シクロヘキセンの精製及び製造方法
【課題】簡便な設備で抽出蒸留の分離不良を補完でき、ベンゼン濃度の低いシクロヘキセンを、効率良く精製又は製造すること。
【解決手段】(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
【解決手段】(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキセンを精製及び製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキセンの製造方法に関しては、種々の方法が知られている。その一つとしてベンゼンの部分水素化が挙げられる。ベンゼンの部分水素化は、通常、ルテニウム触媒の存在下、水とベンゼンの懸濁液に水素を通入する反応によって行われる。その反応の結果、水、シクロヘキサン、シクロヘキセン、未反応ベンゼン等を含有する混合物が得られる。該混合物から高純度のシクロヘキセンを得るためには、反応混合物からシクロヘキセンを分離する方法が問題となる。シクロヘキサン、シクロヘキセン及びベンゼンは沸点が近接しているため、通常の蒸留方法では高純度のシクロヘキセンを得る事は困難である。このため、これらの混合物から高純度のシクロへキセンを分離する方法として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アジポニトリル、スルホラン、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、エチレングリコール等の抽剤を使用する抽出蒸留法が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−169669号公報
【特許文献2】特開平9−30994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が上記文献に記載された抽出蒸留法により、シクロヘキセンを抽出蒸留したところ、シクロヘキセンの用途によっては、スペックを十分に満足する純度のシクロヘキセンを得る事ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者が、抽出蒸留法の分離結果を入念に調査したところ、抽出蒸留法で得られるシクロヘキセン中には、不純物としてベンゼン及びシクロヘキサンの含有量が多いことが分かった。特にベンゼンは、発がん性物質であると共に、PRTR規制物質に指定されており、製品中のベンゼン濃度を低減することへの要請が大きい。そして、これらの含有量を低減するには、上記抽出蒸留法に共沸蒸留を組み合わせることが効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
[2]
(c)前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程をさらに含む、上記[1]記載のシクロヘキセンの精製方法。
[3]
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとベンゼンの和に対するベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[1]又は[2]記載のシクロヘキセンの精製方法。
[4]
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとシクロヘキサンの和に対するシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[1]〜[3]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[5]
前記工程(a)で得られた留出液を供給した蒸留塔の塔頂から、前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、中段から前記シクロヘキセンを回収する、上記[2]〜[4]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[6]
前記工程(b)において、前記工程(a)で得られた留出液を第一の蒸留塔に供給して塔頂から前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去すると共に、塔底液を第二の蒸留塔に供給し、
前記第二の蒸留塔の塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、前記第二の蒸留塔の塔頂から前記シクロヘキセンを回収する、上記[2]〜[4]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[7]
前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、上記[1]〜[6]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[8]
前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、上記[2]〜[7]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[9]
前記抽出蒸留の抽剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/又はN,N−ジメチルアセトアミドである、上記[1]〜[8]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[10]
(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、
(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、
を含むシクロヘキセンの製造方法。
[11]
(iv)前記工程(ii)で得た留出液から、シクロヘキサンを、シクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程をさらに含む、上記[10]記載のシクロヘキセンの製造方法。
[12]
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[10]又は[11]記載のシクロヘキセンの製造方法。
[13]
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[11]又は[12]記載のシクロヘキセンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡便な設備で抽出蒸留の分離不良を補完でき、ベンゼン濃度の低いシクロヘキセンを、効率良く精製又は製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の精製方法に使用される装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図3】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図4】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図5】抽剤を用いない蒸留(抽出蒸留を行わない)装置の一例を示す概略図である。
【図6】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図である。
【図7】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図のシクロヘキセン高濃度域の拡大図である。
【図8】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡曲線図である。
【図9】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキサン−シクロヘキセン気液平衡曲線図のシクロヘキセン高濃度域の拡大図である。
【図10】抽剤を用いない場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図である。
【図11】抽剤を用いない場合のシクロヘキサン−シクロヘキセン気液平衡曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」とも言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その思想の範囲内で種々に変形して実施することができる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
[1]シクロヘキセンの精製方法
本実施の形態のシクロヘキセンの精製方法は、
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含む方法である。
【0011】
[工程(a)]
精製の対象となる混合溶液は、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む限り、組成比やその他の成分は特に限定されないが、典型的には、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンの組成比は、35〜45mol:5〜15mol:45〜55mol程度である。このような組成の混合溶液は、例えば、ベンゼンの部分水素化反応の生成物として得られる。
【0012】
混合溶液は、その他の成分としてトルエンやペンタン、ヘキサンを含有してもよい。これらの比率は混合溶液全体の5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
【0013】
工程(a)で使用する蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。理論段数が多いほど、留分に含まれる不純物を低減できるが、理論段数を増やすには蒸留塔を高くするか、複数の蒸留塔を設けることが必要になるので経済的な観点からは60段以下に抑えるのが好ましい。通常、蒸留塔の上段側に抽剤を供給し、混合溶液は蒸留塔の中段より下側に供給する。
【0014】
抽剤の使用量は、混合溶液に対して通常は等量以上20倍以下であり、還流比は、通常1〜20である。
【0015】
図10に示すように、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸点は760mmHgにおいて、これらのモル数の和100mol%に対して、ベンゼン濃度35mol%である。
ベンゼン濃度=ベンゼンのモル数/(シクロヘキセンのモル数+ベンゼンのモル数)
また、図11に示すように、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸点は100mmHgにおいて、これらのモル数の和100mol%に対して、シクロヘキサン濃度35mol%である。
シクロヘキサン濃度=シクロヘキサンのモル数/(シクロヘキセンのモル数+シクロヘキサンのモル数)
後述する工程(b)は、共沸蒸留によりシクロヘキセンを精製する工程であるから、工程(a)の留分を工程(b)に直接導入する場合は、工程(a)で得られる留出液中のベンゼン濃度を、工程(b)における共沸蒸留により不純物であるベンゼンを除去する事が可能な濃度にしておく。共沸濃度は圧力によっても変化し得るが、760mmHgにおいてベンゼンの濃度を35mol%未満(シクロヘキセンに対するベンゼン濃度は53mol%未満)に粗分離しておく。
【0016】
工程(a)での分離が粗くなるほど、工程(b)で得られる精製シクロヘキセンの量は減少するので、好ましくは、工程(a)で得られる留出液中のベンゼン濃度3mol%以下にする。工程(a)での分離を極端に良くするためには、蒸留塔を高くするか、複数の蒸留塔を設けることが必要になると共に、還流比が大幅に上がるので、経済性の観点から、ベンゼン濃度は0.1mol%以上であることが好ましい。
【0017】
[工程(b)]
工程(b)は、前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程である。
【0018】
工程(b)で使用する蒸留塔は、理論段数が10段から40段のもので十分に分離可能であり、還流比は特に限定されないが、通常1〜20の範囲で任意に変えることができる。混合溶液の組成や、工程(a)、工程(b)の分離状況にもよるが、還流比は2〜15が一般的である。
【0019】
