説明

シクロアルカノンの製造方法

【課題】ケトン化合物の効率的製造方法を提供すること。
【解決手段】
有効量のプロトンならびにi)塩素を含まないパラジウム源、ii)ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩、及びiii)メソポーラスシリケートを含む触媒の存在下でオレフィン化合物と分子状酸素及び水とを反応させることを特徴とするケトン化合物の製造方法、及びこれに用いられる触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気又は分子状酸素を用いてオレフィンを酸化して、対応するケトンを製造する方法及びこれに好適に使用される触媒に関する。
【0002】
石井らは、活性炭上に担持したPd(OAc)/NPMoVを触媒として使用する、酸素雰囲気下でのシクロペンテンのWacker型酸化を報告している(例えば、非特許文献1)が、当該炭素担持触媒は、必ずしも効率的なわけではない。MCM−41に内包されたHPMo40及び酢酸パラジウムを含有する酸化触媒が、分子状酸素を用いたベンゼンからフェノールへの酸化触媒として使用できることが開示されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】テトラヘドロンレターズ(Tetrahedron Letters) 41巻(2000)p.99−102
【非特許文献2】ジャーナルオブモレキュラーキャタリシスA(Journal of Molecular Catalysis A: Chemical) 134巻(1998)p.229−235
【0003】
本発明によれば、本発明の触媒存在下、オレフィンから効率的かつ選択的にケトンを製造することができる。
【0004】
本発明は、下記a)またはb)を含む触媒に関する。
a)塩素を含まないパラジウム源、ヘテロポリ酸の酸性塩、及びメソポーラスシリケート。
b)塩素を含まないパラジウム源、ヘテロポリ酸、及びメソポーラスシリケート。
ただし、b)を含む触媒は、酢酸パラジウム及びMCM−41に内包されたHPMo40を含む触媒ではない。
【0005】
さらに、本発明は有効量のプロトン、i)塩素を含まないパラジウム源、ii)ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩、及びiii)メソポーラスシリケートの存在下でオレフィン化合物と分子状酸素及び水とを反応させることを特徴とするケトン化合物の製造方法に関する。
【0006】
本発明において使用される塩素を含まないパラジウム源は、例えば、パラジウム金属、塩素を含まないパラジウム化合物及びそれらの混合物が挙げられる。本明細書において、塩素を含まないパラジウム塩とは、パラジウム源自体が塩素塩(塩化物)でないことを意味する。
【0007】
塩素を含まないパラジウム化合物の例としては、例えば、パラジウムの有機酸塩、パラジウムの酸素酸塩、酸化パラジウム、硫化パラジウムが挙げられる。また、これらの塩や酸化物、硫化物の有機錯体又は無機錯体、ならびにこれらの混合物などが挙げられる。
【0008】
パラジウムの有機酸塩の例としては、例えば、酢酸パラジウムやシアン化パラジウムが挙げられる。パラジウムの酸素酸塩の例としては、例えば、硝酸パラジウムや硫酸パラジウムが挙げられる。
【0009】
これらの塩、酸化物、及び硫化物の有機錯体又は無機錯体の例としては、例えば、硝酸テトラアミンパラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムなどが挙げられる。パラジウムの有機酸塩又はパラジウムの酸素酸塩が好ましい。酢酸パラジウムが、より好ましい。
【0010】
本発明において使用することができるヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩は、特に限定されない。本明細書において、ヘテロポリ酸は、2つ以上の中心イオンを含有する酸素酸の縮合生成物を意味する。例えば、ヘテロポリ酸は、P、As、B、Sn、Si、Ti又はZrなど酸素酸イオン(例えばリン酸、ケイ酸、ホウ酸など)に含まれる元素及びV、Mo又はWなど酸素酸イオン(例えばバナジン酸、モリブデン酸、タングステン酸など)に含まれる元素からなる。ヘテロポリ酸は、酸素酸の組合せから合成可能なものを包含する。
【0011】
好ましいヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩は、P、Si、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有するものであり、さらに好ましいヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩は、P、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有するものである。
