状に絞り成形したのち、底面の外周に沿った部分を残し中央部分を打ち抜くトリミングを施すことにより形成される。つば縁14aを形成するその他の方法として、円筒状に形成したシェル素材の一端部に曲げ加工を施すことによってつば縁14aを形成する方法がある。
【0018】
他方のつば縁14bは、胴部13の内径面の軌道面13aに針状ころ15を組み込んだのち、開口端部に縁曲げを施すことにより形成される。製作工程上、前記一方のつば縁14aが先に加工され、その後に他方のつば縁14bが加工されることになる。後から加工されるつば縁14bの板厚は、縁曲げの容易さを考慮して、先に加工されるつば縁14aに比べ薄く形成されている。各つば縁14a、14bの外周部分は、アール形状をもつ肩部18となっている。
【0019】
先に加工されるつば縁14aの外表面にハウジング16(図5参照)に対する係合部としての凹部17が設けられる。凹部17はつば縁14aの全周の等配位置の4個所に設けられる(図2参照)。
【0020】
凹部17は、つば縁14aの内周縁から所定幅wのリング部19(図1、図2参照)を残した部分から肩部18の中程に渡る範囲に形成され、内周に沿った内側面20と、周方向に対向した端面21の3壁面に囲まれている。端面21は肩部18のアール形状に従って外径側に至るに従い低くなり、端部において消滅している。このため内側面20に対向した外側面は無く、外側面が無いことにより凹部17は外径方向に開放されている。リング部19を残すことによりつば縁14aの剛性が保たれている。
【0021】
図3に示したように、凹部17を全周の3個所に設け、各凹部17の内側面20と端面21とのコーナ部をアール形状にする場合もある。
【0022】
前記の凹部17の深さdが板厚Dに比べて深くなると、凹部17に対応した内面部分に膨出部22(図1(b)参照)が生じる。その膨出量δが一定以上に高くなると軌道面13aの面精度が劣化する。
【0023】
図4は、板厚Dに対する凹部17の深さdの割合(d/D)と、内部膨出量δの関係を、3種類の板厚について測定した結果を示す。d/Dが50%を越えると、内部膨出量が0.05以上となり、軌道面13aの面精度を劣化させる。凹部17本来の回り止め機能を維持するために、少なくとも5%は維持しなければならないので、d/Dは5〜50%が好ましい範囲となる。
[実施形態2]
【0024】
実施形態2は、図5及び図6に示したように、前記のシェル形針状ころ軸受11と、これを内部に圧入したハウジング16とにより構成されたシェル形針状ころ軸受装置25に関するものである。
【0025】
ハウジング16の内面には、外輪12の各凹部17に対向したハウジング側係合部としての凸部23が設けられており、針状ころ軸受11の圧入の際に、その凸部23が外輪12の凹部17に係合される。その係合により、外輪12のハウジング16に対するクリープが確実に防止される。
【0026】
図6の場合は、前記の凸部23に代えて、ピン24をハウジング16の外径側から内径側に突き出すように打ち込み、凹部17に対しその外径側から係合させたものである。前述のように、凹部17は外径側の一面が開放されているので、ピン24を外径側から打ち込むことができる。
【符号の説明】
【0027】
11 針状ころ軸受
12 外輪
13 胴部
13a 軌道面
14a、14b つば縁
15 針状ころ
16 ハウジング
17 凹部
18 肩部
19 リング部
20 内側面
21 端面
22 膨出部
23 凸部
24 ピン
25 シェル形針状ころ軸受装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部の両端部に内向きのつば縁が設けられたシェル形針状ころ軸受の外輪において、前記いずれか一方のつば縁にハウジングとの係合部が設けられたことを特徴とするシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項2】
前記両方のつば縁はそれぞれの板厚に差があり、厚い方のつば縁に前記の係合部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項3】
前記板厚の厚い方のつば縁が薄い方のつば縁より製造工程上先に形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載のシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項4】
前記係合部が、前記つば縁の内周縁から外周縁に一定幅だけ寄った位置に設けられることにより、係合部の内側に一定幅のリング部が残されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項5】
前記係合部が凹部により形成され、その凹部の深さのつば縁の板厚に対する割合が5〜50%であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項6】
前記のつば縁の肩部がアール形状を有し、前記凹部の径方向の壁面となる対向した端面が前記肩部に達し、その端面が肩部のアール形状に従い外径方向に至るに従い低くなり端部において消滅する形状をなし、前記凹部が外径方向に開放されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受の外輪。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受の外輪と、その外輪の軌道面に組み込まれた針状ころとからなることを特徴とするシェル形針状ころ軸受。
【請求項8】
請求項7に記載の針状ころ軸受と、その針状ころ軸受を圧入したハウジングとからなる針状ころ軸受装置において、前記ハウジングの内径面に前記外輪の係合部に係合するハウジング側係合部が設けられたことを特徴とするシェル形針状ころ軸受装置。
【請求項9】
前記ハウジング側係合部が、前記ハウジング内径面に一体に設けられた凸部によって形成されたことを特徴とする請求項8に記載のシェル形針状ころ軸受装置。
【請求項10】
前記ハウジング側係合部が、前記ハウジングの外径面から内径面に突き出すように打ち込まれたピンによって形成されたことを特徴とする請求項8に記載のシェル形針状ころ軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−29145(P2013−29145A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165082(P2011−165082)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】