工程(b)におけるベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物の抜き出し量は、回収されるシクロヘキセン中のベンゼンの濃度に応じて決定するのが好ましく、通常は、工程(b)に供給されるベンゼンの2倍mol量〜30倍mol量が一般的である。共沸混合物の留出口等におけるベンゼン濃度をガスクロマトグラフィーでモニタリングしながら、抜き出し量を適宜決定することができる。
【0020】
精製シクロヘキセン中のベンゼン濃度は、0.001mol%以上0.1mol%以下が好ましい。
【0021】
蒸留塔の操作圧力としては、運転効率が良好となるように適宣設定すればよく、100mmHgから1500mHgに設定するのが好ましい。
【0022】
[工程(c)]
工程(c)は、前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程である。
【0023】
工程(a)により、混合溶液を抽出蒸留したシクロヘキセンを含む留出液を更に共沸蒸留塔に供給し、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去するのが好ましい。ベンゼンのほか、シクロヘキサン濃度も低減することによって、一層純度良くシクロヘキセンを精製することができる。
【0024】
シクロヘキサンがシクロヘキセンと共沸し、工程(c)を実行できる観点から、工程(a)で得られる留出液は100mmHgにおけるシクロヘキサンの濃度が35mol%未満(シクロヘキセンに対するシクロヘキサン濃度は53mol%未満)に粗分離されている。シクロヘキサンを効率よく分離する観点では、シクロヘキサン濃度3mol%以下にするのが好ましく、経済性の観点から、下限は0.1mol%以上が好ましい。
【0025】
工程(b)及び工程(c)の順番は特に限定されず、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物を分離した後でベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物を分離してもよいし、その逆の順序でもよい。工程(b)の蒸留塔と、工程(c)の蒸留塔は、これらの工程が機能すればよいので、独立している必要は無い。よって設備を少なくする為に工程(b)と合わせて1塔にしてもよいし、塔高を低くする為に工程(b)と独立させて1塔を設置してもよい。1塔であれば、理論段数が20段から50段、独立の2塔式であれば10段から40段のもので十分に分離可能であり、還流比は特に限定されないが、通常1〜20の範囲で任意に変えることができる。混合溶液の組成や、工程(a)、工程(c)の分離状況にもよるが、還流比2〜15が一般的である。
【0026】
工程(c)におけるシクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物の抜き出し量は、回収されるシクロヘキセン中のシクロヘキサンの濃度に応じて決定するのが好ましく、通常は、工程(c)に供給されるシクロヘキサンの2倍mol量〜30倍mol量が一般的である。各共沸混合物の缶出口等におけるシクロヘキサン濃度をガスクロマトグラフィーでモニタリングしながら、抜き出し量を適宜決定することができる。
【0027】
工程(c)で使用する蒸留塔の操作圧力は100mmHgから600mHgが好ましい。シクロヘキサンを除去する場合は、精製シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度は、0.001mol%以上0.1mol%以下が好ましい。
【0028】
本発明者は、シクロヘキセン−ベンゼン及びシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡データを採取して検討した結果、単に抽剤を用いて抽出蒸留を行っても、特にシクロヘキセン高濃度域においては、十分な分離を得るのが困難であることを確認した。また抽剤を用いずに蒸留を行った場合は共沸組成を持つことから、この「共沸組成を持つ」という特性を抽出蒸留に組み合わせる事で高純度のシクロヘキセンが得られることを見出し、発明に至った(図4〜図9参照)。シクロヘキセン−ベンゼン及びシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡データから、高純度のシクロヘキセンを得るには、工程(a)における抽出蒸留により、おおまかにシクロヘキセンと、ベンゼン及びシクロヘキサンを分離した後、工程(b)及び必要に応じて工程(c)における共沸蒸留により、シクロヘキセン中のベンゼン及びシクロヘキサンを低減するのが有効であるという結論に至った。この方法を用いると、従来方法に比べ、より簡便な設備の追加、及び使用エネルギーの低減が可能となる。シクロヘキセン、シクロヘキサン、及びベンゼンの濃度は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0029】
以下に、図面を用いて本発明の一実施態様を具体的に説明するが、本発明はかかる実施態様に限定されるものではない。図1及び図2は、ベンゼンの部分水素化により調製したシクロヘキサン、シクロへキセン及びベンゼンを含む混合溶液を、3塔方式で蒸留分離する装置の一例を概略的に示す。なお、図中の太線は、シクロヘキセンが含まれる留分を示す。
【0030】
図1はベンゼンのみを共沸蒸留で除去するプロセス例である。シクロヘキサン、シクロヘキセン及びベンゼンを含む混合溶液は、ラインL1を通じて蒸留塔D1中段部に導入される。一方、ラインL2を通じて蒸留塔D1上部に抽剤が導入され、混合液は抽剤に溶解する。抽剤の例としては、アジポニトリル、スルホラン、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。これらのうち好ましい抽剤は、沸点及び極性の観点で、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドである。抽剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
蒸留塔D1塔頂よりシクロヘキサン等のシクロヘキセンより低沸点物を主成分とする留分が抜き出され、コンデンサーで凝縮された後、その一部が還流として蒸留塔D1に戻されると共に、残りはラインL3から抜き出される。蒸留塔D1塔底からベンゼン、シクロヘキセン、抽剤を主成分とする留分が抜き出され、ラインL4を通じて蒸留塔D2の中段へ導入される。必要に応じラインL5から抽剤を導入してもよい。蒸留塔D2においても蒸留分離が行われ、塔頂からシクロヘキセンを主成分とする留分が抜き出される。塔頂留分の一部は還流して蒸留塔D2に戻されるが、残りはラインL6から抜き出される。蒸留塔D2塔底から、ベンゼンと抽剤を主成分とする留分が抜き出され、ラインL7を通じて蒸留塔D3へ導入される。
【0032】
蒸留塔D3は主として抽剤の回収を担う。ベンゼンと抽剤を含む混合液が蒸留塔D3で蒸留分離され、抽剤を主成分とする塔底液は蒸留塔D1に循環される。塔頂からベンゼンを主成分とする留分が抜き出されるので、部分水素化反応に循環させることができる。
【0033】
ラインL6を通じて抜き出されたシクロヘキセンを主成分とする留分は、蒸留塔D4の中段に供給される。蒸留塔D4における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D4の塔底抜き出しラインL9から取り出される。蒸留塔D4の塔頂からは、ベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物が抜き出され、一部は還流され、残部はラインL8を通って蒸留塔D2にリサイクルされる。
【0034】
図2はベンゼン及びシクロヘキサンを共沸蒸留で除去するプロセス例である。図1と同様に、ラインL6を通じて抜き出されたシクロヘキセンを主成分とする留分は、蒸留塔D4の中段に供給される。蒸留塔D4における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D4の中段であって、供給部より下段に設けられた抜き出しラインL9から取り出される。蒸留塔D4の塔頂からは、ベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物が抜き出され、一部は還流され、残部はラインL8を通って蒸留塔D2にリサイクルされる。塔底液は、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸物であり、ラインL10を通って、蒸留塔D1にリサイクルされる。
【0035】
図1に示す例は、塔頂からの共沸混合物を蒸留塔D2にリサイクルしているが、シクロヘキセンの精製方法において共沸混合物のリサイクルは必須ではなく、そのまま系外に抜出してもよい。図2に示す例は、塔底からの共沸混合物もD1にリサイクルしているが、上記と同様に、シクロヘキセンの精製方法において共沸混合物のリサイクルは必須ではなく、そのまま系外に抜出してもよい。ただし、共沸混合物には、目的生成物であるシクロヘキセンが低くない濃度で含まれることから、リサイクルするのが経済的に有利であることはもちろんである。リサイクルする場合は、それぞれの濃度に適した場所に導入するのが好ましい。
以上のように、図1及び図2に示す蒸留装置においては、蒸留塔D1〜D3で工程(a)の抽出蒸留を行い(3塔方式)、蒸留塔D4で工程(b)の共沸蒸留を行う。
【0036】
図3は、蒸留装置の別の例を示す。図3に示す装置は、蒸留塔D5〜D8によって工程(a)の抽出蒸留を行う(4塔方式)。
【0037】
ベンゼン、シクロヘキセン及びシクロヘキサンを含む混合溶液は、ラインL1から蒸留塔D5に供給される。蒸留塔D5には、ラインL1より上段から抽剤が供給され、混合溶液は抽出蒸留される。塔頂からは、シクロヘキサン及びシクロヘキセンを含む留分がラインL11を通じて抜き出される。塔底液には主としてベンゼン及び抽剤が含まれており、ラインL12を通じて蒸留塔D6に供給される。
【0038】
蒸留塔D6ではベンゼンと抽剤が分離され、抽剤はラインL13を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。ベンゼンは塔頂から留出する。
【0039】
蒸留塔D7には、ラインL11を通じてシクロヘキサン及びシクロヘキセンを含む留分が供給されて抽出蒸留される。主としてシクロヘキサンは塔頂から留出し、一部還流されて抜き出される一方、シクロヘキセンと抽剤を含む留分は塔底から缶出しされ、ラインL14を通じて蒸留塔D8に供給される。
【0040】
蒸留塔D8では、シクロヘキセンと抽剤が分離されて、シクロヘキセンを主成分とする留分は、ラインL15を通じて共沸蒸留に供される。抽剤は塔底から回収され、蒸留塔D5及びD7にリサイクルされる。
【0041】
工程(b)の共沸蒸留は、蒸留塔D9で行う。蒸留塔D9に供給されるシクロヘキセンを主成分とする留分には、シクロヘキサン及びベンゼンが含まれているが、図3の例はベンゼンのみを共沸で除去するプロセスである。蒸留塔D9の塔頂からはベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物が留出し、一部が還流され、ラインL16を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。蒸留塔D9における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D9の塔底抜き出しラインL17から取り出される。
【0042】
図4はベンゼン及びシクロヘキサンを共沸蒸留で除去するプロセス例であり、工程(b)の共沸蒸留は、第一の蒸留塔D9及び第二の蒸留塔D10で行う。第一の蒸留塔D9に供給されるシクロヘキセンを主成分とする留分には、シクロヘキサン及びベンゼンが含まれている。蒸留塔D9の塔頂からはベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物が留出し、一部が還流され、ラインL16を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。残りの留分は塔底からラインL17を通じて第二の蒸留塔D10に供給され、さらに分離される。蒸留塔D10の塔底からはシクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物を缶出し、塔頂から目的の精製シクロヘキセンを得る。シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物は、ラインL19を通って蒸留塔D7にリサイクルされる。