【0012】
なおさらに好ましいヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩は、構成元素として少なくともP及びVの両方を含有するヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩であるか、又は少なくともMo又はV又はMo及びVの両方を含有するヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩である。
【0013】
ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩を構成するヘテロポリアニオンの典型的な例は、以下のとおりである。
XM1240、XM1034、XM1242、XM1139、XM10、XM32、XM24、X1862、X1856、X1242、X17及びXM
(式中、Xは中心原子であり、好ましくはB、Si又はPであり、Mは1個又は複数の遷移金属を表し、好ましくはMo、W、又はVであり、mは15〜80の整数を示す。)。
【0014】
ヘテロポリアニオンの平均組成式の中で、平均組成式(1A):
XM1240 (1A)
(式中、Xは、Si又はPであり、Mは、Mo、V及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表す。)
又は、平均組成式(1B):
1862 (1B)
(式中、Xは、Si又はPであり、Mは、Mo、V及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表す。)のヘテロポリ酸
が好ましい。
【0015】
このような組成を有するヘテロポリアニオンの例としては、例えば、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、及びリンバナドモリブデン酸のアニオンが挙げられる。リンバナドモリブデン酸、リンモリブデン酸又はリンモリブドタングステン酸のアニオンは、特に好ましいヘテロポリアニオンである。
【0016】
好ましいヘテロポリ酸は、
式(2A):
3+n[PVMo12−n40] (2A)
(式中、nは1〜11の整数であり、さらに好ましくはnは1〜8の整数であり、なおさらに好ましくは2〜8であり、なおさらに好ましくは4〜8である。)
のリンバナドモリブデン酸;
式(2B):
3+n[PV12−n40] (2B)
(式中、nは1〜11の整数であり、さらに好ましくはnは1〜8の整数であり、なおさらに好ましくは4〜8である。)
のリンバナドタングステン酸;
式(2C):
[PMo12−n40] (2C)
(式中、nは0〜12の整数であり、好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは1〜6の整数である。)
のリンモリブドタングステン酸;又は
式(2D):
[PMo18−n62] (2D)
(式中、nは0〜18の整数であり、さらに好ましくはnは0〜10であり、なおさらに好ましくは0〜6である。)
のリンモリブドタングステン酸である。
【0017】
ヘテロポリ酸の好ましい酸性塩は、
式(3A):
3+n[PVMo12−n40] (3A)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは1〜11の整数である。)
のリンバナドモリブデン酸の酸性塩:;
式(3B):
3+n[PV12−n40] (3B)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは1〜11の整数であり、より好ましくはnは1〜8であり、なおさらに好ましくは4〜8である。)
のリンバナドタングステン酸の酸性塩;
式(3C):
[PMo12−n40] (3C)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは0〜12の整数であり、好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは1〜6の整数である。)
のリンモリブドタングステン酸の酸性塩;及び
式(3D):
[PMo18−n62] (3D)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは0〜18の整数であり、さらに好ましくはnは0〜10であり、なおさらに好ましくは0〜6である。)
のリンモリブドタングステン酸の酸性塩である。
【0018】