【0043】
図1及び2に示す例では、工程(a)が3塔方式、図3及び4に示す例では、工程(a)が4塔方式である。また、図1及び3に示す例では、工程(b)は1塔式でベンゼンのみを共沸除去する方式であり、図2に示す例では、工程(b)は1塔式でベンゼンとシクロヘキサンを共沸除去する方式であり、図4に示す例では、工程(b)は2塔式でベンゼンとシクロヘキサンを共沸除去する方式であるが、本実施の形態の製造方法において、工程(a)と工程(b)の塔数の組合わせは、これらに限定されない。各工程の蒸留塔数は、ラインL1から供給される混合溶液の組成や塔設置エリア、必要とするシクロヘキセン純度、使用エネルギーの単価などに応じて、適宜設定することができる。
【0044】
[2]シクロヘキセンの製造方法
本実施の形態のシクロヘキセンの製造方法は、(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、を含む。工程(ii)及び(iii)による混合溶液の精製工程は、上述の[1]シクロヘキセンの精製方法と同じであるから、相違点のみ次に説明する。
【0045】
工程(i)は、ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程である。ベンゼンを部分水素化する方法としては、特に限定されず、例えば、触媒及び水を含むスラリーに、ベンゼンと水素を通入する方法を用いることができる。
【0046】
反応に用いる水の量は反応形式により異なるが、少なくとも反応系が原料及び生成物を主成分とする有機相(油相)と水を主成分とする水相の2相を形成するような量を用いるのが好ましく、通常、原料であるベンゼンに対して0.01〜10質量倍、好ましくは0.1〜5質量倍とする。2相を形成し易く、後述する油水分離を容易にする観点からは、ベンゼンに対して0.01質量倍以上とするのが好ましく、反応槽を大きくする必要がなく、良好な製造効率を得る観点からは、ベンゼンに対して10質量倍以下とするのが好ましい。また、用いる水の量をベンゼンに対して0.01〜10質量倍とすることで、ベンゼンの部分水素化においてシクロへキセンがより選択的に得られる傾向にあるため好ましい。
【0047】
ベンゼンの部分水素化反応の溶液には、金属塩を存在させてもよい。金属塩としては、周期律表1族金属、2族金属、或いは亜鉛、マンガン、コバルト等の硫酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩等の無機酸塩、或いはこれら金属の酢酸塩等の有機酸塩が挙げられる。特に、活性及び選択率を高める傾向にあるため、硫酸亜鉛、硫酸コバルトが好ましい。金属塩の使用量は、通常、反応系の水の量に対して、1×10-5質量倍〜1質量倍、好ましくは1×10-4質量倍〜0.1質量倍である。
【0048】
反応に用いる触媒としては、通常、ルテニウム系触媒が使用され、具体的には種々のルテニウム化合物を還元して得られる金属ルテニウムが好ましい。ルテニウム化合物としては、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、水酸化物、ルテニウムカルボニル、ルテニウムアンミン錯体等の錯化合物、アルコキシド等が挙げられ、好ましくはハロゲン化物であり、より好ましくは塩化ルテニウムである。ルテニウム化合物を還元する方法としては、例えば、水素ガスによる接触還元法、ホルマリン、ヒドラジン、水素化ホウ素等による化学的還元法を用いることができ、中でも、水素ガスによる接触還元法が好ましい。
【0049】
触媒の活性成分としては上記金属ルテニウム単独でもよいし、助触媒として他の金属成分を併用してもよい。助触媒の例としては、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン、金、ランタン、銅等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、錯化合物が挙げられ、中でも、亜鉛の化合物が好ましく、硫酸亜鉛がより好ましい。助触媒の使用量は、金属ルテニウム原子に対する助触媒金属の原子比として、好ましくは0.01〜20、より好ましくは0.1〜10である。
【0050】
触媒及び助触媒は、非担持型でも担持型でもよい。非担持型触媒を調製する方法としては、例えば、金属ルテニウム及び必要に応じて助触媒成分を含む混合液を得た後、アルカリ沈澱法等により固体として得てもよいし、均一溶液の状態で蒸発乾固してもよい。
【0051】
担持型触媒を調製する方法としては、金属ルテニウムをシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム或いはその他の金属酸化物、複合酸化物、水酸化物、活性炭等の担体に担持させる方法が挙げられる。担持方法としては、例えば、イオン交換法、スプレー法、含浸法、蒸発乾固法が挙げられ、好ましくはイオン交換法である。金属ルテニウムの担持量は、担体に対して0.001〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。助触媒成分は金属ルテニウムと同時に担持させてもよいし、順次担持させてもよい。また、触媒を水処理することにより生成するシクロヘキセンの選択率をさらに改良し得る。
【0052】
ベンゼンを部分水素化する際の反応温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜220℃である。十分な選択率でシクロヘキセンを生成させる観点からは、反応温度は250℃以下が好ましく、十分な反応速度でシクロへキセンの収率を高く維持する観点からは、50℃以上が好ましい。また、部分水素化反応における系内の圧力は、水素圧で0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。系内の圧力が20MPaを超える場合、工業的に不利となるおそれがあり、0.1MPa未満の場合、反応速度が低下し、シクロへキセンの収率が低下するおそれがある。反応形式としては一槽又は二槽以上の反応槽を用いて連続式で行うのが好ましい。
【0053】
部分水素化反応後の反応液は、金属ルテニウム触媒が分散した水相と、主としてベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサン等を含む有機相(油相)の混合物である。かかる反応液は、例えば、油水分離器の静置槽へ導入し、油水分離する。油水分離器は部分水素化反応を行った反応器内或いは反応器外の何れに設置してもよい。分離された水相の少なくとも一部は部分水素化反応系に循環して再使用するのが好ましい。一方、油相は主として原料のベンゼン、生成物であるシクロヘキセン、副生物としてシクロヘキサン等を含有した混合溶液であり、工程(ii)により、抽剤を用いて蒸留分離される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明する。なお、以下において%とは、質量%を意味する。
(実施例1)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
特開2001−26556号(実施例1)に従って、塩化ルテニウム塩酸溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、水酸化ルテニウムの微粒子を調製し、水洗を繰り返して塩素イオンを除去した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、アルカリ性条件で水素圧50atm、150℃で24時間オートクレーブ中で撹拌しながら水中還元を行い、ルテニウムの平均結晶子径60Åの水素化触媒を調製した。これを、質量比で560倍の水と混合し、さらにジルコニアを水素化触媒の5質量倍、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO4・7H2O)を水素化触媒の98質量倍混合する事でスラリー状にした。反応温度140℃、攪拌機回転数108rpm、反応圧力5MPaとなるように部分水素化反応器を水素ガスで昇圧し、ベンゼンをスラリー状触媒1質量部に対し、1時間当たり0.3質量部供給し、反応圧力5MPaが保たれるよう水素を供給した。このようにしてベンゼンの連続部分水素化反応を行い、部分水素化反応器出口の液を、脱水塔で脱水する事でベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
【0055】
[シクロへキセンの蒸留分離1(図1参照)]
工程(a)及び工程(ii)
上記工程(i)で得られた混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1時間当たり1質量部供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン10質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度90.6mol%のシクロヘキサンが0.1質量部/1時間ずつ留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン5重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度94.9mol%のシクロヘキセン0.46質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、2.79mol%、シクロヘキサン濃度は、2.31mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.06質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。
【0056】
(実施例2)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離2(図2参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1時間当たり1質量部供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン10質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度90.6mol%のシクロヘキサンが0.11質量部/1時間ずつ留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン5重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度94.9mol%のシクロヘキセン0.60質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、2.79mol%、シクロヘキサン濃度は、2.31mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数35段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、上から20段目からシクロヘキセンガスを0.37質量部/1時間抜出し、冷却後の液組成がベンゼン0.01mol%、シクロヘキサン0.016mol%になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量及び缶出液量を調整した。留出液0.07質量部/1時間、缶出液0.16質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。
【0057】
(実施例3)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離2(図2参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1質量部/1時間供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン15質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度85.0mol%のシクロヘキサン0.11質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン8重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度90.0mol%のシクロヘキセン1.40質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、4.7mol%、シクロヘキサン濃度は、5.3mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数35段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、上から20段目からシクロヘキセンガス0.38質量部/1時間を抜出し、冷却後の液組成がベンゼン0.01mol%、シクロヘキサン0.016mol%になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量及び缶出液量を調整した。留出液0.21質量部/1時間、缶出液0.81質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。実施例1と同純度、同量のシクロヘキセンが回収できたが、リサイクル量は実施例1に比べて多くなり、工程(a)及び工程(b)のリボイラー熱負荷は高くなった。
【0058】
(比較例1)
シクロヘキセン精製塔D4を用いずに、蒸留塔D1及びD2で、シクロヘキセン中のシクロヘキサン及びベンゼン濃度を極力下げる運転を行ったこと以外は、実施例2と同様にシクロへキセンの抽出蒸留を行った。
リボイラー熱負荷を実施例1より大幅に増大させたにもかかわらず、実施例と同等の分離は出来なかった。
実施例1〜3、比較例1における結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(比較例2)
[シクロへキセンの蒸留分離3]
図5に示すように、抽剤及びシクロヘキセン精製塔を用いずに、蒸留塔D11〜12で蒸留を行った。
1塔目で十分な分離が出来ないまま、蒸留塔はフラッディングを起こし、抽剤を用いた蒸留操作(抽出蒸留)が必須であることがわかった。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例4)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離4(図3参照)]
工程(a)及び工程(ii)
工程(i)で得られた混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド4.1mol%、ベンゼン0.1mol%、シクロヘキサン19.0mol%、シクロヘキセン76.80mol%を含む混合液0.51質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D6塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.51質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔8塔頂より純度99.7mol%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.13mol%、シクロヘキサン濃度は、0.16mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。
【0063】
(実施例5)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離5(図4参照)]
工程(a)及び工程(ii)
工程(i)で得られた混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド3.9mol%、ベンゼン0.1mol%、シクロヘキサン18.8mol%、シクロヘキセン77.2mol%を含む混合液0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D6塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.52質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔8塔頂より純度99.7mol%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.12mol%、シクロヘキサン濃度は、0.14mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。シクロヘキセン精製塔D9塔底液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D10の上から7段目に供給し、塔頂の液組成がシクロヘキサン0.012mol%で、塔頂の留出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と缶出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。
【0064】
(実施例6)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離5(図4参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド10質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド3.3mol%、ベンゼン0.06mol%、シクロヘキサン19.0mol%、シクロヘキセン77.7mol%を含む混合液0.50質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.50質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド10質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔D8塔頂より純度99.8質量%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.08mol%、シクロヘキサン濃度は、0.07mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.002質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。シクロヘキセン精製塔D9塔底液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D10の上から7段目に供給し、塔頂の液組成がシクロヘキサン0.012mol%で、塔頂の留出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と缶出液量を調整した。留出液0.002質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。実施例5と同純度、同量のシクロヘキセンが回収できたが、工程(a)のリボイラー熱負荷は高くなった。
【0065】
(比較例3)
シクロヘキセン精製塔D9及びD10を用いなかったこと以外は、実施例6と同様にシクロへキセンの抽出蒸留を行った。
リボイラー熱負荷が実施例6より大幅に増大したにもかかわらず、十分な分離は出来なかった。
実施例4〜6、比較例3における結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、分離工程で抽出蒸留分離と通常の蒸留を組み合わせることで、高純度のシクロヘキセンを連続的に分離及び製造することができる。
【符号の説明】
【0068】
D1〜D12 ・・・ 蒸留塔
ラインL1〜ラインL16 ・・・ ライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキセンを精製及び製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキセンの製造方法に関しては、種々の方法が知られている。その一つとしてベンゼンの部分水素化が挙げられる。ベンゼンの部分水素化は、通常、ルテニウム触媒の存在下、水とベンゼンの懸濁液に水素を通入する反応によって行われる。その反応の結果、水、シクロヘキサン、シクロヘキセン、未反応ベンゼン等を含有する混合物が得られる。該混合物から高純度のシクロヘキセンを得るためには、反応混合物からシクロヘキセンを分離する方法が問題となる。シクロヘキサン、シクロヘキセン及びベンゼンは沸点が近接しているため、通常の蒸留方法では高純度のシクロヘキセンを得る事は困難である。このため、これらの混合物から高純度のシクロへキセンを分離する方法として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アジポニトリル、スルホラン、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、エチレングリコール等の抽剤を使用する抽出蒸留法が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−169669号公報
【特許文献2】特開平9−30994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が上記文献に記載された抽出蒸留法により、シクロヘキセンを抽出蒸留したところ、シクロヘキセンの用途によっては、スペックを十分に満足する純度のシクロヘキセンを得る事ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者が、抽出蒸留法の分離結果を入念に調査したところ、抽出蒸留法で得られるシクロヘキセン中には、不純物としてベンゼン及びシクロヘキサンの含有量が多いことが分かった。特にベンゼンは、発がん性物質であると共に、PRTR規制物質に指定されており、製品中のベンゼン濃度を低減することへの要請が大きい。そして、これらの含有量を低減するには、上記抽出蒸留法に共沸蒸留を組み合わせることが効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
[2]
(c)前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程をさらに含む、上記[1]記載のシクロヘキセンの精製方法。
[3]
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとベンゼンの和に対するベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[1]又は[2]記載のシクロヘキセンの精製方法。
[4]
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとシクロヘキサンの和に対するシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[1]〜[3]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[5]
前記工程(a)で得られた留出液を供給した蒸留塔の塔頂から、前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、中段から前記シクロヘキセンを回収する、上記[2]〜[4]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[6]
前記工程(b)において、前記工程(a)で得られた留出液を第一の蒸留塔に供給して塔頂から前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去すると共に、塔底液を第二の蒸留塔に供給し、
前記第二の蒸留塔の塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、前記第二の蒸留塔の塔頂から前記シクロヘキセンを回収する、上記[2]〜[4]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[7]
前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、上記[1]〜[6]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[8]
前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、上記[2]〜[7]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[9]
前記抽出蒸留の抽剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/又はN,N−ジメチルアセトアミドである、上記[1]〜[8]のいずれか記載のシクロヘキセンの精製方法。