式(3A)〜(3D)の式中において、カチオン部分Aは、それぞれの式における対アニオンと(電荷において)バランスするものであり、バランスする比率のプロトンとプロトン以外のカチオンから構成されているものである。
カチオンの例としては、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウムなど第三級アンモニウム塩を含むアンモニウム、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、バリウム、マグネシウム、カルシウムなど)及びそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
本発明のヘテロポリ酸酸性塩は、典型的には、例えば、電気的中性を保つようにカチオン部分に水素原子及びNHを有する。
ヘテロポリ酸の酸性塩は、典型的には、1つ以上の水素原子と他のカチオンとを置換することによって製造される。NHとHの比率(NH/H)は、好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜8、さらにより好ましくは約0.3〜約5である。さらに、式(3)におけるnは、好ましくは1〜8、さらに好ましくは4〜8である。ヘテロポリ酸の酸性塩は、単独又はそれらの混合物として使用されてもよい。使用することのできるヘテロポリ酸の酸性塩又はヘテロポリ酸の量は、ヘテロポリ酸の酸性塩又はヘテロポリ酸の種類、ならびに反応するオレフィンの種類及び濃度に依存する。
【0020】
ヘテロポリ酸の酸性塩又はヘテロポリ酸は、パラジウム1モルあたり、通常は0.001モル以上、好ましくは0.005モル以上、なおさらに好ましくは0.01モル以上、なおさらにより好ましくは0.05モル以上の量で使用され、その上限は、パラジウム1モルあたり、通常は500モル、好ましくは100モル、なおさらに好ましくは10モル、なおさらにより好ましくは1モルである。
【0021】
本明細書においてメソポーラスシリケートとは、孔径2nm〜50nmの細孔を有する規則性メソ多孔体を意味する。メソポーラスシリケートの構造は、IZA(International Zeolite Association)の定義に基づく。M41S(MCM)の型に関して、スタディズ・イン・ザ・サーフェスサイエンス・アンド・キャタリシス(Studies in Surface Science and Catalysis)第148巻(2004)53頁を参照することができる。
【0022】
メソポーラスシリケートの例としては、例えば、シリカのみからなるメソ多孔質シリカ、及びAl、Ti、Zr、Ga、Fe、B、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Co及びSnからなる群から選択される少なくとも1つの元素をその骨格中に含有するメタロシリケートが挙げられる。
【0023】
メソポーラスシリケートの例としては、MCM−41、MCM−48、SBA−15又はSBA−16(D.Zhao,ら,サイエンス(Science)第279巻(1998)548頁;Zhao ら,アメリカ化学界誌(J.Am.Chem.Soc.)第120巻(1998)6024頁)などのSBA型、HMSなど、孔径2nm〜50nmである規則性メソ多孔体を例示することができる。
【0024】
メソポーラスシリケートは、典型的には、第四級アンモニウム塩(例えば、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(米国特許第5,098,684号,ゼオライト(Zeolite),第18巻,408−416頁(1997)))、一級アミン(例えば、n−ドデシルアミン(サイエンス(Science)第267巻、865頁)又はブロック共重合体(サイエンス(Science)第269巻,1242頁)などのテンプレート存在下、テトラエチルオルトシリケートなどのケイ酸アルコキシドの加水分解によって合成される。Si−MCM−41などのメソポーラスシリケートを、ベック(Beck等),ネイチャー(Nature)第359巻,710頁(1992)に従って調製することができる。また、HMSの調製は、ピーター・ティ・タネフ(Peter T.Tanev)等の方法,(サイエンス(Science)267巻,865頁)に従って合成することができる。さらに、ケイ素源として、沈降シリカ及びコロイド状シリカなどのシリカ、及び液体ガラスなどのケイ酸ナトリウムを用いることにより、例えば、水熱合成し、次いでトルエン、メタノール又はアセトンなどの適切な溶媒を用いて洗浄することによってテンプレートを除去するか、又は約300〜800℃の温度で焼成することによって、又は焼成後に洗浄することによって合成することができる。