[10]
(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、
(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、
を含むシクロヘキセンの製造方法。
[11]
(iv)前記工程(ii)で得た留出液から、シクロヘキサンを、シクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程をさらに含む、上記[10]記載のシクロヘキセンの製造方法。
[12]
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[10]又は[11]記載のシクロヘキセンの製造方法。
[13]
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、上記[11]又は[12]記載のシクロヘキセンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡便な設備で抽出蒸留の分離不良を補完でき、ベンゼン濃度の低いシクロヘキセンを、効率良く精製又は製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の精製方法に使用される装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図3】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図4】本発明の精製方法に使用される装置の別の例を示す概略図である。
【図5】抽剤を用いない蒸留(抽出蒸留を行わない)装置の一例を示す概略図である。
【図6】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図である。
【図7】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図のシクロヘキセン高濃度域の拡大図である。
【図8】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡曲線図である。
【図9】N,N−ジメチルアセトアミドを抽剤として用いた場合のシクロヘキサン−シクロヘキセン気液平衡曲線図のシクロヘキセン高濃度域の拡大図である。
【図10】抽剤を用いない場合のシクロヘキセン−ベンゼン気液平衡曲線図である。
【図11】抽剤を用いない場合のシクロヘキサン−シクロヘキセン気液平衡曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」とも言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その思想の範囲内で種々に変形して実施することができる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
[1]シクロヘキセンの精製方法
本実施の形態のシクロヘキセンの精製方法は、
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含む方法である。
【0011】
[工程(a)]
精製の対象となる混合溶液は、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む限り、組成比やその他の成分は特に限定されないが、典型的には、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンの組成比は、35〜45mol:5〜15mol:45〜55mol程度である。このような組成の混合溶液は、例えば、ベンゼンの部分水素化反応の生成物として得られる。
【0012】
混合溶液は、その他の成分としてトルエンやペンタン、ヘキサンを含有してもよい。これらの比率は混合溶液全体の5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
【0013】
工程(a)で使用する蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。理論段数が多いほど、留分に含まれる不純物を低減できるが、理論段数を増やすには蒸留塔を高くするか、複数の蒸留塔を設けることが必要になるので経済的な観点からは60段以下に抑えるのが好ましい。通常、蒸留塔の上段側に抽剤を供給し、混合溶液は蒸留塔の中段より下側に供給する。
【0014】
抽剤の使用量は、混合溶液に対して通常は等量以上20倍以下であり、還流比は、通常1〜20である。
【0015】
図10に示すように、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸点は760mmHgにおいて、これらのモル数の和100mol%に対して、ベンゼン濃度35mol%である。
ベンゼン濃度=ベンゼンのモル数/(シクロヘキセンのモル数+ベンゼンのモル数)
また、図11に示すように、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸点は100mmHgにおいて、これらのモル数の和100mol%に対して、シクロヘキサン濃度35mol%である。
シクロヘキサン濃度=シクロヘキサンのモル数/(シクロヘキセンのモル数+シクロヘキサンのモル数)
後述する工程(b)は、共沸蒸留によりシクロヘキセンを精製する工程であるから、工程(a)の留分を工程(b)に直接導入する場合は、工程(a)で得られる留出液中のベンゼン濃度を、工程(b)における共沸蒸留により不純物であるベンゼンを除去する事が可能な濃度にしておく。共沸濃度は圧力によっても変化し得るが、760mmHgにおいてベンゼンの濃度を35mol%未満(シクロヘキセンに対するベンゼン濃度は53mol%未満)に粗分離しておく。
【0016】
工程(a)での分離が粗くなるほど、工程(b)で得られる精製シクロヘキセンの量は減少するので、好ましくは、工程(a)で得られる留出液中のベンゼン濃度3mol%以下にする。工程(a)での分離を極端に良くするためには、蒸留塔を高くするか、複数の蒸留塔を設けることが必要になると共に、還流比が大幅に上がるので、経済性の観点から、ベンゼン濃度は0.1mol%以上であることが好ましい。
【0017】
[工程(b)]
工程(b)は、前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程である。
【0018】
工程(b)で使用する蒸留塔は、理論段数が10段から40段のもので十分に分離可能であり、還流比は特に限定されないが、通常1〜20の範囲で任意に変えることができる。混合溶液の組成や、工程(a)、工程(b)の分離状況にもよるが、還流比は2〜15が一般的である。
【0019】
工程(b)におけるベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物の抜き出し量は、回収されるシクロヘキセン中のベンゼンの濃度に応じて決定するのが好ましく、通常は、工程(b)に供給されるベンゼンの2倍mol量〜30倍mol量が一般的である。共沸混合物の留出口等におけるベンゼン濃度をガスクロマトグラフィーでモニタリングしながら、抜き出し量を適宜決定することができる。
【0020】
精製シクロヘキセン中のベンゼン濃度は、0.001mol%以上0.1mol%以下が好ましい。
【0021】
蒸留塔の操作圧力としては、運転効率が良好となるように適宣設定すればよく、100mmHgから1500mHgに設定するのが好ましい。
【0022】
[工程(c)]
工程(c)は、前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程である。
【0023】
工程(a)により、混合溶液を抽出蒸留したシクロヘキセンを含む留出液を更に共沸蒸留塔に供給し、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去するのが好ましい。ベンゼンのほか、シクロヘキサン濃度も低減することによって、一層純度良くシクロヘキセンを精製することができる。
【0024】
シクロヘキサンがシクロヘキセンと共沸し、工程(c)を実行できる観点から、工程(a)で得られる留出液は100mmHgにおけるシクロヘキサンの濃度が35mol%未満(シクロヘキセンに対するシクロヘキサン濃度は53mol%未満)に粗分離されている。シクロヘキサンを効率よく分離する観点では、シクロヘキサン濃度3mol%以下にするのが好ましく、経済性の観点から、下限は0.1mol%以上が好ましい。
【0025】
工程(b)及び工程(c)の順番は特に限定されず、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物を分離した後でベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物を分離してもよいし、その逆の順序でもよい。工程(b)の蒸留塔と、工程(c)の蒸留塔は、これらの工程が機能すればよいので、独立している必要は無い。よって設備を少なくする為に工程(b)と合わせて1塔にしてもよいし、塔高を低くする為に工程(b)と独立させて1塔を設置してもよい。1塔であれば、理論段数が20段から50段、独立の2塔式であれば10段から40段のもので十分に分離可能であり、還流比は特に限定されないが、通常1〜20の範囲で任意に変えることができる。混合溶液の組成や、工程(a)、工程(c)の分離状況にもよるが、還流比2〜15が一般的である。
【0026】
工程(c)におけるシクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物の抜き出し量は、回収されるシクロヘキセン中のシクロヘキサンの濃度に応じて決定するのが好ましく、通常は、工程(c)に供給されるシクロヘキサンの2倍mol量〜30倍mol量が一般的である。各共沸混合物の缶出口等におけるシクロヘキサン濃度をガスクロマトグラフィーでモニタリングしながら、抜き出し量を適宜決定することができる。
【0027】
工程(c)で使用する蒸留塔の操作圧力は100mmHgから600mHgが好ましい。シクロヘキサンを除去する場合は、精製シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度は、0.001mol%以上0.1mol%以下が好ましい。
【0028】
本発明者は、シクロヘキセン−ベンゼン及びシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡データを採取して検討した結果、単に抽剤を用いて抽出蒸留を行っても、特にシクロヘキセン高濃度域においては、十分な分離を得るのが困難であることを確認した。また抽剤を用いずに蒸留を行った場合は共沸組成を持つことから、この「共沸組成を持つ」という特性を抽出蒸留に組み合わせる事で高純度のシクロヘキセンが得られることを見出し、発明に至った(図4〜図9参照)。シクロヘキセン−ベンゼン及びシクロヘキサン−シクロヘキセンの気液平衡データから、高純度のシクロヘキセンを得るには、工程(a)における抽出蒸留により、おおまかにシクロヘキセンと、ベンゼン及びシクロヘキサンを分離した後、工程(b)及び必要に応じて工程(c)における共沸蒸留により、シクロヘキセン中のベンゼン及びシクロヘキサンを低減するのが有効であるという結論に至った。この方法を用いると、従来方法に比べ、より簡便な設備の追加、及び使用エネルギーの低減が可能となる。シクロヘキセン、シクロヘキサン、及びベンゼンの濃度は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0029】
以下に、図面を用いて本発明の一実施態様を具体的に説明するが、本発明はかかる実施態様に限定されるものではない。図1及び図2は、ベンゼンの部分水素化により調製したシクロヘキサン、シクロへキセン及びベンゼンを含む混合溶液を、3塔方式で蒸留分離する装置の一例を概略的に示す。なお、図中の太線は、シクロヘキセンが含まれる留分を示す。
【0030】
図1はベンゼンのみを共沸蒸留で除去するプロセス例である。シクロヘキサン、シクロヘキセン及びベンゼンを含む混合溶液は、ラインL1を通じて蒸留塔D1中段部に導入される。一方、ラインL2を通じて蒸留塔D1上部に抽剤が導入され、混合液は抽剤に溶解する。抽剤の例としては、アジポニトリル、スルホラン、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。これらのうち好ましい抽剤は、沸点及び極性の観点で、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドである。抽剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
蒸留塔D1塔頂よりシクロヘキサン等のシクロヘキセンより低沸点物を主成分とする留分が抜き出され、コンデンサーで凝縮された後、その一部が還流として蒸留塔D1に戻されると共に、残りはラインL3から抜き出される。蒸留塔D1塔底からベンゼン、シクロヘキセン、抽剤を主成分とする留分が抜き出され、ラインL4を通じて蒸留塔D2の中段へ導入される。必要に応じラインL5から抽剤を導入してもよい。蒸留塔D2においても蒸留分離が行われ、塔頂からシクロヘキセンを主成分とする留分が抜き出される。塔頂留分の一部は還流して蒸留塔D2に戻されるが、残りはラインL6から抜き出される。蒸留塔D2塔底から、ベンゼンと抽剤を主成分とする留分が抜き出され、ラインL7を通じて蒸留塔D3へ導入される。
【0032】
蒸留塔D3は主として抽剤の回収を担う。ベンゼンと抽剤を含む混合液が蒸留塔D3で蒸留分離され、抽剤を主成分とする塔底液は蒸留塔D1に循環される。塔頂からベンゼンを主成分とする留分が抜き出されるので、部分水素化反応に循環させることができる。
【0033】
ラインL6を通じて抜き出されたシクロヘキセンを主成分とする留分は、蒸留塔D4の中段に供給される。蒸留塔D4における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D4の塔底抜き出しラインL9から取り出される。蒸留塔D4の塔頂からは、ベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物が抜き出され、一部は還流され、残部はラインL8を通って蒸留塔D2にリサイクルされる。
【0034】
図2はベンゼン及びシクロヘキサンを共沸蒸留で除去するプロセス例である。図1と同様に、ラインL6を通じて抜き出されたシクロヘキセンを主成分とする留分は、蒸留塔D4の中段に供給される。蒸留塔D4における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D4の中段であって、供給部より下段に設けられた抜き出しラインL9から取り出される。蒸留塔D4の塔頂からは、ベンゼンとシクロヘキセンの共沸混合物が抜き出され、一部は還流され、残部はラインL8を通って蒸留塔D2にリサイクルされる。塔底液は、シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸物であり、ラインL10を通って、蒸留塔D1にリサイクルされる。
【0035】
図1に示す例は、塔頂からの共沸混合物を蒸留塔D2にリサイクルしているが、シクロヘキセンの精製方法において共沸混合物のリサイクルは必須ではなく、そのまま系外に抜出してもよい。図2に示す例は、塔底からの共沸混合物もD1にリサイクルしているが、上記と同様に、シクロヘキセンの精製方法において共沸混合物のリサイクルは必須ではなく、そのまま系外に抜出してもよい。ただし、共沸混合物には、目的生成物であるシクロヘキセンが低くない濃度で含まれることから、リサイクルするのが経済的に有利であることはもちろんである。リサイクルする場合は、それぞれの濃度に適した場所に導入するのが好ましい。
以上のように、図1及び図2に示す蒸留装置においては、蒸留塔D1〜D3で工程(a)の抽出蒸留を行い(3塔方式)、蒸留塔D4で工程(b)の共沸蒸留を行う。
【0036】
図3は、蒸留装置の別の例を示す。図3に示す装置は、蒸留塔D5〜D8によって工程(a)の抽出蒸留を行う(4塔方式)。
【0037】
ベンゼン、シクロヘキセン及びシクロヘキサンを含む混合溶液は、ラインL1から蒸留塔D5に供給される。蒸留塔D5には、ラインL1より上段から抽剤が供給され、混合溶液は抽出蒸留される。塔頂からは、シクロヘキサン及びシクロヘキセンを含む留分がラインL11を通じて抜き出される。塔底液には主としてベンゼン及び抽剤が含まれており、ラインL12を通じて蒸留塔D6に供給される。
【0038】
蒸留塔D6ではベンゼンと抽剤が分離され、抽剤はラインL13を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。ベンゼンは塔頂から留出する。
【0039】
蒸留塔D7には、ラインL11を通じてシクロヘキサン及びシクロヘキセンを含む留分が供給されて抽出蒸留される。主としてシクロヘキサンは塔頂から留出し、一部還流されて抜き出される一方、シクロヘキセンと抽剤を含む留分は塔底から缶出しされ、ラインL14を通じて蒸留塔D8に供給される。
【0040】
蒸留塔D8では、シクロヘキセンと抽剤が分離されて、シクロヘキセンを主成分とする留分は、ラインL15を通じて共沸蒸留に供される。抽剤は塔底から回収され、蒸留塔D5及びD7にリサイクルされる。
【0041】
工程(b)の共沸蒸留は、蒸留塔D9で行う。蒸留塔D9に供給されるシクロヘキセンを主成分とする留分には、シクロヘキサン及びベンゼンが含まれているが、図3の例はベンゼンのみを共沸で除去するプロセスである。蒸留塔D9の塔頂からはベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物が留出し、一部が還流され、ラインL16を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。蒸留塔D9における蒸留により共沸留分が除かれた精製シクロヘキセンは、蒸留塔D9の塔底抜き出しラインL17から取り出される。
【0042】
図4はベンゼン及びシクロヘキサンを共沸蒸留で除去するプロセス例であり、工程(b)の共沸蒸留は、第一の蒸留塔D9及び第二の蒸留塔D10で行う。第一の蒸留塔D9に供給されるシクロヘキセンを主成分とする留分には、シクロヘキサン及びベンゼンが含まれている。蒸留塔D9の塔頂からはベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物が留出し、一部が還流され、ラインL16を通じて蒸留塔D5にリサイクルされる。残りの留分は塔底からラインL17を通じて第二の蒸留塔D10に供給され、さらに分離される。蒸留塔D10の塔底からはシクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物を缶出し、塔頂から目的の精製シクロヘキセンを得る。シクロヘキサンとシクロヘキセンの共沸混合物は、ラインL19を通って蒸留塔D7にリサイクルされる。
【0043】
図1及び2に示す例では、工程(a)が3塔方式、図3及び4に示す例では、工程(a)が4塔方式である。また、図1及び3に示す例では、工程(b)は1塔式でベンゼンのみを共沸除去する方式であり、図2に示す例では、工程(b)は1塔式でベンゼンとシクロヘキサンを共沸除去する方式であり、図4に示す例では、工程(b)は2塔式でベンゼンとシクロヘキサンを共沸除去する方式であるが、本実施の形態の製造方法において、工程(a)と工程(b)の塔数の組合わせは、これらに限定されない。各工程の蒸留塔数は、ラインL1から供給される混合溶液の組成や塔設置エリア、必要とするシクロヘキセン純度、使用エネルギーの単価などに応じて、適宜設定することができる。
【0044】
[2]シクロヘキセンの製造方法
本実施の形態のシクロヘキセンの製造方法は、(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、を含む。工程(ii)及び(iii)による混合溶液の精製工程は、上述の[1]シクロヘキセンの精製方法と同じであるから、相違点のみ次に説明する。
【0045】
工程(i)は、ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程である。ベンゼンを部分水素化する方法としては、特に限定されず、例えば、触媒及び水を含むスラリーに、ベンゼンと水素を通入する方法を用いることができる。
【0046】
反応に用いる水の量は反応形式により異なるが、少なくとも反応系が原料及び生成物を主成分とする有機相(油相)と水を主成分とする水相の2相を形成するような量を用いるのが好ましく、通常、原料であるベンゼンに対して0.01〜10質量倍、好ましくは0.1〜5質量倍とする。2相を形成し易く、後述する油水分離を容易にする観点からは、ベンゼンに対して0.01質量倍以上とするのが好ましく、反応槽を大きくする必要がなく、良好な製造効率を得る観点からは、ベンゼンに対して10質量倍以下とするのが好ましい。また、用いる水の量をベンゼンに対して0.01〜10質量倍とすることで、ベンゼンの部分水素化においてシクロへキセンがより選択的に得られる傾向にあるため好ましい。
【0047】
ベンゼンの部分水素化反応の溶液には、金属塩を存在させてもよい。金属塩としては、周期律表1族金属、2族金属、或いは亜鉛、マンガン、コバルト等の硫酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩等の無機酸塩、或いはこれら金属の酢酸塩等の有機酸塩が挙げられる。特に、活性及び選択率を高める傾向にあるため、硫酸亜鉛、硫酸コバルトが好ましい。金属塩の使用量は、通常、反応系の水の量に対して、1×10-5質量倍〜1質量倍、好ましくは1×10-4質量倍〜0.1質量倍である。
【0048】
反応に用いる触媒としては、通常、ルテニウム系触媒が使用され、具体的には種々のルテニウム化合物を還元して得られる金属ルテニウムが好ましい。ルテニウム化合物としては、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、水酸化物、ルテニウムカルボニル、ルテニウムアンミン錯体等の錯化合物、アルコキシド等が挙げられ、好ましくはハロゲン化物であり、より好ましくは塩化ルテニウムである。ルテニウム化合物を還元する方法としては、例えば、水素ガスによる接触還元法、ホルマリン、ヒドラジン、水素化ホウ素等による化学的還元法を用いることができ、中でも、水素ガスによる接触還元法が好ましい。
【0049】
触媒の活性成分としては上記金属ルテニウム単独でもよいし、助触媒として他の金属成分を併用してもよい。助触媒の例としては、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン、金、ランタン、銅等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、錯化合物が挙げられ、中でも、亜鉛の化合物が好ましく、硫酸亜鉛がより好ましい。助触媒の使用量は、金属ルテニウム原子に対する助触媒金属の原子比として、好ましくは0.01〜20、より好ましくは0.1〜10である。
【0050】
触媒及び助触媒は、非担持型でも担持型でもよい。非担持型触媒を調製する方法としては、例えば、金属ルテニウム及び必要に応じて助触媒成分を含む混合液を得た後、アルカリ沈澱法等により固体として得てもよいし、均一溶液の状態で蒸発乾固してもよい。
【0051】
担持型触媒を調製する方法としては、金属ルテニウムをシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニウム或いはその他の金属酸化物、複合酸化物、水酸化物、活性炭等の担体に担持させる方法が挙げられる。担持方法としては、例えば、イオン交換法、スプレー法、含浸法、蒸発乾固法が挙げられ、好ましくはイオン交換法である。金属ルテニウムの担持量は、担体に対して0.001〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。助触媒成分は金属ルテニウムと同時に担持させてもよいし、順次担持させてもよい。また、触媒を水処理することにより生成するシクロヘキセンの選択率をさらに改良し得る。
【0052】
ベンゼンを部分水素化する際の反応温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜220℃である。十分な選択率でシクロヘキセンを生成させる観点からは、反応温度は250℃以下が好ましく、十分な反応速度でシクロへキセンの収率を高く維持する観点からは、50℃以上が好ましい。また、部分水素化反応における系内の圧力は、水素圧で0.1〜20MPa、好ましくは0.5〜10MPaである。系内の圧力が20MPaを超える場合、工業的に不利となるおそれがあり、0.1MPa未満の場合、反応速度が低下し、シクロへキセンの収率が低下するおそれがある。反応形式としては一槽又は二槽以上の反応槽を用いて連続式で行うのが好ましい。
【0053】