【0025】
これらのメソポーラスシリケートの中で、単位重量あたりより大きな表面積を有するものが、より好ましく使用される。メソポーラスシリケート1gあたり200m〜2000mの表面積を有するものが好ましく、メソポーラスシリケート1gあたり400m〜2000mの表面積を有するものがさらに好ましい。
【0026】
細孔の形状及び規則性は、上記に定義されるようなメソ多孔体が存在する限り、特に限定されない。メソポーラスシリケートを、必要な場合には、パラジウム化合物及びヘテロポリ酸又はその酸性塩を担持する前又は担持後に、ペレット形状、球面形状、円筒状形状などに成形してもよい。
【0027】
パラジウム化合物、ヘテロポリ酸又はそれらの酸性塩、及びメソポーラスシリケートは、別個に反応系に添加することができる。以下では、ヘテロポリ酸の酸性塩を使用する場合を例にとって、本発明の触媒の調製法を説明する。また、本発明においては、ヘテロポリ酸酸性塩の変わりにヘテロポリ酸を用いて同様に触媒を調製することができる。
【0028】
例えば、パラジウム化合物、又はヘテロポリ酸の酸性塩を、メソポーラスシリケートに担持し、残りの成分を別個に反応物に添加することができる。あるいは、パラジウム化合物、又はヘテロポリ酸の酸性塩を、段階的に又は同時にメソポーラスシリケートに担持し、担持触媒を形成することができる。
【0029】
本発明の触媒は、典型的には、パラジウム化合物の溶液又は懸濁液、又はヘテロポリ酸の酸性塩の溶液又は懸濁液、又はその両方を含む溶液又は懸濁液を用いて、メソポーラスシリケートに含浸することによって製造される。
【0030】
例えば、適切な溶媒のパラジウム化合物の溶液又はヘテロポリ酸の酸性塩の溶液を調製し、メソポーラスシリケートをそれらに添加し、次いで得られた混合液を攪拌し、同時又はその後に触媒の残りの成分をそれらに添加し、これらの成分を互いに接触させて混合物を得る。通常は、得られる固形物をろ過するか又は溶媒を蒸発させ、本発明の触媒を固体として得る。必要な場合には、これらを組み合わせても良い。
【0031】
あるいは、適切な溶媒のパラジウム化合物及びヘテロポリ酸の酸性塩の溶液又は懸濁液を調製し、得られた混合物にメソポーラスシリケートを加えて接触させ、この混合物を上述のようにろ過、蒸発、又は乾燥などの同様の処理を施すことで調製できる。
【0032】
パラジウム化合物、又はヘテロポリ酸の酸性塩を溶解することができる適切な溶媒の例としては、例えば、水、メタノール又はエタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ならびにアセトニトリルなどの二トリル類などが挙げられる。
メソポーラスシリケートに担持されるパラジウム化合物の量は、担体及びその量に依存して変動し、通常はメソポーラスシリケートの0.001〜40重量%、好ましくは0.01〜30重量%、さらに好ましくは0.1〜20重量%である。
【0033】
本方法において好適に使用することのできるオレフィン化合物は、典型的には、置換又は非置換シクロオレフィンである。
置換基の例としては、例えば、塩素、フッ素、臭素及びヨウ素などのハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アシル基、ニトロ基、アミノ基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基などが挙げられる。非置換シクロオレフィンの例としては、例えば、約4〜20個の炭素を有するシクロオレフィン、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロドデセン、シクロオクタデセンなどが挙げられる。より好適に使用されるシクロオレフィンはシクロヘキセンであり、シクロヘキセンからシクロヘキサノンが効率的に製造される。
【0034】
酸化剤としては純酸素又は空気を使用することができ、又はこれらのガスを、窒素又はヘリウムなどの不活性ガスで希釈することによって分子状酸素を含有するガスとして使用してもよい。使用する酸素量は、酸化されるオレフィン化合物の種類及び量、使用される溶媒中の酸素溶解度などに応じて調整することができる。通常、分子状酸素は、オレフィン化合物1モルあたり、1モル〜約100モル、好ましくは約2モル〜約50モル、さらに好ましくは約5モル〜約20モルの量で使用される。または、酸素分圧として、好ましくは0.01〜10Mpa、さらに好ましくは0.05〜5MPaの範囲にある。
【0035】
水の量は、典型的には、オレフィン化合物1モルあたり1〜5000モル、好ましくは約5〜約1000モル、さらに好ましくは約10〜約200モルである。
【0036】