部分水素化反応後の反応液は、金属ルテニウム触媒が分散した水相と、主としてベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサン等を含む有機相(油相)の混合物である。かかる反応液は、例えば、油水分離器の静置槽へ導入し、油水分離する。油水分離器は部分水素化反応を行った反応器内或いは反応器外の何れに設置してもよい。分離された水相の少なくとも一部は部分水素化反応系に循環して再使用するのが好ましい。一方、油相は主として原料のベンゼン、生成物であるシクロヘキセン、副生物としてシクロヘキサン等を含有した混合溶液であり、工程(ii)により、抽剤を用いて蒸留分離される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明する。なお、以下において%とは、質量%を意味する。
(実施例1)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
特開2001−26556号(実施例1)に従って、塩化ルテニウム塩酸溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて、水酸化ルテニウムの微粒子を調製し、水洗を繰り返して塩素イオンを除去した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、アルカリ性条件で水素圧50atm、150℃で24時間オートクレーブ中で撹拌しながら水中還元を行い、ルテニウムの平均結晶子径60Åの水素化触媒を調製した。これを、質量比で560倍の水と混合し、さらにジルコニアを水素化触媒の5質量倍、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO4・7H2O)を水素化触媒の98質量倍混合する事でスラリー状にした。反応温度140℃、攪拌機回転数108rpm、反応圧力5MPaとなるように部分水素化反応器を水素ガスで昇圧し、ベンゼンをスラリー状触媒1質量部に対し、1時間当たり0.3質量部供給し、反応圧力5MPaが保たれるよう水素を供給した。このようにしてベンゼンの連続部分水素化反応を行い、部分水素化反応器出口の液を、脱水塔で脱水する事でベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
【0055】
[シクロへキセンの蒸留分離1(図1参照)]
工程(a)及び工程(ii)
上記工程(i)で得られた混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1時間当たり1質量部供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン10質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度90.6mol%のシクロヘキサンが0.1質量部/1時間ずつ留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン5重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度94.9mol%のシクロヘキセン0.46質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、2.79mol%、シクロヘキサン濃度は、2.31mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.06質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。
【0056】
(実施例2)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離2(図2参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1時間当たり1質量部供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン10質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度90.6mol%のシクロヘキサンが0.11質量部/1時間ずつ留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン5重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度94.9mol%のシクロヘキセン0.60質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、2.79mol%、シクロヘキサン濃度は、2.31mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数35段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、上から20段目からシクロヘキセンガスを0.37質量部/1時間抜出し、冷却後の液組成がベンゼン0.01mol%、シクロヘキサン0.016mol%になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量及び缶出液量を調整した。留出液0.07質量部/1時間、缶出液0.16質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。
【0057】
(実施例3)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離2(図2参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液を、理論段数35段の蒸留塔D1の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ。)に、1質量部/1時間供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン15質量部/1時間を上から5段目に供給した。蒸留塔D1塔頂より純度85.0mol%のシクロヘキサン0.11質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D1塔底液を、理論段数35段の蒸留塔D2の上から15段目に供給すると共に、抽剤としてN−メチル−2−ピロリドン8重量部を上から5段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度90.0mol%のシクロヘキセン1.40質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離を行った。蒸留塔D2塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D3の上から10段目に供給し、蒸留塔D3塔頂より純度99.1mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、留出したベンゼンを部分水素化反応にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、4.7mol%、シクロヘキサン濃度は、5.3mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D2塔頂液を理論段数35段のシクロヘキセン精製塔D4の上から7段目に供給し、上から20段目からシクロヘキセンガス0.38質量部/1時間を抜出し、冷却後の液組成がベンゼン0.01mol%、シクロヘキサン0.016mol%になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量及び缶出液量を調整した。留出液0.21質量部/1時間、缶出液0.81質量部/1時間を工程(a)にリサイクルした。実施例1と同純度、同量のシクロヘキセンが回収できたが、リサイクル量は実施例1に比べて多くなり、工程(a)及び工程(b)のリボイラー熱負荷は高くなった。
【0058】
(比較例1)
シクロヘキセン精製塔D4を用いずに、蒸留塔D1及びD2で、シクロヘキセン中のシクロヘキサン及びベンゼン濃度を極力下げる運転を行ったこと以外は、実施例2と同様にシクロへキセンの抽出蒸留を行った。
リボイラー熱負荷を実施例1より大幅に増大させたにもかかわらず、実施例と同等の分離は出来なかった。
実施例1〜3、比較例1における結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(比較例2)
[シクロへキセンの蒸留分離3]
図5に示すように、抽剤及びシクロヘキセン精製塔を用いずに、蒸留塔D11〜12で蒸留を行った。
1塔目で十分な分離が出来ないまま、蒸留塔はフラッディングを起こし、抽剤を用いた蒸留操作(抽出蒸留)が必須であることがわかった。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例4)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離4(図3参照)]
工程(a)及び工程(ii)
工程(i)で得られた混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド4.1mol%、ベンゼン0.1mol%、シクロヘキサン19.0mol%、シクロヘキセン76.80mol%を含む混合液0.51質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D6塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.51質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔8塔頂より純度99.7mol%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.13mol%、シクロヘキサン濃度は、0.16mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。
【0063】
(実施例5)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離5(図4参照)]
工程(a)及び工程(ii)
工程(i)で得られた混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド3.9mol%、ベンゼン0.1mol%、シクロヘキサン18.8mol%、シクロヘキセン77.2mol%を含む混合液0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D6塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.52質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド8質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔8塔頂より純度99.7mol%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.12mol%、シクロヘキサン濃度は、0.14mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。シクロヘキセン精製塔D9塔底液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D10の上から7段目に供給し、塔頂の液組成がシクロヘキサン0.012mol%で、塔頂の留出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と缶出液量を調整した。留出液0.003質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。
【0064】
(実施例6)
[ベンゼンの部分水素化反応]
工程(i)
実施例1と同様にベンゼンの部分水素化反応を行なった後、脱水操作を実施し、ベンゼン52.4mol%、シクロヘキセン38.3mol%、シクロヘキサン9.2mol%を含む混合溶液を得た。
[シクロへキセンの蒸留分離5(図4参照)]
工程(a)及び工程(ii)
この混合溶液1質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D5の上から15段目(コンデンサー、リボイラーもそれぞれ1段とする。以下同じ)に供給すると共に、抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド10質量部/1時間を上から2段目に供給し、蒸留塔D5塔頂よりN,N−ジメチルアセトアミド3.3mol%、ベンゼン0.06mol%、シクロヘキサン19.0mol%、シクロヘキセン77.7mol%を含む混合液0.50質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔底液を、理論段数20段の蒸留塔2の上から10段目に供給し、蒸留塔D2塔頂より純度98.8mol%のベンゼン0.52質量部/1時間を留出するよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離して反応系にリサイクルした。
次に蒸留塔D5塔頂の留出液0.50質量部/1時間を理論段数35段の蒸留塔D7の上から15段目に供給した。抽剤としてN,N−ジメチルアセトアミド10質量部/1時間を上から5段目に供給し、蒸留塔D7塔頂より純度98.1mol%のシクロヘキサン0.10質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D7塔底液を、理論段数20段の蒸留塔D8の上から10段目に供給し、蒸留塔D8塔頂より純度99.8質量%のシクロヘキセン0.39質量部/1時間を留出できるよう、リボイラー熱負荷を調整し、蒸留分離した。蒸留塔D5塔頂から抜け出た抽剤相当を蒸留塔D8塔底液から一部抜出し、蒸留塔D5にリサイクルすると共に、残液を蒸留塔D7にリサイクルした。
工程(b)に供給した混合溶液のベンゼン濃度は、0.08mol%、シクロヘキサン濃度は、0.07mol%であった。
工程(b)及び工程(iii)
蒸留塔D8塔頂液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D9の上から7段目に供給し、塔底の液組成がベンゼン0.01mol%で、塔底の缶出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と留出液量を調整した。留出液0.002質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。シクロヘキセン精製塔D9塔底液を理論段数15段のシクロヘキセン精製塔D10の上から7段目に供給し、塔頂の液組成がシクロヘキサン0.012mol%で、塔頂の留出液量が最大になるよう、リボイラー熱負荷と缶出液量を調整した。留出液0.002質量部/1時間を、工程(a)にリサイクルした。実施例5と同純度、同量のシクロヘキセンが回収できたが、工程(a)のリボイラー熱負荷は高くなった。
【0065】
(比較例3)
シクロヘキセン精製塔D9及びD10を用いなかったこと以外は、実施例6と同様にシクロへキセンの抽出蒸留を行った。
リボイラー熱負荷が実施例6より大幅に増大したにもかかわらず、十分な分離は出来なかった。
実施例4〜6、比較例3における結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、分離工程で抽出蒸留分離と通常の蒸留を組み合わせることで、高純度のシクロヘキセンを連続的に分離及び製造することができる。
【符号の説明】
【0068】
D1〜D12 ・・・ 蒸留塔
ラインL1〜ラインL16 ・・・ ライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
【請求項2】
(c)前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程をさらに含む、請求項1記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項3】
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとベンゼンの和に対するベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項1又は2記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項4】
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとシクロヘキサンの和に対するシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項5】
前記工程(a)で得られた留出液を供給した蒸留塔の塔頂から、前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、中段から前記シクロヘキセンを回収する、請求項2〜4のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記工程(a)で得られた留出液を第一の蒸留塔に供給して塔頂から前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去すると共に、塔底液を第二の蒸留塔に供給し、
前記第二の蒸留塔の塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、前記第二の蒸留塔の塔頂から前記シクロヘキセンを回収する、請求項2〜4のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項7】
前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、請求項1〜6のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項8】
前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、請求項2〜7のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項9】
前記抽出蒸留の抽剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/又はN,N−ジメチルアセトアミドである、請求項1〜8のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項10】
(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、
(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、
を含むシクロヘキセンの製造方法。
【請求項11】
(iv)前記工程(ii)で得た留出液から、シクロヘキサンを、シクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程をさらに含む、請求項10記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項12】
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項10又は11記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項13】
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項11又は12記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項1】
(a)シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(b)前記工程(a)で得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程と、
を含むシクロヘキセンの精製方法。
【請求項2】
(c)前記工程(a)で得られた留出液から、シクロヘキサンを、シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去する工程をさらに含む、請求項1記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項3】
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとベンゼンの和に対するベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項1又は2記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項4】
前記工程(a)で得られる留出液のシクロヘキセンとシクロヘキサンの和に対するシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項5】
前記工程(a)で得られた留出液を供給した蒸留塔の塔頂から、前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、中段から前記シクロヘキセンを回収する、請求項2〜4のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記工程(a)で得られた留出液を第一の蒸留塔に供給して塔頂から前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去すると共に、塔底液を第二の蒸留塔に供給し、
前記第二の蒸留塔の塔底から前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を除去し、前記第二の蒸留塔の塔頂から前記シクロヘキセンを回収する、請求項2〜4のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項7】
前記ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、請求項1〜6のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項8】
前記シクロヘキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物を、前記工程(a)にリサイクルする、請求項2〜7のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項9】
前記抽出蒸留の抽剤がN−メチル−2−ピロリドン及び/又はN,N−ジメチルアセトアミドである、請求項1〜8のいずれか1項記載のシクロヘキセンの精製方法。
【請求項10】
(i)ベンゼンを部分水素化し、シクロヘキセン、シクロヘキサン及びベンゼンを含む混合溶液を得る工程と、
(ii)前記工程(i)により得られた混合溶液を、抽剤を用いて抽出蒸留する工程と、
(iii)前記工程(ii)により得られた留出液から、ベンゼンを、ベンゼンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程と、
を含むシクロヘキセンの製造方法。
【請求項11】
(iv)前記工程(ii)で得た留出液から、シクロヘキサンを、シクロへキサンとシクロヘキセンとの共沸混合物として除去し、シクロヘキセンを回収する工程をさらに含む、請求項10記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項12】
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のベンゼン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項10又は11記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項13】
前記工程(ii)における、シクロヘキセン中のシクロヘキサン濃度が0.1mol%以上3mol%以下である、請求項11又は12記載のシクロヘキセンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−138169(P2010−138169A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258998(P2009−258998)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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