本発明の酸化反応においては、不活性有機溶媒が使用されてもよい。不活性溶媒の例としては、例えば、ニトリル化合物(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)などの極性有機溶媒が挙げられる。極性有機溶媒が好ましく使用され、アセトニトリルがさらに好ましい。また溶媒としては、上述の化合物を単独で用いても良いし混合物として使用してもよい。
【0037】
本発明の酸化反応は有効量のプロトンの存在下で行われるが、この際プロトンは、ヘテロポリ酸によって与えられてもよく、又はプロトン酸として酸化反応に添加されてもよい。例えば、プロトン酸、例えば、無機酸、有機酸、又は固体酸を酸化反応に対して添加されてもよい。
【0038】
無機酸の例としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸などが挙げられる。
有機酸の例としては、例えば、カルボン酸、及びスルホン酸が挙げられる。また、何れの場合においても、それらの有機残基中に1個又は複数のハロゲン原子を有していてもよい。
【0039】
カルボン酸の例としては、例えば、ギ酸、脂肪族カルボン酸(例えば酢酸)、脂環式カルボン酸(例えばシクロヘキサンカルボン酸)、芳香族カルボン酸(例えば安息香酸)などが挙げられる。
【0040】
スルホン酸としては、例えば、アルキルスルホン酸(例えばメタンスルホン酸又はエタンスルホン酸)、アリールスルホン酸(例えばベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸)などが挙げられる。
【0041】
固体酸としては、例えば、イオン交換樹脂(例えば、スルホン酸型イオン交換樹脂など)の固体プロトン酸や酸性ゼオライト、及び硫酸化ジルコニアが挙げられる。
【0042】
プロトン酸の量は、使用されるオレフィン化合物、使用される溶媒の量及び種類に依存して変動する。例えば、反応が水相及び有機相を含む2相系である液相中で行なわれる場合、水相中のプロトンの濃度が好ましくは10−5〜10mol/l、さらに好ましくは10−3〜1mol/lになるように、プロトン酸を添加しても良い。反応が水及び有機溶媒から形成される均一液相中で行なわれる場合、添加されるプロトン酸及びヘテロポリ酸に含まれるプロトンの全てが遊離していると仮定して、均一液相中のプロトンの濃度が好ましくは10−5〜10mol/l、さらに好ましくは10−3〜1mol/lになるように酸を添加することができる。なお、本発明の触媒の成分であるヘテロポリ酸は反応中のプロトン源となるので、上述のような有効量のプロトンを、本発明のヘテロポリ酸のみから提供することができる場合もある。
【0043】
酸化反応は、通常は、0〜200℃、好ましくは10〜150℃、さらに好ましくは30〜100℃の温度範囲で行なわれる。
反応は、通常は、0.01〜10MPa(絶対圧力)、好ましくは0.05〜7MPa(絶対圧力)、さらに好ましくは0.1〜5MPa(絶対圧力)の圧力範囲内で行なわれる。
【0044】
生成物を含有する反応溶液、又は反応ガスは捕集され所望のケトンを単離する。生成したケトン化合物は、通常は、蒸留、相分離などによって分離される。
【0045】
ケトンの例としては、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロドデカノンなどが挙げられる。
【0046】
反応は、回分式、半回分式、連続法、又はそれらの組合せにおいて行なうことができる。触媒は、スラリー法又は固定床法において使用されてもよい。
【0047】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 触媒Aの調製
1.モリブドバナドリン酸塩(NPMoV):
NaMoO・2HO(8.22g、34mmol)含有水溶液(12ml)を、NaVO(7.32g、60mmol)含有水溶液(38ml)に添加した。得られた溶液に、85重量% HPO(7.6g、66mmol)水溶液(10ml)を添加し、混合物を攪拌しながら、1時間、368Kまで加熱した。混合物を273Kまで冷却後、飽和塩化アンモニウム水溶液(150ml)を添加し、褐色沈殿物としてNPMoVを得た。水からの再結晶により、固体生成物を精製した。次いで、ろ過により単離し、約363Kで乾燥した。得られたNPMoVは、N/P/Mo/V=9.1/1.0/4.2/7.5の平均原子比で、アンモニウムカチオンと部分的に置換されたモリブドバナドリン酸塩の複合混合物であった。NPMoVの平均組成は、(NHPMo7.5・nHOによって表される。
【0049】
2.10重量%のPd(OAc) 15重量%のNPMoV/MCM−41:
Pd(OAc)(0.10g)をアセトン(10ml)に溶解した。後述する方法で調製したSi−MCM−41をこの溶液に添加した。この懸濁液を室温で2時間攪拌した後、NPMoV(0.15g)を添加し、得られた混合物を室温で3〜5時間攪拌した。この混合物を353Kで乾燥して、[10重量%Pd(OAc)−15重量%NPMoV/MCM−41]をほぼ定量的な収率で得た。
【0050】
実施例1において使用されるMCM−41の合成
メタケイ酸ナトリウム8.13g(Fluka;NaO=51重量%、SiO=48重量%、HO=1重量%)を、蒸留水120gに添加し(「溶液X」と記載)、30分間攪拌した。同時に、蒸留水30g中の臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム4.48g(TDTMABr、Fluka;≧98%)とエタノール10g(Brueggemann;約96%)とを混合し、「溶液Y」を調製し、約30分間攪拌した。次いで、「溶液X」と「溶液Y」とを混合し、透明なゲルを得た。2N HSO25〜30mlを添加することによってこのゲルのpHを約11.5に調整した。最後に、得られたゲルをポリテトラフルオロエテンでコーティングされたステンレス鋼オートクレーブ(約300ml)に移し、空気乾燥機中に150℃で20時間保持した。得られた固体生成物(合成時MCM−41と称される)をろ別し、蒸留水で洗浄し、80℃で12時間乾燥させた。次いで、このサンプルを550℃(加熱速度1℃/分)N中2時間、流速50ml/分で焼成し、次いで空気中で6時間焼成した(同流速)。
【0051】
(2)実施例2〜35において使用されるMCM−41の合成
メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)及びAerosil 200(日本アエロジル株式会社)をシリカ源として用い、既報(Carvalho ら,Zeolites,18,408,1997)に従って調製した。なお、NaSiO/SiO=0.124:1のモル比で使用した。を用いて水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を鉱化剤として使用し、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTMABr)をテンプレートとして使用した。NaSiO6.3g及びAerosil 200 25gをTMAOH(26%)13.12g中で懸濁させ、この懸濁物と、水1043g及び35.79g CTMABrとをステンレス鋼オートクレーブ(1000ml)中で混合することによって反応ゲルを調製した。加熱速度17.5K/hで105℃まで加熱し、この温度で48時間維持した。得られた固体をろ過によって分離し、水で洗浄し、減圧下80℃で3時間乾燥し、最後に窒素流下530℃で1時間焼成し、次いで同じ温度で空気流下5時間焼成した。
【0052】
HMSの合成
ドデシルアミン15.8g、エタノール126.3g及びイオン交換水159.9gを混合し、ケイ酸テトラエチルオルト65.8gをこの混合物に添加した。得られた混合物を室温で18時間攪拌し、次いでろ過し、洗浄してHMS前駆体を得て、これを窒素雰囲気下530℃で1時間焼成し、空気中、同じ温度で5時間焼成して、所望のHMSを得た。
【0053】
実施例2
シクロヘキセン2mmol、アセトニトリル/水(4.5ml/0.5ml)、p−トルエンスルホン酸38mg及び触媒A100mgの混合物をガラス内挿管に入れ、450mlオートクレーブに挿入し、空気2MPa下、323Kで6時間反応させ、シクロヘキサノンを得た。シクロヘキセンの転化率:96.7%、シクロヘキサノンの選択率:94.0%。
【0054】
実施例3
96重量% 硫酸8mgをp−トルエンスルホン酸(PTS)の代わりに使用し、加圧空気2MPaに加えて窒素ガス(3MPa)を導入し、アセトニトリル/水(4.3ml/0.7ml)をアセトニトリル/水(4.5ml/0.5ml)の代わりに使用し、120mlの容量を有するオートクレーブを使用した以外は、実施例2と同様に酸化反応を行なった。
【0055】
実施例4及び7
実施例4及び7において、MCM−41の代わりにHMSを使用し、それぞれの反応を以下の表1に示される所定時間で行なった以外は、実施例3と同様に反応を行なった。
【0056】
実施例5
反応時間を2時間に変更し、120mlの容量を有するオートクレーブを使用した以外は、実施例2と同様に反応を行なった。結果を表1に示す。
【0057】
実施例6
反応時間を2時間に変更した以外は、実施例3と同様の条件下で反応を行なった。
【0058】
実施例8
PVMo400.15g(日本無機化学工業株式会社製造)をNPMoVの代わりに使用した以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。Pd(OAc)(0.1g)をアセトン(10ml)に溶解し、次いで、MCM−41(1.0g)をこの溶液に添加した。室温で攪拌しながら、H11PVMo40・nHO(0.15g)のアセトン(0.1ml)溶液を添加し、懸濁物を室温で1時間攪拌し続けた。溶媒を1.4×10Pa(100Torr)で蒸発させた後、得られた固体を減圧下60℃で乾燥し、10重量%Pd(OAc)−15重量%HPVMo40・nHO/MCM−41を得た。シクロヘキセンの酸化反応を実施例6と同様に行なった。
【0059】
実施例9
HPMo40・nHOをHPVMo40の代わりに使用した以外は、実施例8と同様に反応を行なった。
【0060】
比較例
シクロヘキセン2mmol、アセトニトリル/水(4.3ml/0.7ml)、硫酸8mg、Pd(OAc)8mg及びHPMo17.3mgの混合物をガラス管に入れ、120mlの容量を有するオートクレーブに挿入し、空気(2MPa)、N(3MPa)下323Kで2時間反応させ、シクロヘキサノンを得た。結果を表1に示す。
【0061】
表1

CHEN:シクロヘキセン、AN:シクロヘキサノン、PTS:パラトルエンスルホン酸
【0062】
実施例10
Pd(OAc)/MCM-41を、ヘテロポリ酸を使用しない以外は実施例8と同様の様式で調製した。また、反応はPd(OAc)2/MCM-41 0.1gを使用し、ヘテロポリ酸を表2に記載される量で別個に添加された以外は、実施例8と同様に行った。
【0063】
実施例11
MCM−41、ヘテロポリ酸、及びPd(OAc)(8mg)を反応物に別個に添加した以外は、実施例10と同様に反応を行なった。
【0064】
実施例12、13、及び17〜33
表2に記載されるようなヘテロポリ酸をそれぞれ用いて、実施例10と同様に反応を行なった。
【0065】
実施例14〜16
表2に記載されるような所定量のヘテロポリ酸を使用し、シクロヘキセン4mmol(他の実施例で使用される量の2倍)を使用した以外は、実施例10と同様に反応を行なった。
【0066】
実施例34
硫酸を使用しなかった以外は、実施例11と同様に反応を行なった。
【0067】
ヘテロポリ酸
ドーソン(Dawson)型ヘテロポリ酸を以下のように調製し、実施例33で使用した。
【0068】
ドーソン型ヘテロポリ酸(HPA)(HMo1862)の調製
ドーソン型ヘテロポリ酸(HPA)(HMo1862)を文献(J.Biol.Chem.,189,43(1920)及びUS6060419)に従って調製した。NaMoO・2HO(6.7g)を脱イオン水30mlに溶解し、85%HPO(1ml)を添加し、その後濃塩酸(5.3ml)を添加した。内容物を8時間還流し、次いで、室温まで冷却した。NHCl(6.7g)を上記溶液に添加し、10分間攪拌し、得られた黄色沈殿物を吸引ろ過によって捕集し、乾燥させた。この固体を等量の脱イオン水で再溶解させ、再ろ過して、任意の不溶性物質を除去した。NHClをろ液に添加し、20%溶液を作成した。8時間放置した後、固体を吸引ろ過して乾燥させ、十分な量の脱イオン水で再溶解させた。結晶が生成しはじめるまで溶液を減圧下、40℃未満で蒸発させ、5℃まで冷却させた。結晶をろ過し、十分量のエーテルを加えた。懸濁物を攪拌して数分間混合し、吸引ろ過して乾燥させた。上記結晶1.5gを脱イオン水3mlに溶解し、濃塩酸(7ml)を添加した。溶液を分液漏斗中でエーテルを用いて抽出した。最下層を分取し、水(10ml)を添加した。洗浄を2回繰り返した。洗浄の過程で、溶液が褐色又は緑色に変わったら、数滴のHNOを添加した。エーテル溶液を脱イオン水5mlと混合し、減圧下40℃未満で乾燥した。組成HMo1862の橙色固体を得た。
【0069】
表2−1

【0070】
表2−2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a)またはb)を含む触媒。
a)塩素を含まないパラジウム源、ヘテロポリ酸の酸性塩、及びメソポーラスシリケート。
b)塩素を含まないパラジウム源、ヘテロポリ酸、及びメソポーラスシリケート。
ただし、b)を含む触媒は、酢酸パラジウム及びMCM−41に内包されたHPMo40を含む触媒ではない。
【請求項2】
メソポーラスシリケートがメソポーラスシリカ、又はAl、Ti、Zr、Ga、Fe、B、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Co及びSnからなる群から選択される少なくとも1つの元素をその骨格中に含有するメタロシリケートである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
塩素を含まないパラジウム源、又はヘテロポリ酸の酸性塩又はこれら両方がメソポーラスシリケートに担持されている請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
塩素を含まないパラジウム源、又はヘテロポリ酸又はこれら両方がメソポーラスシリケートに担持されている請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項5】
メソポーラスシリケートが、M41S、HMS、MCM−48、又はSBAであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
メソポーラスシリケートが、メソポーラスシリケート1gあたり400〜2000mの表面積を有するメソポーラスシリケートである請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項7】
ヘテロポリ酸の酸性塩が、
XM1240 (1A)、又はX1862 (1B)
(式(1A)および(1B)中、Xは、Si又はPであり、Mは、Mo、V及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表す。)
で表されるヘテロポリアニオンを含有するヘテロポリ酸の酸性塩であることを特徴とする、請求項1、2、3、5又は6に記載の触媒。
【請求項8】
ヘテロポリ酸酸性塩が、
式(3A):
3+n[PVMo12−n40] (3A)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは0〜11の整数である。)
のリンバナドモリブデン酸塩の酸性塩;
式(3B):
3+n[PV12−n40] (3B)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは1〜11の整数である。)
のリンバナドタングステン酸の酸性塩;
式(3C):
[PMo12−n40] (3C)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは0〜12の整数である。)
のリンモリブドタングステン酸の酸性塩;または
式(3D):
[PMo18−n62] (3D)
(式中、Aは、プロトン及びプロトン以外のカチオンからなるカチオン部分であり、nは1〜18の整数である。)
のリンモリブドタングステン酸の酸性塩
である請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
ヘテロポリ酸が、
式(2A):
3+n[PVMo12−n40] (2A)
(式中、nは1〜11の整数である。)
のリンバナドモリブデン酸;
式(2B):
3+n[PV12−n40] (2B)
(式中、nは1〜11の整数である。)
のリンバナドタングステン酸;
式(2C):
[PMo12−n40] (2C)
(式中、nは0〜12の整数である)
のリンモリブドタングステン酸;又は
式(2D):
[PMo18−n62] (2D)
(式中、nは0〜18の整数である)
のリンモリブドタングステン酸である請求項1、2、4、5、又は6に記載の触媒。
【請求項10】
式(2D)においてnが0〜6の整数である、請求項8又は9に記載の触媒。
【請求項11】
有効量のプロトン、ならびにi)塩素を含まないパラジウム源、ii)ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸の酸性塩、及びiii)メソポーラスシリケートを含む触媒の存在下でオレフィン化合物と分子状酸素と水とを反応させることを特徴とするケトン化合物の製造方法。
【請求項12】
反応が極性有機溶媒存在下で行なわれる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
極性有機溶媒がアセトニトリルである請求項11に記載の方法。
【請求項14】
プロトンが、硫酸又は有機スルホン酸由来のプロトンである請求項11に記載の方法。
【請求項15】
有機スルホン酸がp−トルエンスルホン酸である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
オレフィン化合物がシクロヘキセンであり、ケトン化合物がシクロヘキサノンである請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2007−185656(P2007−185656A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2085(P2007−2085)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】